説明

熱可塑性樹脂組成物

【課題】射出成形した際の金型離型性に優れ、且つMD、外観不良及び剥離不良を顕著に改善する熱可塑性樹脂組成物及びその成形品を提供する。
【解決手段】ポリフェニレンエーテル系樹脂と、(A)ポリオレフィン系樹脂と、(B)非芳香族系鉱物油と、を含む熱可塑性樹脂組成物であって、前記(A)ポリオレフィン系樹脂及び前記(B)非芳香族系鉱物油の合計量が0.3〜5.0質量%である、熱可塑性樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
OA部品、電気電子部品や自動車部品の分野を中心として、樹脂製品の形状の多様化や複雑化に伴う、成形性及び離型性に優れた樹脂組成物に対するニーズが高まっている。特に、光学箱、スキャナー部品やフレーム類などのOA部品、配電盤部品、コネクター類、電池ケース、アダプターケースやシャーシ類などの電気電子部品、そしてメータフード、センタークラスターやイグニッションコイルボビン等の自動車部品においては、それらの形状が複雑であるため、離型性向上の要求が非常に大きい。
従来より、樹脂の金型離型性を改良する一般的な方法として、脂肪酸、又はその金属塩もしくはワックス等を潤滑剤として樹脂に添加する方法が挙げられる。
【0003】
また、ポリフェニレンエーテル系樹脂において、上記の潤滑剤を使用せずに離型性を改良するための技術が提案されている。例えば、ポリオレフィン系樹脂を0.5〜4質量部含有させる技術(特許文献1)が開示されている。
さらに、非結晶性αオレフィン共重合体と脂肪酸金属塩とを少量含有させることにより離型性を発揮する技術(特許文献2)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−82223号公報
【特許文献2】特開2002−20629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の脂肪酸、又はその金属塩もしくはワックス等を潤滑剤として樹脂に添加する方法については、かかる潤滑剤が一般に熱安定性に乏しい。特に潤滑剤を多量に添加した場合、樹脂組成物を高温で成形した場合の分解ガス発生などによるモールドデポジット(以下、「MD」ともいう)、外観不良の発生、さらには潤滑剤成分の分解で離型効果が薄れる等の問題がある。なお、前記MDとは、射出成形時に金型へ付着する成分を意味する。
【0006】
また、特許文献1に開示されたような技術により、離型性は向上しうる一方で、複雑な形状の成形品においては離型性のさらなる向上が要求されている。
さらに、特許文献2に開示された技術において、脂肪酸金属塩に由来する金属イオンは反応性に富み、有機溶液又は水溶液と接触すると、当該溶液中の成分と反応して不具合を生じる場合がある。
そこで、電気電子部品やOA部品、例えば、電解液と接触する電池ケース等においては、脂肪酸金属塩を含有せず、且つ離型性に優れた樹脂組成物が要求されている。
【0007】
以上のように、汎用性があって、MDの発生、外観不良や剥離不良などを生じることなく、且つ少量の添加で優れた離型性効果を発揮するような離型処方は、未だ市場に提供されておらず、かような離型処方に関する技術が高く要求されている。
そこで、本発明は、射出成形した際の金型離型性に優れ、且つMD、外観不良及び剥離不良を顕著に改善する熱可塑性樹脂組成物及びその成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した。その結果、ポリオレフィン系樹脂と非芳香族系鉱物油とが所定の量となるように、ポリフェニレンエーテル系樹脂とポリオレフィン系樹脂と非芳香族系鉱物油とを含有することにより、離型性に優れ、さらにMD、外観不良及び剥離不良を顕著に改善した熱可塑性樹脂組成物が得られ、これにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、ポリフェニレンエーテル系樹脂と、(A)ポリオレフィン系樹脂と、(B)非芳香族系鉱物油と、を含む熱可塑性樹脂組成物であって、前記(A)ポリオレフィン系樹脂及び前記(B)非芳香族系鉱物油の合計量が0.3〜5.0質量%である。
【0009】
また、本発明の一態様においては、前記ポリフェニレンエーテル系樹脂は、ポリフェニレンエーテル樹脂とポリスチレン系樹脂とのアロイであることが好ましい。
また、本発明の他の態様においては、前記(A)ポリオレフィン系樹脂は低密度ポリエチレン及び/又は非晶性α−エチレン共重合体であることが好ましい。
また、本発明のさらに他の態様においては、前記(B)非芳香族系鉱物油はパラフィン系鉱物油であることが好ましい。
また、本発明のさらに他の態様においては、(C)芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体との水添ブロック共重合体をさらに含有することが好ましい。
また、本発明のさらに他の態様においては、前記(C)の水添ブロック共重合体を、(A)/(C)の質量比として1/10〜3/1含有することが好ましい。
また、本発明のさらに他の態様においては、前記(C)の水添ブロック共重合体は、スチレンとブタジエンとの水添ブロック共重合体であることが好ましい。
【0010】
また、本発明に係る成形品は、上記の熱可塑性樹脂組成物を射出成形することにより製造される。
【0011】
さらに、本発明に係るOA部品は、上記の熱可塑性樹脂組成物を射出成形することにより製造される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、射出成形した際の金型離型性に優れ、且つMDの発生、外観不良及び剥離不良を顕著に改善する熱可塑性樹脂組成物及びその成形品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0014】
本実施の形態は、ポリフェニレンエーテル系樹脂と、(A)ポリオレフィン系樹脂と、(B)非芳香族系鉱物油と、を含む熱可塑性樹脂組成物であって、前記(A)ポリオレフィン系樹脂及び前記(B)非芳香族系鉱物油の合計量が合計0.3〜5.0質量%である熱可塑性樹脂組成物に係る。
【0015】
上記した本実施の形態によれば、成形品の形状に制約が存在しないため、冷却時間を長くする等の成形条件上付加的な対応は必要とならない。また、ポリオレフィン系樹脂はポリフェニレンエーテル系樹脂との混和性にやや乏しいという性質を有する。しかし、本実施の形態によれば、所定量のポリオレフィン系樹脂を添加することにより、剥離不良や機械的物性の低下を効果的に回避することができる。
【0016】
さらに、上記した本実施の形態によれば、脂肪酸金属塩を実質的に含有しない熱可塑性樹脂組成物が得られる。そのため、脂肪酸金属塩に由来する金属イオンが有機溶液又は水溶液と接触しても、当該溶液中の成分と反応して不具合を生じることがない。結果として、前記熱可塑性樹脂組成物の実用可能な用途は制限されず、汎用性に優れる。
以下、前記熱可塑性樹脂組成物の各構成要素について詳細に説明する。
【0017】
[ポリフェニレンエーテル系樹脂]
本実施の形態におけるポリフェニレンエーテル系樹脂(以下、「PPE」ともいう)は、熱可塑性樹脂の一種である。前記PPEは、下記の結合単位(式1)で示される繰返し単位からなり、数平均分子量は、好ましくは1,000以上であり、より好ましくは1,500〜50,000であり、さらに好ましくは1,500〜30,000である。なお、本明細書における数平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて測定し、その後ポリスチレン換算して得られる値である。また、前記ポリフェニレンエーテル樹脂は、ホモ重合体及び/又は共重合体でありうる。また、本明細書における密度は、後出の実施例において用いた方法により測定する。
【化1】


上記式中、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ、水素、ハロゲン、炭素数1〜7までの第一級または第二級低級アルキル基、フェニル基、ハロアルキル基、アミノアルキル基、炭化水素オキシ基または少なくとも2個の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子とを隔てているハロ炭化水素オキシ基からなる群から選択されるものであり、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0018】
このようなPPEとしては、以下に制限されないが、例えば、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、及びポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)が挙げられる。さらに、2,6−ジメチルフェノールと他のフェノール類(2,3,6−トリメチルフェノール及び2−メチル−6−ブチルフェノール等)との共重合体であるポリフェニレンエーテル共重合体も挙げられる。これらの中でも、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、及び2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体が好ましく、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)がより好ましい。
【0019】
前記PPEの製造方法は、公知の方法により得られるものであれば、特に限定されることはない。例えば、米国特許第3306874号明細書に記載された、Hayによる、第一銅塩とアミンのコンプレックスを触媒として用い、2,6−キシレノール等を酸化重合することによって容易に製造することができる。その他、米国特許第3306875号明細書、米国特許第3257357号明細書及び米国特許第3257358号明細書、特公昭52−17880号、特開昭50−51197号及び特開昭63−152628号などに記載された方法によっても容易に製造することができる。
【0020】
PPEは、上記したPPEの成分100質量%からなることが好ましく、ポリフェニレンエーテル樹脂とポリスチレン系樹脂とのアロイもまた好ましい。前記スチレン系樹脂は、PPEに優れた成形加工性を付与する。前記アロイにおけるPPE/スチレン系樹脂は、質量比として、(1〜99)/(99〜1)で構成されたものであり得、好ましくは(10〜90)/(90〜10)、より好ましくは(20〜80)/(80〜20)で構成されたものである。成形加工性と耐熱性とのバランスという観点から、質量比を上記した範囲内にすることが好ましい。
【0021】
上記のスチレン系樹脂として、以下に制限されないが、例えば、スチレン系化合物の単独重合体(ホモ重合体)、2種以上のスチレン系化合物による共重合体、及びスチレン系化合物の重合体からなるマトリックス中にゴム状重合体が粒子状に分散してなるゴム変性スチレン系樹脂(ゴム強化ポリスチレン樹脂)が挙げられる。上記のスチレン系化合物として、以下に制限されないが、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、α−メチルスチレン、エチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、モノクロルスチレン及びp−tert−ブチルスチレンが挙げられる。
【0022】
これらのスチレン系化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上の混合物として用いてもよく、2種以上から構成される共重合体を用いてもよい。中でも、PPEとの混和性という観点から、スチレンモノマーを重合して得られるポリスチレンが好ましい。前記ポリスチレンの中でも、PPEとの混和性及び耐薬品性を向上させる観点から、アタクチックポリスチレン、イソタクチックポリスチレン及びシンジオタクチックポリスチレン等の規則的な立体構造を有するポリスチレンが好ましい。
【0023】
ここで、本実施の形態における上記のスチレン系樹脂には、後述の(C)水添ブロック共重合体として挙げている、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とを共重合して得られるブロック共重合体を水素添加反応して得られる水添ブロック共重合体に代表される、水添スチレン−ブタジエンブロック共重合体は含まれない。
【0024】
[(A)ポリオレフィン系樹脂]
(A)のポリオレフィン系樹脂とは、エチレンモノマーの単独重合体(ホモ重合体)又はその他のモノマーとの共重合体である。
【0025】
前記(A)ポリオレフィン系樹脂として、以下に制限されないが、例えば、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、並びにエチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−ブチルアクリレート共重合体及びエチレン−エチルアクリレート−メチルメタクリレート共重合体などのエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体が挙げられる。
【0026】
上記の中でも、離型性の向上及び剥離不良の防止の観点より、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、及びα−エチレン共重合体が好ましい。ここで、前記α−エチレン共重合体は、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体及びエチレン−オクテン共重合体であることが好ましい。また、より好ましくは、低密度ポリエチレン及び非晶性α−エチレン共重合体である。ここで、前記非晶性α−エチレン共重合体は、エチレン−プロピレン共重合体及びエチレン−オクテン共重合体であることが好ましい。
【0027】
また、(A)のポリオレフィン系樹脂は、メルトフローレイト(MFR)が、好ましくは0.1〜50g/10分、より好ましくは0.2〜30g/10分である樹脂を用いる。なお、本明細書におけるメルトフローレイトは、ASTM規格のD1238に規定され、190℃、2.16kgfの条件で測定したものを採用する。
上記の共重合体には、その性能に影響を与えない範囲で、その他の成分がさらに共重合されていてもよい。
【0028】
エチレンとプロピレン又はブテンとの成分比率は、特に限定されることはない。なお、一般には、プロピレン又はブテンが5〜50モル%の範囲となるような成分比率となりうる。これらは一般に市販されているものを入手でき、例えば、三井化学(株)製のタフマー(商品名)を用いることができる。
【0029】
[(B)非芳香族系鉱物油]
鉱物油とは、通常、芳香族環、ナフテン環及びパラフィン鎖の三成分が組み合わさった混合物であり、パラフィン系、ナフテン系、芳香族系と呼ばれるものがある。ナフテン環、芳香族環の炭素数がそれぞれ混合物中の全炭素数の30%未満となるものはパラフィン系鉱物油と呼ばれ、一方、ナフテン環の炭素数が混合物中の全炭素数の30〜40%となるものはナフテン系鉱物油と呼ばれ、芳香族環の炭素数が混合物中の全炭素数の30%以上となるものは芳香族系鉱物油と呼ばれており、それぞれ区別されている。
【0030】
本実施の形態における(B)非芳香族系鉱物油は離型性向上及び艶出しの効果があるため、本実施の形態に係る熱可塑性樹脂組成物の射出成形した際の優れた金型離型性、並びに当該熱可塑性樹脂組成物の外観不良の改善に寄与する。
【0031】
本実施の形態における(B)非芳香族系鉱物油は、上記の分類でいえば、パラフィン系鉱物油及びナフテン系鉱物油に該当する。このうち、耐熱性及び機械的物性を向上させる観点より、好ましくはパラフィン系鉱物油である。さらに、前記パラフィン系鉱物油の中でも、ポリフェニレンエーテルの耐薬品性の観点から、芳香族環の成分が少ない(芳香族成分の含有量として5.0質量%以下)か、又は含まれないものがより好ましい。なお、本明細書における芳香族成分の含有量は、ASTM規格の2140−63Tに基づく石油製品の構造分析試験法により測定したものを採用する。
【0032】
また、(B)非芳香族系鉱物油の40℃での動粘度は、PPEとの混和性及び耐熱性を向上させる観点から、20〜800cStが好ましく、100〜500cStがより好ましい。
【0033】
(B)非芳香族系鉱物油の添加方法については特に制限されることはない。例えば、他の原料(ポリフェニレンエーテル系樹脂、又は後述の(C)水添ブロック共重合体)にあらかじめ混合することが挙げられる。
【0034】
含有量としては、上記(A)ポリオレフィン系樹脂及び上記(B)非芳香族系鉱物油の合計量が、熱可塑性樹脂組成物100質量%に対して、0.3〜5.0質量%である。また、好ましくは0.5〜4.5質量%、より好ましくは0.8〜4.0質量%、さらに好ましくは1.2〜3.5質量%である。0.3質量%以上の場合、離型性改良の効果が十分に発揮される。一方、5.0質量%以下の場合、外観不良、剥離不良、及び成形時のMD発生を抑制できるという効果が発揮される。
【0035】
また、各成分の含有量について説明する。まず、上記(A)ポリオレフィン系樹脂の含有量は、好ましくは0.2〜3.0質量%、より好ましくは0.3〜2.5質量%、さらに好ましくは0.4〜2.0質量%である。3.0質量%以下の場合、成形品の外観不良、剥離不良等の不良現象の発生を抑制できる。一方、0.2質量%以上の場合、十分な離型性改良の効果が得られる。次に、上記(B)非芳香族系鉱物油の含有量は、好ましくは0.1〜2.0質量%、より好ましくは0.2〜1.5質量%、さらに好ましくは0.3〜1.0質量%である。2.0質量%以下の場合、MDの抑制や、成形品の外観の向上が図れる。一方、0.1質量%以上の場合、十分な離型性改良効果が得られる。
【0036】
[(C)芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体との水添ブロック共重合体]
本実施の形態に係る熱可塑性樹脂組成物は、上記した成分に加えて、(C)芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体との水添ブロック共重合体をさらに含有してもよい。
【0037】
(C)の水添ブロック共重合体とは、芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体とのブロック共重合体を水素添加して得られる共重合体を意味する。
【0038】
上記の芳香族ビニル単量体(芳香族ビニル化合物)としては、以下に制限されないが、例えば、スチレン、α−メチルスチレン及びビニルトルエンが挙げられる。前記芳香族ビニル化合物は、1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記の芳香族ビニル単量体成分のうち、PPEとの混和性に優れるという観点から、好ましくはスチレンである。
【0039】
上記の共役ジエン単量体(共役ジエン化合物)としては、以下に制限されないが、例えば、ブタジエン、イソプレン、ピペリレン及び1,3−ペンタジエンが挙げられる。前記共役ジエン化合物は、1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記の共役ジエン単量体成分のうち、(A)成分のポリオレフィン系樹脂との混和性、及び耐衝撃性を向上させる観点から、好ましくはブタジエン及び/又はイソプレンである。
【0040】
(C)の水添ブロック共重合体としては、以下に制限されないが、例えば、芳香族ビニル単量体単位の重合体ブロックと共役ジエン単量体単位の重合体ブロックとを水素添加して得られる、ランダム共重合体部分を含有しないか又はほとんど含有しないブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体が挙げられる。かかる水添ブロック共重合体は、非ランダム水添ブロック共重合体の一種として位置付けられる。前記水添ブロック共重合体の中でも、好ましくはスチレンとブタジエンとの水添ブロック共重合体である。この好ましい水添ブロック共重合体の市販品として、クレイトンポリマー社のクレイトンG(商品名)、旭化成社のタフテック(商品名)、及びクラレ社のセプトン(商品名)が知られている。
【0041】
上記以外の非ランダム水添ブロック共重合体として、例えば、共役ジエン単量体単位と芳香族ビニル単量体単位とからなる非水添系ランダム共重合体ブロックを水添して得られる水添共重合体が挙げられる。この水添共重合体の市販品として、旭化成社のSOE(商品名)が知られている。
【0042】
本実施の形態における(C)の水添ブロック共重合体は、ブロック共重合体100質量%に対して上記の芳香族ビニル単量体単位の成分を、好ましくは25質量%以上、より好ましくは30〜85質量%、さらに好ましくは33〜80質量%含有する。(C)の水添ブロック共重合体における芳香族ビニル単量体単位の重合体ブロック含有量が上記の範囲内にある場合、ポリフェニレンエーテル系樹脂や(A)ポリオレフィン系樹脂との混和性が向上する。その結果、本実施の形態に係る熱可塑性樹脂組成物は、剥離不良の改善と機械的強度の向上とのバランスに優れたものとなる。
【0043】
また、(C)の水添ブロック共重合体は、(A)ポリオレフィン系樹脂との併用によって一層優れた効果を発揮しうる。層剥離及び物性低下の抑制という観点から、(A)ポリオレフィン系樹脂と(C)水添ブロック共重合体との含有比[(A)/(C)]が、質量比として、好ましくは1/10〜3/1であり、より好ましくは1/5〜2/1であり、さらに好ましくは1/3〜3/2である。
【0044】
本実施の形態に係る熱可塑性樹脂組成物が、剥離不良を防止し、且つ高い機械的強度を確保する観点から、(C)の水添ブロック共重合体の重量平均分子量は、4万〜50万が好ましく、5万〜30万がより好ましく、7万〜20万がさらに好ましい。なお、本明細書における重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて測定し、その後ポリスチレン換算して得られる値である。
【0045】
また、本実施の形態は、熱可塑性樹脂組成物を射出成形することにより製造されてなる成形品にも係る。ここで、本実施の形態に係る熱可塑性樹脂組成物における、射出成形した際の優れた金型離型性について、推測される原理を説明する。上記の成形品の表層のごく近傍に、マトリックスのポリフェニレンエーテル系樹脂と、非相溶且つ軟質の(A)ポリオレフィン系樹脂とが、微少量相当、分散して存在することにより、前記成形品のごく表面近傍の弾性率が低下する。このことにより、離型の際に金型と接触する成形品との界面が微少変形し易くなり、成形品が離型し易くなると推測される。また、(B)非芳香族系鉱物油は選択的に(A)ポリオレフィン系樹脂に取り込まれ、離型の際の成形品表面と金型との摩擦を低減するという作用を及ぼすものと推測される。
【0046】
本実施の形態に係る熱可塑性樹脂組成物は、(A)ポリオレフィン系樹脂と(B)非芳香族系鉱物油との併用によって、離型の際の金型に接触する成形品のごく表面における微少変形、及び金型と成形品との摩擦低減という相乗効果が発揮される。そのため、前記成形品の離型性が飛躍的に向上する。
【0047】
本実施の形態に係る熱可塑性樹脂組成物は、本発明に所望の効果を損なわない範囲内で、他の添加剤(以下に制限されないが、例えば、可塑剤、安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、着色剤、離型剤、並びにガラス繊維、チタン酸カリウムウィスカー及び酸化亜鉛ウィスカー等の繊維状補強剤、さらにはガラスビーズ、ガラスフレーク、マイカ、炭酸カルシウム及びタルク等の充填剤)を添加してもよい。前記安定剤としては、亜リン酸エステル類、ヒンダードフェノール類、アルカノールアミン類、酸アミド類、ジチオカルバミン酸金属類、無機硫化物及び金属酸化物類よりなる群から選択される一種以上が使用可能である。なお、本実施の形態に係る熱可塑性樹脂組成物は、脂肪酸金属塩を実質的に含有しない。
【0048】
本実施の形態に係る熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、特に制限されることはない。各構成要素は順序を問わず、どのように含有させてもよい。また、製造装置については、押出機、加熱ロール、ニーダーやバンバリーミキサー等の混練機を用いて混練製造することができる。中でも、押出機による混練りが、生産性の観点から好ましい。混練の温度や時間は、ベースとなる樹脂にとっての好ましい加工温度に従えばよい。混練温度の目安を挙げると、好ましくは200〜360℃、より好ましくは240〜320℃である。
【実施例】
【0049】
以下、本実施の形態を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本実施の形態はこれらの実施例のみに制限されるものではない。
実施例及び比較例において、下記の成分を使用し、押出機を用いて溶融混練し、得られたペレットの射出成形を行うことによって、離型性、MD、並びに成形品表面の外観不良及び剥離不良の有無に関する評価を実施した。
【0050】
[原料の準備]
<ポリフェニレンエーテル樹脂>
ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)として、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて測定し、ポリスチレン換算した数平均分子量が18,000のポリフェニレンエーテル(密度1.06g/cm)を用いた。密度は、ASTM規格のD792に従って測定した。
【0051】
ポリスチレン樹脂(PS)として、30℃のトルエン溶液で測定した還元粘度(ηsp/c)が0.92dL/gであるホモポリスチレン(密度1.05g/cm)を用いた。密度は、ASTM規格のD792に従って測定した。
【0052】
ゴム強化ポリスチレン樹脂(HIPS)として、ポリブタジエンゴムの含有率が10質量%、30℃のトルエン溶液で測定したマトリックスポリスチレンの粘度(ηsp/c)が0.70dL/g、ゴムの平均粒子径が1.5〜2.0μmのゴム変性ポリスチレンを用いた。なお、上記のゴム平均粒子径は、超薄切片透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した写真中、100個のゴム粒子の粒子径を測定したときの、当該粒子径の平均値である。
【0053】
<(A)ポリオレフィン系樹脂>
エチレン−プロピレン共重合体(EP)として、三井化学(株)製のタフマーP0680Jを用いた。
低密度ポリエチレン(LDPE)として、ASTM D−1238に準じて、190℃、2.16kg荷重下のMFRが20g/10分のLDPEを用いた。
【0054】
<(B)非芳香族系鉱物油>
パラフィン系オイル(PO)として、出光興産社製のダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW−380(40℃動粘度:382cSt)を用いた。
【0055】
<(C)水添ブロック共重合体>
スチレン含有量60質量%及びスチレンブロック含有量60質量%のスチレン・ブタジエンブロック共重合体の水素添加ブロック共重合体(旭化成ケミカルズ社製、タフテック(登録商標)H1081)を用いた(以下、「SEBS−1」という)。
【0056】
スチレン含有量35質量%及びスチレンブロック含有量35質量%のスチレン・ブタジエンブロック共重合体の水素添加ブロック共重合体に、パラフィン系炭化物を36質量%含有させた油添ゴム(旭化成ケミカルズ社製、タフテック(登録商標)H1272)(以下、「SEBS−2」という)。なお、SEBS−2を用いてなる熱可塑性樹脂組成物は、(C)の水添ブロック共重合体のみならず、上記パラフィン系炭化物に起因して(B)非芳香族系鉱物油も含有させていることとなる。
【0057】
[評価方法]
<離型性>
外径50mm、高さ50mm、肉厚3mmのカップ形状の成形品の射出成形を行い、成形品の突き出しに必要な荷重を離型力として測定した。その際の射出成形機のシリンダー温度は290℃であり、金型温度は80℃であった。射出時間は15秒、成形サイクルは40秒であった。また、離型力は連続した50ショットで測定を行い、その加算平均値とした。
【0058】
<MD評価>
シリンダー温度290℃及び金型温度80℃に設定し、ASTM D648−95に準拠し、試験片厚みが約3.2mmの試験片の連続成形を実施した。5000ショット後の金型面を観察し、MD発生の状況を目視で確認し、3段階評価を行った。なお、評価基準は以下の通りである。
○:実質的にMDの発生が認められないといえる
△:エア抜き部にMDが発生している
×:キャビティー内にもMDが発生し、成形片に痕が残る
【0059】
<成形品の外観評価(外観不良)>
上記成形品表面の曇りやガス焼けの有無について目視での確認を行った。曇りやガス焼けがほとんど見られないものは○、僅かに見られたものは△、ひどいものは×で表した。
【0060】
<成形品の層剥離(剥離不良)>
射出成形によるASTM−D638に準じて、3.2mm厚みの引張試験片を、折り曲げを10回繰り返すことにより、表層剥離の程度の目視判断を行った。剥離がほとんど見られないものは○、剥離が僅かに見られたものは△、剥離がひどいものは×で表した。
【0061】
[実施例1〜5]
表1に示すように、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)と、ポリスチレン樹脂(PS)及びゴム強化ポリスチレン樹脂(HIPS)とからなるポリフェニレンエーテル系樹脂組成物に、(A)ポリオレフィン系樹脂(エチレン−プロピレン共重合体(EP)又は低密度ポリエチレン(LDPE))を含有させた。また、実施例1〜4については(B)非芳香族系鉱物油(パラフィン系オイル(PO))も含有させ、さらに実施例3については(C)水添ブロック共重合体(SEBS−1)も含有させた。
【0062】
これにより得られた熱可塑性樹脂組成物を、加熱シリンダーの最高温度を320℃に設定したスクリュー直径25mmの二軸押出機に供給して、スクリュー回転数300rpmで溶融混練し、ストランドを冷却裁断した。これにより得られた熱可塑性樹脂組成物のペレットを用いて、射出成形によって、最高設定温度290℃及び金型温度80℃の条件下で評価用の試験片を成形した。これにより得られた成形品を対象として、上記の4つの評価方法により評価を行った。評価結果を下記の表1に示す。
【0063】
[比較例1〜6]
下記の表1に示したように、使用したポリフェニレンエーテル樹脂の種類及び組成比、並びに(A)ポリオレフィン系樹脂及び(B)非芳香族系鉱物油の種類及び含有比を変更した点以外は、実施例の場合と同じ方法で熱可塑性樹脂組成物のペレット及び試験片を作製し、評価を行った。
【0064】
比較例1は、添加剤を含有させなかった場合の結果を示すものである。また、比較例2〜5は、添加剤である(A)ポリオレフィン系樹脂及び(B)非芳香族系鉱物油のうち、いずれか一方のみを用いた場合の結果を示すものである。比較例6は、(A)及び(B)を過剰に用いた場合の結果を示すものである。
【0065】
【表1】

【0066】
表1より、(A)ポリオレフィン系樹脂及び(B)非芳香族系鉱物油を共に含有させていない場合(比較例1)だけでなく、(A)及び(B)のいずれか一方のみを含有させた場合(比較例2〜5)と比較しても、実施例(1〜5)は離型力が顕著に低く、優れた離型性を示していることが分かる。
【0067】
特に、添加剤として、(A)ポリオレフィン系樹脂のみを多量に含有させた比較例4の場合、及び(B)非芳香族鉱物油のみを多量に含有させた比較例5の場合、(A)ポリオレフィン系樹脂と(B)非芳香族系鉱物油とを適量含有させた場合(実施例1〜5)に比して、離型力が顕著に高くなるだけでなく、MDの発生、成形品の曇り、(若干の)ガス焼け不良、及び表面層剥離が認められた。
【0068】
比較例6は、4.0質量%を超える量の(A)ポリオレフィン系樹脂と、2.0質量%を超える量の(B)非芳香族系鉱物油とを添加した場合の結果を示す。比較例6を見ると、離型性は良好であるが、多量の(A)ポリオレフィン系樹脂を含有させたことに起因すると考えられる成形品の樹脂表面の剥離、並びに多量の(B)非芳香族系鉱物油を含有させたことに起因するMDの発生、成形品の曇り及びガス焼け不良が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物及びその成形品は、離型性に優れ、且つ外観不良、剥離不良、及びMDの発生が顕著に改善されており、離型性の要求される用途(例えば、複雑な形状を有する部品のため離型不良を起こしやすい用途など)に好適に使用できる。さらに、脂肪酸金属塩を使用しないため、利用可能な分野の制限がなく、例えば、電気・電子部品、OA部品、機械部品、及びオートバイ・自動車部品など、幅広い分野にも好適に用いることができる。これらの中でも、OA部品や電気・電子部品において、より好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンエーテル系樹脂と、(A)ポリオレフィン系樹脂と、(B)非芳香族系鉱物油と、を含む熱可塑性樹脂組成物であって、
前記(A)ポリオレフィン系樹脂及び前記(B)非芳香族系鉱物油の合計量が0.3〜5.0質量%である、熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリフェニレンエーテル系樹脂は、ポリフェニレンエーテル樹脂とポリスチレン系樹脂とのアロイである、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)ポリオレフィン系樹脂は、低密度ポリエチレン及び/又は非晶性α−エチレン共重合体である、請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記(B)非芳香族系鉱物油はパラフィン系鉱物油である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
(C)芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体との水添ブロック共重合体をさらに含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
前記(C)の水添ブロック共重合体を、(A)/(C)の質量比として1/10〜3/1含有する、請求項5に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
前記(C)の水添ブロック共重合体は、スチレンとブタジエンとの水添ブロック共重合体である、請求項5又は6に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物を射出成形することにより製造されてなる、成形品。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物を射出成形することにより製造されてなる、OA部品。

【公開番号】特開2011−46779(P2011−46779A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−194383(P2009−194383)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】