説明

熱媒体加熱装置およびそれを用いた車両用空調装置

【課題】発熱性のある電気部品が設置される電気部品冷却壁部の厚みを小さくして熱媒体加熱装置の軽量化と製造コストダウンを図るとともに、該電気部品と熱媒体との間の熱伝達効率を向上させて性能向上を図る。
【解決手段】PTCヒータ40の両面に密着して内部に熱媒体流通経路33,54が形成され、且つ互いに液密的に接合される第1の熱媒体流通ボックスAおよび第2の熱媒体流通ボックスBと、例えば第1の熱媒体流通ボックスAに設けられ、熱媒体流通経路33に隣接する電気部品冷却壁部26と、この電気部品冷却壁部26に固定された電気部品23aとを備え、電気部品冷却壁部26の、熱媒体流通経路33側の面に、電気部品23aの設置位置の真裏に位置し、かつ熱媒体流通経路33側に延びる突出部26aを形成した。この突出部26aは、電気部品23aを電気部品冷却壁部26に締結する締結部材25bの締結ボスを兼ねる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PTC(Positive Temperature Coefficient:正温度特性)ヒータを用いて熱媒体を加熱する熱媒体加熱装置およびそれを用いた車両用空調装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、被加熱媒体を加熱する熱媒体加熱装置の1つとして、正特性サーミスタ素子(PTC素子)を発熱要素とするPTCヒータを用いたものが知られている。PTCヒータは、正特性のサーミスタ特性を有しており、温度の上昇と共に抵抗値が上昇し、これによって消費電流が制御されるとともに温度上昇が緩やかになり、その後、消費電流および発熱部の温度が飽和領域に達して安定するものであり、自己温度制御特性を備えている。
【0003】
上記のように、PTCヒータは、ヒータの温度が上昇すると消費電流が低くなり、その後一定温度の飽和領域に達すると、消費電流が低い値で安定するという特性を有する。この特性を利用することにより、消費電力を節減することができるとともに、発熱部温度の異常上昇を防止することができるという利点が得られる。
【0004】
このため、PTCヒータは、多くの技術分野において用いられており、空調の分野においても、例えば特許文献1に開示されているように、ハイブリッド車両用の空調装置において、エンジン停止時における空気加温用の放熱器に供給する熱媒体(ここでは、エンジンの冷却水)を加熱するための加熱装置にPTCヒータを適用した熱媒体加熱装置が提案されている。
【0005】
この熱媒体加熱装置は、2つの熱媒体流通ボックスが互いに液密的に接合され、これら2つの熱媒体流通ボックスの間に平板状のPTCヒータが密着介装されている。各熱媒体流通ボックスの内部には、PTCヒータの近傍を通過するように熱媒体流通経路が形成されており、ここを流通するエンジン冷却水がPTCヒータによって加熱されてから車両用空調装置を循環し、車室内が温調される。
【0006】
熱媒体流通ボックスの内部には、熱媒体流通経路に隣接する別室として形成された基板収容部が設けられ、この中にPTCヒータを制御する制御基板が設置される。この制御基板に搭載されるIGBTやFET等の発熱性のある電気部品は、熱媒体流通経路と基板収容部とを隔てて設けられている電気部品冷却壁部に密着するようにビス等で締結固定され、熱媒体流通経路を流れるエンジン冷却水によって冷却されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−56044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に、熱媒体流通ボックスは、アルミニウム等の、軽量で熱伝導性の良い金属材料により形成され、発熱性のある電気部品が設置される電気部品冷却壁部は平坦な板状に形成されている。熱媒体流通ボックスの製造コストを低減させるとともに、その軽量化を図るためには、電気部品冷却壁部を含め、各部の肉厚を薄く構成することが望ましい。
【0009】
しかしながら、発熱性のある電気部品を電気部品冷却壁部にビスで締結固定するためには、この電気部品冷却壁部に、ビスがねじ込めるだけの厚みを付与しないとならず、このため電気部品冷却壁部の厚みが過剰になり、熱媒体流通ボックスの重量が重くなるとともに、製造コストが嵩む一因となっていた。しかも、電気部品から発生する熱を効率良く熱媒体流通経路に逃がすことができなかった。
【0010】
しかも、従来では電気部品冷却壁部の熱媒体流通経路側の面が平面状であったため、この点でも電気部品から発生する熱を効率良く熱媒体流通経路に逃がすことができなかった。
【0011】
さらに、上記電気部品冷却壁部に、熱媒体流通経路を流れる熱媒体の温度を測定する温度センサを設ける場合は、電気部品冷却壁部の厚みが大きかったことにより、温度検知感度が低下するという問題があった。
【0012】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、発熱性のある電気部品が設置される電気部品冷却壁部の厚みを小さくして熱媒体加熱装置の軽量化と製造コストダウンを図るとともに、該電気部品と熱媒体との間の熱伝達効率を向上させて性能向上と信頼性の向上を図ることのできる、熱媒体加熱装置およびそれを用いた車両用空調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
即ち、本発明の第1の態様に係る熱媒体加熱装置は、平板状のPTCヒータと、前記PTCヒータの一面側に密着して内部に熱媒体流通経路が形成された第1の熱媒体流通ボックスと、前記PTCヒータの他面側に密着して内部に熱媒体流通経路が形成され、かつ前記第1の熱媒体流通ボックスに液密的に接合される第2の熱媒体流通ボックスと、前記第1および第2の熱媒体流通ボックスの少なくとも一方に設けられ、前記熱媒体流通経路に隣接する電気部品冷却壁部と、前記電気部品冷却壁部に固定された、前記PTCヒータ制御用の電気部品と、を備え、前記PTCヒータの両面からの放熱により、前記第1および第2の熱媒体流通ボックス内の前記熱媒体流通経路を流通する熱媒体が加熱されるとともに、該熱媒体と前記電気部品との間で熱交換がなされるように構成された熱媒体加熱装置において、前記電気部品冷却壁部の、前記熱媒体流通経路側の面に、前記電気部品の設置位置の真裏に位置し、かつ前記熱媒体流通経路側に延びる突出部を形成したことを特徴とする。
【0014】
この熱媒体加熱装置によれば、前記突出部によって、電気部品冷却壁部の、発熱性のある電気部品が設置された部位の真裏側の表面積が増大し、この電気部品が設置された部位がより広い面積で熱媒体と接触することができ、これによって電気部品と熱媒体との間の熱伝達効率が向上する。例えば電気部品が発熱性のあるものであれば、熱媒体によって電気部品を効率良く冷却することができ、熱媒体加熱装置の性能と信頼性が向上する。
【0015】
また、本発明の第2の態様に係る熱媒体加熱装置は、前記第1の態様において、前記突出部が、前記電気部品を前記電気部品冷却壁部に締結する締結部材の締結ボスを兼ねることを特徴とする。
【0016】
上記構成によれば、前記突出部を締結ボスとして、電気部品を締結する締結部材を締結することができるため、電気部品冷却壁部の厚みを薄くしても、締結部材のねじ込み長さを十分に長く確保することができ、これによって電気部品冷却壁部に電気部品を確実に締結することができ、熱媒体流通ボックスの軽量化を図るとともに、その製造コストを低減させることができる。
【0017】
また、本発明の第3の態様に係る熱媒体加熱装置は、前記第1の態様において、前記電気部品は前記熱媒体流通経路を流通する熱媒体の温度センサであり、前記突出部は、前記熱媒体の流れの中心部側に延びていることを特徴とする。
【0018】
上記構成によれば、前記突起部によって、電気部品冷却壁部の、温度センサが設置された部位における、熱媒体流通経路側の面の表面積が増大する。このため、温度センサと熱媒体との間の熱伝達効率が向上し、温度センサの温度検知感度が良くなって性能が向上する。
【0019】
また、本発明の第4の態様に係る熱媒体加熱装置は、前記第3の態様において、前記熱媒体流通経路に、前記熱媒体の流れを前記突出部側に導く斜面部を形成したことを特徴とする。
【0020】
上記構成によれば、前記斜面部によって熱媒体流通経路を流れる熱媒体が突出部側に導かれるため、突出部の近傍における熱媒体の澱みをなくし、温度センサをより積極的に熱媒体と熱交換させて、温度センサの温度検知感度を向上させることができる。
【0021】
さらに、本発明に係る車両用空調装置は、外気または車室内空気循環させるブロアと、該ブロアの下流側に設けられる冷却器と、該冷却器の下流側に設けられる放熱器と、を備えた車両用空調装置において、前記放熱器に、第1〜4の何れかに態様の熱媒体加熱装置により加熱された熱媒体が循環可能に構成されることを特徴とする。
【0022】
これにより、熱媒体加熱装置が軽量化するとともに製造コストが低減し、ひいては車両用空調装置のコストダウンを図るとともに、性能向上と信頼性の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0023】
このように、本発明に係る熱媒体加熱装置およびそれを用いた車両用空調装置によれば、熱媒体加熱装置において発熱性のある電気部品が設置される電気部品冷却壁部の厚みを小さくして熱媒体加熱装置の軽量化と製造コストダウンを図るとともに、該電気部品と熱媒体との間の熱伝達効率を向上させ、熱媒体加熱装置および車両用空調装置の性能向上と信頼性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両用空調装置の概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る熱媒体加熱装置の斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る熱媒体加熱装置の分解斜視図である。
【図4】図2のIV-IV線に沿う縦断面図である。
【図5】図2のV-V線に沿う縦断面図である。
【図6】図3に示す基板収容ボックスを裏返しにした斜視図である。
【図7】図4のVII-VII矢視による上部熱媒体流通ボックスの下面図である。
【図8】図4のVIII-VIII矢視による下部熱媒体流通ボックスの上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明の一実施形態について、図1〜図8を用いて説明する。
図1には、本実施形態にかかる車両用空調装置1の概略構成図が示されている。この車両用空調装置1は、例えばハイブリッド車両用の空調装置であり、外気または車室内空気を取り込んで温調し、それを車室内へと導く空気流路2を形成するためのケーシング3を備えている。
【0026】
ケーシング3の内部には、空気流路2の上流側から下流側にかけて順次、外気または車室内空気を吸い込んで昇圧し、それを下流側へと圧送するブロア4と、ブロア4により圧送される空気を冷却する冷却器5と、冷却器5を通過して冷却された空気を加熱する放熱器6と、放熱器6を通過する空気量と放熱器6をバイパスして流れる空気量との割合を調整し、その下流側でミックスされる空気の温度を調節するエアミックスダンパ7と、が設置される。
【0027】
ケーシング3の下流側は、図示省略の吹き出しモード切替ダンパおよびダクトを介して温調された空気を車室内に吹き出す、図示省略の複数の吹き出し口へと接続される。冷却器5は、図示省略の圧縮機、凝縮器、膨張弁と共に冷媒回路を構成し、膨張弁で断熱膨張された冷媒を蒸発させることにより、そこを通過する空気を冷却するものである。
【0028】
放熱器6は、タンク8、ポンプ9、図示省略のエンジンおよび本発明に係る熱媒体加熱装置10と共に熱媒体循環回路11を構成している。この熱媒体循環回路11を流れる熱媒体としては、ハイブリッド車両のエンジン冷却水が利用されている。熱媒体循環回路11は、ハイブリッド運転時等、熱媒体であるエンジン冷却水の温度がさほど上昇しない時に、熱媒体加熱装置10によってエンジン冷却水を加熱し、この加熱したエンジン冷却水をポンプ9により熱媒体循環回路11に循環させることによって、ケーシング3内にて放熱器6を通過する空気を加温するものである。
【0029】
図2には、熱媒体加熱装置10の斜視図が示され、図3には熱媒体加熱装置10の分解解斜視図が示され、図4および図5には熱媒体加熱装置10の縦断面図が示されている。
【0030】
この熱媒体加熱装置10は、複数のボックス構成部材20,21,30が重ね合わせられて匡体状に構成される第1の熱媒体流通ボックスAと、同じく複数のボックス構成部材50,51が重ね合わせられて匡体状に構成され、かつ第1の熱媒体流通ボックスAの下面に液密的に接合される第2の熱媒体流通ボックスBと、これら第1および第2の熱媒体流通ボックスA,Bの間に挟装されるPTCヒータ40とを備えて構成されている。
【0031】
第1の熱媒体流通ボックスAは、蓋21が上面に接合される長方形状の基板収容ボックス20と、基板収容ボックス20と同じ長方形状を有する上部熱媒体流通ボックス30とが液密に接合されて形成されている。また、第2の熱媒体流通ボックスBは、上部熱媒体流通ボックス30と同じ長方形状を有する下部熱媒体流通ボックス50と、この下部熱媒体流通ボックス50の下面に液密に接合される蓋51とを備えて形成されている。第1の熱媒体流通ボックスAと第2の熱媒体流通ボックスBとの間、および他のボックス構成部材20,21,30,50,51の間は、図2及び図4に示すように、複数のボルト58によって締め付けられ、一体化される。
【0032】
PTCヒータ40は、上部熱媒体流通ボックス30および下部熱媒体流通ボックス50よりも小さい長方形状かつ平板形状を有しており、後に詳述するように、PTCヒータ40の上面が上部熱媒体流通ボックス30の下面に形成された平坦な放熱面38に密着し、PTCヒータ40の下面が下部熱媒体流通ボックス50の上面に形成された平坦な放熱面56に密着するようになっている。
【0033】
基板収容ボックス20は、アルミニウム合金等の熱伝導性材料により構成された、上面が蓋21により密閉される長方形状の半匡体であり、その内部が基板収容部Sとされ、ここにPTCヒータ40を制御する制御基板22(図3、図4参照)が格納設置される。制御基板22は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)や、FET(Field effect transistor:電界効果トランジスター)等の、発熱性のある電気部品23aや制御回路が組み込まれるものであり、PTCヒータ40を駆動するための300Vの高電圧と、制御用の12Vの低電圧とが供給される。
【0034】
この制御基板22は、基板収容ボックス20の底面から突出している支持部24に、四隅をビス25aで締結されて固定設置される。また、発熱性のある電気部品23aは、制御基板22の下面側に配設され、例えば基板収容ボックス20の底面に設けられている電気部品冷却壁部26の上面に、図示省略の絶縁層を介して接触した状態で、ビス25b等の締結部材より締結固定される。この電気部品23aおよび電気部品冷却壁部26は、電気部品23aの発熱に対する冷却効果を高めるために、上部熱媒体流通ボックス30に設けられる後述の熱媒体流通経路(流通路33)の入口側近傍に配設される。
【0035】
基板収容ボックス20の一端面には配線挿通孔27が形成され(図3、図6参照)、ここに制御基板22に繋がる配線部材40a(図2参照)が挿通される。また、基板収容ボックス20の他端面にはハーネス挿通孔29(図3参照)が形成されており、ここに制御基板22に繋がる電気ハーネス22a(図2参照)が挿通される。
【0036】
図3〜図5および図7に、上部熱媒体流通ボックス30の熱媒体流通経路が示されている。上部熱媒体流通ボックス30は、アルミニウム合金等の熱伝導性材料により構成される長方形状の半匡体であり、その上面側には、両端部に形成される一対の入口ヘッダ31および出口ヘッダ32と、この入口ヘッダ31および出口ヘッダ32間に形成されて、多数のフィン33aによりセパレートされた平行な溝状の流通路33とが設けられる。この入口ヘッダ31および出口ヘッダ32ならびに流通路33の上面は、基板収容ボックス20の底面により液密に閉塞される(図4、図5参照)。
【0037】
これにより、基板収容ボックス20と上部熱媒体流通ボックス30との間には、入口ヘッダ31内に流入されたエンジン冷却水が多数の流通路33に分配され、流通路33内を同時平行的に流れて出口ヘッダ32側に流れるエンジン冷却水の流通経路が形成される。流通路33内を流れるエンジン冷却水は、そのまま出口ヘッダ32に流れ込むことはなく、上部熱媒体流通ボックス30の下面に形成された後述の流通口35(図3、図7参照)に流れ込む。
【0038】
さらに、上部熱媒体流通ボックス30の下面側には、PTCヒータ40の上面に密着する平坦な放熱面38を天井面とする広い凹部が設けられる(図4、図5、図7参照)。この凹部は、エンジン冷却水が流通する流通路33の裏面に対向しており、この中にPTCヒータ40が嵌り込むように形成されている。なお、上部熱媒体流通ボックス30の上面の、流通口35,36とは反対側の端部に配線挿通孔39(図3参照)が貫通形成されており、この配線挿通孔39が基板収容ボックス20の配線連通孔28に整合する。
【0039】
図3〜図5および図8に、下部熱媒体流通ボックス50の熱媒体流通経路が示されている。下部熱媒体流通ボックス50は、アルミニウム合金等の熱伝導性材料により構成される長方形状の半匡体であり、その一端部には連通口52,53が設けられ(図8参照)、これらの連通口52,53は上部熱媒体流通ボックス30の流通口35,36にそれぞれ整合する。
【0040】
また、下部熱媒体流通ボックス50の下面には、連通口52を起点として他端側に延び、他端部でUターンして連通口53に還り着く、多数のフィン54a(図4参照)によってセパレートされた平行な溝状の流通路54が形成されている。このU字形状の流通路54は、その往流路と復流路との間が、フィン54aよりも背の高い隔壁54b(図4参照)により隔絶されている。流通路54の下面は先述の通り蓋51によって密閉され、蓋51には、流通路54と隔壁54bの形状に整合するU字形状の浅い凹部55(図3参照)が刻設されている。
【0041】
これにより、下部熱媒体流通ボックス50と蓋51との間には、連通口52に流入したエンジン冷却水が、連通口52から多数の流通路54に分配され、各流通路54内を同時平行的に流通して他端部でUターンし、連通口53に至る熱媒体の流通経路が形成される。
【0042】
下部熱媒体流通ボックス50の連通口52は、上部熱媒体流通ボックス30の出口ヘッダ32に設けられている流通口35に連通し、上部熱媒体流通ボックス30の流通路33を流れたエンジン冷却水が流入するようになっている。また、下部熱媒体流通ボックス50の連通口53は、上部熱媒体流通ボックス30の出口ヘッダ32に設けられている流通口36に連通し、下部熱媒体流通ボックス50を流れたエンジン冷却水を、流通口36から流出部37を経て外部に流出させる経路を構成している。
【0043】
下部熱媒体流通ボックス50の上面は、放熱面56(図3〜5、図8参照)とされ、上部熱媒体流通ボックス30下面の平坦な放熱面38との間で、PTCヒータ40をサンドイッチ状に挟み込むことにより、これらの放熱面38,56が、PTCヒータ40の両面に貼着された、圧縮性のある熱伝導層(非図示)に圧着されるようになっている。
【0044】
図3、図4、および図7、図8に、PTCヒータ40の構成が示されている。PTCヒータ40は、その全体形状が長方形に構成されている。PTCヒータ40を構成するのは、熱媒体流通経路(流通路33、流通路54)の流路方向に沿って、例えば3列に配設された発熱要素としてのPTC素子41a,41b,41cである。これら3枚のPTC素子41a,41b,41cは、その両面に図示しない電極板、非圧縮性絶縁層および圧縮性熱伝導層が順次積層されて設けられた積層構造を有するものである。これらのPTC素子41a,41b,41cは、制御基板22に組み込まれている制御回路により、各々単体でオンオフ制御可能に構成されている。
【0045】
そして、図4および図5に示すように、PTCヒータ40は、その両面に各々密着されて設けられる上部熱媒体流通ボックス30および下部熱媒体流通ボックス50内を流通するエンジン冷却水に対し、その両面から放熱してエンジン冷却水を加熱することができる。
【0046】
PTCヒータ40の一端部には配線部材40bがあり、この配線部材40bはPTCヒータ40の面方向に対して上方に直角に屈折し、上部熱媒体流通ボックス30の配線挿通孔39と、基板収容ボックス20の配線挿通孔28とに挿入される。この配線部材40bは制御基板22に導かれ、制御基板22から、ケーブル状の配線部材40a(図2参照)が、先述のように基板収容ボックス20の配線挿通孔27を通って外部に引き出される。なお、配線挿通孔27には防水、防塵用の配線キャップ40cが装着される。
【0047】
上部熱媒体流通ボックス30の流入部34には熱媒体循環回路11が接続される。ポンプ9から圧送されてくる低温のエンジン冷却水は、流入部34から入口ヘッダ31内に流入し、各流通路33に分配される(図3参照)。各流通路33を出口ヘッダ32側に向って流れるエンジン冷却水は、PTCヒータ40により加熱昇温された後、出口ヘッダ32の手前で一旦合流し、流通口35を経て下部熱媒体流通ボックス50の連通口52に流入する。
【0048】
そして、連通口52より各流通路54に分流し、図8に想像線F1で示すように流れて再びPTCヒータ40により加熱昇温されながら他端部でUターンし、連通口53から上部熱媒体流通ボックス30の流通口36を経て出口ヘッダ32に入り、流出部37を経て熱媒体循環回路11へと還流する。このように、熱媒体加熱装置10の内部を通過するエンジン冷却水は、PTCヒータ40の両面側を流れてPTCヒータ40の熱で加熱されながら熱媒体循環回路11を循環し、これによって、車室内が温調される。
【0049】
PTCヒータ40を構成しているPTC素子41a,41b,41cは、制御基板22に組み込まれている制御回路により、各々単体でオンオフ制御可能に構成されているため、熱媒体加熱装置10に流入してくるエンジン冷却水の実際の温度と、必要とされている温度(目標温度)との差に応じて、制御基板22により各々PTC素子41a,41b,41c単位で個別にオンオフされ、加熱能力が制御される。これにより、エンジン冷却水を所定の温度に加熱昇温して流出させることができる。
【0050】
次に、本発明の要部について説明する。
図4を参照して前述したように、基板収容ボックス20の内部に画成された基板収容部S内に制御基板22が設置されており、この制御基板22の下面に搭載された発熱性のある電気部品23aが、基板収容ボックス20の底面に設けられた電気部品冷却壁部26の上面に接触した状態でビス25bにより締結固定されている。電気部品冷却壁部26は、上部熱媒体流通ボックス30の、流通路33の入口側付近に設けられているため、まだPTCヒータ40によって加熱されていないエンジン冷却水と電気部品23aとの間で熱交換がなされ、電気部品23aが冷却されるようになっている。
【0051】
そして、図4および図6に示すように、電気部品冷却壁部26の、流通路33側の面には、電気部品23aの設置位置の真裏(真下)に位置し、かつ流通路33側に延びる、半球形状の突出部26aが形成されている。この突出部26aは、電気部品23aを電気部品冷却壁部26に締結している締結部材であるビス25bの締結ボスを兼ねている。
【0052】
この突出部26aを設けたことにより、電気部品冷却壁部26の、電気部品23aが設置された部位の真裏側の表面積が増大し、この部位がより広い面積でエンジン冷却水と接触することができ、これによって電気部品23aとエンジン冷却水との間の熱伝達効率が向上する。このため、発熱性のある電気部品23aをエンジン冷却水によって効率良く冷却することができ、熱媒体加熱装置10の性能と信頼性を向上させることができる。
【0053】
また、突出部26aが、電気部品23aを締結するビス25bの締結ボスを兼ねていることから、図4に示すように、電気部品冷却壁部26の厚みを、ビス25b締結用の雌ねじの長さよりも薄くすることができる。このため、電気部品冷却壁部26を薄くしたにも拘わらず、ビス25bの長さを十分に長くして電気部品23aを電気部品冷却壁部26に確実に締結することができる。したがって、第1の熱媒体流通ボックスA(上部熱媒体流通ボックス30)、ひいては熱媒体加熱装置10全体の軽量化を図るとともに、その製造コストを低減させることができる。
【0054】
一方、図5に示すように、基板収容部Sの一端部付近に温度センサ23bが設置されている。この温度センサ23bは、流入部34から流入したばかりの、まだPTCヒータ40に加熱されていないエンジン冷却水と熱交換してエンジン冷却水の温度を検出するセンサであり、基板収容部Sの底面から上方に突出するように形成された締結ボス26bにビス25cで締結されている。
【0055】
そして、この温度センサ23bの真裏(真下)付近に位置し、かつ流通路33側に延びる突出部26cが形成されている。この突出部26cは、図7に示すように、平面視で流入部34の軸心延長線34b上に配置されており、流入部34を通って流通路33内に流入してくるエンジン冷却水の流れの中心部側に延びる形で形成されている。
【0056】
さらに、流入部34の内部における熱媒体流通経路の底部に斜面部33bが形成されている(図5参照)。この斜面部33bは、側面視で約45度の角度を持ち、流入部34から流れ込むエンジン冷却水を、想像線F2で示すように突出部26c側に導く。
【0057】
上記構成によれば、突起部26cを設けたことによって、電気部品冷却壁部26の、温度センサ23bが設置された部位における流通路33側の面の表面積が増大する。このため、温度センサ23bとエンジン冷却水との間の熱伝達効率が向上し、温度センサ23bの温度検知感度が良くなって性能が向上する。
【0058】
また、斜面部33bを形成したことにより、流入部34から流れ込むエンジン冷却水が突出部26c側に導かれるため、突出部26cの近傍におけるエンジン冷却水の澱みをなくし、温度センサ23bをより積極的にエンジン冷却水と熱交換させて、温度センサ23bの温度検知感度を向上させることができる。
【0059】
さらに、本発明に係る車両用空調装置1によれば、外気または車室内空気循環させるブロア4と、該ブロア4の下流側に設けられる冷却器5と、該冷却器5の下流側に設けられる放熱器6とを備え、放熱器6に、本発明に係る熱媒体加熱装置10により加熱されたエンジン冷却水を循環させるように構成したため、熱媒体加熱装置10を軽量化するとともに製造コストを低減させ、ひいては車両用空調装置1のコストダウンを図るとともに、性能向上と信頼性の向上を図ることができる。
【0060】
なお、本実施形態では、熱媒体加熱装置を車両用空調装置に用いた例について説明したが、車両用以外の空調装置や、加熱装置、冷凍装置等に、本発明に係る熱媒体加熱装置を適用することも考えられる。
【符号の説明】
【0061】
1 車両用空調装置
4 ブロア
5 冷却器
6 放熱器
10 熱媒体加熱装置
23a 電気部品
23b 温度センサ
25b,25c 締結部材
26 電気部品冷却壁部
26a,26c 突出部
26b 締結ボス
33 熱媒体流通経路である流通路
33b 斜面部
40 PTCヒータ
A 第1の熱媒体流通ボックス
B 第2の熱媒体流通ボックス
S 基板収容部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状のPTCヒータと、
前記PTCヒータの一面側に密着して内部に熱媒体流通経路が形成された第1の熱媒体流通ボックスと、
前記PTCヒータの他面側に密着して内部に熱媒体流通経路が形成され、かつ前記第1の熱媒体流通ボックスに液密的に接合される第2の熱媒体流通ボックスと、
前記第1および第2の熱媒体流通ボックスの少なくとも一方に設けられ、前記熱媒体流通経路に隣接する電気部品冷却壁部と、
前記電気部品冷却壁部に固定された、前記PTCヒータ制御用の電気部品と、を備え、
前記PTCヒータの両面からの放熱により、前記第1および第2の熱媒体流通ボックス内の前記熱媒体流通経路を流通する熱媒体が加熱されるとともに、該熱媒体と前記電気部品との間で熱交換がなされるように構成された熱媒体加熱装置において、
前記電気部品冷却壁部の、前記熱媒体流通経路側の面に、前記電気部品の設置位置の真裏に位置し、かつ前記熱媒体流通経路側に延びる突出部を形成したことを特徴とする熱媒体加熱装置。
【請求項2】
前記突出部が、前記電気部品を前記電気部品冷却壁部に締結する締結部材の締結ボスを兼ねることを特徴とする請求項1に記載の熱媒体加熱装置。
【請求項3】
前記電気部品は前記熱媒体流通経路を流通する熱媒体の温度センサであり、前記突出部は、前記熱媒体の流れの中心部側に延びていることを特徴とする請求項1に記載の熱媒体加熱装置。
【請求項4】
前記熱媒体流通経路に、前記熱媒体の流れを前記突出部側に導く斜面部を形成したことを特徴とする請求項3に記載の熱媒体加熱装置。
【請求項5】
外気または車室内空気循環させるブロアと、該ブロアの下流側に設けられる冷却器と、該冷却器の下流側に設けられる放熱器と、を備えた車両用空調装置において、
前記放熱器に、請求項1〜4の何れかに記載の熱媒体加熱装置により加熱された熱媒体が循環可能に構成されることを特徴とする車両用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−225074(P2011−225074A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95781(P2010−95781)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】