説明

熱対流を利用した核酸配列増幅方法及び装置

【課題】構成が簡単で、小型化及び複合装置での具現が容易で、高温安定性を持たないDNAポリメラーゼも使用できる、熱対流を利用した核酸配列増幅装置及び方法を提供する。
【解決手段】試料内の複数の特定領域に対して熱を供給しまたは熱を奪う複数の熱源を試料と熱的に結合させる工程であって、前記試料内の複数の特定領域のうち相対的に高い温度に保持される領域が相対的に低い温度に保持される領域よりも低く位置するように配置され、それによって、ポリメラーゼ連鎖反応が効率よく起こり得る特定の空間的温度分布を試料内に保持させる前記工程を含む、熱対流を利用した核酸配列増幅装置及び方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸配列を増幅する装置及び方法に関する。さらに詳細には、熱対流を利用して核酸配列を増幅する装置及び方法に関するものであり、温度制御されたポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction;PCR)を含む核酸配列増幅工程および関連工程が行われてDNAまたはRNAのような遺伝的試料から標的核酸配列が増幅される前記方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸配列増幅技術は、生命科学、遺伝工学、及び医学分野などの研究開発及び診断目的から広範囲に活用されつつあり、特に、PCRを用いた核酸配列増幅技術(以下、“PCR増幅技術”という)が広く活用されている。PCR増幅技術に関する詳細な内容は、米合衆国特許第4,683,202号、第4,683,195号、第4,800,159号、及び第4,965,188号に記載されている。
PCR増幅工程を自動化して、各種の遺伝子試料をより効率よく短時間で増幅するための様々な装置及び方法が開発され使用されているが、その基本的な作動原理は次のようである。
商用化されたPCR増幅技術では、増幅される鋳型DNA、鋳型DNAの各1本鎖の特定配列と相補的な配列を持つオリゴヌクレオチドプライマー対、高温安定性のDNAポリメラーゼ、及びdNTP(デオキシリボヌクレオチド三リン酸)を含む試料を調製し、この試料の温度を順次的に変化させる温度サイクルを繰り返すことによって鋳型DNAにおける特定部位の核酸配列を増幅する。具体的には3段階または2段階の温度循環サイクルを使用するが、温度変化によって核酸配列増幅を達成する過程は下記のようである。
【0003】
その第1工程は、変性工程であって、前記試料を高温に加熱させることによって2本鎖のDNAを1本鎖のDNAに分離する段階である。第2工程は、アニーリング工程であって、前記変性工程を経た試料を低温に冷却させることによって、前記1本鎖のDNAと前記プライマーが結合して部分的に2本鎖になったDNA-プライマー複合体を形成する工程である。第3の工程は、重合工程であって、前記アニーリング段階を経た試料を適正温度に保持させることによって、前記DNA-プライマー複合体のプライマーをDNAポリメラーゼの作用により伸張させ、各鋳型DNAに対して相補的な配列を持つ新しい1本鎖のDNAを複製する工程である。上述の3工程を構成する各サイクルの間に2つのプライマーの配列によって選択される標的核酸配列が複製される。典型的には、この温度サイクルを約20回〜40回繰り返して数百万倍またはそれ以上のコピー数の標的核酸配列が生成される。
前記変性工程の温度は典型的には90℃〜94℃である。前記アニーリング工程では、使われたプライマーの融点、つまりTm値にしたがって温度を適宜調節するが、通常、35℃〜65℃範囲の値を使用する。重合工程では典型的には、使用するThermus aquaticusから抽出した高温安定性のTaq DNAポリメラーゼの最適活性温度である72℃の温度に設定する。このような3段階の温度循環サイクルを使用するのが最も一般的ではあるものの、Taq DNAポリメラーゼの活性温度範囲が非常に広いため前記アニーリング工程と重合工程の温度を同じに設定して温度を循環する2段階の温度サイクルも使用されている。
【0004】
従来では、サンプルを含む反応容器を熱伝導性の高い金属固体ブロックと熱的に触れさせた状態で、この金属固体ブロックを加熱装置及び冷却装置と結合させ温度を変化させることによって試料の温度循環サイクルを達成する方式が最も一般的に多用されてきた。かかる方式の装置には、温度変化時間を縮めるために熱伝導性の極めて高い金メッキされた銀ブロック(Gold-plated silver block)を使用する、または、ペルチェ(Peltier)冷却法を採用した製品などがあり、いずれも市販されている。最近、金属固体ブロックを熱源として使う代わりに、気体または液体のような流体を熱源として使用して適正温度に加熱した流体を試料の入っている反応容器と高効率に接触できるように循環させ、温度変化時間がだいぶ縮められる技術が開発され製品化するに到った。また、試料の入っている反応容器または試料自体を、特定温度に保持されている熱源と順次的に触れさせるために移動させる方式、赤外線を使って試料を直接加熱する方式など、試料の温度変化サイクルを効率よく短時間で達成するための様々な方法が開発されつつある。
上記の従来の核酸配列増幅装置は、試料全体の温度を3段階または2段階の温度循環サイクルによって変化させるため、下記のような問題点が存在する。
【0005】
第一に、従来の温度サイクル型核酸配列増幅装置は、必ず試料の温度を変える工程が必要とされるため、構成が複雑になるといった問題がある。つまり、試料全体の温度を変える工程を行うために金属固体ブロックまたは流体のような熱源の温度を変化させる方式では、熱源の温度を調節して迅速且つ均一に変化させる手段と、温度変化の間隔を調節する手段とが必ず必要とされるし、反応容器または試料を特定温度の熱源と順次的に触れさせるために移動させる方式では、反応容器または試料を迅速且つ確度よく移動させる手段と、移動時間を調節する手段とが必ず必要とされてきたのである。
【0006】
第二に、従来の核酸配列増幅装置は、上述のような複雑な構成のために複合装置及び小型化した装置に具現し難いといった問題がある。つまり、最近の生命工学分野では、フォトリソグラフィ(photolithography)を使って、ガラス、シリコン、または高分子基板上に試料が移動するチャネルを始めとして、バルブ、圧力計、反応容器、検出装置などを一つの装置に集積したラボ・オン・チップ(Lab-on-a-chip)のような小型化した複合装置が開発されつつあり、これらの小型化または複合化した装置は研究用及び医学的な目的に使用するなどその活用度は一層高まると期待されているが、このような小型化したチップ上で核酸配列増幅反応を行う装置を具現する場合、試料全体の温度を変化させる工程を必ず必要とする従来の核酸配列増幅方式はその構成が複雑であるがために小型化に不向きであり、しかも急激な温度変化が不利に作用する複合装置での具現も困難であった。
【0007】
第三に、従来の核酸配列増幅装置は、Taq DNAポリメラーゼのような高温安定性を持つDNAポリメラーゼしか使用できないという問題がある。これは、従来の核酸配列増幅装置は試料全体を高温に変える工程を含むためである。
第四に、従来の核酸配列増幅装置は、PCR反応時間を縮めるのに限界があった。つまり、従来の核酸配列増幅装置は、試料全体の温度を変えるための工程が必ず必要とされるので、少なくとも温度が変わる時間分だけPCR反応時間が延びてしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第4,683,202号公報
【特許文献2】米国特許第4,683,195号公報
【特許文献3】米国特許第4,800,159号公報
【特許文献4】米国特許第4,965,188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、試料内に異なる温度を有する複数の特定温度の領域を形成させ、前記複数の特定温度の領域間の温度勾配から起因する自然的な熱対流現象により各温度領域間の試料の循環を起こさせることによって核酸配列増幅を達成する、新概念の熱対流方式の核酸配列増幅方法及び装置を提供することをその第1の目的とする。
【0010】
本発明は、従来の温度循環サイクル方式において必ず必要とされてきた温度変化を調節して起こさせる手段や温度変化の間隔を調節する手段など複雑な構成要素を省ける、構成的により簡単である熱対流方式の核酸配列増幅方法及び装置を提供することを第2の目的とする。
【0011】
また、本発明は、従来の装置及び方法に比べて構成的に簡単な核酸配列増幅装置及び方法を開発することによって、装置の小型化及びラボ・オン・チップのような複合装置での具現が容易となる方法及び装置を提供することを第3の目的とする。
また、本発明は、高温安定性を持つDNAポリメラーゼのほか、高温安定性を持たないDNAポリメラーゼも使用できる熱対流方式の核酸配列増幅方法及び装置を提供することを第4の目的とする。
そして、本発明は、試料の温度変化工程を省くことによって、より効率の高い核酸配列増幅方法及び装置を提供することを第5の目的とする。
【0012】
それ以外の本発明の目的及び長所は、本発明の属する技術分野で通常の知識を持つ者にとって本明細書の図面、発明の詳細な説明及び特許請求の範囲から容易に理解できることは自明である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するべく、本発明は、下記のような新規の作動原理に基づく熱対流方式の核酸配列増幅方法及び装置を提供する。
上記の目的を達成するべく、本発明は、PCRを利用する核酸配列増幅方法において、増幅しようとする特定核酸配列を含む鋳型DNA、DNAポリメラーゼ、デオキシアデノシン三リン酸、デオキシシチジン三リン酸、デオキシグアノシン三リン酸、デオキシチミジン三リン酸、及び前記特定核酸配列部位の3'末端に各々相補的な核酸配列を持つ少なくとも二つ以上のオリゴ核酸プライマーを含む試料を反応容器に注入する工程;前記試料内の複数の特定領域に熱を供給し、または、熱を奪う複数の熱源と前記試料とを熱的に結合させる工程であって、前記試料内の複数の特定領域のうち相対的に高い温度に保持される領域が相対的に低い温度に保持される領域よりも低く位置するように前記熱源が配置されており、それによって、前記試料中の特定の空間的温度分布を維持する工程を含み、前記特定の空間的温度分布は、i)2本鎖のDNAを1本鎖のDNAに分離する変性工程、ii)前記1本鎖のDNAが前記プライマーとともにDNA-プライマー複合体を形成するアニーリング工程、iii)前記DNA-プライマー複合体のプライマーを重合反応によって伸張する重合工程が起こるような温度条件を持つ空間的領域を含み、熱対流による試料の循環によって前記変性工程、アニーリング工程、重合工程を順次的かつ反復的に発生させる温度分布であることを特徴とする核酸配列増幅方法を提供する。
【0014】
また、上記の目的を達成するべく、本発明は、ポリメラーゼ連鎖反応を利用する核酸配列増幅装置であって、試料内の複数の特定領域に対して熱を供給しまたは熱を奪う複数の熱源を含み、これら複数の熱源は、前記試料内の複数の特定領域のうち相対的に高い温度に保持される領域が相対的に低い温度に保持される領域よりも低く位置するように配置されることによって特定の空間的温度分布を試料内に保持させ、前記特定の空間的温度分布は、i)2本鎖のDNAを1本鎖のDNAに分離する変性工程、ii)前記1本鎖のDNAが前記プライマーとともにDNA-プライマー複合体を形成するアニーリング工程、iii)前記DNA-プライマー複合体のプライマーを重合反応によって伸張する重合工程が起こるような温度条件を持つ空間的領域を含み、熱対流による試料の循環によって前記変性工程、アニーリング工程、重合工程を順次的かつ反復的に発生させる温度分布であることを特徴とする核酸配列増幅装置を提供する。
【0015】
本発明では、まず、試料の入っている反応容器内に変性工程、アニーリング工程、及び重合工程が順次的かつ反復的に起こるような温度条件を持つ空間的領域を形成させる。これを達成するために、前記試料内の複数の特定領域に対して熱を供給しまたは熱を奪う複数の熱源を配置させるが、前記試料内の複数の特定領域のうち相対的に高い温度に保持される領域が相対的に低い温度に保持される領域よりも低い高さに位置するように前記熱源を配置させる。その結果、前記複数の特定温度の領域間の温度勾配から起因する自然的な熱対流現象によって各温度領域間において試料の循環が起こり、これにより、変性、アニーリング、重合の三工程が順次的且つ反復的に起こり、核酸配列が増幅される。
【0016】
上記の原理に基づいた熱対流方式の核酸配列増幅方法である本発明は、その装置の構成において次のような特徴を持つ。第一に、反応容器内の試料における複数の特定領域を、選択された温度状態に保たせられる複数の熱源を必要とする。第二に、前記複数の特定温度領域間における試料の循環が熱対流により起こるようにするために、相対的に高い温度の領域を、相対的に低い温度の領域よりも低く位置させなければならない。つまり、高温領域における試料が相対的に低い密度を持つため浮力が発生すると、この浮力の作用によって低い位置にある高温領域から高い位置にある低温領域へ試料が移動すると同時に、逆に重力の影響によって反対方向へ試料が移動することになるが、このような温度差による自然的な熱対流により前記複数の特定温度領域間において試料の循環が自然的に起こるようにせねばならない。第三に、前記複数の特定領域の温度は、変性、アニーリング、重合の3工程が起こるような空間的領域が試料内に形成される範囲内で選択されるとともに、熱対流により適切な速度の試料の循環が異なる温度領域間において起こることによって前記3工程が順次的かつ反復的に行われる範囲で選択されなければならない。
上述した目的、特徴及び長所等は、添付図面と関連した下記の詳細な説明からより明確になろう。また、本発明を説明する際に、関連する周知技術に対する具体的な説明が本発明の要旨を不明瞭にする可能性がある場合、その詳細な説明を適宜省略する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の熱対流方式の核酸配列増幅方法の作動原理を示す模式図。
【図2a】試料内に3ヶ所以上の特定温度領域を形成する場合の模式図。
【図2b】試料内に3ヶ所以上の特定温度領域を形成する場合の模式図。
【図3a】本発明の核酸配列増幅装置の断面図。
【図3b】本発明の核酸配列増幅装置の斜視図。
【図4】種々の高さにおける反応容器内の試料の温度分布図。
【図5】実施例1の結果を反応時間にしたがって示す電気泳動写真。
【図6】実施例2の結果をプライマー対別に示す電気泳動写真。
【図7】実施例3の結果を反応時間にしたがって示す電気泳動写真。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の好ましい実施例を詳細に説明する。
図1は、本発明の熱対流に基づく核酸配列増幅方法の作動原理を示す模式図である。図1に示す実施態様では、一端が封じられた直線型チューブが反応容器として使用され、試料内に2ヶ所の特定温度領域1、2が形成される場合が例示されているが、図2に示す実施態様におけるように変形された形状の反応容器を使用して、3ヶ所以上の特定温度領域を形成するなどの様々な変形例が可能であることは、後述する本発明の熱対流に基づく核酸配列増幅方法の作動原理からみて当業者には明らかであるといえよう。
【0019】
図1に示すある実施態様において、反応容器に入っている試料内の2ヶ所の特定領域1、2に直接的に、または、反応容器の壁を介して間接的に熱を供給し又は奪う2ヶ所の熱源3、4を熱的に結合させることによって試料内において変性、アニーリング、重合といったポリメラーゼ連鎖反応に必要な3工程が起きることのできる空間的温度分布を形成させる。前記異なる温度を有する2ヶ所の特定領域1、2のうち、相対的に温度の高い領域1を相対的に温度の低い領域2よりも低く位置させることによって、温度差から起因する試料の密度差を生じさせ、高温領域1における低い密度の試料が受ける浮力と低温領域2における高い密度の試料が受ける重力により自然的に試料の熱対流が起こるようにし、その結果、変性、アニーリング、重合の3工程の反応が起こる空間領域の間において試料の循環が自然的に起こるようにする。つまり、上記のような構成によれば、前記3工程のポリメラーゼ連鎖反応が順次的且つ反復的に起こることができるため、ポリメラーゼ連鎖反応によるDNA核酸配列の増幅を達成できる。次に、その作動状態をより具体的に説明する。
【0020】
例えば、試料の下層部に位置した特定高温領域1の温度を、2本鎖のDNAを1本鎖のDNAに分けさせる温度条件である90〜94℃に保持することによって変性工程がこの特定高温領域で主として起こるようにする。そして、試料の上層部に位置した特定低温領域2の温度をプライマーのアニーリング温度領域である35〜65℃に保持して下層部の特定高温領域で変性されたDNAを熱対流により上層部の特定低温領域へ移動させ、これにより、1本鎖のDNAとこれに相補的な核酸配列を持つプライマーがアニーリングされてDNA-プライマー複合体が形成されるようにする。このような構成において、72℃で至適活性を持ち、また、低い温度領域まで広い活性を持つとされているTaq DNAポリメラーゼを重合反応のために使う場合、DNA-プライマー複合体にDNAポリメラーゼが結合してプライマーを伸張させる重合工程は、特定低温領域2及び対流領域5の上層部で起こり得る。したがって、前記特定高温領域1において前記変性段階が最初に起こり、変性されたDNAがプライマーの存在の下で熱対流により前記特定低温領域2へ移動することによって次にアニーリング工程が起こり、最後に、アニーリングにより生成されたDNA-プライマー複合体がDNAポリメラーゼの存在の下で熱対流により前記特定低温領域2と対流領域5を通過しながら重合工程が起こり、その結果、前記変性、アニーリング、重合のポリメラーゼ連鎖反応の3工程が順次的且つ反復的に起こることによって試料DNAの特定部位核酸配列の増幅が効率よく達成できるようになる。
【0021】
また、図2に示すような他の実施態様において、反応容器に入っている試料内の3ヶ所の特定領域に複数の熱源を熱的に結合させた構成も可能である。図2aは、2ヶ所の高温領域1、1'と1ヶ所の低温領域2を形成させるように複数の熱源3、3'、4を配置させる構成を示す模式図であり、図2bは、1ヶ所の高温領域1と2ヶ所の低温領域2、2'を形成させるように複数の熱源3、4、4’を配置させる構成を示す模式図である。ここで使用される前記複数の熱源は、構成上の目的に応じて前記特定領域別にそれぞれ配置してもよく、同熱源を共用してもよい。図2aに示される実施態様おいて、前記2ヶ所の高温領域1、1’が各々ポリメラーゼ連鎖反応のうち変性段階と重合工程が起こるように構成されたものなら、前記複数の熱源も各々、その段階に最も好適な温度を保持できるようなものとしなければならない。図2bに示される実施態様おいて、前記2ヶ所の低温領域2、2’ともポリメラーゼ連鎖反応のうちアニーリング工程が起こるように構成されたものなら、前記複数の熱源のうち4、4'は同じ熱源を共用することがより好ましい。また、図2bの模式図から、本発明の方法によって試料の流入部と流出部が別々備えられた反応容器の構成も可能であることがわかる。
【0022】
本発明の効率を向上させるためには、各段階の反応が十分に起こりつつも全体反応時間が縮められるように熱対流の速度を適宜調節することが重要である。これは、a)特定温度領域間の温度勾配の調節、b)反応容器の内径の調節、及びc)反応容器の材質の変更、などから達成できる。熱対流速度の調節のために温度勾配を調節する方法について、前記特定温度領域間の温度差を調節するのが最も簡単であるが、ポリメラーゼ連鎖反応において特定温度領域は独自の機能を持つので、その温度差の調節は制限される。従って、特定高温領域1、1’及び特定低温領域2、2’の距離をそれぞれ変化させることで同じ効果が得られるが、同じ温度差を持つ特定温度領域間の距離が長いほど温度勾配が減少し、その結果、熱対流速度が減少するようになる。また、反応容器の壁面と試料間の接着力(adhesion force)による抵抗力も試料の対流を阻害する要因になるという点に着目し、反応容器の内径を増減することによって熱対流の速度を調節してもよい。つまり、試料と触れる反応容器の表面積が試料の体積に対して大きければ大きいほど前記接着力による抵抗力が増加し前記熱対流の速度が減少するので、反応容器の内径を調節することによって試料と触れる反応容器の表面積を調節し、前記熱対流の速度を調節することができる。また、試料と反応容器の壁面との接着力は、反応容器の材質とも密接な関係がある。つまり、ポリメラーゼ連鎖反応は水溶液中で行われるので、ガラスなど親水性の材質に比べ、ポリエチレン、ポリプロピレンなど水との接着力が弱い疎水性材質の反応容器を使用するとき対流の速度は増加する。したがって、ポリメラーゼ連鎖反応の反応速度論的条件に好適に上記の条件を組み合わせて反応容器を構成することによって、本発明の効率を一層高めることができる。
【0023】
図3にそれぞれ、本発明に係る核酸配列増幅装置の実施例による断面図(図3a)及び斜視図(図3b)を示す。図3に示す核酸配列増幅装置は、加熱装置または冷却装置、或いは加熱装置及び冷却装置の組合せのような温度保持手段を有する複数の熱源を含めて構成される。好ましくは、前記複数の熱源同士の間を熱的に遮断させる断熱手段を含めて構成される。本実施例では、前記複数の熱源が試料の特定領域と熱的に結合される第1熱源と第2熱源とから構成されている。前記第1熱源は、熱伝導性ブロックである第1伝導性ブロック101と、該第1伝導性ブロック101に熱を供給する装置である電熱方式の加熱装置104とから構成されたものであり、反応容器の下部に熱的に接触して試料の下層部に高温領域を形成するように構成されている。前記第2熱源は、熱伝導性ブロックである第2伝導性ブロック102と、第2伝導性ブロックの内部に適正温度の水を循環させて第2伝導性ブロックを適正温度に保たせる循環型恒温水槽とから構成されたものであり、前記第2伝導性ブロック102は、反応容器の上部に熱的に接触して試料の上層部に低温領域を形成させる。また、前記第2伝導性ブロック102は、恒温水槽からの水が流れ込む流入部105と、前記流れ込んだ水を流出する流出部106と、前記流入部105から流れ込んだ水を第2伝導性ブロック102の内部に循環させるための流体循環路とを含む。ここで、前記第2伝導性ブロック102内の流体循環路は、図3a及び図3bには示さなかったが、前記第2伝導性ブロック102に熱を均一に伝達できるような構成となっていることは、本発明の属する技術分野で通常の知識を持つ者なら容易に分かる。前記第1及び第2伝導性ブロック101、102の材質には熱伝導性に優れた銅が使われ、前記第1伝導性ブロック101と前記第2伝導性ブロック102との間の直接的な熱交換を遮断させるために両ブロックの間には断熱材107が介在する。そして、前記第1伝導性ブロック101と前記第2伝導性ブロック102は反応容器を収容するための収容部を持つが、該収容部は、前記第1伝導性ブロック101において一端が封じられた開口部111と、前記第2伝導性ブロック102に形成された貫通口112と、前記断熱材107に形成された貫通口117とからなる凹部により構成されている。
【0024】
後述する<実施例1>、<実施例2>、及び<実施例3>では、試料の下層部の高温領域が94℃となるように前記電熱方式加熱装置104の加熱程度を調節し、試料の上層部の低温領域が45℃となるように循環型恒温水槽の水の温度を調節した。
【0025】
本発明は、図3に示した核酸配列増幅装置に限定されず、下記のような変形例が可能である。
第一に、前記伝導性ブロック101、102の構造を改変してもよい。例えば、第1伝導性ブロック101は反応容器の下部と熱的に接触させ、第2伝導性ブロック102は反応容器の上部と熱的に接触させ、一方反応容器の中間部分が空気と接触するようにしたり、第3の伝導性ブロックを使って反応容器の中間部分と熱的に接触させたりすることができる。また、図3のように前記複数の伝導性ブロックから反応容器の壁を介して試料の特定領域に熱を伝達させる代わりに、試料と前記伝導性ブロックとを直接熱的に接触させる構成にしてもよい。
【0026】
第二に、前記伝導性ブロックの材質を改変してもよい。図3の実施例では銅でできた伝導性ブロック101、102を使用したが、これに限定されず、反応容器に熱を伝達できる物質ならいずれも可能である。例えば、銅以外の伝導性固体や液体または気体のような流体を前記伝導性ブロックに代用してもよく、赤外線などを使って試料の特定領域を直接加熱する方法を使用することによって伝導性ブロック101、102のいくつかまたは全部を使用しなくて済むこともできる。
第三に、図3において、第1伝導性ブロックと第2伝導性ブロックの温度を保たせる温度保持手段は電熱方式の加熱装置や循環型恒温水槽に限定されるのではなく、適正量の熱を供給したり奪ったりできるものならいずれも使用可能である。
第四に、図3で使用した断熱部材107の代わりに、固体、液体、または気体など伝導物質間の熱を遮断させるのに好適ないずれの手段も使用可能であり、さらには前記断熱部材を使用しない構成にしてもよい。
第五に、図1で示した反応容器の代わりに熱対流が容易に起こるように改変された反応容器(例えば、図2a及び図2bに示すような反応容器)を使う場合、本発明の思想の範囲内で改変された前記伝導性ブロック及びその改変例を含む複数の熱源を組み合わせて使用することができる。
【0027】
上述した第一、第二、及び第三の事例はいずれも熱源の構成のうちその一部分を改変した例であって、特に伝導性ブロックを改変した例である。本明細書において熱源は試料を特定の温度範囲に保たせるいかなる手段でもよい。したがって、本願発明では、上述した熱源の改変例の他にも試料の特定領域を特定温度に保たせられる機能を持つ装置ならいずれの構成も使用可能である。試料の特定領域を特定温度に保たせられる機能を持つ装置ならいずれの構成のものも本願発明の範囲に属する。これは、本願発明の特徴が熱源の具体的な構成にあるのではなく、試料内においてポリメラーゼ連鎖反応が順次的かつ反復的に行われるような空間的な温度分布を形成させるための熱源の配置に特徴を有するからである。
上記の改変例のより具体的な構成は産業現実に応じて様々に変形できるものであり、その詳細は省略するものとする。
【0028】
図4は、反応容器内の試料に対する、反応容器の底からの種々の高さにおける温度分布図であり、熱対流に基づくPCR反応工程の原理を示す。熱対流(thermal convection)とは、流体が温度差に起因する密度差によって自然的に移動する現象のことをいう。特に、これを自然対流(natural convection)といい、ポンプやプロペラなどを使って強制的に流体を移動させる強制対流(forced convection)とは区別される。本明細書でいう対流はすべて自然対流のことを意味する。反応容器内で自然対流を発生させるためには、反応容器内の試料の上層部の温度よりも下層部の温度を高くする必要がある。
図4から分かるように、反応容器の下部と接触する第1伝導性ブロック101を96℃に保たせ、反応容器の上部と接触する第2伝導性ブロック102を45℃に保たせた場合、反応容器内の試料には高温領域(図4において90℃以上の領域)、低温領域(図4において50℃近傍の領域)、及び対流領域(図4において温度の勾配が存在する領域)が形成される。前記高温領域では主として試料の変性工程が行われ、前記変性工程を経た試料については、対流領域を経て前記低温領域へ移動しアニーリング工程が行われる。続いて、前記試料は前記低温領域にある間と低温領域から対流領域へ戻る間に重合工程が行われる。熱対流による前記3つの領域間における試料の循環によって、前記ポリメラーゼ反応の3工程が順次的かつ反復的に行われ、結果としてポリメラーゼ連鎖反応による核酸配列増幅が達成できる。
【0029】
図7は、固体の表面に固定化したDNAポリメラーゼを使用した結果を示している。本明細書において固定化DNAポリメラーゼとは、固体相に活性を保つまま結合されているDNAポリメラーゼのことを意味する。固定化DNAポリメラーゼを作製する方法には様々なものがあるが、いずれも、ポリメラーゼ連鎖反応の結果で鋳型DNAの核酸配列が増幅され、その結果を検出できる程度に活性が高く保持された固定化DNAポリメラーゼを作製できるものでなければならない。本発明で使用される固定化DNAポリメラーゼは、DNAポリメラーゼの活性部位をDNA基質でマスキングして金の表面上に共有結合により固定化する方法を使って活性が高く保たれるように作製された。本明細書の実施例にその具体的な手順が説明されているが、その実施の結果、固定化した酵素の活性は、同量の溶液相酵素に比べて約60〜80%の水準であって、ポリメラーゼ連鎖反応に使用できるような充分なる活性を表した。しかし、本発明で使用される固定化DNAポリメラーゼは、上記の方法によって固定化したものに限定されるのではなく、他の方法で固定化したDNAポリメラーゼも使用可能である。
熱対流方式の核酸配列増幅方法である本発明では、DNAポリメラーゼを使用するにあたり、Taqポリメラーゼなど高温安定性の酵素を使用する他に、クレノウ断片やT7 DNAポリメラーゼのように高温安定性を持たない酵素も使用することができる。これは、本発明の特性上、試料全体の温度が高温及び低温に反復的に変化するのではなく、試料内の特定領域別に温度が保持されるためである。すなわち、試料の下層部は引き続き高温領域に保持され、試料の上層部は引き続き低温領域に保持されているので、この低温領域または低温領域に近い対流領域の上層部にDNAポリメラーゼを固定化することによって高温安定性を持たない酵素の使用も可能にすることができる。
【0030】
本発明の核酸配列増幅装置を使って本発明の目的を達成できるということは、次の実施例1、2、及び3から確認することができる。
【実施例1】
【0031】
1.方法
1.1.反応容器
反応容器として一端が封じられたガラス管を使用した。このガラス管の長さは55〜60mm、内径は2mm、外径は8mm、封じられた方の底面のガラス厚は約3mmであった。ガラス管の内壁はスプレー方式のポリテトラフルオロエチレン(Polytetrafluoroethylene)コーティング剤でコーティングし熱硬化させて表面処理したものを使用した。
【0032】
1.2.試料
pBluescript II KS(+)を鋳型DNAとして使用した。PCR反応に使用した試料は、鋳型DNAが40ng、T3プライマー(5'-ATTAACCCTCACTAAAG-3')(配列番号:1)、及びT7プライマー(5'-AATACGACTCACTATAG-3')(配列番号:2)が各々40 pmolずつ含まれており、4 nmolのdNTP混合物質、1pmol(5U)のTaq DNAポリメラーゼ(Taq DNA polymerase)、250nmolの塩化マグネシウム、そして50mMの塩化カリウムが含まれた全体体積100μlであるpH8.3の10mMトリス緩衝溶液として調製して使用した。
【0033】
1.3.反応温度と反応時間
まず、第1伝導性ブロック101は電熱方式の加熱装置を使って96℃に保持し、第2伝導性ブロック102は循環型恒温水槽を使って45℃に保持した。上記の反応容器に上記の方法で調製した試料を注入して収容部111、117、112にはめ込み、適正時間の間反応させた。この時、反応溶液が沸騰するのを防止するために窒素気体を加えて1.2気圧程度の圧力を保持した。
【0034】
1.4.反応容器内の試料の温度分布測定
上記の反応条件で反応容器内の試料の各領域における温度を測定した。熱電対(thermocouple)を利用する温度計の熱電対の先端が、反応容器の底から2.5mmずつ上昇する所に位置するようにし、充分な時間が経過した後温度を測定し記録した。反応容器内の試料の温度分布を測定した例は、図4に示されている。
【0035】
2.結果
まず、上記の反応条件で反応容器内の試料の各領域における温度変化を測定した結果、試料内の温度分布は、変性が起こるように90℃以上に保たれる高温領域、アニーリングが起こるように50℃に保たれる低温領域、そして、それらの間で熱対流が起こるように温度勾配が形成される対流領域が形成されたことが確認できた(図4参照)。重合は、前記低温領域及び対流領域の上層部において起こると予想できる。
上記の反応条件で試料を一定の反応時間の間そのまま放置しておいてから反応容器を取り出して冷やした後、反応生成物を1.0%アガロース・ゲルで電気泳動して確認した。図5は、反応時間を30分の間隔で4時間変化させながら得た結果を示す電気泳動写真である。反応生成物は164bpの二重らせんDNAとした。図5から、90分以前にPCR反応が飽和に達したことが分かる。
【実施例2】
【0036】
1.方法
T3/T7プライマー対の他に、KS/Uプライマー対、KS/Pvu IIプライマー対、KS/Nae Iプライマー対を各々使用した。反応は、150分間行わせた以外は、上記の実施例1の方法と同様にして行わせた。T3、T7プライマーの配列は実施例1におけると同様であり、残りのプライマーの配列は下記のとおりになる。

KSプライマー;5'-CGAGGTCGACGGTATCG-3'(配列番号:3)
Uプライマー;5'-GTAAAACGACGGCCAGT-3'(配列番号:4)
Pvu IIプライマー;5'-TGGCGAAAGGGGGATGT-3'(配列番号:5)
Nae Iプライマー;5'-GGCGAACGTGGCGAGAA-3'(配列番号:6)
【0037】
2.結果
上記の実施例1と同様に電気泳動法を使って反応生成物を確認した。図6は、実施例2の結果を示す電気泳動写真であり、レーン1、2、3及び4は各々、T3/T7プライマー対、KS/Uプライマー対、KS/Ovu IIプライマー対、KS/Nae Iプライマー対において増幅した結果であって、各々164bp、144bp、213bp、413bpの大きさに合う二重らせんDNAが生成されることが確認できた。
【実施例3】
【0038】
1.方法
試料にTaq DNAポリメラーゼを入れる代わりに、Taq DNAポリメラーゼを金ワイヤーの表面に固定させ、これを低温領域に位置させて実験した。それ以外の実験条件は上記の実施例1の条件と同様にした。
DNAポリメラーゼを金ワイヤー表面に固定させる方法は、下記のようである。
下記のように配列された65塩基からなる1本鎖のDNAとKSプライマーを1:1のモル比でpH8.3のリン酸塩緩衝溶液中で混合し、94℃で10分間放置した後、35℃以下になるまで徐々に冷却させた。この時、65塩基からなる1本鎖のDNAとKSプライマーがアニーリングされて部分的に2本鎖となったDNAが生成される。この溶液に適正モル数のTaq DNAポリメラーゼ(AmpliTaq Gold、Perkin Elmer社製、米国)を入れ、72℃の乾燥槽(dry bath)で10分間放置した後50℃乾燥槽に移して、DNAポリメラーゼの活性部位に上記の部分的2本鎖のDNAが結合されてマスキングされたDNAポリメラーゼ溶液を得た。
KSプライマー:5'-CGAGGTCGACGGTATCG-3'(配列番号:1)
65-mer:3'-CCAGCTGCCATAGCTATTTTCTTTTCTTTCTTAAGTTCTTTTCTTTTCCTAGGTGATCAAGATCT-5'(配列番号:7)
【0039】
表面に密集して固定化されるDNAポリメラーゼの最大量が0.26pmolになるよう、長さ4.7cm、0.1mm径の金ワイヤー(gold wire)を外径1.5mm、長さ約4mmの螺旋形にして準備した。これを、表面洗浄のために反応直前に60〜70℃に調節したピランハ(Piranha)溶液に10〜15分間浸漬しておいてから、次々と脱イオン水と純粋エタノールで洗浄した。
金表面への固定化のための反応性基を導入するために、チオール基を持っている連結物質と金との間で起こるチオレート形成反応、すなわちAu-S結合形成反応を用いて金表面にチオール分子単層膜を導入して支持体を形成させた。この時、固定化反応性基と非反応性末端基を持つ2種のチオール分子が混合された溶液を使って固定化反応性作用基を持つチオール分子のモル分率が5%となるように調節した。固定化反応性作用基としてカルボキシル基を導入するためにアルキル鎖の長さが相対的に長いチオール分子である12-メルカプトドデカン酸を連結物質として使用したし、非反応性末端基を持つチオール分子である6-メルカプト-1-ヘキサノールまたは1-ヘプタンチオールをマトリクス物質として使用した。総チオール分子濃度2mMのエタノール溶液100μlに金ワイヤーを入れて常温で2時間反応させた後、金ワイヤーを取り出して純粋エタノールで洗浄することによって、金ワイヤー表面にカルボキシル基を導入した。
【0040】
カルボキシル基の導入された金ワイヤーを10mMの1-エチル-3-(3-ジチメルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)と5mMのN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を含むエタノール溶液120μlに入れて常温で2時間反応させた。前記カルボキシル基は、カルボジイミドの存在下でN-ヒドロキシスクシンイミドと反応してNHS-エステルを形成することによって活性化される。
チオール分子単層膜のカルボキシル基を活性化させた後、金ワイヤーを取り出して活性部位をマスキングした前記DNAポリメラーゼを含む酵素溶液に入れて反応させた。この時、チオール分子単層膜の活性化されたカルボキシル基(NHS-エステル)と蛋白質の1級アミン基との反応によってアミド結合(-CO-NH-)が形成され、Taq DNAポリメラーゼが支持体に固定化された。
【0041】
2.結果
上記の実施例1と同様に電気泳動法を使って反応生成物を確認した。図7は、反応時間を30分間隔で4時間変化させながら得た結果を示す電気泳動写真である。図7において、150分以前にPCR反応が飽和に達したことが分かる。
【0042】
上記の<実施例1>、<実施例2>、及び<実施例3>の結果から、下記のようなことがわかる。
第一に、本発明である熱対流を利用した核酸配列増幅装置が効率よく作動する。
第二に、本発明である熱対流を利用した核酸配列増幅装置では、低温領域または対流領域の上昇部に、固体表面に固定されたDNAポリメラーゼを位置させてもPCR反応が行われることが確認できたため、高温安定性を持たないDNAポリメラーゼも使用可能であることが確認できた。
以上から説明してきた本発明は、前述した実施例及び添付図面によって限定されるのではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で様々な置換、変形及び変更が可能であることは、本発明の属する技術分野で通常の知識を持つ者にとっては明白であろう。このため、前述した実施例と変形例はあらゆる点において単なる例示に過ぎず、限定的に解析してはいけない。したがって、本発明の範囲は特許請求の範囲によって定められるべきものであり、明細書本文によっては何の拘束も受けない。
【0043】
上記の如く、本発明では試料内の複数の特定領域が異なる特定温度に保たれ、これらの特定領域間における熱対流により試料が反応容器内で循環することによって変性工程、アニーリング工程、重合工程が順次的かつ反復的に行われるので、下記のような効果を持つ。
第一に、核酸配列増幅装置の構成を簡単にできる。つまり、本発明では、試料の温度を変化させる工程が省略されるので、従来の核酸配列増幅装置において必須のものであった温度変化及び調節のための複雑な装置を構成しなくて済み、より簡単な構成にできる。
第二に、PCR核酸配列増幅工程を行う装置を小型化したり、ラボ・オン・チップのような複合装置に集積させ易いので、温度変化が好ましくない装置にも使用することができる。
第三に、高温安定性を持たないDNAポリメラーゼも使用することができる。これは、本発明では、反応容器の特定領域をDNAポリメラーゼが活性である温度に保たせ、DNAポリメラーゼを活性温度領域に固定化して使用できるためである。本発明によれば、固定化されたDNAポリメラーゼを使用する場合、ポリメラーゼを活性温度に固定させたままPCR反応を行わせることができるので、低温で最適の活性を持つクレノウ断片やT7 DNAポリメラーゼのような酵素もPCR反応に使用することができる。
第四に、PCR反応時間を縮めることができる。本発明では、試料全体の温度を変化させる必要がないので、温度変化及び調節のためにかかる時間を節約することができる。
【符号の説明】
【0044】
1、1':高温領域
2、2':低温領域
3、4、3'、4':熱源
5:対流領域
6:反応容器
101:第1伝導性ブロック
102:第2伝導性ブロック
103:反応容器
104:加熱装置
105:温度調節流体流入部
106:温度調節流体流出部
107:断熱材
112、117:貫通口
111:開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を利用する核酸配列増幅方法であって、
増幅しようとする特定核酸配列を含む鋳型DNA、DNAポリメラーゼ、デオキシアデノシン三リン酸、デオキシシチジン三リン酸、デオキシグアノシン三リン酸、デオキシチミジン三リン酸、及び前記特定核酸配列部位の3'末端に各々相補的な核酸配列を持つ少なくとも二つ以上のオリゴ核酸プライマーを含む試料を反応容器に注入する工程;
前記試料内の相対的に高い温度の領域が相対的に低い温度の領域よりも低く位置するように前記試料内の複数の特定領域に熱を供給しまたは熱を奪う複数の熱源と前記反応容器とを熱的に接触させることにより前記試料内に空間的温度分布を維持する工程;を含み、
前記空間的温度分布は、i)2本鎖のDNAを1本鎖のDNAに分離する変性工程、ii)前記1本鎖のDNAが前記プライマーとともにDNA-プライマー複合体を形成するアニーリング工程、iii)前記DNA-プライマー複合体のプライマーを重合反応によって伸張する重合工程、が起こるために適切な温度条件を満たす空間的領域を含み、
前記空間的温度分布は、熱対流による試料の循環によって前記変性工程、アニーリング工程、重合工程を順次的かつ反復的に発生させ得る温度分布であることを特徴とする前記核酸配列増幅方法。
【請求項2】
熱源のうち少なくとも一つの熱源が、反応容器または試料の特定領域に熱的に接触する熱伝導性固体、及び、前記熱伝導性固体に対して熱を供給する加熱装置または熱を奪う冷却装置、或いは前記加熱装置及び前記冷却装置の組合せ、を含むことを特徴とする、請求項1記載の核酸配列増幅方法。
【請求項3】
熱源のうち少なくとも一つの熱源が、反応容器の特定領域に熱的に接触する液体、前記液体を収容する収容部、及び、前記液体に対して熱を供給する加熱装置または熱を奪う冷却装置、または前記加熱装置及び前記冷却装置の組合せ、を含むことを特徴とする請求項1記載の核酸配列増幅方法。
【請求項4】
少なくとも一つの熱源が、液体を反応容器の周りに循環させる循環装置をさらに含むことを特徴とする請求項3記載の核酸配列増幅方法。
【請求項5】
熱源のうち少なくとも一つの熱源が、前記反応容器の特定領域と熱的に接触する気体;前記気体に対して熱を供給する加熱装置若しくは熱を奪う冷却装置、または、前記加熱装置及び前記冷却装置の組合せ;及び、前記気体を前記反応容器の周りに循環させる循環装置、を含むことを特徴とする請求項1に記載の核酸配列増幅方法。
【請求項6】
熱源のうち少なくとも一つの熱源が、試料に直接熱を供給する赤外線発生装置であることを特徴とする請求項1記載の核酸配列増幅方法。
【請求項7】
複数の熱源間を熱的に遮断させる断熱手段を使用することを特徴とする請求項1記載の核酸配列増幅方法。
【請求項8】
PCRを利用する核酸配列増幅装置であって、
反応容器中の試料内の複数の特定領域に対して熱を供給しまたは熱を奪う複数の熱源を含み、
前記熱源は、前記試料内の相対的に高い温度の領域が相対的に低い温度の領域より低く位置するように試料内に空間的温度分布を維持するように反応容器と熱的に接触するように配置され、
前記空間的温度分布は、i)2本鎖のDNAを1本鎖のDNAに分けさせる変性工程、ii)前記1本鎖のDNAが前記プライマーとともにDNA-プライマー複合体を形成するアニーリング工程、iii)前記DNA-プライマー複合体のプライマーを重合反応によって伸張する重合工程が起こるために適切な温度条件を満たす空間的領域を含み、
前記空間的温度分布は、熱対流による試料の循環によって前記変性工程、アニーリング工程、重合工程を順次的かつ反復的に発生させ得る温度分布であることを特徴とする前記核酸配列増幅装置。
【請求項9】
熱源のうち少なくとも一つの熱源が、反応容器または試料の特定領域と熱的に接触する熱伝導性固体;及び前記熱伝導性固体に対して熱を供給する加熱装置または熱を奪う冷却装置、或いは前記加熱装置及び前記冷却装置の組合せ、を含むことを特徴とする請求項8記載の核酸配列増幅装置。
【請求項10】
熱源のうち少なくとも一つの熱源が、前記反応容器の特定領域と熱的に接触する液体;前記液体を収容する収容部;及び前記液体に対して熱を供給する加熱装置または熱を奪う冷却装置、或いは前記加熱装置及び前記冷却装置の組合せ、を含むことを特徴とする請求項8記載の核酸配列増幅装置。
【請求項11】
少なくとも一つの熱源が、前記液体を反応容器の周りに循環させる循環装置をさらに含むことを特徴とする請求項10記載の核酸配列増幅装置。
【請求項12】
熱源のうち少なくとも一つの熱源が、反応容器の特定領域に熱的に接触する気体;前記気体に対して熱を供給する加熱装置、熱を奪う冷却装置、または前記加熱装置と前記冷却装置の組合せ;及び前記気体を前記反応容器の周りに循環させる循環装置、を含むことを特徴とする請求項8記載の核酸配列増幅装置。
【請求項13】
熱源のうち少なくとも一つの熱源が、試料に直接熱を供給する赤外線発生装置であることを特徴とする請求項8記載の核酸配列増幅装置。
【請求項14】
複数の熱源間を熱的に遮断させる断熱手段を使用することを特徴とする請求項8記載の核酸配列増幅装置。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−100761(P2009−100761A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−5499(P2009−5499)
【出願日】平成21年1月14日(2009.1.14)
【分割の表示】特願2003−529998(P2003−529998)の分割
【原出願日】平成14年9月14日(2002.9.14)
【出願人】(504053391)アーラム バイオシステムズ インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】