説明

熱接着性シート

【課題】本発明は、耐水性、熱接着性に優れた熱接着性シートを提供することを目的とする。
【解決手段】合成樹脂液にホットメルト接着剤粉末を分散させると共に機械的に発泡させた発泡液を繊維シート表面に塗布し、上記発泡液の上記ホットメルト接着剤粉末を上記繊維シート表面に残留させた状態で上記発泡液を上記繊維シート内に含浸させた熱接着性シートを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等の内装材や外装材等に使用される熱接着性シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の熱接着性シートはホットメルト接着剤粉末を分散した合成樹脂エマルジョンをカーペット等の繊維シート表面に塗布することによって製造されている。
上記熱接着性繊維シートの製造に使用される合成樹脂エマルジョン中にホットメルト接着剤粉末を均一に分散するために、上記合成樹脂エマルジョンには、ポリアクリル酸ソーダ、ポリビニルアルコール等の水溶性樹脂が分散安定剤として添加される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭57−17112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし水溶性樹脂を分散安定剤として合成樹脂エマルジョンに添加すると、上記合成樹脂エマルジョンと共に繊維シートに塗布含浸される水溶性樹脂が繊維シートの耐水性、熱接着性に悪影響を及ぼす。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、合成樹脂液にホットメルト接着剤粉末を分散させると共に機械的に発泡させた発泡液を繊維シート表面に塗布し、上記発泡液の上記ホットメルト接着剤粉末を上記繊維シート表面に残留させた状態で上記発泡液を上記繊維シート内に含浸させた熱接着性シートを提供するものである。
【0006】
上記合成樹脂液の合成樹脂として、熱可塑性樹脂を使用すると、ホットメルト接着剤粉末が上記繊維シートの表面に強固に接着される。
また上記合成樹脂液の合成樹脂として、擬似熱可塑性樹脂を使用すると、上記繊維シート内に上記擬似熱可塑性樹脂を使用すると、上記繊維シート内に上記擬似熱可塑性樹脂が含浸され、上記繊維シートの剛性が向上する。
更に上記合成樹脂液の合成樹脂として、生分解性樹脂を使用すれば、熱接着性シートスクラップを処理する際、上記繊維シート内に含浸されている合成樹脂が腐朽するので、スクラップ処理を簡単に行なうことができるが、上記生分解性樹脂はホットメルト接着剤粉末を上記繊維シートの表面に固着させる力が不充分であるので、これを補うために上記熱可塑性樹脂を併用する。
上記擬似熱可塑性樹脂や生分解性樹脂を使用する場合には、熱可塑性樹脂を併用すると上記ホットメルト接着剤粉末が上記繊維シート表面に強固に接着されるようになる。
【0007】
上記擬似熱可塑性樹脂とはエチレン性不飽和酸無水物またはエチレン性不飽和ジカルボン酸のラジカル重合物(A)と、アルカノールアミン(B)と、リン酸含有反応促進剤とを含有するものである。
上記生分解性樹脂としては、例えば水酸基を有する炭化水素と架橋剤としての多価イソシアナートとからなるものがある。
【0008】
所望なれば上記合成樹脂液には更に撥水剤および難燃剤が添加されてもよい。また、上
記繊維シートには、上記発泡液を塗布するに先立って合成樹脂液と撥水剤とが含浸されていてもよい。また更に上記合成樹脂液は擬似熱可塑性樹脂液および/または生分解性樹脂液であり、上記発泡液は熱可塑性樹脂エマルジョンにホットメルト接着剤を分散させると共に機械的に発泡させた発泡液であってもよい。
【発明の効果】
【0009】
〔作用〕
合成樹脂水溶液あるいは合成樹脂エマルジョン等の合成樹脂液を攪拌等によって機械的に発泡させると、該合成樹脂液は増粘するから、分散安定剤を添加することなくホットメルト接着剤粉末を該合成樹脂液中に均一に分散させることができる。
このようにホットメルト接着剤粉末を均一に分散した発泡合成樹脂液(発泡塗工液)を繊維シート表面に塗布すると、該発泡塗工液は繊維シート内部に浸透するが、ホットメルト接着剤粉末の該繊維シートによる濾別作用によって表面に残留する。
上記合成樹脂としては擬似熱可塑性樹脂および/または生分解性樹脂を使用することが望ましい。
【0010】
上記擬似熱可塑性樹脂とは、5〜100質量%のエチレン性不飽和酸無水物またはカルボン酸基が酸無水物を形成することができるエチレン性不飽和ジカルボン酸からなるラジカル重合により得られた重合体(A)と、少なくとも2つの水酸基を有するアルカノールアミン(B)と、上記重合体(A)と上記アルカノールアミン(B)との和に対して1.5質量%より少ないリン酸含有反応促進剤を含有し、水溶性または水分散性でありホルムアルデヒド不含の樹脂である。
該擬似熱可塑性樹脂は、エチレン性不飽和ジカルボン酸単量体から構成されている上記重合体(A)に架橋剤として上記アルカノールアミン(B)を添加したものであり、常温時には上記重合体(A)と上記アルカノールアミン(B)との間あるいは重合体(A)相互間でリン酸含有反応促進剤存在下に主としてエステル化反応によって架橋が形成されて熱硬化性樹脂的な性質を示し、高温時には架橋が消滅して熱可塑性樹脂的な性質を示す。即ち常温時には熱硬化樹脂的な性質によって繊維シートの剛性、形状安定性、寸法安定性、強度等が確保され、高温時、即ち熱成形時には繊維シートは軟化して良好な成形性が付与される。
【0011】
また上記生分解性樹脂は、化石原料に頼らず、また製造工程において温室効果ガスを発生せず、かつ腐朽性がありスクラップ処理が容易である。しかし上記擬似熱可塑性樹脂や上記生分解性樹脂を使用すると、該繊維シート表面のホットメルト接着剤粉末塗布層の熱接着性を阻害するおそれがあるので、それを防ぐために上記擬似熱可塑性樹脂や上記生分解性樹脂には熱可塑性樹脂を混合しておく必要がある。
【0012】
〔効果〕
本発明の熱接着性シートはホットメルト接着剤粉末塗布層に増粘剤が存在しないので、耐水性が良く、かつ熱接着性に優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】熱接着性シート製造工程説明図
【図2】合成樹脂液含浸工程説明図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を以下に詳細に説明する。
【0015】
〔繊維シート〕
本発明の繊維シートに使用される繊維としては、例えばポリエステル繊維、ポリエチレ
ン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維、ウレタン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維、アセテート繊維等の合成繊維、とうもろこしやサトウキビ等の植物から抽出された澱粉からなる生分解繊維(ポリ乳酸繊維)、パルプ、木綿、ヤシ繊維、麻繊維、竹繊維、ケナフ繊維等の天然繊維、ガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維、石綿繊維等の無機繊維、あるいはこれらの繊維を使用した繊維製品のスクラップを解繊して得られた再生繊維の1種または2種以上の繊維が使用されるが、例えばガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維、石綿繊維、ステンレス繊維等の無機繊維やポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維、ポリ−p−フェニレンテレフタルアミド繊維等のアラミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維等の繊維が使用される。上記繊維は通常ウェブフォーマーによってカーディングしてウェブとし、所望なればニードルパンチング処理を施したり高速水流ジェットを打ち付けることによって繊維相互を交絡して、シート(ニードルパンチ不織布、スパンレース不織布)としてもよい。
【0016】
また、上記繊維に代えて、あるいは上記繊維と共に、融点が180℃以下である低融点熱可塑性繊維を使用してもよい。
上記低融点熱可塑性繊維としては、例えば融点180℃以下のポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体等のポリオレフィン系繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリウレタン繊維、ポリエステル繊維、ポリエステル共重合体繊維、ポリアミド繊維、ポリアミド共重合体繊維等がある。これらの低融点熱可塑性繊維は、単独あるいは2種以上組み合わせて使用される。該低融点熱可塑性繊維の繊度は、0.1〜60dtexの範囲であることが好ましい。本発明に使用する望ましい低融点熱可塑性繊維としては、例えば上記通常繊維を芯部分とし、該低融点熱可塑性繊維の材料樹脂である融点100〜180℃の低融点熱可塑性樹脂を鞘とする芯鞘型複合繊維がある。該芯鞘型複合繊維を使用すると、得られる繊維シートの剛性や耐熱性が低下しない。
上記低融点熱可塑性繊維からなるか、あるいは上記低融点熱可塑性繊維を含む繊維シートは、通常加熱して上記低融点熱可塑性繊維を軟化して繊維相互を結着し、スパンボンド不織布とする。
【0017】
〔合成樹脂液〕
合成樹脂液としては、熱可塑性樹脂、擬似熱可塑性樹脂あるいは生分解性樹脂と上記熱可塑性樹脂との混合物の溶液あるいはエマルジョンあるいはディスパージョンが使用される。
(熱可塑性樹脂)
本発明で使用する熱可塑性樹脂としては、例えばアクリル酸エステル樹脂、メタクリル酸エステル樹脂、アイオノマー樹脂、エチレン−アクリル酸エチル(EEA)樹脂、アクリロニトリル・スチレン・アクリルゴム共重合(ASA)樹脂、アクリロニトリル・スチレン共重合(AS)樹脂、アクリロニトリル・塩素化ポリエチレン・スチレン共重合(ACS)樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合(EVA)樹脂、エチレンビニルアルコール共重合(EVOH)樹脂、メタクリル樹脂(PMMA)、ポリブタジエン(BDR)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合(ABS)樹脂、塩素化ポリエチレン(CPE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリプロピレン(PP)、酢酸繊維素(セルロースアセテート:CA)樹脂、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、ポリオキシメチレン(=ポリアセタール)(POM)、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアリレート(PAR)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)エラストマー、熱可塑性エラストマー(TPE)、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリサルフォン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、フッ素樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE
)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性PPE、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、全芳香族ポリエステル(POB)等の熱可塑性樹脂の水溶液あるいはエマルジョンが例示される。
上記熱可塑性樹脂は二種以上混合されてもよい。
上記熱可塑性樹脂は、通常水性エマルジョンとして提供される。
【0018】
(疑似熱可塑性樹脂)
本発明に使用される擬似熱可塑性樹脂とは、重合体(A)とアルカノールアミン(B)と、所望なればリン酸含有反応促進剤(C)とからなる。
<重合体(A)>
上記擬似熱可塑性樹脂の重合体(A)とは、例えばマレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸、1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物等のエチレン性不飽和ジカルボン酸またはエチレン性不飽和ジカルボン酸無水物、および上記エチレン性不飽和ジカルボン酸またはエチレン性不飽和ジカルボン酸無水物のアルカリ金属塩および/またはアンモニウム塩の単独重合体または上記エチレン性不飽和ジカルボン酸および/またはエチレン性不飽和ジカルボン酸無水物の二種以上の共重合体である。
上記重合体(A)には、例えば上記熱可塑性樹脂に使用されるビニル単量体と同様なビニル単量体の一種または二種以上が共重合されていてもよい。
上記擬似熱可塑性樹脂は、通常水溶液、水性エマルジョン、水性分散液、あるいは粉末として提供される。
【0019】
<アルカノールアミン(B)>
上記擬似熱可塑性樹脂に使用されるアルカノールアミン(B)とは、少なくとも2つのOH基を有するアルカノールアミンであり、下記の構造式を有するものが望ましい。
【化1】


(式中、RはH−原子、C〜C10−アルキル基またはC〜C10−ヒドロキシアルキル基を表し、かつRおよびRはC〜C10−ヒドロキシアルキル基を表す。)
【0020】
<リン酸含有反応促進剤(C)>
本発明の擬似熱可塑性樹脂のリン酸含有反応促進剤(C)としては、例えばアルカリ金属ハイポホスファイト、アルカリ金属ホスファイト、ポリホスフェート、リン酸二水素、ポリリン酸、次亜リン酸、リン酸、アルキルホスフィン酸およびこれらの塩および酸のオリゴマーもしくはポリマーがある。
上記本発明の擬似熱可塑性樹脂に関しては、特表2000−506940号公報に詳細に説明されている。
【0021】
(生分解性樹脂)
上記生分解性樹脂としては、ポリ乳酸系樹脂、デンプン系樹脂、キチン系樹脂等が例示されるが、本発明にとって望ましい生分解性樹脂は、例えばデンプンと多価イソシアナートとの混合物や(特開2007−262366)、水酸基を不活性または低活性にした糖類と、硬化剤としての多価イソシアナートと、反応促進剤としての触媒のマイクロカプセルとの混合物等がある(特開2008−179736)
【0022】
<多価イソシアナート>
本発明で使用する多価イソシアナートとしては例えばトリレンジイソシアナート、パラフェニレンジイソシアナート、2,4−トルエンジイソシアナート、2,6−トルエンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、1,4−ナフタレンジイソシアナート、4,4’−ジフェニルジイソシアナート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート、3,3’−ジメチル−4,4’−ジフェニルジイソシアナート、3,3’−ジメチル−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジフェニルジイソシアナート、2−クロロ−1,4−フェニルジイソシアナート、1−クロロ−2,4−フェニレンジイソシアナート、m−フェニレンジイソシアナート、p−フェニレンジイソシアナート、2,2’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアナート、m−キシリレンジイソシアナート、ω−キシリレンジイソシアナート、ω’−キシリレンジイソシアナート等の多価イソシアナートおよびこれらの化合物が例示される。
通常、本発明にあっては、上記多価イソシアナートはメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、n−ヘキサノール、2−エチルヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、ベンジルアルコール等のアルコール類、エチレンイミン, ポリエチレンイミンなどのイミン類、ジメチルアミン、ジエチル
アミン、ジ(n−ブチル)アミン、ジ(イソプロピル)アミン、アニリン、ピペリジンなどのアミン類等のブロック剤によってブロックしたものを使用する。
【0023】
〔ホットメルト接着剤粉末〕
本発明で使用されるホットメルト接着剤としては、例えば低融点ポリエステル樹脂粉末、低融点ポリアミド樹脂粉末、ポリエチレン粉末、低融点エチレン−酢酸ビニル共重合体粉末等の望ましくは融点が150℃以下の低融点樹脂粉末が使用され、通常該粉末は篩分け法による粒度が80〜500μmとされる。
【0024】
〔第三成分〕
本発明の合成樹脂液には、更に例えばパラフィン、ワックス類、金属塩(酢酸アルミニウム等)、金属石鹸(アルミニウム石鹸等)、脂肪酸のジルコニウム塩、シリコン樹脂、フッ素系樹脂、フッ素化脂肪酸アミド、クロム錯塩(ステアリルクロミッククロリド等)、オクタデシルオキシメチルピリジニウムクロリド、ステアラミドメチルピリジニウムクロリド、オクタデシルエチレン尿素、アルキルケテンダイマー、ポリフルオロカーボン化合物等の撥水剤および/またはハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、無機系難燃剤、珪素系難燃剤、金属塩系難燃剤、弗素系難燃剤、膨張黒鉛等の難燃剤、亜鉛華、ふぇロシアン化鉄カリ等の無機顔料やフタロシアニン、キサンテン等の有機顔料等の顔料、インディゴ等の染料が添加されてもよい。
更に上記合成樹脂液には高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、高級アルコールリン酸エステル塩、ジチオリン酸エステル塩等の浸透剤やオレイン酸ナトリウム、テトラプロピレンベンゼンスルホン酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等の起泡剤が添加されてもよい。
【0025】
〔塗工液の調製〕
上記合成樹脂液に添加されるホットメルト接着剤粉末の量は、通常上記合成樹脂液に含まれる合成樹脂(固形分)100質量部に対して25質量部以上40質量部以下の範囲とする。上記ホットメルト接着剤粉末が25質量部に満たない場合には本発明の熱接着性シートの熱接着性が不足し、40質量部を超えると合成樹脂液の機械的発泡あるいは発泡液の塗布が困難になる。
上記ホットメルト接着剤粉末は直接あるいは水、水溶性有機溶剤、あるいはその混合液等に分散させて上記合成樹脂液に添加される。
【0026】
上記撥水剤または難燃剤は、通常は合成樹脂液に含まれる合成樹脂(固形分)100質量部に対して、40質量部以上60質量部以下、望ましくは45質量部以上55質量部以下の量で添加される。
【0027】
上記塗工液S’は通常固形分濃度を3〜10質量%の範囲に希釈される。上記塗工液の固形分濃度は、上記繊維シートに含まれている水分によって調節する。即ち上記繊維シートの含水量が高い場合(繊維シートの単位質量(g/m)が大きい場合)には、上記塗工液の固形分濃度を高くし、上記繊維シートの含水量が低い場合には、上記塗工液の固形分濃度を低くして、上記繊維シート内部まで上記塗工液が浸透するように図ることが望ましい。特に上記塗工液中に撥水剤が含まれている場合には、上記塗工液を上記繊維シート内部にまで浸透させないと、撥水性が充分発揮されない。
【0028】
〔熱接着性シートの製造〕
上記塗工液S’は、図1に示すように調合槽1内に投入され、攪拌機2によって攪拌混合することによって調製される。そして調製された塗工液S’をノズル3から空気を吹き込みつつ発泡槽4に送り、該発泡槽4の攪拌機5によって攪拌して均一に発泡させる。攪拌機2として高速攪拌機を使用した場合には、上記空気吹き込みが必要とされない場合もある。
上記塗工液の発泡倍率は、通常3〜8倍(体積)とする。
上記塗工液は発泡した状態では増粘し、塗工液中のホットメルト接着剤粉末は均一に分散する。
【0029】
このようにしてホットメルト接着剤粉末Pを均一に分散した発泡塗工液Sは、発泡槽4からピンテンター6によって巾方向に張力を及ぼされることによって巾方向の収縮を抑制されつつ搬送されている繊維シート7上に供給され、該繊維シート7上に供給された発泡塗工液Sはナイフコーター8によって該繊維シート7表面に塗拡される。上記発泡塗工液Sは該繊維シート7の内部に浸透するが、上記ホットメルト接着剤粉末Pは濾別されて該繊維シート7の表面に残留する。
【0030】
その後加熱乾燥炉9内で該繊維シート7は上記ホットメルト接着剤粉末Pの軟化点以上の温度で加熱乾燥され、上記ホットメルト接着剤粉末Pは軟化して該繊維シート7表面に固着する。
上記のようにして表面にホットメルト接着剤粉末Pが固着した繊維シートである熱接着性シート10が製造される。
上記発泡塗工液Sの単位面積あたりの塗布量は10〜50g/m(固形分)とする。
【0031】
上記繊維シート7には、上記発泡塗工液Sの塗布に先立って合成樹脂液が含浸されてもよい。上記合成樹脂液は上記発泡塗工液と同様な熱可塑性樹脂液、擬似熱可塑性樹脂液、あるいは生分解性樹脂液が使用され、上記合成樹脂液には撥水剤が添加されてもよい。
【0032】
上記繊維シート7に上記合成樹脂液を含浸させるには、例えば図2に示すように含浸ロール11、その前段にガイドロール12、後段に絞りロール13を配置した含浸槽14内に合成樹脂液Lを充填し、上記繊維シート7をガイドロール12および含浸ロール11を介して含浸槽14内に送り込んで、上記合成樹脂液Lを含浸し、その後絞りロール13によって合成樹脂液含浸量を調節する。合成樹脂含浸量は通常2〜10g/mとする。
上記方法によれば、発泡塗工液Sが上記繊維シート7に含浸される量が制限されるので、ホットメルト接着剤粉末量が削減できる。
【0033】
上記熱接着性シート10は例えば繊維シートまたはマット、プラスチック発泡体等の基
材上にホットメルト接着剤粉末P固着層側を基材側にして載置され、加熱圧着される。加熱圧着時の加熱温度は上記ホットメルト接着剤の軟化点以上とする。
【0034】
以下に本発明に使用される合成樹脂液の具体例を示す。
〔熱可塑性合成樹脂液1〕
メチルメタクリレート/エチルアクリレート/β−ヒドロキシエチルメタクリレート(58:39:3質量比)共重合体(Tg=52℃)のアニオン−ノニオン型エマルジョン(固形分45質量%)の合成樹脂液1を調製した。
【0035】
〔熱可塑性合成樹脂液2〕
スチレン/エチルアクリレート/メタクリル酸(57:41:2質量比)共重合体(Tg=48℃)のアニオン−ノニオン型エマルジョン(固形分45質量%)の合成樹脂液2を調製した。
【0036】
〔擬似熱可塑性合成樹脂液3〕
アクリル酸/マレイン酸(80:20質量比)共重合体100質量部に対してトリエタノールアミン13.5質量部を添加、固形分49.4質量%水溶液、pH:2.9、粘度7100mPasの合成樹脂液3を調製した。
【0037】
〔擬似熱可塑性合成樹脂液4〕
エチレン/マレイン酸(70:30質量比)共重合体100質量部に対してジエタノールアミン8質量部を添加、固形分29.9質量%水溶液、pH:3.3、粘度10,800mPasの合成樹脂液4を調製した。
【0038】
〔擬似熱可塑性合成樹脂液5〕
アクリル酸/マレイン酸(60:40質量比)共重合体100質量部に対してトリエタノールアミン13.0質量部を添加、固形分48.5質量%水分散液、pH:2.3、粘度800mPasの合成樹脂液5を調製した。
【0039】
〔生分解性合成樹脂液6〕
トリレンジイソシアナートおよびジフェニルメタンジイソシアナートを1対1質量比の割合で混合したポリイソシアナート50質量部に対してブロック剤を40質量部加えてイソシアナート基をブロックし、ブロックイソシアナートを90質量部調製した。
次に、コーンデンプン90質量部に対して水100質量部を加えて混合攪拌したものを、150℃に加熱したツインドラムドライヤー上に滴下して速やかにゲル化及び熱乾燥した後、250μm未満の粒径となるよう粉砕して、アルファーデンプンを調製した。
また、調製したアルファー澱粉50質量部に対し、前記90質量部のブロックイソシアナートを混合し、1液型硬化性生分解性樹脂組成物(合成樹脂液6)を調製した。
【0040】
〔生分解性合成樹脂液7〕
トリレンジイソシアナートおよびジフェニルメタンジイソシアナートを1対1質量比の割合で混合したポリイソシアナート50質量部に対してブロック剤を40質量部加えてイソシアナート基をブロックし、ブロックイソシアナートを90質量部調製した。
次に、コーンデンプンを、180℃に加熱した長さ1.8m、直径0.2mのロータリーキルン(KSマテリアル製)に投入し、同ロータリーキルン中を回転数1〜20rpmの回転数および排出速度毎分30cmの速さで送り、熱分解して熱分解デンプンを調製した。
また、調製した熱分解デンプン50質量部に対し、前記90質量部のブロックイソシアナートを混合し、1液型硬化性生分解性樹脂組成物(合成樹脂液7)を調製した。
【0041】
〔生分解性合成樹脂液8〕
結晶粉末状のマルトース(二糖類)50質量部に対し、ジフェニルメタンジイソシアナートを55質量部加えて混合し、更に、反応促進剤としてマイクロカプセルを3質量部添加混合して、1液型の熱硬化性生分解性樹脂組成物(合成樹脂液8)を調整した。なお、マイクロカプセルの芯剤である触媒としては、有機金属系触媒であるオクチル酸スズ(II)(2−エチルヘキサン酸スズ(II)とも呼ばれる)([CH(CHCH(C)COSn、CAS No.301−10−0)を使用した。また、マイクロカプセルの壁剤である熱溶解性ポリマーとしては、ポリスチレンポリマー(溶解温度約120℃)を使用した。
【0042】
以下に本発明に使用される塗工液の具体例を示す。
〔塗工液1(熱可塑性)〕
合成樹脂液1 22.5質量部(固形分)
難燃剤(臭素系) 12.75質量部
撥水剤(フッ素系) 0.58質量部
ホットメルト接着剤粉末(変性ポリアミド系、平均粒径100μm) 7.8質量部
【0043】
〔塗工液2(熱可塑性)〕
合成樹脂液2 22.5質量部(固形分)
難燃剤(臭素系) 12.75質量部
撥水剤(フッ素系) 0.58質量部
ホットメルト接着剤粉末(変性ポリアミド系、平均粒径100μm) 7.8質量部
【0044】
〔塗工液3(擬似熱可塑性)〕
合成樹脂液3 15.0質量部(固形分)
合成樹脂液1 7.5質量部(固形分)
難燃剤(リン酸系) 12.75質量部
撥水剤(シリコン系) 1.16質量部
ホットメルト接着剤粉末(変性ポリアミド系、平均粒径100μm) 7.8質量部
起泡剤(オレイン酸ナトリウム) 0.15質量部
【0045】
〔塗工液4(擬似熱可塑性)〕
合成樹脂液4 15.0質量部(固形分)
合成樹脂液1 7.5質量部(固形分)
難燃剤(リン酸系) 12.75質量部
撥水剤(シリコン系) 1.16質量部
ホットメルト接着剤粉末(変性ポリアミド系、平均粒径100μm) 7.8質量部
起泡剤(オレイン酸ナトリウム) 0.15質量部
【0046】
〔塗工液5(擬似熱可塑性)〕
合成樹脂液5 15.0質量部(固形分)
合成樹脂液2 7.5質量部(固形分)
難燃剤(リン酸系) 12.75質量部
撥水剤(シリコン系) 1.16質量部
ホットメルト接着剤粉末(変性ポリアミド系、平均粒径100μm) 7.8質量部
起泡剤(オレイン酸ナトリウム) 0.15質量部
【0047】
〔塗工液6(生分解性)〕
合成樹脂液6 15.0質量部(固形分)
合成樹脂液1 7.5質量部(固形分)
難燃剤(臭素系) 12.75質量部
撥水剤(フッ素系) 0.58質量部
ホットメルト接着剤粉末(変性ポリアミド系、平均粒径200μm) 7.8質量部
起泡剤(テトラプロピルベンゼンスルホン酸ナトリウム) 0.15質量部
【0048】
〔塗工液7(生分解性)〕
合成樹脂液7 15.0質量部(固形分)
合成樹脂液1 7.5質量部(固形分)
難燃剤(臭素系) 12.75質量部
撥水剤(フッ素系) 0.58質量部
ホットメルト接着剤粉末(変性ポリアミド系、平均粒径200μm) 7.8質量部
起泡剤(テトラプロピルベンゼンスルホン酸ナトリウム) 0.15質量部
【0049】
〔塗工液8(生分解性)〕
合成樹脂液8 15.0質量部(固形分)
合成樹脂液2 7.5質量部(固形分)
難燃剤(臭素系) 12.75質量部
撥水剤(フッ素系) 0.58質量部
ホットメルト接着剤粉末(変性ポリアミド系、平均粒径200μm) 7.8質量部
起泡剤(テトラプロピルベンゼンスルホン酸ナトリウム) 0.15質量部
【0050】
〔実施例1〕
繊維シートとして、単位面積当たりの質量40g/m、含水量177g/mの低融点(130℃)ポリエステル繊維スパンボンド不織布を使用した。
塗工液1〜8を水で希釈して固形分を4.5質量%に調節した。
上記各塗工液を図1に示す装置によって発泡させつつ上記繊維シート表面に20g/m(固形分)の割合で塗布し、140℃、3分の加熱乾燥を行ない、熱接着性シート1(1)〜1(8)を作製した。
【0051】
〔実施例2〕
繊維シートとしては実施例1と同様な低融点(130℃)ポリエステル繊維スパンボンド不織布を使用するが、単位面積当たりの質量は30g/m、含水量は153g/mのものを使用した。
塗工液1〜8は上記繊維シートの含水量を考慮して、水で希釈して固形分を5.3質量%に調節した。
上記各塗工液は実施例1と同様にして上記繊維シートに20g/m(固形分)の割合で塗布され、同様にして加熱乾燥を行なって熱接着性シート2(1)〜2(8)を作製した。
【0052】
〔実施例3〕
繊維シートとして単位面積当たりの質量50g/m、含水量420g/mのポリエステル繊維ウェブスパンレース不織布を使用した。
上記スパンレース不織布は液浸透性が悪いために、各塗工液1〜8に浸透剤としてアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム2質量%(固形分)を添加した。そして各塗工液1〜8は上記繊維シートの含水量を考慮して固形分を2.0質量%に調節した。
上記塗工液は実施例1と同様にして上記繊維シートに20g/m(固形分)の割合で塗布され、同様にして加熱乾燥を行なって、熱接着性シート3(1)〜3(8)を作製した。
【0053】
〔熱接着性シートの性能評価〕
実施例1において塗工液1〜8を使用して作製した熱接着性シート1(1)〜1(8)について、下記の性能試験を行なった。
不燃性:幅25mmの試料シートをガラス繊維クロス表面に重ね、180℃の熱盤によって3kg/cmの圧力でプレスして熱接着し、24時間放置した後JIS K 6911 A法に準じて燃焼距離を測定した。
撥水性:試料表面に水滴を10滴滴下し、3時間放置後の滲み込みの有無を調べた。10滴全部滲み込みがない場合を10/10と表記する。
剥離試験:JIS K 6854−2に準じて測定した(180°剥離試験)。
結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
表1によれば、全試料が不燃性を持つと認められ、撥水性では10滴全部に滲み込みがみられず、また剥離強度も3N以上となった。
以下、実施例2,3の熱接着性シート2(1)〜2(8)、3(1)〜3(8)についても同様な試験を行い、殆んど同一の結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明にあっては、増粘剤を使用しないから、耐水性、熱接着性に優れた熱接着性シートが得られ、該熱接着性シートは自動車内装材等の表皮材や基材として有用であるから、産業上利用可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 調合槽
2 攪拌機
3 ノズル
4 発泡槽
5 攪拌機
6 ピンテンター
7 繊維シート
8 ナイフコーター
9 加熱乾燥炉
10 熱接着性シート
11 含浸ロール
12 ガイドロール
13 絞りロール
14 含浸槽
P ホットメルト接着剤粉末
S 発泡塗工液
S’ 塗工液
L 合成樹脂液


【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂液にホットメルト接着剤粉末を分散させると共に機械的に発泡させた発泡液を繊維シート表面に塗布し、上記発泡液の上記ホットメルト接着剤粉末を上記繊維シート表面に残留させた状態で上記発泡液を上記繊維シート内に含浸させたことを特徴とする熱接着性シート。
【請求項2】
上記合成樹脂液は熱可塑性樹脂液を主体とする請求項1に記載の熱接着性シート。
【請求項3】
上記合成樹脂液は擬似熱可塑性樹脂液および/または生分解性樹脂液と、熱可塑性樹脂液との混合物を主体とする請求項1に記載の熱接着性シート。
【請求項4】
上記生分解性樹脂は水酸基を有する炭水化物と多価イソシアナートからなる請求項3に記載の熱接着性シート。
【請求項5】
上記合成樹脂液には更に撥水剤および難燃剤が添加される請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱接着性シート。
【請求項6】
上記繊維シートには、上記発泡液を塗布するに先立って合成樹脂液と撥水剤とが含浸されている請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱接着性シート。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−219673(P2011−219673A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92196(P2010−92196)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(593161490)太進工業株式会社 (2)
【出願人】(592048431)株式会社中外 (9)
【出願人】(500450613)大榮産業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】