説明

熱接着性長繊維

【課題】芯鞘型の複合繊維であって、鞘成分を溶融させた後に得られる成形品の剛性を向上させることが可能となる熱接着性長繊維を提供する。
【解決手段】ポリエチレンテレフタレートを主成分とする芯成分と、芯成分よりも低融点の共重合ポリエステルを主成分とする鞘成分とで構成される芯鞘型複合繊維であり、芯鞘質量比(芯:鞘)が4:1〜7:1、引張強さが3.5cN/dtex以上、伸び率が30%以下である熱接着性長繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メッシュシートやネット、ロープ等の産業用資材や家庭用資材を得るのに好適な熱接着性長繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、メッシュシート等を構成する繊維の交点部の固定や、ターポリン用布帛などの通水性が重要視される用途では、塩化ビニル樹脂などの樹脂を用いて加工が行われている。
【0003】
しかし、近年、塩化ビニル樹脂などは環境への影響が問題視され、樹脂加工を行わない加工方法が検討されるようになってきた。
【0004】
その一つとして、鞘部が低融点成分である芯鞘型のポリエステル系熱接着性長繊維と通常のポリエステル繊維等を用いて、製編織した後、熱処理を行って低融点成分を溶融又は軟化させ、交点部を固定したメッシュシートや網目形状を固定したネット等が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0005】
また、熱接着性長繊維のみを用いて成形品を得ることもできる。つまり熱接着性長繊維は繊維状であるため、鞘成分を溶融させる前には柔軟性を有しており、成形加工が容易である。そして、鞘成分を溶融させると、マルチフィラメントを構成する各単糸が接着してモノフィラメント状になるため、剛性に優れた成形品を得ることができる。
【0006】
このように、熱接着性長繊維と他の一般糸を用いて成形加工する場合、熱接着性繊維のみを用いて成形加工する場合ともに、剛性の高い成形品を得る場合、使用する熱接着性長繊維の繊度を大きくすることで、剛性を向上させることは可能であるが、軽量化やコスト面において不利であった。
【0007】
そこで、熱接着性長繊維の繊度や使用量を変えずに成形品の剛性を向上させることが可能な熱接着性長繊維が要望視されていた。
【特許文献1】特開2001−271245号公報
【特許文献2】特開2001−271270号公報
【特許文献3】特開2001−214388号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題を解決し、鞘成分を溶融させた後に得られる成形品の剛性を向上させることが可能となる熱接着性長繊維を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明は、ポリエチレンテレフタレートを主成分とする芯成分と、芯成分よりも低融点の共重合ポリエステルを主成分とする鞘成分とで構成される芯鞘型複合繊維であり、芯鞘質量比(芯:鞘)が4:1〜7:1、引張強さが3.5cN/dtex以上、伸び率が30%以下であることを特徴とする熱接着性長繊維を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱接着性長繊維は、鞘成分を溶融させた後に得られる成形品の剛性を向上させることが可能となるので、メッシュシートやネット、成型棒等をはじめ各種の成形品を得る際に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明の熱接着性長繊維は、鞘成分を溶融させて成形加工するものであり、高い接着力と剛性が必要とされる。また、良好な製糸性を得るためにも、繊維断面形状は芯成分を補強成分とし、鞘成分を接着成分とする芯鞘構造とするものである。
【0014】
まず、芯成分について説明する。芯成分の主成分は、ポリエステルの中でも安価で耐候性や寸法安定性に優れ、また、剛性にも優れるポリエチレンテレフタレート(以下、PETと称す。)を主成分とするものである。
【0015】
芯成分中には、PETの性能を損なわない程度に第3成分が添加及び共重合されていてもよく、原着繊維とするために着色顔料等を含有していてもよい。
【0016】
芯成分の極限粘度〔η〕は0.6〜1.1が好ましい。極限粘度〔η〕が0.6より低くなると引張強さが低下しやすく、一方、1.1より高くなると鞘成分が低融点であるため、延伸時に十分な熱処理が行えないため熱接着加工時の熱収縮が大きくなり、加工性が低下しやすくなる。
【0017】
次に、鞘成分は、芯成分よりも低融点の共重合ポリエステルを主成分とするものである。鞘成分の融点は130〜200℃が好ましい。融点が130℃より低くなると、使用される用途が限られるようになり、また、融点が200℃よりも高くなると溶融接着時の加熱温度が高くなり、コスト面で不利となるばかりでなく、溶融接着温度が高くなると芯成分が熱によるダメージを受け、引張強さの低下をおこすようになる。
【0018】
そして、本発明においては、芯成分のポリエステルとの融点差を50〜100℃程度とすることが好ましい。
【0019】
鞘成分の共重合ポリエステルとしては、2塩基酸又はその誘導体の1種もしくは2種以上と、グリコール系の1種もしくは2種以上とを反応させて得るものが好ましい。
【0020】
2塩基酸又はその誘導体の例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、P−オキシ安息香酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族2塩基酸、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジカルボン酸の脂肪族2塩基酸、1,2−シクロブタンジカルボン酸等の脂肪族2塩基酸、脂肪族ラクトン成分等が挙げられる。
【0021】
一方、グリコール類の例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンタンジオール、P−キシレングリコール等やポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリアルキレングリコール類が挙げられる。
【0022】
これらの2塩基酸又はその誘導体の1種もしくは2種以上と、グリコール系の1種もしくは2種以上からなる重合体は、熱的に安定性が良好であると共に、原料が比較的安価に供給されるので工業的に有利である。
【0023】
その中でも、特にテレフタル酸成分、脂肪族ラクトン成分、エチレングリコール成分及び1,4−ブタンジオール成分からなる共重合ポリエステルは、比較的結晶化速度が速く、紡糸時や熱接着加工後の冷却の面からも好ましい。なお、脂肪族ラクトン成分としては、炭素数4〜11のラクトンが好ましく、特に好ましいラクトンとしては、ε−カプロラクトン(ε−CL)が挙げられる。
【0024】
また、鞘成分の極限粘度〔η〕は0.6〜0.8であることが好ましい。極限粘度〔η〕が0.6より低いと複合形態の斑が発生しやすく、また、0.8より高いと熱接着加工時の溶融流動性が悪くなって、接着斑が発生しやすくなるので好ましくない。また、鞘成分には、本来の性能を損なわない程度に各種添加剤等を添加してもよい。
【0025】
次に、本発明の熱接着性長繊維の芯鞘質量比(芯:鞘)は4:1〜7:1であり、中でも好ましくは4:1〜6:1である。本発明の熱接着性長繊維は、芯成分であるPETの質量比を大きくすることで、熱接着後の成形品は優れた剛性を有するようになる。
【0026】
芯成分の割合が芯鞘質量比(芯:鞘)4:1より小さくなると、熱接着加工後の成形品の剛性が劣るようになる。一方、芯成分の割合が芯鞘質量比(芯:鞘)7:1より大きくなると、接着成分となる鞘成分の割合が少なくなることから、接着力の低下や複合形態の斑が発生しやすくなる。
【0027】
そして、本発明の熱接着性長繊維の引張強さは、3.5cN/dtex以上であり、好ましくは4.0cN/dtex以上である。中でも延伸性を考慮すると4.0〜6.0cN/dtexとするのがより好ましい。引張強さが3.5cN/dtexより低いと、産業資材用途に用いることが困難となる場合があり、用途が限られるようになり好ましくない。
【0028】
本発明の熱接着性長繊維の伸び率は30%以下であり、好ましくは25%以下である。中でも延伸性を考慮すると15〜25%とすることが好ましい。伸び率が30%より高くなると、メッシュシートやネット等の成形品が衝撃や施工時の張力等により伸長するものとなる。
【0029】
また、本発明の熱接着性長繊維は、マルチフィラメントであってもモノフィラメントであってもよいが、成形品を得る際に柔軟性を有し、作業性に優れるため、マルチフィラメントとすることが好ましい。そして、総繊度200〜2000dtex、単糸繊度5〜20dtexのマルチフィラメントとすることが好ましい。
【0030】
次に、本発明の熱接着性長繊維の製造方法について、一例を用いて説明する。
常用の溶融複合紡糸装置で溶融紡糸、延伸して製造することができるが、一旦未延伸糸で巻き取ると、鞘成分である共重合ポリエステルが低融点であることから、解除性等の問題が発生しやすいため、一旦巻き取ることなく連続して延伸を行い、配向結晶化を促進させた後に巻き取るスピンドロー法が好ましく、コスト面でも有利である。スピンドロー法における巻き取り速度は2000〜4000m/分程度が好ましく、巻き取り速度が2000m/分より遅いと生産性が劣り、4000m/分より速いと製糸性や引張強さが劣るようになりやすい。
【0031】
そして、本発明の熱接着性長繊維を使用してメッシュシート、ネット、成型棒等の成形品を製造するに際しては、本発明の熱接着性長繊維のみを加工することなく使用するか、あるいは目標とする繊度に合糸や撚り等の後加工を施して用いることができる。また、他の繊維と混繊して用いてもよく、製品(成形品)の全体、あるいは一部に用いることもできる。
【実施例】
【0032】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、実施例における各物性値の測定と評価は次のとおりに行った。
(a)ポリエステルの極限粘度
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒とし、濃度0.5g/dl、温度20℃で測定した。
(b)引張強さ、伸び率
JIS L−1013により、島津製作所製オートグラフDSS−500を用い、つかみ間隔25cm、引張速度30cm/分で測定した。
(c)融点
パーキンエルマー社製の示差走査熱量計DSC−7型を使用し、昇温速度20℃/分で測定した。
(d)剛性
得られた繊維に120T/mのS撚りを掛けて撚糸とし、これを経糸と緯糸に用いて、織密度20.5×19.5本/2.54cmの平織りメッシュシートの原反を製織する。この原反に温度170℃の乾熱オーブン内で3分間の熱接着処理を行い、メッシュシートを得た。得られたメッシュシートの剛性を触感により以下の3段階評価とした。
○・・・剛性に優れる。
△・・・少し剛性を有している。
×・・・剛性に劣る。
【0033】
実施例1
芯成分として極限粘度〔η〕0.70のPET(融点255℃)を用い、鞘成分として、テレフタル酸とエチレングリコールとのエステル化反応で得られたテレフタル酸成分とエチレングリコール成分とのモル比が1:1.13の反応物に、ε−カプロラクトンを酸成分に対して15モル%及び1,4−ブタンジオールをジオール成分に対して50モル%の割合で共重合させて得た、極限粘度〔η〕0.70、融点160℃の共重合ポリエステルを用いた。
そして、常用の溶融複合紡糸装置を用い、孔径が0.5mmの芯鞘型の溶融複合紡糸口金を装着し、温度280℃、芯鞘質量比(芯:鞘)4:1として紡出した。紡糸した糸条を長さ15cm、温度300℃に加熱された加熱筒内を通過させた後、長さ40cmの環状吹き付け装置で、冷却風温度15℃、速度0.7m/秒で冷却した。
次に、油剤を付与して非加熱の1ローラに引き取り、連続して温度90℃の2ローラで1.02倍の引き揃えを行い、その後、温度140℃の3ローラで5.1倍の延伸を行い、温度120℃の4ローラで弛緩率3%で弛緩熱処理を行って、速度3000m/分のワインダーに巻き取り、1110dtex/96フィラメント(同心芯鞘型、丸断面形状)の熱接着性長繊維を得た。
【0034】
実施例2、比較例1〜2
芯鞘質量比(芯:鞘)を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様に行った。
【0035】
実施例1〜2、比較例1〜2で得られた熱接着性長繊維の引張強さ、伸び率、剛性の評価結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1から明らかなように、実施例1〜2の熱接着性長繊維は引張強さ、伸び率とも満足し、剛性にも優れていた。 一方、比較例1〜2の熱接着性長繊維は芯成分の質量比が小さいために剛性が劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレートを主成分とする芯成分と、芯成分よりも低融点の共重合ポリエステルを主成分とする鞘成分とで構成される芯鞘型複合繊維であり、芯鞘質量比(芯:鞘)が4:1〜7:1、引張強さが3.5cN/dtex以上、伸び率が30%以下であることを特徴とする熱接着性長繊維。
【請求項2】
鞘成分が、テレフタル酸成分、エチレングリコール成分、1,4−ブタンジオール成分及び脂肪族ラクトン成分を含有する共重合ポリエステルである請求項1記載の熱接着性長繊維。

【公開番号】特開2008−75204(P2008−75204A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−255780(P2006−255780)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】