説明

熱硬化性樹脂硬化物の耐水性試験方法

【課題】熱硬化性樹脂硬化物の耐水性試験を短時間で正確におこなうことができる熱硬化性樹脂硬化物の耐水性試験方法を提供する。
【解決手段】 熱硬化性樹脂硬化物の耐水性試験方法であって、熱硬化性樹脂硬化物4を高気圧雰囲気中の水3に浸漬する工程を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂硬化物の耐水性試験方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、熱硬化性樹脂硬化物の吸湿耐久性等を評価する方法として、煮沸試験やプレッシャークッカー試験(Pressure Cooker Test)(以下PCTと略称する)が行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このPCTは、物質の長期間にわたる湿度や温度による劣化状態を、短時間で再現して湿度や温度に対する耐久性を評価する試験方法であり、一般にPCT装置を用いておこなわれている。
【0004】
PCT装置は、飽和蒸気中(湿度100%RH)、100℃以上の温度、また1気圧以上の加圧条件を設定できるものであり、この条件下にサンプルを一定時間置くことにより、サンプルの耐水性を評価することができる。
【0005】
通常、PCT装置にサンプルをセットする際には、そのままの状態でサンプルをセットするが、このセット方法ではサンプル表面全体に飽和水蒸気が行き届かず、正確な耐水性試験がおこなえないという問題があった。
【0006】
また、サンプルに対して、飽和水蒸気中で圧力を加えて強制的に吸水させても、吸水速度に限界があり、試験時間が長時間かかる等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3543282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、従来の問題点を解消して、熱硬化性樹脂硬化物の耐水性試験を短時間で正確におこなうことができる熱硬化性樹脂硬化物の耐水性試験方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0010】
第1に、熱硬化性樹脂硬化物の耐水性試験方法であって、熱硬化性樹脂硬化物を、高気圧雰囲気中の水(以下、加圧水と略称する)に浸漬する工程を有する。
【0011】
第2に、上記第1の熱硬化性樹脂硬化物の耐水性試験方法において、水が、イオン交換水または純水である。
【0012】
第3に、上記第1または第2の熱硬化性樹脂硬化物の耐水性試験方法において、高気圧雰囲気が、PCT装置によりつくられたものである。
【0013】
第4に、上記第1から第3の熱硬化性樹脂硬化物の耐水性試験方法において、熱硬化性樹脂組硬化物がガラス繊維を含有する。
【発明の効果】
【0014】
上記第1の発明によれば、熱硬化性樹脂硬化物の耐水性試験方法として、熱硬化性樹脂硬化物を加圧水に浸漬する工程を有するので、通常の飽和水蒸気を用いておこなう耐水性試験に比べて熱硬化性樹脂硬化物表面に対する水の付着が確実となり、また、試験時間を短縮することができる。
【0015】
上記第2の発明によれば、本発明の熱硬化性樹脂硬化物の耐水性試験方法において、水が、イオン交換水または純水であるので、通常の水に見られる、水中の溶解成分等の固着による汚れの発生がなく、吸水の阻害を防止することができる。
【0016】
上記第3の発明によれば、本発明の熱硬化性樹脂硬化物の耐水性試験方法の高気圧雰囲気が、PCT装置によりつくられるので、容易に本発明の熱硬化性樹脂硬化物の耐水性試験方法を実施することが可能である。
【0017】
上記第4の発明によれば、本発明の熱硬化性樹脂硬化物の耐水性試験方法で耐水性試験の対象を熱硬化性樹脂組硬化物にガラス繊維が含有されたものを用いた場合には、通常、ガラス繊維を含有した熱硬化性樹脂硬化物の不良原因となる、ガラス繊維への熱硬化性樹脂の含浸不良の耐水性試験として特に有効におこなうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の耐水性試験に用いる装置構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0020】
本発明の熱硬化性樹脂硬化物の耐水性試験方法に用いる加圧水は、高気圧雰囲気中の容器に水を入れたものであり、高気圧中に置くことにより、その水中に浸漬した熱硬化性樹脂硬化物に対して一様に圧力が付加され、水を強制的に熱硬化性樹脂硬化物中に浸透させることが可能となるものである。
【0021】
この加圧水として用いられる水としては、通常一般の水を制限なく用いることができるが、好ましくはイオン交換水、より好ましくは純水を用いることができる。これは、耐水性試験の際に、水中の不純物等の溶解成分が熱硬化性樹脂硬化物表面に付着し、吸水を阻害するのを避けることができ、正確な耐水性試験結果を得るために有効となるからである。
【0022】
本発明の熱硬化性樹脂硬化物の耐水性試験方法に用いるPCT装置は、通常、一般に公知のPCT装置を特に制限なく用いることができるが、IEC(国際電気基準会議)規格における環境試験規格、IEC60068−2−66に定められている試験条件を満足する装置であればより好ましい。
【0023】
本発明の熱硬化性樹脂硬化物の耐水性試験方法は、上記のPCT装置で試験可能な熱硬化性樹脂硬化物であれば特に制限なく試験することができる耐水性試験方法であるが、熱硬化性樹脂硬化物、特に、ガラス繊維を含有した熱硬化性樹脂硬化物、例えば、不飽和ポリエステル樹脂に炭酸カルシウムを添加したものをガラス繊維に含浸させて強化したシート状の成形材料、所謂SMC(Sheet Moulding Compound)等を成形して得られた熱硬化性樹脂硬化物の耐水性試験に最も適した方法である。
【0024】
これはガラス繊維への熱硬化性樹脂の含浸が十分でない場合にガラス繊維に気泡等が残留することによる熱硬化性樹脂硬化物の耐水性不良の問題に対し、本発明の熱硬化性樹脂硬化物を加圧水に浸漬する耐水性試験方法により、熱硬化性樹脂硬化物の問題を効果的に発見、評価することが可能となるからである。
【0025】
次に、本発明の熱硬化性樹脂硬化物の耐水性試験方法について図1を参照して説明する。
【0026】
本発明の熱硬化性樹脂硬化物の耐水性試験方法は、上記の加圧水に熱硬化性樹脂硬化物4を浸漬してPCT装置1で試験を行うが、この際、容器2に入れた水3に熱硬化性樹脂硬化物4全体が浸漬するようにセットすることが重要である。容器2の材質等は特に制限はないが、熱、湿度、圧力に強いもの、例えばステンレス製のものを好適に用いることができる。
【0027】
熱硬化性樹脂硬化物4はそのまま浸漬してもよいし、熱硬化性樹脂硬化物4底部と容器2との接触面積を少なくするように立たせてセットしたり、治具を用いて、より接触面積を少なくするようにセットしたりしてもよい。
【0028】
上記のような状態に熱硬化性樹脂硬化物4をセットした後、PCT装置1を所定の温度、湿度、圧力に条件設定した雰囲気で試験をおこなう。この設定条件は、熱硬化性樹脂硬化物4の状態、大きさ等により適宜選択して設定するが、通常は、温度を110〜130℃、好ましくは121℃、湿度を95〜100RH%、好ましくは99RH%でおこなわれる。
【0029】
また、試験時間は、サンプルの状態、大きさ等により適宜選択して設定するが、通常は12〜200時間、好ましくは24〜100時間の範囲である。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0031】
実施例及び比較例のサンプルとして以下に示すものを用いた。
<サンプルA>
樹脂:不飽和ポリエステル樹脂 昭和高分子社製、品番M407 27質量部
充填材:炭酸カルシウム 日東粉化社製、品番NS#100 57質量部
硬化剤:化薬アクゾ社製、品名カヤカルボンBIC-75 0.3質量部
ガラス繊維:セントラル硝子社製、品番ERS4620−313 15質量部
硬化条件:145℃で加圧成形
形状:50mm×50mm×5mm
<サンプルB>
樹脂:不飽和ポリエステル樹脂 昭和高分子社製、品番M407 18質量部
不飽和ポリエステル樹脂 ジャパンコンポジット社製、品番ML3600 9質量部
充填材:炭酸カルシウム 日東粉化社製、品番NS#100 57質量部
硬化剤:(化薬アクゾ社製、品名カヤカルボンBIC-75) 0.3質量部
ガラス繊維:セントラル硝子社製、品番ERS4620−313 15質量部
硬化条件:145℃で加圧成形
形状:50mm×50mm×5mm
<測定条件>
PCT装置(ESPC HAST SYSTEM TPC−412)を以下<1>〜<3>の条件に設定して、0hr、20hr、40hr、60hr、80hr、100hrの各時間のサンプルA、サンプルBの<吸水率>及び<膨れの発生状況>を測定及び観測した。
<1>:121℃、99%RH 純水浸漬
<2>:121℃、99%RH 蒸気雰囲気
<3>:121℃、100%RH 蒸気雰囲気
<吸水率>
各時間のサンプルをPCT装置から取り出し、重量を測定して、下記式1により計算して算出した。
【0032】
【数1】

【0033】
その結果を表1〜3に示す(表の数値は吸水率(wt%)である)。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

【0037】
<膨れの発生状況>
各時間のサンプルをPCT装置から取り出し、サンプルの表面の膨れの発生個数を目視で確認した。
【0038】
その結果を表4、5に示す(表の数値は個数(個)である)。
【0039】
【表4】

【0040】
【表5】

【0041】
表1〜表3の結果より、蒸気雰囲気のサンプルと比較して純水浸漬のサンプルの吸水率が大きく、本発明の熱硬化性樹脂硬化物の耐水性試験方法が有効であることが確認された。
【0042】
また、表4、5の結果より、蒸気雰囲気のサンプルと比較して純水浸漬のサンプルの膨れ発生個数が多く、本発明の熱硬化性樹脂硬化物の耐水性試験方法が、より促進性が優れた測定方法であることが確認された。
【符号の説明】
【0043】
1 PCT装置
2 容器
3 水
4 熱硬化性樹脂硬化物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂硬化物の耐水性試験方法であって、熱硬化性樹脂硬化物を高気圧雰囲気中の水に浸漬する工程を有することを特徴とする熱硬化性樹脂硬化物の耐水性試験方法。
【請求項2】
水が、イオン交換水または純水であることを特徴とする請求項1に記載の熱硬化性樹脂硬化物の耐水性試験方法。
【請求項3】
高気圧雰囲気が、プレッシャークッカー試験装置によりつくられたことを特徴とする請求項1または2に記載の熱硬化性樹脂硬化物の耐水性試験方法。
【請求項4】
熱硬化性樹脂組硬化物がガラス繊維を含有することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂硬化物の耐水性試験方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−127079(P2011−127079A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289851(P2009−289851)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】