説明

熱硬化性粉体塗料組成物

【課題】 長期防食性に優れ、さらに、耐チッピング性、可とう性、密着性にも優れる塗膜を形成することができる熱硬化性粉体塗料組成物を提供する。
【解決手段】 常温で固形の架橋性官能基を含有する樹脂(A)、その架橋性官能基と反応しうる硬化剤(B)、繊維状フィラー(C)、および熱膨張性樹脂粒子(D)を含有することを特徴とする熱硬化性粉体塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、長期防食性に優れ、さらに、耐チッピング性、可とう性にも優れた塗膜を形成できる粉体塗料組成物に関する。さらに詳しくは、自動車車体の下回り部品の塗装に好適に用いることができるものであり、長期防食性に優れるだけでなく、自動車の走行中に巻き上げる石等による耐チッピング性や自動車部品の変形に対する可とう性、密着性に優れる塗膜を得ることができる熱硬化性粉体塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車部品に、エポキシ樹脂系粉体塗料が多く使用されてきた。さらに、塗膜の耐衝撃性を改良するために、エポキシ樹脂に、有機発泡剤を添加した粉体組成物は知られている(特許文献1、2、3参照)。発泡剤を含有するエポキシ樹脂粉体組成物から得られた硬化物は、その内部に気泡を含むことから、機械的衝撃や熱衝撃に対する耐久性の点で、発泡剤を含まない組成物から得られた硬化物よりも優れている。
しかしながら、これまでに知られている発泡剤を含むエポキシ樹脂粉体組成物から得られる硬化物は、その硬化物全体に多量の気泡が連続して繋がった状態にあり、長期防食性の点や耐チッピング性の面で劣るものであった。また、組成物を加熱硬化させる際、組成物がその発泡温度に達すると急激な発泡を生じ、発泡のコントロールがむずかしいという問題があった。
【0003】
この問題点を改良したエポキシ樹脂、酸無水物及びアルカリ金属炭酸塩からなるエポキシ樹脂粉体組成物が開示されている(特許文献4参照)。
しかしながら、このエポキシ樹脂粉体組成物は、塗膜形成時に、硬化物の基材との接触面に気泡が多く偏在するために、塗膜の耐チッピング性や可とう性・密着性に劣るという欠点があった。
また、回転部分を有する機械装置の振動や騒音防止として、変性エポキシ樹脂、繊維状充填材、燐片状充填材、さらに発泡剤を含有する制振粉体塗料が開示されている(特許文献5参照)。この組成物から得られた硬化物は耐チッピング性に優れている。しかしながら、硬化物全体に多量の気泡を連続して繋がっており、長期防食性が劣るという欠点があった。
【0004】
【特許文献1】特開昭63−273652号公報
【特許文献2】特開平05−148429号公報
【特許文献3】特開平05−148430号公報
【特許文献4】特開平06−041340号公報
【特許文献5】特開昭59−176358号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、長期防食性に優れ、さらに、耐チッピング性、可とう性、密着性にも優れる塗膜を形成することができる熱硬化性粉体塗料組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、架橋性官能基を有する樹脂、その官能基と反応する硬化剤、繊維状フィラー、および熱膨張性樹脂粒子を使用することにより、長期防食性に優れ、さらに、耐チッピング性、可とう性にも優れる塗膜を形成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、常温で固形の架橋性官能基を含有する樹脂(A)、その架橋性官能基と反応しうる硬化剤(B)、繊維状フィラー(C)、および熱膨張性樹脂粒子(D)を含有することを特徴とする熱硬化性粉体塗料組成物を提供する。
また、本発明は、上記熱硬化性粉体塗料組成物において、常温で固形の架橋性官能基を含有する樹脂(A)、その架橋性官能基と反応しうる硬化剤(B)の総量100質量部に対し、繊維状フィラー(C)を1〜100質量部、熱膨張性樹脂粒子(D)を0.1〜20質量部含有する熱硬化性粉体塗料組成物を提供する。
【0008】
また、本発明は、上記熱硬化性粉体塗料組成物において、常温で固形の架橋性官能基を含有する樹脂(A)が、エポキシ樹脂であり、その架橋性官能基と反応しうる硬化剤(B)が、アミン、ポリアミン、ジヒドラジド、ジシアンジアミド、イミダゾール、フェノール樹脂、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂、二塩基酸及び酸無水物から選ばれるの少なくとも1種である熱硬化性粉体塗料組成物を提供する。
【0009】
また、本発明は、上記熱硬化性粉体塗料組成物において、繊維状フィラー(C)の平均繊維径が1~30μm、平均繊維長が50μm〜500μm、かつ、アスペクト比が5〜500である熱硬化性粉体塗料組成物を提供する。
また、本発明は、上記熱硬化性粉体塗料組成物において、常温で固形の架橋性官能基を含有する樹脂(A)がエポキシ樹脂であって、エポキシ樹脂100重量部に対して、コア−シェル型構造を有するポリマー微粒子1〜50重量部を含有するものである熱硬化性粉体塗料組成物を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本願発明の熱硬化性粉体塗料組成物は長期防食性に優れ、さらに、耐チッピング性、可とう性にも優れる塗膜を形成することができるという優れた効果がある。
さらに本願発明の熱硬化性粉体塗料組成物を自動車車体の下回り部品の塗装に用いることにより、岩塩のような融雪剤を撒かれる寒冷地を走行する自動車の巻き上げる石でのチッピング剥離による発錆を防ぎ、長期に渡り自動車車体の下回り部品を保護することができるという優れた効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の熱硬化性塗料組成物に用いられる常温で固形の架橋性官能基を含有する樹脂(A)は、常温(25℃)で固体状態である。好ましくは、軟化点が160℃以下、特に好ましくは150℃以下である。下限は、60℃以上である。軟化点が160℃を超える場合には、塗膜外観が低下し、軟化点が60℃未満の場合には、粉体塗料の貯蔵安定性(耐ブロッキング性)が充分でないことがある。このような粉体塗料用樹脂としては、従来から使用されている熱硬化型粉体塗料用樹脂であれば、制限なく使用することができる。代表的な架橋性官能基を有する樹脂として、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂等を挙げることができるが、特に、エポキシ樹脂が好ましい。
【0012】
このようなエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型又はクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型もしくはAD型エポキシ樹脂、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテルなどの脂肪族系エポキシ樹脂、脂肪族若しくは芳香族カルボン酸とエピクロルヒドリンとから得られるエポキシ樹脂、脂肪族若しくは芳香族アミンとエピクロルヒドリンとから得られるエポキシ樹脂、複素環エポキシ樹脂、スピロ環含有エポキシ樹脂、エポキシ変性樹脂等を挙げることができる。
【0013】
エポキシ樹脂には、必要に応じて、得られる組成物が、貯蔵時に、ブロッキングを生じない範囲で液状エポキシ樹脂を配合することもできる。このエポキシ樹脂のエポキシ当量は、150〜3000g/eq、好ましくは170〜2500g/eq、さらに、好ましくは200〜2000g/eqである。
【0014】
エポキシ樹脂としては、コア−シェル構造をもつポリマー微粒子をエポキシ樹脂中に分散させた、コア−シェル構造を有するポリマー微粒子分散型エポキシ樹脂が好ましい。コア−シェル構造を有するポリマー微粒子をエポキシ樹脂中に均一に分散させることによって、さらに、優れた高接着性、低内部応力、耐久性といった特徴を熱硬化性粉体塗料組成物に付与させることができる。特に、低温時の耐チッピング性の向上に寄与する。コア−シェル構造を有するポリマー微粒子を、先にエポキシ樹脂に分散させることは、粉体塗料組成物製造時にコア−シェル構造を有するポリマー微粒子をそのまま添加する場合よりも均一な分散性が得られるため、上記特徴が発現しやすい。
【0015】
コア−シェル構造を有するポリマー微粒子としては、例えば、ゴム質のコア層と硬質のシェル層からなるコア−シェル構造をもつポリマー微粒子が挙げられる。コア−シェル構造を有するポリマー微粒子の平均粒径は、0.1〜1μmが好ましい。
コア層を構成するゴム質物質としては、例えばグリシジル基含有エチレン性不飽和モノマーと他のエチレン性不飽和モノマーの共重合体などが挙げられる。
また、シェル層を構成する硬質物質としては、例えばヒドロキシ基含有エチレン性不飽和モノマーと他のエチレン性不飽和モノマーの共重合体や、カルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマーと他のエチレン性不飽和モノマーの共重合体などが挙げられる。
コア−シェル構造を有するポリマー微粒子分散型エポキシ樹脂100質量部中のコア−シェル構造を有するポリマー微粒子の含有量は、1〜50質量部が好ましく、5〜40質量部がより好ましく、10〜20質量部の含有量が特に好ましい。このようなコア−シェル構造を有するポリマー微粒子分散型エポキシ樹脂の市販品としては、東都化成株式会社製、エポトートYR−628、YR−693等が挙げられる。
【0016】
また、全エポキシ樹脂中のコア−シェル型構造を有するポリマー微粒子の含有割合は、全エポキシ樹脂100重量部に対して、1〜50重量部が好ましく、1.5〜30質量部がより好ましく、2〜20質量部が特に好ましく、3〜20質量部がさらに好ましい。
本発明の熱硬化性塗料組成物に用いられる硬化剤(B)としては、例えば、アミン、ポリアミド、ジシアンジアミド、ヒドラジド、イミダゾール、フェノール、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂、アミドイミド系、二塩基酸、酸無水物等の硬化剤を挙げることができるが、好ましくは、アジピン酸ジヒドラジド、ジシアンジアミド、フェノール樹脂、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂、二塩基酸等が用いられ、特に好ましくはアジピン酸ジヒドラジド、ジシアンジアミド、フェノール樹脂である。
【0017】
また、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂としては、特に限定されず、具体的には、1分子内に2つ以上のカルボン酸基を有するポリエステル樹脂を挙げることができ、例えば、多価カルボン酸を主成分とした酸成分と、多価アルコールを主成分としたアルコール成分とを原料として通常の方法により縮重合することにより得られるものを例示することができる。
【0018】
上記酸成分としては、特に限定されず、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸およびこれらの無水物、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類およびこれらの無水物、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸類およびこれらの無水物、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸脂環式ジカルボン酸類およびこれらの無水物、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン等のラクトン類、p−オキシエトキシ安息香酸等の芳香族オキシモノカルボン酸類、これらに対応するヒドロキシカルボン酸等を例示することができる。酸成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0019】
上記アルコール成分としては、特に限定されず、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,5−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物、ビスフェノールSアルキレンオキサイド付加物、1,2−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、2,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,4−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,2−ドデカンジオール、1,2−オクタデカンジオール等の側鎖を有する脂肪族グリコール類、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の3価以上の多価アルコール類等を例示することができる。アルコール成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0020】
上記カルボキシル基含有ポリエステル樹脂の数平均分子量としては、数平均分子量が1500〜6000であることが好ましい。さらに、好ましくは、2000〜5000である。上記数平均分子量が、1500未満の場合は、得られる塗膜性能が低下し、また、粉体塗料の貯蔵安定性に問題が発生する。一方、数平均分子量が、6000を超える場合は得られる塗膜の平滑性が低下する。
上記カルボキシル基含有ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)としては、耐ブロッキング性および得られる塗膜外観の観点から、35〜100℃であることが好ましく、50〜70℃であることがさらに好ましい。なお、本発明におけるガラス転移温度は、示差走査型熱量計(DSC)によって求めることができる。
【0021】
本発明の熱硬化性粉体塗料組成物に含まれる硬化剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
硬化剤の使用割合は、硬化剤の含有割合は、(A)成分の常温で固形の架橋性官能基を含有する樹脂の官能基の1当量当り、硬化剤の官能基の当量で0.5〜1.5当量であり、好ましくは0.7〜1.2当量である。
本発明の熱硬化性塗料組成物に用いられる繊維状フィラー(C)としては、アスペクト比が5〜500、好ましくは10〜250、より好ましくは10〜100の繊維状フィラーを使用することができる。ここでアスペクト比とは、繊維状フィラーの平均繊維径(直径)Dに対する平均繊維長Lの比(L/D)である。
【0022】
アスペクト比が5未満になると耐チッピング性が十分に望めなくなることがあり、それを防ぐにはフィラーの添加量を著しく増加することも必要である。また、アスペクト比が500を超える場合には、均一な分散ができず、塗膜外観が低下する傾向があり、さらに、長期防食性が低下する傾向がある。繊維状フィラーの平均繊維径、ならびに平均繊維長は、測微接眼装置を備えた光学顕微鏡によって測定することができる。平均繊維径は、1〜20μmが好ましく、3〜15μmが特に好ましい。平均繊維長は、50〜300μmが好ましく、100〜200μmが特に好ましい。
【0023】
繊維状フィラーは、絶縁体からなるものであれば特に限定はなく、無機質繊維状フィラー、有機質繊維状フィラーが挙げられる。無機質繊維状フィラー(無機化合物)の具体例としては、メタケイ酸カルシウム、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム、セピオライト、ゾノライト、ホウ酸アルミニウム、ロックウール、ガラスファイバー等を例示できる。また、有機質繊維状フィラー(有機化合物)の具体例としては、ポリオキシベンゾイル(PO30B)、ポリオキシナフトイル(PON
)、ポリアクリロニトリル繊維、アラミド繊維等が例示できる。繊維状フィラーは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0024】
繊維状フィラー(C)の含有量は、常温で固形の架橋性官能基を含有する樹脂(A)と、その架橋性官能基と反応しうる硬化剤(B)の総量100質量部に対し、1〜100質量部の範囲が好ましい。1質量部未満の場合、耐チッピング性の向上が十分でない。また、100質量部を越えると、塗膜外観が低下し、長期防食性も低下する。繊維状フィラーの特に好ましい添加量は、5〜50質量部である。
繊維状フィラー(C)の効果を最大限に発揮させるために、フィラー界面、特に無機質繊維状フィラー界面のカップリング処理は効果的である。カップリング剤としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤等が例示できる。また、有機質繊維状フィラーの場合には、たとえばプラズマ処理したものが好ましい。
【0025】
本願発明の熱硬化性塗料組成物に用いられる熱膨張性樹脂粒子(D)としては、液状ガスを内包した熱可塑性樹脂の殻からなるマイクロスフェアーが挙げられ、加熱されると殻の内部のガス圧が増し、また、熱可塑性樹脂の殻が軟化して、膨張し、中空球状粒子を形成する特性を持つ物である。熱膨張性樹脂粒子(D)の平均粒径は、5〜30μmが好ましい。また、熱膨張性樹脂粒子(D)は、膨張後の体積が30〜150倍になるものが好ましい。
熱膨張性樹脂粒子(D)の市販品の具体例としては、日本フィライト株式会社製のEXPANCEL 092DU40、EXPANCEL 092DU80、EXPANCEL 009DU80、大日精化工業株式会社製のマイクロスフェアー M520、マイクロスフェアー M520D等が挙げられる。
【0026】
熱膨張性樹脂粒子(D)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
熱膨張性樹脂粒子(D)の含有量は、常温で固形の架橋性官能基を含有する樹脂(A)と、その架橋性官能基と反応しうる硬化剤(B)の総量100質量部に対し、0.1〜20質量部の範囲が好ましい。熱膨張性樹脂粒子(D)の特に好ましい含有量は、0.5〜15質量部である。熱膨張性樹脂粒子(D)の含有量が、0.1質量部未満の場合、耐チッピング性の向上が十分でない。また、20質量部を越えると、塗膜内に中空の部分が多くなりすぎて、逆に、耐チッピング性が低下する。
【0027】
本発明の熱硬化性塗料組成物には、熱膨張性樹脂粒子の効果を補助するため、予め発泡させた有機系中空樹脂粒子、無機系中空粒子(中空バルーン)を含有しても良い。
このような中空の粒子としてはポリアクリロニトリル樹脂系中空粒子、フェノール樹脂系中空粒子、シリカ系中空粒子等が例示できる。
本発明の熱硬化性塗料組成物は、さらに、可塑剤、着色顔料、熱安定剤、光安定剤、艶消剤、消泡剤、レベリング剤、たれ止め剤、紫外線吸収剤、表面調整剤、硬化促進剤、分散剤、粘性調整剤、帯電制御剤、ワックス等を含有するものであってもよい。
【0028】
上記着色顔料としては特に限定されず、例えば、二酸化チタン、カーボンブラック、グラファイト、酸化鉄、酸化鉛、クロムイエロー、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、キナクリドン、ペリレン、アルミニウム粉、アルミナ粉、ブロンズ粉、銅粉、スズ粉、マイカ、天然又は合成雲母等を挙げることができる。
【0029】
本発明の熱硬化性粉体塗料組成物を調製するには、加熱ロール、エクストルーダーなどの溶融混練機を用いた、いわゆる乾式法や溶剤に溶解分散し、次いで減圧蒸留又は薄膜蒸留により溶剤を留去後、粉砕する湿式法で製造される。
熱硬化性粉体塗料組成物は、静電塗装法や流動浸漬法などの公知の方法によって被塗物の表面に膜厚50〜800μm、好ましくは100〜400μmに塗装し、通常140〜180℃の温度で5分間ないし2時間程度焼付けることにより、十分に硬化した発泡膜を得ることができる。
【実施例】
【0030】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
(実施例1〜12、比較例1〜4)
表1、表2に示した実施例1〜12、表3に示した比較例1〜4の各熱硬化性粉体塗料組成物の原料をドライブレンダー(商品名:ヘンシェルミキサー、三井鉱山株式会社製)にて1分間均一に混合し、次に80〜100℃の温度条件で押出混錬機(商品名:ブスコニーダーPR46、COPERION社製)を用い溶融混練し、冷却後ハンマー式衝撃粉砕機で微粉砕した。その後、150メッシュの金網でろ過分級することにより各熱硬化性粉体塗料組成物を得た。
なお、表中の数値の単位は、質量部である。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
【表3】

【0034】
1)商品名:ジャパンエポキシレジン株式会社製、エポキシ樹脂、
エポキシ当量 925g/eq、軟化点 97℃
2)商品名:ジャパンエポキシレジン株式会社製、エポキシ樹脂、
エポキシ当量 750g/eq、軟化点 89℃
3)商品名:東都化成株式会社製、コア−シェル構造を有するポリマー微粒子分散型エポキシ樹脂、
エポキシ当量 910g/eq、軟化点 97℃、コア−シェル構造を有するポリマー微粒子の平均粒径 0.5μm、コア−シェル構造を有するポリマー微粒子の含有量 12.5質量%
【0035】
4)商品名:宇部興産株式会社製、1、10−ドデカンジカルボン酸
5)商品名:ジャパンエポキシレジン株式会社製、フェノール樹脂、
フェノール性OH 4.0meq/g
6)商品名:DSM社製、カルボキシルキ含有ポリエステル樹脂、
酸価 85mgKOH/g、数平均分子量 2200、ガラス転移温度 71℃
【0036】
7)商品名:太平洋マテリアル株式会社製、ロックウール、平均繊維長 135μm、平均繊維径 5μm、アスペクト比 27
8)商品名:NYCO MINERAL社製、メタケイ酸カルシウム、平均繊維長 156μm、平均繊維径 12μm、アスペクト比 13
9)商品名:大日精化工業株式会社製、熱膨張性樹脂ビーズ、平均粒径 14μm
10)商品名:日本フィライト株式会社製、熱膨張性樹脂ビーズ、平均粒径 13μm
11)商品名:味の素ファインテクノ株式会社製、アミンアダクト硬化促進剤
12)商品名:三井化学株式会社製、アクリル系表面調整剤
【0037】
得られたそれぞれの粉体塗料を−80KV荷電で静電塗装によりリン酸亜鉛処理が施された2.3mm厚の軟鋼板に200〜400μmの膜厚になるよう塗装、160℃で20分間焼付けし、それぞれの試験片を得た。
それぞれ各試験片を試験し、その結果を表4、表5、表6に示した。
なお、塗膜性能は次のようにして評価した。
【0038】
(1)発泡性
光学顕微鏡にて焼付け後の塗膜を観察し、以下の基準で評価した。
○:発泡体が独立気泡であり、その直径が100ミクロン未満である。
△:発泡体が連続気泡か、又はその直径が100ミクロン以上である。
×:発泡性なし。
【0039】
(2)付着性(JIS K5600 5−6による)
塗膜面をナイフを使用して1mm間隔の切り目を100個入れ、その上にセロハンテープを密着させ強く剥離したときの残存塗膜の数を観察し評価した。
○:テープ剥離で塗膜の残存数が100/100である。
△:テープ剥離で塗膜の残存数が70−99/100である。
×:テープ剥離で塗膜の残存数が69以下/100である。
【0040】
(3)耐衝撃性(JIS K5600 5−3による)
塗装面が上になるように設置し、重さ500gの荷重を50cmの高さから落下させたときに生じる塗膜の亀裂の程度を評価した。
○:全く亀裂なし
△:わずかに亀裂あり
×:著しく亀裂あり
【0041】
(4)耐塩水噴霧性(JIS K5600 7−1による)
あらかじめクロスカットを入れた塗装板を35℃、5%NaClの環境下の塩水噴霧試験機に960時間保管し、取り出した後クロスカット面からの片側膨れ幅、及びセロテープによる片側剥離幅を評価した。
◎:片側膨れ幅、剥離幅が1mm以下である。
○:片側膨れ幅、剥離幅が1〜3mmである。
△:片側膨れ幅、剥離幅が3〜5mmである。
×:片側膨れ幅、剥離幅が5mmを超える。
【0042】
(5)耐湿性(JIS K5600 7−2による)
塗装板を50℃、95%RHの環境下で耐湿試験機に960時間保管し、取り出した後の素材と塗膜との密着性をセロハンテープによる残存塗膜の数で評価した。
○:テープ剥離で塗膜の残存数が100/100である。
△:テープ剥離で塗膜の残存数が70−99/100である。
×:テープ剥離で塗膜の残存数が69以下/100である。
【0043】
(6)耐低温チッピング性
塗装板を−30℃の低温恒温機内で6時間以上保持した後にグラベロメーターにてチッピングを実施し剥離の度合いを評価した。なお、チッピングの条件は6号砕石(200g)、エア圧0.5MPaの条件で実施した。
☆:素地まで達する剥離がない。
◎:素地まで達する剥離が有り剥離面積が1mm以下である。
○:素地まで達する剥離が有り剥離面積が1mmを超え3mm以下である。
△:素地まで達する剥離が有り剥離面積が3mmを超え10mm以下である。
×:素地まで達する剥離が有り剥離面積が10mmを超える。
【0044】
【表4】

【0045】
【表5】

【0046】
【表6】

【0047】
実施例1〜12は、いずれも、発泡性、密着性、耐衝撃性、耐塩水噴霧性、耐湿性、耐チッピング性が良好であり、特に、特定割合でコア−シェル構造を有するポリマー微粒子分散型エポキシ樹脂を含有する実施例5、11は、耐チッピング性が非常に優れている。
比較例1、2はエポキシ樹脂(A)と反応しうる硬化剤(B)の総量100質量部に対して繊維状フィラー(C)の質量部がそれぞれ1質量部以下、100質量部以上を配合した例であり、また比較例3、4は熱膨張性樹脂粒子(D)の質量部がそれぞれ0.1質量部以下、20重量部以上を配合した例であり、比較例1の塗膜は良好な発泡性をもち、密着性、耐衝撃性、耐塩水噴霧性、耐湿性は良好であったが、耐チッピング性において塗膜の剥離が顕著に見られた。比較例2の塗膜は耐チッピング性が良好であったが、過剰なフィラーの配合により素材との付着性が劣り、さらに耐衝撃性、耐塩水噴霧性において剥離が見られた。比較例3は塗膜中の発泡性が劣り十分な耐チッピング性が得られなかった。
比較例4は十分な発泡性により衝撃に対する耐久性が得られたが、付着性がやや劣る結果が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温で固形の架橋性官能基を含有する樹脂(A)、その架橋性官能基と反応しうる硬化剤(B)、繊維状フィラー(C)、および熱膨張性樹脂粒子(D)を含有することを特徴とする熱硬化性粉体塗料組成物。
【請求項2】
常温で固形の架橋性官能基を含有する樹脂(A)、その架橋性官能基と反応しうる硬化剤(B)の総量100質量部に対し、繊維状フィラー(C)を1〜100質量部、熱膨張性樹脂粒子(D)を0.1〜20質量部含有する請求項1に記載の熱硬化性粉体塗料組成物。
【請求項3】
常温で固形の架橋性官能基を含有する樹脂(A)が、エポキシ樹脂であり、その架橋性官能基と反応しうる硬化剤(B)が、アミン、ポリアミン、ジヒドラジド、ジシアンジアミド、イミダゾール、フェノール樹脂、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂、二塩基酸及び酸無水物から選ばれるの少なくとも1種である請求項1又は2に記載の熱硬化性粉体塗料組成物。
【請求項4】
繊維状フィラー(C)の平均繊維径が1~30μm、平均繊維長が50μm〜500μm、かつ、アスペクト比が5〜500である請求項1〜3のいずれかに記載の熱硬化性粉体塗料組成物。
【請求項5】
常温で固形の架橋性官能基を含有する樹脂(A)がエポキシ樹脂であって、エポキシ樹脂100重量部に対して、コア−シェル型構造を有するポリマー微粒子1〜50重量部を含有するものである請求項1〜4のいずれかに記載の熱硬化性粉体塗料組成物。




【公開番号】特開2007−314712(P2007−314712A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−147926(P2006−147926)
【出願日】平成18年5月29日(2006.5.29)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.セロテープ
【出願人】(599076424)BASFコーティングスジャパン株式会社 (59)
【Fターム(参考)】