説明

熱線遮断ガラス

【課題】本発明は、紫外線、近赤外線及び遠赤外線を高効率で遮断し、かつ可視光線を高効率で透過させる熱線遮断ガラスを提供することを目的とする。
【解決手段】ガラス基板に赤外線吸収剤を主成分とするコーティング剤をパターン状に塗布することにより赤外線吸収層を形成してなることを特徴とする熱線遮断ガラスである。もしくは、ガラス基板と、フィルム基材上に赤外線吸収剤を主成分とするコーティング剤をパターン状に塗布することにより赤外線吸収層を形成した熱線遮断フィルム基材とを貼り合わせてなることを特徴とする熱線遮断ガラスである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線および遠赤外線を高効率で遮断し、かつ、可視光線を高効率で透過させる熱線遮断ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、窓ガラスを通して建物の室内に流入する太陽エネルギーを遮断して室内の温度上昇を抑え、冷房負荷を軽減するために熱線遮断ガラスが使われている。従来のものは、スプレー法やCVD法、あるいは浸潰法などで酸化チタン、酸化錫などの酸化物薄膜を数百Å形成したものが一般的である。近年、京都議定書の発効など地球温暖化防止が注目されてきており、可視光線を効果的に取り込みかつ近赤外線を遮断する材料が求められていた。また、最近では、地震等によるガラスの破損時の飛散防止熱線遮断ガラスや治安悪化にともなう空き巣対策等の防犯の面から割れ難い熱線遮断ガラス等が要求されている。さらには、窓ガラス等として使用する際の施工性や施工コスト等も考慮して開発されている。
【0003】
また、熱線遮断ガラスの特性として、透明性、即ち、可視光線を高効率で透過し、高効率の熱線遮断性を有するものが望まれているが、透明性と熱線遮断性を両立できる熱線遮断ガラスとして、現状では充分満足できるものはない。
【0004】
そこで、上記の課題を解決するために、熱線遮断ガラスとして、例えば、ガラス基板上に熱線吸収膜、酸化物膜の少なくとも2層の順次積層された熱線遮断ガラスの酸化物膜の屈折率を制御した熱線遮断性ガラスが特許文献1で提案されている。また、特許文献2では、板ガラス表面にAg膜と金属酸化物膜を積層させた薄膜を被覆させてなる熱線遮断ガラスにレーザー光照射装置により、レーザー光を照射して、熱線遮断膜を溶融させた後、銀および金属酸化物が凝集し、生成微粒子によって、可視光線の散乱を現出させて着色させた熱線遮断ガラスが提案されている。
【特許文献1】特開平03−187734号公報
【特許文献2】特開2003−12345号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の特許文献1、2で提案されている熱線遮断ガラスは、ガラス基板上に蒸着等の方法により酸化物薄膜を形成するものであり、係る酸化物薄膜では耐擦傷性、耐化学的安定性などの耐久性に問題がある。さらに、ガラス全面の酸化物膜の屈折率を均一かつ一定に制御するのは技術的に困難である。また、着色された熱線遮断ガラスにおいては、自然な色、即ちニュートラル色で低反射率、かつ可視光線透過率が70%必要な自動車用や家庭窓ガラスへ応用するには問題が生じていた。
【0006】
本発明は、上記の技術的背景を考慮してなされたものであって、近赤外線及び遠赤外線を高効率で遮断し、かつ可視光線を高効率で透過させる熱線遮断ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための解決手段として、
請求項1に係る発明は、ガラス基板に赤外線吸収剤を主成分とするコーティング剤をパターン状に塗布することにより赤外線吸収層を形成してなることを特徴とする熱線遮断ガラスである。
【0008】
請求項2に係る発明は、ガラス基板と、フィルム基材上に赤外線吸収剤を主成分とするコーティング剤をパターン状に塗布することにより赤外線吸収層を形成した熱線遮断フィルム基材とを貼り合わせてなることを特徴とする熱線遮断ガラスである。
【0009】
請求項3に係る発明は、前記パターン形状が、ストライプ状、格子状、微小セルからなるドット状、ドーナツ状から選ばれるいずれかの形状であることを特徴とする請求項1または2記載の熱線遮断ガラスである。
【0010】
請求項4に係る発明は、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱線遮断ガラスの全光線透過率が80%以上であり、赤外線領域の800〜1200nmで10%以下の分光透過率を持つことを特徴とする熱線遮断ガラスである。
【0011】
請求項5に係る発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱線遮断ガラスを自動車用および建築物用に使用することを特徴とする熱線遮断ガラスである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の熱線遮断ガラスは、赤外線吸収層をパターン状に形成するので、太陽光の入射角度での太陽光の遮蔽性(吸収性)、反射性、透過性を制御できる設計対応が可能であり、近赤外線及び遠赤外線を高効率で遮断し、かつ可視光線を高効率で透過させる熱線遮断ガラスを提供することができる。
【0013】
本発明の熱線遮断ガラスにおけるパターン状赤外線吸収層は、赤外線吸収剤を主成分とするコーテイング剤を塗布して形成するので、従来の熱線遮断ガラスにおける酸化物薄膜蒸着層等と比較して、耐磨耗性、耐薬品性等に優れる高耐久性を有する。したがって、自動車用、建築用等使用環境の厳しい用途に充分使用できる。
【0014】
さらに、コーティング法により赤外線吸収層を形成できるので、大面積が必要とされる用途の熱線遮断ガラスを安価に提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の熱線遮断ガラスについて好ましい一実施形態について説明する。図1〜図5は、本発明の熱線遮断ガラスについてその一実施形態を示す縦断面図である。
【0016】
図1で示すように、本発明の熱線遮断ガラスは、ガラス基板の片面上に赤外線吸収剤を主成分とするコーティング剤を塗布して、例えば、四角柱ストライプパターン状の赤外線吸収層を形成し、その赤外線吸収層表面にハードコート処理を施しハードコート層を設けた構成からなる。
【0017】
また、図2で示すように、本発明の熱線遮断ガラスは、ガラス基板の片面上に赤外線吸収剤を主成分とするコーティング剤を塗布して、例えば、三角柱ストライプパターン状の赤外線吸収層を形成した熱線遮断ガラスであって、その赤外線吸収層の表面にハードコート処理を施しハードコート層を設けた構成からなる。
【0018】
また、図3で示すように、本発明の熱線遮断ガラスは、表面にハードコート処理を施しハードコート層を設けた透明フィルム基材のハードコート層と反対面に、赤外線吸収剤を主成分とするコーティング剤を塗布して、例えば、三角柱ストライプパターン状の赤外線吸収層を形成し、粘着剤層を介して、その赤外線吸収層面にガラス基板を貼り合わせた熱線遮断ガラスである。
【0019】
また、図4で示すように、透明フィルム基材に、赤外線吸収剤を主成分とするコーティング剤を塗布して、例えば、三角柱ストライプパターン状の赤外線吸収層を形成し、その赤外線吸収層の面に粘着層を介してセパレータ(剥離紙)を積層した熱線遮断フィルム基材のセパレータを剥がしてガラス基板に貼り合わせて、本発明の熱線遮断ガラスとすることができる。
【0020】
上記の透明フィルム基材に、赤外線吸収剤を主成分とするコーティング剤を塗布して、例えば、三角柱ストライプパターン状の赤外線吸収層を形成し、その赤外線吸収層の面に粘着層を介してセパレータ(剥離紙)を積層した熱線遮断フィルム基材は、用途に応じて熱線遮断フィルムとして単独でも使用できる。
【0021】
また、図5で示すように、ガラス基板の片面上に、赤外線吸収剤を主成分とするコーティング剤を塗布して、例えば、三角柱ストライプパターン状の赤外線吸収層を形成し、粘着剤層を介して、その赤外線吸収層面にガラス基板を貼り合わせて、本発明の熱線遮断ガラスとすることができる。
【0022】
上記の図1〜図5で示した本発明の熱線遮断ガラスは、パターン状の赤外線吸収層で太陽光からの熱線は遮断(カット)され、赤外線吸収層の存在しない領域で透明性が確保される。したがって、高透明性と熱線遮断効果の優れた熱線遮断ガラスが得られる。
【0023】
上記の赤外線吸収層のパターン形状としては、図6で示すように、上記で例示した四角柱や三角柱等のストライプ形状(a)、格子形状(b)、ドット形状(c)、ドーナツ形状(d)のパターン形状を挙げることができる。
【0024】
上記のパターンは、赤外線吸収素材の透明性が高ければ任意でかまわない。赤外線吸収量は塗布量と光線の入射状態に依存しており、太陽光の入射方向に対し直角に吸収面がなることが好ましい。
【0025】
本発明で使用される赤外線吸収剤としては金属酸化物半導体などがある。具体的な化合物として錫ドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化錫等があるが、可視領域における透明性から錫ドープ酸化インジウムが特に好ましい。近赤外吸収剤は近赤外吸収効果を有し、具体的な化合物としてはポリメチン系色素、アミニウム系色素、イミニウム系色素がある。紫外線吸収剤は紫外線吸収効果を有し、具体的な化合物としては、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、クマリン系吸収剤などが挙げられる。
【0026】
そして、上記の赤外線吸収剤をバインダー(結合樹脂)、溶媒等と混合してなる赤外線吸収剤を主成分とする組成物からなるコーティング剤を調製して、ガラス基板やフィルム基材に印刷法等公知の塗布方式により赤外線吸収剤層を形成することができる。バインダーの結合樹脂を熱硬化型樹脂や紫外線もしくは電子線硬化型樹脂等を使用することにより、熱硬化型や紫外線もしくは電子線硬化型コーティング剤とすることもできる。
【0027】
本発明で使用されるフィルム基材としては、可視光に対して透明な、ポリアクリレート、ポリエステル、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、塩化ビニル、フッ素樹脂、ゴム等のフィルムが使用できる。
【0028】
本発明のハードコート層のとしては、例えば、紫外線硬化型ハードコート剤を塗布して形成する。紫外線硬化型ハードコート剤は、被膜形成成分としてその構造中にラジカル重合性の二重結合またはエポキシ基を有するポリマー、オリゴマー、モノマーを主成分とするものであり、その他光重合開始剤や増感剤を含有する。本発明においては、被膜形成成
分がアクリレート系の紫外線硬化型ハードコート剤を使用することにより、表面硬度、透明性、耐摩擦性、耐察傷性等に優れたハードコート層を形成することができる。ハードコート剤を塗布する方法は、例えば、グラビアコーテイング、リバースロールコーティング、ブレートコーティング等の公知の任意の塗布方法が挙げられる。
【0029】
本発明の粘着層は、一般公知の光学用途の粘着剤が使用できる。
【0030】
上記で得られる本発明の熱線遮断ガラスは、赤外線吸収層をパターン状に形成するので、太陽光の入射角度での太陽光の遮蔽性(吸収性)、反射性、透過性を制御できる設計対応が可能であり、紫外線、近赤外線及び遠赤外線を高効率で遮断し、かつ可視光線を高効率で透過させる熱線遮断ガラスを提供することができる。全光線透過率が80%以上であり、赤外線領域の800〜1200nmで10%以下の分光透過率を持つ熱線遮断ガラスを容易に設計できる。そして、この熱線遮断ガラスを建築物や自動車の窓がラスに貼ることによって、皮膚に有害な紫外線、地球温暖化の原因でもある、物質を発熱させる近赤外線を吸収遮断することができ、日焼け防止や冷房費の削減など省エネ効果も得られる。しかし、冬場においては太陽光の熱線は遮断されてしまうが、内部暖房の放出され難いため、保温効果をある程度有する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の熱線遮断ガラスについてその一実施例を示す縦断面図である。
【図2】本発明の熱線遮断ガラスについてその一実施例を示す縦断面図である。
【図3】本発明の熱線遮断ガラスについてその一実施例を示す縦断面図である。
【図4】本発明の熱線遮断ガラスに用いられる熱線遮断フィルム基材の一実施例を示す縦断面図である。
【図5】本発明の熱線遮断ガラスについてその一実施例を示す縦断面図である。
【図6】本発明の熱線遮断ガラスの赤外線吸収層のパターン形状の一例を示す平面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板に赤外線吸収剤を主成分とするコーティング剤をパターン状に塗布することにより赤外線吸収層を形成してなることを特徴とする熱線遮断ガラス。
【請求項2】
ガラス基板と、フィルム基材上に赤外線吸収剤を主成分とするコーティング剤をパターン状に塗布することにより赤外線吸収層を形成した熱線遮断フィルム基材とを貼り合わせてなることを特徴とする熱線遮断ガラス。
【請求項3】
前記パターン形状が、ストライプ状、格子状、微小セルからなるドット状、ドーナツ状から選ばれるいずれかの形状であることを特徴とする請求項1または2記載の熱線遮断ガラス。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱線遮断ガラスの全光線透過率が80%以上であり、赤外線領域の800〜1200nmで10%以下の分光透過率を持つことを特徴とする熱線遮断ガラス。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱線遮断ガラスを自動車用および建築物用に使用することを特徴とする熱線遮断ガラス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−247623(P2008−247623A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−87405(P2007−87405)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】