説明

熱膨潤抑制型変性澱粉の製造方法

【課題】 従来、澱粉懸濁液を加熱すると、ある温度で澱粉粒子が膨潤し、粘度上昇、粒子の崩壊に伴う粘度低下(ブレークダウン)が生じる。しかしながら、スープ、フラワーペースト、ジャムなどの食品用ペーストには、ブレークダウンが生じる澱粉は適さず、熱膨潤を抑制した澱粉が使用されてきた。一方、工業的用途で事務糊、壁紙用糊剤などの糊剤には、曵糸性を有するものは作業性が悪く、曵糸性の低いものが好まれて使用されてきた。このような粘性を変化させた澱粉としては、化学的に澱粉の膨潤を抑制した架橋澱粉、あるいは物理的に変性した乾熱処理澱粉、湿熱処理澱粉が挙げられる。
【解決方法】 澱粉に対して5〜20質量%の極性溶媒、15〜30質量%の水を含有する極性溶媒水溶液を澱粉に分散させ、これを糊化開始温度以上100℃未満で加熱することによる、熱膨潤抑制型変性澱粉の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱膨潤が抑制された変性澱粉に関するものであり、さらに詳しくは澱粉に対して5〜20質量%の極性溶媒、15〜30質量%の水を含有する極性溶媒水溶液を澱粉に分散させ、これを糊化開始温度以上100℃未満で加熱して得られることを特徴とする変性澱粉の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、澱粉の熱膨潤の抑制する方法としてはエピクロルヒドリン、グリオキザール、トリメタリン酸などの架橋剤を用いて化学的に架橋する方法があった。一方、架橋剤を用いない方法としては、乾熱処理や湿熱処理が提案されている。
【0003】
乾熱処理としては顆粒澱粉またはフラワーを実質的に無水状態にした後に熱処理を行う方法(特表平9−503549号)や、澱粉・オリゴ糖ブレンドを実質的に無水状態にした後に熱処理を行う方法(特表2003−501494号)があった。
【0004】
また湿熱処理としては減圧ラインと加圧蒸気ラインとの両方を付設し、内圧、外圧共に耐圧性の密閉できる容器内に澱粉を入れ、減圧とした後、蒸気導入による加圧加熱(120℃以上)を行い、その後冷却する方法(特許第2996707号)や、水分割合が25〜60容量%のエタノール溶液中に澱粉を分散・懸濁し、これを100℃〜130℃に加熱する方法(特許第3365656号)があった。
【特許文献1】特表平9−503549号公報
【特許文献2】特表2003−501494号公報
【特許文献3】特許第2996707号公報
【特許文献4】特許第3365656号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、澱粉懸濁液を加熱すると、ある温度で澱粉粒子が膨潤し、粘度上昇、粒子の崩壊に伴う粘度低下(ブレークダウン)が生じる。しかしながら、スープ、フラワーペースト、ジャムなどの食品用ペーストには、ブレークダウンが生じる澱粉は適さず、熱膨潤を抑制した澱粉が使用されてきた。一方、工業的用途で事務用糊、壁紙用糊剤などの糊剤には、曵糸性を有するものは作業性が悪く、曵糸性の低いものが好まれて使用されてきた。このような粘性を変化させた澱粉としては、架橋剤を用いて化学的に澱粉の膨潤を抑制した架橋澱粉、あるいは物理的に変性したものとして湿熱処理澱粉や特表平9−503549号公報、特表2003−501494号公報などに記載されている澱粉あるいは澱粉・オリゴ糖ブレンド体を中性以上に調整した後、無水状態で加熱処理を行った乾熱処理澱粉が挙げられる。
【0006】
物理的に変性した澱粉のうち、乾熱処理をした澱粉は熱による着色が起こり、これを使用した最終製品の仕上がりに影響を与える。また湿熱処理澱粉は高温で加圧加熱処理を行う関係上、構造が非常に複雑な機械を使用しなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、かかる課題を解決するため、鋭意研究の結果、澱粉に対して5〜20質量%の極性溶媒、15〜30質量%の水を含有する極性溶媒水溶液を澱粉に分散させ、これを使用する澱粉の糊化開始温度以上100℃未満で加熱することにより、熱膨潤抑制型変性澱粉が比較的容易に製造できることを発見し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0008】
以上説明してきたように、本発明によれば、熱膨潤抑制型変性澱粉を、澱粉に対して5〜20質量%の極性溶媒、15〜30質量%の水を含有する極性溶媒水溶液を澱粉に分散させ、これを使用する澱粉の糊化開始温度以上100℃未満で加熱することにより比較的容易に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に使用できる澱粉としては馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、甘藷澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉、米澱粉、アマランサス澱粉等の天然澱粉、それらの加工澱粉(酸分解澱粉、酸化澱粉、エーテル化、エステル化、架橋等の澱粉誘導体、乾熱処理澱粉、湿熱処理澱粉等)が挙げられる。
【0010】
本発明で用いる極性溶媒としては、メタノール、エタノール、アセトンなどが挙げられ、これらを1種以上含有したものであればよい。
【0011】
本発明で用いる極性溶媒水溶液の極性溶媒の含有量は澱粉に対して5〜20質量%含有していればよい。含有量が5質量%未満では加熱処理中に澱粉が糊化してしまうので好ましくない。また20質量%を超えた場合、加熱処理による効果があまり得られなくなる。
【0012】
本発明で用いる極性溶媒水溶液の水の含有量は澱粉に対して15〜30質量%含有していればよい。含有量が15質量%未満では加熱処理による効果があまり得られなくなり、また30質量%を超えた場合、加熱処理中に澱粉が糊化してしまうので好ましくない。。
【0013】
本発明で行う加熱温度は使用する澱粉の糊化開始温度以上100℃未満であればよい。例えばコーンスターチでは糊化開始温度が約70℃であるので、70℃以上で反応すればよい。使用する澱粉の糊化開始温度未満では熱膨潤型(ブレークダウンが少ない)澱粉にはならず、また100℃以上では加圧加熱処理を行う関係上、耐圧性の反応装置を使用しなければならず、構造が非常に複雑な機械を使用しなければならない。
【0014】
本発明の熱膨潤抑制型変性澱粉を製造する方法としては以下の方法で行うことが出来る。まず、澱粉に対して5〜20質量%の極性溶媒、15〜30質量%の水を含有する水溶液を調製し、澱粉に分散させる。この時、水溶液の分散量は澱粉に対して20〜50質量%であれば加熱処理時の澱粉の攪拌が比較的うまくいき、製造時の塊(いわゆるダマ)ができにくくなる。その後、ジャケット付の攪拌機やニーダーを用いて品温を糊化開始温度以上100℃未満まで加熱すればよい。このとき攪拌機などを密閉する必要はなく、還流管などを用いて反応系に戻せばよい。加熱処理は、極性溶媒の添加量に応じて、澱粉が熱抑制されるまで適宜温度、時間を調節すればよい。
その後、乾燥、精粉、篩別など通常の処理を行い、変性澱粉を得ることができる。
【0015】
以下、本発明を実施例にて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【実施例1】
【0016】
コーンスターチ100質量部(以下「部」という)に、表1に記載された量の極性溶媒および水25部を混合した水溶液を添加し、ジャケット付攪拌機で30分攪拌した。その後ジャケット温度を85℃まで加温し4時間加熱処理を行った。比較としてコーンスターチ100部に水30部を添加し、同様の処理を行った。得られた混合物を乾燥、精粉し、ブラベンダー社製ビスコグラフを用いて粘度測定を行い、ブレークダウンの比較を行った。なお未処理のコーンスターチも同様に測定した。
粘度測定条件は以下の通りである。
測定濃度:無水8%、全量450g 攪拌速度:75rpm カートリッジ感度:700cmg
温度条件:50℃開始 95℃まで昇温(1.5℃/分) 10分保持
なおブレークダウンは(ピーク粘度)−(95℃10分後粘度)で表し、熱膨潤の指標とした。つまり値が小さいほど熱膨潤抑制効果があると考えられる。結果を表1に示す。
【0017】
【表1】

【0018】
表1よりエタノールを澱粉に対して5〜20質量%含有する水溶液を分散させ、加熱して得られた変性澱粉は熱膨潤抑制効果があった。またエタノールを含まずに水だけを添加して処理したものは未処理の澱粉と同様にブレークダウンかなり大きかった。
【実施例2】
【0019】
コーンスターチ100部に、エタノール10部および水25部を混合した水溶液を添加し、表2記載の加熱温度以外は実施例1と同様の方法で加熱処理を行った。得られた混合物を精粉し、ブラベンダー社製ビスコグラフを用いて実施例1と同様の条件で粘度測定を行い、ブレークダウンの比較を行った。なお未処理の澱粉についても同様に測定した。結果を表2に示す。表中、ピークが存在しない時には「NIL」とした。
【0020】
【表2】

【0021】
表2より、糊化開始温度以上である70℃からブレークダウンの減少が始まっているが、75℃以上で熱膨潤抑制効果が顕著に出てくるのがわかった。また98℃では95℃10分後の粘度が濃度に対して低くなりすぎることがわかった。
【実施例3】
【0022】
表3記載の澱粉100部に、エタノール10部および水25部を混合した水溶液を添加し、実施例1と同様の方法で加熱処理を行った。得られた混合物を精粉し、ブラベンダー社製ビスコグラフを用いて、表3記載の濃度で実施例1と同様の条件で粘度測定を行い、ブレークダウンの比較を行った。なお未処理の澱粉についても同様に測定した。結果を表3に示す。
【0023】
【表3】

表中上段:未処理澱粉 下段:加熱処理後の澱粉
【0024】
表3より、ワキシコーンスターチを除く澱粉では熱膨潤抑制効果が出てくるのがわかった。ワキシコーンスターチを用いたものは未処理の澱粉に比べるとブレークダウンは小さくなるが、他の澱粉に比べると大きくなってしまう。
【実施例4】
【0025】
<耐酸性試験>
実施例1で作成したエタノール10部添加したものを用いて、無水8%懸濁液を調製し、各pHに調整後、85℃以上10分間加熱した。水分補正後、糊液を30℃まで冷却し、B型粘度計30rpmで粘度を測定した。比較として未処理のコーンスターチを同様の条件で粘度測定を行った。結果を表4に示す
【0026】
【表4】

【0027】
表4より、原料澱粉にはない低pHでの粘度安定性が付与されているのが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉に対して5〜20質量%の極性溶媒、15〜30質量%の水を含有す極性溶媒水溶液を澱粉に分散させ、これを使用する澱粉の糊化開始温度以上100℃未満で加熱して得られることを特徴とする熱膨潤抑制型変性澱粉の製造方法。
【請求項2】
該極性溶媒が、メタノール,エタノール,アセトンから選ばれる1種以上の溶媒であることを特徴とする請求項1記載の熱膨潤抑制型変性澱粉の製造方法。

【公開番号】特開2006−131772(P2006−131772A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−322882(P2004−322882)
【出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【出願人】(000227272)日澱化學株式会社 (23)
【Fターム(参考)】