説明

熱融着巻付糸から成るタフトカーペット及びその製造法

【課題】1種以上からなる無撚又は弱撚の糸条Aの外側を低融点の糸条Bで固着させ、抜け毛やへたりが少なく且つ適度のシャリ感と柔軟性(ふくらみ)を有する従来にみられない高付加価値なタフトカーペットを容易に得る。
【解決手段】1種以上からなる無撚又は150T/m以下の弱撚の糸条Aに融点が180℃以下の糸条Bを巻き付けてラップヤーンを得た後、糸条Bのみが融着する温度に加熱しパイル糸としてタフトするか、あるいは該ラップヤーンをタフトした後糸条Bのみが融着する温度で加熱する事により、抜け毛やへたりが少なく且つ適度のシャリ感と柔軟性(ふくらみ)を有し、且つタフトカーペットを容易に製造する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明は、1種以上から成る無撚又は150T/m以下の弱撚の糸条Aに、融点が180℃以下の糸条Bを巻き付けた後、糸条Bのみを融着させて糸条Aの外側を固着させる事により抜け毛やへたりが少なく且つ適度のシャリ感と柔軟性(ふくらみ)を有するタフトカーペットを得ようとするものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、糸条Aに糸条Bを巻き付けてラップヤーン(巻付糸)を得る技術や熱融着綿を混合して熱融着紡績糸を得る技術は公知であり、更に無撚のスライバーにモノフィラメント巻き付けた無撚結束紡績糸も本発明者らが既に特開平5−9859号や特開平7−252765号で開示している。
しかしこれらの従来技術で得られる糸条をカーペットのパイル糸に用いた場合は、抜け毛やへたりが多く、またそれを抑える為に強撚にしたり熱融着糸を多く混綿するとシャリ感が強くなりすぎてふくらみのない硬いものになると言う問題があった。
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、1種以上の無撚又は150T/m以下の有撚の糸条Aの外側を熱融着する糸条Bで固着させ、抜け毛やへたりを防止すると共に従来にみられない適度のシャリ感や柔軟性(ふくらみ)を有するタフトカーペットを容易に製造しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、適度のシャリ感とふくらみを保持する為に1種以上の無撚又は150T/m以下の弱撚の糸条Aを用い、それより融点の低い糸条Bを巻き付けた後加熱して該糸条Bのみを融着させて糸条Aの外部繊維を固着させる事により、従来カーペットにない抜け毛やへたりを抑制し且つ適度のシャリ感と柔軟性(ふくらみ)を有するタフトカーペットを得るに至ったものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
本発明に言う糸条Aとは、木綿、麻,羊毛,絹などで代表される天然繊維、あるいはレーヨン,たんぱく質系繊維,アセテートなどの再生又は半合成繊維さらにはポリエステル,ナイロン,アクリル,ビニロン,ポリオレフィン,ポリウレタン,ポリ塩化ビニールなどで代表される合成繊維から成る1種以上の短繊維又は長繊維を意味する。
本発明では、適度のシャリ感とふくらみを兼備させる為に、図1の如くポリエステル系短繊維を主体とする無撚のスライバーから成るラップヤーン又は紡績糸を用いるのが好ましく、特に環境に優しい再生ポリエステル系繊維が望ましい。
なお糸条Bは熱で溶融収縮するので、無撚のスライバーをラップする繊維は、糸条Bより高い融点を有し高温でもラップ形態を保持するものが好ましい。
【0006】
目的に応じて、天然繊維と合成繊維あるいは短繊維と長繊維、更にはデニール,繊維断面,色相の異なるものを組み合わせても良い。
また顔料,紫外線吸収剤,酸化防止剤あるいは抗菌剤,防ダニ剤,撥水剤,吸湿吸水剤,保温剤,吸発熱剤,花粉不活剤,難燃剤などの機能性を有する機能剤を練り込んだり付着させた繊維を用いても何ら支障ない。
【0007】
なお糸条Aは、適度のふくらみや柔軟性を保持する為に、撚りがない無撚糸か又は撚数150T/m以下の弱撚糸を用いる事が必要がある。
【0008】
一方、本発明の特徴であるタフトカーペットのパイル糸に毛抜け防止と適度のシャリ感と柔軟性(ふくらみ)を付与する為には、糸条Aにそれより融点の低い糸条Bが巻き付き、且つ糸条Bのみが熱で融着して該糸条Aの外側を固着させる必要がある。
【0009】
従って、糸条Bの融点は180℃以下好ましくは170℃、更に好ましくは150℃以下のポリマーから成り、且つタフトカーペットを使用する耐久温度の点で100℃以上の融点を有するものが良い。
これらの融点を示す糸条Bを構成するポリマーとしては、ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリ乳酸,エチレン共重合ポリビニルアルコール,ポリエチレングリコール共重合ポリエステル又はその他の変性ポリマーなどが考えられる。
また糸条Bは、前記ポリマーの単独繊維又は外側に配置した芯鞘繊維や海島繊維を用いても良く、モノフィラメントでもマルチフィラメントでも構わない。
【0010】
なお、本発明の特徴である毛抜け防止及び適度の柔軟性(ふくらみ)とシャリ感を有するパイル糸を得る為には、糸条Bの繊度(デニール)は糸条Aの繊度の1/2以下が好ましく、且つパイル糸の内部を構成する糸条Aは熱で融着せず、外部を構成する糸条Bは熱で融着している事が必須である。
また生産の品質管理の点から、糸条Aと糸条Bの融点差は30℃以上ある事が好ましい。
【0011】
糸条Aに糸条Bを巻き付ける1つの方法は、本発明者らが考案の精紡機トライスピナーを用いるラップ法があり、糸条Aの外側に糸条Bを20〜300T/m好ましくは50〜200T/md回転しながら巻き付ける。
また他の方法としては、糸条Aの供給速度に対し糸条Bの供給速度を大きくして撚糸機に投入するオーバーフィード法がるが、本発明では糸条Aの外側に糸条Bが巻き付いている状態のヤーンであればいずれの方法を用いても何ら問題はない。
【0012】
糸条Bを融着する場合、該ラップヤーンを予め加熱して糸条Aを固着セットしそれをパイル糸に用いてタフトするか、あるいは該ラップヤーンをタフトした後糸条Bが融着する温度で加熱する方法が考えられるが、糸条Bのみが融着しているパイルが得られるなら、いずれの方法でも構わない。
【0013】
これより、本発明により得られるパイル糸は、外側は熱融着した糸条Bで固着結束され且つ内部は熱融着していない無撚又は弱撚の糸条Aで構成されており、このパイル糸をタフトしたカーペットは、毛抜けが少なく適度のシャリ感と柔軟性(ふくらみ)を有するものになる。
【0014】
本発明では、該パイル糸を用いて基布にタフティングしループ又はカットしてカーペットを得るが、カットの場合は必要に応じて軽く毛割や起毛などで開繊しポリッシャーで毛先を伸ばす事により、毛根は固着により毛抜けやへたりが少なく、毛先は柔軟である従来にない高付加価値のカーペットになる。
【0015】
以下実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はその主旨を超えない限りこれらの例に何ら制約されるものではない。
【0016】
実施例1
回収PETボトルから得られたは白色フルダルの12dtex x 130mmバイアスカット扁平ポリエステル綿(融点260℃)とブラック3.3dtex x 110mmバイアスカ円形ポリエステル綿及びブラック6.6dtex x 130mmバイアスカット円形ポリエステル綿を紡績工程で混綿してスライバーにし、その上から精紡機トライスピナー使用のラップ法で33dtexのナイロンモノフィラメント(融点210℃)をS方向に150t/mで巻き付けて、6番手(1650dtex)の無撚ラップヤーンを得た。
次いで、該無撚ラップヤーンを再度トライスピナーに通し、44dtexのポリエチレンモノフィラメント(融点120℃)をZ方向に200T/m巻き付けてカーペットのパイル糸に用い、ポリプロピレンのテープヤーンから成る基布にタフティングした後、パイルの先をカットして立毛長40mmのタフト生機を作成した。
その後、該生機の裏側にラテックスを塗布してポリエステル不織布を貼り合わせ160℃で乾燥し、同時にラップヤーンのポリエチレンモノフィラメントを融着させた。
続いて、該立毛の先端に180℃のポリッシャーを軽くかけて毛先を伸ばし、0.5mmカットのシャーリングを施してカットパイルカーペットを製造した。
得られたカーペットの立毛部は、毛先が開繊されて柔らかく且つ毛根はポリエチレンが融着してシャリ感があり、毛抜けやへたりがほとんどなく、従来品に見られない高付加価値なカットパイルカーペットとなった。
【0017】
実施例2
回収PETボトルから得られた6.6dtex x 130mmバイアスカットの再生PET原着綿で、ホワイト,ベージュ,ブラウンの3種を紡績工程で混綿してスライバーにし、その上から55dtexの変性ポリプロピレンモノフィラメント(融点150℃)を100t/mで巻き付けて、5番手(1980dtex)の無撚ラップヤーンを得た。
このラップヤーンを2本合わせて50t/mの撚りをかけた後、160℃の乾熱で5分間熱処理を施して該変性ポリプロピレンの一部が融着している合撚糸を作成した。
次いで該合撚糸をポリプロピレン基布にタフティングして、立毛長35mmのカットパイルタフト生機を作った後、裏側にポリエステル不織布を貼り合わせて得られたカーペットの立毛部は、変性ポリプロピレンの一部が融着しており、適度の柔軟性とシャリ感を有し、且つ毛抜けやへたりがほとんどないシャギー調カーペットが得られた。
【0018】
実施例3
10番手150T/m S撚りの木綿糸と8番手150T/m S撚りのブルーPET紡績糸を引き揃えてリング撚糸機に供給する時に、33dtexのポリエチレンモノフィラメント(融点120℃)を10%オーバーフィードし、200T/m Z撚りをかけて巻き取った。
得られた合撚糸は、木綿糸とPET紡績糸のまわりにポリエチレンモノフィラがカバリングされたものであった。
このカバリング糸をパイル糸に用い、カット長20mmから成る10cm角の菱形にループ長8mmで1cm幅の縁取りがあるダイヤモンド柄のカーペット生機を作成した。
次いで、該生機にPET不織布を貼り合わせ160℃で乾燥し、同時にポリエチレンモノフィラメントを融着させた後、軽度のブラッシングと0.5mmのシャーリングを施してカットループカーペットを試作した。
得られたカーペットのカット立毛部は、毛先が開繊して柔らかく且つ毛根やループ部はシャリ感があって毛抜けやへたりがほとんどなく、従来にないカットループカーペットになった。
【0019】
実施例4
ホワイト,ブルー,ブラックの3種の再生ポリエステル原着綿を紡績工程で混綿してスライバーにし、その上から44dtexのナイロンモノフィラメント(融点210℃)を80T/mで巻き付けて、5番手の無撚ラップヤーンを得た。
次いで、該ラップヤーンと1600d/408fアイボリーの嵩高PETマルチフィラメントを引き揃えて再度精紡工程を通し、その上から33dtexのポリエチレンモノフィラメント(融点120℃)を150T/mで巻き付けて双糸のラップヤーンを作成した。その後、実施例1と同様の処理を施して、立毛長30mmのレベルカットカーペットを製造した。
得られたカーペットの立毛部をみると、毛先は紡績糸と嵩高フィラメントが混在して開繊されており、且つ毛根はポリエチレンモノフィラメントが融着して適度の柔軟性とシャリ感を有していた。
また毛抜けやへたりがほとんどなく、従来品にみられない高級な紡績糸と嵩高フィラメント混合の木調カットカーペットとなった。
【0020】
比較例1
実施例1において、ナイロンモノフィラメントのラップヤーンのみ(ポリエチレンモノフィラメントを使用せず)でタフトし、立毛長40mmのレベルカットカーペットを得たが、柔軟性はあるもののシャリ感が不足し、且つ毛抜けとへたりの多いものとなった。
【図面の簡単な説明】
【図1】は、本発明の1例として、無撚のスライバーから成るラップヤーンの糸条Aに低融点の糸条Bがラップされた状態(二重ラップヤーン)を示したものである。
【図2】は、図1の二重ラップヤーンで糸条Bが熱処理で溶融し、糸条Aの外側に固着したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種以上から成る無撚又は150T/m以下の弱撚の糸条Aに、融点が180℃以下の糸条Bが巻き付き、且つ該糸条Bのみが熱で融着したものでパイル糸が構成されている事を特徴とする熱融着巻付糸から成るタフトカーペット。
【請求項2】
請求項1において、糸条Aの1種が少なくともポリエステル系短繊維を主体とする無撚のスライバーから成るラップヤーン又は紡績糸である事を特徴とする熱融着巻付糸から成るタフトカーペット。
【請求項3】
1種以上から成る無撚又は150T/m以下の弱撚の糸条Aに、融点が180℃以下の糸条Bを巻き付けてラップヤーンを得た後、糸条Bのみが融着する温度に加熱して糸条Aの外側を固着セットしたものをタフトするか、あるいは該ラップヤーンをタフトした後糸条Bのみが融着する温度で加熱する事を特徴とする熱融着巻付糸から成るタフトカーペットの製造法。
【請求項4】
請求項3において、糸条Aの1種が少なくともポリエステル系短繊維を主体とする無撚のスライバーから成るラップヤーン又は紡績糸である事を特徴とする熱融着巻付糸から成るタフトカーペットの製造法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−189752(P2009−189752A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−60222(P2008−60222)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(000171399)根来産業株式会社 (9)
【Fターム(参考)】