説明

熱転写プリンタ

【課題】印刷媒体搬送方向の前後に余白のない縁なし印刷を行うにあたり、印刷媒体端部が搬送ローラの間への突入、および、間からの脱出時の衝撃、すなわち、速度変動を軽減し、印刷面へのスジを軽減するのに複雑な機構を用いず、コストを大幅に上げずに、印刷品位の劣化を防止する熱転写プリンタを提供する。
【解決手段】搬送ローラ14、15、16、17のうち、印刷媒体2を搬送するローラ表面の突起などのグリップ部以外にゴムなどの弾性体を用いる。これにより、印刷媒体2の端部が搬送ローラの間に突入、および、間からの脱出する際の衝撃を緩和し、印刷品位の劣化を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱転写プリンタに関し、特に、縁なし印刷(印刷媒体の搬送方向の前後に余白のない印刷)を行う際に生じるスジを軽減する熱転写プリンタおよび該熱転写プリンタに用いる搬送ローラ構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、デジタルカメラなどで撮影した画像を熱転写プリンタで印刷すると、印刷媒体の搬送方向の前後に余白部分があった。そこで、印刷媒体搬送方向前後の印刷された画像と余白の境界部にミシン目を設けて、ユーザが印刷後、前記ミシン目を折ることにより、縁をなくしていた。このような技術は例えば特許文献1に開示されている。
【0003】
しかし近年、熱転写プリンタでも、フィルムカメラの写真やインクジェット方式のプリンタと同様に余白のない縁なし印刷のできるものをユーザに提供して行こうとしている。
【0004】
そこで、従来の熱転写プリンタの機構をもとに、サーマルヘッド後方にサーマルヘッド前方と同様の印刷媒体搬送機構を設けることにより、縁なし印刷を実現しようとした。
【特許文献1】特開2001−180019号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、サーマルヘッドの前後に印刷媒体搬送機構を設けた方式で縁なし印刷をした場合、印刷媒体がサーマルヘッド前方の印刷媒体搬送機構の金属ローラに突入する際の衝撃により、印刷媒体の搬送速度が一瞬遅くなり、印刷ピッチが狭くなるために、色が濃くなるようなスジが生じてしまう。
また、サーマルヘッド後方の印刷媒体搬送機構の金属ローラから印刷媒体が脱出する際には、印刷負荷が減少することにより、印刷媒体の搬送速度が一瞬速くなり、印刷ピッチが広くなるため、色が薄くなるようなスジが生じる。
【0006】
したがって、本発明の主要な目的は、縁なし印刷を行う際に印刷媒体に生じるスジを軽減できる熱転写プリンタを提供することにある。
【0007】
また、本発明の他の目的は、熱転写プリンタで縁なし印刷を行う際に印刷媒体に生じるスジを軽減するように、熱転写プリンタで用いる搬送ローラ構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、第1に、縁なし印刷を行うためにサーマルヘッドの上流および下流にそれぞれ配置した一対の搬送ローラを備えた熱転写プリンタにおいて、少なくとも片方の一対の搬送ローラの内の少なくとも一方の搬送ローラはその表面に弾性体を設けていることを特徴とする。
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、第2に、前記構成に加えて、前記一対の搬送ローラの内の他方の搬送ローラは少なくとも部分的にその表面に突起が形成されていることを特徴とする。
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、第3に、縁なし印刷を行うための熱転写プリンタで用いられる搬送ローラ構造体において、搬送ローラ構造体は、サーマルヘッドの上流および下流にそれぞれ配置した一対の搬送ローラを有し、前記一対の搬送ローラは、表面に弾性体を設けられた第1搬送ローラと、印刷用紙を搬送するように前記第1搬送ローラに対向して配置され、表面に部分的に突起が設けられた第2搬送ローラと、から成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、印刷媒体がサーマルヘッド前方の印刷媒体搬送機構のローラに突入、および、サーマルヘッド後方の印刷媒体搬送機構のローラから脱出する際の衝撃を軽減することにより、印刷媒体前後のスジを軽減することができる。
また、本発明による搬送ローラは、従来の金属のものと直径は略同じであるので、装置の外形サイズを大型化せずに済む。
【0012】
さらに、複雑な機構を用いないため、コストを大幅に上げずに済む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の熱転写プリンタは、縁なし印刷を行うためにサーマルヘッドの上流および下流にそれぞれ配置した一対の搬送ローラを備えた熱転写プリンタであり、少なくとも一対の搬送ローラの内の少なくとも一方の搬送ローラはその表面に弾性体を設けているものである。
【実施例】
【0014】
図1は、本発明の熱転写プリンタから外装や熱転写プリンタを駆動するプリント基板などを取り去り、印刷媒体挿入側から見た斜視図である。図1において、1は本発明の熱転写プリンタ本体である。2は印刷媒体である印刷用紙である。適用される印刷用紙のサイズは、好ましくは、ポストカード、L判、カードの3種類である。3は印刷用紙2に着色するためのインクリボン13(図2参照)が収納されたインクリボンカセットである。インクリボン13は、イエロー、マゼンタ、シアンのリボンと、印刷用紙2に印刷した画像などの退色を防ぐための保護シートで構成されている。
【0015】
また、4は野外で使用するような場合に用いる熱転写プリンタ1に着脱可能なバッテリーである。5は熱転写プリンタ1をデジタルカメラやパソコンとケーブルで繋ぎ、画像などを印刷させるためのUSB端子である。6は家庭用電源からの電源供給部である。7は印刷用紙2の給紙や排紙といった印刷用紙搬送とインクリボンの巻取りを行う搬送・巻取りモータである。印刷用紙搬送やインクリボンの巻取りは、搬送・巻取りモータ7の駆動により、それにギア列が連動することによって行われる。また、8はインクリボンの巻取り、非巻取り、および、サーマルヘッド10の印刷、非印刷位置にするカムギア9を駆動するカムギアモータである。
【0016】
次に本発明における熱転写プリンタ1での印刷順序を主に図2を参照して述べる。
【0017】
給紙時には、熱転写プリンタ1に付属の用紙トレイ11に収められた印刷用紙2は、印刷用紙2の下方にある板(不図示)がカムギアモータ8(図1参照)の駆動に連動するカムギア9(図1参照)の動作により上げられ、この結果、印刷用紙2は給・排紙ローラ12に押し付けられた状態となり、その状態で給紙されることになる。給紙時以外は、前記不図示の板は、下に下がった位置にあり、印刷用紙2を押し上げていない。
【0018】
ここで、給紙動作を含む印刷動作を指示すると、用紙トレイ11に収納した印刷用紙2が上に上げられ、上がった状態で図2において右方向(説明の便宜上、上流方向という)に給紙される。これと並行して、インクリボンカセット3内のインクリボン13の先頭出しをするための巻取りを行う。
【0019】
図2において、右方向に搬送されている印刷用紙2は、印刷用紙2の左端がサーマルヘッド10の右側(上流)にある搬送ローラ14と15(詳細にいうと、上流の下側搬送ローラ14、上流の上側搬送ローラ15)の位置まで搬送される。搬送ローラ14と16(詳細にいうと、上流の下側搬送ローラ14、下流の下側搬送ローラ16)は図1に示す搬送・巻取りモータ7(駆動源)から、これに連結するギア列(駆動伝達手段)によって駆動力が伝達されて回転する。一方、搬送ローラ15と17(詳細にいうと、上流の上側搬送ローラ15、下流の上側搬送ローラ17)は、搬送ローラ14と16に従動し回転する。ここで、サーマルヘッド10が、カムギアモータ8の駆動に連動するカムギア9を印刷準備位置にすることにより、印刷準備位置で固定される。
【0020】
次に、印刷のために、印刷用紙2が、図面の左方向(説明の便宜上、下流方向という)に搬送され、所定の位置に達すると、サーマルヘッド10は、カムギアモータ8の駆動で、カムギアを印刷位置にすることにより、プラテン18に押し付けられた状態にされる。そして上流側から搬送されてくる印刷用紙2をサーマルヘッド10とプラテン18との間に挟んだ状態で、インクリボン13を介してプラテン18に押付けられた状態で搬送される。そして、印刷用紙2をさらに左方(下流方向)に搬送しながら、印刷用紙2へのイエロー、シアン、マゼンタの何れか一色の印刷が行われる。印刷用紙2の右端がサーマルヘッド10の下流にある搬送ローラ16、17の位置まで搬送されると、イエロー、シアン、マゼンタの何れか一色の印刷が終了する。その際に印刷用紙2の先端から後端までマージン無しの縁無し印刷がなされる。
【0021】
この後、その次の色を印刷するために、印刷用紙2の左端がサーマルヘッド10の右側(上流)にある搬送ローラ14と15の位置まで搬送され、再度下流方向に搬送されてサーマルヘッド10とプラテン18に挟持されながら搬送されて次の色の印刷が行われる。この動作が全ての色の印刷が完了するまで繰り返され、最後に印刷内容の退色防止のコーティングが行われると、給排紙ローラ12と給排紙ローラ12に従動する排紙ローラ19により、用紙トレイ11上に排紙される。
【0022】
印刷の過程で、印刷用紙2が搬送ローラにより搬送される際、印刷用紙2の先端が搬送ローラ16、または、搬送ローラ17に衝突してしまい、その衝撃により印刷用紙2の搬送速度が一瞬遅くなり、印刷間隔が狭くなるために印刷の色の濃いスジになってしまう。図3において、この色の濃いスジを符号20で概略的に示す。
【0023】
さらに、印刷用紙2が図面左方に搬送され、印刷用紙2の右端が搬送ローラ14、15の間から脱出する際、印刷用紙2の搬送速度が一瞬速くなる。その結果として、印刷間隔が広くなり、色の薄いスジになってしまう。図3において、この色の薄いスジを符号21で概略的に示す。
【0024】
このような縁なし印刷時の不具合を解決するために、印刷用紙2が搬送ローラ16、17の間に突入する際に、および、搬送ローラ14、15の間から脱出する際に、搬送ローラ14、16に対する従動の搬送ローラ15と17を上下させる機構が考えられるが、機構が複雑になり、外形サイズが大きくなるとともに、コストも増加してしまうという欠点がある。
【0025】
そこで、本発明は、従来の金属の搬送ローラの表面をゴムなどの弾性体にすることにより、印刷用紙2が搬送ローラ16、17の間への突入時の衝撃、および、搬送ローラ14、15の間からの脱出時の衝撃を緩和し、スジ20、21を軽減するものである。
【0026】
具体的には、搬送ローラ14、15、16、17の印刷用紙2の搬送に使われるローラ表面に形成されたグリップ(図3中のハッチング)部(すなわち、搬送ローラ外周面のうち、グリップのための複数の突起が所定の密度で形成された両端部に近い領域)以外をゴムなどの弾性体にする。
【0027】
すなわち、搬送ローラ16、または、17、或いは両方のグリップ(ハッチング)部以外にゴムなどの弾性体を用いることにより、スジ20を軽減させることができる。
【0028】
また、搬送ローラ14、または、15、或いは両方のグリップ(ハッチング)部以外にゴムなどの弾性体を用いることにより、スジ21を軽減することができる。
【0029】
そして、前記二者の搬送ローラを組み合わせることにより、スジ20、21の両方を軽減することができる。
【0030】
次に、図4、5を参照して、本発明の搬送ローラの構成をさらに詳細に説明する。図4は印刷用紙が給紙されていない状態での一対の上側搬送ローラおよび下側搬送ローラを示す斜視図であり、図5は印刷用紙が給紙されている状態での図4の線5−5に沿って切断した拡大断面図である。
【0031】
図4、図5において、下側搬送ローラ14、16は金属で製作されており、これらの表面の両端に近い領域には、グリップのための複数の突起14a、16aが所定の均一な密度で部分的に形成されている。突起は14a、16aは比較的に先端が鋭利に形成され、印刷用紙に先端が食い込むことによって搬送力を得ている。図4中、符号14b、16bで示す部分は突起が形成されていない領域である。この領域の部分も弾性体が固着されてもよい。また、上側搬送ローラ15、17は金属のコア部15a、17aと、このコア部に例えば焼き付け等で固着されたゴム等の弾性体15b、17bとから成る。
【0032】
本実施例では、金属の搬送ローラ15、17に、弾性体として1mmの厚さで硬度15度のゴムを焼き付けた搬送ローラを用いてスジ20、21の減少を確認した。なお、実施例の搬送ローラ等のその他のサイズは、下記のとおりである。
【0033】
下側搬送ローラ14、16の直径: φ6mm
下側搬送ローラ14、16の突起の高さ: 0.1mm
下側搬送ローラ14、16の突起の突刺さり量: 0.03〜0.04mm
上側搬送ローラ15、17の金属部(コア部)の直径: φ4mm
上側搬送ローラ15、17のゴム部の直径: φ6mm
印刷用紙の厚さ: 0.2mm
前記実施例よりさらにゴムの硬度を極力下げたり、ゴムの肉厚を多くすることにより、印刷用紙2が搬送ローラの間への突入時、搬送ローラの間からの脱出時の衝撃をさらに緩和し、印刷用紙2に生じるスジ20、21をより薄くできることが推測される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態である熱転写プリンタ全体の斜視図
【図2】本発明の一実施形態である熱転写プリンタの断面図
【図3】本発明の一実施形態である熱転写プリンタの従来の印刷状態を説明する斜視図
【図4】印刷用紙が給紙されていない状態での一対の上側搬送ローラおよび下側搬送ローラを示す斜視図
【図5】印刷用紙が給紙されている状態での図4の線5−5に沿って切断した拡大断面図
【図6】上側搬送ローラおよび下側搬送ローラの両方の回転中心を通る面で切断した要部断面図
【符号の説明】
【0035】
1 熱転写プリンタ本体
2 印刷用紙
3 インクリボンカセット
7 搬送・巻取りモータ
8 カムギアモータ
12 給排紙ローラ
13 インクリボン
14〜17 搬送ローラ
14a、16a 突起
15a、17a コア部
15b、17b 弾性体
18 プラテン
19 排紙ローラ
20、21 スジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷を行うためにサーマルヘッドの上流および下流にそれぞれ配置した一対の搬送ローラを備えた熱転写プリンタにおいて、少なくとも片方の一対の搬送ローラの内の少なくとも一方の搬送ローラはその外周表面が弾性体によって形成されていることを特徴とする熱転写プリンタ。
【請求項2】
前記一対の搬送ローラの内の他方の搬送ローラは少なくとも部分的にその表面に所定の密度で均一に複数の突起が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の熱転写プリンタ。
【請求項3】
前記突起は前記他方の搬送ローラの両端に近い領域に形成されている請求項2に記載の熱転写プリンタ。
【請求項4】
前記突起が形成されている前記他方の搬送ローラは駆動源からの駆動を受けて回転する請求項2または請求項3に記載の熱転写プリンタ。
【請求項5】
縁なし印刷を行うための熱転写プリンタで用いられる搬送ローラ構造体において、搬送ローラ構造体は、サーマルヘッドの上流および下流にそれぞれ配置した一対の搬送ローラを有し、前記一対の搬送ローラは、
表面に弾性体を設けられた第1搬送ローラと、
印刷用紙を搬送するように前記第1搬送ローラに対向して配置され、表面に部分的に突起が設けられた第2搬送ローラと、
から成ることを特徴とする搬送ローラ構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−175793(P2006−175793A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−373192(P2004−373192)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】