説明

熱転写媒体

【課題】印字速度の向上を図ることができ、かつ所望の耐熱性や擦過性も保持している熱転写媒体を提供する。
【解決手段】基材上に、少なくとも剥離層、アンカー層、金属層及び接着層がこの順で設けられている熱転写媒体において、アンカー層として、ポリイソシアネートと一液性熱硬化型アクリル樹脂とを50:50〜80:20の配合割合(質量比)で含有するアンカー層を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱転写媒体に関し、詳しくは高輝度の金属光沢を有する文字や画像を印字するための熱転写媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、サーマルヘッド等を用いて印字して金属光沢を有する文字や画像を得るための感熱転写媒体としては、ベースフィルムの片面に、熱溶融性のワックス若しくは樹脂にアルミニウム等の金属粉末を分散させた転写層を設けたものがあった。しかし、このような感熱転写媒体で印字を行うと、転写層に金属粉末を使用しているので印字された表面は滑らかにならず光を乱反射するため、いわゆる擬似金属光沢しか得られなかった。
【0003】
そこで、この改良を目的として、基材の一方の面に、転写層として、熱溶融性の剥離層、蒸着アンカー層、金属蒸着層及び熱溶融性の接着層が順次設けられていることを特徴とする金属光沢熱転写記録媒体が提案されている(例えば特許文献1)。しかし、このような構成であると、通常、印字される転写層は耐熱性が悪く、130℃〜140℃/ドットと一般的に言われているサーマルヘッドの温度で、転写層に熱ひずみが生じるため金属光沢が低下し、高輝度の金属光沢は得られていない。
【0004】
このような問題を解決するため、基材の一方の面に離型層、アンカー層、金属層、ホットメルト型接着剤層を順次設けた熱転写媒体において、アンカー層の樹脂に熱硬化性樹脂を50〜95重量%含み残部が熱可塑性樹脂からなる樹脂を使用した熱転写媒体が提案されている(例えば特許文献2)。
【0005】
しかし、上記のような方法では、熱硬化性樹脂として二液硬化型のアクリル樹脂を使用し、残部が熱可塑性樹脂からなる樹脂を使用することから、以下のような問題がある。
【0006】
(1)二液硬化型のアクリル樹脂を所定量配合した場合、耐熱性が高くなり過ぎ、印字の際サーマルヘッドからの熱が過度に必要となるため、高速で印字した場合印字が欠けることとなり速度を上げることができない。
【0007】
(2)印字速度を上げるために熱可塑性樹脂の配合量を増加させたとしても、熱可塑性樹脂部分の耐熱性が低すぎ、速度を上げて印字した場合、印字の欠けは防ぐことができるが尾引き(印字流れ)やつぶれの原因となる。
【特許文献1】特開昭63−30288号公報
【特許文献2】特許第3066485号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、印字速度の向上を図ることができ、かつ所望の耐熱性や擦過性を保持している熱転写媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成すべく、本発明は、基材上に、少なくとも剥離層、アンカー層、金属層及び接着層がこの順で設けられている熱転写媒体であって、前記アンカー層が、ポリイソシアネートと一液性熱硬化型アクリル樹脂とを50:50〜80:20の配合割合(質量比)で含有すること、を特徴とする熱転写媒体を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アンカー層を、所定の割合でポリイソシアネートと一液性熱硬化型アクリル樹脂とを含有するインク組成物から形成することにより、耐熱性を有し、高速印字を行っても印字欠け、印字流れ及び印字つぶれが発生しない熱転写媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の熱転写媒体をより詳細に説明する。本発明者は、耐熱性を有し、高速印字を行っても印字欠け、印字流れ及び印字つぶれが発生しない熱転写媒体を開発するため、熱転写媒体の層構成について検討するとともに、アンカー層を構成するインク組成物の材料について検討を重ねてきた。その結果、ポリイソシアネートと一液性熱硬化型アクリル樹脂とを一定の割合で含有するインク組成物を用いてアンカー層を形成すると、所望の効果が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明の熱転写媒体に使用する基材は従来の熱転写媒体用として用いられている基材であればよく、具体的にはポリエステルフィルム等が挙げられる。基材の厚さは2.5μm〜9μm程度のものが好ましい。基材の厚さが2.5μm以上であれば製造時にしわやフィルム切れなどが起こりにくく、9μm以下であれば印字の際の熱の伝わりを確保でき良好な印字精度が得られる。
【0013】
また、熱転写媒体用として市販されている基材としてのポリエステルフィルムには、通常、金属層を設ける側の反対面にスティッキングを防止するための耐熱保護層が設けられている。本発明においても、できればこのような耐熱保護層が設けられているフィルムを基材として利用することが好ましい。もちろん、上記した耐熱保護層が設けられていない基材を用い、別途耐熱保護層を設けてもよいことは言うまでもない。
【0014】
基材に設けられる剥離層は、アンカー層の耐熱性と金属層の鮮明な印字を保持するため、薄膜である必要がある。剥離層の厚さは0.001〜0.5μmが好ましい。剥離層の厚さが0.001μm以上であれば、印字時に金属層が確実に剥がれる。剥離層の厚さが0.5μm以下であれば、印字の際に熱溶融が広範囲で起こることがなく、印字した文字や画像のドット精度を確保することができ、また、アンカー層へ熱溶融成分がしみ込みにくく、アンカー層の耐熱性の劣化が起こりにくい。剥離層はグラビアコート法により設けることができる。剥離層の厚さは、インクの固形分を調整することにより制御できる。
【0015】
剥離層は、例えばパラフィンワックス、モンタンワックス、カルナバワックス、ポリエチレンワックス及びアマイドワックス等のワックス類、並びにシリコーン樹脂及びアクリル樹脂等の樹脂剥離剤等を、それぞれ単独で又は任意に混合して使用することができる。
【0016】
剥離層上に設けるアンカー層は、印字を行うサーマルヘッドの温度に耐えるだけの耐熱性を必要とし、熱で歪まず、金属層の平面性を保持する役割を持つものである。また、アンカー層が必要以上の耐熱性を保持すると、金属層や接着層への熱伝達を阻害して印字品位の低下を招くため、アンカー層はかかる印字品位の低下を招かない程度の熱伝達性を有することが必要である。そのため、本発明におけるアンカー層にはポリイソシアネート及び一液性熱硬化型アクリル樹脂とを含有させる必要がある。
【0017】
このように、アンカー層がポリイソシアネート及び一液性熱硬化型アクリル樹脂を含有すれば、前記ポリイソシアネートによって所望の耐熱性を確保することができ、前記ポリイソシアネートに対して所定量の一液性熱硬化型アクリル樹脂を配合することによって耐熱性の低下を最小限に抑えつつ高速印字時の熱応答性を向上させることができる。
【0018】
ここで、ポリイソシアネートとしては、特に限定はなく、本発明の分野及びその他の分野で用いられているポリイソシアネートであればよい。このようなポリイソシアネートとしては、例えば、大日精化工業(株)製のクロスネート(商品名)及び大日本インキ化学工業(株)製のバーノック(商品名)等の市販品を挙げることができる。
【0019】
また、一液性熱硬化型アクリル樹脂としては、特に限定はなく、通常の一液性熱硬化型アクリル樹脂を用いることができる。このような一液性熱硬化型アクリル樹脂としては、例えば、(株)岐阜セラツク製造所製のUNO−1(商品名)及び綜研化学(株)製の一液硬化型サーモラック(商品名)等の市販品を挙げることができる。
【0020】
本発明におけるポリイソシアネートと一液性熱硬化型アクリル樹脂との配合割合(質量比)は50:50〜80:20であることが好ましい。すなわち、一液性熱硬化型アクリル樹脂とポリイソシアネートとの配合割合が略同一か、上記範囲で一液性熱硬化型アクリル樹脂に比べてポリイソシアネートの配合割合が多い。一液性熱硬化型アクリル樹脂がポリイソシアネートの1/2以下であれば、耐熱性を確保することができ、印字品位の低下を招きにくい。また、一液性熱硬化型アクリル樹脂がポリイソシアネートの1/4以上であれば、高速印字時の熱応答性が低下しにくい。
【0021】
アンカー層の厚さは、0.5μm〜1.5μmの範囲が好ましい。0.5μm以上であれば、耐熱不良が生じるおそれがなく、1.5μm以下であれば、割れの問題が発生しにくい。なお、アンカー層には、耐熱性に悪影響を与えない範囲で、必要に応じて染料又は顔料等を混入して、ゴールド、レッド又はブルー等、好みの色に着色してもよい。アンカー層は、例えばグラビアコート法等により設けることができる。
【0022】
アンカー層上には金属層を設ける。金属としては、例えばAl(アルミニウム)、Sn(スズ)、Cr(クロム)、Cu(銅)又はAu(金)等が挙げられる。かかる金属層は、例えば真空蒸着、イオンプレーティング又はスパッタリング等の常法に従って、100〜800Å程度の厚さで設ける。
【0023】
金属層上には、例えばアクリル系樹脂、ビニル系樹脂、ウレタン系樹脂又はワックス類等をそれぞれ単独で又は任意に混合して、印字される被受像体の種類に応じて、接着層を設ける。被受像体の表面状態や材質にもよるが、接着層が薄すぎると、印字した文字や画像の良好な密着が得られず、接着層が厚すぎると、サーマルヘッドの熱による接着成分の移動が起こり、金属層の平面性が悪くなって金属光沢が落ちたり、印字精度が悪くなったりする。接着層は、被受像体との接着を保持できる限り、薄いほうが金属層の平面性をより確実に保つことができより高輝度の金属光沢を有する文字や画像が得られる。接着層の厚さは、被受像体の種類及び表面状態等に応じて適宜選択されるが、通常は0.1〜5μmの範囲が好ましい。
【0024】
また、接着層には、熱転写媒体の巻き取り時のしわ防止、ロール状での保管時による熱転写媒体の貼り付き防止、及び接着面を荒らすことにより被受像体との密着力向上等の目的のために、微粉末のスリップ剤を添加することが望ましい。微粉末のスリップ剤としては、例えばシリカ及びタルク等の無機材料の粉末や樹脂ビーズ等の有機フィラー等が挙げられる。スリップ剤は接着層中に2〜30質量%含ませるのが望ましい。スリップ剤の添加量が2質量%以上であれば、熱転写媒体のすべりが良く加工や保管が容易となり、30質量%以下であれば、接着に関与する成分が少なくなり過ぎず接着力を確保することができる。接着層は、例えばリバースコート法等により設けることができる。
【0025】
このようにして基材上に各層を順次設けた転写層(剥離層、アンカー層、金属層及び接着層)全体の厚さは、基材の厚さ以下であることが好ましい。転写層の厚さが基材の厚さを超えると、印字時の熱伝達の程度と時間のバランスが良好に保ちにくくなって、印字精度や金属光沢の低下が起こる。
【実施例】
【0026】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例及び比較例中、「部」とあるのは、特に断りがない限り質量基準である。また、溶剤以外の成分の量は全て固形分換算である。
【0027】
《実施例1》
基材である厚さ5.6μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱化学ポリエステルフィルム(株)製)の一方の面に、下記組成(I)の塗布液を塗布量が0.3g/m2となるようにグラビアコーターを用いて塗布し、乾燥させて耐熱保護層を形成した。
組成(I):
シリコーン樹脂 10部
トルエン 45部
メチルエチルケトン(MEK) 45部
【0028】
上記ポリエチレンテレフタレートフィルムの他方の面に、下記組成(II)の塗布液を塗布量が0.5g/m2となるようにグラビアコーターを用いて塗布し、乾燥させて剥離層を形成した。
組成(II):
ポリエチレンワックス 9部
エチレン−酢酸ビニル共重合体 1部
トルエン 10部
【0029】
この剥離層上に、下記組成(III)の塗布液(インク組成物)を塗布量が1.0g/m2となるようにグラビアコーターを用いて塗布し、乾燥後、130℃×30分の条件で硬化させてアンカー層を形成した。
組成(III):
ポリイソシアネート 7部
(大日精化工業(株)製のクロスネートD−70(商品名))
一液性熱硬化型アクリル樹脂 3部
((株)岐阜セラツク製造所製のUNO−1(商品名))
MEK 30部
【0030】
さらに、上記アンカー層上に、Alを真空蒸着法によって蒸着し、厚さ400Åの金属層を設けた。
【0031】
最後に、該金属層上に、下記組成(IV)の塗料をリバースコート法によりコーティングし、乾燥炉で熱風乾燥することにより、塗布量が約0.5g/m2のホットメルト型の接着層を設け、本発明の熱転写媒体を得た。
組成(IV):
ビニル系樹脂(米国ユニオンカーバイト社製のVMCH(商品名)) 10部
アクリル系樹脂(米国ローム&ハース社製のパラロイドB−44(商品名))10部
シリカ粉末(日本エアロジル(株)製のアエロジル200(商品名)) 2部
トルエン 78部
【0032】
《実施例2〜4》
実施例1においてアンカー層を構成するポリイソシアネートと一液性熱硬化型アクリル樹脂との配合割合を表1に示す値とした以外は、実施例1と同様にして本発明の熱転写媒体を得た。
【0033】
《比較例1及び2》
実施例1においてアンカー層を構成するポリイソシアネートと一液性熱硬化型アクリル樹脂との配合割合を表1に示す値とした以外は、実施例1と同様にして比較用の熱転写媒体を得た。
【0034】
【表1】

【0035】
《比較例3》
アンカー層を構成する塗料として以下の組成を有する塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして比較用の熱転写媒体を得た。
二液性熱硬化アクリル樹脂 60部
(大日本インキ化学工業(株)製のアクリディックA−810(商品名))
ポリイソシアネート(硬化剤) 3部
(大日本インキ化学工業(株)製のバーノックD−800(商品名)) ニトロセルロース 11部
MEK 360部
【0036】
[評価試験]
実施例1〜4で得られた本発明の熱転写媒体及び比較例1〜3で得られた比較用熱転写媒体に対して、ポリプロピレン包装材を5m/min、25m/minの各速度でコンベア上を移動させながら、熱転写プリンター(EDM社製のSmartDate−3c(製品名))を用いて印字を行い、ポリプロピレン包装材上に印字パターンを形成し印字サンプルを得た。得られた印字サンプルを、印字品位、擦過性及び金属光沢の観点から、次の方法で評価した。
【0037】
(1)印字品位
得られた印字サンプルを目視で印字欠け、印字流れ、印字つぶれの有無を確認することで評価した。評価基準を以下のとおりとした。評価結果を表2に示す。
○:印字欠け、印字流れ、印字つぶれが確認されなかった。
△:実用上問題はないが多少の印字欠け、印字流れ、印字つぶれが確認された。
×:ひどい印字欠け、印字流れ、印字つぶれが確認された。
【0038】
(2)擦過性
JIS L 0823に準拠した擦過試験機((株)安田精機製作所製の電動式ロックメータNo.416−TMI)の摩擦子の先端に貼り付けた直径10.9mmのスチールボールを印字面表面と接触させ、荷重レバーの端子荷重88.2kPaで該表面上を往復摺動させた。スチールボールの30回往復中の印字状態の変化を目視で観察した。以下の評価基準で評価した。その評価結果を表2に示す。
◎:印字に全く問題がなかった。
○:印字に問題はないがかすかに擦過された跡があった。
△:印字は判読可能であるが擦過により削り取られ薄くなっていた。
×:印字の判読不能。
【0039】
(3)金属光沢
印字表面を目視により観察し、以下の評価基準で評価した。その結果を表2に示す。
◎:美麗な金属光沢
○:少々曇るが金属光沢に問題なし
△:金属光沢に曇りあり
×:つや消し状の金属光沢
【0040】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係る熱転写媒体は、高輝度の金属光沢を有する文字や画像を印字するために好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、少なくとも剥離層、アンカー層、金属層及び接着層がこの順で設けられている熱転写媒体であって、
前記アンカー層が、ポリイソシアネートと一液性熱硬化型アクリル樹脂とを50:50〜80:20の配合割合(質量比)で含有すること、を特徴とする熱転写媒体。

【公開番号】特開2009−72989(P2009−72989A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−243137(P2007−243137)
【出願日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【出願人】(505091905)ゼネラルテクノロジー株式会社 (117)
【Fターム(参考)】