説明

熱転写用積層体およびこれを用いた磁気記録媒体の製造方法

【課題】 保護層の良好な剥離性、耐擦傷性を有しつつ、熱圧プレス工程を経た磁気記録媒体の製造時に、保護層から金属製プレス板表面に移行する成分を減らし、磁気記録媒体の表面を汚す事のない熱転写用積層体。
【解決手段】 転写用支持体上に、少なくとも保護層、磁気記録層および接着剤層を備えた熱転写用積層体において、前記保護層がポリエチレン及びPTFEを有する混合物からなるワックス粒子を含有することを特徴とする熱転写用積層体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気カード等の磁気記録媒体の製造に用いられる熱転写用積層体およびそれを用いて製造された磁気記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱転写用積層体の保護層に求められる主な機能としては、磁気記録媒体の基体に熱転写する際に転写用支持体から容易に剥離する易剥離性と、磁気記録媒体の最表層となった後に磁気層の保護層となりうる耐擦傷性がある。これらの機能を満たすために、保護層には剥離性と層間密着性を兼ね備えたバインダー樹脂が使用されて易剥離性が確保され、耐擦傷性を向上させるためにはワックス等の添加剤が使用されている。保護層用バインダー樹脂としては、アクリル系樹脂、ブチラール系樹脂、セルロース系樹脂(例えば、特許文献1)などが知られており、耐擦傷性を向上させるための添加剤としては、脂肪酸およびその塩、各種ワックス類(例えば、特許文献2)、フッ素樹脂粒子(例えば、特許文献3)などが知られている。
【0003】
磁気記録媒体の製造工程は、通常、基体に転写用支持体上の磁気記録層を含む積層体を熱転写した後、転写用支持体を剥離し、保護層を最上層として基体上に転写された磁気記録層を含む積層体に対して、鏡面調に研磨した金属板を用いて熱圧プレス加工が行われる。特に、紙あるいはプレスチック製基体の一部分に、上記加工方法によって磁気テープを配した磁気カードと呼ばれる磁気記録媒体が多く製造され、世界中で広く使用されている。
従来、耐擦傷性を向上させるためのワックスとして好適に使用されているポリエチレンワックスは、ポリエチレン自身の優れた耐摩耗性と、熱圧プレス時の熱によって溶融する低融点ワックス成分の滑性によって、磁気カード等の磁気記録媒体の保護層上の滑剤として機能し、磁気記録・再生のための磁気ヘッドによる保護層の摩耗を減少させ、磁気記録媒体として実用上好ましい耐久性を付与してきた。
【0004】
しかしながら、磁気記録媒体の製造工程において鏡面調に研磨した金属板を用いて熱圧プレス加工が行われる際、従来の保護層は添加しているポリエチレンワックスの成分の一部が金属板表面に移行して、これを汚染してしまうという問題があった。
また従来より耐擦傷性を向上させる添加剤として知られているフッ素樹脂粒子のうち、ポリテトラフルオロエチレン粒子(以後、PTFE粒子と略す)を滑剤として添加した場合は、それ自身の融点が高いために熱圧プレス時に鏡面調金属プレス板には移行せず、良好な滑性付与効果が得られる。しかしながら、バインダー樹脂との密着性に劣り、PTFE粒子が磁気カード製造時や、磁気記録再生等の通常の取り扱い時にバインダー樹脂から脱粒してしまい、結果として磁気記録媒体として実用上好ましい耐久性を得ることが困難であった。
上述した金属板へのポリエチレンワックス成分の移行を減らすには、添加するポリエチレンワックス量を減らす、或いは移行性の低いポリエチレンワックスを使用する事が有効であるが、何れの場合も保護層の表面滑性が低下し、磁気記録媒体として実用上好ましい耐久性を得ることが困難であった。
【0005】
このように、上記磁気記録媒体の製造工程において鏡面調に研磨した金属板を用いて熱圧プレス加工が行われる際、滑剤であるワックス成分の金属板への移行を抑えようとすると、磁気記録媒体としての耐久性を得ることが困難となる。また反対に磁気記録媒体の磁気ヘッドに対する耐擦傷性を向上させようとすると、そのための添加剤、主に滑剤であるワックス成分がプレス装置の金属板表面に移行してしまうという問題があった。特に、連続して熱圧プレス加工を行った場合に移行成分が堆積し、その堆積物が磁気記録媒体上に転移したり、跡をつけたりして、磁気記録媒体上に形成された絵柄の汚染、変形等の不具合を起こしていた。そのため、定期的に金属板表面を清掃する必要があり、製造効率を低下させる要因となっていた。
【特許文献1】特開平7−65356(3頁)
【特許文献2】特開平2001−236637(4頁)
【特許文献3】特開平2001−351074(3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、保護層を有した磁気記録媒体製造用の熱転写用積層体に関し、保護層の良好な剥離性、耐擦傷性、磁気記録層との接着性を維持しつつ、磁気記録媒体製造時の熱圧プレス工程における、該保護層から鏡面調の金属製プレス板表面への滑剤の移行を抑制して、製造工程において磁気記録媒体表面を汚染、変形させることがなく、かつ優れた製造効率を実現することのできる熱転写用積層体、及び該熱転写用積層体を用いた磁気記録媒体の製造方法を提供する事である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するために本発明者らは、熱転写用積層体の保護層改良を目的として保護層の添加剤に関して鋭意検討した結果、添加剤として使用するワックス粒子の種類、粒子径等を規定することにより、製造される磁気記録層の良好な記録再生特性を維持しつつ、保護層の良好な剥離性、耐擦傷性を実現し、製造時に熱圧プレス用の鏡面調金属板の表面にワックス等の添加剤が付着することのない熱転写用積層体を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、 転写用支持体上に、少なくとも保護層、磁気記録層および接着剤層を備えた熱転写用積層体において、前記保護層がポリエチレン及びPTFEを有する混合物からなるワックス粒子を含有することを特徴とする熱転写用積層体を提供する。
さらに本発明は、熱転写用積層体を用いて非磁性支持体上に、転写工程によって磁気記録層及び保護層、及び接着剤層を積層してなる磁気記録媒体であって、前記熱転写用積層体は、前記保護層にポリエチレン及びPTFEを有する混合物からなるワックス粒子を含有することを特徴とする磁気記録媒体を提供する。
さらにまた本発明は、非磁性支持体上に磁気記録層及び保護層を積層してなる磁気記録媒体の製造方法であって、転写用支持体上に保護層、磁気記録層及び接着剤層を有する熱転写用積層体を用いて、非磁性支持体上に前記接着剤層、前記磁気記録層、及び前記保護層を有する積層体を転写する転写工程と、前記積層体の前記保護層上より熱圧プレスを行う熱圧工程を有し、かつ前記熱転写用積層体の保護層はポリエチレン及びPTFEを有する混合物からなるワックス粒子を含有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【0009】
本発明の熱転写用積層体は、保護層中にポリエチレン及びPTFEを有する混合物からなるワックス粒子を含有するため、該熱転写用積層体を用いて転写工程で作製された磁気記録媒体の保護層は、良好な耐擦傷性を有すると共に、保護層中のPTFEの存在が、磁気記録媒体の製造工程の熱圧着時における金属プレス板へのポリエチレンワックスの移行を抑制する。このため作製された磁気記録媒体の表面には、金属プレス板に一度付着したポリエチレンワックスの再移行による汚れや変形が生じ難く、磁気記録媒体表面に形成された文字や図柄による意匠を損なうことがない。
また本発明の磁気記録媒体の製造方法によれば、保護層にポリエチレン及びPTFEを有する混合物からなるワックス粒子を含有した熱転写用積層体を用いるので、磁気記録層及び保護層を転写工程で基体に転写後、保護層の上から熱圧プレス加工したときに、金属プレス板へのワックスの移行が抑えられるため、金属プレス板を清掃する頻度が大幅に減少する、このため製造効率が著しく向上する。
【0010】
本発明の熱転写用積層体が上述した効果を発現させる理由としては、以下の事が考えられる。
磁気記録媒体の耐久性は、熱転写用積層体の保護層の耐摩耗性に依存しており、保護層の耐摩耗性は主にバインダー樹脂に分散された滑剤の特性に左右されている。
滑性に優れたポリエチレンワックス粒子を保護層中に分散して製造された従来の熱転写用積層体は、ポリエチレン粒子自身の柔軟性、耐摩耗性およびバインダー樹脂との良好な密着性とワックス効果による滑性によって、磁気記録・再生時の磁気ヘッドによる擦過の影響を緩和している。
しかしながら、磁気記録媒体に必要な耐久性をポリエチレンワックス粒子のみで実現しようとした場合、磁気記録媒体の熱圧プレス加工で軟化(または溶融)したポリエチレンワックスの一部が鏡面調に研磨した金属板表面に移行して、これを汚染してしまう。この移行する滑剤成分は、ポリエチレンワックスの低分子量(あるいは低融点)成分であって滑性向上効果を発揮していると考えられる。それ故、例えばこの低分子量成分を大幅に低減させるか、あるいはこれに換えて金属板表面に移行しにくい、中〜高分子量ポリエチレン粒子を保護層中に添加することで移行性の改善が図れる。しかしながら、ワックスの低分子量成分が大幅に減少した事によって滑性が弱くなってしまい、保護層表面の擦過傷が付きやすくなると共に、ポリエチレン粒子が塗膜から脱粒しやすくなって熱転写用積層体の保護層の耐摩耗性が低下し、磁気記録媒体の耐久性が不足してしまう。ポリエチレン粒子が脱粒しやすくなる原因は、滑性向上効果の高い低分子量成分減少による塗膜滑性の低下によって、磁気記録媒体の保護層と磁気ヘッドとの摩擦が強くなると共に、ポリエチレン粒子の高分子量化によって粒子硬度も上がり、磁気ヘッド応力を逃がす作用(粒子の弾性による作用)が弱くなるためと考えられる。
【0011】
同様に、シリカ粒子等の移行性の成分がない滑剤を保護層中に分散させた場合でも、付与される滑性が不足し熱転写用積層体の保護層の耐摩耗性が著しく低下してしまう。
一方、滑性が高くてかつ移行性の成分がない滑剤と考えられるPTFE粒子を保護層中に分散させた場合は、未添加の場合に比べて熱転写用積層体の保護層の耐摩耗性は向上する傾向にあり、しかも金属板表面への移行は発生しない。しかしながら、PTFE粒子はバインダー樹脂との密着性に乏しく、磁気ヘッドによる擦過によって容易に塗膜中から脱粒してしまい、十分な耐摩耗性を得ることができない。
また一方、磁気ヘッドは所定の力で加圧しながら保護層表面を擦るために、保護層中のワックス粒子自身にも適度な堅さ(柔軟性)が脱粒防止と、磁気ヘッド表面を傷つけないためにも必要であり、この点においては、従来用いられてきたポリエチレン粒子は好適な材料と考えられる。
【0012】
以上の事から、熱転写用積層体の保護層の耐摩耗性は、保護層中に分散されているワックス等粒子自身の柔軟性、耐摩耗性およびバインダー樹脂との良好な密着性とワックス効果による滑性が、磁気ヘッドによる擦過力とのバランスの上に成り立っていると推定され、その中で熱転写用積層体の保護層の耐摩耗性は、熱圧プレス用鏡面板へのワックス成分の移行のし易さとトレードオフの関係になっていると考えられる。すなわち、保護層に必要な滑性を有したポリエチレンワックスは、ワックス移行性が大きくなり、ワックス移行性を小さくすると十分な保護層の耐摩耗性が得られない関係になっている。
【0013】
相反する特性を両立させるために発明者らは、ワックス粒子自身の柔軟性、耐摩耗性およびバインダー樹脂との良好な密着性に適したポリエチレン樹脂成分は、主要構成要素として必要と考え、ポリエチレンワックスにPTFEを粒子製造段階で混合し、該混合物を微粒子化したワックス粒子を保護層中に分散させる構成を考案した。ポリエチレンワックスとしては、表面硬度が高くなり過ぎて脱粒が発生し易くならない程度に低分子量成分が低減され、予め移行性の成分が少なくなっている事が好ましい。
すなわち、ワックス移行性を小さくした事で不足する保護層の滑性は、移行性のないPTFE成分による滑性で補う設計とした。PTFE成分については、PTFEより柔軟性の高いポリエチレンワックスを介在させることでバインダー樹脂からの脱粒を防止している。さらに非真球状の複数の不定形粒子としてポリエチレンワックス粒子内に少なくともその一部が埋設された形状とする事で、バインダー樹脂との密着性をより一層高め、塗膜からの脱粒を一層効果的に抑えている。さらに、ワックス粒子表面にPTFE粒子の一部が露出する事でワックス粒子による滑性を損なわずに移行性を一段と抑える効果も付加していると考えられる。このように、ポリエチレン及びPTFEを有する混合物からなるワックス粒子を用いて、双方の特性を補い合うことで、耐摩耗性と滑剤の移行抑制の両特性を、同時に満たすよう調整することが可能となる。
【0014】
一方、移行性の小さいポリエチレンワックス粒子とPTFE粒子を保護層中に個々に分散させた設計とした場合には、PTFE粒子は必ずしもポリエチレンワックスに介在されて保護層中に分散されるわけではない。このため上述したようにPTFE粒子はバインダー樹脂との密着性に乏しく、磁気ヘッドによる擦過によって容易に塗膜中から脱粒してしまい、十分な耐摩耗性を得ることができない。
【発明の効果】
【0015】
本発明の熱転写用積層体は、形成される保護層が転写工程における良好な剥離性、磁気記録層との良好な接着性を維持しつつ優れた耐擦傷性を実現し、かつ保護層上から熱圧プレスをかけてカード状磁気記録媒体を製造するときに、金属プレス板にワックス等の滑剤が移行することがない。したがって、製造された磁気記録媒体の表面に金属プレス板を介してワックス等の滑剤による汚れや変形が発生することがない。また、このために金属プレス板の清掃を行う頻度を大幅に低下させることが出来るので、製造効率が著しく向上する。さらにこれら保護層は形成された磁気記録媒体の記録再生特性を低下させることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の熱転写用積層体で、ポリエチレンワックスの低分子量成分である金属プレス板への移行成分を減らし、そのために低下した表面滑性をPTFE粒子で効果的に補うためには、ポリエチレン粒子とPTFE粒子を機械的に混合撹拌して、ポリエチレン及びPTFEを有する混合物からなるワックス粒子を作製することも可能であるが、該ワックス粒子の製造過程で予めポリエチレンと、PTFEとを含んで製造された混合物を作製し、該混合物から公知の粒子製造工程を経てワックス粒子を作製し、使用する事が好ましい。
【0017】
本発明の熱転写用積層体の保護層に含有されるワックス粒子は、粒子内に少なくともPTFE粒子の一部が埋設されたポリエチレンワックス粒子であることが好ましく、PTFE粒子は非真球状の不定形であることが好ましい。
保護層に含有されるワックス粒子の体積平均粒子径は6μm以下であることが好ましい。
また保護層はセルロース誘導体樹脂をバインダー樹脂の主成分として含有することが好ましく、セルロース誘導体樹脂としては特に酢酸セルロース樹脂が好ましい。
【0018】
以下本発明の熱転写用積層体、及び熱転写用積層体を用いて作製される磁気記録媒体について、さらに詳細に説明を行う。
本発明において磁気記録媒体とは、磁気ディスクやテープ類、プラスティック製クレジットカード、キャッシュカードなどの磁気カード類、銀行などの合成紙製磁気通帳類、あるいは紙製乗車券・通行券等の磁気切符類などである。また、磁気カードに具備された磁気テープ(磁気ストライプとも呼ぶ)あるいは後述する「熱転写用積層体」そのものも広い分類では磁気記録媒体のカテゴリーに入るものであると考えられる。
【0019】
本発明の熱転写用積層体とは、主に磁気カードなどの製造に用いられ、磁気記録層およびその他の機能層を積層した転写用磁気シート(テープ形状に加工したものは転写型磁気テープと呼ぶ)であって、磁気記録層を含む層を磁気記録媒体用の基体に熱転写できる構成にしたものである。熱転写用積層体は、転写用支持体上に、最終製品において最上層となる保護層、磁気記録再生の実質的機能層である磁気記録層および熱転写による固着を行うための接着剤層の、少なくとも3層をこの順に形成してなる積層構造を有している。
【0020】
本発明の熱転写積層体の保護層に使用される特定のワックスは、ポリエチレン及びPTFEを有する混合物からなるワックス粒子である。このようなワックス粒子として市販のものとしては、例えばシャムロック社製のポリエチレン/PTFEワックスである『Fluoroslip 731MG』がある。PTFEは融点が327℃と、通常のポリエチレンより遙かに高く、耐熱性、耐薬品性に優れ、ほとんどすべての有機溶剤、酸、アルカリに侵されず、撥水、撥油性、電気的性質に優れ、摩擦係数が小さい。通常PTFEは、テトラフルオロエチレンを、懸濁重合法または乳化重合法によりラジカル重合して得られる粒子状のPTFEとしてポリエチレンと混合され、体積平均粒径0.3〜3μm程度の粒径を有する、混合に適した重合度のPTFE粒子としてポリエチレン粒子内に取り込まれると考えられる。PTFE粒子としてはボールミルその他の粉砕用装置を用いて粉砕でき、粒径を調整できるものが好ましい。
ポリエチレン及びPTFEを有する混合物からなるワックス粒子を作製するには、公知のポリエチレンワックス粒子の製造方法において、前記PTFE粒子をポリエチレン、あるいはその単量体化合物中に分散させて、製造工程時に介在させ、その存在下でポリエチレンワックス粒子の通常の製造方法と同様の手順を行うことにより、PTFE粒子を含有し常温で粒子状態のワックスを作製することができる。
【0021】
ポリエチレンワックスとしては、ワックスとして従来使用されている分子量のものを広く使用することが可能であるが、表面硬度が高くなり過ぎて脱粒が発生し易くならない程度に低分子量成分が低減され、予め移行性の成分が小さくなっている事が好ましい。
さらに、該ワックス粒子の製造過程で予め混合可能な他のワックス類、例えばカルナバワックス等を必要に応じて添加することも可能である。
PTFEとポリエチレンワックスの混合比率としては、最も重視するべきが耐摩耗性であるか滑剤の移行抑制であるか、また磁気記録媒体の製造工程条件、使用条件に応じて調整することができるが、PTFEが全滑剤成分の0.2〜70質量%が好ましく、複合粒子としての存在が安定している1〜30質量%がより好ましい。
【0022】
本発明では、上記ワックス粒子の体積平均粒子径は6μm以下とすることが、保護層の膜厚とのバランス、ワックス粒子の分布の均一性の点で望ましく、3μm以下とすることがより望ましい。本発明の保護層は転写工程における熱圧プレスに対して、模様層や磁気記録層を保護するための熱転写用であり、保護層の標準的な膜厚である0.5〜3μmよりも多少粒子径が大きくても、熱圧プレス後の磁気記録媒体の保護層上に突出することはない。しかしながら、磁気記録媒体の保護層表面には添加したワックス粒子が添加量と粒径に応じて一部露出し、その露出部からワックス成分の一部が熱圧プレスに用いる鏡面板へと移行する。通常、ワックス粒子径が大きい方がその移行の傾向も強くなる。そのため、上述の平均粒子径以下とすることで保護層表面上への露出面積を減少させ、熱圧プレス時におけるワックス粒子の露出部を通してのワックス成分の溶出を抑え、熱圧プレス用の鏡面金属板表面への移行を抑制することができる。
【0023】
さらに本発明では、上記ワックス粒子のPTFE成分を非真球状の不定形状とすることで、バインダー粒子からの脱粒が起きにくく、優れた滑性付与効果を得ることができる。
また、該ワックス粒子表面にPTFE粒子の少なくともその一部が埋設された形状(ワックス粒子表面に複数のPTFE粒子の一部が露出した状態)とすることで、熱圧プレス時にワックス粒子内部から溶出してくる移行成分が熱圧プレス用の鏡面調金属板表面に移行しにくくする効果を付加していると考えられる。
ワックスの添加量は、保護層のバインダー樹脂に対して1〜10質量%が好ましく、2〜5質量%がより好ましい。添加量が1質量%よりも少ない場合は保護層の表面滑性が十分得られず、10質量%よりも多い場合は保護層の塗膜が脆くなり、磁気記録媒体として実用上好ましい耐久性を得ることが困難となる。
【0024】
本発明の熱転写用積層体の保護層に含有されるバインダー樹脂としては、塗膜を形成した場合に皮膜・造膜性が高く、かつ弾性率が比較的高く、転写用支持体との界面において良好な剥離性を有し、転写後に最外層となったときに良好な耐熱性を有するものであることが好ましい。このような特性を有するものであれば、従来保護層に用いられていたバインダー樹脂を広く用いることができる。例えば、ニトロセルロースなどの繊維系樹脂、アクリル樹脂などの合成樹脂を単独あるいは複数種類組み合わせて使用される。本発明に於いては、比較的硬質で皮膜性が良くかつ離型性に優れたセルロース誘導体樹脂を主成分とし、イソシアネート化合物を添加して架橋した組成が好適である。特にPETフィルムを転写用支持体としたときの剥離性の点で好ましい。本発明の保護層に好適なセルロ−ス誘導体樹脂の重量平均分子量は、10,000〜70,000である。ここで、分子量が小さ過ぎると易剥離性、経時剥離安定性などの製造工程に係わる良好な特性が発現せず、逆に大き過ぎると塗料粘度が高くなり薄膜塗工が困難となる。
【0025】
セルロース誘導体樹脂の具体例としては、例えば、PETフィルムとの離型性に優れたセルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロ−スアセテ−トナイトレ−ト、セルロースアセテートプロピオネート等が挙げられ、特に酢酸セルロース樹脂(セルロースアセテート)、セルロースアセテートプロピオネートがPETフィルムを転写用支持体として用いたときの剥離性、塩化ビニル樹脂やポリウレタン樹脂を主たるバイダー樹脂としたときの、磁気記録層に対する良好な接着性の点で好ましい。酢酸セルロース樹脂が特に好ましい。それらは単独あるいは混合して使用することができる。
【0026】
上記セルロ−ス誘導体樹脂における水酸基含有率は1〜7%の範囲であることが好ましい。すなわち、水酸基含有率が低い場合、耐熱性や機械的強度特性(耐擦過性)などが低下する傾向にあり、熱圧プレス加工時の焼き付きや記録ヘッド走行時の保護層破壊の要因となる可能性がある。逆に、水酸基含有率が高い場合、有機溶剤に難溶となるため塗料化し難くなる傾向にあり、また架橋促進剤(硬化剤)の添加に対して塗料が増粘しやすくなる傾向があって塗工工程で不具合を生じる可能性がある。
【0027】
上記架橋促進剤は、保護層の機械的特性、例えば耐擦過性などを向上させるために添加するイソシアネート化合物等であり、架橋反応を起し硬化を促進させる。このイソシアネート化合物の使用量としては、結着剤樹脂100質量部に対し1〜30質量部添加が好ましい。
【0028】
本発明の熱転写用積層体の磁気記録層は、公知の材料、構成を用いたものを広く使用することができるが、磁気記録層用塗料を用いて塗布工程を用いて作製する方法が、使用材料の選定自由度も広く、種々の形状、膜厚等に容易に対応できる点、低コストの点からも好ましい。
【0029】
本発明の熱転写用積層体の磁気記録層を、磁気記録層用塗料を用いて作製する場合に用いられる磁性材料としては、公知慣用の、例えばγ−酸化鉄、マグネタイト、コバルト被着酸化鉄、2酸化クロム、鉄系メタル磁性粉、ストロンチュウムフェライト、バリウムフェライト等の磁性粉末を使用することができる。磁気記録層用塗料に用いられる結着樹脂としては、公知慣用の、例えばポリ塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、アクリルウレタン樹脂、ニトロセルロース樹脂、ポリウレタン、ポリエステル等を、単独であるいは混合して、用いることが出来る。
【0030】
磁気記録層用塗料の調製は、上記磁性粉末およびそれに対して20〜30質量%の上記結着剤樹脂、さらには必要に応じて、公知慣用の分散安定剤、界面活性剤、樹脂フィラー等を、メチルエチルケトン、トルエン、シクロヘキサノン等の混合溶剤中に溶解・分散させて行なう。そのときの塗料の固形分濃度は25〜60質量%であることが好ましい。また、溶解・分散には、公知慣用の、例えばボールミル、サンドグラインドミル等の分散機を使用することができる。
【0031】
本発明の熱転写用積層体の接着剤層は、公知の接着剤用の結着剤樹脂を含有した接着剤層用塗料の塗布工程を経て形成することができる。接着剤層用の結着剤樹脂としては、常温でタックフリーであるが加熱により粘接着性を発現する熱可塑性結着剤樹脂であれば良く、公知慣用の、例えばポリ塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン系樹脂等を用いることができる。接着剤層用塗料の調製は、例えば上記結着剤樹脂が3〜70質量%となるように、メチルエチルケトン、トルエン等の混合溶剤に溶解して調製する。また、必要に応じてシリカ等のブロッキング防止剤を添加する事もできる。
【0032】
本発明の熱転写用積層体に使用しうる転写用支持体としては、一般的には、合成樹脂フィルムや離型紙と呼ばれる合成紙などであって、使用条件に合致すれば、特に制限なく選定可能である。本発明では、合成樹脂フィルムが適しており、特にそのなかでも、耐熱性や引張強度などの点から厚さ12〜50μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムがより好適である。
【0033】
本発明の熱転写用積層体の製造方法は、前記転写用支持体上に少なくとも保護層、磁気記録層、接着剤層をこの順に積層することで形成することができる。各層の形成は各層用の形成塗料を用いて、塗布工程によって同時塗布、あるいは順次塗布を行い形成することができるが、保護層の乾燥塗膜厚は0.3〜3μmとするのが好ましい。塗布方式としては、特に制限はなく、公知慣用の方式を使用でき、単層または複数層構成の塗布物製造方式を採用して製造することができる。具体的には、例えばグラビア方式、リバース方式、エアドクターコーター方式、ブレードコーター方式、エアナイフコーター方式、スクイズコーター方式、含浸コーター方式、トランスファロールコーター方式、キスコーター方式、キャストコーター方式、スプレーコーター方式、ダイ方式等が挙げられる。
【0034】
磁気記録層の形成は、上記磁気記録層用塗料に、硬化剤としてイソシアネート化合物を添加し、前述の保護層上に乾燥塗膜厚が2〜30μmとなるように塗布した後、熱硬化処理する。塗布方式としては、特に制限はなく、保護層の塗布に用いたと同様の方法を用いることができる。
【0035】
接着剤層の形成は、上記接着剤層用塗料を、磁気記録層上に、乾燥塗膜厚が0.3〜10μmとなるように塗布する。塗布方式としては、特に制限はなく、保護層の塗布に用いたと同様の方法を用いることができる。以上のように転写用支持体上に積層体を形成する方法としては、各層毎の塗料を順次用いた塗布工程によって作製することが一般的であるが、各層の形成について熱転写用積層体を用いた転写工程によって作製することもできる。
【0036】
以上の方法で作製した熱転写用積層体用いて例えば磁気カードを作製するためには、従来公知の磁気カード用基体に、公知の転写技術を使用して熱転写用積層体上の積層体を転写する転写工程、及び必要に応じて熱圧工程を経ることによって行うことができる。例えば転写工程については転写用支持体上に保護層、磁気記録層及び接着剤層を有する熱転写用積層体の接着剤層側を非磁性支持体である磁気記録媒体用基体表面に密着させ、転写用支持体側から熱圧プレスを行って固着したのち、保護層との界面から転写用支持体を剥離する工程によって、磁気カード等の磁気記録媒体用基体上に接着剤層、磁気記録層及び保護層を有する積層体を形成することができる。このとき予め熱転写用積層体を熱転写工程で形成する積層体の幅にスリットして転写型磁気テープとしておき、これを磁気カード用等の基体上に熱転写することが行われる。
【0037】
このようにして磁気記録媒体用基体上に形成された積層体は、保護層側からさらに熱圧プレスを行って、積層体全体を磁気記録媒体用基体中に埋め込んで、保護層表面と非磁性支持体である磁気カード等の磁気記録媒体用基体の表面とが同一平滑平面を形成するようにする熱圧工程を行うことが好ましい。磁気カード等磁気記録媒体用基体を複数枚積層して磁気カード等の磁気記録媒体を作製するときは、該熱圧工程はこれら複数の基体を熱圧プレスして一体化する工程と同時に行っても良い。例えば上記転写工程の完了した磁気カード用基体を一方のオーバーレイシートとし、もう1枚のオーバーレイシートとともに2枚のコアシートを間に挟んで、これら4枚のシートを熱圧着して、カード厚さの一体化したシートを形成する工程を、上記熱圧工程と同時に行うことができる。
【実施例】
【0038】
以下に、本発明の具体的な実施例および比較例を挙げ、更に詳細に説明する。しかし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。尚、以下において、部は質量部を表わすものとする。
【0039】
<保護層用塗料(a)>
酢酸セルロース(ダイセル化学社製『L−AC L−20』) 7.6部
セルロースアセテートプロピオネート
(イーストマンケミカル社製『CAP504−0.2』) 1.9部
大豆レシチン 0.1部
アセトン 40部
酢酸エチル 40部
シクロヘキサノン 30部
トルエン 30部
ポリエチレン/PTFEワックス(滑剤) 0.29部
(シャムロック社製『Fluoroslip 731MG』)(体積平均粒径約5μm)
イソシアネート化合物 4部
(大日本インキ化学工業社製『ハードナーNo.50』)
以上の各成分をディスパーにて混合撹拌・均一分散して保護層用塗料(a)を作製した。
【0040】
上記の保護層用塗料(a)において、滑剤の種類(および添加量)を以下のように替えて各保護層用塗料を作製した。
<保護層用塗料(b)>
保護層用塗料(a)のポリエチレン/PTFEワックスを0.48部にする他は保護層用塗料(a)と同様にして保護層用塗料(b)を作製した。
<保護層用塗料(c)>
保護層用塗料(a)で用いたポリエチレン/PTFEワックスをボールミルにて粉砕し、体積平均粒径約2μmとしたものを、滑剤として0.29部用いる他は、保護層用塗料(a)と同様にして保護層用塗料(c)を作製した。
<保護層用塗料(d)>
保護層用塗料(a)で用いたポリエチレン/PTFEワックスをボールミルにて粉砕し、体積平均粒径約1μmとしたものを、滑剤として0.29部用いる他は、保護層用塗料(a)と同様にして保護層用塗料(d)を作製した。
<保護層用塗料(e)>
保護層用塗料(a)の滑剤に換えて、
低分子量ポリエチレンワックス(三井化学社製『ハイワックス200PF』)(粉砕処理後の平均粒径約6μm)0.29部を用いる他は保護層用塗料(a)と同様にして保護層用塗料(e)を作製した。
<保護層用塗料(f))>
保護層用塗料(a)の滑剤に換えて、
PTFE粒子 (シャムロック社製『Fluoro A』)(平均粒径約1μm) 0.29部を用いる他は保護層用塗料(a)と同様にして保護層用塗料(f)を作製した。
<保護層用塗料(g)>
保護層用塗料(a)の滑剤に換えて、
ポリエチレンパウダー(住友精化社製『FB LE−1080』)(平均粒径約6μm)
0.29部を用いる他は保護層用塗料(a)と同様にして保護層用塗料(g)を作製した
<保護層用塗料(h)>
保護層用塗料(a)の滑剤に換えて、
ポリエチレンパウダー(住友精化社製『FB LE−1080』)(平均粒径約6μm)
0.15部及び
PTFE粒子(シャムロック社製『Fluoro A』)(体積平均粒径約1μm)
0.14部を用いる他は保護層用塗料(a)と同様にして保護層用塗料(h)を作製した
<保護層用塗料(i)>
保護層用塗料(a)の滑剤に換えて、
高分子量ポリエチレン(三井化学社製『ミペロンPM−200』)(平均粒径約10μm) 0.29部を用いる他は保護層用塗料(a)と同様にして保護層用塗料(i)を作製した。
<保護層用塗料(j)>
保護層用塗料(a)の滑剤に換えて、
シリカ粒子 (富士シリシア化学社製『サイリシア350』)(平均粒径約4μm)0.48部を用いる他は保護層用塗料(a)と同様にして保護層用塗料(j)を作製した。
<保護層用塗料(k)>
保護層用塗料(a)の滑剤に換えて、
ステアリン酸 (日本油脂社製『NAA−180』) 0.48部
を用いる他は保護層用塗料(a)と同様にして保護層用塗料(k)を作製した。
<保護層用塗料(l)>
保護層用塗料(a)の滑剤を添加しないことの他は保護層用塗料(a)と同様にして保護層用塗料(l)を作製した。
【0041】
<磁気記録層用塗料>
Baフェライト磁性粉 (戸田工業社製『MC−127』) 40部
塩化ビニル系樹脂 (日本ゼオン社製『MR−110』) 6部
ポリウレタン樹脂 (大日本インキ化学工業社製『T−5206』) 4部
メチルエチルケトン 20部
トルエン 20部
シクロヘキサノン 8部
イソシアネート化合物 2部
(大日本インキ化学工業社製『ハードナーNo.50』)
上記各成分を混練分散機により混練分散して磁気記録層用塗料を作製した。
【0042】
<接着剤層用塗料>
塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂 3.5部
(電気化学社製『1000LT3』)
ポリウレタン樹脂 1.5部
(大日本インキ化学工業社製『TS−03』)
メチルエチルケトン 45部
トルエン 50部
上記各成分をディスパーにて混合・完全溶解して接着剤層用塗料を作製した。
【0043】
(実施例1)転写用支持体(24μm厚、PETフィルム)上に、乾燥塗膜厚が1.2μmとなるようにリバース塗工方式塗工機で、上記保護層用塗料(a)を塗布し、窒素雰囲気中で乾燥後、空気中、105℃、30秒間、熱硬化処理して保護層を形成した。その保護層の上に、乾燥塗膜厚が8μmとなるようにリバース塗工方式塗工機で上記磁気記録層用塗料を塗布し、窒素雰囲気中で乾燥後、105℃、30秒間、熱硬化処理して磁気記録層を形成した。更にその磁気記録層の上に、乾燥塗膜厚が1.5μmとなるようにリバース塗工方式塗工機で上記接着剤層用塗料を塗布し、窒素雰囲気中で乾燥して接着剤層を形成して熱転写用積層体を得た。この熱転写用積層体を所定幅に裁断して転写型磁気テープを作製した。
(実施例2〜実施例4)実施例1において、保護層用塗料(a)に替えて保護層用塗料(b)(c)、(d)を用いた以外は実施例1と同様にして実施例2、3、4の転写型磁気テープを作製した。
【0044】
(比較例1〜8)実施例1において、保護層用塗料(a)に替えて保護層用塗料(e)〜(l)をそれぞれ用いた以外は実施例1と同様にして比較例1〜比較例8の転写型磁気テープを作製した。
【0045】
(試験項目及び試験結果)
以下の条件で実施例1〜4、比較例1〜8により得られた転写型磁気テープを使用し、試験用磁気カードを作製した。
熱転写条件:ヒートシーラー(テスター産業社製)を用いて、厚さ100μmのポリ塩化ビニル製のオーバーレイシートの所定の位置にテープ幅13mmの転写型磁気テープを120℃、4kgf/cmで5秒間の熱融着を行い、その後に転写用支持体フィルムを剥離させて磁気テープ付きのオーバーレイシートを得た。
熱圧プレス条件:この磁気テープ付きのオーバーレイシートをこれに接して厚さ280μmのポリ塩化ビニル製のコアシート2枚を重ね、更に反対面に100μmのポリ塩化ビニル製のオーバーレイシートを1枚重ねて、鏡面調金属プレス板(日金スチール社製SUS430バフ仕上げ)に挟み、カード作製機(インターライン社製LX−EM−4)を用い、148℃設定で熱圧プレスを行った。
得られたカード基材を所定の大きさに打ち抜く事によって試験用磁気カードを得た。本実施例のカード状磁気記録媒体の層構成を図1に示す。
【0046】
<剥離性試験>
転写用支持体(PETフィルム)と保護層との剥離性、すなわち、剥離強度を測定する。剥離強度値が10〜80mNの範囲にあれば、易剥離性と判定して○とし、それ以外を×とした。試験は、実施例1〜4、比較例1〜8で得た熱転写用積層体を10mm幅に裁断して転写型磁気テープを作製し、磁気カード用基体であるポリ塩化ビニル製の厚さ100μmのオーバーレイシートに熱転写して転写用支持体剥離前の剥離試験サンプルを得た。熱転写装置および熱転写条件は次の通りである。
装置:ヒートシーラー(テスター産業社製)
熱転写条件:120℃ 0.4kgf/cm 9.9秒
次に、ここで得た剥離試験サンプルを剥離試験機にかけ、保護層からPETフィルムを引き剥がす力を以下の装置条件にて測定した。
装置:高速剥離試験機(テスター産業社製)
測定条件:剥離速度20m/分、180°剥離で測定
得られたチャートからピーク強度を読み取って剥離強度とした。
【0047】
<接着性試験>
テープ幅を13mmとした上記試験用磁気カードを用いて、保護層と磁気記録層との接着性をJIS K5600−5−6記載のクロスカット法に準じて評価し、全てのマス目が剥がれなければ○、それ以外を×とした。
【0048】
<耐久性試験>
上記試験用磁気カードをカードリーダーライター(オムロン社製)にて20,000回の繰り返し読み取りを行った。繰り返し回数は、磁気カードとして毎日2回使用したとしてカード有効期限の5年間で約4000回、取り扱い等の環境誤差を5倍に考慮して約20,000回とした。
20,000回の繰り返し後にも磁気記録の読み取りが可能であり、且つ磁気カード上の磁気テープ部分の表面に磁気記録層が部分的に欠けずに使用可能な磁気カードを耐久性良好として○とした。20,000回〜5,000回の繰り返し読み取りで磁気カード上の磁気テープ部分の表面に磁気ヘッドとの摩擦によって磁気記録層が摩耗し、部分的あるいは全体的に磁気記録層が失われてしまった磁気カードを実使用上耐久性不足となる可能性がある△とし、5,000回未満の繰り返し読み取りで磁気カード上の磁気テープ部分の表面に磁気ヘッドとの摩擦によって磁気記録層が摩耗し、部分的あるいは全体的に磁気記録層が失われてしまった磁気カードを耐久性不良として×とした。
【0049】
<鏡面調金属プレス板への移行性試験>
実施例および比較例で得られた転写型磁気テープを使用し、カード作製機(インターライン社製)により、ポリ塩化ビニル製のカード基材に熱転写させた後に支持体フィルムを除去し、鏡面調金属プレス板にてプレス加工をした際、プレス板表面に磁気テープから移行する滑剤によるテープ跡(曇り)がどの程度確認できるかを以下の試験方法により判定した。
【0050】
<鏡面調金属プレス板への移行性試験方法>
上記試験用磁気カードを作製する際、熱圧プレス加工前の磁気テープ面に接する鏡面調金属プレス板の磁気テープ部分に接する表面の光沢値を光沢計(測定角20°ビックガードナー社製)にて測定する。測定した部分に磁気テープが接触するような配置で熱圧プレス加工を行う。同じ鏡面調金属プレス板を用い、同じ位置に磁気テープが接するように熱圧プレス加工を4回繰り返して行い、熱圧プレス加工前に測定した部位の光沢値と4回繰り返し後の同じ場所の光沢値を比較し、光沢値の変化(光沢値の低下度合い)を以下の基準で評価する。
【0051】
プレス加工前の光沢値を100%とした時に、
4回プレス加工後の光沢値が95%以上・・・・・・・・・・◎
95%未満〜93%以上・・・・○
93%未満〜90%以上・・・・△
90%未満・・・・・・・・・・×
尚、評価結果は、4回プレス後の光沢値が100%に近い程(金属プレス板表面の光沢低下度合いが小さい程)、金属プレス板への移行が少なく、移行する滑剤による金属プレス板表面のテープ跡(曇り)が弱い事を表している。
【0052】
<記録再生特性>
また、実施例および比較例で作成した磁気カードの磁気記録再生特性は、バーンズ社製磁気ストライプ・アナライザー「MAGTESTER2000」を用いて「ISO/IEC7811−6 7.3項 Table1」に記載の規格を満足するものを磁気特性○として表1に併記した。
上記試験結果を、以下の表1に示した。
【0053】
【表1】

【0054】
表1に示した結果から判るように、ポリエチレン及びPTFEを有する混合物からなるワックス粒子を用いた実施例1〜4では、磁気記録再生特性を損なうことなく、試験項目全てに良好な試験結果が得られた。また、粒子径を小さくすることでより移行性を少なくすることができる。
一方、ポリエチレンワックス粒子のみを使用した場合、比較例1では耐久性は良好であるが、金属プレス板へのワックス成分の移行が著しい。比較例3や比較例5で使用したポリエチレンは、金属プレスへのワックス成分の移行が少ないものの、このために逆に耐久性が悪化しており、ポリエチレンワックスのみで耐久性と金属プレス板への移行抑制を両立することは困難であることがわかる。
一方PTFE粒子のみを使用した場合、単独使用の比較例2では金属プレス板への移行は低減されるが耐久性が悪化する。またPTFE粒子とポリエチレンワックス粒子と併用した比較例4ではPTFE粒子のみの場合よりも金属プレス板への移行が増え、一方耐久性は改善されないままである。
シリカ粒子のみを使用した比較例6の場合も、金属プレス板への移行は少ないが、耐久性が改善されない。一般的に滑剤として使用されているステアリン酸を用いた比較例7の場合は、耐久性は改善されないままで、金属プレス板への移行がシリカ粒子やPTFE粒子のみを用いた場合に比べて多くなっている。
また、滑剤を添加しなかった比較例8では、移行性は○であるが耐久性は×となる事が判る。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の熱転写用積層体の一実施例を示す断面図である。
【図2】本発明の磁気記録媒体の一実施例を示す正面図である。
【符号の説明】
【0056】
1 転写用支持体
2 保護層
3 磁気記録層
4 接着剤層
5 磁気カード
6 磁気テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転写用支持体上に、少なくとも保護層、磁気記録層および接着剤層を備えた熱転写用積層体において、前記保護層がバインダー樹脂と、ポリエチレン及びポリテトラフルオロエチレンを有する混合物からなるワックス粒子を含有することを特徴とする熱転写用積層体。
【請求項2】
前記ワックス粒子は、粒子内に少なくともポリテトラフルオロエチレン粒子の一部が埋設されたポリエチレンワックス粒子である請求項1に記載の熱転写用積層体。
【請求項3】
前記ポリテトラフルオロエチレン粒子が、非真球状の不定形である請求項2に記載の熱転写用積層体。
【請求項4】
前記ワックス粒子の体積平均粒子径が6μm以下であることを特徴とする請求項2または3に記載の熱転写用積層体。
【請求項5】
前記保護層は酢酸セルロース樹脂をバインダー樹脂の主成分として含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱転写用積層体。
【請求項6】
熱転写用積層体を用いて非磁性支持体上に、転写工程によって磁気記録層及び保護層、及び接着剤層を積層してなる磁気記録媒体であって、前記熱転写用積層体は、前記保護層にポリエチレン及びポリテトラフルオロエチレンを有する混合物からなるワックス粒子を含有することを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項7】
非磁性支持体上に磁気記録層及び保護層を積層してなる磁気記録媒体の製造方法であって、転写用支持体上に保護層、磁気記録層及び接着剤層を有する熱転写用積層体を用いて、非磁性支持体上に前記接着剤層、前記磁気記録層、及び前記保護層を有する積層体を転写する転写工程と、前記積層体の前記保護層上より熱圧プレスを行う熱圧工程を有し、かつ前記熱転写用積層体の保護層はポリエチレン及びポリテトラフルオロエチレンを有する混合物からなるワックス粒子を含有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−170067(P2009−170067A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−10361(P2008−10361)
【出願日】平成20年1月21日(2008.1.21)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】