説明

熱間ステンレス鋼スラブの幅圧下方法

【課題】ステンレス熱延鋼板の板端部近辺に長手方向全長に発生するシーム疵による歩留まり低下、特にコイル先尾端部でのシーム疵の大きな廻り込みによる歩留まり低下を防止することを可能とする、熱間ステンレス鋼スラブの幅圧下方法を提供する。
【解決手段】圧下面の平行部4両側に夫々上流側傾斜部2、下流側傾斜部3を有する幅圧下用金型1を用いたスラブ幅プレスを行うにあたり、前記スラブの最先端部は上流側傾斜部2にて、同スラブの最尾端部は下流側傾斜部3にて、同スラブの残りの部分である定常部は平行部4にて、それぞれ幅圧下するものとし、その際、前記最先端部及び最尾端部の実幅圧下量が、前記定常部の実幅圧下量よりも30〜50mm大きくなるようにする。即ち先尾端部の実幅圧下増大量δ、δを30〜50mmの範囲とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間ステンレス鋼スラブの幅圧下方法に関し、詳しくは、ステンレス鋼の熱間圧延にて、熱延鋼板の幅方向板端部近辺に長手方向全長に発生するシーム疵による歩留まり低下、特にコイル先尾端部でのシーム疵の大きな廻り込みによる歩留まり悪化を軽減することを可能とする、熱間ステンレス鋼スラブの幅圧下方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱間スラブの幅変更手段として、連続鋳造プロセスにて製造されたスラブを温度が低下しないうちに、あるいは一旦温度が低下した後に加熱炉に投入して所定の温度まで加熱した後、該熱間スラブの板幅方向に相対峙して設置された1対の金型にて熱間スラブを板幅方向に間欠的に圧下する幅プレス装置が用いられている。前記1対の金型の一方と他方は互いに鏡像対称形であり、圧延ライン幅方向中心面に対して面対称の位置に配置される。このような幅プレス装置では、通常、900〜2000mm程度の幅の熱間スラブに対して最大300〜350mm程度の幅圧下が行われており、連続鋳造にて同一幅に鋳造されたスラブより異なる幅の鋼板製品の製造を可能としている。これにより、連続鋳造プロセスでのモールド変更による幅変更回数の低減、熱間圧延プロセスでの幅可変のスケジュールフリー圧延の拡大、コイル単重の増大など、鋼板製造プロセスの生産性向上や合理化に大きく寄与しており、そのメリットは幅プレス装置による幅圧下能力が大きいほど増大する。
【0003】
しかしながら、幅プレスによる幅圧下量が増大すると、鋼種によっては板幅エッジ近辺の変形特性に起因して線状の表面欠陥が発生することがある。例えば、極低炭素鋼では、オーステナイト相からフェライト相へ変態する温度が高く、かつ両相の変形能が異なる(フェライト相は軟らかい)ことから、温度低下が大きいスラブ角部付近はフェライトへの変態に伴って軟化するため、幅プレスによる幅圧下や水平圧延にて局所的に重なった線状疵が発生することがある。この線状疵は、コイル長手全長に発生するため、製品歩留まりを大きく低下させる原因となることから、熱間スラブの角部付近の温度低下を抑制する目的にて幅プレス用金型の圧下面にカリバーと呼ばれる凹溝を形成し、幅圧下にてスラブ角部を鈍角に成形し、スラブ角部の温度低下を抑制することが提案されている(例えば特許文献1)。
【0004】
また、ステンレス鋼の熱間圧延では、粗圧延初期でのスラブの水平圧延時に自由表面であるスラブ側面にシワ状の微小凹凸が形成され、この微小凹凸はその後の水平圧延にて生じる側面のバルジ変形によって板表裏面の板幅端近傍に廻り込むことから、熱延鋼板の状態では板幅より数十mmの範囲にわたってシーム疵と呼ばれる線状欠陥の集合体を形成する。このため、予めこのシーム疵の幅を考慮した余幅を設定して熱延鋼板を製造した後にこのシーム疵部をトリムして除去しなければならないことから、大幅な歩留まり低下を招くものであった。このようなステンレス鋼のシーム疵を低減させるための技術として、幅圧下用金型の圧下面の高さ方向中央部に台形状の凸部を有する金型を使用し、かつその後の粗圧延の初期の3パスではエッジャー竪ロールによる幅圧下を行わないことが提案されている(例えば特許文献2)。これは、ステンレス鋼のシーム疵がバルジ変形によるスラブ側面の廻り込みによって拡大することから、予め幅プレスにてスラブ側面を凹形状に成形してバルジ変形による幅膨らみ量を低減し、かつ粗圧延初期にて竪ロールによる幅圧下を実施しないことにより、幅プレスにて成形したスラブ側面の凹形状を維持して側面の材料が表裏面へ廻り込まないようにする効果を発揮させるものである。また、ステンレス鋼のシーム疵は、コイル長手方向の先尾端にてスラブ側面からの廻り込み量が大きくなる特徴があることから、幅プレスによる幅圧下量をスラブ長手方向で変更する技術が提案されている(例えば特許文献3、4)。尚、幅圧下用金型の圧下面に複数の傾斜部と平行部を形成したものを用いる幅圧下方法も提案されている(例えば特許文献5,6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−192503号公報
【特許文献2】特開平9−256050号公報
【特許文献3】特開2010−64123号公報
【特許文献4】特開2010−75977号公報
【特許文献5】特開2007−222894号公報
【特許文献6】特開2009−190049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記した従来のステンレス鋼板のシーム疵低減技術は、各々以下のような問題点を有していた。
特許文献2に開示されている技術では、金型圧下面に形成する台形形状の凸部寸法を適正化することにより、大きなシーム疵低減効果が認められる。しかしながら、この効果はコイル長手方向の先尾端部近辺を除く定常部では大きいものの、依然としてコイル先尾端部近辺ではシーム疵の廻り込み量が大きいという課題を有している。特許文献2では、凸部を有する金型によってスラブ側面に凹形状を成形し、この効果を維持するために粗圧延の初期の3パスではエッジャー竪ロールによる幅圧下を実施しないため、スラブ先尾端でのフレア(鉢状の幅広がり)が大きくなる(例えば、日本鉄鋼協会「板圧延の理論と実際」p.83参照)ことが不可避である。
【0007】
その後の粗圧延にて、水平圧延での幅広がりを補償するためにエッジャー竪ロールによる幅圧下を行うと、定常部と比較して幅が広いフレア部での幅圧下量が大きくなり、それに従って先尾端部でのシーム疵の内部への廻り込み量も大きくなってしまう。結局、熱間圧延後の鋼板全長に亘り同一幅を得るために、板幅エッジ部のトリム量はシーム疵の廻り込み量の最も大きいコイル先尾端部でのトリム量に制約されることから、鋼板全長に亘るトリム部分が多発し、歩留まりがあまり改善しないという問題点を有している。
【0008】
特許文献3、4では、このコイル先尾端部でシーム疵の廻り込み量の低減策として、幅プレスによる幅圧下量をスラブ長手方向で変更する技術を提案している。そして、幅プレスによるスラブ定常部と先尾端部での幅圧下量の差(以後、段差量とよぶ)と段差を行う長さ(以後、段差長とよぶ)を、実験や操業データの解析から求める係数を用いた関係式にて決定することとしている。しかしながら、本発明者らの検討によると、適切な段差量や段差長は金型形状とスラブとの接触開始位置(以後、予成形長さとよぶ)との関係に大きく依存するものであるが、特許文献3、4では予成形長さに関しては一切言及されていない。
【0009】
本発明は上述した従来技術の問題点を克服すべく鋭意検討を重ねてなされたものであり、ステンレス熱延鋼板の板端部近辺に長手方向全長に発生するシーム疵による歩留まり低下、特にコイル先尾端部でのシーム疵の大きな廻り込みによる歩留まり低下を防止することを可能とする、熱間ステンレス鋼スラブの幅圧下方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討を重ね、ステンレス鋼板のシーム疵による歩留まり低下を防止する熱間ステンレス鋼スラブの幅圧下方法を見出した。即ち、本発明は、以下の通りである。
(1)圧延ライン両側に対面設置した幅圧下用金型の各々の圧下面が、圧延ライン上流側から下流側にかけて、下流側に向かうほど対面間距離を狭める上流側傾斜部と、圧延ライン方向に平行な平行部と、下流側に向かうほど対面間距離を広げる下流側傾斜部とをこの順に連ねてなる前記1対の金型を用いて幅圧下し、その後複数パスの粗圧延の間にエッジャー竪ロールを用いて幅圧下する熱間ステンレス鋼スラブの幅圧下方法であって、前記金型を用い、前記スラブの最先端部は前記上流側傾斜部にて、同スラブの最尾端部は前記下流側傾斜部にて、同スラブの残りの部分である定常部は前記平行部にて、それぞれ幅圧下するものとし、その際、前記最先端部及び最尾端部の実幅圧下量が、前記定常部の実幅圧下量よりも30〜50mm大きくなるようにすることを特徴とする、熱間ステンレス鋼スラブの幅圧下方法。
(2)前記上流側傾斜部及び下流側傾斜部は、圧延ラインに対する傾斜角度が12°以上であることを特徴とする、上記(1)に記載の熱間ステンレス鋼スラブの幅圧下方法。
(3)前記圧下面は、高さ方向中央部に台形状の凸部を有することを特徴とする、上記(1)又は(2)に熱間ステンレス鋼スラブの幅圧下方法。
(4)前記エッジャー竪ロールによる幅圧下は、粗圧延入側のスラブ厚から粗途中パスの板厚への総圧下率が50%以上となってから実行することを特徴とする、上記(1)〜(3)の何れかに記載の熱間ステンレス鋼スラブの幅圧下方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ステンレス鋼板の熱延製造時に板端部近辺で長手方向全長に発生するシーム疵による歩留まり低下、特にコイル先尾端部でのシーム疵の大きな廻り込みによる歩留まり低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明によるフレアの低減効果の1例を示すグラフである。
【図2】本発明によるフレアの低減効果のもう1つの例を示すグラフである。
【図3】本発明によるフレアの低減効果の1例を示す平面図である。
【図4】本発明に用いる金型の1例を示す平面図である。
【図5】本発明によるスラブ先端部の幅プレス(金型を用いた幅圧下)方法の1例を示す説明図である。
【図6】本発明によるスラブ尾端部の幅プレス(金型を用いた幅圧下)方法の1例を示す説明図である。
【図7】予成形長さの定義説明図である。
【図8】段差幅圧下量の定義説明図である。
【図9】圧下面の高さ方向中央部に台形状の凸部を有する金型の1例を示す立体図である。
【図10】図9の要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図1〜図10を援用して説明する。
ステンレス鋼板の製造では前述のごとくシーム疵が発生することから、圧延によるスラブ側面の廻り込み量を低減する目的にて金型圧下面の高さ方向中央部付近に台形状の凸部を有する幅圧下用金型1が使用されている(図9、図10参照)。このような金型を用いたスラブ幅圧下である幅プレスを行うとスラブ側面に凹みが形成されるため、適正な寸法の凸形状を付与することにより、その後の水平圧延によるスラブ側面のバルジ変形をほぼ相殺することが可能となる。つまり、このような幅プレスをステンレス鋼スラブに適用することにより、ステンレス鋼板のエッジシーム疵の発生領域を大きく低減できるものである。
【0014】
一方、図3の点線は板圧延での材料の幅広がり挙動を模式的に示したものであり、材料の先端部と尾端部は圧延での非定常変形域となることから、前記したフレアと呼ばれる鉢広がり形状となる。これは、板圧延では材料の先尾端部(前記非定常変形域であり、以下、先尾端非定常部ともいう)を除く定常部でのロールバイト内での幅広がりは、ロールバイトの前後に位置する非変形の材料部分の存在により拘束されることから、幅広がりがあまり大きくないが、最先端部はその前方に幅広がり変形を拘束する材料がない、また最尾端部はその後方に幅広がり変形を拘束する材料がない、ことから幅広がりが大きくなるものである。通常、熱間スラブの粗圧延工程では、スラブ幅を変更する目的、そして水平圧延での幅広がりを補償する目的にて、各粗圧延機に具備されたエッジャー竪ロールにて幅圧下を行っている。そして、先尾端非定常部での幅変動を低減するため、スラブ先端と尾端付近にてエッジャー竪ロールによる幅圧下量制御するショートストローク制御が行われている。
【0015】
また、ステンレス鋼板の製造では、前記したごとく圧下面が凸形状である幅圧下用金型を用いてスラブ側面を凹形状に成形してシーム疵の低減を図るため、水平圧延による側面のバルジ変形の大きい粗圧延前半のパスではエッジャー竪ロールによる幅圧下をするとスラブ側面の凹みの深さが減少するため、通常はこれを実施しない。従来技術(例えば特許文献2)では、粗圧延入側のスラブ厚から粗途中パスの板厚への総圧下率が50%超になるまではエッジャー竪ロールによる幅圧下を実施しないことが提案されており、本発明者らの検討でも本技術はシーム疵の廻り込み量低減の観点から大きな効果を有していることを確認している。よって本発明では前記総圧下率が50%以上となってからエッジャー竪ロールによる幅圧下を実行することが好ましい。但し、前記総圧下率を95%超とすると圧延機の圧下能力限界を超えてパス数を増しても更なる減厚が困難となるため、より好ましくは、前記総圧下率が50〜95%となる範囲内でエッジャー竪ロールによる幅圧下を実行することである。
【0016】
しかしながら、前記したごとく、エッジャー竪ロールによる幅圧下を実施しない場合には先尾端のフレアが大きくなるため、先尾端のエッジシーム廻り込み量が増加して後工程でトリム代が大きくなって鋼板歩留まりがより大きく低下することが不可避となる。このため、粗圧延後半のパスではエッジャー竪ロールによる幅圧下を実施してフレア部を圧下し、長手方向全長に亘って板幅分布を均一にする必要がある。しかしながら、そうするためには、既に幅広がりが大きくなっている先尾端フレア部での幅圧下量が大きくなるため、それに付随して先尾端付近でのシームの廻り込み量が大きくなってしまうことが不可避となる。結局、熱間圧延後の後工程での板幅トリムでは、シーム疵の廻り込み量が大きくなっている鋼板先尾端部に合わせて全長に亘りトリムを実施することから、大きな歩留まりロスとなってしまう。
【0017】
本発明者らは、従来技術にて提案されている、圧下面の高さ方向中央に台形状凸部を有する幅圧下用金型(図9、図10参照。台形状凸部サイズは、台形高さ=15〜65mm、台形上辺長=85〜200mm、台形下辺長=200〜300mm)を用い、かつスラブ先尾端でのシームの廻り込み量を効率的に低減する方法について鋭意検討を重ね、幅圧下用金型の圧下面の傾斜部を最大限に活用して効率的にフレアを低減することにより、結果としてコイル全長に亘りシームの廻り込み量を最小限に抑制するための技術として本発明を完成させた。完成までの途上において、前述したごとく、先尾端非定常部を除いた残りである定常部では、凸形状の圧下面を有する金型を用いること、スラブ厚から板厚への総圧下率が50%以上となってからエッジャー竪ロールによる幅圧下を実行すること、により大きなシーム廻り込み量の低減効果が得られることから、これら2つの技術事項を前提として、平行部の両側に傾斜部が連なる圧下面を有する金型を用いたスラブ先尾端の予成形技術について検討を重ねた。その結果、スラブの先端部、尾端部ともに、前記金型の傾斜部にて適正に幅プレスを行うことにより、先尾端部でのシームの廻り込み量を大きく低減できることを見出した。
【0018】
図4は、本発明に用いる幅圧下用金型(略して金型)の1例を示す平面図(但し、圧下面は図9、図10のように台形状凸部付き)である。尚、図示の金型1は圧延ライン両側に対面設置した1対うちの1個であり、もう1個は図示の金型1の鏡像と同形であり、圧延ライン幅中心面に対する金型1の面対称位置に設置されている。図4に示す金型1の図形下部が圧下面であり、該圧下面は、圧延ライン上流側から下流側にかけて、下流側に向かうほど対面間距離を狭める上流側傾斜部2と、圧延ライン方向に平行な平行部4と、下流側に向かうほど対面間距離を広げる下流側傾斜部3とをこの順に連ねてなる。上流側傾斜部2、下流側傾斜部3は、圧延ライン方向に対する傾斜角度が夫々θ、θである。ここで、θ、θは、これらが12°未満であるとエッジシーム廻り込み量の低減効果が小さいので、12°以上とするのが好ましい。但し、これらが30°を超えると金型にスラブが噛み込み難くなるので、θ、θは、より好ましくは12°〜30°である。
【0019】
図5は、本発明によるスラブ先端部の幅プレス方法を示す図であり、スラブ幅Wのスラブ(熱間ステンレス鋼スラブ)5に対して先尾端を除く定常部での幅圧下後の幅がwとなる設定(幅圧下量ΔW=W―w)にて幅圧下し、かつ幅圧下パス間にてスラブ5を圧延ライン下流側に距離Lだけ搬送する条件を示している。本発明では、スラブ最先端角部を金型1の上流側傾斜部2で幅圧下し、かつ、図5に示したごとくその幅圧下量は定常部幅圧下量ΔWに対してスラブ全幅にてΔW1(スラブ片側面ではΔW1/2)だけ大きくなるように幅圧下するものである。なお、図8に示したごとく、ΔW1は金型の設定幅圧下量の増大分であり、一方、スラブ定常部に対するスラブ先端部の実幅圧下量の増大分(実幅圧下増大量という)はδ1として前記ΔW1と区別する。これは、スラブ先端圧下時のスラブと金型の位置関係により、同じ設定幅圧下量の増大分ΔW1でも、実際のスラブにおける実幅圧下増大量δ1が変化するためであり、後ほどデータをもとに説明を行う。
【0020】
同様に、図6は本発明によるスラブ尾端部の幅圧下方法を示す図であり、スラブ最尾端角部を金型の下流側傾斜部3で圧下し、かつ、図6に示したごとくその幅圧下量は定常部幅圧下量ΔWに対してスラブ全幅にてΔW2(スラブ片側面ではΔW2/2)だけ大きくなるように幅圧下するものである。先端部と同様に、実際のスラブにおける実幅圧下増大量をδ2として区別する。
【0021】
前述したごとく、従来では、水平圧延によって図3に点線で示したように鋼板先尾端にフレア形状が発生していたのに対し、図5、図6に示した本発明の幅圧下方法を実施することにより、粗圧延前半のパス(スラブ厚から板厚への総圧下率50%程度未満のパス)にてエッジャー竪ロールによる幅圧下を行わない場合でも、図3に実線で示すごとく鋼板全長に亘って板幅をほぼ均一にすることが可能となる。
【0022】
以下、図1,図2を用いて本発明による効果をより具体的に説明する。図1、図2は、厚み218mm、幅1120mmのフェライト系ステンレス鋼の熱間スラブを、図4に示した幅圧下用金型(但し圧下面は図9、図10のように台形状凸部付きである凸金型)を用いて幅圧下し(定常部での幅圧下量160mm)、その後、エッジャー竪ロールによる幅圧下を行わずに3パスにて板厚107mm(総圧下率=(1-107/218)*100≒51%)まで圧下した状態での先尾端部のフレア量を調べたデータである。なお、金型1(詳しくは金型1の圧下面)の上流側傾斜角θ1、下流側傾斜角θ2はいずれも12°の条件である。図1は、スラブ最先端部を圧下する際の予成形長さLと定常部への金型の設定幅圧下量に対する最先端部へのそれの増大分ΔW1(以後、先端部の金型の段差幅圧下量とよぶ)と、3パス圧延後の先端部の平均フレア量との関係図である。なお、予成形長さとは、図7に示したごとく、スラブ最先端部を幅圧下する際のスラブ5の最先端位置から金型1の上流側傾斜部2と平行部4との交点位置までの上下流方向の距離と定義しており、スラブ5の最先端位置を原点(L=0)として、上流側傾斜部2にて先端幅圧下を開始する状態をL<0、平行部4にて先端幅圧下を開始する状態をL>0とする。また、3パス圧延後の状態では、凸金型にて形成されたスラブ側面の凹形状とその後の圧延によるバルジ変形が重畳し、板幅端は板厚方向に数mmの凹凸形状となっていることから、板厚方向に1/4厚、1/2厚、3/4厚の位置での長手方向の幅プロフィルを測定し、その3箇所の位置における定常部幅と最先端部付近の最大幅との差を平均して平均フレア量とした。
【0023】
図1に示したとごとく、平均フレア量は先端部の金型の段差幅圧下量ΔW1の増大にともない低減すること、また予成形長さLが0mmの条件にてその効果が顕著であり、金型の段差幅圧下量ΔW1が50mm程度にて平均フレア量がほぼ0mmとなっている。図5は予成形長さL=0mmの条件での状況を示しているが、本条件ではスラブ先端部の実幅圧下増大量δ1が金型の段差幅圧下量ΔW1と等しくなるため、最も効率的に先端角部を傾斜状態に成形することが可能である。例えば、金型の上流側傾斜角θ1=12°で且つ予成形長さL=0mmの条件下でδ1=40mmとするためにはΔW1を40mmに設定すればよいが、予成形長さL=−50mmの条件ならば、幾何学的な関係より片側圧下量にて50mm×tan(12°)=10.6mm、すなわち両側での段差幅圧下量ΔWを40mm+2×10.6mm=61.6mmとする必要がある。また、予成形長さLがプラスの領域の条件では、スラブ5の最先端部が金型1の平行部3にて幅圧下されることから、同じ段差幅圧下量ならば、予成形長さL=0mmの条件と比べてフレアの低減効果が小さくなるものである。
【0024】
同様に、図2は予成形長さL=0mmの条件下のスラブ先端部の金型の段差幅圧下量ΔW1、定常部への金型の設定幅圧下量に対する最尾端部へのそれの増大分ΔW2(以後、尾端部の金型の段差幅圧下量とよぶ)と3パス圧延後の先端部と尾端部での平均フレア量との関係図である。前記したごとく、板圧延での幅広がり挙動はロールバイト内での幅広がり変形に対するロールバイト入出側材料の拘束によって大きく影響されており、一般に、材料(被圧延材)の先端部よりも尾端部でのフレア量が大きくなる。このため、図2では段差幅圧下量0mmの条件、すなわちスラブ先尾端で段差幅圧下を行わず、スラブ全長に亘って均一な幅となるように幅プレスを行った場合には、先端部に比べて尾端部での平均フレア量が大きくなっている。これに対し、本発明に則ってスラブ先尾端で段差幅圧下を行うことで、尾端部においても金型の段差幅圧下量が50mm程度の条件にて平均フレア量がほぼ0mmとなっており、図3に示すごとく粗圧延前半のパスでのフレア量を低減し、ひいては熱間圧延後のステンレス鋼板のシーム疵による幅トリム量を大きく低減できるものである。この場合も先端部と同様に、本条件では実際のスラブ尾端部の実幅圧下増大量δ2が段差幅圧下量ΔW2と等しくなるため、最も効率的にスラブ尾端角部を傾斜状態に成形することが可能である。
【0025】
なお、上述の作用効果は図4の形状の金型(但し圧下面は図9、図10のように台形状凸部付きである凸金型)を用いて確認したものであるが、複数の平行部と複数の傾斜部を有する金型(例えば特許文献5,6)を用いても、同様な作用効果が得られる。又、圧下面が台形状凸部を有さず高さ方向全域に亘りフラット(換言すると、台形高さ=0mm)である金型を用いても、同様な作用効果が得られる。
【0026】
また、本発明者らは、更に実験やFEM等数値解析を行って、スラブ先尾端の、金型の実幅圧下増大量δ1、δ2の適正範囲を求めた結果、スラブ先尾端の、金型の実幅圧下増大量δ1、δ2の適正範囲は、スラブ幅や定常部幅圧下量によって影響を受けるものの、スラブ厚300mm以下(但し200mm以上)、スラブ幅2000mm以下(但し800mm以上)、定常部幅圧下量350mm以下(但し50mm以上)の条件下では、δ1、δ2ともに30mm〜50mmの範囲が適正であることを見出し、これを本発明の要件とした。実幅圧下増大量を30mmよりも過小に設定すると、シーム疵の廻り込み量の増大の他、熱間圧延後に先尾端部にフレアが形成し、これを除去せざるを得ず幅トリム量が増大して歩留まりが低下し、一方、実幅圧下増大量を50mmよりも過大に設定すると、シ−ム疵の廻り込み量の増大の他、熱間圧延後に、定常部幅に比べて先尾端付近での幅が目標よりも狭くなってしまい、その部分を除去せざるを得ず歩留まり低下となる。
【実施例】
【0027】
フェライト系ステンレス鋼スラブを、図9に示した幅圧下用金型(但し、台形状凸部の台形高さ=20mm、台形上辺長=110mm、台形下辺長=210mm)を用い、先端部は表1、尾端部は表2に夫々、先尾端部を除く定常部の幅圧下量と共に、示す幅圧下条件で幅圧下(幅プレス)し、その後、粗圧延前半のパスではスラブから板厚への総圧下率が50%以上となった後、エッジャー竪ロールによる幅圧下を実施しつつ水平圧延を行い、次いで粗圧延後半のパスでは全長幅制御のためのエッジャー竪ロールによる幅圧下を行ってバー板厚33mmのシートバーに成形し、その直後の7パスの仕上圧延にて仕上板厚3mmのステンレス熱延鋼板を製造した。
【0028】
該製造した鋼板についてシーム判定及び幅判定を行った。その結果を表1、表2に示す。表1のシーム判定の評価値は、定常部でのシーム疵廻り込み量に対し、先端部付近にて5mm(片側)以上の廻り込み量の増大があった場合を×、5mm未満の場合を○としている。また、幅判定の評価値は、定常部の板幅に対し、全幅にて5mm以上の幅狭まり、あるいは幅広がりが生じた場合を×としている。従来例No.1、2では、先端部の実幅圧下増大量δ1が小さいことからシーム疵の廻り込み量が大きく、また従来例No.4では実幅圧下増大量δ1が大きすぎることから、粗圧延後半のパスでのエッジャー竪ロールによる幅制御効果が不足し、結果として先端部幅が狭くなってしまったものである。また、従来例No.5は上流側傾斜角θ1を10°とした場合であり、フレア低減効果が小さくシーム判定も×であった。これに対し、本発明例では何れも、シーム判定、幅判定ともに○であり、品質良好な熱延鋼板の製造が可能であった。同様に、表2は表1の先端部に適用したのと同様の幅圧下条件を尾端部に適用した場合の結果であり、従来例No.11では、粗圧延前半のパスにて生じたフレア量が大きかったことから粗圧延後半のパスでの竪ロールによる幅制御による効果が不足し幅判定も×となっているが、それ以外は従来例、本発明例ともに表1の先端部のと同じ結果であり、本発明による幅圧下方法により、品質良好な熱延鋼板の製造が可能であった。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【符号の説明】
【0031】
1 金型(幅圧下用金型)
2 上流側傾斜部(傾斜角θ
3 下流側傾斜部(傾斜角θ
4 平行部
5 スラブ(熱間ステンレス鋼スラブ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延ライン両側に対面設置した幅圧下用金型の各々の圧下面が、圧延ライン上流側から下流側にかけて、下流側に向かうほど対面間距離を狭める上流側傾斜部と、圧延ライン方向に平行な平行部と、下流側に向かうほど対面間距離を広げる下流側傾斜部とをこの順に連ねてなる前記1対の金型を用いて幅圧下し、その後複数パスの粗圧延の間にエッジャー竪ロールを用いて幅圧下する熱間ステンレス鋼スラブの幅圧下方法であって、
前記金型を用い、前記スラブの最先端部は前記上流側傾斜部にて、同スラブの最尾端部は前記下流側傾斜部にて、同スラブの残りの部分である定常部は前記平行部にて、それぞれ幅圧下するものとし、その際、前記最先端部及び最尾端部の実幅圧下量が、前記定常部の実幅圧下量よりも30〜50mm大きくなるようにすることを特徴とする、熱間ステンレス鋼スラブの幅圧下方法。
【請求項2】
前記上流側傾斜部及び下流側傾斜部は、圧延ラインに対する傾斜角度が12°以上であることを特徴とする、請求項1に記載の熱間ステンレス鋼スラブの幅圧下方法。
【請求項3】
前記圧下面は、高さ方向中央部に台形状の凸部を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の熱間ステンレス鋼スラブの幅圧下方法。
【請求項4】
前記エッジャー竪ロールによる幅圧下は、粗圧延入側のスラブ厚から粗途中パスの板厚への総圧下率が50%以上となってから実行することを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載の熱間ステンレス鋼スラブの幅圧下方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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