熱間スラブの幅圧下用金型
【課題】熱延鋼板、特に極低炭素鋼の熱延鋼板の板端部近辺に長手方向全長に発生するシーム疵を防止して表面品質や歩留まりを向上する、熱間スラブの幅圧下用金型を提供する。
【解決手段】圧延方向上流側の金型端において圧延方向に対して金型間の距離が狭まる方向の傾斜部、圧延方向下流側の金型端において圧延方向に対して金型間の距離が広がる方向の傾斜部、そして前記両傾斜部間に圧延方向と平行な圧下面を有する幅圧下用金型を用いた熱間スラブの幅圧下用金型であり、圧延方向と平行な圧下面にのみスラブの上下コーナー部を圧下するように形成された凹型の台形溝2を有することを特徴とする、熱間スラブの幅圧下用金型1。
【解決手段】圧延方向上流側の金型端において圧延方向に対して金型間の距離が狭まる方向の傾斜部、圧延方向下流側の金型端において圧延方向に対して金型間の距離が広がる方向の傾斜部、そして前記両傾斜部間に圧延方向と平行な圧下面を有する幅圧下用金型を用いた熱間スラブの幅圧下用金型であり、圧延方向と平行な圧下面にのみスラブの上下コーナー部を圧下するように形成された凹型の台形溝2を有することを特徴とする、熱間スラブの幅圧下用金型1。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱延鋼板、特に極低炭素鋼の熱延鋼板の板端部近辺に長手方向全長に発生するシーム疵を防止して表面品質や歩留まりを向上する、熱間スラブの幅圧下用金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱間スラブの幅変更手段として、連続鋳造プロセスにて製造されたスラブを温度が低下しないうちに、あるいは一旦温度が低下した後に加熱炉に投入して所定の温度まで加熱した状態にて、該熱間スラブの板幅方向に相対峙して設置された1対の金型にて熱間スラブを板幅方向に間欠的に圧下する幅プレス装置が用いられている。
【0003】
この幅プレス装置による幅圧下では、通常、900〜2000mm程度の幅の熱間スラブに対して最大300〜350mm程度の幅圧下が行われており、連続鋳造にて同一幅に鋳造されたスラブとは異なる幅の鋼板製品の製造を可能としている。これにより、連続鋳造プロセスでの鋳型交換による幅変更回数の低減、熱間圧延プロセスでのスケジュールフリー圧延の拡大、コイル単重の増大など、鋼板製造プロセスの生産性向上や合理化に大きく寄与しており、そのメリットは幅プレス装置による幅圧下能力が大きいほど拡大する。
【0004】
しかしながら、幅プレスによる幅圧下量を増大すると、鋼種によっては板幅エッジ近辺の変形特性に起因して線状の表面欠陥が発生することがある。極低炭素鋼では、オーステナイト相からフェライト相へ変態する温度が高く、かつ両相での変形能が異なることから(フェライト相は軟らかい)、温度低下が大きいスラブコーナー部付近はフェライトへの変態に伴って軟化するため、幅プレスによる幅圧下や水平圧延にてシーム疵と呼ばれる局所的なラップ状の線状疵が発生することがある。この線状疵は、コイル長手全長に発生するため、製品歩留まりを大きく悪化させる原因となる。
【0005】
そこで、熱間スラブのエッジコーナー部付近の温度低下を抑制する目的にて、幅プレス用金型の傾斜部を含む圧下面全面にカリバーと呼ばれる凹型の台形溝を形成し、幅圧下にてスラブ角部を鈍角に成形し、スラブ角部の温度低下を抑制することが提案されている(例えば特許文献1)。
【0006】
また、スラブコーナー部の温度低下を防止し、フェライトへの変態を防止する目的のため、幅圧下中は金型に冷却水をかけないことが提案されている(例えば特許文献2)。
【0007】
その他、幅プレスでの幅圧下直前でのスラブコーナー部の変態状況は、加熱炉からの抽出時のスラブ温度にも大きく依存していることから、加熱炉からの抽出時のスラブ温度が所定の閾値以上の場合にのみ、カリバーを有する幅プレス用金型を使用し、それ以外の場合はカリバーを有していない厚み方向に平坦な金型に交換して幅圧下を行うことが提案されている(例えば特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭63−192503号公報
【特許文献2】特開平10−156402号公報
【特許文献3】特開平11−90503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、前記したスラブコーナー部がフェライトに変態することによって発生するシーム疵を低減するための従来技術には、各々以下のような問題点を有していた。
【0010】
特許文献1に開示されている技術は、略直角形状であるスラブコーナー部が空冷や水冷にて特に冷えやすいことから、傾斜部を含む全面にカリバーを有する金型にて幅圧下してスラブコーナー部をテーパー状に形成することにより、局部的な温度低下を防止するために考案されたものである。しかしながら、幅圧下前に既にスラブコーナー部の温度が低下して局所的にフェライトに変態している場合には、カリバー部での圧下により軟化部(フェライト部)が局所的に変形して凸部を形成し、この凸部がその後の水平圧延にて折れ込んでシーム疵となるという問題点があった。
【0011】
また、特許文献2に開示されている技術も同様であり、特許文献2では幅プレス時にスラブコーナー部がフェライト変態していないことが前提でなければ効果がなく、このためにはスラブの加熱温度を所定温度以上に制約しなければならないという問題点があった。
【0012】
そして、特許文献3では、特許文献1の技術にて問題であったカリバー部での圧下による軟化部の局所変形を防止するため、スラブ温度によって傾斜部を含む全面にカリバーがある場合とカリバーが無い場合の金型を変更しなければならないことから、異なる形状の金型を準備しなければならず、金型の運用の面で問題点を有している。
【0013】
本発明は上述した従来技術の問題点を克服すべく鋭意検討を重ねてなされたものであり、熱延鋼板、特に極低炭素鋼の熱延鋼板の板端部近辺に長手方向全長に発生するシーム疵を防止して表面品質や歩留まりを向上する、熱間スラブの幅圧下用金型を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討を重ね、熱延鋼板、特に極低炭素鋼の熱延鋼板の板端部近辺に長手方向全長に発生するシーム疵を防止して歩留まり向上するための幅圧下用金型を想到した。本発明は、以上のような状況に鑑みなされたものであり、以下のような特徴を有する。
【0015】
[1]圧延方向上流側の金型端において圧延方向に対して金型間の距離が狭まる方向の傾斜部、圧延方向下流側の金型端において圧延方向に対して金型間の距離が広がる方向の傾斜部、そして前記両傾斜部間に圧延方向と平行な圧下面を有する幅圧下用金型を用いた熱間スラブの幅圧下用金型であり、圧延方向と平行な圧下面にのみスラブの上下コーナー部を圧下するように形成された凹型の台形溝を有することを特徴とする、熱間スラブの幅圧下用金型。
【0016】
[2]圧延方向上流側の金型端の傾斜部において、断続的に複数の圧延方向に平行な圧下面を有することを特徴とする、前記[1]に記載の熱間スラブの幅圧下用金型。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、熱延鋼板、特に極低炭素鋼の熱延鋼板の板端部近辺に長手方向全長に発生するシーム疵を防止して表面品質や歩留まりを向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明による鋼板幅方向エッジからのシーム疵発生位置Lの低減効果を示す図である。
【図2】本発明による幅圧下用金型の一例を示す図である。
【図3】本発明による幅圧下用金型の他の例を示す図である。
【図4】従来の幅圧下用金型の例を示す図である(特許文献1)。
【図5】金型に付与されるカリバー形状を示す図である。
【図6】極低炭素鋼の強度の温度依存性の例を示す図である。
【図7】スラブのエッジコーナー部がフェライトに変態している状態を示す模式図である。
【図8】スラブのエッジコーナー部がフェライト+オ−ステナイトの2相状態になっている状態を示す模式図である。
【図9】スラブのエッジコーナー部が軟化した状態にてカリバーを有する金型にて幅圧下したときの状況を示す模式図である。
【図10】スラブのエッジコーナー部が軟化した状態にてカリバーの無い金型にて幅圧下したときの状況を示す模式図である。
【図11】スラブのエッジコーナー部が軟化した状態にて、本発明による金型にて幅圧下したときの状況を示す模式図である。
【図12】従来のカリバーを有する幅圧下用金型を用いた場合の、熱延鋼板状態でのエッジシーム疵の発生状況を示す図である。
【図13】カリバーの無い幅圧下用金型を用いた場合の、熱延鋼板状態でのエッジシーム疵の発生状況を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態について、図2〜図13にて説明する。
【0020】
図6は、極低炭素鋼の強度(相当応力)と加工温度との関係の一例を示す図であり、オーステナイト組織(γ)である高温状態から温度が低下するにしたがい、材料の強度は上昇する。しかしながら、温度T1にてオーステナイト組織からフェライト組織(α)への変態が開始すると温度低下とともに強度が低下し、この強度低下(軟化)現象は完全にフェライト組織への変態が終了する温度T2まで継続する。そして、温度T2より低温領域では、再度、温度の低下ともに強度は上昇していく。温度の低下によりオーステナイト組織からフェライト変態が開始する温度T1は、材料に含有される炭素量に大きく依存しており、炭素量が少ないほど高温側となる。このため、特に極低炭素鋼のスラブでは、加熱炉抽出後、急激に温度が低下するエッジコーナー部の温度がT1以下となり、局所的に軟化現象が発生する。図7、8は、スラブのエッジコーナー部近辺の組織の状態を示した図であり、図7は最コーナー部の温度がT2以下にまで達して完全にフェライト組織(α)となっている場合、図8は最コーナー部の温度がT1以下でT2以上の場合、すなわちオーステナイトとフェライトの2相状態の場合である。
【0021】
図4は、前述の特許文献1に開示されている従来の幅プレス用金型の例であり、傾斜部にスラブの上下コーナー部を圧下するように形成された凹型の台形溝を有している。図5は、カリバーとよばれる凹型の台形溝とスラブの断面形状の関係であり、通常、台形溝の底部3の長さaはスラブ5の厚みhより短く、スラブのエッジコーナー部はカリバーの傾斜部4にて圧下される。そもそも、幅プレス金型のカリバーは、スラブのエッジコーナー部をテーパー状に成形することにより、その後の急峻な温度低下を防止することが目的である。しかしながら、図7、8に示したごとく幅プレスによる幅圧下を行う前に、既にスラブのエッジコーナー部付近にてフェライト変態が開始していることもあり、このような場合には図9に示したごとく金型カリバーの傾斜部4にて軟化した部分を圧下してしまうことから、板エッジより内側に入り込んだ部分にて局所的な凸変形が発生する。このような凸形状部を引き続いて水平圧延した場合、図12に示すごとく折れ込んだシーム疵と呼ばれる線状欠陥となることがある。この形態のシーム疵は熱延鋼板の両エッジ端からの距離Lが30mm程度の長手方向表裏面に発生しやすく、酸化スケールを噛み込んだ形態であることが多い。そして、図9に示した状況から容易に類推できるように、エッジからのシーム疵の位置は、幅プレスによる幅圧下量が大きいほど内部に達する。このことから、熱延後の板幅を予め製品幅より数十mm広くしておき、次工程以降でのエッジ部トリミングにてこのシーム疵が発生している領域を除去することが行われており、歩留まりを大きく悪化させている。スラブ加熱温度を上げることにより、幅圧下前でのスラブコーナー部のフェライトへの変態を抑制してシーム疵を発生させないことが望ましいが、サイクル構成や燃料原単位の観点から、シーム疵を防止する目的のみで定常的に加熱炉温度を上げることは困難である。
【0022】
幅プレスを原因とするシーム疵は、スラブのエッジコーナー部付近が図7あるいは図8のように局所的に軟化した状態から、金型のカリバーの傾斜部にてエッジコーナー部を潰すことにより発生することから、図7あるいは図8の状態から幅圧下する際にはカリバーはない方が好ましい。図10は、図7あるいは図8の状態からカリバーの無い金型にて幅圧下した時のエッジコーナー部付近の変形状態を示しており、軟化部が局所的に変形するものの、その発生位置は最エッジ付近となっている。このため、熱延鋼板に発生するシーム疵のエッジからの距離Lは、図13に示すごとく、カリバーを有する金型を使用した場合である図12に比べて大幅に低減する。前述した特許文献3では、このことから幅プレス直前でのスラブの温度によってカリバーを有する金型とカリバーの無い金型とを交換するものであるが、シーム疵低減の観点からは大きな効果が得られるものの、金型交換作業による能率の低下の他、複数の形状の金型を準備、運用しなければならず、コスト面での問題を有している。
【0023】
本発明者らは、シーム疵を完全に撲滅するのではなく、その発生位置をできるだけ板幅端に近づけることにより、歩留まり悪化を改善する観点にて鋭意検討を行い、本発明を完成させた。すなわち、図2あるいは図3に示すように、金型の上流側と下流側の傾斜部にはカリバーをつけずに平坦な面とし、その間の圧延方向に平行な圧下面(以後、主平行面と呼ぶ)にのみカリバーを具備するスラブ幅圧下用の金型とした。幅プレスによるスラブの幅圧下では、幅圧下量ΔWが大きい領域において、ΔWと送りピッチf、そして金型上流側の傾斜部の傾斜角度θが以下の関係を満たす場合、スラブ全長にわたり、第1に金型上流側の傾斜部にて圧下され、その次の圧下パスにて主平行面で圧下されることになる。
ΔW>2・f・tanθ ・・・(1)
【0024】
つまり、本発明による金型を用いると、図7あるいは図8の状態のスラブコーナー部は第1にカリバーのない上流側傾斜部で圧下され、その次の圧下パスにてカリバーを有する主平行面で圧下されることになる。上流側傾斜部での圧下時には図10のように軟化部の変形はエッジ端に限定され、この状態から主平行面にカリバーを有する本発明による金型で圧下した場合の熱延鋼板状態でのエッジコーナー部近傍の状況を図11に示す。従来例である図9での軟化部の内側への入り込み量に対し、大幅に低減されることがわかる。そして、このことから熱延鋼板状態でのエッジからのシーム疵の発生距離Lも従来に比べて大きく低減され、シーム疵による歩留まりの悪化を低減することが可能である。また、本発明による幅圧下用金型を使用すると、最終的にはスラブ全長にわたりカリバーを有する主平行面で圧下されることから、幅プレス後のスラブコーナー部にはテーパーが形成されており、その後のコーナー部の急峻な温度低下も防止される。
【0025】
なお、図3に示すとおり、圧延方向上流側の金型端の傾斜部において、断続的に複数の圧延方向に平行な圧下面を持たせることにより、上流側の金型傾斜部にてスラブを圧下する際、スラブと金型とのスリップを防止できて、金型がスラブに当接する位置のずれを防止し、(1)式に示すとおり、スラブ全長にわたり、第1に金型上流側の傾斜部で圧下し、その次の圧下パスにて主平行面で圧下される状態が安定して得られるため、スラブコーナー部の温度低下を原因とするシーム疵をより有効に低減できる。
【0026】
本発明による幅圧下用金型を使用することにより、温度低下を原因とするシーム疵の低減が図れることは上述した通りであるが、従来金型にくらべて金型原単位の低減も図れるものである。通常、幅プレスの金型は、総重量にして数万トンのスラブの圧下を実施した後に交換され、圧下面に生じた摩耗やクラックを取り除くために再加工が施される。従来の金型では、金型全長にわたりカリバーを付与していたことから、それだけ加工に要する時間も長かったのに対し、本発明による幅圧下用金型では主平行面にのみしかカリバーを付与しないことから、加工に要する時間も短縮され、加工コストの低減が図れるものである。
【実施例1】
【0027】
本発明の実施例について、図1にて説明する。
【0028】
図1は、約1ケ月の間の自動車外板用の極低炭素鋼板のシーム疵のエッジからの位置Lを調査した結果である。調査は、熱間圧延ラインの冷却テーブル上に設置したCCDカメラ方式の欠陥計の出力を利用した。本欠陥計では、コイル全長にわたり両エッジ、表裏面の欠陥の検知が可能である。実際には、コイル全長ではなく、コイル尾端部付近のみにシーム疵が発生しているケースもあるが、発生位置からシーム疵と疑われた欠陥は全て集計の対象とした。また、データは1コイルにつき長手方向に5ケ所の位置での両エッジ、表裏面のシーム疵のエッジからの距離Lを平均した。
【0029】
熱延鋼板での板厚は2.6mm〜3.0mm、板幅は1550mm〜1850mmの範囲であった。比較例は図4に示した従来の幅圧下用金型、本発明例1は図2に示した上流側傾斜部に段が無い金型、本発明例2は図3に示した上流側傾斜部に複数の段がある金型を使用した場合である。調査対象材の加熱炉からの抽出温度は、いずれのケースでも1120℃〜1190℃程度、幅プレスによる幅圧下量は55mm〜350mm程度であった。
【0030】
1ケ月のデータの平均値は、比較例で32mm、本発明例1で11mm、本発明例2で12mmと、本発明によりシーム疵のエッジからの発生位置が従来の1/3程度にまで低減していることを確認した。これにより、熱延鋼板での予幅を低減することが可能となり、歩留まりを大きく改善できることを確認した。
【符号の説明】
【0031】
1 幅圧下用金型
2 カリバー
3 カリバー底部
4 カリバー傾斜部
5 スラブ
6 熱延鋼板
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱延鋼板、特に極低炭素鋼の熱延鋼板の板端部近辺に長手方向全長に発生するシーム疵を防止して表面品質や歩留まりを向上する、熱間スラブの幅圧下用金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱間スラブの幅変更手段として、連続鋳造プロセスにて製造されたスラブを温度が低下しないうちに、あるいは一旦温度が低下した後に加熱炉に投入して所定の温度まで加熱した状態にて、該熱間スラブの板幅方向に相対峙して設置された1対の金型にて熱間スラブを板幅方向に間欠的に圧下する幅プレス装置が用いられている。
【0003】
この幅プレス装置による幅圧下では、通常、900〜2000mm程度の幅の熱間スラブに対して最大300〜350mm程度の幅圧下が行われており、連続鋳造にて同一幅に鋳造されたスラブとは異なる幅の鋼板製品の製造を可能としている。これにより、連続鋳造プロセスでの鋳型交換による幅変更回数の低減、熱間圧延プロセスでのスケジュールフリー圧延の拡大、コイル単重の増大など、鋼板製造プロセスの生産性向上や合理化に大きく寄与しており、そのメリットは幅プレス装置による幅圧下能力が大きいほど拡大する。
【0004】
しかしながら、幅プレスによる幅圧下量を増大すると、鋼種によっては板幅エッジ近辺の変形特性に起因して線状の表面欠陥が発生することがある。極低炭素鋼では、オーステナイト相からフェライト相へ変態する温度が高く、かつ両相での変形能が異なることから(フェライト相は軟らかい)、温度低下が大きいスラブコーナー部付近はフェライトへの変態に伴って軟化するため、幅プレスによる幅圧下や水平圧延にてシーム疵と呼ばれる局所的なラップ状の線状疵が発生することがある。この線状疵は、コイル長手全長に発生するため、製品歩留まりを大きく悪化させる原因となる。
【0005】
そこで、熱間スラブのエッジコーナー部付近の温度低下を抑制する目的にて、幅プレス用金型の傾斜部を含む圧下面全面にカリバーと呼ばれる凹型の台形溝を形成し、幅圧下にてスラブ角部を鈍角に成形し、スラブ角部の温度低下を抑制することが提案されている(例えば特許文献1)。
【0006】
また、スラブコーナー部の温度低下を防止し、フェライトへの変態を防止する目的のため、幅圧下中は金型に冷却水をかけないことが提案されている(例えば特許文献2)。
【0007】
その他、幅プレスでの幅圧下直前でのスラブコーナー部の変態状況は、加熱炉からの抽出時のスラブ温度にも大きく依存していることから、加熱炉からの抽出時のスラブ温度が所定の閾値以上の場合にのみ、カリバーを有する幅プレス用金型を使用し、それ以外の場合はカリバーを有していない厚み方向に平坦な金型に交換して幅圧下を行うことが提案されている(例えば特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭63−192503号公報
【特許文献2】特開平10−156402号公報
【特許文献3】特開平11−90503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、前記したスラブコーナー部がフェライトに変態することによって発生するシーム疵を低減するための従来技術には、各々以下のような問題点を有していた。
【0010】
特許文献1に開示されている技術は、略直角形状であるスラブコーナー部が空冷や水冷にて特に冷えやすいことから、傾斜部を含む全面にカリバーを有する金型にて幅圧下してスラブコーナー部をテーパー状に形成することにより、局部的な温度低下を防止するために考案されたものである。しかしながら、幅圧下前に既にスラブコーナー部の温度が低下して局所的にフェライトに変態している場合には、カリバー部での圧下により軟化部(フェライト部)が局所的に変形して凸部を形成し、この凸部がその後の水平圧延にて折れ込んでシーム疵となるという問題点があった。
【0011】
また、特許文献2に開示されている技術も同様であり、特許文献2では幅プレス時にスラブコーナー部がフェライト変態していないことが前提でなければ効果がなく、このためにはスラブの加熱温度を所定温度以上に制約しなければならないという問題点があった。
【0012】
そして、特許文献3では、特許文献1の技術にて問題であったカリバー部での圧下による軟化部の局所変形を防止するため、スラブ温度によって傾斜部を含む全面にカリバーがある場合とカリバーが無い場合の金型を変更しなければならないことから、異なる形状の金型を準備しなければならず、金型の運用の面で問題点を有している。
【0013】
本発明は上述した従来技術の問題点を克服すべく鋭意検討を重ねてなされたものであり、熱延鋼板、特に極低炭素鋼の熱延鋼板の板端部近辺に長手方向全長に発生するシーム疵を防止して表面品質や歩留まりを向上する、熱間スラブの幅圧下用金型を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討を重ね、熱延鋼板、特に極低炭素鋼の熱延鋼板の板端部近辺に長手方向全長に発生するシーム疵を防止して歩留まり向上するための幅圧下用金型を想到した。本発明は、以上のような状況に鑑みなされたものであり、以下のような特徴を有する。
【0015】
[1]圧延方向上流側の金型端において圧延方向に対して金型間の距離が狭まる方向の傾斜部、圧延方向下流側の金型端において圧延方向に対して金型間の距離が広がる方向の傾斜部、そして前記両傾斜部間に圧延方向と平行な圧下面を有する幅圧下用金型を用いた熱間スラブの幅圧下用金型であり、圧延方向と平行な圧下面にのみスラブの上下コーナー部を圧下するように形成された凹型の台形溝を有することを特徴とする、熱間スラブの幅圧下用金型。
【0016】
[2]圧延方向上流側の金型端の傾斜部において、断続的に複数の圧延方向に平行な圧下面を有することを特徴とする、前記[1]に記載の熱間スラブの幅圧下用金型。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、熱延鋼板、特に極低炭素鋼の熱延鋼板の板端部近辺に長手方向全長に発生するシーム疵を防止して表面品質や歩留まりを向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明による鋼板幅方向エッジからのシーム疵発生位置Lの低減効果を示す図である。
【図2】本発明による幅圧下用金型の一例を示す図である。
【図3】本発明による幅圧下用金型の他の例を示す図である。
【図4】従来の幅圧下用金型の例を示す図である(特許文献1)。
【図5】金型に付与されるカリバー形状を示す図である。
【図6】極低炭素鋼の強度の温度依存性の例を示す図である。
【図7】スラブのエッジコーナー部がフェライトに変態している状態を示す模式図である。
【図8】スラブのエッジコーナー部がフェライト+オ−ステナイトの2相状態になっている状態を示す模式図である。
【図9】スラブのエッジコーナー部が軟化した状態にてカリバーを有する金型にて幅圧下したときの状況を示す模式図である。
【図10】スラブのエッジコーナー部が軟化した状態にてカリバーの無い金型にて幅圧下したときの状況を示す模式図である。
【図11】スラブのエッジコーナー部が軟化した状態にて、本発明による金型にて幅圧下したときの状況を示す模式図である。
【図12】従来のカリバーを有する幅圧下用金型を用いた場合の、熱延鋼板状態でのエッジシーム疵の発生状況を示す図である。
【図13】カリバーの無い幅圧下用金型を用いた場合の、熱延鋼板状態でのエッジシーム疵の発生状況を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態について、図2〜図13にて説明する。
【0020】
図6は、極低炭素鋼の強度(相当応力)と加工温度との関係の一例を示す図であり、オーステナイト組織(γ)である高温状態から温度が低下するにしたがい、材料の強度は上昇する。しかしながら、温度T1にてオーステナイト組織からフェライト組織(α)への変態が開始すると温度低下とともに強度が低下し、この強度低下(軟化)現象は完全にフェライト組織への変態が終了する温度T2まで継続する。そして、温度T2より低温領域では、再度、温度の低下ともに強度は上昇していく。温度の低下によりオーステナイト組織からフェライト変態が開始する温度T1は、材料に含有される炭素量に大きく依存しており、炭素量が少ないほど高温側となる。このため、特に極低炭素鋼のスラブでは、加熱炉抽出後、急激に温度が低下するエッジコーナー部の温度がT1以下となり、局所的に軟化現象が発生する。図7、8は、スラブのエッジコーナー部近辺の組織の状態を示した図であり、図7は最コーナー部の温度がT2以下にまで達して完全にフェライト組織(α)となっている場合、図8は最コーナー部の温度がT1以下でT2以上の場合、すなわちオーステナイトとフェライトの2相状態の場合である。
【0021】
図4は、前述の特許文献1に開示されている従来の幅プレス用金型の例であり、傾斜部にスラブの上下コーナー部を圧下するように形成された凹型の台形溝を有している。図5は、カリバーとよばれる凹型の台形溝とスラブの断面形状の関係であり、通常、台形溝の底部3の長さaはスラブ5の厚みhより短く、スラブのエッジコーナー部はカリバーの傾斜部4にて圧下される。そもそも、幅プレス金型のカリバーは、スラブのエッジコーナー部をテーパー状に成形することにより、その後の急峻な温度低下を防止することが目的である。しかしながら、図7、8に示したごとく幅プレスによる幅圧下を行う前に、既にスラブのエッジコーナー部付近にてフェライト変態が開始していることもあり、このような場合には図9に示したごとく金型カリバーの傾斜部4にて軟化した部分を圧下してしまうことから、板エッジより内側に入り込んだ部分にて局所的な凸変形が発生する。このような凸形状部を引き続いて水平圧延した場合、図12に示すごとく折れ込んだシーム疵と呼ばれる線状欠陥となることがある。この形態のシーム疵は熱延鋼板の両エッジ端からの距離Lが30mm程度の長手方向表裏面に発生しやすく、酸化スケールを噛み込んだ形態であることが多い。そして、図9に示した状況から容易に類推できるように、エッジからのシーム疵の位置は、幅プレスによる幅圧下量が大きいほど内部に達する。このことから、熱延後の板幅を予め製品幅より数十mm広くしておき、次工程以降でのエッジ部トリミングにてこのシーム疵が発生している領域を除去することが行われており、歩留まりを大きく悪化させている。スラブ加熱温度を上げることにより、幅圧下前でのスラブコーナー部のフェライトへの変態を抑制してシーム疵を発生させないことが望ましいが、サイクル構成や燃料原単位の観点から、シーム疵を防止する目的のみで定常的に加熱炉温度を上げることは困難である。
【0022】
幅プレスを原因とするシーム疵は、スラブのエッジコーナー部付近が図7あるいは図8のように局所的に軟化した状態から、金型のカリバーの傾斜部にてエッジコーナー部を潰すことにより発生することから、図7あるいは図8の状態から幅圧下する際にはカリバーはない方が好ましい。図10は、図7あるいは図8の状態からカリバーの無い金型にて幅圧下した時のエッジコーナー部付近の変形状態を示しており、軟化部が局所的に変形するものの、その発生位置は最エッジ付近となっている。このため、熱延鋼板に発生するシーム疵のエッジからの距離Lは、図13に示すごとく、カリバーを有する金型を使用した場合である図12に比べて大幅に低減する。前述した特許文献3では、このことから幅プレス直前でのスラブの温度によってカリバーを有する金型とカリバーの無い金型とを交換するものであるが、シーム疵低減の観点からは大きな効果が得られるものの、金型交換作業による能率の低下の他、複数の形状の金型を準備、運用しなければならず、コスト面での問題を有している。
【0023】
本発明者らは、シーム疵を完全に撲滅するのではなく、その発生位置をできるだけ板幅端に近づけることにより、歩留まり悪化を改善する観点にて鋭意検討を行い、本発明を完成させた。すなわち、図2あるいは図3に示すように、金型の上流側と下流側の傾斜部にはカリバーをつけずに平坦な面とし、その間の圧延方向に平行な圧下面(以後、主平行面と呼ぶ)にのみカリバーを具備するスラブ幅圧下用の金型とした。幅プレスによるスラブの幅圧下では、幅圧下量ΔWが大きい領域において、ΔWと送りピッチf、そして金型上流側の傾斜部の傾斜角度θが以下の関係を満たす場合、スラブ全長にわたり、第1に金型上流側の傾斜部にて圧下され、その次の圧下パスにて主平行面で圧下されることになる。
ΔW>2・f・tanθ ・・・(1)
【0024】
つまり、本発明による金型を用いると、図7あるいは図8の状態のスラブコーナー部は第1にカリバーのない上流側傾斜部で圧下され、その次の圧下パスにてカリバーを有する主平行面で圧下されることになる。上流側傾斜部での圧下時には図10のように軟化部の変形はエッジ端に限定され、この状態から主平行面にカリバーを有する本発明による金型で圧下した場合の熱延鋼板状態でのエッジコーナー部近傍の状況を図11に示す。従来例である図9での軟化部の内側への入り込み量に対し、大幅に低減されることがわかる。そして、このことから熱延鋼板状態でのエッジからのシーム疵の発生距離Lも従来に比べて大きく低減され、シーム疵による歩留まりの悪化を低減することが可能である。また、本発明による幅圧下用金型を使用すると、最終的にはスラブ全長にわたりカリバーを有する主平行面で圧下されることから、幅プレス後のスラブコーナー部にはテーパーが形成されており、その後のコーナー部の急峻な温度低下も防止される。
【0025】
なお、図3に示すとおり、圧延方向上流側の金型端の傾斜部において、断続的に複数の圧延方向に平行な圧下面を持たせることにより、上流側の金型傾斜部にてスラブを圧下する際、スラブと金型とのスリップを防止できて、金型がスラブに当接する位置のずれを防止し、(1)式に示すとおり、スラブ全長にわたり、第1に金型上流側の傾斜部で圧下し、その次の圧下パスにて主平行面で圧下される状態が安定して得られるため、スラブコーナー部の温度低下を原因とするシーム疵をより有効に低減できる。
【0026】
本発明による幅圧下用金型を使用することにより、温度低下を原因とするシーム疵の低減が図れることは上述した通りであるが、従来金型にくらべて金型原単位の低減も図れるものである。通常、幅プレスの金型は、総重量にして数万トンのスラブの圧下を実施した後に交換され、圧下面に生じた摩耗やクラックを取り除くために再加工が施される。従来の金型では、金型全長にわたりカリバーを付与していたことから、それだけ加工に要する時間も長かったのに対し、本発明による幅圧下用金型では主平行面にのみしかカリバーを付与しないことから、加工に要する時間も短縮され、加工コストの低減が図れるものである。
【実施例1】
【0027】
本発明の実施例について、図1にて説明する。
【0028】
図1は、約1ケ月の間の自動車外板用の極低炭素鋼板のシーム疵のエッジからの位置Lを調査した結果である。調査は、熱間圧延ラインの冷却テーブル上に設置したCCDカメラ方式の欠陥計の出力を利用した。本欠陥計では、コイル全長にわたり両エッジ、表裏面の欠陥の検知が可能である。実際には、コイル全長ではなく、コイル尾端部付近のみにシーム疵が発生しているケースもあるが、発生位置からシーム疵と疑われた欠陥は全て集計の対象とした。また、データは1コイルにつき長手方向に5ケ所の位置での両エッジ、表裏面のシーム疵のエッジからの距離Lを平均した。
【0029】
熱延鋼板での板厚は2.6mm〜3.0mm、板幅は1550mm〜1850mmの範囲であった。比較例は図4に示した従来の幅圧下用金型、本発明例1は図2に示した上流側傾斜部に段が無い金型、本発明例2は図3に示した上流側傾斜部に複数の段がある金型を使用した場合である。調査対象材の加熱炉からの抽出温度は、いずれのケースでも1120℃〜1190℃程度、幅プレスによる幅圧下量は55mm〜350mm程度であった。
【0030】
1ケ月のデータの平均値は、比較例で32mm、本発明例1で11mm、本発明例2で12mmと、本発明によりシーム疵のエッジからの発生位置が従来の1/3程度にまで低減していることを確認した。これにより、熱延鋼板での予幅を低減することが可能となり、歩留まりを大きく改善できることを確認した。
【符号の説明】
【0031】
1 幅圧下用金型
2 カリバー
3 カリバー底部
4 カリバー傾斜部
5 スラブ
6 熱延鋼板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延方向上流側の金型端において圧延方向に対して金型間の距離が狭まる方向の傾斜部、圧延方向下流側の金型端において圧延方向に対して金型間の距離が広がる方向の傾斜部、そして前記両傾斜部間に圧延方向と平行な圧下面を有する幅圧下用金型を用いた熱間スラブの幅圧下用金型であり、圧延方向と平行な圧下面にのみスラブの上下コーナー部を圧下するように形成された凹型の台形溝を有することを特徴とする、熱間スラブの幅圧下用金型。
【請求項2】
圧延方向上流側の金型端の傾斜部において、断続的に複数の圧延方向に平行な圧下面を有することを特徴とする、請求項1に記載の熱間スラブの幅圧下用金型。
【請求項1】
圧延方向上流側の金型端において圧延方向に対して金型間の距離が狭まる方向の傾斜部、圧延方向下流側の金型端において圧延方向に対して金型間の距離が広がる方向の傾斜部、そして前記両傾斜部間に圧延方向と平行な圧下面を有する幅圧下用金型を用いた熱間スラブの幅圧下用金型であり、圧延方向と平行な圧下面にのみスラブの上下コーナー部を圧下するように形成された凹型の台形溝を有することを特徴とする、熱間スラブの幅圧下用金型。
【請求項2】
圧延方向上流側の金型端の傾斜部において、断続的に複数の圧延方向に平行な圧下面を有することを特徴とする、請求項1に記載の熱間スラブの幅圧下用金型。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−86146(P2013−86146A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230243(P2011−230243)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
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