説明

熱間プレス成形方法

【課題】熱間プレス成形による生産性を高める。
【解決手段】インサート金型Aによるプレス工程(A2)を行った後、インサート金型Aを主型から取り外して冷却工程(A3)を行っている間に、インサート金型Bを主型に装着してプレス工程(B2)を行う。そして、インサート金型Bを主型から取り外して冷却工程(B3)を行っている間に、インサート金型Cを主型に装着してプレス工程(C2)を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱した金属板をプレス成形する熱間プレス成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車のボディのパネル部材として用いられるプレス成形品では、車体の軽量化及び衝突性能の向上を同時に図るために、高強度化への要求が高まっている。プレス成形品の強度向上を図る技術として、熱間プレス成形が知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。熱間プレス成形は、金属板を加熱する加熱工程と、加熱された金属板をプレス成形するプレス工程と、成形された金属板を冷却して熱処理(例えば焼き入れ)を施す冷却工程とを経て行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−248525号公報
【特許文献2】特開2005−248253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の熱間プレス成形では、金属板をプレス成形した後、成形した金属板を金型で挟持した状態で所定時間保持することにより、金属板の冷却が行われる。このように、金型内で金属板を冷却することにより、成形品を高い寸法精度で硬化させることができるが、金属板を冷却している間はプレス成形金型を使用することができないため、生産性が低下するという問題があった。
【0005】
上記のような事情に鑑みて、本発明は、熱間プレス成形による生産性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するためになされた本発明は、プレス機に取り付けられた主型と、主型に着脱可能に取り付けられ、金属板を成形する成形面を有するインサート金型とを備えたプレス成形金型により、加熱した金属板をプレス成形する熱間プレス成形方法であって、加熱した金属板をインサート金型内にセットするワークセット工程と、金属板をセットしたインサート金型を主型に装着し、インサート金型で金属板をプレス成形するプレス工程と、インサート金型を主型から取り外し、主型から取り外したインサート金型の内部で金属板を冷却する冷却工程とを有し、インサート金型を複数設け、何れかのインサート金型で冷却工程を行っている間に、他のインサート金型でプレス工程を行うものである。
【0007】
このように、主型から取り外したインサート金型の内部で金属板の冷却工程を行うことにより、冷却工程を行っている間でもプレス成形金型を使用することが可能となる。従って、インサート金型を複数設け、何れかのインサート金型で冷却工程を行っている間に、他のインサート金型でプレス工程を行うことで、プレス成形金型を効率的に使用することができ、生産性の向上を図ることができる。
【0008】
加熱した金属板が空気中の酸素に触れると、金属板の表面に酸化皮膜(スケール)が形成される。酸化皮膜が形成されると、金属板の表面に塗装(例えば防錆塗装)が定着しにくいため、錆の発生などの不具合が生じやすい。また、酸化皮膜が形成されると金属板が硬くなるため、トリミングや穴開けなどの加工による工具の摩耗が激しくなる。そこで、冷却工程を不活性ガス雰囲気中で行えば、金属板と空気との接触を回避することができるため、金属板の表面における酸化皮膜の形成を確実に防止できる。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、本発明によれば、熱間プレス成形による生産性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】プレス成形金型の断面図である。
【図2】上記プレス成形金型に設けられるインサート金型の断面図である。
【図3】上記プレス成形金型の断面図である(プレス完了時)。
【図4】上記インサート金型の断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る熱間プレス成形方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
図1に示すプレス成形金型は、プレス機に取り付けられた主型10と、主型に着脱可能に取り付けられたインサート金型20とを備える。主型10は、プレス機の固定プラテン1に取り付けられた固定主型11と、プレス機の可動プラテン2に取り付けられた可動主型12とからなる。インサート金型20は、固定主型11に着脱可能に取り付けられた第1インサート金型21と、可動主型12に着脱可能に取り付けられた第2インサート金型22とを有する。固定主型11には第1インサート金型21を取り付けるための凹部11aが設けられ、可動主型12には第2インサート金型22を取り付けるための凹部12aが設けられる。凹部11a、12aは、インサート金型20を側方(可動主型12の昇降方向と直交する方向)から着脱可能な構成とされ、具体的には、凹部11a、12aが、固定主型11及び可動主型12の一側面に開口している(図示省略)。第1インサート金型21及び第2インサート金型22には、金属板を成形するための成形面21a、22aが形成される。尚、以下の説明では、可動主型12の昇降方向を上下方向と言う。
【0013】
インサート金型20には、第1インサート金型21及び第2インサート金型22を上下方向にガイドするガイド部23が設けられる。ガイド部23は、例えば、第1インサート金型21に固定され、上下方向に延びるガイド棒と、第2インサート金型22に形成され、内周にガイド棒が嵌合挿入されるガイド穴(図示省略)とで構成される。
【0014】
次に、本発明の一実施形態に係る熱間プレス成形方法を示す。本実施形態の熱間プレス成形方法は、上記のプレス成形金型を用いて行われ、(0)加熱工程、(1)ワークセット工程、(2)プレス工程、(3)冷却工程、及び(4)ワーク取出工程を経て行われる。
【0015】
(0)加熱工程
まず、平板状の金属板W(例えば鉄板)を所定形状にトリミングした後、図示しない加熱炉に投入して所定温度(焼入れ温度)まで加熱する(加熱工程、図示省略)。
【0016】
(1)ワークセット工程
次に、図2に示すように、主型10から取り外したインサート金型20の内部に加熱した金属板Wをセットする。このとき、第1インサート金型21及び第2インサート金型22は、上下方向に離反した状態で保持されている。
【0017】
(2)プレス工程
金属板Wがセットされたインサート金型20を、主型10に装着する(図1参照)。具体的には、第1インサート金型21を固定主型11の凹部11aに装着すると共に、第2インサート金型22を可動主型12の凹部12aに装着する。本実施形態では、第1インサート金型21と第2インサート金型22とがガイド部23により昇降方向でガイドされているため、第1インサート金型21に対する第2インサート金型22の位置は保証されている。従って、第1インサート金型21と固定主型11との固定精度、及び、第2インサート金型22と可動主型12との固定精度は、プレスの成形精度に影響しないため、これらの固定精度を緩和できる。例えば、第1インサート金型21及び第2インサート金型22を、固定主型11の凹部11a及び可動主型12の凹部12aにそれぞれ嵌合させることで、装着が完了する。尚、インサート金型20の主型10への装着方法は上記に限らず、例えばボルト等を用いて固定してもよい。
【0018】
インサート金型20を主型10に装着したら、可動プラテン2を降下させ、可動主型12及び第2インサート金型22を一体に降下させる。そして、第2インサート金型22の成形面22aと第1インサート金型21の成形面21aとで、金属板Wを上下から挟持して所定の形状にプレス成形する(図3参照)。
【0019】
(3)冷却工程
金属板Wのプレス成形が完了したら、金属板Wを挟んだ状態のままインサート金型20を主型10から取り外す(図4参照)。本実施形態では、固定主型11及び可動主型12の一側面に設けられた凹部11a、12aの開口部から、インサート金型20を容易に取り外すことができる。例えば、可動プラテン2を僅かに上昇させてプレス機による圧迫力を解放した後、金属板Wを挟んだ状態のインサート金型20を凹部11a、12aの開口部から側方に引き出すことにより、主型10から取り外される。尚、インサート金型20の取り外し方法はこれに限らず、例えば可動プラテン2を上死点まで上昇させた状態で、インサート金型20を主型10から取り外すようにしてもよい。
【0020】
そして、主型10から取り外したインサート金型20の内部で金属板Wを冷却し、金属板Wに熱処理(例えば焼き入れ)を施す。冷却工程は、例えば、金属板Wを挟持した状態のインサート金型20を常温で20秒程度放置することにより行われる。このように、金属板Wをインサート金型20で挟持した状態のまま焼き入れを施すことにより、金属板Wを高い寸法精度で硬化させることができる。また、主型10から分離してからインサート金型20を冷却することで、主型10の内部で冷却する場合と比べて、早期に冷却することができる。この冷却工程は、不活性ガス(例えばアルゴンガス)雰囲気中で行われ、例えば不活性ガスで満たされた密閉空間の内部で行われる。これにより、金属板Wと空気中の酸素との接触が回避され、金属板Wの酸化を確実に防止することができる。尚、冷却工程だけでなく、プレス工程も不活性ガス雰囲気中で行うようにすれば、金属板Wの酸化をより一層確実に防止できる。一方、金属板Wの酸化が特に問題とならない場合には、冷却工程を空気雰囲気中で行ってもよい。
【0021】
(4)ワーク取出工程
金属板Wが所定温度以下まで冷却されたら、インサート金型20から成形された金属板Wが取り出される。以上により熱間プレス成形が完了する。その後、空になったインサート金型20をさらに冷却し、このインサート金型20に、加熱された新たな金属板がセットされる。以下、上記と同様の工程を経て、金属板の熱間プレス成形が繰り返される。
【0022】
上記の熱間プレス成形方法では、主型10から取り外したインサート金型20の内部で金属板Wの冷却工程が行われるため、冷却工程を行っている間でもプレス成形金型(プレス機及び主型10)を使用することができる。従って、同形状の複数のインサート金型を用いて上記の熱間プレス成形を行えば、何れかのインサート金型で冷却工程を行っている間に、他のインサート金型を主型10に装着してプレス工程を行うことができる。
【0023】
例えば、図5に、4個のインサート金型A〜Dを用いて上記の熱間プレス成形方法を行う場合の工程を示す。同図に示す例では、インサート金型Aによるプレス工程(A2)を行った後、インサート金型Aを主型から取り外して冷却工程(A3)を行っている間に、インサート金型Bを主型に装着してプレス工程(B2)を行う。そして、インサート金型Bを主型から取り外して冷却工程(B3)を行っている間に、インサート金型Cを主型に装着してプレス工程(C2)を行う。同様に、インサート金型Cを主型から取り外して冷却工程(C3)を行っている間に、インサート金型Dを主型に装着してプレス工程(D2)を行う。そして、インサート金型Dの冷却工程(D3)を行っている間に、新たな金属板がセットされたインサート金型Aを主型に再び装着し、プレス工程(A2’)が行われる。以上のように、複数のインサート金型A〜Dを循環して使用しながら、熱間プレス成形を順次行うことができる。
【0024】
このように、上記の熱間プレス成形方法によれば、何れかのインサート金型で冷却工程を行っている間に、他のインサート金型でプレス工程を行うことで、プレス成形金型(プレス機)を効率的に使用することができ、生産性の向上が図られる。また、上記のように冷却工程とプレス工程とを並行して行うことで、熱間プレス成形工程全体のサイクルタイムを延長することなく、冷却工程の時間を十分に長く取ることが可能となる。
【符号の説明】
【0025】
1 固定プラテン
2 可動プラテン
10 主型
11 固定主型
12 可動主型
20 インサート金型
21 第1インサート金型
22 第2インサート金型
23 ガイド部
W 金属板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス機に取り付けられた主型と、主型に着脱可能に取り付けられ、金属板を成形する成形面を有するインサート金型とを備えたプレス成形金型により、加熱した金属板をプレス成形する熱間プレス成形方法であって、
加熱した金属板をインサート金型内にセットするワークセット工程と、金属板をセットしたインサート金型を主型に装着し、インサート金型で金属板をプレス成形するプレス工程と、インサート金型を主型から取り外し、主型から取り外したインサート金型の内部で金属板を冷却する冷却工程とを有し、
インサート金型を複数設け、何れかのインサート金型で前記冷却工程を行っている間に、他のインサート金型で前記プレス工程を行う熱間プレス成形方法。
【請求項2】
前記冷却工程を、不活性ガス雰囲気中で行う請求項1記載の熱間プレス成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−27903(P2013−27903A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165507(P2011−165507)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)