説明

熱間加工性に優れた高強度高導電性銅合金

【課題】熱間加工性に優れ、曲げ加工性を損なうことなく強度、導電性、熱伝導性に優れた電子部品用銅合金を提供する。
【解決手段】質量割合にて、Ni:0.50〜1.00%、P:0.10〜0.25%、Mg:0.01〜0.20%、Cr:0.03〜0.45%を含有し、Ni/P:4.0〜5.5で且つ、O:0.0050%以下であり、Fe、Co、Mn、Ti及びZrが合計で0.05%以下で残部がCu及び不可避的不純物から成る銅合金であり、長径a、短径bとした時、アスペクト比a/bが2〜50で且つ短径bが10〜25nmなる第2相粒子(A)を有し、上記第2相粒子(A)とアスペクト比が2未満で且つ長径aが20〜50nmで短径bが25nm以下となる第2相粒子(B)の面積和が、長径aが5nm以上の全第2相粒子の面積の総和の80%以上である熱間加工性に優れた高強度高導電性銅合金であり、任意でZn、Sn及びInの1種以上を合計0.01〜1.0%含んでもよい銅合金。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度、高導電性の電子機器部品用銅合金に関するものであり、特に小型、高集積化された半導体機器リード用及び端子コネクタ用銅合金において、熱間加工性に優れ、曲げ加工性を損なうことなく特に強度、導電性、熱伝導性に優れた電子部品用銅合金に関する。
【背景技術】
【0002】
銅及び銅合金は、コネクタ、リード端子等の電子部品及びフレキシブル回路基板用として多用途に渡って幅広く利用されている材料であり、急速に展開するIT化による情報機器の高機能化及び小型化・薄肉化に対応して更なる特性(強度、曲げ加工性、導電性)の向上を要求されている。
又、ICの高集積化に伴い、消費電力の高い半導体素子が多く使用されるようになり、半導体機器のリードフレーム材には、放熱性(熱伝導性)の良いCu−Ni−Si系やCu−Fe−P、Cu−Cr−Sn、Cu−Ni−P等の析出型合金が使用されるようになった。
特許文献1では、Cu−Ni−P系合金中のNi、P、Mg成分量を調整し、強度及び導電性、耐応力緩和性を備えた合金が報告されている。
【特許文献1】特開2000−273562号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一般に、銅合金の鋳造、例えば連続或いは半連続鋳造において、鋳塊はモールドにより抜熱され、塊の表層の数mmを除いて内部はやや時間をかけて凝固する。この際に、凝固時及び凝固後の冷却過程において、室温におけるCu母相への固溶の限界を超えて含有された合金元素が結晶粒界及び結晶粒内に晶出又は析出する。特にCu−Ni−P系合金の結晶粒界に晶出又は析出したNi−P系化合物は母相のCuより融点が低いため、凝固中の不均一な歪等で発生する応力や外力により、Ni−P系化合物の部分で破壊が生じる。また、熱間圧延の加熱時においても、Ni−P系化合物が軟化又は液相化すると熱間圧延時に割れが生じる。このようにCu−Ni−P系合金には鋳造時の割れや熱間圧延時の割れが発生する問題があったが、特許文献1ではそのような問題は意識されていない。
本発明の目的は、鋳造工程中や熱間加工工程における加熱中または熱間加工中に発生する割れを防止し、熱間加工性が良好で曲げ加工性を損なうことなく高強度、高導電性及び高熱伝導性を発揮するCu−Ni−P系合金からなる電子部品用銅合金を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは上記の目的を達成すべく、研究を重ねた結果、下記構成を採用することにより曲げ加工性を損なうことなく優れた熱間加工性と優れた強度及び導電性を具備するCu−Ni−P−Mg系合金が得られることを見出した。
本発明は、Ni:0.50〜1.00%(本明細書において、成分割合を表す%は質量%とする)、P:0.10〜0.25%、Mg:0.01〜0.20%、Cr:0.03〜0.45%を含有し、NiとPの含有量比率Ni/P:4.0〜5.5で且つ、O:0.0050%以下であり、Fe、Co、Mn、Ti及びZrの含有量が合計で0.05%以下、好ましくは0.03%以下で残部がCu及び不可避的不純物から成る銅合金であり、
長径:a、短径:bとした時、アスペクト比a/bが2〜50で且つ短径bが10〜25nmなる第2相粒子(A)を有し、上記第2相粒子(A)とアスペクト比が2未満で且つ長径aが20〜50nmで短径bが25nm以下となる第2相粒子(B)の面積和が、銅合金中の長径aが5nm以上の全第2相粒子の面積の総和の80%以上を占めることを特徴とする熱間加工性に優れた高強度高導電性銅合金に関する。
本発明の銅合金は、更にZn、SnおよびInのうち1種類以上を合計で0.01〜1.00%含むこともできる。
【発明の効果】
【0005】
本発明では、Cu−Ni−P−Mg系合金へCrを特定量添加することによって、Ni−P化合物の結晶粒界への晶出又は析出を抑制し、これによって粒界の高温脆性を改善して熱間加工性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次に、本発明において銅合金の成分組成の数値範囲を限定した理由をその作用と共に説明する。
[Ni量]
Niは合金中に固溶して強度、耐応力緩和特性及び耐熱性(高温での高強度維持性)を確保する作用があると共に、後述するPとの化合物を析出させて合金の強度上昇に寄与する。しかし、その含有量が0.50%未満であると所望の強度が得られず、一方、1.00%を超えてNiを含有させると導電率の低下が顕著となり、引張強さ650MPa以上の高強度で且つ導電率45%IACS以上の高導電性が得られなくなる。従って本発明の合金のNi含有量は0.50〜1.00%、好ましくは0.60〜0.90%である。
【0007】
[P量]
Pは、耐熱性を向上させ、且つNiとの化合物を析出して合金の強度を向上させる。P含有量が0.10%未満であると化合物の析出が不充分であるため、所望の強度が得られない。一方、P含有量が0.25%を超えて含有させるとNiとPの含有バランスが崩れて合金中のPが過剰になり、固溶P量が増大して導電率の低下が顕著となる。従って本発明の合金のP含有量は0.10〜0.25%、好ましくは0.12〜0.20%である。
【0008】
[Mg量]
Mgは、Ni及びPとの化合物を析出して合金の強度及び耐熱性を向上させる。
また、Mgの添加は合金中の析出物(第2相粒子)の形状制御を可能とし、Cu−Ni−P系合金を後述する方法においてMg添加無しに製造すると、アスペクト比a/bが1〜5の粒状に近い析出物が得られるに対して、Mgを添加するとアスペクト比a/bが2〜50の繊維状の析出物が得られる。従って、Mgを添加して繊維状析出物を得た場合は、Ni、Pが同量のCu−Ni−P系合金に比べより高強度が得られる。さらに、その効果は、Mgが固溶して得られる強度の上昇より大きい。
ただし、Mg含有量が0.01%未満であると所望の強度及び耐熱性が得られない。一方、Mg含有量が0.20%を超えて含有させると熱間圧延時の加工性が著しく低下すると共に導電率の低下が顕著となる。また、析出物が粗大化しやすくなり、大きさが特許請求の範囲から外れる析出物が多くなり、第2相粒子(A)及び(B)の合計面積率を低下させることとなり好ましくない。従って本発明の合金のMg含有量は0.01〜0.20%、好ましくは0.02〜0.15%である。
【0009】
[Cr量]
一般にCu−Ni−P系合金の凝固時の冷却速度が遅い場合、例えば1100℃から950℃への冷却速度が30℃/分未満の時、Ni−P系化合物が結晶粒界に集約化、粗大化を伴って晶出するため好ましくない。
Crは、Cu−Ni−P系合金の凝固時や凝固後の冷却過程及び熱間加工の加熱時に、Ni−P化合物の結晶粒界への晶出又は析出を抑制し、合金の熱間加工性を向上させる。しかし、その含有量が0.03%未満であると熱間加工性の改善効果が得られず、一方、0.45%を超えてCrを含有させるとNi−P−Cr、Cr−P等の化合物が溶解中又は凝固中に生じたり、Crの晶出物が生じてしまう。これらのCrを含む化合物及び晶出物は、溶体化処理でCu母相中に固溶せず、そのため時効処理で析出するNi−P化合物が減少し、合金の強度低下を招く。更にNi−P−Cr、Cr−P等の化合物は、製品では長径5μm以上の介在物となって製品に残存し、製品の表面欠陥、曲げ加工時の割れの起点、めっき処理時の欠陥の起点になるため、好ましくない。従って、本発明の合金のCr含有量は、0.03〜0.45%、好ましくは0.05〜0.30%である。
【0010】
[Ni/P比]
NiとPの含有量が上記の限定範囲内にあってもNiとPの含有比率Ni/Pが第2相粒子の適切な化学量論的組成比から外れると、すなわち、4.0未満の場合にはPの固溶する量が増大し、5.5を超えた場合にはNiの固溶する量が増大してしまい、導電率の低下が顕著となり好ましくない。従って本発明の合金のNi/P比は4.0〜5.5、好ましくは4.5〜5.0である。
【0011】
[O量]
OはP及びCuと合金中で反応しやすく、合金中に酸化物の状態(Cu−P−O)で存在するとNiとPの化合物の析出を阻害し、強度向上が低下すると共に曲げ加工性が劣化する。従って、本発明の合金のO含有量は、0.0050%以下、好ましくは0.0030%以下である。
【0012】
[Fe、Co、Mn、Ti及びZr]
Fe、Co、Mn、Ti及びZrは、いずれもPと化合物を生成しやすく、溶解や凝固中にFe−P、Co−P、Mn−P、Ti−P、Zr−P等の化合物が生じ、また、時効処理でこれらの化合物が析出するとNi−P系の第2相粒子が減少し、合金の強度低下を招く。このため、Fe、Co、Mn、Ti及びZrの単独または2種類以上の合計含有量は0.05%以下、好ましくは0.03%以下である。
【0013】
[Zn、Sn、In量]
Zn、Sn及びInは、いずれも合金の導電性を大きく低下させずに主として固溶強化により強度を向上させる作用を有している。従って必要に応じてこれらの金属を1種類以上添加するが、その含有量が総量で0.01%未満であると固溶強化による強度向上の効果が得られず、一方、総量で1.0%以上を添加すると合金の導電率及び曲げ加工性低下が顕著になる。このため、単独添加又は2種類以上の複合添加されるSn及びIn量は、0.01〜1.0%、好ましくは総量で0.05〜0.8%である。なお、これらの元素は本発明においては、意図的に添加される元素であり、不可避的不純物とはみなさない。
【0014】
[第2相粒子の大きさと面積率]
本発明の第2相粒子には、析出物、晶出物、介在物等が含まれる。本発明の組成範囲内では通常、Ni−P−Mg系第2相粒子以外の組成の第2相粒子は析出せず、このNi−P−Mg系第2相粒子は溶体化処理に加えて時効処理で特定の大きさ及び形状に制御できる。本発明ではその他の第2相粒子として、溶解及び鋳造中に生じる「晶出物」(Ni−P−Mg、Ni−P−Mg−Cr)や「介在物」(Cu−O、Cu−Ni−P−Mg−O、Cu−Ni−P−Mg−Cr−O、Cu−Sなどの酸化物や硫化物)が存在する可能性があるが、これらが存在する場合、その大きさは100nmから1250nmを超え、溶体化処理及び時効処理によっても本発明の範囲内の大きさに制御できない。そのため、晶出物を合金中に残存させないよう溶体化処理を十分に行い、晶出物や介在物の生成を抑制するため、P、Mg、Crなどの添加量の上限を規定し、酸化物(介在物)の生成を抑制するため、O含有量を低く規定する。
【0015】
本発明の銅合金の第2相粒子の長径をa(nm)、短径をb(nm)としてアスペクト比a/bによって分類すると、a/b=2〜50程度のアスペクト比が大きな針状及び繊維状の第2相粒子(A’)とa/bが2未満の粒状の第2相粒子(B’)の2種を生成させることが可能である。時効処理前に行われる圧延加工の加工歪ηを0.4未満、好ましくは0.1未満にすることで針状及び繊維状の第2相粒子(A’)が生成し、時効処理前の加工歪ηを0.4以上にすることで粒状の第2相粒子(B’)が生成する。
本発明で最終冷間圧延前の第2相粒子の大きさを規定する理由は次の通りである。
本発明の第2相粒子は、最終冷間圧延後に析出強化及び加工強化に寄与するが、短径bが25nmを超える第2相粒子は、個々の第2相粒子の体積が大きいため、銅合金中の第2相粒子の分散間隔が大きくなり過ぎて、目的の析出強化及び加工強化が得られない。一方、短径bが10nm未満の第2相粒子は、最終冷間圧延で加工歪η=2以上の圧延加工を行うと、析出物が破壊、分解して銅中に再固溶してしまい、導電率を低下させて好ましくない。
短径が10〜25nmの第2相粒子は、最終冷間圧延で加工歪η=2以上の圧延加工を行っても再固溶しにくく、10nm以上の第2相粒子として存在し、強度及び導電性の向上に寄与する。特に短径bが20〜25nmの第2相粒子は圧延前後で大きさの変化が少なく、最終冷間圧延によって析出物が破壊、固溶しづらくなる。
又、長径aが20nm未満であると最終冷間圧延によって析出物が破壊、分解して銅中に再固溶してしまう。
更に、長径aが20nm以上、短径bが10〜25nmであったとしても、アスペクト比が50を超えると、個々の第2相粒子の体積が大きいため、銅合金中の第2相粒子の分散間隔が大きくなり過ぎて、目的の析出強化及び加工強化が得られない。
【0016】
尚、上記長径a及び短径bは、最終冷間圧延前の合金条を圧延方向に平行に厚み直角に切断し、断面画像を画像解析装置を用いて長径aが5nm以上の第2相粒子全てについて測定した全第2相粒子の長径及び短径それぞれの平均値である。また、加工歪ηは、圧延前の板厚をt0、圧延後の板厚をtとした場合、η=ln(t0/t)で表される。
上記より、本発明の銅合金の最終冷間圧延前の第2相粒子には、アスペクト比a/bが2〜50で且つ短径bが10〜25nmの第2相粒子(A)が含まれ、任意でアスペクト比a/bが2未満で且つ長径aが20〜50nmで短径bが25nm以下である第2相粒子(B)を含むものである。
本発明の銅合金中の第2相粒子の大きさ及びアスペクト比は、最終冷間圧延前に測定しているが、本発明の第2相粒子(A)及び(B)の範囲内であれば最終冷間圧延後でもその大きさ及びアスペクト比は保持される。
【0017】
しかしながら、全ての第2相粒子を上記a、b及びa/bの範囲内にすることは困難であるため、第2相粒子(A)及び(B)の全析出物に対する割合が重要になる。そこで、合金中の長径aが5nm以上の全第2相粒子の面積総和に対する、第2相粒子(A)及び(B)の面積和の割合を面積率Cとすると、本発明の面積率Cは80%以上である。尚、「全第2相粒子」とは、長径aが5nm以上の第2相粒子全てを言う。
面積率Cが80%未満の場合とは、短径bが10nm未満若しくは25nmを超える第2相粒子、長径aが20nm未満の第2相粒子、又はアスペクト比が50を超える第2相粒子が多く存在する場合である。例えば、長径aが50nmを超え、且つ短径bが25nmを超える第2相粒子や、溶解鋳造時に生じた晶出物が熱間圧延や溶体化処理で固溶せずに残存した長径aが1250nm以上の第2相粒子が多く存在する時には、強度向上に寄与する微細な第2相粒子の数が少なく、第2相粒子の分散間隔が大きくなるため、圧延加工の加工硬化によって所望の強度は得られない。一方、長径aが20nm未満又は短径bが10nm未満の第2相粒子は、圧延加工によって再固溶してしまうため、所望の導電率は得られない。
【0018】
上記本発明の要件を満たすCu−Ni−P−Mg系合金は、通常当業者が製造において採用する、インゴット鋳造、熱間圧延、溶体化処理、中間冷間圧延、時効処理、最終冷間圧延、歪取り焼鈍等において、適宜加熱温度、時間、冷却速度、圧延率等を選択することにより製造することが出来る。例えば、(1)溶解・鋳造、(2)熱間圧延、(3)酸化スケール除去(面削)、(4)冷間圧延(厚さ調整)、(5)溶体化処理、(6)冷間圧延、(7)時効処理、(8)表面清浄処理(研磨や酸洗)、(9)冷間圧延(最終)、(10)歪み取り焼鈍の順で一部の工程を繰り返したり省略したりして製造する。
本発明の銅合金の最終冷間圧延前で、アスペクト比a/bが2〜50で且つ短径bが10〜25nmの第2相粒子(A)を得るには、(7)時効処理前の(6)冷間圧延の加工歪ηを0.4未満、好ましくは0.1未満として、時効処理の際の温度及び時間等を適宜調整する。また、アスペクト比a/bが2未満で且つ長径aが20〜50nmで短径bが25nm以下の第2相粒子(B)を得るには、(7)時効処理前の(6)冷間圧延の加工歪ηを0.4以上、好ましくは1.5程度として、時効処理の際の温度及び時間を適宜調整する。
【実施例】
【0019】
試料の製造
電気銅或いは無酸素銅を主原料とし、ニッケル(Ni)、15%P−Cu母合金(P)、10%Mg−Cu母合金(Mg)、10%Cr−Cu母合金(Cr)、亜鉛(Zn)、錫(Sn)、インジウム(In)、10%Fe−Cu(Fe)、10%Co−Cu(Co)、25%Mn−Cu(Mn)、スポンジチタン(Ti)及びスポンジジルコニウム(Zr)を副原料とし、高周波溶解炉にて真空中又はアルゴン雰囲気中で溶解し、45×45×90mmのインゴットに鋳造した。インゴットの熱間圧延試験を行い、熱間圧延で割れが発生しなかったインゴットは、熱間圧延(加工率78%)、中間冷間圧延(加工率88%又は44%)、溶体化処理(850℃、1時間)、冷間圧延(加工率0%又は78%)、時効処理(500℃、5時間)、最終冷間圧延(加工率86%)、歪取り焼鈍(450℃、0.01時間)の順に実施し、厚さ0.15mmの平板とした。得られた板材各種の試験片を採取して試験を行い、「強度」及び「導電率」の評価を行った。
【0020】
インゴットの熱間加工性評価
「熱間加工性」は、熱間圧延によって評価した。即ち、インゴットを45×45×25mmに切断し、850℃に1時間加熱後、厚さ25mmから5mmまで3パスで熱間圧延試験を行った。熱間圧延後の試料の表面及びエッジについて目視により割れが認められた場合を、“割れ有り”、表面及びエッジに割れが無く、平滑な場合を、“割れなし”とした。
本発明では、熱間加工性に優れたとは、上記評価で“割れなし”であることをいう。
試験片の物性評価
「強度」については、JIS Z 2241に規定された引張試験により13号B試験片を用いて行い、引張強さを測定した。
本発明では、高強度とは、上記評価で引張強さ650MPa以上であることをいう。
「導電率」は4端子法を用いて試験片の電気抵抗を測定し、%IACSで表示した。
本発明では、高導電とは、上記評価で導電率45%IACS以上であることをいう。
「曲げ加工性」は90度W曲げ試験で評価した。試験はCES−M0002−6に準拠し、R−0.1mmの治具を使用して50kNの荷重で90度曲げ加工を行った。曲げ部の評価は、中央部山表面の状況を光学顕微鏡で観察して割れが発生したものを×、シワが発生したものを△、良好なものを○とした。曲げ軸は圧延方向に対して直角(Good way)とした。
【0021】
Ni−P系第2相粒子の評価
最終冷間圧延前の合金条を圧延方向に平行に厚み直角に切断し、走査型電子顕微鏡及び透過型電子顕微鏡を使用して、断面の第2相粒子を10視野観察した。第2相粒子の大きさが5〜50nmの場合は50万倍〜70万倍の視野(約1.4×1010〜2.0×1010nm2)、100〜2000nmの場合は5万倍〜10万倍の視野(約1.0×1013〜2.0×1013nm2)で撮影を行った。撮影した写真の画像を画像解析装置(株式会社ニレコ製、商品名ルーゼックス)を用いて長径aが5nm以上の第2相粒子のすべてについて個々に長径a、短径b、及び面積を測定した。これら第2相粒子からランダムに100個選び、全第2相粒子の長径aが5nm以上の全ての第2相粒子の面積の総和に対して、アスペクト比a/bが2〜50で且つ短径bが10〜25nmの第2層粒子(A)の面積とアスペクト比a/bが2未満で且つ長径aが20〜50nmで短径bが25nm以下の第2相粒子(B)の面積の総和の割合を面積率C(%)として算出した。
尚、最終冷間圧延(通常は加工歪η=2以上)により、冷間圧延前の第2相粒子の短径bが10nmより小さい第2相粒子は固溶して観察されないが、短径bが10nm以上の第2相粒子は最終冷間圧延後もその長径、短径及びアスペクト比を保つことを確認した。
【0022】
時効処理前の冷間圧延の加工歪ηと第2相粒子(A)の割合(%)は(A)及び(B)合計量に対して下記の通りであり、最終冷間圧延後も(A)の割合は変化しなかった。
η=0:(A)100%
η=0.4:(A)90%
η=1.0:(A)12.5%
η=1.5:(A)1%
η=1.6:(A)0%
【0023】
本発明に係る熱間加工性に優れた高強度高導電性銅合金の実施例を、表1に示す成分組成の銅合金について、比較例とともに説明する。本発明の合金実施例1〜8は、熱間圧延時に割れが発生することなく、優れた強度及び導電率を具備していた。
一方、比較例9〜28までの結果を検討すると、比較例9〜12については、Cr量が本発明の範囲外であるために、また、比較例13は、Mgの添加量が0.20%を超えるため、熱間圧延で割れが生じた。比較例14は、Mg量が本発明の下限未満であるため、強度が低い。比較例15は、Zn、SnとInの添加量の合計が1.0%を超えるため、比較例16は、Inの添加量の合計が1.0%を超えるため、導電率の低下が生じ曲げ加工性に劣るものであった。
比較例17は、Ni/P比が上限を超えるために、Niの固溶する量が増大して導電率の低下が生じ、第2相粒子の量が少ないため、強度も低い。比較例18は、Ni/P比が適切な組成比の下限未満であるために、Pの固溶する量が増大して導電率の低下が生じ、強度が低い。比較例19は、Ni及びPの添加量が本発明の規定する範囲の下限未満であるため、強度が低い。比較例20は、Ni量及びNi/P比が上限を超え、比較例21はP量が本発明の規定する範囲の上限を超えてNi/P比が下限を超えるため、導電率の低下が生じた。比較例22は、Oの含有量が0.050%を超えるため、Cu−P−Oの酸化物が溶解時に生成し、Ni−P系の第2相粒子量が減少し、強度が低く、曲げ加工性が劣り、導電率も低い。比較例23は、Crの含有量が本発明の規定する範囲の上限を超えるため、Ni−P−CrやCr−P等が溶解・鋳造時に生成、晶出したことにより、Ni−P系の第2相粒子が減少し、強度と導電率が低く、曲げ加工性も劣る。比較例24及び25は、Fe、Co、Mn、Ti及びZrの含有量が本発明の規定する範囲の上限を超えるため、これらの元素とPが化合物を生成したことにより、Ni−P系の第2相粒子が減少し、強度が低く、比較例25は導電率も低い。比較例26は、Ni−P系第2相粒子の平均長径が本発明の規定する範囲から高く外れるため、冷間圧延による強度上昇が得られず、強度が低い。比較例27は、第2相粒子の短径が本発明の規定範囲から低く外れるため、また比較例28は、Ni−P系第2相粒子の長径、短径がともに本発明の規定する範囲から低く外れたため、冷間圧延でNi−P系第2相粒子が固溶し、曲げ加工性が劣り、導電率が低い。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量割合にて、Ni:0.50〜1.00%、P:0.10〜0.25%、Mg:0.01〜0.20%、Cr:0.03〜0.45%を含有し、NiとPの含有量比率Ni/P:4.0〜5.5で且つ、O:0.0050%以下であり、Fe、Co、Mn、Ti及びZrの含有量が合計で0.05%以下で残部がCu及び不可避的不純物から成る銅合金であり、
長径:a、短径:bとした時、アスペクト比a/bが2〜50で且つ短径bが10〜25nmなる第2相粒子(A)を有し、上記第2相粒子(A)とアスペクト比が2未満で且つ長径aが20〜50nmで短径bが25nm以下となる第2相粒子(B)の面積和が、銅合金中の長径aが5nm以上の全第2相粒子の面積の総和の80%以上を占めることを特徴とする熱間加工性に優れた高強度高導電性銅合金。
【請求項2】
Zn、Sn及びInのうち1種以上を合計で0.01〜1.0%含むことを特徴とする請求項1に記載された熱間加工性に優れた高強度高導電性銅合金。