説明

熱間圧延方法

【課題】圧延時の圧着によるザクの解消をより効率的に促進することが可能な、手法を与える。
【解決手段】鋼材に、2軸以上の方向に圧延ロールによる圧下を施すに当たり、該圧延ロールとして、ロール直径:800mm以上、かつ(ロール直径)/(被圧延鋼材厚さ):2.5以上のロールを用いて、圧下時の鋼材の中心部温度:950℃以上1300℃以下、鋼材の中心部と表面の温度差:30℃以上、1パスの圧下率:10%以上および鋼材表面各部のロールとの接触時間:0.10秒以上5秒未満を満足するパスを、少なくとも1回は施したのち、当該パスとは別方向からの圧下が加わるまでに10秒以上の間隔を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延方法、例えば太径棒鋼の製造に適した熱間圧延方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、250mmφを超える太径棒鋼の様な、大径製品は、大型鋼塊から小圧下比の圧延を経て製造されるのが一般的である(例えば、特許文献1参照)。その結果、丸棒軸芯部近傍に、未圧着のザクに起因する微細な空孔(ポロシティ)欠陥が残存する、可能性が高くなる。
【0003】
空孔欠陥を低減する技術として、例えば特許文献1には、ロール圧延に先立ちプレス圧下を行うことが開示されている。また、特許文献2には、連続鋳造鋳片から分塊圧延により条鋼用鋼片を製造する方法において、鋼片の連続鋳造に際して、電磁攪拌または/および低温鋳造により、凝固組織を制御した上で圧延条件を規定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-167736号公報
【特許文献2】特開平10-180307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、工業的に実施可能な造塊法において、例えば上記特許文献2に開示されるような凝固組織制御を適用することは困難であり、鋳込み段階までザクが皆無の大型鋼塊を製造することは困難である。一方、圧延時の圧着によるザクの解消は、総圧下比を高めるのが実際上困難であること、さらに、素材寸法が大きいために、圧延機負荷の観点から1パスの圧下率を高くするのも難しいことから、これまた実現は難しい。また、特許文献1に開示されるように、プレス圧下を実現するためには、専用の設備が必要となり、多大な設備投資を要する。
【0006】
なお、板形状とする圧延においては、(微量の幅だし圧延などを除いた)主要な圧下方向が厚さ低減の1軸方向に限定されるため、圧下の積算により徐々に空孔欠陥の消失を進めることも可能である。しかしながら、棒鋼や角材など、長辺と短辺を入れ替える方向に転回を繰り返しつつ圧下を積算していく圧延、すなわち圧下軸が厚さ1軸方向のみでなく、複数の圧下軸を有する圧延においては、圧下量の積算値が高くとも、途中に別方向からの圧下が加わることから、一旦圧着しかかった欠陥が再度開口することが問題となる。このために、2軸以上の圧延では、板形状への1軸方向圧延とは異なる観点からの圧延制御が必要となる。
【0007】
この様な背景の下、圧着によるザクの解消をより効率的に促進することが希求されていたのであり、そのための手法を与えることが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、上記した課題を解決するための手段について鋭意検討した結果、特に2軸以上の熱間圧延において、1パスでの圧下量を増大すること並びに、圧延素材とロール直径との比の制御によって、被圧延材中心部へ効率的に静水圧を浸透することに加えて、「圧着」が拡散接合であることに着目し、被圧延材の温度を上昇させるとともに、ロールと圧延材との接触時間を増大して圧下中の金属拡散を促進すること、さらには、棒鋼などの圧延の特徴である2軸以上の圧下においては、ある1軸方向に圧縮が加わった後、別方向からの圧縮が加わるまでの時間を十分に確保すること、が前記欠陥の圧着促進に有効であるとの新規知見を得るに到った。
【0009】
すなわち、本発明の要旨構成は、
鋼材に、2軸以上の方向に圧延ロールによる圧下を施すに当たり、
該圧延ロールとして、
ロール直径:800mm以上、かつ
(ロール直径)/(被圧延鋼材厚さ):2.5以上
のロールを用いて、
圧下時の鋼材の中心部温度:950℃以上1300℃以下、
鋼材の中心部と表面の温度差:30℃以上、
1パスの圧下率:10%以上および
鋼材表面各部のロールとの接触時間:0.10秒以上5秒未満
を満足するパスを、少なくとも1回は施したのち、当該パスとは別方向からの圧下が加わるまでに10秒以上の間隔を設けることを特徴とする熱間圧延方法
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、太径棒鋼の製造に代表される、鋳片と製品との断面積差が比較的小さい条件下、特に2方向以上からの圧下が繰り返される条件下においても、中心に欠陥の残存しない、太径棒鋼などの製品を製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明の熱間圧延における各条件について、それぞれ詳しく説明する。
まず、本発明で問題としているザグの原因となる、鋳込み時の空孔欠陥は、主に鋼材中心部に発生するため、圧延加工における、中心部への静水圧応力の浸透は重要である。本発明では、この様な観点から、以下の項目を規定している。
【0012】
まず、熱間圧延に供する圧延ロールの条件から順に説明する。
圧延ロールの直径:800mm以上、かつ(ロール直径)/(被圧延鋼材厚さ):2.5以上
(ロール直径)/(被圧延鋼材厚さ)の比を2.5以上とすることにより、圧延接触時の接触弧長が増大し、特に鋼材中心部での長さ方向への材料流動を抑制することが可能となり、圧延時の中心近傍の静水圧応力を効率的に得ることが可能となる。本発明で主に対象としている被圧延鋼材の大きさを考えると、圧延ロールの直径は実質的に800mm以上を必要とし、さらには1000mm以上とすることが望ましい。
また、ロール直径が上記の規定を満たしても尚、鋳片等の素材厚さの関係から(ロール直径)/(被圧延鋼材厚さ)の比が2.5未満となる場合は、粗圧延段階で被圧延材の厚さを低減すれば、上記の比が2.5以上となる圧延パスを行うことができる。
【0013】
1パスの圧下率:10%以上
1パス当たりの圧下率が10%に満たない場合には、中心に静水圧応力が十分に作用せず、圧着に寄与することがないため、10%以上とした。なお、上限は特に設けないが、圧延機負荷等の観点から、30%以下が好ましい。
【0014】
鋼材の中心部と表面の温度差:30℃以上
鋼材の中心部の温度が表面の温度よりも高く、鋼材の中心部と表面との温度差が30℃以上であると、表層部の変形抵抗が中心部より高くなり、結果的に圧延により加わった圧縮応力が、より効率的に中心部に浸透する効果が得られる。一方で、上記の温度差が150℃を超えると、表面の温度が下がりすぎて、割れなどの表面欠陥をもたらすため、温度差は150℃以下とすることが好ましい。
【0015】
さらに、本発明においては、「圧着」がすなわち拡散接合であることに着目し、以下の項目を規定する。
圧下時の鋼材の中心部温度:950℃以上1300℃以下
鋼材の中心部温度が950℃未満となると中心部へ静水圧が浸透し、欠陥部の内面同士が接触し十分な圧下が加わる条件下においても、接触面における金属拡散が十分に進行するにいたらず、圧延後に欠陥を残存させる可能性が高くなる。このため、本発明においては圧下時の中心部温度が950℃以上であることを必要とする。一方で、鋼材の中心部温度が1300℃を超えると、一部の鋼種の特に中心部付近において、オーステナイト粒界近傍に部分的な溶融部を発し、新たな鋼中欠陥をもたらす可能性があるため、1300℃以下とする。
【0016】
鋼材表面各部のロールとの接触時間:0.10秒以上5秒未満
ロールと鋼材との接触時間を0.10秒以上確保することによって、欠陥部の内面同士が接触し、かつ十分な静水圧を受けた条件下での金属拡散が進行する。逆に、接触時間が0.10秒未満の場合には欠陥内面接触部での金属拡散の進行が不十分となるため、0.10秒以上とする。
ここで、ロールと鋼材との接触時間は、
・ロール直径
・1パスあたりの圧下率
・ロール回転速度
に応じて変化する。すなわち、ロール直径および1パスあたりの圧下率は大きくなる程、ロール回転速度は小さくなる程、接触時間は長くなる。上述のとおり、ロール直径および1パスの圧下率を確保した上で、ロール回転速度を適宜調整して、0.10秒以上の接触時間を確保する。ロール回転速度を低減することは、当該パス圧延に際しての変形荷重低減にも有効であり、これにより更なる1パスあたりの圧下率増大も可能となる。
一方で接触時間が5秒を超えると、鋼材温度が圧延ロールに伝達し、ロール表面の強度低下を来す。さらにはロールと鋼材との凝着の危険も発生するため、接触時間は5秒未満とする。
【0017】
また、2軸以上の方向からの圧縮繰り返しを必須とする、例えば棒鋼圧延においては、以下の規定が重要となる。すなわち、以上の条件下の圧延パスを施したのち、当該パスとは別方向からの圧下が加わるまでに10秒以上の間隔を設ける必要がある。
本発明の規定を満たす圧下により欠陥部の内面同士の接触が確保された場合でも、その後10秒未満に別方向からの圧下が加わると、接触部の圧着が未完了の段階にて、再開口する可能性がある。このために、本発明の規定を満たす、上記した圧延パスの完了後、別方向からの圧下が加わるまでの時間は10秒以上必要である。
なお、当該パスを、全パススケジュールの最終パスとすることによっても、同様に10秒以上の時間確保が可能となる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例に基づき説明する。
中心部に鋳込み時の空孔欠陥を有する、400mm×300mmの鋼素材を用いて、400mm長さ方向からの圧下を種々の条件で実施し、その後さらに90度転回して幅方向(300mm長さ方向)に285mmとする圧延を実施した。
以上の圧延前の素材中および種々条件での上記圧延後の鋼材中の欠陥分布をそれぞれ超音波探傷にて測定し、それら測定値に基づいて、欠陥残存率を以下のように規定した。
(欠陥残存率;%)=(圧延後の欠陥面積率;%)/(圧延前の欠陥面積率;%)
400mm長さ方向からの圧下条件および測定結果を、表1に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
表1に示すように、本発明の規定を満たす条件で圧延成形した鋼材中には欠陥の残存が認められなかったが、規定条件の何れかを満足しない条件で圧延成形した鋼材中には、いずれも欠陥の残存が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材に、2軸以上の方向に圧延ロールによる圧下を施すに当たり、
該圧延ロールとして、
ロール直径:800mm以上、かつ
(ロール直径)/(被圧延鋼材厚さ):2.5以上
のロールを用いて、
圧下時の鋼材の中心部温度:950℃以上1300℃以下、
鋼材の中心部と表面の温度差:30℃以上、
1パスの圧下率:10%以上および
鋼材表面各部のロールとの接触時間:0.10秒以上5秒未満
を満足するパスを、少なくとも1回は施したのち、当該パスとは別方向からの圧下が加わるまでに10秒以上の間隔を設けることを特徴とする熱間圧延方法。

【公開番号】特開2011−212722(P2011−212722A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84055(P2010−84055)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】