説明

熱電発電モジュール及びその製造方法

【課題】温度勾配や熱電発電時に加わるヒートサイクルにより、絶縁基板や熱電素子が歪んだり、クラックが生じる問題がない熱電発電モジュール、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】熱電発電モジュールを構成する熱電素子と絶縁基板1との熱膨張係数の異なる2つの部材の接合構造において、一方の部材である絶縁基板が有底穴を有し、もう一方の部材である熱電素子が遠心力を付加された状態で溶融及び凝固の過程を経て前記有底穴の内部に成形され、かつ2つの部材間に予め離型層6を少なくとも1層有することで、2つの部材が固着することなく、前記有底穴が該有底穴内に成形された部材を保持可能な形状を有している熱電発電モジュール、及び該熱電発電モジュールの製造方法。
【効果】2つの部材間の熱膨張係数の違いに起因する熱応力が発生しない熱電発電モジュールを提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電発電モジュール及び該熱電発電モジュールの製造方法に関するものであり、更に詳しくは、熱電発電モジュールを構成する熱電素子と絶縁基板との接合構造において、遠心加圧溶融法により、絶縁基板の有底穴の内部に熱電素子を成形した構造とすることにより、熱電素子と絶縁基板間の熱膨張係数の違いによって生じる熱応力の発生を防止し、熱電発電モジュール内での熱応力の発生を低下させることができる熱電発電モジュール及びその製造方法に関するものである。
【0002】
本発明は、絶縁基板と熱電発電素子の熱膨張係数が大きく異なっていても、2つの部材間の熱膨張係数の違いに起因する熱応力が発生しないと共に、熱応力による熱電発電モジュールの破損を防止するための複雑な構造も必要としないことで特徴付けられる、熱電発電モジュールに関する新技術を提供するものである。
【背景技術】
【0003】
従来、熱電発電モジュールにおいて、モジュール内に発生する温度勾配や熱電発電時に加わるヒートサイクルなどにより、絶縁基板や熱電素子が歪んだり、クラックが生じる問題などがあった。熱電発電モジュール内で発生する熱応力は、熱電発電モジュールを構成している異種部材間の熱膨張係数の違いによる熱応力の発生が、大きな要因である。
【0004】
このような熱応力によって生じる上述の問題を解決するために、先行技術として、熱電モジュール内に応力緩和機構を取り付けた熱電モジュールは公知であり、例えば、熱電素子内に生じる応力によって熱電素子内に亀裂が生じるなどの不良を、応力緩和部を取付ることによって抑制できるようにした熱電素子が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、この種の熱電素子の場合には、熱電モジュール内の構造が複雑になり、部品点数が増えるだけでなく、組み付け操作も煩雑となるという欠点があった。また、従来、熱電発電モジュール内で発生する熱応力を生じさせる最大の要因の一つが、熱電発電モジュールを構成している異種部材間の熱膨張係数の違いによるものであることも公知であり(例えば、特許文献2〜5)、その解決方法も、種々提案されている(例えば、特許文献6〜8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−116087号公報
【特許文献2】特開2001−320096号公報
【特許文献3】特開2002−76449号公報
【特許文献4】特開2003−273413号公報
【特許文献5】特開2004−140064号公報
【特許文献6】特開2005−191040号公報
【特許文献7】特開2005−317648号公報
【特許文献8】特開2008−135516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、熱応力によって熱電発電モジュールが破損することなく、しかも熱電モジュール内の構造が複雑にならない、新しい熱電発電モジュールを開発することを目標として鋭意研究を重ねた結果、熱電素子と絶縁基板を固着させない特定の接合構造を採用することにより、熱電発電モジュール内での熱応力の発生を低下させ、所期の目的を達成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、上記熱電発電モジュール内で発生する熱応力によって生じる熱電発電モジュールの破損を防止し、発生する熱応力を緩和するために、従来、やむを得ず行われているモジュール構造の複雑化などの問題を解決することを可能とする、熱電発電モジュールを構成する熱電素子と絶縁基板との新しい接合構造を提供することを目的とするものである。また、本発明は、これらの問題を解決して、熱電発電モジュールが熱応力によって破損することなく、かつ、よりシンプルな構造を有する新しい熱電発電モジュール及びその作製方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を達成するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)熱電発電モジュールを構成する熱電素子と絶縁基板との熱膨張係数の異なる2つの部材の接合構造において、一方の部材である絶縁基板が有底穴を有し、もう一方の部材である熱電素子が遠心力を付加された状態で溶融及び凝固の過程を経て前記有底穴の内部に成形され、かつ2つの部材間に予め離型層を少なくとも1層有することで、2つの部材が固着することなく、更に、前記有底穴が該有底穴内に成形された部材を保持可能な形状を有していることを特徴とする熱電発電モジュール。
(2)前記有底穴が、その上端開口面積よりも大きい下端底面積を有する形状に形成されており、前記成形された部材が、前記有底穴内に保持されている、前記(1)に記載の熱電発電モジュール。
(3)前記有底穴を有する部材が、無機絶縁材料からなる、前記(1)又は(2)に記載の熱電発電モジュール。
(4)前記有底穴内に成形される部材が、熱電材料である、前記(1)から(3)のいずれかに記載の熱電発電モジュール。
(5)前記熱電材料が、ビスマスもしくはテルルを含む材料からなる、前記(4)に記載の熱電発電モジュール。
(6)前記熱電材料が、ケイ素を含む材料からなる、前記(4)に記載の熱電発電モジュール。
(7)前記熱電材料が、酸化物を含む材料からなる、前記(4)に記載の熱電発電モジュール。
(8)前記有底穴内に成形される部材が、厚さ10μmから10mmである、前記(1)から(7)のいずれかに記載の熱電発電モジュール。
(9)前記(1)から(8)のいずれかに記載の熱電発電モジュールの製造方法であって、熱電発電モジュールを構成する熱電素子と絶縁基板との熱膨張係数の異なる2つの部材の接合構造において、一方の部材である絶縁基板に有底穴を形成し、該有底穴に、離型層を介して、もう一方の部材である熱電素子粉末材料を充てんし、これに、遠心力を付加した状態で溶融及び凝固の過程を経て前記有底穴の内部に熱電素子を成形し、かつ2つの部材間に予め離型層を少なくとも1層形成することで、2つの部材を固着することなく、前記有底穴内に保持させることを特徴とする熱電発電モジュールの製造方法。
(10)前記有底穴が、その上端開口面積よりも大きい下端底面積を有する形状に形成されており、前記成形された部材が、前記有底穴内に保持されている、前記(9)に記載の熱電発電モジュールの製造方法。
【0010】
次に、本発明について詳細に説明する。
本発明は、熱電発電モジュールを構成する熱電素子と絶縁基板との熱膨張係数の異なる2つの部材の接合構造において、一方の部材である絶縁基板が有底穴を有し、もう一方の部材である熱電素子が、遠心力を付加された状態で溶融及び凝固のプロセス(以下、本発明では、これを遠心加熱溶融法という。)により、前記有底穴の内部に成形され、かつ2つの部材間に予め離型層を少なくとも1層有することで、2つの部材が固着することなく、前記有底穴が、該有底穴内に成形された部材を保持可能な形状を有していることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明は、前記の熱電発電モジュールを製造する方法であって、熱電発電モジュールを構成する熱電素子と絶縁基板との熱膨張係数の異なる2つの部材の接合構造において、一方の部材である絶縁基板に有底穴を形成し、該有底穴に、離型層を介して、もう一方の部材である熱電素子粉末材料を充てんし、前述の遠心加圧溶融法により、遠心力を付加した状態で溶融及び凝固のプロセスにより、前記有底穴の内部に熱電素子を成形することで、2つの部材を固着することなく、前記有底穴内に保持させることを特徴とするものである。
【0012】
本発明は、熱電素子と絶縁基板を、直接、固着させない接合構造とすることにより、熱電素子と絶縁基板間の熱膨張係数の違いによって生じる熱応力の発生を防止し、熱電発電モジュール内での熱応力の発生を低下させることを可能とするものである。そして、それにより、モジュール構造の複雑化を伴うことなく、熱応力による熱電発電モジュールの破損を防ぎ、前記した各種課題を解決することを可能とするものである。
【0013】
次に、本発明の実施の形態について詳しく説明する。本発明は、頻繁、かつ多くのヒートサイクルに晒される熱電発電モジュールのような構造品において、熱膨張係数の異なる部材が隣り合って形成される場合に、隣り合う部材間の熱膨張係数の違いに起因して発生する熱応力を、簡便な構造及び製造工程により緩和し、構造品の破損を防止する該部材の接合構造及びその作製方法を提供するものである。
【0014】
本発明において、有底穴とは、例えば、絶縁基板に一体成形で形成された有底穴、貫通孔の一端を封止して形成された有底穴、上端開口面積よりも大きい下端底面積を有するように形成された有底穴、などが例示されるが、その具体的な形状及び構造は、使用する熱電発電モジュールの形態などに応じて適宜設計することができる。
【0015】
上端開口面積よりも大きい下端底面積を有するように形成された有底穴とは、例えば、比較的簡単な形状であれば、開口部が最小径の円形状であり、深さ方向に進むにつれて、深さ方向に対し、垂直な断面形状が開口部径よりも大きくなるような、逆テーパ形状の円形有底穴が挙げられる。該有底穴は、有底穴内部に成形される部材が開口部から抜け落ちないように、機械的に保持される形状であればよく、有底穴の形状が、これらに限定されるものではない。しかし、有底穴の形状が、あまりに複雑形状のものは、加工コストが高くなるため、実用的ではない。
【0016】
本発明では、有底穴を形成する以外に、格別の形状加工を絶縁基板に施工しない場合は、熱電素子は、基板に固着していないため、熱電素子のみを基板から取り出し、特段の加工を施すことなく、発電モジュールの熱電素子として利用することが可能である。本発明では、熱電素子を、離型層を介して、絶縁基板の有底穴に形成する。離型層として、熱電素子と反応をしない材料を利用することが肝要であり、代表的な材料としては、例えば、窒化ホウ素、酸化ケイ素、シリコン系、炭素系、などが例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
本発明においては、絶縁基板は、板形状である必要はなく、十分な深さを有する有底穴を設ければ、厚膜熱電素子の作製だけでなく、バルク熱電素子の成形も可能である。また、本発明の接合構造は、熱電素子の成膜、成形だけでなく、熱膨張係数の異なる2つの部材が隣接し、かつお互いに離れることなく保持された状態が必要とされる構造体において、ヒートサイクルが生じる場合などに、同様に、かつ有効に利用することができる。
【0018】
本発明において、有底穴内に成形される部材の厚さは、10μmから10mmが好ましい。部材の厚さが、10μm未満であると、遠心加圧溶融法の適用が難しいという問題があり、部材の厚さが、10mmを超えると、遠心加圧溶融法を用いたとき、絶縁基板にかかる溶融部材の荷重が大きくなりすぎるため、実用的でないという問題がある。
【0019】
本発明では、p型熱電材料、及びn型熱電材料の原料粉末を、適宜の有底穴を有する、アルミナ、コージェライト製などの適宜のセラミックス絶縁基板の有底穴に交互に充てんする。そして、これに、蓋となる基板を乗せ、セラミックスの有底穴の深さ方向に、300G〜10,000G、好ましくは1,000G程度の遠心力を加えながら、原料の融点から+0〜50℃程度、好ましくは、例えば、ビスマス又はテルルを含む熱電材料では600〜650℃、ケイ素を含む熱電材料では1,100〜1,200℃で、溶融温度の保持時間を0超〜60min、好ましくは20min程度として、加熱溶融させた後、冷却して、p型熱電素子、及びn型熱電素子を作製する。
【0020】
本発明では、熱電素子の原材料として、例えば、ビスマスもしくはテルルを含む材料、ケイ素を含む材料、酸化物を含む材料などが例示されるが、本発明は、熱電素子の原材料の種類に制限されることなく適用されるものであり、公知又は新規の原材料である適宜の原材料を用いることができる。
【0021】
本発明においては、熱電発電モジュールを構成する熱電素子と絶縁基板との熱膨張係数の異なる2つの部材の接合構造において、一方の部材である絶縁基板に有底穴を形成し、該有底穴に、離型層を介して、もう一方の部材である熱電素子粉末材料を充てんし、これに、遠心力を付加した状態で溶融及び凝固の過程を経て、前記有底穴の内部に熱電素子を成形し、かつ2つの部材間に予め離型層を少なくとも1層形成することで、2つの部材を固着することなく、前記有底穴内に保持させて、熱電発電モジュールを製造する。
【0022】
前記有底穴を有する部材としては、無機絶縁材料、例えば、アルミナ、ジルコニア、石英に加え、アルミナ系、マグネシア系、シリカ系、チタニア系などの材料が例示される。前記有底穴内に成形される部材としては、熱電材料、例えば、ビスマスもしくはテルルを含む材料、ケイ素を含む材料、酸化物を含む材料などが例示され、その原料粉末は、遠心加圧溶融法による溶融凝固で得られる熱電素子の必要組成となるように、複数の純度3Nないし4Nの単組成粉末を混合して用いる。また、一旦、混合溶融冷却したインゴットや、固相反応や液−固相反応による合成体を粉砕した合成粉末を用いても、同様に熱電素子を作製することが可能である。
【0023】
図1に、本発明の熱電発電モジュールの構造図の一例を示す。図1において、絶縁基板1は、逆テーパ形状の有底穴を有する絶縁基板であり、p型熱電素子2及びn型熱電素子3は、絶縁基板の有底穴内に厚膜熱電素子として成膜される。本発明では、p型熱電素子及びn型熱電素子が交互に配置するように成膜され、成膜された厚膜熱電素子間に、スパッタ法、めっき法などの適宜の方法で、電極4を取り付け、その両端にリード線5を取り付ける。
【0024】
図2に、本発明の熱電発電モジュールの断面形状を示す。絶縁基板1に設けられた逆テーパ形状の有底穴の断面形状は、図2に示されるような形状を有している。また、熱電素子2、3と絶縁基板1の間には、離型層6が存在し、それによって、熱電素子と絶縁基板が、直接、固着しない構造となっている。
【0025】
次に、本発明の熱電発電モジュールの作製工程を説明すると、絶縁基板の表面に、逆テーパ形状の有底穴を設け、絶縁基板に設けられた有底穴の内壁に、離型層を塗布など適宜の方法により形成し、次いで、有底穴の中に、熱電素子の原材料となるp型熱電素子材料粉末及びn型熱伝素子材料粉末を充てんする。
【0026】
有底穴の中にp型熱電素子材料粉末及びn型熱伝素子材料粉末を充てんした後、絶縁基板と同じ材質の密閉板で覆い、4辺を適宜の封止剤で封止して、材料粉末の充てんされている空間を密閉状態にする。封止剤には、高温にも耐えられるように、適宜の耐熱性無機接着剤が使用される。
【0027】
次に、加熱ヒーターを有する断熱容器の内部において、高速回転するローターに設けられたポケットに、密閉板を封止剤で封止した状態の封止された絶縁基板を設置し、これに遠心力を付加しながら、加熱及び冷却をすることで、材料粉末を溶融及び凝固させる遠心加圧溶融プロセスにより、絶縁基板の有底穴内に、厚膜熱電素子を作製する。
【0028】
溶融状態にある熱電素子材料は、密閉板で密閉されているため、蒸発せず、組成ずれの心配はなく、また、溶融状態にある熱電素子材料には、遠心力が付加されているため、凝固した後の熱電素子内部に残留気孔が発生しない。更に、この手法によって、成膜された厚膜熱電素子は、結晶配向熱電材料となる。
【0029】
その後、密閉板を除去することで、絶縁基板の有底穴内に、p型厚膜熱電素子及びn型厚膜熱電素子が、交互に配置するように形成されている、電極形成前の熱電モジュールを得て、これに、電極及びリード線を設けることで、熱電発電モジュールを作製する。
【0030】
絶縁基板の有底穴の内壁に塗布した離型層により、絶縁基板と熱電素子は、固着することなく成膜され、有底穴を逆テーパ形状にすることで、成膜された熱電素子は、機械的に保持され、有底穴から抜け落ちることはない。
【発明の効果】
【0031】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)絶縁基板と熱電発電素子の熱膨張係数が大きく異なっていても、2つの部材間の熱膨張係数の違いに起因する熱応力は発生しないと共に、熱応力による熱電発電モジュールの破損を防止するための、複雑な構造も必要としない新しい熱電発電モジュールを提供することができる。
(2)熱電素子と絶縁基板を固着させないことにより、熱電素子と絶縁基板間の熱膨張係数の違いによって生じる熱応力の発生を防止し、熱電発電モジュール内での熱応力の発生を低下させることができる。
(3)モジュール構造の複雑化を伴うことなく、熱応力による熱電発電モジュールの破損を防ぐことができるため、前記した各種課題を解決することができる。
(4)本発明は、熱電発電モジュールに好適に適用されるが、熱膨張率の大きく異なる2つの部材が隣り合って形成される同等の構造品において利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明を利用して作製した熱電発電モジュールの構造図の一例を示す概略図である。
【図2】熱電発電モジュールの断面形状を示す概略図である。
【図3】絶縁基板に設けられた有底穴の断面を示す概略図である。
【図4】絶縁基板に設けられた有底穴内の内壁に窒化ホウ素の離型層を塗布した状態の断面を示す概略図である。
【図5】絶縁基板に設けられた有底穴内に熱電素子の材料粉末を充てんした状態の断面を示す概略図である。
【図6】絶縁基板に設けられた有底穴内に充てんした粉末熱電材料を密閉板と封止剤で封止した状態の断面を示す概略図である。
【図7】絶縁基板に設けられた有底穴内に充てんした粉末熱電材料を密閉板と封止剤で封止した状態の外観を示す概略図である。
【図8】遠心加圧溶融法により、絶縁基板の有底穴内に厚膜熱電素子を作製する工程の様子を示した概略図である。
【図9】絶縁基板と熱電素子の熱膨張係数の違い及びヒートサイクルによって熱電素子に生じたクラック発生箇所の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0034】
以下の実施例では、ビスマステルルを含む材料を用いて熱電発電モジュールを作製した。図1は、本発明を用いて作製した熱電発電モジュールの構造図の一例である。図1において、絶縁基板1は、逆テーパ形状の有底穴を有するジルコニア絶縁基板であり、p型熱電素子2及びn型熱電素子3は、絶縁基板1の有底穴内に成膜された厚膜熱電素子である。
【0035】
本実施例では、p型熱電素子材料には、Bi0.5Sb1.5Teを、n型熱電素子材料には、Bi1.2Sb0.2Te2.85Se0.15を用いて、p型熱電素子及びn型熱電素子が交互に配置するように成膜された厚膜熱電素子を形成し、該厚膜熱電素子間に、スパッタ法ないしめっき法で、電極4を取り付け、両端にはリード線5を取り付けた。
【0036】
図2は、図1に示される熱電発電モジュールの断面形状である。絶縁基板1に設けられた逆テーパ形状の有底穴の断面形状は、図2に示されるような形状になっている。また、熱電素子2、3と絶縁基板1の間には、離型層6が存在し、それによって、熱電素子2、3と絶縁基板1が、直接、固着しない構造となっている。離型層6には、窒化ホウ素(電気化学工業株式会社製)を使用した。
【0037】
次に、図1及び図2の熱電発電モジュールの作製工程を説明する。図3は、絶縁基板1の断面形状を示している。ジルコニア絶縁基板1の表面に、逆テーパ形状の有底穴を設ける。更に、図4に示されるように、絶縁基板1に設けられた有底穴の内壁に、離型層6として、窒化ホウ素の層を塗布により形成した。次いで、図5に示されるように、有底穴の中に、熱電素子の原材料となるp型熱電素子材料粉末7及びn型熱伝素子材料粉末8を充てんした。
【0038】
有底穴の中にp型熱電素子材料粉末7及びn型熱伝素子材料粉末8を充てんした後、図6に示されるように、絶縁基板1と同じ材質の密閉板9で覆い、4辺を封止剤で封止して、材料粉末の充てんされている空間を密閉状態にした。封止剤には、高温にも耐えられるように、耐熱性無機接着剤アロンセラミック(東亞合成株式会社製)を使用した。図7は、密閉板9を封止剤10で封止した状態の外観を示す概略図である。
【0039】
次に、図8に示されるように、加熱ヒーター11を有する断熱容器12の内部において、高速回転するローター13に設けられたポケット14に、図7に示される、密閉板9を封止剤10で封止した状態の封止された絶縁基板1を設置し、これに遠心力を付加しながら、加熱及び冷却をすることで、材料粉末を溶融及び凝固させる遠心加圧溶融プロセスにより、絶縁基板1の有底穴内に、厚膜熱電素子を作製した。
【0040】
溶融状態にある熱電素子材料は、密閉板9で密閉されているため、蒸発せず、組成ずれの心配はないこと、また、溶融状態にある熱電素子材料には、遠心力が付加されているため、凝固した後の熱電素子内部に残留気孔が発生しないこと、更に、この手法によって、成膜された厚膜熱電素子は、結晶配向熱電材料となること、が確認された。
【0041】
その後、図6に示される密閉板9を除去することで、電極形成前の熱電モジュールを得た。絶縁基板1の有底穴内には、p型厚膜熱電素子2及びn型厚膜熱電素子3が、交互に配置するように形成されており、これに、電極4及びリード線5を設けることで、熱電発電モジュールを作製した。
【0042】
絶縁基板1の有底穴の内壁に塗布した窒化ホウ素の離型層6により、絶縁基板1と熱電素子2、3は、固着することなく成膜されたが、前記有底穴を逆テーパ形状にすることで、成膜された熱電素子は、機械的に保持され、有底穴から抜け落ちることはないことが分かった。
【0043】
絶縁基板1と熱電素子2、3が固着していないため、熱電発電モジュールに加わるヒートサイクル及び絶縁基板と熱電素子の両者間の熱膨張係数の違いに起因する熱応力の発生は生じないことが分かった。例えば、30℃での冷却、100℃での昇温を繰り返すヒートサイクルテストを行った結果、有底穴の内壁に、窒化ホウ素の離型層6を塗布せずに熱電素子を成膜した場合、p型熱電素子2において、実験開始当初、熱電素子抵抗値が45mΩであったものが、1000サイクル時点では、75mΩに上昇した。
【0044】
なお、1サイクルは、5分とした。このとき、p型熱電素子2には、熱応力により、図9に示されるようなクラックが発生した。一方、有底穴の内壁に、窒化ホウ素の離型層6を塗布し、絶縁基板と熱電素子が固着しないようにした場合、このようなクラックが発生する問題は解消された。
【産業上の利用可能性】
【0045】
以上詳述したように、本発明は、熱電発電モジュール及びその製造方法に係るものであり、本発明により、絶縁基板と熱電発電素子の熱膨張係数が大きく異なっていても、2つの部材間の熱膨張係数の違いに起因する熱応力は発生しないと共に、熱応力による熱電発電モジュールの破損を防止するための、複雑な構造も必要としない、熱電発電モジュールを提供することができる。本発明は、熱電発電モジュールに熱膨張率の大きく異なる2つの部材が隣り合って形成される同等の構造品において好適に適用される。熱電素子と絶縁基板を固着させないことにより、熱電素子と絶縁基板間の熱膨張係数の違いによって生じる熱応力の発生を防止し、熱電発電モジュール内での熱応力の発生を低下させることができる。本発明は、モジュール構造の複雑化を伴うことなく、熱応力による熱電発電モジュールの破損を防ぐことができる、新しい熱電発電モジュールを提供するものとして有用である。
【符号の説明】
【0046】
1 絶縁基板
2 p型熱電素子
3 n型熱電素子
4 電極
5 リード線
6 離型層
7 p型熱電素子材料粉末
8 n型熱電素子材料粉末
9 密閉板
10 封止剤
11 加熱ヒーター
12 断熱容器
13 ローター
14 ポケット
15 モーター
16 シャフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱電発電モジュールを構成する熱電素子と絶縁基板との熱膨張係数の異なる2つの部材の接合構造において、一方の部材である絶縁基板が有底穴を有し、もう一方の部材である熱電素子が遠心力を付加された状態で溶融及び凝固の過程を経て前記有底穴の内部に成形され、かつ2つの部材間に予め離型層を少なくとも1層有することで、2つの部材が固着することなく、更に、前記有底穴が該有底穴内に成形された部材を保持可能な形状を有していることを特徴とする熱電発電モジュール。
【請求項2】
前記有底穴が、その上端開口面積よりも大きい下端底面積を有する形状に形成されており、前記成形された部材が、前記有底穴内に保持されている、請求項1に記載の熱電発電モジュール。
【請求項3】
前記有底穴を有する部材が、無機絶縁材料からなる、請求項1又は2に記載の熱電発電モジュール。
【請求項4】
前記有底穴内に成形される部材が、熱電材料である、請求項1から3のいずれかに記載の熱電発電モジュール。
【請求項5】
前記熱電材料が、ビスマスもしくはテルルを含む材料からなる、請求項4に記載の熱電発電モジュール。
【請求項6】
前記熱電材料が、ケイ素を含む材料からなる、請求項4に記載の熱電発電モジュール。
【請求項7】
前記熱電材料が、酸化物を含む材料からなる、請求項4に記載の熱電発電モジュール。
【請求項8】
前記有底穴内に成形される部材が、厚さ10μmから10mmである、請求項1から7のいずれかに記載の熱電発電モジュール。
【請求項9】
請求項1から9のいずれかに記載の熱電発電モジュールの製造方法であって、熱電発電モジュールを構成する熱電素子と絶縁基板との熱膨張係数の異なる2つの部材の接合構造において、一方の部材である絶縁基板に有底穴を形成し、該有底穴に、離型層を介して、もう一方の部材である熱電素子粉末材料を充てんし、これに、遠心力を付加した状態で溶融及び凝固の過程を経て前記有底穴の内部に熱電素子を成形し、かつ2つの部材間に予め離型層を少なくとも1層形成することで、2つの部材を固着することなく、前記有底穴内に保持させることを特徴とする熱電発電モジュールの製造方法。
【請求項10】
前記有底穴が、その上端開口面積よりも大きい下端底面積を有する形状に形成されており、前記成形された部材が、前記有底穴内に保持されている、請求項9に記載の熱電発電モジュールの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−192775(P2010−192775A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−37195(P2009−37195)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000191009)新東工業株式会社 (474)
【出願人】(300068834)新東ブイセラックス株式会社 (8)