説明

熱電素子およびその製造方法

【課題】熱電素子を適当な反転温度において熱起電力方向(符号)を反転させるには、複数個以上のn型熱電素子とp型熱電素子を電気的に接続する必要がある。このような複合素子の製作に手間がかかり、小型化が難しいという問題を解決する。
【解決手段】化合物熱電材料からなる熱電素子の化合物中の一部の元素の濃度を断面において不均一にするため、熱起電力方向の異なる熱電材料を混合、分散、された状態で単一の素子として形成することにより、又は一体的な熱電材料に熱処理等を行うことにより一部の元素を蒸発させて濃度勾配を得ることにより、単一の熱電素子で複合素子と同様な熱電特性を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電素子、特に化合物から成る熱電素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー、特に石油エネルギーの使用が増加の一途をたどり、それに伴い地球温暖化が急速に進み温暖化防止が叫ばれている。供給されるエネルギーのうち有用エネルギーは1/3程度であり、損失及び廃熱エネルギーを利用するため、ゼーベック効果を利用した、熱電変換効率の向上を図るための熱電材料や熱電発電デバイスの開発が盛んに行われている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−261049号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、ゼーベック効果を用いて温度測定、温度制御する技術として、熱電対を用いることが知られている。熱電対を利用して温度測定、温度制御しようとする場合には、熱電対のほかに測定回路などが必要であり、測定装置の簡素化が図れていないという問題がある。
【0004】
一方、熱電材料はあくまでも熱電変換効率を高くすることが重要で、熱電変換効率の温度による変化を利用して温度測定をするためには用いられていなかった。
【0005】
また、熱電材料の特性であるゼーベック効果、特に熱起電力の符号の反転現象と熱起電力の符号が反転する温度(反転温度)を変化、制御すること、及び反転現象とその反転温度の変化を利用する装置等に関しては実質的に研究がされていない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る熱電素子は、化合物熱電材料により形成され、規定の温度で熱起電力の方向が変化する熱電素子であって、化合物中の一部の元素の濃度が、断面において不均一であることを特徴とする熱電素子である。
【0007】
本発明に係る熱電素子は、熱起電力方向の異なる熱電材料が混合された状態で、規定の温度で熱起電力の方向が変化する単一の素子として形成されている、又は熱起電力方向の異なる熱電材料が、他方の熱起電力方向の異なる熱電材料に分散された状態で、規定の温度で熱起電力の方向が変化する単一の素子として形成されていることを特徴とする熱電素子である。
【0008】
また、本発明に係る熱電素子は、熱起電力方向の異なる熱電材料が、規定の温度で熱起電力の方向が変化する単一の素子として一体化されていることを特徴とする熱電素子である。
【0009】
本発明に係る熱電素子の製造方法は、化合物熱電材料を熱処理する工程を含む熱電素子の製造方法であって、前記熱処理中にガスフローを行うことにより、前記化合物中の一部の元素の蒸発散逸を促進することを特徴とする、熱電素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
固有の反転温度で起電力方向が反転する化合物熱電材料中の化合物構成元素の一部の元素の濃度を制御することにより反転温度を変化、すなわち熱電特性を変化させることができるため、化合物熱電材料の用途が広がるという効果が得られる。
【0011】
熱起電力方向の異なる熱電材料を適当に混合して結合、又は熱電材料に反対方向の熱電材料を分散させて一体化させること、又は一体的に製造された熱電材料は、熱起電力方向の異なる熱電材料の接続が電極を介することなく得られるため、小型化が可能となり、また高い信頼性の熱電素子が得られる。
【0012】
熱電素子の製造方法は、加熱された化合物熱電材料を規定のガス気流中に配置し、規定の加熱温度及び加熱時間、規定のガス流量を採用することで得られるため、化合物熱電材料中の化合物構成元素の一部の元素の濃度の制御は容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下本発明について、実施例によって具体的に説明する。
図1乃至図4は、本発明の熱電素子の内部構造を模式的に示した図である。図中、長方形は熱電素子10、20、25、30,40を示し、n、pはそれぞれn型熱電材料、p型熱電材料を示している。
【0014】
図1は、熱電素子10が、内部にn型熱電材料粒子11、例えばn型熱電材料:CoSb 、p型熱電材料粒子12、例えばp型熱電材料:CoSb がホットプレス等により粒子が圧縮により結合して混在している状態を示している。なお、各熱電粒子間は空隙である。略円形状で示したn型熱電材料粒子11及びp型熱電材料粒子12は、合成された熱電材料(化合物)のボールミルによる粉砕物である。熱電材料の熱電特性は粒子の製造方法、例えばアトマイズ粉によっても変化する。熱電素子10は、電線を介して電流計に接続され、電気回路を構成している。図中、Fh、Thは高温側の表面、及び表面温度を、Fc、Tcは低温側の表面、及び表面温度を示す。また5は熱電素子10が絶縁されて取り付けられる基台を示す。これら電気回路、符号は、以下の図2(a)乃至図4でも同様である。
【0015】
図1の熱電素子10のゼーベック係数は、n型熱電材料粒子、p型熱電材料素子、それぞれのゼーベック係数が合算されることにより、熱電素子10としてのゼーベック係数が決定される。 この熱電素子10のゼーベック係数の算出方法は、以下の図2(a)乃至図4の熱電素子20、25、30、40のゼーベック係数の算出にも適用される。
【0016】
図2は熱電素子の内部構成状態を示している。
図2(a)は、p型熱電材料粒子22、例えば、p型熱電材料:CoSbがn型熱電材料21、例えばn型熱電材料:CoSbの内部に略均一に分散している熱電素子20の状態を示している。
【0017】
図2(b)は、n型電材料粒子26、例えばn型熱電材料:CoSbがp型熱電材料27、例えばp型熱電材料:CoSbの内部に略均一に分散している熱電素子25の状態を示している。
【0018】
なお、CoSbはCoSbより融点が120℃ほど高いため、高い融点のn型熱電材料粒子26:CoSbの粒子の周囲を融点の低いp型熱電材料27:CoSbで包む分散状態が、図2(a)の分散状態より、n型熱電材料26のp型熱電材料27への溶け込みが少ないため製造上優位である。
【0019】
図3はp型熱電材料32、例えばp型熱電材料:CoSbと、n型熱電材料31、例えばn型熱電材料:CoSb、とが界面において溶融又は圧縮等によりに結合して、一体化されている熱電素子30の状態を示している。
【0020】
図4は熱電素子40が、一体的なp型熱電材料42、例えばp型熱電材料:CoSbの表面部を表面処理加工、例えば熱処理が施されることにより、n型熱電材料41、例えばn型熱電材料:CoSbの濃度(p型熱電材料42とn型熱電材料41の存在比により決定される)に濃度勾配(傾斜)や任意の分布を有した状態を示している。この熱電素子40は、その表面温度が約180℃のときに熱起電力がゼロとなり、熱電素子40の表面温度が熱起電力ゼロとなる温度をまたいで変化するときに熱起電力の極性が反転する素子である。
【0021】
なお、図1乃至図3についても、適当な条件を選定することにより図6と略同様な熱電特性(曲線)が得られる。
【0022】
次に、熱電素子の製造方法について説明する。
図1の熱電粒子が結合した熱電素子10は次の工程を経て作製される。まず、所定の配合の高純度の素材、例えばコバルトCoとアンチモンSbを溶解し、鋳造されたインゴットは粉砕、造粒され、篩い分けされた粒子、例えばn型熱電材料粒子11:CoSbとp型熱電材料粒子12:CoSbが製造される。製造されたn型熱電材料粒子11とp型熱電材料粒子12を所定の配合比に秤量された粒子11,12は均一に混合される。混合された粒子11,12は金型に適量装てんされ、冷間、又は熱間で所定形状にプレスされる。必要に応じて焼結されて熱電素子10は製作される。
【0023】
図2(b)の熱電材料粒子が分散した熱電素子25は、前述のようにして製造された熱電材料粒子、例えばn型熱電材料粒子26:CoSbとp型熱電材料粒子27:CoSbを所定の配合比で混合した後、石英トレイに装てんして、低融点の熱電材料、例えばp型熱電材料粒子27:CoSbの融点より若干高い温度で不活性ガスの中で溶融凝固させる。n型熱電材料粒子26:CoSbは、溶融したn型熱電材料27:CoSbで鋳包まれ、p型熱電材料粒子27がn型熱電材料26中に分散した熱電材料が得られる。この得られた材料を適当な大きさに切断することにより熱電素子25が製作される。
【0024】
図2(a)の熱電素子20も同様な方法で製作することができる。そのほか、n型またはp型の半導体粉末をp型またはn型のバインダー状の物質で結合させても製作できる。
【0025】
図3のn型熱電材料とp型熱電材料が合体した熱電素子30は、所定寸法のn型熱電材料31とp型熱電材料32の接合、またはn型熱電材料31の粒子とp型熱電材料32の粒子を区分けして金型に装填した後、前述のプレス加圧、又はプレス加圧焼結等の方法により製作することができる。
【0026】
なお、n型熱電材料31とp型熱電材料32の割合を変化させることにより、所望の熱電特性を有する熱電素子30を形成することができる。 図4の熱電材料の成分の一部を、規定の濃度勾配(傾斜)を有する熱電素子40について、図5を用いてその製造方法を説明する。
【0027】
まず、規定の化合物、例えばCoSbの成分である高純度の粒子状の素材、この場合はコバルトCoとアンチモンSbを化合物の組成に相当する配合比の重量を秤量した後、両素材は均一に混合される(S1)。混合された粒子は金型に適量装てんされ、冷間で所定形状にプレス圧縮加工(ペレット化)される(S2)。製作された圧縮成形体(圧粉)はバッチ式又は環状式の加熱炉に挿入され、規定の雰囲気中で、規定の加熱温度と時間で熱処理される。この熱処理により固体のCoと溶融したSb(融点:630.7℃)はCo粒子の接触部界面で化学反応と拡散反応が起こり、CoとSbの化合物(CoSb、CoSb等)が生成される(S3)。所定の熱処理が終了すると加熱炉から取り出され、規定の濃度勾配(傾斜)の熱電素子40が製作される(S4)。
本実施例では、熱処理条件として、加熱温度:750℃ ; 加熱時間:10時間 ; 加熱雰囲気:不活性ガス(アルゴンガス)気流中、を適用した。
【0028】
素材のSbはCoに比べ、低融点、高蒸気圧で有るため、不活性ガスの気流(フロー)によりペレット表面より蒸発消失するために、生成される化合物は表面ほどCoSbの割合が高く、表面のSb濃度が薄くなり中心部と表面にSbの濃度勾配が生じる。また、コバルトCoとアンチモンSbの圧縮成形体の代わりに、単一組成(化合物)例えばCoSbの圧縮成形体を使用して熱処理を行うことによっても、中心部と表面にSbの濃度勾配を生じさせることができる。
【0029】
このようにして、複数の成分から成る単一組成物(化合物)の熱電材料に対して熱処理を加えることで、その成分の一部を内部と外部で濃度勾配(傾斜)を生じさせることにより、部分的に熱起電力の異なる熱電材料を製作することができる。また、部分的に熱起電力が異なることにより、n型熱電材料とp型熱電材料の熱起電力のバランスが崩れるため、これにより熱起電力方向の変化(反転)を得ることが可能になる。
【0030】
図6に各化学組成に相当する配合比で製作されたCoとSbの圧縮成形体(圧粉)に対して熱処理(熱処理条件は、加熱温度:750℃ ; 加熱時間:10時間 ; 加熱雰囲気:アルゴンガス気流中)を施した熱電材料の熱電特性を示す。熱処理前のCoとSbとの比が、Co:Sb=1:3、Co:Sb=1:3.15及びCo:Sb=1:3.3の熱電材料は約180〜190℃で熱起電力の方向が反転している。なお、熱処理前のCoとSbとの比が、Co:Sb=1:3.6の熱電材料についても同様の実験を行ったが、熱起電力の方向は反転しなかった。
【0031】
その他の物理的な方法として、図1の熱電粒子が結合した熱電素子の製造方法を拡大応用した、熱電粒子材料を金型に装てんするとき、配合比を変化させた熱電粒子材料を順番に装てんすることにより熱電材料を構成する成分の濃度勾配(傾斜)を持たせた後、プレス圧縮、焼結等の工程を経て、傾斜熱電素子を製作することもできる。
【0032】
図7に図6の熱処理を施した配合比CoSbの熱電素子の切断面のCoとSbの濃度分布を示す。図から明らかなように、熱処理時に熱電素子の表面からアルゴンガスとともにSbが蒸発消失し、試料の外部に向かってSb濃度が減少している。
【0033】
このようにして、150〜200℃で熱起電力の方向(極性)が変化する熱電材料を得ることができる。
なお、以上の説明はスクッテルダイト系のCo−Sbを主体に説明してきたが、この熱電材料に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】熱電材料粒子が混合された熱電素子の模式図を示す。
【図2】熱電材料粒子が熱電材料中に分散した熱電素子の模式図を示す。
【図3】熱電材料が一体化された熱電素子の模式図を示す。
【図4】濃度勾配を有する熱電素子の模式図を示す。
【図5】濃度勾配を有する熱電素子の製造工程を示す。
【図6】Co−Sbの異なる組成の熱処理後の熱電材料の熱電特性を示す。
【図7】CoSb相当の配合比の熱電素子の熱処理後の切断面を示す。
【符号の説明】
【0035】
10、20、25、30、40:熱電素子
11、21、26、31、41:n型熱電材料
12、22、27、32,42:p型熱電材料
S1、S2、S3、S4:製造工程










【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物熱電材料により形成され、規定の温度で熱起電力の方向が変化する熱電素子であって、化合物中の一部の元素の濃度が、断面において不均一であることを特徴とする熱電素子。
【請求項2】
熱起電力方向の異なる熱電材料が混合された状態で、規定の温度で熱起電力の方向が変化する単一の素子として形成されていることを特徴とする熱電素子。
【請求項3】
熱起電力方向の異なる熱電材料が、他方の熱起電力方向の異なる熱電材料に分散された状態で、規定の温度で熱起電力の方向が変化する単一の素子として形成されていることを特徴とする熱電素子。
【請求項4】
熱起電力方向の異なる熱電材料が、規定の温度で熱起電力の方向が変化する単一の素子として一体化されていることを特徴とする熱電素子。
【請求項5】
化合物熱電材料を熱処理する工程を含む熱電素子の製造方法であって、前記熱処理中にガスフローを行うことにより、前記化合物中の一部の元素の蒸発散逸を促進することを特徴とする、熱電素子の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−105101(P2009−105101A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−273199(P2007−273199)
【出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)