説明

燃料分析装置及び燃料分析方法

【課題】燃料の分析を行い得る装置を提供する。
【解決手段】燃料の少なくとも一部から脱水素反応を経て水素を生成し得る能力を有する改質触媒(3)と、この改質触媒(3)に燃料を供給する燃料供給装置(4)と、前記燃料供給装置(4)からの燃料を前記改質触媒(3)に供給している場合に、改質触媒(3)の温度低下に基づいて燃料の性状を推定する燃料性状推定手段(11)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は燃料分析装置及び燃料分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油製品一成分試験方法によれば、蛍光指示薬を浸み込ませたカラムを用い、燃料成分を知る方法や、ガスクロマトグラフを用いる方法が知られている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】日本工業規格(JIS)のK2536 石油製品−成分試験方法
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジン(内燃機関)に使用される燃料の性状を知る指標として、ガソリンエンジンではオクタン価が、ディーゼルエンジンではセタン価が用いられている。これらの指標を検出するに際しては化学組成について考慮されておらず、燃焼行程を含めて考えるうえで、燃料の分析が行えることが望ましい。
【0005】
しかしながら、上記非特許文献1の技術では、燃料の分析に長い時間を要するために、即時性が求められる車載用の燃料分析装置としては適切でない。
【0006】
そこで本発明は、車載しても燃料の分析を行い得る装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下のような解決手段によって前記課題を解決する。なお、理解を容易にするために本発明の実施形態に対応する符号を付するが、これに限定されるものではない。
【0008】
本発明は、燃料の少なくとも一部から脱水素反応を経て水素を生成し得る能力を有する改質触媒(3)と、この改質触媒(3)に燃料を供給する燃料供給装置(4)とを備え、前記燃料供給装置(4)からの燃料を前記改質触媒(3)に供給している場合に、改質触媒(3)の温度低下に基づいて燃料の性状を推定するように構成する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、燃料の少なくとも一部から脱水素反応を経て水素を生成し得る能力を有する改質触媒と、この改質触媒に燃料を供給する燃料供給装置とを備え、前記燃料供給装置からの燃料を前記改質触媒に供給している場合に、改質触媒の温度低下に基づいて燃料の性状を推定するので、燃料の分析を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態の燃料分析装置の概略構成図である。
【図2】水素の生成と触媒温度変化を示すタイミングチャートである。
【図3】高沸点燃料の具体例を示す表図である。
【図4】同一燃料での触媒温度に依存した水素生成期間の特性図である。
【図5】高沸点燃料の含有割合が最大の燃料と高沸点燃料の含有割合が最小の燃料に対する水素生成期間の特性図である。
【図6】水素生成期間と高沸点燃料の含有割合との関係を表す特性図である。
【図7】第2実施形態の燃料分析装置の概略構成図である。
【図8】第3実施形態の燃料分析装置の概略構成図である。
【図9】第4実施形態の燃料分析装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は本発明の一実施形態の燃料分析装置1の概略構成図である。図1において筒状の管2に円柱状の改質触媒3が隙間無く介装されている。
【0012】
上記改質触媒3の上流には、燃料噴射弁4(燃料供給装置)を配置し、この燃料噴射弁4には燃料タンク5内の燃料を燃料供給ポンプ6により圧送する。ここで、燃料としては自動車用燃料(ガソリンや軽油)を考えている。
【0013】
燃料噴射弁4から改質触媒3に向けて燃料を噴射したとき、燃料噴射弁4から噴射された燃料噴霧が、周囲に空気を流さなくてもその噴霧の貫徹力だけで改質触媒3に到達するように、燃料噴射弁4の位置と燃料噴射弁4に供給する燃料圧力とを定める。燃料噴射弁4より噴射された燃料の霧化を促進させるため、燃料噴射弁4の上流側より改質触媒3に向けて空気を流すようにしてもかまわない。
【0014】
上記改質触媒3の周囲には改質触媒3を活性温度(例えば200〜400℃)へと上昇させるため、円筒状のヒータ8を改質触媒を被覆するように設けておく。このヒータ8により活性状態にある改質触媒3では、
HC(パラフィン)→+H2+HC(オレフィン) …(1)
などの化学反応式に代表される脱水素反応を行って水素を生成することができる。
【0015】
本発明において、改質触媒とは、燃料成分の中の少なくとも一部から脱水素過程(脱水素反応)を経て水素を生成しうる能力を持つ触媒のことである。改質触媒としては、市販の有無を問わず、公知の触媒および同様の機能を有する触媒を用いることができる。以下に改質触媒の実施例を示すが、この実施例にとらわれるものでは無い。
【0016】
触媒は、触媒活性粉末が支持担体に塗布された形態をなし、触媒活性粉末は、酸化物粉末上に金属が高分散に担持されてなるものを言う。ここで金属とは例えば、ロジウム、白金、パラジウムなどの貴金属であり、そのほかに、鉄、コバルト、マンガン、ニッケルなどの非貴金属(卑金属)を用いることができる。酸化物粉末には、シリカ、アルミナ、セリア、ジルコニア、チタニアなどや、それらを少なくとも一部に含む複合酸化物を用いることができる。支持担体としては、ハニカム形状や球状、リング状のコージェライト、シリコンカーバイド、ステンレス材質などからなる支持担体を挙げることができる。
【0017】
次に、触媒の実施例の詳細を示す。水中に分散させたアルミナ『酸化物粉体』中に『金属』前駆体としてジニトロジアミン白金塩を加え、60分攪拌した。その後、150度で1昼夜乾燥させ、粉砕の後に400度で1時間の焼成を行なった。以上の方法で『触媒活性粉末』を調製した。このように調整した『触媒活性粉末』をべ一マイト、水と攪拌し、スラリー状になったものを、コージェライトでできたハニカム担体(支持担体)に塗布、乾燥、焼成の後に『触媒』を得た。
【0018】
図2(A)は活性状態にある改質触媒3に対してt0のタイミングより燃料噴射を行ったときに、水素生成量と改質触媒3の触媒温度[℃]とがどのように変化するのかを示したものである。触媒温度としては改質触媒3により脱水素反応が行われる部位の温度を採用する。具体的には図1に示したように改質触媒3のうち中央より下流側(図で右側)に設けた温度センサ10により触媒温度を検出すればよい。
【0019】
図2(A)に示したように、燃料噴射開始前の触媒温度を所定温度T0[℃](=反応初期温度)とすると、触媒温度は燃料噴射を開始するt0のタイミングで所定温度T0より一気に所定温度Ta[℃]へと低下した後、その所定温度Taに暫く維持され、このとき改質触媒3より水素が生成されている。t0のタイミングより水素が生成されるとき、触媒温度が燃料噴射開始前の温度である所定温度T0より低下するのは、上記(1)式が脱水素反応(吸熱反応)であるからである。しかしながら、所定の期間(時間)が経過したt1のタイミングで、触媒温度は所定温度Taを離れて所定温度Tb[℃]へと上昇し所定温度Tbを維持する。触媒温度が所定温度Tbへと上昇してからは改質触媒3より水素は生成されていない。
【0020】
このように、触媒温度は脱水素反応(吸熱反応)により低下するのに、水素の生成が長くは続かない結果に終わっている。図2(B)は図2(A)に示した触媒温度の変化と同じもので、所定温度Tbから所定温度Taを差し引いた値は改質触媒3の吸熱度合ΔT[℃](=Tb−Ta)を表している。また、t0のタイミングからt1のタイミングまでの期間が水素生成期間Δt[min](=t1−t0)を表す。
【0021】
水素の生成が長く続かない原因を本発明者が解析したのが図2(A)の下段に示したモデル図である。上記の自動車用燃料(ガソリンや軽油)は、脂肪族、ナフテン族、芳香族からなる様々な燃料種の混合物であるが、ここでは、相対的に低沸点の燃料種からなる燃料(この燃料を以下単に、「低沸点燃料」という。)と、相対的に高沸点の燃料種からなる燃料(この燃料を以下単に、「高沸点燃料」という。)とに大きく分けて考える。
【0022】
まず、図2(A)下段の左側に示したように、燃料噴射を開始した当初は、低沸点燃料(丸形状で示している)と、高沸点燃料(楕円形状で示している)とが均等に触媒表面と接触し、触媒によりいずれの燃料との間でも脱水素反応(吸熱反応)が行われる。詳細にはパラフィンの重縮合による脱水素反応やナフテン(シクロアルカン)の脱水素反応がおきていると考えられる。
【0023】
さて、低沸点燃料は気化(蒸発)して触媒表面から脱離するのに対して、高沸点燃料は気化できないため、触媒表面に吸着したままとなる。こうした低沸点燃料と高沸点燃料の挙動の相違により、気化して低沸点燃料がいなくなった触媒表面にも高沸点燃料が付着してゆく。つまり、触媒表面を覆う高沸点燃料の割合が増加してゆくと、やがて図2(A)下段の右側に示したように、低沸点燃料が付着する触媒表面が無くなり、このタイミングで改質触媒による水素生成がやむと考えられる。言い換えると、燃料噴霧の触媒表面への燃料の付着と、触媒表面からの燃料の気化とが連続的に繰り返されるのであれば、水素生成が良好に行われるところ、触媒に付着している燃料が気化できなくなったタイミングで水素が生成されなくなると考えられるのである。従って、ここでいう「低沸点燃料」とは、上記(1)式の脱水素反応(吸熱反応)が行われているときの触媒温度(またはこの温度以下)で気化し得る燃料のことであり、これに対して「高沸点燃料」とは上記(1)式の脱水素反応(吸熱反応)が行われているときの触媒温度(またはこの温度以下)で気化し得ない燃料のこととなる。図3には高沸点燃料の具体例を示す。これらの具体例は全て芳香族である。
【0024】
こうした燃料挙動の解析の結果、図2(B)に示した水素生成期間Δtは、燃料のうちの高沸点燃料の含有割合に依存し、高沸点燃料の含有割合が多いほど水素生成期間Δtが短くなると考えられる。これは、環境温度(反応初期温度)と燃料噴射量と触媒温度とが同一の条件の場合、高沸点燃料の含有割合が多いほど触媒表面が全て高沸点燃料で覆われてしまうタイミング(t1)が早くなると考えられるためである。すなわち、水素生成期間Δtを検出すれば、その水素生成期間Δtより高沸点燃料の含有割合を推定できることとなる。なお、図2(B)に示した吸熱度合ΔTは燃料の気化潜熱と吸熱反応熱とに依存している。
【0025】
本発明の燃料性状の分析のためには、分析中に高沸点燃料と低沸点燃料とが共に存在することが前提である。このため、燃料性状分析に最適な触媒温度の範囲が存在する。これは、改質触媒3の触媒温度が400℃を超える温度域になると、触媒表面に付着する全ての燃料が気化してしまうため触媒温度は所定温度Taを維持するだけで所定温度Tbへと変化しない(つまりt1のタイミングが現れない)し、その一方で、触媒温度が200℃未満の温度域にある場合には全ての燃料が触媒表面に付着したまま気化することはないため、高沸点燃料の含有割合に関係なくt0の直後にt1が現れるためである。
【0026】
このため、環境温度(反応初期温度)と燃料噴射量とが同一の条件の場合、高沸点燃料の含有割合が同一の燃料でも、図4に示したように200℃〜400℃の温度範囲で触媒温度に依存した水素生成期間Δtの特性が得られる。図4において触媒温度が高くなるほど水素生成期間Δtが短くなるのは、早く触媒から離れていく低沸点燃料の割合が増えるためである。また、環境温度(反応初期温度)と燃料噴射量と触媒温度とが同じ条件でも高沸点燃料の含有割合が大きくなれば水素生成期間Δtは短くなる側(図では下方)にシフトする。
【0027】
次に、燃料性状の分析方法を説明する。高沸点燃料の含有割合を、
高沸点燃料の含有割合=高沸点燃料の量/(高沸点燃料の量+低沸点燃料の量)
…(2)
の式で定義し、高沸点燃料の含有割合が最大の燃料を基準燃料1、高沸点燃料の含有割合が最小の燃料を基準燃料2とすると、基準燃料1についての高沸点燃料の含有割合は最大含有割合Rmax、基準燃料2についての高沸点燃料の含有割合は最小含有割合Rminとなる。これら2種の燃料に対して環境温度(反応初期温度)と燃料噴射量とが同一の条件で適合により図5に示したように触媒温度に依存する水素生成期間の各特性が得られたとする。図5において実線が基準燃料1の特性、一点鎖線が基準燃料2の特性である。いま、燃料性状の分析に最適な触媒温度範囲の内の最低温度(200℃)から最高温度(400℃)までの間で設定触媒温度Tcat0[℃]を適当(任意)に定めると、この設定触媒温度Tcat0から図5を参照して基準燃料1に対する水素生成期間Δt1[min]と、基準燃料2に対する水素生成期間Δt2[min]とが定まる。横軸に高沸点燃料の含有割合を、縦軸に水素生成期間を採った図6に、基準燃料1に対する水素生成期間Δt1と最大含有割合Rmaxとで定まる点と、基準燃料2に対する水素生成期間Δt2と最小含有割合Rminとで定まる点とをそれぞれプロットし、それら2つの点を結ぶ。これによって、設定触媒温度Tcat0における水素生成期間[min]と、高沸点燃料の含有割合との関係を表す特性が得られる。これで準備が整った。
【0028】
後は、図1に戻り、分析装置1にコントローラ11を設け、コントローラ11により燃料ポンプ6、燃料噴射弁4及びヒータ8を駆動可能に構成すると共に、温度センサ10により検出される触媒温度をコントローラ11に入力させる。上記図6の水素生成期間と、高沸点の燃料種の含有割合との関係を表す特性はコントローラ11内のROMに記憶させておく。そして、燃料タンク5に高沸点燃料の含有割合が不明である未知の燃料を入れた後に、コントローラ11を作動させ、ヒータ8を駆動し、触媒温度を上記の設定触媒温度Tcat0まで高める。ポンプ6を作動させて燃料噴射弁4に燃料タンク5内の燃料を圧送する。温度センサ10により検出される触媒温度が上記の設定触媒温度Tcat0となったら、燃料噴射弁4を開いて燃料噴射を行わせる。これによって、改質触媒3では上記(1)式の脱水素反応(吸熱反応)を行うので、このときの触媒温度の温度変化(低下)を温度センサ10によりモニターする。この触媒温度モニターにより、高沸点燃料の含有割合が不明である未知の燃料に対する水素生成期間として、例えば所定期間Δtx[min]が得られたとする。コントローラ11では、この得られた所定期間Δtxから図6の特性を参照して所定期間Δtxに対応する高沸点燃料の含有割合Rxを求めると、この高沸点燃料の含有割合Rxは、高沸点燃料の含有割合が不明であった未知の燃料に対する高沸点燃料の含有割合を表す。これで高沸点燃料の含有割合が不明であった未知の燃料に対する高沸点燃料の含有割合を分析できたので、コントローラ11では、その分析した数値を表示装置12に表示させる。このようにして、本発明の燃料分析装置1によれば、高沸点燃料の含有割合が不明である未知の燃料に対してその燃料の高沸点燃料の含有割合を簡易にかつ短時間で推定することが可能となった。
【0029】
さらに、改質触媒3が活性状態にあれば、改質触媒3に酸素を供給することで、改質触媒3に付着している燃料を燃焼除去することができる。このため、図1において、改質触媒3上流の管2内に空気供給管15を突出して設け、燃料性状の分析を終了したあとに、エアポンプ16により圧送した空気(酸素)をこの空気供給管15を介して改質触媒3に流し、改質触媒3を再生する。なお、空気供給管15は、燃料噴射弁4からの燃料噴霧の邪魔にならない位置に設けておく。
【0030】
ここで、本実施形態の作用効果を説明する。
【0031】
本実施形態(請求項1に記載の発明)によれば、燃料の少なくとも一部から脱水素反応を経て水素を生成し得る能力を有する改質触媒3と、この改質触媒3に燃料を供給する燃料噴射弁4(燃料供給装置)とを備え、燃料噴射弁4からの燃料を改質触媒3に供給している場合に、改質触媒3の温度低下に基づいて燃料の性状を推定するので、燃料の分析を行うことができる。
【0032】
また、本実施形態(請求項1に記載の発明)によれば、改質触媒3を中心としたもの、言い換えると、燃料の化学組成について考慮したものであるので、装置全体をコンパクトにすることができる。
【0033】
本実施形態(請求項2に記載の発明)によれば、燃料噴射弁4の燃料は、改質触媒3と接触するに当たり、燃料の少なくとも一部が液体およびまたは液滴であるので、改質触媒3の温度低下は改質触媒3と接触した燃料の蒸発潜熱による温度低下と、脱水素反応に由来する吸熱(温度低下)との合計となり、蒸発潜熱による温度低下と脱水素反応由来の吸熱とを判別しやすくなる。
【0034】
本実施形態(請求項3に記載の発明)によれば、燃料供給装置は燃料噴射弁4であり、この燃料噴射弁4を用いて改質触媒3に直接燃料を噴射するので、改質触媒3と接触するに当たり、燃料の少なくとも一部を液体およびまたは液滴とすることができる。
【0035】
本実施形態(請求項4記載の発明)によれば、燃料は高沸点燃料(沸点が相対的に高い燃料種である第1燃料種の燃料)と、低沸点燃料(沸点が相対的に低い燃料種である第2燃料種の燃料)との2つの燃料の混合物であるとみなし、燃料の性状を推定することは、高沸点燃料の含有割合を推定することであるので、高沸点燃料の含有割合を簡易に推定できる。
【0036】
本実施形態(請求項5に記載の発明)によれば、改質触媒3の温度低下は脱水素反応の吸熱による温度低下であり、改質触媒3への燃料噴射の開始からのこの温度低下が続く期間、つまり水素生成期間Δtが短いほど高沸点燃料(第1燃料種の燃料)の含有割合が大きいと推定するので、高沸点燃料の含有割合に関係なく、高沸点燃料の含有割合を簡易に推定できる。
【0037】
本実施形態(請求項6に記載の発明)によれば、高沸点燃料の含有割合を推定する際に、高沸点燃料と低沸点燃料がともに存在する温度に改質触媒3の温度を保持するので、高沸点燃料の含有割合を推定できない事態となることを避けることができる。
【0038】
本実施形態(請求項7に記載の発明)によれば、燃料の性状の推定を終了した後に、空気を改質触媒3に導入し改質触媒3を再生させるので、何度でも、高沸点燃料の含有割合を推定できる。
【0039】
上記のように、燃料分析装置1の全体がコンパクトになったので、車両への搭載が可能である。図7、図8、図9は第2、第3、第4の実施形態の概略構成図で、図1に示した燃料分析装置1を車両を駆動するエンジンに搭載し、エンジン内での燃焼に供される燃料(ガソリンや軽油)の性状を推定させるようにしたものである。図7、図8、図9において図1と同一部分には同一番号を付している。なお、図1に示す空気供給管15とエアポンプ16とは省略して示していない。
【0040】
エンジン本体21には、空気が吸気通路22を介して図示しない燃焼室に供給される。燃料タンク23からの燃料は燃料供給ポンプ24により燃料噴射弁25に圧送され、エンジンコントローラ31からの信号を受けて燃料噴射弁25が開くことで燃料がエンジン本体21に供給される。これらの燃料と空気とは混合気を形成して図示しない燃焼室で燃焼され、燃焼後のガスは排気通路26に設けている排気後処理装置27によって浄化される。
【0041】
エンジンとしては、ガソリンを使用燃料として火花点火により混合気に着火して燃焼させるガソリンエンジン、軽油を使用燃料として圧縮着火により混合気を燃焼させるディーゼルエンジンのいずれでもかまわない。
【0042】
こうしたエンジンを有する車両に対して、燃焼に用いる燃料の性状の分析のため、本発明の燃料分析装置1を搭載するときには、燃焼に用いる燃料を貯蔵している燃料タンク23内の燃料を燃料供給ポンプ6によって燃料噴射弁4に圧送し、燃料噴射弁4より燃料タンク23内の燃料を改質触媒3に供給する。そして、改質触媒3によって改質された燃料(水素を含んだ燃料)は、第2実施形態では図7に示したように燃料供給通路41を介して吸気通路22に導入する。第2実施形態での排気後処理装置27は、例えば三元触媒である。そして、第2実施形態では、エンジン始動時に1回、あるいは給油を判定したときに燃料分析を行わせる。
【0043】
第3実施形態では、改質触媒3によって改質された燃料(水素を含んだ燃料)は、図8に示したように燃料供給通路42を介して排気後処理装置27上流の排気通路26に導入する。第3実施形態での排気後処理装置27は、例えば三元触媒やNOxトラップ触媒である。NOxトラップ触媒は、排気中のNOxをトラップするものであり、触媒にトラップされたNOx量が予め定めている上限値に到達すればNOxトラップ触媒にNOx還元剤を供給して触媒にトラップされているNOxを全て還元浄化(再生)してやる必要がある。このNOxトラップ触媒の再生処理時に燃料分析装置1を働かせ、改質触媒3からの水素を含んだ燃料を還元剤としてNOxトラップ触媒に供給することで、燃料の性状分析を行わせつつNOxトラップ触媒の再生を行わせることができる。
【0044】
第4実施形態では、図9に示したように改質触媒3によって改質された燃料(水素を含んだ燃料)を、燃料供給通路41に設けた凝縮器45に導く。凝縮器45では、水素と低沸点成分の燃料分が気体として分離されるので、この気体状態の燃料は燃料供給通路41を介して吸気通路22に導入し、凝縮器45での凝縮により液化した高沸点成分の燃料はリターン通路46を介して燃料タンク23に戻す。
【0045】
一方、コントローラ11とエンジンコントローラ31との間では、図7〜図9に示したように双方向通信を行わせる。なお、燃料分析装置1を車両に搭載するときには、排気により改質触媒3を加熱することもできる。
【0046】
第2、第3、第4の実施形態において、ガソリンエンジンを採用する場合には、推定した高沸点燃料の含有割合に応じて点火時期を補正する。すなわち、高沸点燃料の燃料含有割合が相対的に大きいと推定するとき、高沸点燃料の燃料含有割合が相対的に小さいと推定するときより点火時期を進角側に補正する。これは、高沸点の燃料種は低沸点の燃料種よりも概ねオクタン価が高いため、高沸点燃料の燃料含有割合が相対的に大きいとき、高沸点燃料の燃料含有割合が相対的に小さいときより点火時期を進めることができ、その進角分だけエンジン出力を高めることができるためである。
【0047】
このように、第2、第3、第4の実施形態(請求項8に記載の発明)によれば、燃料タンク23からの燃料と、吸気通路22を介して導かれる吸入空気とから混合気を形成して燃焼し、燃焼後のガスを排気通路26を介して排出するエンジンと、燃料の少なくとも一部から脱水素反応を経て水素を生成し得る能力を有する改質触媒3と、この改質触媒3に燃料タンク23からの燃料を供給する燃料噴射弁4(燃料供給装置)とを備え、燃料噴射弁4からの燃料を改質触媒3に供給している場合に、改質触媒3の温度低下に基づいて燃料タンク23からの燃料の性状を推定するので、エンジンに搭載された状態でエンジン内での燃焼に供される燃料の分析を行うことができる。
【0048】
第2実施形態(請求項9に記載の発明)によれば、高沸点燃料の含有割合の推定中(燃料の性状の推定中)に改質触媒3から出てくる水素を含んだ燃料を吸気通路22に導入するので、エンジン冷間始動直後でも水素は良好に燃焼することから、エンジンの暖機を早めることができる。
【0049】
第3実施形態(請求項10に記載の発明)によれば、排気通路26に排気中の有害成分を処理する排気後処理装置27を備え、高沸点燃料の含有割合の推定中(燃料の性状の推定中)に改質触媒3から出てくる水素を含んだ燃料を排気後処理装置27上流の排気通路に導入する。このため、排気後処理装置27が三元触媒である場合には、エンジンの冷間始動直後に高沸点燃料の含有割合(燃料の性状)を推定することで、推定中に改質触媒3から出てくる水素を含んだ燃料の燃焼で早期に三元触媒を活性化することができる。また、排気後処理装置27がNOxトラップ触媒である場合には、NOxトラップ触媒の再生処理時に高沸点燃料の含有割合(燃料の性状)を推定することで、推定中に改質触媒3から出てくる水素を含んだ燃料が還元剤としてNOxトラップ触媒に供給され、これによってNOxトラップ触媒を再生することができる。
【0050】
第4の実施形態(請求項11に記載の発明)によれば、高沸点燃料の含有割合の推定中(燃料の性状の推定中)に改質触媒3から出てくる水素を含んだ燃料を燃料タンク23に戻すので、エンジンの空燃比に影響を及ぼすことを避けることができる。
【0051】
高沸点の燃料種は低沸点の燃料種よりも概ねオクタン価が高いので、高沸点燃料の含有割合が相対的に大きくなった場合にも、高沸点燃料の含有割合が相対的に小さい場合の点火時期と同じにしたのでは、無用に点火時期を遅らせることとなり、エンジン出力が不足することになるが、第2、第3、第4の実施形態(請求項12に記載の発明)によれば、燃料タンク23からの燃料はガソリンであり、燃料噴射弁4(燃料供給装置)からの燃料は、改質触媒3と接触するに当たり、燃料の少なくとも一部が液体およびまたは液滴であり、燃料は高沸点燃料(第1燃料種の燃料)と、低沸点燃料(第2燃料種の燃料)との2つの燃料の混合物であるとみなし、燃料の性状を推定することは、高沸点燃料の含有割合を推定することであり、改質触媒3の温度低下は脱水素反応の吸熱による温度低下であり、改質触媒3への燃料噴射の開始からのこの温度低下が続く期間、つまり水素生成期間Δtが短いほど高沸点燃料の含有割合が大きいと推定し、高沸点燃料の含有割合が大きいと推定するとき、点火時期を進角側に補正するので、エンジン内での燃焼に供される燃料に合わせたエンジン出力を発揮させることができる。
【0052】
実施形態では、燃料の性状を推定することは、高沸点の燃料種の燃料の含有割合を推定することであったが、低沸点の燃料種の燃料含有割合を推定することとしてもかまわない。
【0053】
実施形態では、
水素生成期間Δtが短いほど高沸点燃料(第1燃料種の燃料)の含有割合が大きいと推定する場合であったが、水素生成期間Δtが短いほど低沸点燃料(第2燃料種の燃料)の含有割合が小さいと推定することとしてもかまわない。
【符号の説明】
【0054】
1 燃料分析装置
3 改質触媒
4 燃料噴射弁(燃料供給装置)
11 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料の少なくとも一部から脱水素反応を経て水素を生成し得る能力を有する改質触媒と、
この改質触媒に燃料を供給する燃料供給装置と、
前記燃料供給装置からの燃料を前記改質触媒に供給している場合に、改質触媒の温度低下に基づいて燃料の性状を推定する燃料性状推定手段と
を備えることを特徴とする燃料分析装置。
【請求項2】
前記燃料供給装置からの燃料は、前記改質触媒と接触するに当たり、燃料の少なくとも一部が液体およびまたは液滴であることを特徴とする請求項1に記載の燃料分析装置。
【請求項3】
前記燃料供給装置は燃料噴射弁であり、この燃料噴射弁を用いて前記改質触媒に直接燃料を噴射することを特徴とする請求項1に記載の燃料分析装置。
【請求項4】
前記燃料は沸点が相対的に高い燃料種である第1燃料種の燃料と、沸点が相対的に低い燃料種である第2燃料種の燃料との2つの燃料の混合物であるとみなし、
前記燃料の性状を推定することは、第1燃料種の燃料と第2燃料種の燃料との2つの燃料のうちのいずれか一方の燃料の含有割合を推定することであることを特徴とする請求項2に記載の燃料分析装置。
【請求項5】
前記改質触媒の温度低下は前記脱水素反応の吸熱による温度低下であり、前記改質触媒への燃料噴射の開始からのこの温度低下が続く期間が短いほど前記第1燃料種の燃料の含有割合が大きいとまたは前記第2燃料種の燃料の含有割合が小さいと推定することを特徴とする請求項4に記載の燃料分析装置。
【請求項6】
前記いずれか一方の燃料の含有割合を推定する際に、前記2つの燃料がともに存在する温度に前記改質触媒の温度を保持することを特徴とする請求項5に記載の燃料分析装置。
【請求項7】
前記燃料の性状の推定を終了した後に、空気を前記改質触媒に導入し改質触媒を再生させることを特徴とする請求項6に記載の燃料分析装置。
【請求項8】
燃料タンクからの燃料と吸気通路を介して導かれる吸入空気とから混合気を形成して燃焼し、燃焼後のガスを排気通路を介して排出するエンジンを備え、
前記改質触媒に供給する燃料は前記燃料タンクからの燃料であることを特徴とする請求項1に記載の燃料分析装置。
【請求項9】
前記燃料の性状の推定中に前記改質触媒から出てくる水素を含んだ燃料を前記吸気通路に導入することを特徴とする請求項8に記載の燃料分析装置。
【請求項10】
前記排気通路に排気中の有害成分を処理する排気後処理装置を備え、
前記燃料の性状の推定中に前記改質触媒から出てくる水素を含んだ燃料をこの排気後処理装置上流の排気通路に導入することを特徴とする請求項8に記載の燃料分析装置。
【請求項11】
前記燃料の性状の推定中に前記改質触媒から出てくる水素を含んだ燃料を前記燃料タンクに戻すことを特徴とする請求項8に記載の燃料分析装置。
【請求項12】
前記燃料タンクからの燃料はガソリンまたは軽油であり、
前記燃料供給装置からの燃料は、前記改質触媒と接触するに当たり、燃料の少なくとも一部が液体およびまたは液滴であり、
前記燃料は沸点が相対的に高い燃料種である第1燃料種の燃料と、沸点が相対的に低い燃料種である第2燃料種の燃料との2つの燃料の混合物であるとみなし、前記燃料の性状を推定することは、第1燃料種の燃料と第2燃料種の燃料との2つの燃料のうちのいずれか一方の燃料の含有割合を推定することであり、
前記改質触媒の温度低下は前記脱水素反応の吸熱による温度低下であり、前記改質触媒への燃料噴射の開始からのこの温度低下が続く期間が短いほど前記第1燃料種の燃料の含有割合が大きいとまたは前記第2燃料種の燃料の含有割合が小さいと推定し、前記第1燃料種の燃料含有割合が大きいとまたは前記第2燃料種の燃料の含有割合が小さい推定するとき、点火時期を進角側に補正することを特徴とする請求項8に記載の燃料分析装置。
【請求項13】
燃料の少なくとも一部から脱水素反応を経て水素を生成し得る能力を有する改質触媒と、
この改質触媒に燃料を供給する燃料供給装置と
を備え、
前記燃料供給装置からの燃料を前記改質触媒に供給している場合に、改質触媒の温度低下に基づいて燃料の性状を推定することを特徴とする燃料分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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