説明

燃料噴射ノズル

【課題】多数の噴孔を備えながら、流量係数を高めることが可能な燃料噴射ノズルを提供することである。
【解決手段】燃料噴射ノズル10は、燃料供給路11を有するノズルボディ12と、燃料供給路11の下流側先端部からノズルボディ12を貫通して形成された噴孔13と、燃料供給路11内に往復動可能に挿嵌されて噴孔13を開閉するニードル14と、を備え、噴孔13は、燃料供給路11側である入口の孔断面形状が、燃料供給路11内における燃料流れに沿った方向を長径方向として、少なくとも燃料流れの上流側に位置する部分に半楕円形状部20を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃料噴射ノズルに係り、特にノズルボディの先端部に形成された複数の噴孔を備える内燃機関の燃料噴射ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料噴射ノズルは、ノズルボディの燃料供給路に挿嵌されたニードルが、往復動することにより、燃料供給路の下流側先端部からノズルボディを貫通して形成された噴孔を開閉して、燃料を内燃機関のシリンダ内等に噴射する。燃料噴射ノズルとしては、ノズルボディの先端部に設けられたサック室内に噴孔の入口が形成された所謂サックノズル、サック容量をもたずニードルにより噴孔の入口が塞がれるバルブカバードオリフィス(Valve Covered Oriffice:VCO)ノズル等のタイプがある。
【0003】
燃料噴射ノズルが適用される内燃機関、特にディーゼル機関においては、排気ガス中に含まれるハイドロカーボン(Hydro Carbon:HC)や粒子状物質(Particilate Matter:PM)を低減することが求められる。PMを低減するためには、噴射される燃料の微粒化が有効であることが知られており、したがって、小さな孔径の噴孔を多数形成した燃料噴射ノズルが広く採用されている。なお、閉弁時にノズルボディの外部と連通するノズルボディ内の容積(以下、無駄容積とする)が大きいと、HC等を発生し易くなるので、HC低減の観点からは、サック容積をもたないVCOノズルが有利である。
【0004】
また、噴孔から噴射される燃料を微粒化するためには、小さな孔径の噴孔を多数備えることに加えて、燃料供給路を流れる高圧燃料をできるだけ流体損失なく噴孔の出口まで導き、流量係数を大きくすることが重要になる。なお、VCOノズルでは、燃料供給路から噴孔に流入するときの燃料流れの曲がり方が急であるため、サックノズルよりも噴孔の入口上部においてキャビテーションを発生し易い。また、燃料の流れ分布の偏りや縮流も起こり易くなり、流量係数を高くすることは難しい。かかる状況に鑑みて、多数の噴孔を備えた燃料噴射ノズルにおいて流量係数を大きくするために、ニードルや噴孔の形状を改良した燃料噴射ノズルが開発されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、ノズルボディの先端に設けた噴孔入口をバルブシートより下流のニードル先端面で覆うようにした燃料噴射ノズルにおいて、バルブシートの直下流位置を上流端としてニードルの最大リフト状態での噴孔入口との対向位置を下流端とするくぼみをニードル先端面に設けたうえで、該くぼみの深さを下流側に至るにつれて深くした燃料噴射ノズルが開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、噴孔入口から噴孔出口に向かって噴孔面積が小さくなるよう形成された燃料噴射ノズルであって、噴孔入口にR面取りのような曲線で繋ぐ面取り形状を設ける等の手段によって、噴孔内壁における流体摩擦損失を低減する燃料噴射ノズルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−182641号公報
【特許文献2】特開2003−120474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の燃料噴射ノズルによれば、ニードルに形成されたくぼみによって、ニードルのリフト量が小さな開弁初期であっても噴射率を高くすることができる。しかし、くぼみの容積は、無駄容積となるためHC等が多くなるという問題がある。その他にも、ニードルに煩雑な加工が必要であること、サックノズルには適用できないこと、シール性が低下すること等の問題点が想定される。
【0009】
一方、特許文献2の燃料噴射ノズルでは、噴孔数が制限されるという問題がある。上記のように、燃料の微粒化を促進するためには、噴孔出口の孔径を小さく設けることが望ましいが、所定の流量を噴射するためには、孔径に応じて噴孔の数を多くしなければならない。この燃料噴射ノズルは、流体摩擦損失を低減するために、噴孔入口に大きなR面取りを設ける等、噴孔入口の孔径が大きく設定される。多数の噴孔を形成したときには、噴孔の間隔が狭くなるので、大きなR面取りを形成することができず、したがって、流体摩擦損失を低減して流量係数を高くすることは困難である。特に、サックノズルでは、噴孔の間隔が狭いため、このような方法では多数の噴孔を設けることは難しい。
【0010】
本発明の目的は、多数の噴孔を備えながら、流量係数を高めることが可能な燃料噴射ノズルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記のVCOノズルやサックノズルであって、噴孔入口の孔断面形状が略円形状のものは、噴孔に流入する燃料流れの曲がり方が急であるため、噴孔の入口上部において、キャビテーション、燃料の流れ分布の偏りや縮流が発生し易く、噴孔の有効断面積が減少して流量係数が低下する。特に、VCOノズルにおいて、燃料流れの曲がり方が急であり、流量係数の低下が大きくなる。そこで、本発明では、流量係数を向上させるために、以下の手段を用いる。
【0012】
なお、流量係数(Cd)とは、噴孔に流入する燃料の流れ易さを示す値であって、この値が大きいほど燃料が流入し易いことを示す。Cd=1であれば、噴孔で生じる損失がないことを意味する。流量係数(Cd)は、次式で表すことができる。
Q=Cd・A・(2Pdif/ρ)1/2
ここで、Qは噴孔出口の燃料の流量、Aは噴孔出口の断面積、ρは燃料密度、Pdifは燃料噴射圧と燃料が噴射される外部圧(シリンダ内圧)との差圧である。
【0013】
本発明に係る燃料噴射ノズルは、燃料供給路を有するノズルボディと、燃料供給路の下流側先端部からノズルボディを貫通して形成された噴孔と、燃料供給路内に往復動可能に挿嵌されて噴孔を開閉するニードルと、を備える燃料噴射ノズルにおいて、噴孔は、燃料供給路側である入口の孔断面形状が、燃料供給路内における燃料流れに沿った方向を長径方向として、少なくとも燃料流れの上流側に位置する部分に半楕円形状部を含むことを特徴とする。
【0014】
上記構成によれば、燃料供給路における燃料流れに沿った方向を長径方向として、少なくとも燃料流れの上流側に位置する部分を半楕円形状とすることによって、噴孔内におけるキャビテーション、燃料の流れ分布の偏りや縮流の発生が抑制され、流量係数を高めることが可能になる。
【0015】
上記構成は、VCOノズル及びサックノズルのいずれにも適用することができる。そして、流量係数を高めるために、噴孔入口をR面取り加工する、或いは入口径を大きくする等の必要がないので、噴孔数が制限されず、多数の噴孔を備えることができる。
【0016】
また、噴孔は、入口の孔断面における長径と短径との比が、1.5:1〜2.0:1であることが好ましい。
【0017】
上記構成によれば、噴孔内におけるキャビテーション、燃料の流れ分布の偏りや縮流の抑制効果をさらに向上させることができる。
【0018】
また、噴孔は、出口の孔断面形状が円形状であって、孔断面形状は入口から出口に向かうにつれて楕円形状から円形状に変化することが好ましい。
【0019】
上記構成によれば、さらに流量係数を高めて、燃料を微粒化することが可能になる。
【0020】
また、噴孔は、入口の孔断面形状が、燃料流れの下流側に位置する部分に半円形状部を含むことが好ましい。
【0021】
上記構成によれば、噴孔の加工性が良好なものとなる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る燃料噴射ノズルによれば、多数の噴孔を備えながら、流量係数を高めることが可能になる。即ち、噴孔内におけるキャビテーション、燃料の流れ分布の偏りや縮流の発生を抑制して、流量係数を高め、燃料の微粒化を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る実施形態における燃料噴射ノズル(VCOノズル)の要部断面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】図1に示す燃料噴射ノズルの噴孔において、入口及び出口の孔断面形状を示す図である。
【図4】噴孔入口の孔断面における長径と短径との比(LR)に対する流量係数(Cd)を示す図である。
【図5】各LRにおける燃料噴射時間に対する噴射率を示す図である。
【図6(a)】LR=1.0における噴孔内のキャビテーション発生状況を示す図である。
【図6(b)】LR=1.5における噴孔内のキャビテーション発生状況を示す図である。
【図6(c)】LR=2.0における噴孔内のキャビテーション発生状況を示す図である。
【図7】本発明に係る実施形態における燃料噴射ノズル(サックノズル)の要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。図1は、燃料噴射ノズル10の要部断面を示す図であり、ニードル14がリフトした開弁状態を示している。なお、同図に示す燃料噴射ノズル10は、閉弁時においてニードル14のシート部18が当接する弁座部16に噴孔13の入口が形成されるVCOノズルである。
【0025】
燃料噴射ノズル10は、図示しない燃料ポンプにより加圧された燃料を内燃機関のシリンダ内に噴射供給するノズルである。燃料ポンプは、内燃機関の電子制御装置によって制御され、内燃機関の運転状況に応じて、所定圧力の燃料を所定のタイミングで燃料噴射ノズル10に供給する。
【0026】
図1に示すように、燃料噴射ノズル10は、燃料供給路11を有するノズルボディ12と、燃料供給路11内に往復動可能に挿嵌されて、ノズルボディ12の先端部に形成された噴孔13を開閉するニードル14とから構成される。ニードル14の作動方式としては、ソレノイド作動式やピエゾ式、流体圧力作動式があり、ニードル14がこれらの作動方式によってリフトして同図に示す開弁状態となれば、噴孔13に燃料が流入する。
【0027】
ノズルボディ12は、燃料噴射ノズル10の外形を構成する略円筒形状の部材であって、その内部には、燃料供給路11が形成される。そして、ノズルボディ12の先端部には、ノズルボディ12を貫通する噴孔13が形成され、噴孔13の入口が形成される位置よりも先端側(燃料供給路11の下流側の最先端部)には、サック部15が形成される。
【0028】
燃料供給路11は、燃料を噴孔13に供給するための流路であって、ニードル14が挿嵌されるニードルガイド孔でもある。燃料供給路11の先端部は、次第に流路径が小さくなるテーパ形状に加工されており、上記のように、最先端部には、サック部15が設けられている。テーパ形状に加工された部分が、ニードル14のシート部18と当接する弁座部16である。
【0029】
噴孔13は、燃料を噴射するための燃料噴射孔であって、ノズルボディ12の先端部、具体的には、燃料供給路11の弁座部16からノズルボディ12を貫通して形成されている。ニードル14が上方にリフトすると噴孔13が開放されて、加圧された燃料は、燃料供給路11を通って噴孔13に流入し、内燃機関の吸気ポート又はシリンダ内に噴霧される。即ち、燃料が流入する噴孔13の入口は、燃料供給路11に面して開口しており、燃料が流出する噴孔13の出口は、ノズルボディ12の外部である内燃機関の吸気ポート又はシリンダに面して開口されている。
【0030】
図2は、図1のA−A線断面図である。同図に示すように、噴孔13は、燃料供給路11からノズルボディ12の外側に向かって複数形成されている。このように、噴孔径を小さくして多数の噴孔13を備えることにより、噴射燃料の微細化を図ることができ、PMの発生量を低減することができる。なお、後述する噴孔13の孔断面における短径方向は、図2において、複数の噴孔13が並ぶ方向に沿った方向、即ち、ノズルボディ12の周方向に沿った方向である。
【0031】
ニードル14は、燃料供給路11に挿嵌され、軸方向に沿って往復動することにより、燃料供給路11及び噴孔13を開閉する部材である。図1に示すように、ニードル14は、図示しない大径円柱部につながる小径円柱部19の外径が燃料供給路11の内径よりも小さく設計され、小径円柱部19と燃料供給路11の内壁との隙間を燃料ポンプにより加圧された燃料が流通する。
【0032】
ニードル14の先端部17は、燃料供給路11の下流側先端部の形状に適合した円錐形状を有しており、閉弁時において燃料供給路11の弁座部16に当接して燃料供給路11を遮断するシート部18を有する。なお、ニードル14は、図示しないスプリングにより、下方(燃料供給路11の下流方向、ノズルボディ12の先端方向)に付勢されている。
【0033】
燃料噴射ノズル10において、燃料ポンプによって燃料が加圧されてコモンレール(蓄圧室)に貯められ、電子制御(ソレノイド式又はピエゾ式)の下、ニードル14を上方にリフトさせることにより、燃料が噴射される。具体的には、ニードル14が上方にリフトすることにより、シート部18が弁座部16から離間して、燃料供給路11の下流側先端部及び噴孔13が開放され、加圧された燃料が噴孔13を流通してシリンダ内等に噴射される。
【0034】
燃料噴射ノズル10は、噴孔13内、特に噴孔13の入口の上部におけるキャビテーション、燃料の流れ分布の偏りや縮流の発生を抑制して、流量係数を高くするために、噴孔13の入口側の孔断面形状を改良したものである。以下、図3〜図6を用いて、多数の噴孔13を設けることができ、且つ流量係数を高めるために最適な噴孔13の孔断面形状について説明する。
【0035】
図3は、噴孔13の入口(図3(a))及び出口(図3(b))の孔断面形状を示す図である。図3(a)に示すように、噴孔13の入口の孔断面形状は、燃料供給路11内における燃料流れに沿った方向を長径方向として、少なくとも燃料流れの上流側に位置する部分に半楕円形状部20を有する。なお、図3の孔断面形状は、ノズルボディ12の内面(弁座部16の壁面)及び外面に沿った形状を示している。
【0036】
燃料噴射ノズル10において、燃料供給路11内の燃料の流れは、通常、燃料供給路11に沿った方向であるから、燃料供給路11に沿った方向が長径方向となり、燃料供給路11の上流側に位置する部分が半楕円形状の半楕円形状部20となる。そして、図3(b)に示すように、燃料流れの下流側に位置する部分、即ち、燃料供給路11の下流側に位置する部分が半円形状の半円形状部21となる。なお、噴孔13の入口の孔断面形状は、燃料供給路11内の燃料流れに沿った方向(燃料供給路11に沿った方向)を長径方向とする楕円形状とすることもできる。半楕円形状及び楕円形状の中間形状(例えば、大部分が楕円形状)とすることもできる。
【0037】
ここで、半楕円形状は、燃料供給路11内の燃料の流れ方向に沿った方向を長径方向とする形状であって、孔断面の半分程度が楕円形状であるものを意味する。図3(a)に示す左右均等の曲線を有する半楕円形状に限らず、歪みや凹凸のある略半楕円形状も含まれる。半円形状、楕円形状についても、半楕円形状と同様に、略半円形状、略楕円形状が含まれる。また、燃料供給路11内の燃料流れに沿った方向は、燃料の主流に沿った方向であって、通常、燃料供給路11に沿った方向である。半楕円形状及び楕円形状の長径方向は、燃料供給路11内の燃料流れに沿った方向と一致するように設定されるが、この設定には略一致する場合も含まれる。
【0038】
上記のように、噴孔13の入口の孔断面形状を、燃料供給路11内の燃料流れに沿った方向を長径方向とする半楕円形状又は楕円形状とすることにより、噴孔13内におけるキャビテーション、燃料の流れ分布の偏りや縮流の発生を抑制して、流量係数を高くすることができる。燃料は、燃料供給路11の上流側から下流側に向かって流れ、噴孔13の入口において、流れ方向が急に変化する。特に、入口の上部(燃料供給路11の上流側に位置する部分)では、燃料流れの曲がり方が急であるから、キャビテーション等が発生し易く、したがって、少なくとも燃料流れの上流側に位置する部分には半楕円形状部20を設ける必要がある。なお、図1に示すように、噴孔径(短径a)が大きくなりすぎず噴孔数に影響を与えない範囲で、噴孔13の入口を面取り加工することもできる。
【0039】
一方、燃料供給路11内における燃料流れの下流側に位置する部分の形状は、図3(a)に示すように、円形状(半円形状)とすることが好ましい。この理由は、燃料流れの上流側に位置する部分を楕円形状(半楕円形状)とすれば、噴孔13内におけるキャビテーション等の発生を十分に抑制することができるからであり、また、円形状の方が加工がし易いからである。
【0040】
また、噴孔13の出口側の孔断面形状は、入口側と同様の半楕円形状又は楕円形状とすることもできるが、図3(b)に示すように、円形状であることが好ましい。この理由は、入口側を楕円形状(半楕円形状)とすれば、噴孔13内におけるキャビテーション等の発生を十分に抑制することができるからであり、出口側形状については、円形状とする方が噴孔径を小さくし易く、燃料の噴射速度を高めて燃料の微粒化を促進できるからである。したがって、孔断面形状は入口から出口に向かうにつれて楕円形状から円形状に変化するように加工される。ここで、孔断面形状の変化の度合いは、燃料の流れを乱さないように、緩やかに設定される。
【0041】
また、キャビテーション等の発生を効果的に抑制して流量係数を高めるために最適な半楕円形状の長径と短径との比(LR)が存在する。図3(a)では、半楕円形状の短径をa、長径をbで示しており、LR=b/aである。以下、図4〜図6を用いて、最適なLRについて説明するが、各図に示す結果は、図3に示す孔断面形状を有し、入口から出口に向かうにつれて半楕円形状が円形状に変化する噴孔13に関するものである。
【0042】
図4は、横軸にLR、縦軸に流量係数(Cd)をとり、各LRにおける流量係数(Cd)の変化の一例を示した図である。同図に示すように、LRが高くなるに連れて、流量係数(Cd)も高くなることが判る。特に、LR=1〜1.5における流量係数(Cd)の向上度合いが大きい。なお、図示しないがLR=2.0よりも大きいときの流量係数(Cd)は、LR=2.0のときの流量係数(Cd)と殆ど差異がない。
【0043】
図5は、横軸に燃料噴射時間(開弁時間)、縦軸に噴射率をとり、各LRにおける噴射率の変化の一例を示した図である。同図に示すように、LR=1.5、2.0の場合は、LR=1.0、即ち、孔断面形状が円形状である場合よりも噴射率が高くなっている。なお、図示しないがLR=2.0よりも大きいときの噴射率は、LR=2.0のときの噴射率と殆ど差異がない。ここで、噴射率は、閉弁状態からニードル14がリフトして開弁状態となり、再び閉弁状態に至るまでの単位時間における燃料噴射量を意味する。
【0044】
図4、図5に示す結果から、キャビテーション等の発生を効果的に抑制して(詳しくは後述の図6参照)、流量係数(噴射率)を高めるために最適なLRは、1.5〜2.0であることが判る。なお、LR=2.0より大きくすることもできるが、加工性の観点等から、LR=2.0を最大値とすることが好ましい。
【0045】
図6は、各LRにおける噴孔13内のキャビテーションの発生状況を示す図である。ここで、燃料の密度が高いエリアから順に、斜め格子、右向き斜線、左向き斜線、砂地で示している。斜め格子の部分は、気体の密度が極めて低く燃料で満たされているエリアである。一方、砂地の部分は、気体の密度が高く、キャビテーションの発生量が多いエリアである。なお、ノズルボディ12の外部は、大部分が砂地で示されるが、これは、シリンダ内における空気を示している。
【0046】
図6(a)に示すように、LR=1.0のときには、噴孔13の上部における広い範囲に亘ってキャビテーションが発生している。特に、噴孔13の入口側においてキャビテーションの発生量が多い。このように、噴孔の孔断面形状が円形状のときには、キャビテーションの発生量が多くなって、噴孔の有効断面積が減少し、流量係数を高めることができない。
【0047】
一方、図6(b)に示すように、LR=1.5のときには、キャビテーションの発生エリアが噴孔13入口の上部のみに限定され、噴孔13の大部分において、キャビテーションは発生していない。また、同図(c)に示すように、LR=2.0のときには、さらにキャビテーションの発生エリアが狭くなることが判る。
【0048】
以上のように、燃料噴射ノズル10は、噴孔13において、入口の孔断面形状が、燃料供給路11内における燃料流れに沿った方向を長径方向として、少なくとも燃料流れの上流側に位置する部分が半楕円形状であること、特に、LR=1.5〜2.0に設定されることにより、キャビテーション等の発生を効果的に抑制することができ、孔断面形状が円形(LR=1.0)の場合よりも高い流量を得ることができる。
【0049】
なお、上記においては、燃料噴射ノズル10は、VCOノズルとして説明したが、図7に示すサックノズルタイプにおいても、上記の噴孔形状を適用することにより、噴孔数を減少させることなく流量係数を高めることができる。
【0050】
図7に示すように、燃料噴射ノズル30は、ノズルボディ32の先端部に形成されたサック部35内に噴孔33の入口を備える。燃料噴射ノズル30では、ニードル34がリフトして、先端部37のシート部38と弁座部36とが離間すると、サック部35を介して噴孔33に燃料が流入する。サックノズルの場合は、燃料供給路31を流通する燃料がサック部35に流入することによって、燃料流れが緩和されるが、噴孔入口の孔断面形状が円形状であると、やはり噴孔内におけるキャビテーション等の発生は抑えられない。
【0051】
したがって、燃料噴射ノズル30においても、噴孔33の入口の孔断面形状は、燃料供給路31における燃料流れに沿った方向を長径方向とする楕円形状とする必要がある。なお、サックノズルの場合には、サック部35に燃料が流入するため、燃料供給路31の下流側から噴孔33に流入する燃料は、VCOノズルよりも多くなる。しかし、燃料流れの主流は、燃料供給路31の上流側から直接噴孔33に流入する流れであるから、少なくとも燃料供給路31の上流側に位置する部分を半楕円形状とすれば、キャビテーション等の発生を抑制することができる。
【0052】
以上のように、燃料噴射ノズル30は、噴孔33の間隔が狭いサックノズルであるが、VCOノズルと同様に、噴孔33の入口の孔断面形状が、燃料供給路31内における燃料流れに沿った方向を長径方向として、少なくとも燃料流れの上流側に位置する部分が半楕円形状であること、特に、LR=1.5〜2.0に設定されることにより、キャビテーション等の発生を効果的に抑制することができる。このように、噴孔33の入口に大きなR面取りを設ける等、噴孔数が制限されるような方法によることなく、流量係数を高めて、燃料の微粒化を促進することが可能になる。
【符号の説明】
【0053】
10、30 燃料噴射ノズル、11、31 燃料供給路、12、32 ノズルボディ、13、33 噴孔、14、34 ニードル、15、35 サック部、16、36 弁座部、17、37 先端部、18、38 シート部、19 小径円柱部、20 半楕円形状部、21 半円形状部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料供給路を有するノズルボディと、
燃料供給路の下流側先端部からノズルボディを貫通して形成された噴孔と、
燃料供給路内に往復動可能に挿嵌されて噴孔を開閉するニードルと、
を備える燃料噴射ノズルにおいて、
噴孔は、
燃料供給路側である入口の孔断面形状が、燃料供給路内における燃料流れに沿った方向を長径方向として、少なくとも燃料流れの上流側に位置する部分に半楕円形状部を含むことを特徴とする燃料噴射ノズル。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料噴射ノズルにおいて、
噴孔は、
入口の孔断面における長径と短径との比が、1.5:1〜2.0:1であることを特徴とする燃料噴射ノズル。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の燃料噴射ノズルにおいて、
噴孔は、
出口の孔断面形状が円形状であって、孔断面形状は入口から出口に向かうにつれて楕円形状から円形状に変化することを特徴とする燃料噴射ノズル。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1に記載の燃料噴射ノズルにおいて、
噴孔は、
入口の孔断面形状が、燃料流れの下流側に位置する部分に半円形状部を含むことを特徴とする燃料噴射ノズル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6(a)】
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【図6(b)】
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【図6(c)】
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【図7】
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