説明

燃料電池、燃料電池スタックおよびこれらの検査方法

【課題】 劣化箇所を具体的に特定することができる燃料電池、燃料電池スタックおよびこれらの検査方法を提供する。
【解決手段】 本発明に係る燃料電池(10)は、第1の同位体比率で所定の元素を含有する第1領域と、第1の同位体比率と異なる第2の同位体比率で所定の元素を含有する第2領域と、を備えることを特徴とするものである。本発明に係る燃料電池によれば、燃料電池の排出ガスまたは排出液に含まれる所定の元素の同位体比率を測定することによって、第1領域および第2領域の劣化に関する情報を取得することができる。したがって、本発明に係る燃料電池によれば、燃料電池における劣化箇所を具体的に特定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池、燃料電池スタックおよびこれらの検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、一般的には水素および酸素を燃料として電気エネルギを得る装置である。この燃料電池は、環境面において優れており、また高いエネルギ効率を実現できることから、今後のエネルギ供給システムとして広く開発が進められてきている。
【0003】
燃料電池は、電解質膜、アノード触媒層、カソード触媒層等の複数の構成部材によって構成されている。燃料電池は、アノード側に水素ガスが供給され、カソード側に酸素が供給されて発電するとともに水を生成する。このような燃料電池において、構成部材は発電に伴って劣化する場合がある。
【0004】
特許文献1には、燃料電池の構成部材の劣化によって排出される物質を採取する採取部を備え、その採取部が採取した物質を質量分析することによって燃料電池の劣化状態を分析する劣化状態分析方法が開示されている。この方法によれば、燃料電池内で劣化が生じている物質の化学構造に関する情報を取得することができる。
【0005】
【特許文献1】特開2003−232720号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に係る技術では、劣化している領域と劣化していない領域とが同種類の元素を含む場合には、劣化箇所を具体的に特定することは困難である。
【0007】
本発明は、劣化箇所を具体的に特定することができる燃料電池、燃料電池スタックおよびこれらの検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る燃料電池は、第1の同位体比率で所定の元素を含有する第1領域と、第1の同位体比率と異なる第2の同位体比率で所定の元素を含有する第2領域と、を備えることを特徴とするものである。本発明に係る燃料電池によれば、燃料電池の排出ガスまたは排出液に含まれる所定の元素の同位体比率を測定することによって、第1領域および第2領域の劣化に関する情報を取得することができる。したがって、本発明に係る燃料電池によれば、燃料電池における劣化箇所を具体的に特定することができる。
【0009】
上記構成において、燃料電池は、複数の構成部材を含み、第1領域と第2領域とは、複数の構成部材のうち互いに異なる構成部材に含まれていてもよい。この構成によれば、劣化している構成部材を具体的に特定することができる。
【0010】
上記構成において、第1領域および第2領域は、燃料電池を構成する同一の構成部材に含まれていてもよい。この構成によれば、同一の構成部材において劣化箇所を具体的に特定することができる。上記構成において、第1領域と第2領域とは、同一の構成部材において、厚み方向で互いに異なる位置に配置されていてもよい。この構成によれば、構成部材の厚み方向において、劣化箇所を具体的に特定することができる。
【0011】
上記構成において、第1領域と第2領域とは、同一の構成部材において、面内方向で互いに異なる位置に配置されていてもよい。この構成によれば、構成部材の面内方向において、劣化箇所を具体的に特定することができる。
【0012】
上記構成において、同一の構成部材は、電解質膜、触媒層、ガス拡散層およびセパレータのうちいずれかであってもよい。上記構成において、所定の元素は、炭素、鉄、ニッケル、硫黄、チタン、白金、錫およびホウ素のうち少なくともいずれか一つであってもよい。
【0013】
上記構成において、複数の構成部材は、触媒層およびガス拡散層であり、所定の元素は、炭素であり、第1領域は、触媒層に含まれ、第2領域は、ガス拡散層に含まれていてもよい。上記構成において、同一の構成部材は、触媒層またはガス拡散層であり、所定の元素は、炭素であってもよい。
【0014】
本発明に係る燃料電池スタックは、第1の同位体比率で所定の元素を含有する第1領域を備える第1の燃料電池と、第1の同位体比率と異なる第2の同位体比率で所定の元素を含有する第2領域を備える第2の燃料電池と、を備えることを特徴とするものである。本発明に係る燃料電池スタックによれば、燃料電池スタックの排出ガスまたは排出液に含まれる所定の元素の同位体比率を測定することによって、燃料電池スタックにおける劣化箇所を具体的に特定することができる。
【0015】
本発明に係る燃料電池の検査方法は、請求項1〜9のいずれかに記載の燃料電池からの排出ガスまたは排出液に含まれる所定の元素の同位体比率を測定する測定工程を含むことを特徴とするものである。本発明に係る燃料電池の検査方法によれば、燃料電池における劣化箇所を具体的に特定することができる。
【0016】
本発明に係る燃料電池スタックの検査方法は、請求項10に記載の燃料電池スタックからの排出ガスまたは排出液に含まれる所定の元素の同位体比率を測定する測定工程を含むことを特徴とするものである。本発明に係る燃料電池スタックの検査方法によれば、燃料電池スタックにおける劣化箇所を具体的に特定することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、劣化箇所を具体的に特定することができる燃料電池、燃料電池スタックおよびこれらの検査方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【実施例1】
【0019】
本発明の実施例1に係る燃料電池10について説明する。図1(a)は、燃料電池10の模式的断面図である。図1(b)は、図1(a)のカソード触媒層付近の拡大図である。図1(a)に示すように、燃料電池10は複数の構成部材からなる。例えば、燃料電池10は、電解質膜20、触媒層(カソード触媒層30およびアノード触媒層40)、ガス拡散層(ガス拡散層50およびガス拡散層60)およびセパレータ(セパレータ70およびセパレータ80)によって構成されている。電解質膜20は、例えばプロトン伝導性を有する固体高分子電解質によって構成される。固体高分子電解質として、例えばナフィオン(登録商標)が用いられる。
【0020】
カソード触媒層30は、電解質膜20の2つの面のうち一方の面に配置されている。アノード触媒層40は、電解質膜20の2つの面のうちカソード触媒層30と反対側の面に配置されている。カソード触媒層30は、プロトンと酸素との反応を促進する機能を有する。アノード触媒層40は、水素のプロトン化を促進する機能を有する。図1(b)に示すように、カソード触媒層30は、白金31を担持したカーボン(炭素)32によって構成される。アノード触媒層40もカソード触媒層30と同様の構成を有する。
【0021】
図1(a)に示すように、ガス拡散層50は、カソード触媒層30の電解質膜20と反対側の面に配置されている。ガス拡散層60は、アノード触媒層40の電解質膜20と反対側の面に配置されている。ガス拡散層50およびガス拡散層60は、導電性およびガス透過性を備えた材料から構成される。導電性およびガス透過性を備えた材料として、例えばカーボンペーパー、カーボンクロス等が用いられる。
【0022】
セパレータ70は、ガス拡散層50のカソード触媒層30と反対側の面に配置されている。セパレータ80は、ガス拡散層60のアノード触媒層40と反対側の面に配置されている。セパレータ70には、酸素が流動するためのガス流路71が形成されている。セパレータ80には、水素ガスが流動するためのガス流路81が形成されている。セパレータ70およびセパレータ80は、例えばSUS等の金属材料によって構成される。
【0023】
燃料電池10は、以下の作用によって発電する。まず、水素ガスはガス流路81を通って、ガス拡散層60に供給される。ガス拡散層60に供給された水素ガスは、ガス拡散層60を拡散して、アノード触媒層40に到達する。アノード触媒層40において、水素ガスは電子を放出してプロトンになる。放出された電子は、外部電気回路(図示せず)によって外部に取り出される。外部に取り出された電子は、電気的な仕事をした後に、カソード触媒層30に供給される。プロトンは、電解質膜20を伝導してカソード触媒層30側に移動する。
【0024】
酸素はガス流路71を通って、ガス拡散層50に供給される。ガス拡散層50に供給された酸素は、ガス拡散層50を拡散して、カソード触媒層30に到達する。カソード触媒層30においては、酸素と外部電気回路を通ってカソード触媒層30に到達した電子とプロトンとが反応する。それにより、発電が行われるとともに、水が生成される。
【0025】
カソード触媒層30からの排出ガス(カソードオフガスと称する)およびアノード触媒層40からの排出ガス(アノードオフガスと称する)は、それぞれセパレータ70およびセパレータ80に形成された排出ガス流路(図示せず)を通って燃料電池10の外部に排出される。生成水は、カソードオフガスまたはアノードオフガスと共に燃料電池10の外部に排出される。なお、外部に排出された生成水を排出液と称する。
【0026】
ここで、燃料電池10の各構成部材に含まれる各種の元素は、燃料電池10の使用条件によっては、腐食等により燃料電池10の外部へ排出される。例えば、カソード触媒層30およびアノード触媒層40は、炭素(C)を含んでいる。この炭素は、燃料電池10の使用条件によっては、例えば反応式(1)または反応式(2)に従って二酸化炭素(CO)になる。二酸化炭素は、排出ガスに含まれて外部へ排出される。
【0027】
C+2HO→CO+4H+4e (1)
C+O→CO (2)
【0028】
また、ガス拡散層50およびガス拡散層60も、カーボンペーパー等からなる場合には、炭素を含んでいる。この場合、ガス拡散層50およびガス拡散層60の炭素も反応式(1)および反応式(2)に従って二酸化炭素になり、外部に排出される。したがって、排出ガスに含まれる元素の種類を分析しただけでは、触媒層およびガス拡散層のいずれが劣化しているのかを判断することは困難である。
【0029】
そこで、本実施例に係る燃料電池10においては、各構成部材が、所定の元素について互いに異なる同位体比率を有している。例えば、カソード触媒層30およびアノード触媒層40の炭素の同位体比率がガス拡散層50およびガス拡散層60の同位体比率と異なるように制御されている。ここで、自然界の炭素の同位体比率は、何らの制御がされていない場合には略一定の値を有する。その同位体比率は、12C:98.9%,13C:1.1%,14C:微量である。そこで、燃料電池10においては、カソード触媒層30およびアノード触媒層40の13Cの比率が上記の比率と異なるように制御されている。
【0030】
例えば、燃料電池10においては、カソード触媒層30およびアノード触媒層40に含まれる炭素中の13Cの比率がガス拡散層50およびガス拡散層60に含まれる炭素中の13Cの比率よりも多くなるように制御されている。すなわち、燃料電池10は、第1の同位体比率で13Cを含有する第1領域と、第1の同位体比率と異なる第2の同位体比率で13Cを含有する第2領域と、を有し、第1領域はカソード触媒層30およびアノード触媒層40に含まれ、第2領域はガス拡散層50およびガス拡散層60に含まれている。
【0031】
この場合、排出ガスに含まれる炭素中の13Cの比率を測定することによって、ガス拡散層および触媒層のうち、劣化している構成部材に関する情報を取得することができる。したがって、本実施例に係る燃料電池10によれば、燃料電池10の劣化箇所を具体的に特定することができる。
【0032】
なお、排出ガスに含まれる炭素の同位体比率は、例えば、排出ガスを同位体比率測定可能な分析計に導入することによって取得することができる。図2(a)は、燃料電池10の検査方法を示す模式図である。燃料電池10の排出ガス(アノードオフガスおよびカソードオフガス)の炭素の同位体比率は、分析計90によって測定することができる。分析計90としては、元素の同位体比率を測定できる計器であれば限定されず、例えば質量分析計(MS)、ガスクロマトグラフ質量分析計(GS/MS)等が用いられる。
【0033】
なお、分析計90による測定の時期については特に限定されず、燃料電池10の起動時、通常発電時等、いずれの時期に行ってもよい。また、分析計90による同位体比率の測定は、本発明に係る検査方法の測定工程に相当する。
【0034】
燃料電池10は複数積層されていてもよい。図2(b)は、燃料電池スタック100の検査方法を示す模式図である。燃料電池スタック100は、燃料電池10が複数積層されたものである。図2(b)の構成においても、燃料電池スタック100の劣化箇所を具体的に特定することができる。
【0035】
なお、カソード触媒層30およびアノード触媒層40における炭素の同位体比率は、例えば製造過程で制御することができる。例えば、カソード触媒層30およびアノード触媒層40をインク塗布によって製造する場合には、塗布されるインクに含まれる炭素の同位体比率をあらかじめ制御しておけばよい。
【0036】
また、燃料電池10において異なる同位体比率を有する構成部材は、上記に限られない。さらに、燃料電池10において同位体比率を制御可能な元素は、炭素に限られない。例えば、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、硫黄(S)、チタン(Ti)、白金(Pt)、錫(Sn)、ホウ素(B)等であってもよい。
【0037】
鉄およびニッケルは、セパレータが金属の場合(特に、SUSの場合)に、セパレータに含まれている。硫黄は、電解質膜20、カソード触媒層30およびアノード触媒層40に、にスルホン基(SOH)の形で含まれている。チタンは、金属部材に含まれ、例えば、多孔体流路に用いる発泡焼結金属として燃料電池10に含まれる。白金は、カソード触媒層30およびアノード触媒層40に含まれている。錫は、部材の表面を親水化する際に酸化錫の形で用いられる場合がある。ホウ素は、炭素の親水性を制御するために用いられる場合がある。例えばホウ素は、触媒層および拡散層に含有されている場合がある。
【0038】
鉄、ニッケル、硫黄、チタン、白金、錫およびホウ素は、それぞれ燃料電池10の使用条件によって、イオン化して生成水中に溶出して、外部に排出される。したがって、これらの元素の同位体比率は、排出液の同位体比率を分析計90で測定することによって、取得することができる。例えば、鉄は、反応式(3)および反応式(4)に従って鉄イオンになって、生成水中に溶出する。
Fe→Fe2++2e (3)
Fe2+→Fe3++e (4)
【0039】
ニッケルは、反応式(5)に従ってニッケルイオンになって生成水中に溶出する。
Ni→Ni2++2e (5)
【0040】
硫黄は、下記式(6)に従って硫酸イオンになって生成水中に溶出する。なお、プロトン伝導性の固体高分子電解質が分解した場合には、硫黄は、有機基に結合された状態(R’−SOH)で生成水に溶出することもある。
R−SOH+HO→R−H+2H+SO2− (6)
【0041】
チタンは、反応式(7)に従ってチタンイオンになって生成水中に溶出する。
Ti→Ti4++4e (7)
【0042】
白金は、反応式(8)に従って白金イオンになって生成水中に溶出する。
Pt→Pt2++2e (8)
【0043】
錫は、反応式(9)および反応式(10)に従って錫イオンになって生成水中に溶出する。
Sn→Sn2++2e (9)
Sn2+→Sn4++2e (10)
【0044】
ホウ素は、ホウ酸イオン(HBO)になって生成水中に溶出する。
【0045】
また、鉄、ニッケル、硫黄、チタン、白金、錫およびホウ素の自然界における同位体比率は、それぞれ以下のとおりである。鉄の同位体比率は、54Fe:5.8%,56Fe:91.72%,57Fe:2.2%,58Fe:0.28%である。ニッケルの同位体比率は、58Ni:68.077%,60Ni:26.233%,61Ni:1.14%,62Ni:3.634%,64Ni:0.926%である。硫黄の同位体比率は、32S:95.02%,33S:0.75%,34S:4.21%,36S:0.02%である。
【0046】
チタンの同位体比率は、46Ti:8.0%,47Ti:7.3%,48Ti:73.8%,49Ti:5.5%,50Ti:5.4%である。白金の同位体比率は、190Pt:0.1%,192Pt:0.79%,194Pt:32.9%,195Pt:33.8%:,196Pt:25.3%,198Pt:7.2%である。錫の同位体比率は、112Sn:0.97%,114Sn:0.65%,115Sn:0.34%,116Sn:14.54%,117Sn:7.68%,118Sn:24.23%,119Sn:8.59%,120Sn:32.59%,122Sn:4.63%,124Sn:5.79%である。ホウ素の同位体比率は、10B:19.9%,11B:80.1%である。
【0047】
本実施例において、カソード触媒層30とアノード触媒層40との間で、同位体比率を制御した元素の種類を異なるものにしてもよい。例えば、カソード触媒層30およびアノード触媒層40のいずれか一方の炭素の同位体比率を制御し、他方の白金、ホウ素等の同位体比率を制御してもよい。この場合、カソード触媒層30およびアノード触媒層40のいずれが劣化しているか特定することができる。
【0048】
また、カソード触媒層30およびアノード触媒層40の同位体比率は制御せずに、ガス拡散層50およびガス拡散層60に含まれる炭素またはホウ素の同位体比率を制御してもよい。また、ガス拡散層50とガス拡散層60との間で炭素またはホウ素の同位体比率を異ならせてもよい。ガス拡散層50およびガス拡散層60に含まれる炭素またはホウ素の同位体比率は、製造過程で制御することができる。例えば、コーターを用いてガス拡散層50およびガス拡散層60を製造する場合には、原材料に含まれる炭素またはホウ素の同位体比率をあらかじめ制御しておけばよい。また、スプレー塗布によって製造する場合には、塗布されるインクに含まれる炭素またはホウ素の同位体比率をあらかじめ制御しておけばよい。
【0049】
また、電解質膜20とカソード触媒層30およびアノード触媒層40との間で、硫黄の同位体比率を制御してもよい。電解質膜20またはカソード触媒層30およびアノード触媒層40に含まれる硫黄の同位体比率は製造過程で制御することができる。例えば、電解質膜20をコーターを用いて製造する場合には、原材料に含まれる硫黄の同位体比率をあらかじめ制御しておけばよい。
【0050】
セパレータ70とセパレータ80との間で、鉄、ニッケルまたは錫の同位体比率を制御してもよい。鉄、ニッケルおよび錫の同位体比率は、製造過程で制御することができる。例えば、セパレータ70およびセパレータ80の原材料に含まれる鉄、ニッケルおよび錫の同位体比率をあらかじめ制御しておけばよい。
【0051】
以上のように、各構成部材間において所定の元素の同位体比率を異ならせることによって、いずれの構成部材が劣化しているか具体的に特定することができる。
【実施例2】
【0052】
続いて、本発明の実施例2に係る燃料電池10aについて説明する。図3(a)は、燃料電池10aの模式図である。燃料電池10aは、カソード触媒層30およびアノード触媒層40の代わりにカソード触媒層30aおよびアノード触媒層40aを備える点で、図1(a)の燃料電池10と異なる。その他の構成は、燃料電池10と同様のため説明を省略する。
【0053】
図3(b)は、図3(a)のカソード触媒層30a付近の模式的拡大図である。本実施例においては、カソード触媒層30aにおいて炭素、ホウ素または白金の同位体比率が、カソード触媒層30aの厚み方向において変化するように制御されている。図3(a)においては、ガス拡散層50に近いほど、13Cの比率が小さく制御されている。この場合、カソード触媒層30aにおいて第1領域(例えば13Cの比率の小さい領域)と第2領域(例えば13Cの比率の大きい領域)とは、厚み方向で互いに異なる位置に配置されている。なお、アノード触媒層40aにおいても、炭素、ホウ素または白金の同位体比率が、アノード触媒層40aの厚み方向において変化するように制御されている。
【0054】
本実施例に係る燃料電池10aによれば、排出ガスまたは排出液に含まれる所定の元素の同位体比率を分析計90で測定することによって、カソード触媒層30aおよびアノード触媒層40aの厚み方向において、劣化箇所を具体的に特定することができる。
【0055】
なお、カソード触媒層30aおよびアノード触媒層40aは、例えばインクをスプレー塗布する際に、インクの同位体比率を制御することによって製造することができる。具体的には、あらかじめ13C等の同位体比率を制御したインクを準備しておき、スプレー塗布の途中で塗布されるインクを交換すればよい。
【0056】
なお、本実施例においてはカソード触媒層30aおよびアノード触媒層40aのいずれにおいても同位体比率が制御されているが、いずれか一方のみの同位体比率が制御されていてもよい。この場合、カソード触媒層30aおよびアノード触媒層40aのいずれの厚み方向において劣化が生じているかを特定することができる。
【0057】
本実施例においては、触媒層の厚み方向において同位体比率が制御されているが、同一の構成部材において厚み方向で同位体比率が制御されていればよい。例えば、電解質膜20の厚み方向において硫黄の同位体比率が制御されていてもよい。電解質膜20の厚み方向の硫黄の同位体比率を制御するには、例えば以下の方法を用いることができる。図4は、電解質膜20の厚み方向の同位体比率を制御する方法の一例を示す模式図である。図4に示すように、電解質膜20の製造には、コーター110およびベースフィルム120が用いられる。コーター110は電解質膜20の構成材料を噴出する機器であり、ベースフィルム120はコーター110から噴出された構成材料が塗布されるフィルムである。
【0058】
ベースフィルム120は、コーター110に対して矢印の方向に相対移動している。コーター110には、電解質膜20の構成材料21が流れるための流路111および電解質膜20の構成材料22が流れるための流路112が形成されている。流路111は、流路112のベースフィルム120の移動方向側に形成されている。この場合、流路111を流れる構成材料21の硫黄の同位体比率を流路112を流れる構成材料22の硫黄の同位体比率と異ならせることによって、電解質膜20の厚み方向の硫黄の同位体比率を制御することができる。
【0059】
また、ガス拡散層50およびガス拡散層60の厚み方向において炭素またはホウ素の同位体比率が制御されていてもよい。ガス拡散層50およびガス拡散層60の厚み方向の同位体比率は、例えば、ガス拡散層50およびガス拡散層60をコーター110を用いて製造する場合には、電解質膜20と同様の方法で製造することができる。あるいは、スプレー塗布方法でガス拡散層50およびガス拡散層60を製造する場合には、カソード触媒層30aおよびアノード触媒層40aと同様の方法で製造することができる。
【0060】
また、セパレータ70およびセパレータ80の厚み方向において鉄、ニッケルまたは錫の同位体比率が制御されていてもよい。まず、スパッタ等によってセパレータ70およびセパレータ80の表面に所定の元素(例えば54Fe等)を付着させる。その後、熱処理を施すことによって、付着させた元素をセパレータ70およびセパレータ80の内部に拡散させて、セパレータ70およびセパレータ80の厚み方向の同位体比率にグラデーションを形成する。以上の方法で、厚み方向において鉄、ニッケルまたは錫の同位体比率を制御することができる。
【実施例3】
【0061】
続いて、本発明の実施例3に係る燃料電池10bについて説明する。図5(a)は、燃料電池10bの模式的断面図である。燃料電池10bは、ガス拡散層50およびガス拡散層60の代わりにガス拡散層50bおよびガス拡散層60bを備える点で、図1(a)の燃料電池10と異なる。その他の構成は、燃料電池10と同様のため説明を省略する。
【0062】
図5(b)は、図5(a)のガス拡散層50bをセパレータ70側から見た平面図である。なお、図5(a)の寸法と図5(b)の寸法とは一致させていない。ガス拡散層50bの所定の元素の同位体比率は、面内方向において一方の側(図5(b)の左側)から他方の側(図5(b)の右側)にかけて変化するように制御されている。所定の元素として、例えば炭素、ホウ素等が用いられる。本実施例においては、所定の元素として炭素が用いられる。具体的には、ガス拡散層50bにおいて第1領域(例えば13Cの比率の小さい領域)と第2領域(例えば13Cの比率の大きい領域)とは、面内方向で互いに異なる位置に配置されている。なお、ガス拡散層60bもガス拡散層50bと同様の構成を有している。
【0063】
本実施例に係る燃料電池10bによれば、排出ガスまたは排出液に含まれる所定の元素の同位体比率を分析計90で測定することによって、ガス拡散層50bおよびガス拡散層60bの面内方向における劣化箇所を具体的に特定することができる。
【0064】
なお、ガス拡散層50bおよびガス拡散層60bの面内方向の同位体比率を制御するには、例えば以下の方法を用いることができる。図6は、ガス拡散層50bの面内方向の同位体比率を制御する方法の一例を示す模式図である。図6は、コーター110の代わりにコーター110bが用いられている点で、図4と異なる。
【0065】
コーター110bは、流路111および流路112の代わりに流路113および流路114を備える点で、コーター110と異なる。流路113はガス拡散層50bの構成材料51が流れるための流路であり、流路114はガス拡散層50bの構成材料52が流れるための流路である。構成材料52の所定の元素の同位体比率が、構成材料51の所定の元素の同位体比率と異なるように制御されている。また、流路113および流路114は、ベースフィルム120の移動方向と垂直な方向であってベースフィルム120の面の方向に並んで形成されている。このようなコーター110bを用いてベースフィルム120上にガス拡散層50bの構成材料を塗布することによって、ガス拡散層50bの面内方向の同位体比率を制御することができる。なお、ガス拡散層60bについても同様の方法が用いられる。
【0066】
また、ガス拡散層50bおよびガス拡散層60bは、スプレー塗布による方法で製造することもできる。この場合、スプレーされるインクの同位体比率を制御することによって、ガス拡散層50bおよびガス拡散層60bの面内方向の同位体比率を制御することができる。具体的には、あらかじめ同位体比率の異なるインクを準備しておき、これらのインクを、面内方向にかけて同位体比率が異なるようにカソード触媒層30およびアノード触媒層40の面上に塗布していけばよい。
【0067】
なお、ガス拡散層以外の構成部材の面内方向において同位体比率が制御されていてもよい。例えば、電解質膜20の面内方向の同位体比率が制御されていてもよい。電解質膜20の面内方向の同位体比率は、例えば図6の方法と同様の方法で制御することができる。
【0068】
また、カソード触媒層30およびアノード触媒層40の面内方向の同位体比率が制御されていてもよい。カソード触媒層30およびアノード触媒層40の面内方向の同位体比率は、例えば、ガス拡散層50bおよびガス拡散層60bのスプレー塗布による方法と同様の方法で、制御することができる。
【0069】
また、セパレータ70およびセパレータ80の面内方向の同位体比率が制御されていてもよい。セパレータ70およびセパレータ80の面内方向の同位体比率は、例えば、同位体比率の異なる元素をスパッタ等によってセパレータ70およびセパレータ80の面内方向にグラデーションが形成されるように塗布することによって、制御することができる。
【実施例4】
【0070】
続いて、本発明の実施例4に係る燃料電池スタック100cについて説明する。図7は、燃料電池スタック100cの模式図である。燃料電池スタック100cにおいては、所定の元素の同位体比率が積層方向において変化するように燃料電池10が積層されている。図7においては、燃料電池スタック100cの所定の元素の同位体(例えば13C)の比率が積層方向にかけて順次大きくなるように、燃料電池10が積層されている。
【0071】
燃料電池スタック100cは、例えば各燃料電池10のカソード触媒層30およびアノード触媒層40における所定の同位体(例えば13C)の含有比率を積層方向にかけて順に増やしていくことによって、製造することができる。
【0072】
本実施例に係る燃料電池スタック100cによれば、排出ガスまたは排出液に含まれる所定の元素の同位体比率を測定することによって、燃料電池スタック100cにおける劣化箇所を具体的に特定することができる。
【0073】
本実施例において、燃料電池スタック100cを構成する各燃料電池10のうちいずれか1個の燃料電池10が第1の燃料電池に相当し、他の燃料電池10が第2の燃料電池に相当する。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】図1(a)は、燃料電池の模式的断面図である。図1(b)は、図1(a)のカソード触媒層付近の拡大図である。
【図2】図2(a)は、燃料電池の検査方法を示す模式図である。図2(b)は、燃料電池スタックの検査方法を示す模式図である。
【図3】図3(a)は、実施例2に係る燃料電池の模式図である。図3(b)は、図3(a)のカソード触媒層付近の模式的拡大図である。
【図4】図4は、電解質膜の厚み方向の同位体比率を制御する方法の一例を示す模式図である。
【図5】図5(a)は、実施例3に係る燃料電池の模式的断面図である。図5(b)は、図5(a)のガス拡散層をセパレータ側から見た平面図である。
【図6】図6は、実施例3に係るガス拡散層の面内方向の同位体比率を制御する方法の一例を示す模式図である。
【図7】図7は、実施例4に係る燃料電池スタックの模式図である。
【符号の説明】
【0075】
10 燃料電池
20 電解質膜
21,22 構成材料
30 カソード触媒層
31 白金
32 カーボン
40 アノード触媒層
50,60 ガス拡散層
51,52 構成材料
70,80 セパレータ
71,81 ガス流路
90 分析計
100 燃料電池スタック
110 コーター
111,112,113,114 流路
120 ベースフィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の同位体比率で所定の元素を含有する第1領域と、
前記第1の同位体比率と異なる第2の同位体比率で前記所定の元素を含有する第2領域と、を備えることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記燃料電池は、複数の構成部材を含み、
前記第1領域と前記第2領域とは、前記複数の構成部材のうち互いに異なる構成部材に含まれることを特徴とする請求項1記載の燃料電池。
【請求項3】
前記第1領域および前記第2領域は、前記燃料電池を構成する同一の構成部材に含まれることを特徴とする請求項1記載の燃料電池。
【請求項4】
前記第1領域と前記第2領域とは、前記同一の構成部材において、厚み方向で互いに異なる位置に配置されていることを特徴とする請求項3記載の燃料電池。
【請求項5】
前記第1領域と前記第2領域とは、前記同一の構成部材において、面内方向で互いに異なる位置に配置されていることを特徴とする請求項3記載の燃料電池。
【請求項6】
前記同一の構成部材は、電解質膜、触媒層、ガス拡散層およびセパレータのうちいずれかであることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項7】
前記所定の元素は、炭素、鉄、ニッケル、硫黄、チタン、白金、錫およびホウ素のうち少なくともいずれか一つであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項8】
前記複数の構成部材は、触媒層およびガス拡散層であり、
前記所定の元素は、炭素であり、
前記第1領域は、前記触媒層に含まれ、
前記第2領域は、前記ガス拡散層に含まれることを特徴とする請求項2記載の燃料電池。
【請求項9】
前記同一の構成部材は、触媒層またはガス拡散層であり、
前記所定の元素は、炭素であることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項10】
第1の同位体比率で所定の元素を含有する第1領域を備える第1の燃料電池と、
前記第1の同位体比率と異なる第2の同位体比率で前記所定の元素を含有する第2領域を備える第2の燃料電池と、を備えることを特徴とする燃料電池スタック。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載の燃料電池からの排出ガスまたは排出液に含まれる前記所定の元素の同位体比率を測定する測定工程を含むことを特徴とする燃料電池の検査方法。
【請求項12】
請求項10に記載の燃料電池スタックからの排出ガスまたは排出液に含まれる前記所定の元素の同位体比率を測定する測定工程を含むことを特徴とする燃料電池スタックの検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−277555(P2009−277555A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−128836(P2008−128836)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】