説明

燃料電池からの触媒回収方法

【課題】特別な設備を用いることなく触媒を高分子電解質から分離し、燃料電池から簡便に触媒を回収する。
【解決手段】高分子電解質によって形成される電解質層と、電解質層上に形成される電極と、を備える燃料電池から、電極を構成する触媒を回収する方法は、電極に反応ガスを供給するために燃料電池内に形成されたガス流路に対して、高分子電解質を溶解可能であって触媒を溶解不能である電解質溶解液を供給する第1の工程(ステップS110およびステップS120)を備える。さらに、ガス流路内を通過させた電解質溶解液と、ガス流路内に電解質溶解液を通過させた後の燃料電池と、のうちの少なくとも一方から、触媒を回収する第2の工程(ステップS130およびステップS140)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池からの触媒回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、一般に、電解質層の両側に、貴金属等の金属から成る触媒を備えた電極を備え、アノード側に水素が供給されると共に、カソード側に酸素が供給されて、電気化学反応を進行することにより起電力を得る。このような燃料電池は、燃料の有する化学エネルギを直接電気エネルギに変換する高効率な発電装置であって、環境汚染物質を排出しない発電装置として、普及が期待されている。ここで、燃料電池の普及のためには、触媒などの燃料電池の構成要素の再利用を図ることが重要であると考えられている。再利用のために燃料電池から触媒を回収する方法としては、燃料電池を分解して得られる電解質膜/電極接合体(MEA)を、加熱メタノール等の溶解液に浸漬させて、電解質膜を構成する高分子電解質を溶解液に溶解させる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。ここでは、高分子電解質を溶解させた溶解液から、溶解液中の不溶物部分として、電極を構成する触媒を担持した導電性担体を回収することによって、触媒を高分子電解質から分離している。
【0003】
【特許文献1】特開2004−171921号公報
【特許文献2】特開平8−17192号公報
【特許文献3】特開2005−209624号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、MEAから溶解液中に高分子電解質を溶解させる場合には、燃料電池を分解して得られるMEAを溶解液に浸漬するための浸漬槽などの特別な設備が必要になる。
【0005】
本発明は、上述した従来の課題を解決するためになされたものであり、特別な設備を用いることなく触媒を高分子電解質から分離し、燃料電池から簡便に触媒を回収することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、高分子電解質によって形成される電解質層と、該電解質層上に形成される電極と、を備える燃料電池から、前記電極を構成する触媒を回収する方法であって、
前記電極に反応ガスを供給するために前記燃料電池内に形成されたガス流路に対して、前記高分子電解質を溶解可能であって前記触媒を溶解不能である電解質溶解液を供給する第1の工程と、
前記ガス流路内を通過させた前記電解質溶解液と、前記ガス流路内に前記電解質溶解液を通過させた後の前記燃料電池と、のうちの少なくとも一方から、前記触媒を回収する第2の工程と
を備えることを要旨とする。
【0007】
以上のように構成された本発明の燃料電池からの触媒回収方法によれば、燃料電池内に形成されるガス流路、すなわち燃料電池内の既存の流路に電解質溶解液を流すことにより、電解質層を構成する高分子電解質を電解質溶解液へと溶解させて燃料電池内から除去することができる。そのため、燃料電池を構成する部材を浸漬させる等するための特別な設備を用意する必要がなく、高分子電解質を分離・除去するための設備を簡素化できると共に、簡便な操作により触媒と高分子電解質との分離を行なうことができる。ここで、本発明の燃料電池が備える電解質層を形成する高分子電解質は、フッ素系樹脂であることとしても良い。
【0008】
本発明の触媒回収方法において、
前記燃料電池は、複数の単セルを積層したスタックから成り、
前記ガス流路は、各々の前記単セル内に形成されたガス流路である単セル内ガス流路と、各々の前記単セル内ガス流路に対して前記反応ガスを供給・排出するガス流路である給排ガス流路と、を備え、
前記第1の工程は、前記給排ガス流路に対して前記電解質溶解液を供給する工程であることとしても良い。
【0009】
このような構成とすれば、第1の工程において、積層された複数の単セルの各々へと反応ガスを供給・排出するための給排ガス流路に対して電解質溶解液を供給すれば良いため、積層された複数の単セルにおける触媒と高分子電解質との分離を、既存のガス流路を利用して効率良く行なうことができる。また、既存のガス流路を利用することによって高分子電解質を分離・除去するための設備を簡素化できる効果を、より顕著に得ることができる。
【0010】
本発明の触媒回収方法において、
前記第2の工程は、前記ガス流路内に前記電解質溶解液を通過させた後に、前記燃料電池において前記ガス流路の周囲に配置される部材である流路周辺部材から、前記触媒を回収する工程であり、さらに、前記流路周辺部材を焼成する工程を含むこととしても良い。
【0011】
このような構成とすれば、ガス流路内に電解質溶解液を通過させた後に燃料電池内に残留する触媒を回収することができる。その際に、焼成という簡便な工程によって、流路周辺部材から触媒以外の構成材料を除去することができる。特に、電解質層を構成する高分子電解質がフッ素樹脂である場合には、電解質溶解液に溶解させることによって高分子電解質が除去されているため、フッ素樹脂が焼成の工程に供されて有害なフッ化ガスを生じることが無く、焼成に伴ってガス処理の問題が生じることがない。
【0012】
また、本発明の触媒回収方法において、
前記第2の工程は、前記ガス流路内を通過させた前記電解質溶解液から前記触媒を回収する工程であって、前記電解質溶解液から液相部分と固相部分とを分離して、前記固相部分から前記触媒を回収する工程を含むこととしても良い。
【0013】
このような構成とすれば、電解質層を形成する高分子電解質が電解質溶解液に溶解する際に電解質溶解液中に固相部分として混入する触媒を、ガス流路内を通過した電解質溶解液から回収することができる。
【0014】
このような本発明の触媒回収方法において、前記第2の工程は、前記電解質溶解液から分離した前記固相部分を焼成する工程を含むこととしても良い。
【0015】
このような構成とすれば、電解質溶解液から分離した固相部分からの触媒の分離を、焼成という簡便な工程により行なうことができる。特に、電解質層を構成する高分子電解質がフッ素樹脂である場合には、電解質溶解液に溶解させることによって高分子電解質が除去されているため、フッ素樹脂が焼成の工程に供されて有害なフッ化ガスを生じることが無く、焼成に伴ってガス処理の問題が生じることがない。
【0016】
また、本発明の触媒回収方法において、前記触媒は、貴金属を含有することとしても良い。希少な貴金属を簡便な方法により回収可能とすることで、触媒として貴金属を用いる燃料電池の普及を促進することができる。
【0017】
本発明は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、燃料電池の構成部材の再利用方法などの形態で実現することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて以下の順序で説明する。
A.燃料電池の構成:
B.触媒回収の動作:
C.変形例:
【0019】
A.燃料電池の構成:
最初に、実施例としての燃料電池からの触媒回収方法を適用する燃料電池の構成について説明する。図1は、触媒回収の対象となる固体高分子型燃料電池の構成の概要を表わす断面模式図であり、図2は、分解斜視図である。この燃料電池は、単セルを複数積層したスタック構造を有しているが、図1および図2では、スタックの構成単位である単セル10を中心にして、燃料電池の構成を表わしている。なお、図2では、図1に示す断面の位置を、1−1断面として示している。
【0020】
燃料電池を構成する単セル10は、電解質膜20と、カソード21およびアノード22と、ガス拡散層23,24と、ガスセパレータ25と、を備えている。ここで、電極であるカソード21およびアノード22は、電解質膜20上に形成されており、表面に電極が形成された電解質膜20は、ガス拡散層23,24によって挟持されている。そして、このサンドイッチ構造は、さらに両側からガスセパレータ25によって挟持されている(ただし、ガス拡散層23は、電解質膜20の裏面に配設されるため、図2では図示せず)。
【0021】
電解質膜20は、固体高分子材料、例えばフッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜であり、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。
【0022】
カソード21およびアノード22は、触媒として、例えば白金、あるいは白金合金を備えており、これらの触媒を、導電性を有する担体上に担持させることによって形成されている。より具体的には、カソード21およびアノード22は、例えば、上記触媒を担持したカーボン粒子と、電解質膜20を構成する高分子電解質と同様の電解質と、を備えている。このような触媒を作製するには、例えば、上記触媒担持カーボンおよび高分子電解質を含有する電極ペーストを作製し、この電極ペーストを、電解質膜20上、あるいはガス拡散層23,24上に塗布し、乾燥・固着させればよい。なお、電極は、上記した高分子電解質を備えないなど、異なる構成とすることもできる。
【0023】
ガス拡散層23,24は、ガス透過性を有する導電性部材、例えば、カーボンペーパやカーボンクロスによって形成することができる。本実施例のガス拡散層23,24は、いずれも、全体として平坦な形状の板状部材である。このようなガス拡散層24は、電気化学反応に供されるガスの流路になると共に、集電を行なう。
【0024】
ガスセパレータ25は、ガス不透過な導電性部材、例えば、カーボンを圧縮してガス不透過とした緻密質カーボンや、焼成カーボンにより形成されている。ガスセパレータ25は、単セル10内に配置されて反応ガス(水素を含有する燃料ガスあるいは酸素を含有する酸化ガス)が流れるガス流路の壁面を成す部材であって、その表面には、単セル10内のガス流路を形成するための凹凸形状が形成されている。単セル10内では、溝62が形成されたガスセパレータ25の一方の面とカソード21との間には、酸化ガスの流路である単セル内酸化ガス流路27が形成される(図1参照)。また、溝63が形成されたガスセパレータ25の他方の面とアノード22との間には、燃料ガスの流路である単セル内燃料ガス流路28が形成される(図1参照)。
【0025】
ガスセパレータ25は、その外周近くの互いに対応する位置に、孔部83〜86を備えている。ガスセパレータ25を、電解質膜20およびガス拡散層23,24と共に積層して燃料電池を組み立てると、積層された各セパレータの対応する位置に設けられた孔部は、互いに重なり合って、ガスセパレータの積層方向に燃料電池内部を貫通する流路を形成する。すなわち、単セル内ガス流路に対して反応ガスを供給・排出する給排ガス流路であるガスマニホールドを形成する。具体的には、溝62と連通する孔部83および孔部84は、それぞれ、各単セル内酸化ガス流路27に酸化ガスを分配する燃料ガス供給マニホールドと、各単セル内酸化ガス流路27から排出されるカソード排ガスが集合する酸化ガス排出マニホールドを形成する。また、溝63と連通する孔部85および孔部86は、それぞれ、燃料ガス供給マニホールドと、燃料ガス排出マニホールドを形成する。
【0026】
図3は、上記各部材を積層して成るスタック15によって形成される燃料電池の外観の概略を表わす斜視図である。上記各部材を備える燃料電池を組み立てるときには、図2に示す順序で各部材を重ね合わせ、所定の数の単セル10を積層した後、その両端に、集電板30,31、絶縁板34,35、エンドプレート36,37を順次配置して、スタック15を完成する。なお、単セル10を積層する際には、電解質膜20の周辺部において、ガスセパレータとの間に、シール材(例えば、スチレンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、クロロスルホン化ポリエチレン(パイパロン)、エチレンプロピレンゴム(EPR)等を用いたシール材)が配置されて、単セル内ガス流路におけるシール性が確保される。
【0027】
集電板30,31は緻密質カーボンなどのガス不透過な導電性部材によって形成され、絶縁板34,35はゴムや樹脂等の絶縁性部材によって形成され、エンドプレート36,37は剛性を備えた鋼等の金属によって形成されている。また、集電板30,31にはそれぞれ出力端子32,33が設けられており、燃料電池で生じた起電力を出力可能となっている。
【0028】
ここで、スタック15の一方の端部側に配設される集電板30、絶縁板34、およびエンドプレート36には、それぞれ、各ガスセパレータに設けられた孔部83〜86の各々に対応する位置に、4つの孔部が設けられている。そして、エンドプレート36には、流路を接続するための構造である流路接続部43〜46が、上記4つの孔部の各々に連続して設けられている(図3参照)。
【0029】
燃料電池による発電を行なうときには、孔部85に連続して設けられた流路接続部45と、図示しない燃料ガス供給装置とが接続され、水素リッチな燃料ガスが燃料電池内部に供給される。同様に、孔部83に連続して設けられた流路接続部43と、図示しない酸化ガス供給装置とが接続され、酸素を含有する酸化ガス(空気)が燃料電池内部に供給される。ここで、燃料ガス供給装置と酸化ガス供給装置は、それぞれのガスに対して所定量の加湿および/または加圧を行なって燃料電池に供給する装置である。また、燃料電池による発電を行なうときには、孔部86に連続して設けられた流路接続部46を介してスタック15からアノード排ガスが排出され、孔部84に連続して設けられた流路接続部44を介してスタック15からカソード排ガスが排出される。
【0030】
なお、スタック15は、その積層方向に所定の押圧力がかかった状態で保持される。図3では、スタック15に対して押圧力を加える構成については図示を省略している。また、スタック15は、その内部に、反応ガスの流路に加えてさらに、冷媒の流路が形成されることとしても良い。
【0031】
B.触媒回収の動作:
以上説明した燃料電池が廃棄処分される際には、燃料電池から触媒の回収が行なわれる。図4は、燃料電池からの触媒回収工程を表わす説明図である。燃料電池から触媒を回収する際には、まず、触媒回収の対象となるスタック15を用意する(ステップS100)。このステップS100で用意するスタック15は、既述した酸化ガス供給装置および燃料ガス供給装置などに接続するための、反応ガスの給排に係る配管が取り外されたものである。そして、積層方向には所定の押圧力がかかっており、内部の流路におけるシール性は保持されている。
【0032】
スタック15を用意した後は、燃料電池のガス流路に対して電解質溶解液を供給する(ステップS110)。そして、燃料電池のガス流路内において、加熱・加圧状態で電解質溶解液を保持する(ステップS120)。
【0033】
ここで、電解質溶解液とは、電解質膜20を構成する高分子電解質を溶解可能であって、少なくとも燃料電池内のガス流路の周囲に配置された電解質膜20以外の他の構成要素を形成する材料を実質的に溶解しない溶液である。すなわち、電解質膜20を構成するフッ素系樹脂は溶解するが、触媒を構成する貴金属等の金属や、ガス拡散層23,24あるいはガスセパレータ25,26を構成するカーボンは溶解しない溶液である。電解質溶解液としては、例えば極性の高い有機溶媒を用いることができる。ここで、極性の高い有機溶媒としては、例えば、炭素数4以下の炭化水素アルコール類や、フルオロカーボンアルコール、ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミドのようなアミド類、アセトンのようなケトン類、エチルエーテルやブチルエーテルのようなエーテル類、あるいは、アセトニトリルやプロピオニトリルのようなニトリル化合物類を挙げることができる。本実施例では、電解質溶解液として加熱メタノールを用いている。あるいは、極性の高い有機溶媒と水との混合液を用いても良く、例えば、加熱メタノール−水混合液を用いることができる。加熱メタノールあるいは加熱メタノール−水混合液を用いる場合には、その加熱温度は、120℃〜220℃、好ましくは150℃〜200℃とすればよい。
【0034】
ステップS110において、燃料電池のガス流路に対して電解質溶解液を供給する際には、ガス流路の一端を閉鎖させた後に、スタック15内へと所定量の電解質溶解液を供給して、ガス流路内を電解質溶解液で満たして封入すればよい。具体的には、例えば、ガス流路の出口部である流路接続部44,46を閉鎖させ、その後、ガス流路の入り口部である流路接続部43および45と、所定の電解質溶解液供給部とを接続すればよい。流路接続部44,46を介して電解質溶解液を供給することにより、スタック15では、燃料ガス供給マニホールドあるいは酸化ガス供給マニホールドを介して、単セル内燃料ガス流路あるいは単セル内酸化ガス流路へと電解質溶解液が流れ、燃料ガス排出マニホールドあるいは酸化ガス排出マニホールドまでの流路全体が、電解質溶解液で満たされる。あるいは、スタック15内のガス流路への流路接続部43,45を介した電解質溶解液の供給を開始して、ガス流路内に空気が残留しないように空気を放出させた後に、流路接続部44,46の閉鎖を行ない、ガス流路内を電解質溶解液で満たして封入しても良い。
【0035】
ステップS120において、電解質溶解液を加圧状態でガス流路内に保持するには、ステップS110における電解質溶解液の供給の際に、例えばポンプのような加圧手段を用いて電解質溶解液の加圧を行ない、加圧を行なった状態で電解質溶解液をガス流路内に封入すればよい。既述したように、本実施例では電解質溶解液として加熱メタノールを用いているが、メタノールの沸点は64.65℃であって、加熱メタノールの設定温度よりも低いため、メタノールを加圧することによって、メタノールの沸騰を抑えることができる。
【0036】
また、ステップS120において、電解質溶解液を加熱状態でガス流路内に保持するには、電解質溶解液をガス流路内へと加圧供給する際に、さらに、既述した温度へとメタノールを加熱すればよい。また、電解質溶解液をガス流路内に封入して保持する際に、スタック15全体を、例えばヒータを用いて加熱して、スタック内部に形成されたガス流路内の温度を既述した温度に維持しても良い。
【0037】
上記のように、ガス流路において電解質溶解液を加熱・加圧状態で保持することにより、単セル内ガス流路に保持される電解質溶解液が、ガス拡散層23,24および電極21,22を介して、電解質膜20へと浸透する。このように、電解質膜20へと電解質溶解液が浸透することで、電解質膜20を構成する高分子電解質が、電解質溶解液へと徐々に溶解する。また、電極21,22が、触媒担持カーボン粒子と共に電解質を備える場合には、この電極中の電解質も、電解質溶解液へと次第に溶解する。
【0038】
上記のように電解質溶解液を加熱・加圧状態でガス流路内に封入して、所定の時間が経過すると、次に、スタック15から、電解質が溶解した電解質溶解液を回収する(ステップS130)。具体的には、例えば流路接続部44,46を開放して、燃料ガスの流路および酸化ガスの流路内に封入していた電解質溶解液を取り出す。ここで、電解質膜20を構成する電解質および電極が備える電解質が電解質溶解液へと溶解して消失すると、電解質膜20上に配置されていた電極を構成する触媒担持カーボン粒子が剥がれ落ちて、電解質溶解液へと混入する。そのため、ステップS130においてスタック15から電解質溶解液を回収することにより、電極を構成していた触媒担持カーボン粒子の一部を、電解質溶解液に混在する状態で回収することができる。
【0039】
スタック15から回収した電解質溶解液から触媒を取り出すには、まず、回収した電解質溶解液において、固相部分と液相部分とを分離すればよい。すなわち、溶解した電解質は液相部分に含まれるが、カーボン粒子に担持される触媒は固相部分に含まれるため、固相部分としての触媒担持カーボンの分離を行なえば良い。このような分離は、例えば、回収した電解質溶解液を濾過したり、遠心分離を行なうことにより、行なうことができる。触媒担持カーボン粒子を分離した後は、周知の焼成(熱分解)工程および/または酸抽出の工程を行なうことで触媒を構成する金属を分離することができる。そしてさらに、分離した金属を、一般的な貴金属の分離・精製工程に供することにより、触媒として用いられた貴金属を回収することができる。
【0040】
ここで、焼成の工程とは、触媒と他の材料との混合物を焼成することによって、金属以外の他の材料を熱分解させ、触媒から触媒以外の他の材料を除去することができる工程であり、触媒を分離する際に広く行なわれる方法である。また、酸抽出の工程とは、触媒と他の材料との混合物を、王水等の貴金属を溶解可能な溶液中に浸漬させて、触媒を溶液中に溶解させることによって回収する工程である。なお、焼成の工程を行なうことなく酸抽出の工程を行なうことも可能であるが、酸抽出の工程に先立って焼成の工程を行なうことにより、酸抽出の対象物の体積を減少させることができ、酸抽出を行なうための装置をコンパクト化できる。
【0041】
なお、電解質膜20を構成する電解質および電極を構成する電解質を充分に溶解させるために、電解質溶解液を用いた電解質の溶解の工程、すなわちステップS110〜ステップS130の工程を、複数回繰り返して行なうこととしても良い。上記した電解質の溶解の工程を複数回繰り返す場合には、ステップS130において電解質を溶解した電解質溶解液を回収するたびに、回収した電解質溶解液から、触媒担持カーボン粒子を分離すればよい。
【0042】
既述したように、スタック15内において電極を構成していた触媒担持カーボン粒子の一部は、ステップS130で回収される電解質溶解液中に混在する状態でスタック15から取り出されるが、残りの触媒担持カーボン粒子は、スタック15内に残存している。そこで、ステップS140では、スタック15内に残存する触媒担持カーボン粒子の取り出しを行なう。具体的には、加熱メタノールを排出させた後のスタック15を分解して、触媒担持カーボン粒子を取り出す。ここで、電解質溶解液によって電解質が溶解されて触媒担持カーボン粒子が剥がれ落ちると、剥がれ落ちた触媒担持カーボン粒子は、電解質溶解液中に混入する他、ガス拡散層23,24上に付着する。そこで、ステップS140では、スタック15を分解してガス拡散層23,24を回収することによって、スタック15内に残存する触媒担持カーボン粒子の取り出しを行なっている。
【0043】
スタック15を分解して得られたガス拡散層23,24から触媒を取り出すには、ステップS130と同様に、周知の焼成(熱分解)工程および/または酸抽出の工程を行なうことで、触媒を構成する金属を分離すればよい。そしてさらに、分離した金属を、一般的な貴金属の分離・精製工程に供することにより、触媒として用いられた貴金属を回収すればよい。なお、ステップS140では、触媒は、カーボン粒子に担持される状態で、触媒よりもはるかに体積の大きなガス拡散層23,24上に付着する状態となっているため、酸抽出に先立って焼成の工程を行なうことにより、酸抽出の対象物の体積を減少させる効果を、より顕著に得ることができる。
【0044】
以上のように構成された本実施例の燃料電池からの触媒回収方法によれば、燃料電池内に形成されるガス流路、すなわち燃料電池内の既存の流路に電解質溶解液を流すことにより、電解質膜20を構成する電解質を溶解させ、スタック15内から除去するため、燃料電池を構成する部材を浸漬させる等するための特別な設備を用意する必要がなく、電解質を分離・除去するための設備を簡素化できると共に、簡便な操作により触媒と電解質との分離を行なうことができる。
【0045】
なお、本実施例のように、単セルを複数積層したスタックによって燃料電池を構成する場合には、各単セルへと反応ガスを供給・排出する流路(単セル内ガス流路に連通するガスマニホールド)に対して電解質溶解液を供給することによって、積層された単セルの各々における触媒と電解質との分離を容易に行なうことができる。したがって、電解質の分離・除去のための設備および電解質の分離・除去の操作を簡素化する効果を、特に顕著に得ることができる。ただし、単セルから成る燃料電池であっても良く、本実施例と同様に、既存のガス流路に対して電解質溶解液を供給して電解質を分離・除去することで、同様の効果を得ることができる。
【0046】
また、本実施例によれば、上記のようにスタック15から電解質を除去し、触媒と電解質とを分離しているため、触媒を構成する貴金属の分離・精製を行なう際に、焼成の工程を行なう場合であっても、フッ素樹脂から成る電解質が共に焼成の工程に供されることがない。フッ素系樹脂を焼成の工程に供すると、有害なフッ化ガスが発生して、このガスの処理が必要となるが、本実施例のように電解質溶解液によって電解質を予め除去することにより、触媒を構成する金属の分離・精製工程において、電解質の熱分解に伴い発生するガス処理の問題が生じることがない。
【0047】
さらに、本実施例によれば、電解質溶解液を用いてスタック15内の電解質膜20を溶解させているため、ステップS140においてスタック15内に残存する触媒を回収する際に、スタック15を分解する操作が容易となる。スタック15においては、電解質膜20とガスセパレータ25との間が、接着剤などのシール部材を介して接着されている。ステップS120において電解質溶解液によって電解質膜20を溶解させることで、ガスセパレータ25等の積層部材間の接着力を弱めることができ、スタック15の分解を、より容易に行なうことが可能になる。
【0048】
なお、電解質溶解液に溶解させることによって燃料電池から電解質を除去する際には、ガス流路内に電解質溶解液を封入し、滞留させた状態で溶解を行なわせる他、電解質溶解液をガス流路内で循環させることとしても良い。このような場合には、スタック15において、流路接続部43と44、および、流路接続部45と46との間を、加圧装置を備えた流路により接続し、スタック15内のガス流路において、既述した温度への加熱および加圧を行なった電解質溶解液を循環させればよい。電解質溶解液を循環させて電解質溶解液を動かすことにより、電解質の溶解の動作を促進することができる。
【0049】
C.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0050】
C1.変形例1:
電解質の除去を伴う触媒回収の対象とする燃料電池は、実施例とは異なる形状であっても良い。例えば、ガスセパレータの形状を、単セル内ガス流路となる空間を形成するための凹凸が表面に形成された形状とする代わりに、単セル内ガス流路の壁面を形成する表面が平坦面である形状としても良い。この場合には、燃料電池の電極とガスセパレータとの間に、ガス拡散層23,24に代えて、あるいはガス拡散層23,24に加えて、カーボン製の多孔質体である流路形成部を配置して、この流路形成部の内部に形成される細孔によって、単セル内ガス流路を形成すればよい。なお、この場合には、ステップS140において、ガス流路の周囲に配置される部材である流路周辺部材として、電解質膜上に形成された電極と隣接する部材であるガス拡散層23,24、あるいはガス拡散層を備えない場合には上記流路形成部を、スタックから取り出して、触媒の分離・精製を行なえば良い。
【0051】
C2.変形例2:
実施例では、燃料電池から触媒を回収する工程として、スタック15内から回収した電解質溶液から触媒を回収する工程(ステップS130)と、スタック15内に残存する触媒を回収する工程(ステップS140)との両方を行なったが、いずれか一方の工程のみを行なうこととしても良い。例えば、電解質溶解液を用いた電解質の溶解の工程(ステップS110〜ステップS130)を複数回繰り返すことによって、充分量の触媒担持カーボンを、電解質溶解液中に混在する状態で取り出すことができる場合には、スタック15内に残存する触媒の回収工程(ステップS140)は行なわないこととしても良い。
【0052】
C3.変形例3:
実施例では、フッ素系の固体高分子電解質膜から成る電解質膜20を備える燃料電池から電解質の除去および触媒の回収を行なったが、異なる種類の燃料電池において、本発明を適用しても良い。例えば、炭化水素系の固体高分子電解質膜を備える燃料電池からの触媒回収方法とすることができる。炭化水素系の電解質膜を備える燃料電池から触媒を回収する場合には、電解質溶解液としては、例えば、ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンやジメチルスルホキシド等の極性溶媒を用いることができる。電解質膜を構成する電解質に応じて電解質溶解液を適宜選択し、スタックからの電解質の除去を行なえば、特別な装置を用いることなく触媒と電解質とを分離することができ、触媒の回収が容易となる。特に、触媒として貴金属を用いる場合には、希少な貴金属を簡便な方法により回収可能とすることで、触媒として貴金属を用いる燃料電池の普及を促進することができ、回収の意義が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】触媒回収の対象となる燃料電池の構成の概要を表わす断面模式図である。
【図2】燃料電池の概略構成を表わす分解斜視図である。
【図3】燃料電池の外観の概略を表わす斜視図である。
【図4】燃料電池からの触媒回収工程を表わす説明図である。
【符号の説明】
【0054】
10…単セル
15…スタック
20…電解質膜
21…カソード
22…アノード
23,24…ガス拡散層
25,26…ガスセパレータ
27…単セル内酸化ガス流路
28…単セル内燃料ガス流路
30,31…集電板
32,33…出力端子
34,35…絶縁板
36,37…エンドプレート
43〜46…流路接続部
62,63…溝
83〜86…孔部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質によって形成される電解質層と、該電解質層上に形成される電極と、を備える燃料電池から、前記電極を構成する触媒を回収する方法であって、
前記電極に反応ガスを供給するために前記燃料電池内に形成されたガス流路に対して、前記高分子電解質を溶解可能であって前記触媒を溶解不能である電解質溶解液を供給する第1の工程と、
前記ガス流路内を通過させた前記電解質溶解液と、前記ガス流路内に前記電解質溶解液を通過させた後の前記燃料電池と、のうちの少なくとも一方から、前記触媒を回収する第2の工程と
を備える触媒回収方法。
【請求項2】
請求項1記載の触媒回収方法であって、
前記燃料電池は、複数の単セルを積層したスタックから成り、
前記ガス流路は、各々の前記単セル内に形成されたガス流路である単セル内ガス流路と、各々の前記単セル内ガス流路に対して前記反応ガスを供給・排出するガス流路である給排ガス流路と、を備え、
前記第1の工程は、前記給排ガス流路に対して前記電解質溶解液を供給する工程である
触媒回収方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の触媒回収方法であって、
前記高分子電解質は、フッ素系樹脂である
触媒回収方法。
【請求項4】
請求項1ないし3いずれか記載の触媒回収方法であって、
前記第2の工程は、前記ガス流路内に前記電解質溶解液を通過させた後に、前記燃料電池において前記ガス流路の周囲に配置される部材である流路周辺部材から、前記触媒を回収する工程であり、さらに、前記流路周辺部材を焼成する工程を含む
触媒回収方法。
【請求項5】
請求項1ないし3いずれか記載の触媒回収方法であって、
前記第2の工程は、前記ガス流路内を通過させた前記電解質溶解液から前記触媒を回収する工程であって、前記電解質溶解液から液相部分と固相部分とを分離して、前記固相部分から前記触媒を回収する工程を含む
触媒回収方法。
【請求項6】
請求項5記載の触媒回収方法であって、
前記第2の工程は、前記電解質溶解液から分離した前記固相部分を焼成する工程を含む
触媒回収方法。
【請求項7】
請求項1ないし6いずれか記載の触媒回収方法であって、
前記触媒は、貴金属を含有する
触媒回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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