説明

燃料電池のシール構造

【課題】膜電極複合体を挟み込む一対のセパレータのうち片方のセパレータに溝加工やガスケット一体成形を施す必要がなく、もって部品形状の簡素化、製造および組み立ての容易化ならびに低コスト化を実現できる燃料電池シール構造を提供する。
【解決手段】電解質膜の両面に電極層を設けた膜電極複合体と、膜電極複合体を挟み込むセパレータとを有し、電極層の平面寸法は互いに同等に設定され、電解質膜の平面寸法は電極層より大きく設定され、セパレータの平面寸法は電解質膜より更に大きく設定されている。以上の基本構成のもと、一方のセパレータに保持され他方のセパレータに密接する第一ガスケットと、一方のセパレータに保持され電解質膜に密接する第二ガスケットとが設けられ、第二ガスケットが密接する電解質膜をその裏面側から補強すべく電極層と別体の補強部材が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池のシール構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から図9に示すように、電解質膜52の両面に一対の電極層53,54を設けた膜電極複合体51を有し、この膜電極複合体51を一対のセパレータ55,56によって挟み込む構造の燃料電池が知られている(特許文献1参照)。またこの燃料電池においては、燃料ガス等の流体をシールするため膜電極複合体51の周縁部においてアノード側およびカソード側にそれぞれガスケット57,58が組み付けられており、この図9の例では、一対のセパレータ55,56の対応する位置にそれぞれ溝55a,56aが設けられ、各溝55a,56aにガスケット57,58が装着され、各ガスケット57,58が電解質膜52に密接している。またこのほか、一対のセパレータ55,56の対応する位置にそれぞれガスケット57,58が一体成形され、各ガスケット57,58が電解質膜52に密接するものもある。
【0003】
ところで昨今、燃料電池の普及を図るべく、部品形状の簡素化、製造および組み立ての容易化、ならびに低コスト化が求められており、この点、上記従来技術では、一対のセパレータにそれぞれ溝加工やガスケット一体成形を施す必要があるため、未だ解決すべき課題が残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−141486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は以上の点に鑑みて、膜電極複合体を挟み込む一対のセパレータのうちで片方のセパレータに溝加工やガスケット一体成形を施す必要がなく、もってこの点で部品形状の簡素化、製造および組み立ての容易化、ならびに低コスト化を実現することができる燃料電池のシール構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1によるシール構造は、電解質膜の両面に一対の電極層を設けた膜電極複合体と、前記膜電極複合体を挟み込む一対のセパレータとを有し、前記一対の電極層の平面寸法は互いに同等に設定され、前記電解質膜の平面寸法は前記電極層より大きく設定され、前記セパレータの平面寸法は前記電解質膜より更に大きく設定されている燃料電池に備えられるシール構造であって、前記一対のセパレータのうちの一方のセパレータに保持されるとともに他方のセパレータに密接する第一ガスケットと、前記第一ガスケットの内周側において前記一方のセパレータに保持されるとともに前記電解質膜に密接する第二ガスケットとを有し、前記第二ガスケットが密接する前記電解質膜をその裏面側から補強すべく前記電解質膜と前記他方のセパレータとの間に前記電極層とは別体の補強部材が設けられていることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の請求項2によるシール構造は、上記した請求項1記載のシール構造において、前記電解質膜の裏面側に設けられる前記補強部材と平面上重なる位置において前記電解質膜の表面側に保護部材が設けられ、この保護部材に対し前記第二ガスケットが密接することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項3によるシール構造は、上記した請求項1または2記載のシール構造において、前記補強部材は、樹脂フィルムよりなることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項4によるシール構造は、上記した請求項2または3記載のシール構造において、前記保護部材は、樹脂フィルムよりなることを特徴とする。
【0010】
上記構成を備える本発明のシール構造においては、先ずは基本構成として、電解質膜の両面に一対の電極層を設けた膜電極複合体と、この膜電極複合体を挟み込む一対のセパレータとが設けられ、一対の電極層の平面寸法は互いに同等に設定され、電解質膜の平面寸法は電極層より大きく設定され、セパレータの平面寸法は電解質膜より更に大きく設定されている。したがって膜電極複合体を挟み込む一対のセパレータのうちで一方のセパレータには、他方のセパレータと向かい合う部位とその内周側で電解質膜と向かい合う部位とが双方備えられるので、この両部位にアノード側ガスケットおよびカソード側ガスケットを双方集約して設定する。ガスケットの内訳としては、一方のセパレータに保持されるとともに他方のセパレータに密接する第一ガスケットと、第一ガスケットの内周側において一方のセパレータに保持されるとともに電解質膜に密接する第二ガスケットとが設けられることになる。
【0011】
尚、この構造によると、第一ガスケットは一対のセパレータ間の全間隔に亙って設けられるので他方のセパレータとの間にシール面圧を確保することができるが、第二ガスケットについては電解質膜の裏面側に空間が残されるので軟質材よりなる電解質膜がこの空間のほうへ逃げてしまい、よってシール面圧を確保することができない。そこで本発明では、併せてこの空間に補強部材を設置し、逃げを防止し、シール面圧を確保するようにした。
【0012】
補強部材としては、上記基本構成における各部品の寸法大小関係からしてこれらの部品を補強部材として利用することはできないので、補強専用の部品を用意し、これを電解質膜と他方のセパレータとの間に配置する。補強専用の部品としては、その設置目的からして第二ガスケットよりも硬度が大きなものであればその内容を問わないが、例えば樹脂フィルムとし、すなわち電解質膜および他方のセパレータ間の間隔と同等の厚みを備える樹脂フィルムを専用部品として利用する。
【0013】
また、上記したように電解質膜の裏面側に補強部材を設置するのに関連して、併せて電解質膜の表面側に保護部材を設置することが考えられ、このように保護部材を設置すると第二ガスケットが電解質膜ではなくこの保護部材に密接するため、密接により電解質膜の表面が損傷するのを抑制することが可能となる。保護部材としては例えば樹脂フィルムとし、すなわち所定の厚みを備える樹脂フィルムを専用部品として利用する。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、以下の効果を奏する。
【0015】
すなわち、本発明においては上記したように、膜電極複合体を挟み込む一対のセパレータのうち一方のセパレータにアノード側ガスケットおよびカソード側ガスケットが双方集約して設定されるので、他方のセパレータにはガスケットを保持するための溝加工やガスケット一体成形を何ら施す必要がない。したがってこの点で部品形状の簡素化、製造および組み立ての容易化、ならびに低コスト化を実現することができる。
【0016】
また、第二ガスケットが密接する電解質膜をその裏面側から補強すべく電解質膜と他方のセパレータとの間に補強部材を設けるようにしたため、アノード側ガスケットおよびカソード側ガスケットともに十分なシール面圧を確保することができる。補強部材として例えば一方の電極層を延長して利用する場合には比較的高価な部品を割り増しで用意する必要があって部品コストが大幅に増大するところ、樹脂フィルムなど比較的安価な部品を用いることによりこの種の弊害が生じるのを防止することもできる。
【0017】
また、電解質膜の裏面側に補強部材を設置するのに関連して、併せて電解質膜の表面側に保護部材を設置することにより、電解質膜を保護することができ、すなわち電解質膜にガスケットが密接して電解質膜の表面が損傷するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第一実施例に係る燃料電池シール構造の要部断面図
【図2】本発明の第二実施例に係る燃料電池シール構造の要部断面図
【図3】本発明の第三実施例に係る燃料電池シール構造の要部断面図
【図4】本発明の第四実施例に係る燃料電池シール構造の要部断面図
【図5】本発明の第五実施例に係る燃料電池シール構造の要部断面図
【図6】本発明の第六実施例に係る燃料電池シール構造の要部断面図
【図7】本発明の第七実施例に係る燃料電池シール構造の要部断面図
【図8】本発明の第八実施例に係る燃料電池シール構造の要部断面図
【図9】従来例に係る燃料電池シール構造の断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明には、以下の実施形態が含まれる。
(1)本発明は、燃料電池のシール構造に係り、また一般ガスケットによるシール構造に関する。
(2)課題
これからの燃料電池の普及にはスタックの低コスト化が必要であり、スタックに使用されるガスケットも同様の課題が課せられている。上記課題に対し、ゴム単体からなるガスケットを使用した場合、取り扱い性が課題となる。
【0020】
(3)構成その1
(3−1)従来技術では、MEAを挟む2枚のセパレータそれぞれへの溝加工やガスケット一体成形が必要であり、組立性向上やコスト低減に課題がある。本発明では、一般的なMEA構造における電解質膜の露出面片面に補強体を用い、MEAを挟む片側プレートへガスケットを集約・一体化することで、組立性、コスト改善が可能となる(図1〜3参照)。
(3−2)アノードおよびカソードの電極およびGDLの平面寸法が同等のMEA端部をシールするガスケット構造において、電解質膜露出部の片面側を樹脂等により補強されたMEA端部を未補強面でのみでシールすることを特徴とする燃料電池シール構造(図1〜3参照)。
(3−3)電解質膜の端部片面に補強部材を使用する構成とし、さらにガスケットをMEAの片面側へ集約した。上記補強部材はガスケットのゴム硬度以上であれば補強機能が発現し、好ましくは、樹脂等の高さ寸法が管理されたフィルム、薄板が望ましい。この場合、MEAを挟む2枚のセパレータ両方へのガスケット一体化が不要となり、コスト削減が可能となる(図1参照)。
(3−4)補強効果が必要な補強部材形状の上記(3−3)に対し、MEA(電解質膜)片面全面を補強することで、MEA取扱性の向上が可能となる(図2参照)。
(3−5)上記(3−3)(3−4)に対し、MEA(電解質膜)端部より大きな補強部材を用いることで、MEA取扱性のさらなる向上が可能となる(図3参照)。
【0021】
(4)構成その2
(4−1)従来技術では、MEAを挟む2枚のセパレータそれぞれへの溝加工やガスケット一体成形が必要であり、組立性向上やコスト低減に課題がある。本発明では、一般的なMEA構造における電解質膜の露出面両面に補強体を用い、MEAを挟む片側プレートへガスケットを集約・一体化することで、組立性、コスト改善が可能となる(図4〜6参照)。
(4−2)アノードおよびカソードの電極およびGDLの平面寸法が同等のMEA端部をシールするガスケット構造において、電解質膜露出部の両面側を樹脂等により補強されたMEA端部を片側の補強面でのみでシールすることを特徴とする燃料電池シール構造(図4〜6参照)。
(4−3)電解質膜の端部両面に補強部材を使用する構成とし、さらにガスケットをMEAの片面側へ集約した。上記補強部材はガスケットのゴム硬度以上であれば補強機能が発現し、好ましくは、樹脂等の高さ寸法が管理されたフィルム、薄板が望ましい。この場合、MEAを挟む2枚のセパレータ両方へのガスケット一体化が不要となり、コスト削減が可能となる(図4参照)。
(4−4)補強効果が必要な補強部材形状の上記(4−3)に対し、MEA(電解質膜)両面全面を補強することでMEA取扱性の向上が可能となる(図5参照)。
(4−5)上記(4−3)(4−4)に対し、MEA(電解質膜)端部より大きな補強部材を用いることで、MEA取扱性のさらなる向上が可能となる(図6参照)。
【0022】
(5)構成その3
(5−1)アノード面/カソード面のガスケットを1枚のプレートに集約する構造である。
(5−2)アノード拡散電極(GDL)とカソード拡散電極(GDL)の表面積を同寸法として、飛び出している電解質膜の片面に樹脂フィルムを設置することで電解質膜の補強を行なう。
(5−3)アノード拡散電極(GDL)とカソード拡散電極(GDL)の表面積を同寸法として、飛び出している電解質膜の両面に樹脂フィルムを設置することで電解質膜の補強を行なう。
(5−4)工程としては、反応面部分を切り取った枠体形状の樹脂フィルムにガスケットを一体成形後、電解質膜をフィルム上に設置、あるいはフィルムで電解質膜を挟み込み、ヒートプレスにより樹脂フィルムとMEAを一体化する。
【実施例】
【0023】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0024】
第一実施例・・・
図1は、本発明の第一実施例に係る燃料電池用シール構造の要部断面を示しており、当該シール構造は以下のように構成されている。
【0025】
すなわち先ず基本構成として、電解質膜2の厚み方向両面に一対(アノード側およびカソード側)の電極層3,4を設けた膜電極複合体(MEA)1が設けられており、この膜電極複合体1が一対のガス拡散層(GDL)5,6を介して一対のセパレータ7,8によって挟み込まれている。これら燃料電池用構成部品の寸法の大小関係としては、一対の電極層3,4および一対のガス拡散層5,6の平面寸法は互いに同等に設定され、電解質膜2の平面寸法は電極層3,4およびガス拡散層5,6の平面寸法よりも大きく設定され、セパレータ7,8の平面寸法は電解質膜2の平面寸法よりも更に大きく設定されている。したがって電解質膜2の周縁部には、その両面に電極層3,4が設けられていない所定の幅寸法wよりなる露出部2aが設けられている。また、膜電極複合体1を挟み込む一対のセパレータ7,8のうちで一方のセパレータ7には、他方のセパレータ8と向かい合う部位7aと、その内周側(図では左側)で電解質膜2の露出部2aと向かい合う部位7bとが双方設けられている。尚、一方の電極層3およびガス拡散層5の組み合わせならびに他方の電極層4およびガス拡散層6の組み合わせはそれぞれ、アノード側またはカソード側の拡散電極と称されることがあり、この用語を用いる場合には、電解質膜2の厚み方向両面に一対(アノード側およびカソード側)の拡散電極を設けた膜電極複合体(MEA)1が設けられ、この膜電極複合体1が一対のセパレータ7,8によって挟み込まれていると云うことになる。
【0026】
上記したように膜電極複合体1を挟み込む一対のセパレータ7,8のうち一方のセパレータ7に他方のセパレータ8と向かい合う部位7aとその内周側で電解質膜2の露出部2aと向かい合う部位7bとが双方設けられているので、この両部位7a,7bにアノード側ガスケットおよびカソード側ガスケットが双方集約して設けられており、すなわち他方のセパレータ8と向かい合う部位7aに、一方のセパレータ7に一体成形されるとともにリップ端9aが他方のセパレータ8に密接する第一ガスケット9が設けられるとともに、その内周側で電解質膜2の露出部2aと向かい合う部位7bに、第一ガスケット9の内周側で一方のセパレータ7に一体成形されるとともにリップ端10aが電解質膜2の露出部2aに密接する第二ガスケット10が設けられている。
【0027】
第一ガスケット9は一対のセパレータ7,8間の全間隔に亙って設けられているため、リップ端9aが他方のセパレータ8に密接し、これにより他方のセパレータ8との間に十分なシール面圧が確保されている。これに対し第二ガスケット10は、電解質膜2の露出部2aの裏面側(図では下方)に空間が残されるので軟質材よりなる電解質膜2の露出部2aがこの空間のほうへ逃げてしまい、よってシール面圧を確保することができない。そこで当該シール構造ではこの空間に補強部材11が設置され、これにより露出部2aの逃げが防止され、シール面圧が確保されている。したがって補強部材11は第二ガスケット10のリップ端10aに対しこれと同一平面上に配置されている。
【0028】
補強部材11としては、上記基本構成における各構成部品の寸法大小関係からしてこれらの部品を補強部材として利用することができないため、補強専用の部品すなわち具体的には樹脂フィルムが用意され、この樹脂フィルムが電解質膜2の露出部2aと他方のセパレータ8との間に配置されている。
【0029】
補強部材11である樹脂フィルムは、各構成部品が平面長方形であってガスケット10も平面長方形の枠状であるのに合わせてガスケット10と同様に平面長方形の枠状に成形されており、これにより電解質膜2の露出部2aを全周に亙って補強することが可能とされている。また補強部材11である樹脂フィルムの厚みは、電解質膜2の露出部2aおよび他方のセパレータ8間の間隔と同等に設定され、これにより露出部2aの逃げがほぼ完全に防止されている。また補強部材11である樹脂フィルムは、ヒートプレスまたは接着等の固定手段によって電解質膜2の露出部2aおよび他方のセパレータ8の何れか一方または双方に固定されているが、固定されずに電解質膜2の露出部2aおよび他方のセパレータ8間に介装されるだけであっても良い。
【0030】
上記構成のシール構造においては、膜電極複合体1を挟み込む一対のセパレータ7,8のうち一方のセパレータ7にアノード側およびカソード側のガスケット9,10が双方集約して一体成形されているため、反対側の他方のセパレータ8についてはガスケット9,10を保持するための溝加工やガスケット一体成形を何ら施す必要がない。したがってこの点で本発明所期の目的どおり、部品形状の簡素化、製造および組み立ての容易化、ならびに低コスト化が実現されている。
【0031】
また、第二ガスケット10が密接する電解質膜2の露出部2aをその裏面側から補強すべく電解質膜2の露出部2aと他方のセパレータ8との間に補強部材11が設けられているため、第一ガスケット9のみならず第二ガスケット10についても十分なシール面圧が確保されている。補強部材11として例えば電極層4およびガス拡散層6を延長して利用する場合には比較的高価なこれらの部品を面積割り増しで用意しなければならないが、当該実施例では比較的安価で部品形状への製作も容易な樹脂フィルムが用いられているため、この点からしても部品形状の簡素化、製造および組み立ての容易化、ならびに低コスト化が実現されている。
【0032】
第二および第三実施例・・・
尚、上記第一実施例では、補強部材11の幅寸法wが電解質膜2の露出部2aの幅寸法wよりも小さく設定され(w>w)、その内外周部には空間部12,13が形成されているが、この補強部材11が電解質膜2の露出部2aに固定される場合にはこの補強部材11が電解質膜2の露出部2aを含む膜電極複合体1を補強して部品単体時における取り扱い作業性を向上させることができるために、補強部材11の幅寸法wは可及的に大きいことが好ましい。
【0033】
この点からして、第二実施例として示す図2では、補強部材11の幅寸法wが電解質膜2の露出部2aの幅寸法wと同等に設定され(w=w)、これにより膜電極複合体1についての取り扱い作業性が向上されている。この場合、補強部材11は電極層4およびガス拡散層6の端面部と接することになるため、補強部材11の材質如何によってはこの補強部材11の端部をガス拡散層6の端部に含浸一体化させることも考えられる。
【0034】
また、第三実施例として示す図3では、補強部材11の幅寸法wが電解質膜2の露出部2aの幅寸法wよりも大きく設定され(w<w)、これにより膜電極複合体1についての取り扱い作業性が一層向上されている。この場合も補強部材11は電極層4およびガス拡散層6の端面部と接するため、補強部材11の材質如何によってはこの補強部材11の端部をガス拡散層6の端部に含浸一体化させることが考えられる。
【0035】
第四実施例・・・
図4は、本発明の第四実施例に係る燃料電池用シール構造の要部断面を示しており、当該シール構造は以下のように構成されている。
【0036】
すなわち先ず基本構成として、電解質膜2の厚み方向両面に一対(アノード側およびカソード側)の電極層3,4を設けた膜電極複合体(MEA)1が設けられており、この膜電極複合体1が一対のガス拡散層(GDL)5,6を介して一対のセパレータ7,8によって挟み込まれている。これら燃料電池用構成部品の寸法の大小関係としては、一対の電極層3,4および一対のガス拡散層5,6の平面寸法は互いに同等に設定され、電解質膜2の平面寸法は電極層3,4およびガス拡散層5,6の平面寸法よりも大きく設定され、セパレータ7,8の平面寸法は電解質膜2の平面寸法よりも更に大きく設定されている。したがって電解質膜2の周縁部には、その両面に電極層3,4が設けられていない所定の幅寸法wよりなる露出部2aが設けられている。また、膜電極複合体1を挟み込む一対のセパレータ7,8のうちで一方のセパレータ7には、他方のセパレータ8と向かい合う部位7aと、その内周側(図では左側)で電解質膜2の露出部2aと向かい合う部位7bとが双方設けられている。尚、一方の電極層3およびガス拡散層5の組み合わせならびに他方の電極層4およびガス拡散層6の組み合わせはそれぞれ、アノード側またはカソード側の拡散電極と称されることがあり、この用語を用いる場合には、電解質膜2の厚み方向両面に一対(アノード側およびカソード側)の拡散電極を設けた膜電極複合体(MEA)1が設けられ、この膜電極複合体1が一対のセパレータ7,8によって挟み込まれていると云うことになる。
【0037】
上記したように膜電極複合体1を挟み込む一対のセパレータ7,8のうち一方のセパレータ7に他方のセパレータ8と向かい合う部位7aとその内周側で電解質膜2の露出部2aと向かい合う部位7bとが双方設けられているので、この両部位7a,7bにアノード側ガスケットおよびカソード側ガスケットが双方集約して設けられており、すなわち他方のセパレータ8と向かい合う部位7aに、一方のセパレータ7に一体成形されるとともにリップ端9aが他方のセパレータ8に密接する第一ガスケット9が設けられるとともに、その内周側で電解質膜2の露出部2aと向かい合う部位7bに、第一ガスケット9の内周側で一方のセパレータ7に一体成形されるとともにリップ端10aが後記する保護部材14に密接する第二ガスケット10が設けられている。
【0038】
第一ガスケット9は一対のセパレータ7,8間の全間隔に亙って設けられているため、リップ端9aが他方のセパレータ8に密接し、これにより他方のセパレータ8との間に十分なシール面圧が確保されている。これに対し第二ガスケット10は、電解質膜2の露出部2aの裏面側(図では下方)に空間が残されるので軟質材よりなる電解質膜2の露出部2aがこの空間のほうへ逃げてしまい、よってシール面圧を確保することができない。そこで当該シール構造ではこの空間に補強部材11が設置され、これにより露出部2aの逃げが防止され、シール面圧が確保されている。したがって補強部材11は第二ガスケット10のリップ端10aに対しこれと同一平面上に配置されている。
【0039】
補強部材11としては、上記基本構成における各構成部品の寸法大小関係からしてこれらの部品を補強部材として利用することができないため、補強専用の部品すなわち具体的には樹脂フィルムが用意され、この樹脂フィルムが電解質膜2の露出部2aと他方のセパレータ8との間に配置されている。
【0040】
補強部材11である樹脂フィルムは、各構成部品が平面長方形であってガスケット10も平面長方形の枠状であるのに合わせてガスケット10と同様に平面長方形の枠状に成形されており、これにより電解質膜2の露出部2aを全周に亙って補強することが可能とされている。また補強部材11である樹脂フィルムの厚みは、電解質膜2の露出部2aおよび他方のセパレータ8間の間隔と同等に設定され、これにより露出部2aの逃げがほぼ完全に防止されている。また補強部材11である樹脂フィルムは、ヒートプレスまたは接着等の固定手段によって電解質膜2の露出部2aおよび他方のセパレータ8の何れか一方または双方に固定されているが、固定されずに電解質膜2の露出部2aおよび他方のセパレータ8間に介装されるだけであっても良い。
【0041】
更にまた、当該実施例では、電解質膜2の露出部2aの裏面側に補強部材11が設置されるのに合わせて、電解質膜2の露出部2aの表面側に保護部材14が設置されており、この保護部材14に対し第二ガスケット10のリップ端10aが密接する。したがってこの保護部材14によって電解質膜2を保護することができる。
【0042】
保護部材14としてはこれも、上記基本構成における各構成部品の寸法大小関係からしてこれらの部品を保護部材として利用することができないため、保護専用の部品すなわち具体的には樹脂フィルムが用意され、この樹脂フィルムが電解質膜2の露出部2aの表面上に配置されている。
【0043】
保護部材14である樹脂フィルムは、各構成部品が平面長方形であってガスケット10も平面長方形の枠状であるのに合わせてガスケット10と同様に平面長方形の枠状に成形されており、これにより電解質膜2の露出部2aを全周に亙って保護することが可能とされている。また保護部材14である樹脂フィルムの厚みは、補強部材11と比較して少々小さく設定されている。また保護部材14である樹脂フィルムは、ヒートプレスまたは接着等の固定手段によって電解質膜2の露出部2aに固定されているが、固定されずに電解質膜2の露出部2aの表面上に載せられるだけであっても良い。
【0044】
上記構成のシール構造においては、膜電極複合体1を挟み込む一対のセパレータ7,8のうち一方のセパレータ7にアノード側およびカソード側のガスケット9,10が双方集約して一体成形されているため、反対側の他方のセパレータ8についてはガスケット9,10を保持するための溝加工やガスケット一体成形を何ら施す必要がない。したがってこの点で本発明所期の目的どおり、部品形状の簡素化、製造および組み立ての容易化、ならびに低コスト化が実現されている。
【0045】
また、第二ガスケット10が密接する電解質膜2の露出部2aをその裏面側から補強すべく電解質膜2の露出部2aと他方のセパレータ8との間に補強部材11が設けられているため、第一ガスケット9のみならず第二ガスケット10についても十分なシール面圧が確保されている。補強部材11として例えば電極層4およびガス拡散層6を延長して利用する場合には比較的高価なこれらの部品を面積割り増しで用意しなければならないが、当該実施例では比較的安価で部品形状への製作も容易な樹脂フィルムが用いられているため、この点からしても部品形状の簡素化、製造および組み立ての容易化、ならびに低コスト化が実現されている。
【0046】
また、電解質膜2の露出部2aの裏面側に補強部材11が設置されるのに合わせて電解質膜2の露出部2aの表面側に保護部材14が設置されているため、この保護部材14によって電解質膜2を保護することができ、すなわち電解質膜2にガスケット10が直接密接することにより電解質膜2の表面が損傷するのを抑制することができる。
【0047】
第五および第六実施例・・・
尚、上記第四実施例では、補強部材11および保護部材14の幅寸法wがそれぞれ電解質膜2の露出部2aの幅寸法wよりも小さく設定され(w>w)、その内外周部には空間部12,13が形成されているが、この補強部材11および保護部材14が電解質膜2の露出部2aに固定される場合にはこの補強部材11および保護部材14が電解質膜2の露出部2aを含む膜電極複合体1を補強して部品単体時における取り扱い作業性を向上させることができるため、補強部材11および保護部材14の幅寸法wは可及的に大きいことが好ましい。
【0048】
この点からして、第五実施例として示す図5では、補強部材11および保護部材14の幅寸法wがそれぞれ電解質膜2の露出部2aの幅寸法wと同等に設定され(w=w)、これにより膜電極複合体1についての取り扱い作業性が向上されている。この場合、補強部材11および保護部材14は電極層3,4およびガス拡散層5,6の端面部と接することになるため、補強部材11および保護部材14の材質如何によってはこの補強部材11および保護部材14の端部をガス拡散層5,6の端部に含浸一体化させることも考えられる。
【0049】
また、第六実施例として示す図6では、補強部材11および保護部材14の幅寸法wがそれぞれ電解質膜2の露出部2aの幅寸法wよりも大きく設定され(w<w)、これにより膜電極複合体1についての取り扱い作業性が一層向上されている。この場合も補強部材11および保護部材14は電極層3,4およびガス拡散層5,6の端面部と接することになるため、補強部材11および保護部材14の材質如何によってはこの補強部材11および保護部材14の端部をガス拡散層5,6の端部に含浸一体化させることが考えられる。
【0050】
尚、補強部材11と保護部材14は、必ずしも幅寸法wや平面形状が同等である必要はない。
【0051】
さらに、上記各実施例については、以下のようにその構成を変更することが考えられる。
【0052】
第七実施例・・・
上記各実施例では、第一および第二ガスケット9,10は何れも一方のセパレータ7に設けられるが、このガスケット9,10同士は互いに別々に成形されている。これに対し両ガスケット9,10を互いに一体に成形するようにしても良く、第七実施例として示す図7では、両ガスケット9,10が連結部15を介して互いに一体に成形されている。
【0053】
第八実施例・・・
上記各実施例では、第一および第二ガスケット9,10の一方のセパレータ7に対する固定手段は一体成形方式とされているが、この固定手段は特に限定されるものではなく、例えば第八実施例として示す図8では、両ガスケット9,10が取付シート16である薄手の樹脂フィルム上に一体成形されたうえで、このシート16が接着などの手段によって一方のセパレータ7に固定されている。この場合、両ガスケット9,10を互いに一体に成形するようにしても良いことは上記第七実施例と同様である。
【0054】
また、上記各実施例では、ガスケット9,10をリップ端9a,10aを有するものとして説明するとともに図面ではガスケット9,10の断面形状を三角形として描いたが、本発明においてガスケット9,10の構造ないし断面形状は何ら限定されない。ガスケット9,10はリップ端9a,10aを備えないものであっても良く、三角形以外の断面形状のものであっても良い。
【符号の説明】
【0055】
1 膜電極複合体
2 電解質膜
2a 露出部
3,4 電極層
5,6 ガス拡散層
7,8 セパレータ
9,10 ガスケット
9a,10a リップ端
11 補強部材
12,13 空間部
14 保護部材
15 連結部
16 取付シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の両面に一対の電極層を設けた膜電極複合体と、前記膜電極複合体を挟み込む一対のセパレータとを有し、前記一対の電極層の平面寸法は互いに同等に設定され、前記電解質膜の平面寸法は前記電極層より大きく設定され、前記セパレータの平面寸法は前記電解質膜より更に大きく設定されている燃料電池に備えられるシール構造であって、
前記一対のセパレータのうちの一方のセパレータに保持されるとともに他方のセパレータに密接する第一ガスケットと、前記第一ガスケットの内周側において前記一方のセパレータに保持されるとともに前記電解質膜に密接する第二ガスケットとを有し、
前記第二ガスケットが密接する前記電解質膜をその裏面側から補強すべく前記電解質膜と前記他方のセパレータとの間に前記電極層とは別体の補強部材が設けられていることを特徴とする燃料電池のシール構造。
【請求項2】
請求項1記載のシール構造において、
前記電解質膜の裏面側に設けられる前記補強部材と平面上重なる位置において前記電解質膜の表面側に保護部材が設けられ、この保護部材に対し前記第二ガスケットが密接することを特徴とする燃料電池のシール構造。
【請求項3】
請求項1または2記載のシール構造において、
前記補強部材は、樹脂フィルムよりなることを特徴とする燃料電池のシール構造。
【請求項4】
請求項2または3記載のシール構造において、
前記保護部材は、樹脂フィルムよりなることを特徴とする燃料電池のシール構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−123922(P2012−123922A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271248(P2010−271248)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】