説明

燃料電池の積層体の密閉性を検査する方法

【解決手段】燃料電池(11)の積層体(10)が、燃料電池の膜の密閉性について検査される。このために、トレーサガスが積層体(10)の燃料供給チャネル(15)に導入される。燃料排出チャネル(16)は、開放されたままであるか、又は閉じられている。キャリアガスが、空気供給チャネル(17)に供給されて、空気排出チャネル(18)を通ってガスセンサ(28)に導かれる。ガスセンサ(28)では、キャリアガスがある量のトレーサガスを含有しているか否かが決定される。不完全な燃料電池(11)の位置が、吸込プローブを有するランスを対応するチャネル(18)に導入し、吸込プローブの位置を決定することにより決定され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の積層体の密閉性を検査する方法に関しており、積層体は、
− 第1のチャンバ、第2のチャンバ、及び第1及び第2のチャンバを分離する膜を夫々有する複数の燃料電池、
− 燃料電池の第1のチャンバと夫々接続された燃料供給チャネル及び燃料排出チャネル、及び
− 燃料電池の第2のチャンバと夫々接続された空気供給チャネル及び空気排出チャネル
を備えている。
【背景技術】
【0002】
トレーサガスを中空体に導入することにより中空体の気密性を検査することが知られている。キャリアガスは中空体の外側に沿って流れて、ガス検出器に供給される。ある割合のトレーサガスがキャリアガスに存在する場合、その結果から中空体の漏れが推測される。対応する漏れ検出システムが、国際公開第2005/054806号パンフレットに述べられている。更に、中空体の外側にトレーサガス雰囲気を生成し、キャリアガスに中空体を通過させることが可能である。この場合、トレーサガスが中空体の外側から内側に通過したか否かが検出される。
【0003】
漏れ検出器と組み合わせた使用に適したガスセンサが、独国特許出願公開第4140366 号明細書(レイボルド(Leybold ))及び独国特許出願公開第10319633号明細書(インフィコン(Inficon ))に述べられている。これらのガスセンサは、ある程度のトレーサガスがガス流内に存在することを選択的に検出することが可能である。トレーサガスの選択肢としてヘリウムがあるが、他のトレーサガスが同様に用いられることが可能であり、例えば水素が用いられる。ガスセンサは、質量分析計であってもよく、又はガスに選択的に反応する分圧センサであってもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2005/054806号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、効果的且つ迅速な漏れ検出を可能にする、燃料電池の積層体の密閉性を検査する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の方法は、請求項1によって定義されている。本発明の方法は、燃料電池の第1のチャンバ又は第2のチャンバのいずれか一方がトレーサガス源に接続されており、他方のチャンバに接続されたチャネル(燃料供給チャネル、燃料排出チャネル、空気供給チャネル及び空気排出チャネル)の少なくとも1つがトレーサガスに反応するガスセンサに接続されていることにより特徴付けられる。
【0007】
本発明に係る方法は、組み立てられた状態の燃料電池の積層体の密閉性の検査を可能にする。ここでは、板状の積層体全体の燃料チャンバ(又は空気チャンバ)は、板状の積層体の全てのチャンバの密閉性を検査するために同一のトレーサガス源に接続され得るという事実を利用している。例えば、燃料を運ぶ側にトレーサガスが供給される。トレーサガスの一部が、後で空気を運ぶ側に浸透作用によって達する。浸透作用によって生じる割合より大きいトレーサガスの一部が、後で空気を運ぶ側で検出され得る場合、その結果から漏れ口が膜に存在することが推測され得る。
【0008】
本発明は、単一のステップで燃料電池の積層体全体の迅速であり経済的且つ効果的な検査を可能にする。
【0009】
本発明の好ましい実施形態では、他方のチャンバにキャリアガスが流れて、他方のチャンバを抜け出たキャリアガス流はガスセンサに与えられる。キャリアガス流は、漏れ口を通り抜けたトレーサガスを吸収して、ガスを選択するようにトレーサガスに反応するガスセンサにトレーサガスを運ぶ。
【0010】
本発明に係る方法は、漏れ口の存在を単に検出するだけでなく、板状の積層体内で漏れ口の位置を決定することも可能にする。このために、ガスセンサは吸込プローブを有するランスを備えており、ランスは、チャネルに挿入されてチャネル内で長手方向に移動される。存在する漏れ口の位置をその結果から決定するために、チャネル内の吸込プローブの位置が、ガスセンサによる反応結果に基づいて検出される。吸込プローブが移動されている間にトレーサガスの濃度の急激な増加が生じるとき、ガスセンサの反応結果が決定され得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】密閉性の検査中の燃料電池の積層体を示す概略図である。
【図2】燃料が通過する第1のチャンバと、空気が通過する第2のチャンバとを備えて積層体に含まれる燃料電池を示す分解図である。
【図3】ランスに取り付けられた吸込プローブを使用して漏れ口の位置を決定中の燃料電池の積層体を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態を、図面を参照して以下に詳細に説明する。
【0013】
図1は、複数の燃料電池11の積層体10を示している。各燃料電池11は、2枚の同形の板12によって形成されており、図1に図示されていない膜が板12間に設けられている。矩形状の燃料電池11は、積層体を形成すべく組み立てられている。積層体10は、合計4本のチャネルを有している。燃料供給チャネル15が、前方板の左上隅部の近くで積層体を貫いて延びており、各燃料電池内で各第1のチャンバと接続されている。燃料排出チャネル16が、前方板の右下隅部の近くで延びており、更に積層体10の全長に亘って延びている。燃料排出チャネル16は、全ての燃料電池11の第1のチャンバと接続されている。1枚の板に関して、燃料供給チャネル15及び燃料排出チャネル16は、互いに対して対角状に配置されている。
【0014】
互いに対して同様に対角状に配置された他の2本のチャネルは、空気供給チャネル17及び空気排出チャネル18である。空気供給チャネル17及び空気排出チャネル18は、燃料電池の第2のチャンバに接続されており、積層体の全長に沿って直線的に同様に延びている。
【0015】
図2は、2枚の板12,13 を備えた燃料電池11の構造を示している。膜20が、2枚の板12,13 間に設けられており、膜20は板状の枠によって保持されてもよい。板12,13 は、膜20に面する内側に夫々設けられた蛇行状のチャンバK1,K2 を夫々有している。チャンバK1,K2 は、板面における溝であり、チャンバK1は燃料チャンバであり、チャンバK2は空気チャンバである。第1のチャンバK1は、燃料供給チャネル15及び燃料排出チャネル16に接続されている。第2のチャンバK2は、空気供給チャネル17及び空気排出チャネル18に接続されている。板の縁が、密閉するように互いに接しており、そのため、第1及び第2のチャンバK1,K2 は外部に対して密閉されている。積層体10の後部では、燃料供給チャネル15及び燃料排出チャネル16が、最後の燃料電池11の第1のチャンバK1に接続されているが、外側に導かれていない。同様に、空気供給チャネル17及び空気排出チャネル18は積層体10の後側で閉じられている。
【0016】
燃料電池が作動されるとき、燃料供給チャネル15に、例えば水素又はメタノールのようなガス燃料又は液体燃料が供給される。空気供給チャネル17は、空気源、例えばファンに接続されている。様々な電位が板12,13 に生じており、それによって、電圧が有用な電圧として利用され得る。未使用の燃料は燃料排出チャネル16を通って抜け出る。空気供給チャネル17は空気源に接続されている。加熱された空気及び水が空気排出チャネル18を通って抜け出る。燃料電池は、アノード層、カソード層及び触媒を更に備えている。燃料電池は、水素を正の水素イオン(陽子)と負に帯電した電子とに分離する。高分子電解質膜(PEM )は、正に帯電したイオンがカソードへと進むことのみを可能にする。負に帯電した電子は、外部回路を通ってカソードに流れなければならず、それによって電流が生成される。カソードでは、正に帯電した水素イオンが水素と結合して、それによって水が生成されて燃料電池から排出される。
【0017】
図1は、積層体10の密閉性を検査する方法を示している。トレーサガス源25が燃料供給チャネル15に接続されている。トレーサガスは、第1のチャンバK1を通って流れて、第1のチャンバK1から燃料排出チャネル16を通って抜け出る。トレーサガスは、燃料排出チャネル16で取り込まれてもよく、又は大気に放出されてもよい。使用されるトレーサガスは、水素、ヘリウム、二酸化炭素又は別の十分に検出可能なガスである。このガスは、大気圧より僅かに高い圧力で積層体10に導入される。
【0018】
空気供給チャネル17は空気源27に接続されており、空気源27は、キャリアガス、本例では空気を空気供給チャネル17に強制的に流す。キャリアガスは、全ての燃料電池11の第2のチャンバK2を通って流れて、積層体10から空気排出チャネル18を通って抜け出る。空気排出チャネル18は、従来の漏れ検出器であってもよいガスセンサ28に接続されている。
【0019】
燃料電池のいずれにも漏れ口が存在しない場合、トレーサガスの一部は、浸透作用によって夫々の他のチャンバに浸透し、空気排出チャネル18を通って放出される。ガスセンサ28は、検出されたトレーサガスの量をも示す量的信号を与える。浸透作用による量より大きいトレーサガスの割合が検出された場合、その結果からチャンバの膜における漏れが推測されてもよい。
【0020】
図3は、漏れ検出中における積層体10内の漏れ口の位置決定を示している。ここでは、図1と同様に、燃料供給チャネル15がトレーサガス源に接続されており、空気供給チャネル17が加圧空気源に接続されている。ランス30が、空気排出チャネル18に挿入されており、前端部に吸込プローブ31を保持している。ランス30は中空であり、ガスが、漏れ検出器であるガスセンサ28によってランス30を通って吸い込まれ、トレーサガスの存在に関して分析される。空気排出チャネル18の長手方向の延長部分における吸込プローブ31の夫々の位置が検出される。トレーサガスの濃度の急激な増加が検出される位置が、漏れている燃料電池11の位置を表す。積層体10内の吸込プローブ31の位置を決定するために、長さスケールがランス30に設けられることが可能であり、それにより、積層体10内の長さa に相当する測定された長さが、空気排出チャネル18の出口端部で読み取られ得る。
【0021】
漏れ検出中に、トレーサガスが抜け出るように燃料排出チャネル16は開放されてもよい。燃料排出チャネル16は、トレーサガスの圧力が積層体10内で高まるようにストッパ又は別の要素で閉じられてもよい。
【0022】
本実施形態では、トレーサガスが第1のチャンバK1を流れて、本例では空気であるキャリアガスが第2のチャンバK2を流れると述べられている。キャリアガスが第1のチャンバを流れて、トレーサガスが第2のチャンバを流れるようにこれらの条件は反転されてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池(11)の積層体(10)の密閉性を検査する方法であって、前記積層体は、
− 第1のチャンバ(K1)、第2のチャンバ(K2)、及び該第1及び第2のチャンバを分離する膜(20)を夫々有する複数の燃料電池(11)、
− 前記燃料電池の第1のチャンバ(K1)に接続された燃料供給チャネル(15)及び燃料排出チャネル(16)、及び
− 前記燃料電池の第2のチャンバに接続された空気供給チャネル(17)及び空気排出チャネル(19)
を備えている方法において、
前記第1のチャンバ(K1)又は第2のチャンバ(K2)のいずれか一方はトレーサガス源(25)に接続されており、
他方のチャンバに接続されたチャネルの少なくとも1つが、トレーサガスに反応するガスセンサ(28)に接続されていることを特徴とする方法。
【請求項2】
各燃料電池(11)は板状構造をなし、前記積層体(10)は、板状の燃料電池の数によって決まる長さを有しており、
前記燃料供給チャネル(15)、前記燃料排出チャネル(16)、前記空気供給チャネル(17)及び前記空気排出チャネル(18)は夫々、前記積層体の全長に沿って直線的に延びていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記他方のチャンバにキャリアガスが流れており、前記他方のチャンバから抜け出たキャリアガス流が前記ガスセンサ(28)に与えられることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ガスセンサ(28)は、吸込プローブ(31)を有するランス(30)を備えており、該ランスは前記チャネル(18)に挿入されて、該チャネルの長手方向にチャネル内で移動され、
その結果から漏れ口の位置を決定するために、チャネル内の吸込プローブ(31)の位置が、前記ガスセンサ(28)の反応結果に基づいて決定されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記吸込プローブ(31)が移動されている間にトレーサガスの濃度の急激な増加が生じたとき、前記ガスセンサ(28)の反応結果が決定されることを特徴とする請求項4に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−511800(P2012−511800A)
【公表日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−540082(P2011−540082)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【国際出願番号】PCT/EP2009/066753
【国際公開番号】WO2010/066802
【国際公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(500469855)インフィコン ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (43)
【氏名又は名称原語表記】Inficon GmbH
【住所又は居所原語表記】Bonner Strasse 498, D−50968 Koeln, Germany
【Fターム(参考)】