説明

燃料電池カーボンセパレータ接着用プライマー組成物

【課題】燃料電池カーボンセパレータのシール材の接着に好適し、優れた接着性とシール性が得られるプライマー組成物を提供する。
【解決手段】本発明のプライマー組成物は、(a)アルコキシシランおよび/またはその部分分解縮合物100重量部に対して、(b)有機チタン化合物および/またはその部分分解縮合物1〜50重量部と、(c)ポリオルガノハイドロジェンシロキサン0.1〜30重量部を含有する。このプライマー組成物は、付加型シリコーンゴムから成るシール材の接着用プライマーとして好適する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、燃料電池カーボンセパレータのシール材の接着に適用するプライマー組成物に係わり、特に付加反応型シリコーンゴムの硬化物から成るシール材に好適するプライマー組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、燃料の有するエネルギーを直接的に電気エネルギーに変換する装置として、燃料電池(FC)が知られている。燃料電池では、水素を含む燃料ガスをアノードに、酸素を含む酸化ガスをカソードにそれぞれ供給し、両極で起こる化学反応によって起電力を得ている。燃料電池の中でも、電解質として固体高分子膜(陽イオン交換膜)を用いる固体高分子型燃料電池は、比較的低温で作動し小型化が容易であることから、家庭用コジェネレーション(熱併合発電)システムあるいは車載用として、将来主流になるものと予想されている。
【0003】
固体高分子型燃料電池は、多数組(例えば200組)の単セルを積層したスタック構造を有する。単セルでは、電解質膜を挟んでアノードとカソードの一対の電極が配置されており、これらの電極は、隣接する単セル間でガスが混合するのを防ぐセパレータとしての機能を有している。
【0004】
このセパレータは、ガス不透過性を有し、導電性に優れたグラファイト粉末に少量の樹脂バインダが添加されたカーボン組成物を、プレス成形または射出成形して作製される。
【0005】
このような構造の固体高分子型燃料電池においては、燃料ガスと酸化ガスとの混合を防ぎ、かつセル内を湿潤状態に保つために、各単セルの周辺部で電解質膜とセパレータとの間のシール性を十分に確保することが重要となる。シール性を確保するために、それ自体が接着性を有する接着材、あるいはガスケットのように、それ自体は接着せず圧接されて封止する機能を有する気密封止部材を配置することが行われている。なお、本発明では、前記接着材とガスケットとを合わせてシール材と称するものとする。
【0006】
そして、このようなシール材として、耐熱性、耐寒性に優れ、かつ圧縮永久ひずみが小さいという特長を有するシリコーンゴムが好適するものと考えられる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、付加型液状シリコーンゴムを成形・硬化させたものを、カーボンセパレータのシール材として用いる場合、カーボンセパレータとの接着性が不十分であるため、接着構造において十分なシール性を確保することができなかった。また、ガスケット構造においては、圧縮されたシリコーンゴム成形体の反力によってシール性が確保されるため、通常は接着性が必要とされないものの、組み付け時のガスケットの脱落、あるいは使用中の内部圧力によるガスケットの位置ずれなどの不具合により、シール性が確保されなくなることがあった。
【0008】
本発明はこれらの点に鑑みてなされたもので、燃料電池のカーボンセパレータのシール材接着のために好適し、優れた接着性およびシール性を得ることができるプライマー組成物を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の燃料電池カーボンセパレータ接着用プライマー組成物は、燃料電池カーボンセパレータのシール材の接着用プライマーであり、(a)アルコキシシランおよび/またはその部分分解縮合物と、(b)有機チタン化合物および/またはその部分分解縮合物、および(c)ポリオルガノハイドロジェンシロキサンをそれぞれ必須成分とすることを特徴とする。
【0010】
このプライマー組成物において、燃料電池カーボンセパレータの接着シール材が付加型液状シリコーンゴム組成物の硬化物であることができる。また、(a)アルコキシシランおよび/またはその部分分解縮合物100重量部に対して、(b)有機チタン化合物および/またはその部分分解縮合物1〜50重量部と、(c)ポリオルガノハイドロジェンシロキサン0.1〜30重量部をそれぞれ含有することができる。
【0011】
本発明のプライマー組成物によれば、燃料電池のカーボンセパレータに対して良好な接着シール性を得ることができ、特にシール材として付加型液状シリコーンゴム組成物を使用する場合において、優れた接着性と完全なシール性を実現することができる。
【0012】
また、必須成分として有機溶剤を含有しないので、軟質ゴム製のタンポ版を用いたタンポ印刷やスクリーン印刷のような簡便な転写方法においても、膨潤や溶剤揮発による塗布性の悪化が生じることなく、塗布することができる。したがって、カーボンセパレータのような表面に凹凸を有する基材上に任意のパターンで塗布することができ、塗布の際のマスキングが不要であるうえに、材料損失が極めて少ない。
【0013】
【発明の実施形態】
本発明の実施形態である燃料電池カーボンセパレータの接着シール用プライマー組成物は、(a)アルコキシシランおよび/またはその部分分解縮合物と、(b)有機チタン化合物および/またはその部分分解縮合物、および(c)ポリオルガノハイドロジェンシロキサンを必須成分とすることを特徴とする。
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0015】
(a)成分のアルコキシシランおよび/またはその部分分解縮合物は、基材であるカーボンセパレータに接着被膜を形成するとともに、接着シール材である付加型シリコーンゴムなどと架橋し得る官能基を有し、良好な接着性を発現させる。
【0016】
(a)成分としては、
一般式RSi(OR4−a(式中、R,Rはいずれも置換または非置換の1価の炭化水素基を示し、aは0または1である。)で表されるアルコキシシランおよびその部分加水分解縮合物の1種または2種以上を使用することができる。ここで、Rとしてはメチル基およびエチル基を挙げることができる。またRとしては、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基、フェニル基、ビニル基、および前記したORと同じアルコキシ基を挙げることができる。
【0017】
具体的に(a)成分としては、ケイ酸エチル、ケイ酸プロピルなどのアルキルオルソシリケートおよびその部分加水分解物であるポリアルキルシリケート、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシランなどのアルコキシシランおよびその部分加水分解シロキサンがある。その他、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランのような、カーボンファンクショナルシランとして知られている一群のアルコキシシランを使用することも可能である。
【0018】
これらのアルコキシシランおよびその部分分解縮合物を、単独で使用しても2種以上を併用しても良い。
【0019】
好ましくは、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシランの中から、1種または2種以上を選択して使用する。特に、フェニル基を有するアルコキシシランを単独で使用するか、あるいは2種以上を併用する場合は、フェニル基を有するアルコキシシランを1種以上選択して使用することが好ましい。
【0020】
(b)有機チタン化合物および/またはその部分分解縮合物は、前記(a)成分により被膜を形成するための触媒となる成分である。この(b)成分としては、有機チタン酸エステル、チタンの部分アルコキシ化部分キレート化合物、チタンのキレート化合物、チタンのケイ酸エステルによるキレート化合物、およびこれらの部分加水分解縮合物を挙げることができ、具体的には、テトラメチルチタネート、テトラエチルチタネート、テトラプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、チタンアセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、ジエトキシチタンアセチルアセトネート、チタンジアセチルアセトネート、チタンオクチレングリコレート、チタンオクチルグリコレートチタンラクテート、チタンラクテートエチルエステル、チタントリエタノールアミネート、およびこれらの部分加水縮合物を例示することができる。
【0021】
これらの有機チタン化合物およびその部分分解縮合物は、単独で使用しても2種以上を併用しても良い。
【0022】
(b)成分の配合量は、(a)成分100重量部に対して1〜50重量部とすることが望ましい。(b)成分の配合量が1重量部未満の場合には、被膜の形成が不十分であるばかりでなく、基材との接着性が不十分となり、反対に50重量部を超えると、シリコーンゴムとの接着性が不十分となり好ましくない。
【0023】
(c)ポリオルガノハイドロジェンシロキサンは、前記(a)成分および接着シール材(例えば付加型シリコーンゴム)と架橋し、接着性を向上させる働きをする成分であり、ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個以上有するものを使用することができる。
【0024】
一般式RSiO(4−(b+c)/2(式中、Rは置換または非置換の1価の炭化水素基を示す。bは0,1または2を表し、cは1または2を表す。ただし、b+cは1〜3である。)で表される。ここで、Rとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ドデシル基などのアルキル基、フェニルのようなアリール基、β−フェニルプロピル基のようなアラルキル基、クロルメチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基などの置換炭化水素基を挙げることができ、合成の容易さから、メチル基が最も好ましい。
【0025】
このような(c)ポリオルガノハイドロジェンシロキサンとして、直鎖状、分岐状もしくは環状の重合体またはこれらの混合物を用いることができる。また、合成の容易さや取り扱いの容易さから、25℃における粘度が1〜10,000cPのものを使用することが好ましい。
【0026】
(c)成分の配合量は、(a)成分100重量部に対して0.1〜30重量部とすることが望ましい。(c)成分の配合量が0.1重量部未満の場合には、接着性が不十分となり、反対に30重量部を超えると、プライマー液の安定性が不十分となり好ましくない。
【0027】
このように構成される本発明の実施形態のプライマー組成物は、(a)アルコキシシランおよび/またはその部分分解縮合物と、(b)有機チタン化合物および/またはその部分分解縮合物、および(c)ポリオルガノハイドロジェンシロキサンを必須成分とし、有機溶剤を必要としないが、塗布方法によっては有機溶剤を加えて希釈し、所望の粘度に調整しても良い。有機溶媒としては、トルエン、キシレン、ヘキサン、アセトン、メタノール、エタノール、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルセロソルブ、1,4−ジオキサンなどが例示される。
【0028】
また、塩化白金酸、そのアルコール変性物、白金のビニルシロキサン錯体などの白金系触媒をさらに添加することもできる。白金系触媒の添加量は、プライマー組成物全体に対して、白金換算で100ppm〜5000ppm、好ましくは300ppm〜1000ppmとなる量が好ましい。
【0029】
本発明のプライマー組成物が適用される箇所は、燃料電池のカーボンセパレータに接着シール材を接着およびシールする箇所である。カーボンセパレータの組成としてはカーボン(グラファイト)を主成分とし、バインダ樹脂としてフェノール樹脂やエポキシ樹脂などを含み、補強用としてシリカ系粉末やガラス粉末を含むものが挙げられる。
【0030】
本発明のプライマー組成物の適用方法としては、接着およびシールを行うカーボンセパレータに予め刷毛塗りなどにより塗布し、風乾あるいは加熱して乾燥させる。その後、接着シール用の材料(例えば付加型シリコーンゴム)を射出成形しあるいは塗布後張り合わせて加熱硬化させることによって、接着性が発現する。
【0031】
本発明のプライマー組成物は、燃料電池カーボンセパレータの接着シール材として、付加型シリコーンゴムの硬化物を使用する場合に、接着性およびシール性向上の効果が発揮され、燃料電池の高出力化を達成することができる。
【0032】
以下、実施例および比較例によって、本発明をさらに詳しく説明する。これらの例において、部は重量部を表す。また、粘度は25℃における値である。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0033】
実施例1〜5
表1に示す組成の各成分を混合し、プライマー組成物を調製した。なお、表中、ポリオルガノハイドロジェンシロキサンAは、(CHHSiO0.5単位とSiO単位からなり、ケイ素原子に結合した水素原子を1.03重量%含有し、粘度が23cPのポリメチルハイドロジェンシロキサンである。また、ポリオルガノハイドロジェンシロキサンBは、両末端がトリメチルシリル基で封鎖され、ケイ素原子に結合した水素原子を0.92重量%含有し、粘度が30cPの直鎖状ポリメチルハイドロジェンシロキサンである。
【0034】
また、比較例1〜4として、表1に示す組成の成分を実施例と同様に混合し、プライマー組成物を調製した。
【0035】
さらに、接着シール用の材料として、付加型シリコーンゴム(ジーイー東芝シリコーン(株)製XE15−B6523)を使用した。
【0036】
次に、前述のプライマー組成物と接着シール用材料を用いて、以下に示すような接着試験を行った。すなわち、被着試験体として、カーボンテストピース(厚さ2.0mm)を用い、このテストピースの表面をトルエンで洗浄した後、実施例1〜5および比較例1〜4のプライマー組成物を均一に刷毛で塗布し、100℃で30分間乾燥させた。
【0037】
次いで、このようなカーボンテストピースを金型にセットした後、金型のキャビティ内に、接着シール用材料である液状シリコーンゴムを流し込んで射出成形し、150℃で2分間加熱して硬化させた。
【0038】
こうしてカーボンテストピースに接着シール材が接着された試験体が得られた。得られた試験体について、接着シール材を剥がし取る試験を行い、このときの凝集破壊率を目視により観察した。試験結果を、表1下欄に示す。接着状態の欄において、c.f.は凝集破壊を示し、剥離は界面剥離したことを示す。
【0039】
【表1】



【0040】
表1から明らかなように、実施例1〜5で得られたプライマー組成物は、燃料電池用カーボンセパレータの接着シール材として、付加型シリコーンゴムの硬化物を使用した場合に、優れた接着性を示した。
【0041】
【発明の効果】
以上の説明で明らかなように、本発明のプライマー組成物によれば、燃料電池のカーボンセパレータに対して良好な接着シール性を得ることができ、特に接着シール材として付加型液状シリコーンゴム組成物を使用する場合に、優れた接着性と完全なシール性を実現することができる。したがって、燃料電池の高出力化を達成することができる。
【0042】
また、有機溶剤を必ずしも必要としないので、塗布する際の制約が少なく、特にタンポ印刷を利用することにより任意のパターンで塗布することができ、塗布の際のマスキングが不要であるうえに、材料損失が極めて少ない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池カーボンセパレータのシール材の接着用プライマーであり、(a)アルコキシシランおよび/またはその部分分解縮合物と、(b)有機チタン化合物および/またはその部分分解縮合物、および(c)ポリオルガノハイドロジェンシロキサンをそれぞれ必須成分とすることを特徴とする燃料電池カーボンセパレータ接着用プライマー組成物。
【請求項2】
燃料電池カーボンセパレータのシール材が付加型液状シリコーンゴム組成物の硬化物であることを特徴とする請求項1記載の燃料電池カーボンセパレータ接着用プライマー組成物。
【請求項3】
前記(a)アルコキシシランおよび/またはその部分分解縮合物100重量部に対して、前記(b)有機チタン化合物および/またはその部分分解縮合物1〜50重量部と、前記(c)ポリオルガノハイドロジェンシロキサン0.1〜30重量部をそれぞれ含有することを特徴とする請求項1または2記載の燃料電池カーボンセパレータ接着用プライマー組成物。

【公開番号】特開2004−103290(P2004−103290A)
【公開日】平成16年4月2日(2004.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−260235(P2002−260235)
【出願日】平成14年9月5日(2002.9.5)
【出願人】(000221111)ジーイー東芝シリコーン株式会社 (257)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】