説明

燃料電池システム、燃料電池の運転方法、およびガス処理装置

燃料電池システム(800)は、複数の燃料電池単位セル(101)と、これらの燃料電池単位セル(101)の電極反応で発生する二酸化炭素等のガスを取り込む孔(809)、およびガスを排出する排気口(807)が形成された容器(801)と、容器(801)内に設けられ、容器(801)に捕集されたガスを酸化する触媒層(805)と、を備え、触媒層(805)によって酸化された処理済みガス(806)を容器(801)の排出口(807)から排出するよう構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システム、燃料電池の運転方法、およびガス処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料極および酸化剤極と、これらの間に設けられた電解質から構成され、燃料極には燃料が、酸化剤極には酸化剤が供給されて電気化学反応により発電する。燃料としては、一般的には水素が用いられるが、近年、安価で取り扱いの容易なメタノールを燃料として直接利用する直接型の燃料電池の開発も盛んに行われている。
【0003】
燃料として水素を用いた場合、燃料極での反応は以下の式(1)のようになる。
【0004】
3H → 6H + 6e (1)
【0005】
燃料としてメタノールを用いた場合、燃料極での反応は以下の式(2)のようになる。
【0006】
CHOH + HO → 6H +CO + 6e (2)
【0007】
また、いずれの場合も、酸化剤極での反応は以下の式(3)のようになる。
【0008】
3/2O + 6H + 6e → 3HO (3)
【0009】
特に、直接型の燃料電池では、メタノール水溶液から水素イオンを得ることができるので、改質器等が不要になり、燃料電池の小型化および実用化に向けての利点が大きい。また、液体のメタノール水溶液を燃料とするため、エネルギー密度が非常に高いという特徴がある。
【0010】
このような直接型の燃料電池においては、上記式(2)に示すように、燃料極では電気化学反応によって二酸化炭素が発生する。そのため、従来の燃料電池は、燃料極から二酸化炭素が除去されるように構成されている。
【0011】
特許文献1には、燃料電池の電気化学反応によって生成した反応生成物を排出する反応生成物排出口と、反応生成物排出口に接続され、反応生成物を貯蔵するための反応生成物貯蔵室を含む容器とを含む燃料電池が開示されている。また、ここでは、未反応の燃料および電気化学反応の副生成物であるホルムアルデヒドやギ酸等の有害物質を吸着するための活性炭やゼオライトなどの吸着材やこれらの有害物質を分解させるための銀などの貴金属触媒、無機触媒、または微生物触媒を、単独または適宜組み合わせて容器内に添加しておくことが記載されている。これにより、これらの有害物質が容器内に回収された場合であっても、容器の処理やリサイクル上の問題を解消することができる。
【0012】
また、特許文献2には、副生成物の回収袋に吸収保持部材を封入し、回収した副生成物を吸収、吸着固定、定着させる電源システムが開示されている。ここで、この回収袋の交換時期を知らせるために、回収袋の封入残量検出手段と、封入残量表示手段とが設けられている。
【特許文献1】特開2003−132931号公報
【特許文献2】特開2003−36879号公報
【発明の開示】
【0013】
【0014】
しかしながら、このような従来の燃料電池においては、燃料電池から排出された未反応の燃料および副生成物を容器に回収し、回収した容器を燃料電池から取り外して処理するものであるため、回収後の容器は、ゴミとして処理するかリサイクル処理するといった手間がかかるといった問題があった。さらに、未反応の燃料や副生成物などが容器内にどの程度回収され、いつ取り外して空の容器と交換すべきかなどの目安となる封入残量表示機能を設ける必要があり、燃料電池の使用方法が煩雑になり、構造も複雑になり、燃料電池の小型化にも支障を来たすといった問題があった。
【0015】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡単な構成で、燃料電池から排出される未反応の燃料および副生成物を無害化して除去し、燃料電池システムの保全性および信頼性を向上させることのできる技術を提供することにある。
【0016】
本発明によれば、固体高分子電解質膜と、該固体高分子電解質膜に配された燃料極および酸化剤極とを含む燃料電池セルと、燃料極に配して設けられ、燃料を収容する容器と、容器に含まれるガスを大気中に排出する排出通路と、排出通路に設けられ、ガスを酸化する触媒と、を含むことを特徴とする燃料電池システムが提供される。
【0017】
ここで、容器に含まれるガスとは、未反応の燃料ガスや燃料電池の電気化学反応により生じた副生成物のことである。このような副生成物には、たとえば、ギ酸、ギ酸メチル、ホルムアルデヒドなどが含まれる。
【0018】
本発明によれば、燃料電池から排出されるガスに、環境や人体に悪影響を及ぼすような有害な成分が含まれる場合であっても、触媒により酸化して無害化した後に大気中に排出することができる。これにより、環境上および人体に悪影響を及ぼすこともなく、燃料電池システムを安全に利用することができる。さらに、有害な成分による燃料電池の劣化や動作不良を防ぐこともでき、燃料電池システムの保全性および信頼性を向上させることができる。本発明の燃料電池システムは、たとえば既存の燃料電池システムに設けられているガス抜き用の排出通路内に触媒を設けるだけの簡単な構成で実現することもできる。
【0019】
触媒としては、たとえば、Pt、Ti、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Nb、Mo、Ru、Pd、Ag、In、Sn、Sb、W、Au、Pb、Biのうちの少なくとも一種を含む金属、合金、またはそれらの酸化物を用いることができる。
【0020】
本発明の燃料電池システムは、触媒によるガスの酸化を促進する酸化促進手段をさらに含むことができる。酸化促進手段は、ガスに酸素を供給する酸素供給部を有することができる。また、酸化促進手段は、ガスまたは触媒を加熱する加熱部を有することもできる。
【0021】
このような構成によれば、容器から排気通路に導かれたガスを効率よく確実に酸化させることができる。また、燃料電池システムを長時間使用した後に、触媒により酸化しきれなかった成分や液状化した成分が触媒に付着した場合であっても、そのような成分を効率よく、より確実に酸化させて完全に除去することができ、性能を維持することができる。これにより、燃料電池システムの保全性および信頼性をさらに向上させることができる。
【0022】
本発明の燃料電池システムは、排出通路中のガスを大気中に排出するのを促進する手段をさらに含むこともできる。これにより、排出通路中のガスを効率よく酸化して大気中に排出することができる。
【0023】
本発明の燃料電池システムは、複数の燃料電池セルを含むことができ、容器は、複数の燃料電池セルのそれぞれの燃料極に配して設けることができる。このようにすると、複数の燃料電池セルを含む燃料電池であっても、一の排出通路に触媒を設けた構成とすることができるので、燃料電池システムの構成を簡略化することができる。
【0024】
本発明の燃料電池システムは、燃料極に供給された燃料を回収するための回収用通路をさらに含み、排出通路は、回収用通路を通過する燃料に含まれるガスを大気中に排出するよう構成することができる。このようにすれば、回収される燃料中に含まれるガスを除去することができ、再利用する燃料の品質を高く保つことができる。
【0025】
本発明の燃料電池システムは、容器と排出通路との間に設けられた気液分離膜をさらに含むことができ、触媒は、気液分離膜を介して排出通路に排出されたガスを酸化するよう構成することができる。これにより、燃料が液体の場合、液体燃料が排出通路に流入するのを防ぐことができ、燃料の回収率を高めることができるとともに、ガスのみを排出通路に排出して触媒により酸化した後に大気中に排出することができる。
【0026】
本発明の燃料電池システムにおいて、燃料電池セルは、燃料極に液体燃料を供給する直接型燃料電池とすることができる。燃料としては、メタノール、エタノール、ジメチルエーテル、または他のアルコール類、あるいはシクロパラフィン等の液体炭化水素等の有機液体燃料を用いることができる。
【0027】
本発明によれば、固体高分子電解質膜と、該固体高分子電解質膜に配された燃料極および酸化剤極とを含む燃料電池セルと、燃料極に配して設けられ、燃料を収容する容器と、を含む燃料電池に取り付け可能に構成されたガス処理装置であって、容器に含まれるガスを取り込む取り込み口および当該ガスを排出する排気口が設けられたハウジングと、ハウジング内に設けられ、当該ハウジングに取り込まれたガスを酸化する触媒と、を含むことを特徴とするガス処理装置が提供される。ここで、触媒は、ハウジングの取り込み口から取り込まれたガスを酸化可能に配置されるとともに当該ガスが酸化された後に排気口から排出されるよう配置される。
【0028】
この構成によれば、燃料電池から排出されるガスに、環境や人体に悪影響を及ぼすような有害な成分が含まれる場合であっても、ガス処理装置に含まれる触媒により酸化して無害化した後にガスを大気中に排出することができる。これにより、環境上および人体に悪影響を及ぼすこともなく、燃料電池システムを安全に利用することができる。ガス処理装置のハウジングの取り込み口は、燃料電池に設けられた、電極反応で発生する二酸化炭素を排出するための排出口に着脱可能に構成することができる。このようにすれば、このガス処理装置のハウジングの取り込み口を既存の燃料電池の容器の排出口に連通させるように設置するだけで、燃料電池から排出されるガスを酸化して無害化して大気中に排出することができる。
【0029】
本発明のガス処理装置は、触媒によるガスの酸化を促進する酸化促進手段をさらに含むことができる。酸化促進手段は、ガスに酸素を供給する酸素供給部を有することができる。また、酸化促進手段は、ガスまたは触媒を加熱する加熱部を有することもできる。
【0030】
このような構成によれば、ハウジングに取り込まれたガスを効率よく確実に酸化させることができる。また、この処理装置を長時間使用した後に、触媒により酸化しきれなかった成分や液状化した成分が触媒に付着した場合であっても、そのような成分を効率よく、より確実に酸化させて完全に除去することができ、性能を維持することができる。
【0031】
また、本発明のガス処理装置は、燃料電池において、燃料極に供給された燃料を回収するための回収用通路に着脱可能に構成することもできる。
【0032】
本発明によれば、固体高分子電解質膜と、該固体高分子電解質膜に配された燃料極および酸化剤極とを含む燃料電池セルから排出されるガスを、触媒により酸化した後に大気中に放出することを特徴とする燃料電池の運転方法が提供される。
【0033】
これにより、燃料電池セルから排出されるガスを酸化して無害化した後に大気中に放出することができるので、ガス中に有害な成分が含まれる場合であっても、環境や人体への悪影響を防ぐことができる。
【0034】
本発明の燃料電池の運転方法において、燃料電池セルは、燃料極に液体燃料を供給することにより駆動する直接型とすることができ、燃料電池は、燃料極に配して設けられ、液体燃料を収容する容器をさらに含むことができ、ガスは、燃料容器から排出することができる。ここで、燃料容器から排出されるガスとは、液温の高くなった未反応のメタノール等の液体燃料や燃料電池の電気化学反応により生じた副生成物のことである。
【0035】
本発明の燃料電池の運転方法において、触媒による酸化を促進させる工程をさらに含むことができる。酸化を促進させる工程は、ガスに酸素を供給する工程を含むことができる。酸化を促進させる工程は、ガスまたは触媒を加熱する工程を含むことができる。
【0036】
本発明によれば、燃料電池から排出されるガスを酸化処理して無害化した後に大気中に排出することができるので、環境上および人体への悪影響を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
上述した目的、およびその他の目的、特徴および利点は、以下に述べる好適な実施の形態、およびそれに付随する以下の図面によってさらに明らかになる。
【0038】
[図1]本発明の実施の形態における燃料電池システムの構造を模式的に示した断面図である。
[図2]図1に示した燃料電池システムのガス処理部を模式的に示した図である。
[図3]本発明の実施の形態における燃料電池システムの構造を模式的に示した断面図である。
[図4]本発明の実施の形態における燃料電池システムの構造を模式的に示した断面図である。
[図5]本発明の実施の形態における燃料電池システムの構造を模式的に示した断面図である。
[図6]本発明の実施の形態における燃料電池システムの構造を模式的に示した図である。
[図7]本発明の実施の形態における燃料電池システムの構造を模式的に示した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0040】
(第一の実施の形態)
図1は本発明の実施の形態における燃料電池システムの構造を模式的に示した断面図である。
燃料電池システム800は、複数の燃料電池単位セル101と、これらの燃料電池単位セル101から排出されるガスを処理するガス処理部804とを含む。
【0041】
燃料電池単位セル101は、燃料極102および酸化剤極108と、これらの間に設けられた固体電解質膜114を含み、燃料極102には燃料124が、酸化剤極108には酸化剤がそれぞれ供給されて電気化学反応により発電する。燃料電池単位セル101は、燃料極102に液体燃料が供給される直接型の燃料電池である。燃料124としては、メタノール、エタノール、ジメチルエーテル、または他のアルコール類、あるいはシクロパラフィン等の液体炭化水素等の有機液体燃料を用いることができる。有機液体燃料は、水溶液とすることができる。酸化剤としては、通常、空気を用いることができるが、酸素ガスを供給してもよい。
【0042】
燃料電池システム800は、燃料極102に供給する燃料124を収容する燃料容器811を含む。ガス処理部804は、燃料電池単位セル101の電気化学反応により生じた二酸化炭素等の反応生成物、未反応燃料ガスおよび副生成物などの処理が必要なガス802を捕集する容器801と、この容器801内に設けられ、容器801内に捕集されたガスのうち酸化処理の必要なガスを酸化させる触媒層805とを含む。
【0043】
ここで、触媒層805に含まれる触媒としては、Pt、Ti、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Nb、Mo、Ru、Pd、Ag、In、Sn、Sb、W、Au、Pb、Biのうちの少なくとも一種を含む金属、合金、またはそれらの酸化物などが例示される。これらの触媒は、未反応の燃料ガスや副生成物を効率よく酸化させることができる。
【0044】
本実施の形態において、触媒層805は、カーボンペーパー等の基体に塗布した形態とすることができる。この場合、触媒は、少なくともカーボンペーパーの一部を被覆していればよい。触媒は、一般的に用いられている含浸法によって炭素粒子に担持させることができる。触媒を担持する炭素粒子としては、アセチレンブラック(デンカブラック(電気化学社製)(登録商標)、XC72(Vulcan社製)等)、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等が例示される。炭素粒子の粒径は、たとえば、0.01〜0.1μm、好ましくは0.02〜0.06μmとする。触媒層805は、触媒を担持させた炭素粒子を溶媒に分散させてペースト状とした後、これを基体に塗布、乾燥させることによって得ることができる。触媒層805の厚さに特に制限はないが、たとえば1nm以上500nm以下とすることができる。
【0045】
また、基体としては、カーボンペーパーの他に、カーボンの成形体、カーボンの焼結体、焼結金属、発泡金属等の多孔性基体を用いることができる。
【0046】
また、触媒層805は、触媒を多孔質金属シートなどに担持された形態とすることもできる。多孔質金属シートは、金属繊維シートを用いてもよく、その場合、金属繊維シートは、金属繊維を圧縮成形し、また必要に応じて圧縮焼結することにより得ることができる。
【0047】
また、多孔質金属シートを構成する金属の表面に微細な凹凸構造を、たとえば電気化学的エッチングや化学的エッチング等のエッチングを用いて形成してもよい。この表面に凹凸構造が形成された金属繊維を有する多孔質金属シートに、触媒となる金属を、たとえば、電気めっき、無電解めっき等のめっき法、真空蒸着、化学蒸着(CVD)等の蒸着法を用いて担持させてもよい。
【0048】
燃料電池システム800は、燃料容器811と容器801との間に介在する気液分離膜815をさらに含む。気液分離膜815は、たとえば、ポリエーテルスルホンやアクリル共重合体などからなる疎水性膜である。このような気液分離膜815としては、ゴアテックス(ジャパンゴアテックス(株)社製)(登録商標)、バーサポア(日本ポール社製)(登録商標)、スーポア(日本ポール(株)社製)(登録商標)などが例示される。
【0049】
ガス処理部804において、容器801は、触媒層805により、上室801aと下室801bとに分割される。下室801bには、燃料容器811から排出される未処理ガス802を取り込む取り込み口809が形成されている。この容器801の取り込み口809は、燃料電池単位セル101に供給される燃料124が収容される燃料容器811の一端の上部に設けられた開口部813と気液分離膜815を介して連通される。上室801aの上端には処理済みガス806を排出する排気口807が形成される。
【0050】
さらに、容器801の下室801bには、酸素816を供給する酸素供給口817が形成され、図示しない酸素供給手段から酸素816が供給される。尚、本実施の形態においては、酸素816が供給される構成としたが、必ずしも酸素を供給する構成とする必要はない。また、酸素供給口817からは、酸素を含む空気を供給することもでき、その他の気体を供給することもできる。酸素供給口817から何らかの気体を供給する構成とすることにより、容器801内に気流を生じさせることができ、容器801に排出された未処理ガス802を触媒層805を介して処理した後、排気口807から排出させる処理を促進することもできる。さらに、本実施の形態では、酸素供給手段により酸素を供給する構成としたが、酸素供給手段を含むことなく、単に、外気を取り込む構成とすることもできる。
【0051】
また、燃料容器811の開口部813および気液分離膜815の間、気液分離膜815および容器801の取り込み口809の間、容器801の下室801bおよび触媒層805が担持されたカーボンペーパーの間、カーボンペーパーおよび容器801の上室801aの間のそれぞれには、シール部材が介在する。
【0052】
図2は、以上で説明した燃料電池システム800のガス処理部804を示す分解図および組み立て図である。図2(a)は、燃料電池システム800のガス処理部804の分解図であり、図2(b)は、図2(a)のガス処理部804を組み立てた組み立て図である。ガス処理部804は、燃料容器811に着脱可能に取り付けることもできる。
【0053】
本実施の形態の燃料電池システム800において、図2(a)の分解図に示されるように、ガス処理部804の容器801は、気液分離膜815と、酸素供給口817を有する第1の容器873と、触媒層805を担持したカーボンペーパーと、この触媒層805を担持したカーボンペーパーを両側から把持する二つの枠875と、排気口807を有する第2の容器877と、天板879とを含む。さらに、これらの間にはそれぞれ燃料124が漏れないようにするシール部材881が備えられている。
【0054】
このようにして構成された燃料電池システム800におけるガス処理部804を組み立てた図が、図2(b)に示され、その断面は、図1に示したのと同様である。すなわち、天板879、第2の容器877および触媒層805が担持されたカーボンペーパーによって容器の上室801a(図1)が形成され、触媒層805が担持されたカーボンペーパー、第1の容器873および気液分離膜815によって容器の下室801b(図1)が形成される。
【0055】
次に、図1および図2を参照して、このように構成された燃料電池システム800の作用を説明する。
燃料電池単位セル101の電気化学反応により、燃料極102では二酸化炭素が発生する。また、未反応の燃料124中に含まれる例えばメタノール等のアルコールの一部が蒸発し、気体となる。さらに、このとき、ギ酸(HCOOH)、ギ酸メチル(HCOOCH3)、ホルムアルデヒド(HCOH)などの副生成物も発生する。容器801には、これらの二酸化炭素、アルコール、ギ酸、ギ酸メチル、ホルムアルデヒド等が未処理ガス802として気液分離膜815を介して排出される。容器801内に捕集された未処理ガス802は、以下の式(4)〜(7)に示すように、触媒層805により酸化される。
【0056】
CHOH +3/2O → CO + 2HO (4)
【0057】
HCOOH +1/2O →CO + HO (5)
【0058】
HCOOCH + 2O → 2CO + 2HO (6)
【0059】
HCOH +O → CO + HO (7)
【0060】
このように、未処理ガス802に含まれる未反応燃料ガスおよび副生成物は酸化されて、二酸化炭素および水が生成される。このようにして酸化された処理済みガス806は、排気口807を介して外部に放出される。ここで、酸素供給口817から酸素816を供給することにより、触媒層805による未処理ガス802の酸化を促進することができる。
【0061】
以上のように、本実施の形態の燃料電池システム800によれば、燃料電池から排出されるガスを酸化処理して排出する構成なので、簡単な構成でガスの無害化を行うことができるので、環境および人体への悪影響を低減することができ、燃料電池システムの保全性および信頼性を向上させることができる。
【0062】
(第二の実施の形態)
図3は、本発明の実施の形態における燃料電池システムの構造を模式的に示した断面図である。
本実施の形態における燃料電池システム820は、一つの燃料電池単位セル101毎にガス処理部824がそれぞれ設けられた点で上記実施の形態における燃料電池システム800と異なる。
【0063】
ここでは、燃料電池単位セル101上部にガス処理部824が設けられている。燃料電池単位セル101は、燃料容器811の開口部813に設けられ、燃料電池単位セル101の固体電解質膜114に形成された孔823上に気液分離膜815が設けられている。このような構成とすると、ガス処理部824を設ける領域を燃料電池単位セル101が設けられた領域と別に設ける必要がないため、燃料電池システムをコンパクトに構成でき、システムの小型化を図ることができる。
【0064】
(第三の実施の形態)
図4は、本発明の実施の形態における燃料電池システムの構造を模式的に示した断面図である。
本実施の形態における燃料電池システム830は、触媒の形状が第一および第二の実施の形態とは異なる。燃料電池システム830は、ワイヤーウール形状の触媒835を含む。触媒835は、排出通路831の上端に設けられた排気口807内に充填されている。
【0065】
本実施の形態において、ワイヤーウール形状の触媒835は、第一の実施の形態で説明した触媒層805に含まれる触媒と同様の金属、合金、またはそれらの酸化物とすることができる。
【0066】
ここでは図示を省略しているが、第一の実施の形態および第二の実施の形態で図1および図3を参照して説明したのと同様、排出通路831は、酸素816を供給する酸素供給口817が形成された構成とすることができ、図示しない酸素供給手段から酸素816を供給することができる。
【0067】
このように、燃料容器811から排出される未処理ガス802を酸化することのできる構成であれば、触媒835はどのような形状とすることもできる。たとえば、上述した金属、合金、またはその他の酸化物により構成されたワイヤを網状に形成したものを用いることもでき、ワイヤ線の形状のまま用いることもできる。
【0068】
本実施の形態においても、第一および第二の実施の形態で説明したのと同様の効果を得ることができる。
【0069】
(第四の実施の形態)
図5は、本発明の実施の形態における燃料電池システムの構造を模式的に示した断面図である。
本実施の形態における燃料電池システム840は、加熱部841を含む点で第一〜第三の実施の形態と異なる。ここでは、燃料電池システム840が第三の実施の形態で説明したのと同様のワイヤーウール形状の触媒835を含む構成を図示しているが、第一および第二の実施の形態で説明した触媒層805を含む構成とすることもでき、触媒の形状は特に限定されない。
【0070】
加熱部841は、たとえばヒータとすることができ、排出通路831において、触媒835近傍を加熱するように配置されるのが好ましい。このようにすれば、触媒835に付着した未処理ガス802を効率よく確実に酸化させることができる。また、加熱部841は、排出通路831の周囲に設置された加熱用ヒータとすることもでき、排出通路831内の未処理ガス802を一旦、加熱部841に取り込み、加熱して、排出通路831に戻す構成にしてもよい。また、酸素供給口817から供給される酸素を加熱して供給する構成とすることもできる。これにより、触媒835による未処理ガス802の酸化を促進することができる。
【0071】
このような加熱部841による処理は、燃料容器811から排出された未処理ガス802を処理する際に常時行うようにすることもできるが、たとえばある一定期間燃料電池システム840の運転を行った後に定期的に行うようにすることもできる。燃料電池システム840を長時間運転することにより、触媒835には、酸化しきれなかった成分や液状化した成分が付着して酸化効率が落ちることもある。そのような場合に、触媒835に付着した未処理ガス802を効率よく除去することにより、触媒835の酸化機能を元に戻すことができる。燃料電池システム840においては、燃料容器811から排出される未処理ガス802には上述したようなアルコール、ギ酸、ギ酸メチル、ホルムアルデヒド等以外の成分はほとんど含まれない。そのため、触媒835が不純物質により汚染されることもなく、触媒835に付着した未処理ガス802を加熱処理により定期的に除去することにより、触媒835の耐久性を高めることができる。
【0072】
このように構成された燃料電池システム840において、燃料容器811から排出された未処理ガス802を加熱部841によって加熱することにより、触媒835による酸化処理を促進することができ、未処理ガス802を効率よく、より確実に酸化させて完全に除去することができ、触媒835の性能を維持することができる。これにより燃料電池システム840の保全性および信頼性を向上させることができる。
【0073】
上記実施の形態では、触媒による排気混入物質の酸化を促進する酸化促進手段として、酸素供給手段と加熱手段について言及したが、これに限定されるものではなく、他の酸化促進手段として、たとえば、加圧手段、振動手段、攪拌手段などを用いることもできる。
【0074】
さらに、他の実施の形態において、触媒は、光触媒であってもよく、その場合は、酸化促進手段は、光を照射する手段などであってもよい。光触媒としては、二酸化チタンなどの半導体や、有機金属錯体があり、たとえば、二酸化チタンの微粒子を白金に担持させたものを用いることができる。
【0075】
(第五の実施の形態)
図6は、本発明の実施の形態における燃料電池システムの構造を模式的に示した部分断面平面図および断面立面図である。図6(a)は、本実施の形態における燃料電池システムの構造を模式的に示した部分断面平面図であり、図6(b)は、図6(a)のA−A断面図である。
【0076】
燃料電池システム850は、複数の燃料電池単位セル101と、複数の燃料電池単位セル101に配して設けられた燃料容器811と、燃料容器811に燃料124を供給するとともに、燃料容器811を循環した燃料124を回収する燃料タンク851とを含む。燃料容器811と燃料タンク851とは、燃料通路854および燃料通路855を介して連結される。ガス処理部804は、燃料通路855上に設けられる。
【0077】
本実施の形態において、燃料容器811には、燃料通路854を介して燃料124が供給される。燃料124は、燃料容器811内に設けられた複数の仕切り板853に沿って流れ、複数の燃料電池単位セル101に順次供給される。複数の燃料電池単位セル101を循環した燃料124は、燃料通路855を介して燃料タンク851に回収される。
【0078】
尚、燃料タンク851は、燃料容器811を含む燃料電池システム850本体と着脱可能に構成されたカートリッジとすることもできる。
【0079】
本実施の形態の燃料電池システム850において、燃料通路855の開口部856に、容器801の取り込み口858が、気液分離膜815を介して連通され、燃料通路855から気液分離膜815を介して容器801内に、未処理ガス802が流れ込むようになっている。尚、容器801は、燃料通路855に着脱可能に構成することもできる。
【0080】
容器801内に捕集された未処理ガス802は、第一の実施の形態と同様に、触媒層805により酸化され、無害化されて、容器801の排気口807から大気中に放出される。
【0081】
なお、本実施の形態においては、一つのガス処理部804を燃料通路855上に設けた構成を説明したが、他の例において、第二の実施の形態で説明したように、複数の燃料電池単位セル101のそれぞれの上部にガス処理部804を設けた構成とすることもできる。
【0082】
(第六の実施の形態)
図7は、本発明の実施の形態における燃料電池システムの構造を模式的に示した平面図および部分側断面図である。図7(a)は、本実施の形態における燃料電池システムの構造を模式的に示した平面図であり、図7(b)は、図7(a)の線C−Cについての部分側断面図である。
【0083】
本実施の形態において、燃料電池システム860は、ガス処理部804を、燃料タンク851の上部の一端に設けた点が第五の実施の形態と異なる。
【0084】
燃料電池システム860において、燃料容器811の上部の一端に形成された開口部863に、気液分離膜815を介して容器801の取り込み口809が連通される。燃料容器811中の未処理ガス802は、気液分離膜815を介して容器801内に流入する。尚、容器801は、燃料容器811と着脱可能に構成することもできる。
【0085】
このように構成された本実施の形態の燃料電池システム860において、容器801内に捕集された未処理ガス802は、第一の実施の形態と同様に、触媒層805により酸化され、無害化されて、容器801の排気口807から大気中に放出される。
【実施例】
【0086】
図1に示した構成の燃料電池システム800を作製し、排気口807から排出されるガス中のメタノールの濃度をガスクロマトグラフィで測定した。ここで、容器801内の温度が25℃(室温)、容器801内の温度が40℃(高温)の場合のそれぞれについて、酸素供給口817から酸素を供給した場合、および供給しなかった場合のメタノールの濃度を測定した。また、参照例として、容器801に触媒層805を設けなかった場合(容器801内の温度25℃)のメタノールの濃度も測定した。結果を表1に示す。
【0087】

【0088】
表1に示すように、容器801内に触媒層805を設けることにより、触媒層を805を設けなかった場合と比較して排気口807から排出されるガス中のメタノールの濃度が低減された。これは、触媒層805の触媒により、メタノールが酸化されて除去されたためと考えられる。また、表1に示すように、容器801内の温度を40℃とすることにより、容器801内の温度が25℃のときに比べてメタノールの濃度を低減することができた。さらに、容器801内の温度が25℃のときも40℃のときも、容器801に酸素を供給することにより、排気口807から排出されるガス中のメタノールの濃度が低減された。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質膜と、該固体高分子電解質膜に配された燃料極および酸化剤極とを含む燃料電池セルと、
前記燃料極に配して設けられ、燃料を収容する容器と、
前記容器に含まれるガスを大気中に排出する排出通路と、
前記排出通路に設けられ、前記ガスを酸化する触媒と、
を含むことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
請求の範囲第1項に記載の燃料電池システムにおいて、
前記触媒による前記ガスの酸化を促進する酸化促進手段をさらに含むことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項3】
請求の範囲第2項に記載の燃料電池システムにおいて、
前記酸化促進手段は、前記ガスに酸素を供給する酸素供給部を有することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項4】
請求の範囲第2項に記載の燃料電池システムにおいて、
前記酸化促進手段は、前記ガスまたは前記触媒を加熱する加熱部を有することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項5】
請求の範囲第1項に記載の燃料電池システムにおいて、
複数の前記燃料電池セルを含み、
前記容器は、前記複数の燃料電池セルのそれぞれの前記燃料極に配して設けられたことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項6】
請求の範囲第1項に記載の燃料電池システムにおいて、
前記燃料極に供給された燃料を回収するための回収用通路をさらに含み、
前記排出通路は、前記回収用通路を通過する燃料に含まれるガスを大気中に排出するよう構成されたことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項7】
請求の範囲第1項に記載の燃料電池システムにおいて、
前記容器と前記排出通路との間に設けられた気液分離膜をさらに含み、
前記触媒は、前記気液分離膜を介して前記排出通路に排出された前記ガスを酸化するよう構成されたことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項8】
請求の範囲第1項に記載の燃料電池システムにおいて、
前記燃料電池セルが、前記燃料極に液体燃料を供給する直接型燃料電池であることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項9】
固体高分子電解質膜と、該固体高分子電解質膜に配された燃料極および酸化剤極とを含む燃料電池セルと、前記燃料極に配して設けられ、燃料を収容する容器と、を含む燃料電池に取り付け可能に構成されたガス処理装置であって、
前記容器に含まれるガスを取り込む取り込み口および当該ガスを大気中に排出する排気口が設けられたハウジングと、
前記ハウジング内に設けられ、当該ハウジングに取り込まれた前記ガスを酸化する触媒と、を含み
前記触媒は、前記ハウジングの取り込み口から取り込まれた前記ガスが酸化された後に前記排気口から排出されるよう構成されたことを特徴とするガス処理装置。
【請求項10】
請求の範囲第9項に記載のガス処理装置において、
前記触媒による前記ガスの酸化を促進する酸化促進手段をさらに含むことを特徴とするガス処理装置。
【請求項11】
請求の範囲第10項に記載のガス処理装置において、
前記酸化促進手段は、前記ガスに酸素を供給する酸素供給部を有することを特徴とするガス処理装置。
【請求項12】
請求の範囲第10項に記載のガス処理装置において、
前記酸化促進手段は、前記ガスまたは前記触媒を加熱する加熱部を有することを特徴とするガス処理装置。
【請求項13】
固体高分子電解質膜と、該固体高分子電解質膜に配された燃料極および酸化剤極とを含む燃料電池セルから排出されるガスを、触媒により酸化した後に大気中に放出することを特徴とする燃料電池の運転方法。
【請求項14】
請求の範囲第13項に記載の燃料電池の運転方法において、
前記燃料電池セルは、前記燃料極に液体燃料を供給することにより駆動する直接型であって、
前記燃料電池は、前記燃料極に配して設けられ、前記液体燃料を収容する容器をさらに含み、
前記ガスは、前記燃料容器から排出されることを特徴とする燃料電池の運転方法。
【請求項15】
請求の範囲第13項に記載の燃料電池の運転方法において、
前記触媒による酸化を促進させる工程をさらに含むことを特徴とする燃料電池の運転方法。
【請求項16】
請求の範囲第15項に記載の燃料電池の運転方法において、
前記酸化を促進させる工程が、前記ガスに酸素を供給する工程を含むことを特徴とする燃料電池の運転方法。
【請求項17】
請求の範囲第15項に記載の燃料電池の運転方法において、
前記酸化を促進させる工程が、前記ガスまたは前記触媒を加熱する工程を含むことを特徴とする燃料電池の運転方法。

【国際公開番号】WO2005/006479
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【発行日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511538(P2005−511538)
【国際出願番号】PCT/JP2004/009819
【国際出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】