説明

燃料電池システムおよびその制御方法

【課題】電極触媒の形態変化の計測を行いながらも、エネルギー消費の削減を図る。
【解決手段】燃料電池を備える燃料電池システムにおいて、燃料電池の電極触媒の形態変化の程度を反映する形態変化指標値を計測し、前記計測された形態変化指標値が一定値に収束したとき(ステップS230:YES)に、前記形態変化指標値の計測を停止し、前記計測の停止後、当該燃料電池システムに含まれる部品に変更があったことを示す信号の受信の有無を判定し、前記信号の受信があったと判定されたときに(ステップS260:YES)、前記形態変化指標値の計測を再開する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池を備える燃料電池システムと、燃料電池システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池においては、そのライフタイム中に、カソード触媒が形態変化し、電圧低下を招くことがある。そこで、カソード触媒の形態変化の程度を計測し、その計測結果を燃料電池の交換の指標とする構成が提案されている(特許文献1)。その計測は、例えばサイクリックボルタンメトリ(Cyclic Voltammetry:CV)特性に基づいて行なわれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−218097号公報
【0004】
しかしながら、前記従来の技術では、カソード触媒の形態変化の程度を計測するに際し、計測のための状態を強制的に作り出す必要がある。このために、余分なエネルギーを消費するという問題が発生した。このような問題は、カソード触媒に限らずアノード触媒にも共通した問題であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、電極触媒の形態変化の計測を行いながらも、エネルギー消費の削減を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するために以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1] 電解質層と前記電解質層上に形成された電極触媒とを有する燃料電池を備える燃料電池システムであって、
前記電極触媒の形態変化の程度を反映する形態変化指標値を計測する指標値計測部と、
前記計測された形態変化指標値の変化が所定の条件を満たしたときに、前記指標値計測部による計測を停止する計測停止部と、
前記計測の停止後、当該燃料電池システムに含まれる部品に変更があった場合に、前記指標値計測部による計測を再開する計測再開部と
を備える燃料電池システム。
【0008】
適用例1に記載の燃料電池システムによれば、形態変化指標値の変化が所定の条件を満たし形態変化指標値の計測を停止してから、燃料電池システムに含まれる部品に変更があるまでの期間、形態変化指標値の計測を停止することができる。このため、形態変化指標値の計測の期間を短縮することができ、計測に必要となるエネルギーの消費を削減することができる。
【0009】
[適用例2] 適用例1に記載の燃料電池システムであって、前記所定の条件は、前記計測された形態変化指標値が一定値に収束したことを示す条件、もしくは一定値に収束する時点が予測されたことを示す条件である、燃料電池システム。
【0010】
適用例1に記載の燃料電池システムによれば、計測された形態変化指標値が一定値に収束したとき、もしくは一定値に収束する時点が予測されたときに、形態変化指標値の計測の停止を行うことができる。形態変化指標値が一定値に収束したときはもとより、一定値に収束する時点が予測されたときは、形態変化指標値が一定値に収束することが既に判っていることから、形態変化指標値の計測の必要性がなく、計測を停止しても支障はない。したがって、早くから指標値計測部による計測を停止することができることから、計測に必要となるエネルギーの消費をより削減することができる。
【0011】
[適用例3] 適用例1または2に記載の燃料電池システムであって、前記計測再開部による前記計測の再開後、所定の期間、前記指標値計測部により計測された前記形態変化指標値が前記一定値に近い値であるか否かを判定する再開後判定部と、前記再開後判定部により、前記形態変化指標値が前記一定値に近い値であると判定されたときに、前記指標値計測部による計測を停止する計測再停止部とを備える燃料電池システム。
【0012】
適用例1に記載の燃料電池システムによれば、燃料電池システムに含まれる部品を変更することで、形態変化指標値が低下したときの対応が図られ、計測再開部による計測が再開されることになるが、変更する部品の種類によっては、形態変化指標値に変化がないこともあり得る。これに対して適用例3に記載の燃料電池システムによれば、再開後判定部により、前記形態変化指標値が前記一定値に近い値であるか否かを判定することで、形態変化指標値が部品変更前の値と変わらない場合を判断することができる。形態変化指標値が部品変更前の値と変わらない場合、計測は停止され、無駄な計測によるエネルギーロスがなくなる。
【0013】
[適用例4] 適用例3に記載の燃料電池システムであって、前記再開後判定部により、前記形態変化指標値が前記一定値に近い値でないと判定されたときに、前記指標値計測部による計測を継続し、前記計測停止部による前記所定の条件を満たすかの判定を行う計測継続部を備える燃料電池システム。
【0014】
適用例4に記載の燃料電池システムによれば、前記形態変化指標値が前記一定値に近い値でないと判定されたときに、前記指標値計測部による計測を継続し、前記計測停止部による前記所定の条件を満たすかの判定を行う。このため、燃料電池システムに含まれる部品の変更後も、形態変化指標値の計測が継続され、さらに、形態変化指標値の変化が所定の条件を満たしたときには計測停止部により計測が停止されることから、計測に必要となるエネルギーの消費を、よりいっそう削減することができる。
【0015】
[適用例5] 適用例1ないし4に記載の燃料電池システムであって、前記指標値計測部は、前記燃料電池に供給する反応ガスの供給量を一定にした状態で、前記燃料電池の出力電圧を変化させることに伴って検出される前記燃料電池の出力電流のサイクリックボルタンメトリ特性に基づいて前記形態変化指標値を計測する構成である、燃料電池システム。
【0016】
適用例5に記載の燃料電池によれば、電極触媒の形態変化の程度を高精度に計測することができる。
【0017】
[適用例6] 電解質層と前記電解質層上に形成された電極触媒とを有する燃料電池を備える燃料電池システムの制御方法であって、
前記電極触媒の形態変化の程度を反映する形態変化指標値を計測し、
前記計測された形態変化指標値の変化が所定の条件を満たしたときに、前記形態変化指標値の計測を停止し、
前記計測の停止後、当該燃料電池システムに含まれる部品に変更があった場合に、前記形態変化指標値の計測を再開する、燃料電池システムの制御方法。
【0018】
適用例6に記載の燃料電池システムの制御方法によれば、適用例1に記載の燃料電池システムと同様に、形態変化指標値の計測に必要となるエネルギーの消費を削減することができる。
【0019】
さらに、本発明は、上記適用例1ないし6以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、本発明の燃料電池システムを搭載する車両などの形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施例としての燃料電池システム1の構成を示す説明図である。
【図2】サイクリックボルタンメトリによる酸化電流と電圧との関係及び還元電流と電圧との関係を示す電流−電位曲線図(ボルタモグラム)である。
【図3】指標値計測ルーチンを示すフローチャートである。
【図4】形態変化監視ルーチンを示すフローチャートである。
【図5】電荷量Qが時間の経過によってどのように変化するかを示すグラフである。
【図6】第2実施例における計測の停止時点を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら、実施例に基づき説明する。
【0022】
A.第1実施例:
図1は、本発明の第1実施例としての燃料電池システム1の構成を示す説明図である。この実施例は、本発明を燃料電池車両の車載発電システムに適用した例である。図1に示すように、反応ガス(酸化ガスおよび燃料ガス)の供給を受けて発電を行い、発電に伴う電力を発生する燃料電池2、酸化ガスとしての空気を燃料電池2に供給する酸化ガス配管系3、燃料ガスとしての水素ガスを燃料電池2に供給する燃料ガス配管系4、システムの電力を充放電する電力系5、システム全体を統括制御する制御装置6などを備えている。
【0023】
燃料電池2は、例えば、固体高分子電解質型で構成され、多数の単電池(セル)を積層したスタック構造を備えている。燃料電池2の単電池は、イオン交換膜からなる電解質の一方の面にカソード極(空気極)を有し、他方の面にアノード極(燃料極)を有し、カソード極とアノード極を含む電極には、例えば、多孔質のカーボン素材をベースに、白金Ptが触媒(電極触媒)に用いられている。さらにカソード極およびアノード極を両側から挟み込むように一対のセパレータを有している。そして、一方のセパレータの燃料ガス流路に燃料ガスが供給され、他方のセパレータの酸化ガス流路に酸化ガスが供給され、このガス供給により燃料電池2は電力を発生する。なお、燃料電池2としては、固体分子電解質型の他、燐酸型や溶融炭酸塩型など種々のタイプのものを採用することができる。
【0024】
燃料電池2には、発電中の電流(出力電流)を検出する電流センサ(電流検出手段)2aおよび電圧(出力電圧)を検出する電圧センサ(電圧検出手段)2bと、燃料電池2の温度を検出する温度センサ(温度検出手段)2cが取り付けられている。
【0025】
酸化ガス配管系3は、エアコンプレッサ31、酸化ガス供給路32、加湿モジュール33、カソードオフガス流路34、希釈器35、エアコンプレッサ31を駆動するモータM1などを有している。
【0026】
エアコンプレッサ31は、制御装置6の制御指令で作動するモータM1の駆動力により駆動されて、図示していないエアフィルタを介して外気から取り込んだ酸素(酸化ガス)を燃料電池2のカソード極に供給する。モータM1には、モータM1の回転数を検知する回転数検知センサ3aが取り付けられている。酸化ガス供給路32は、エアコンプレッサ31から供給される酸素を燃料電池2のカソード極に導くためのガス流路である。燃料電池2のカソード極からはカソードオフガスがカソードオフガス流路34を介して排出される。カソードオフガスには、燃料電池2の電池反応に供したあとの酸素オフガスの他、カソード極側で生成されるポンピング水素などが含まれる。このカソードオフガスは、燃料電池2の電池反応により生成された水分を含むため高湿潤状態となっている。
【0027】
加湿モジュール33は、酸化ガス供給路32を流れる低湿潤状態の酸化ガスと、カソードオフガス流路34を流れる高湿潤状態のカソードオフガスとの間で水分交換を行い、燃料電池2に供給される酸化ガスを適度に加湿する。カソードオフガス流路34は、カソードオフガスをシステム外に排気するためのガス流路であり、そのガス流路のカソード極出口付近にはエア調圧弁A1が配設されている。燃料電池2に供給される酸化ガスの背圧はエア調圧弁A1によって調圧される。希釈器35は、水素ガスの排出濃度を予め設定された濃度範囲(環境基準に基づいて定められた範囲など)に収まるように希釈する。希釈器35には、カソードオフガス流路34の下流および後述するアノードオフガス流路44の下流が連通しており、水素オフガスおよび酸素オフガスは希釈器35で混合希釈されてシステム外に排気される。
【0028】
燃料ガス配管系4は、燃料ガス供給源41、燃料ガス供給路42、燃料ガス循環路43、アノードオフガス流路44、水素循環ポンプ45、逆止弁46、水素循環ポンプ45を駆動するためのモータM2などを有している。
【0029】
燃料ガス供給源41は、燃料電池2へ水素ガスなどの燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段であり、例えば、高圧水素タンクや水素貯蔵タンクなどによって構成される。燃料ガス供給路42は、燃料ガス供給源41から放出される燃料ガスを燃料電池2のアノード極に導くためのガス流路であり、そのガス流路には上流から下流にかけてタンクバルブH1、水素供給バルブH2、FC入口バルブH3などの弁が配設されている。タンクバルブH1、水素供給バルブH2およびFC入口バルブH3は、燃料電池2へ燃料ガスを供給(または遮断)するためのシャットバルブであり、例えば、電磁弁によって構成されている。
【0030】
燃料ガス循環路43は、未反応燃料ガスを燃料電池2へ還流させるための帰還ガス流路であり、そのガス流路には上流から下流にかけてFC出口バルブH4、水素循環ポンプ45、逆止弁46がそれぞれ配設されている。燃料電池2から排出された低圧の未反応燃料ガスは、制御装置6の制御指令で作動するモータM2の駆動力により駆動される水素循環ポンプ45によって適度に加圧され、燃料ガス供給路42へ導かれる。燃料ガス供給路42から燃料ガス循環路43への燃料ガスの逆流は、逆止弁46によって抑制される。アノードオフガス流路44は、燃料電池2から排出された水素オフガスを含むアノードオフガスをシステム外に排気するためのガス流路であり、そのガス流路にはパージバルブH5が配設されている。
【0031】
電力系5は、高圧DC/DCコンバータ51、バッテリ52、トラクションインバータ53、補機インバータ54、トラクションモータM3、補機モータM4などを備えている。
【0032】
高圧DC/DCコンバータ(電圧変換手段)51は、直流の電圧変換器であり、バッテリ52から入力された直流電圧を調整してトラクションインバータ53側に出力する機能と、燃料電池2またはトラクションモータM3から入力された直流電圧を調整してバッテリ52に出力する機能と、を有する電圧変換手段として構成されている。高圧DC/DCコンバータ51のこれらの機能により、バッテリ52の充放電が実現される。また、高圧DC/DCコンバータ51により、燃料電池2の出力電圧が制御される。
【0033】
バッテリ52は、充放電可能な二次電池であり、種々のタイプの二次電池、例えばニッケル水素バッテリなどにより構成されている。バッテリ52は、図示していないバッテリコンピュータの制御によって余剰電力を充電したり、補助的に電力を供給したりすることが可能になっている。燃料電池2で発電された直流電力の一部は、高圧DC/DCコンバータ51によって昇降圧され、バッテリ52に充電される。バッテリ52には、バッテリ52の充電状態(SOC:State Of Charge)を検出するSOCセンサ5aが取り付けられている。なお、バッテリ52に代えて、二次電池以外の充放電可能な蓄電器、例えばキャパシタを採用することもできる。
【0034】
トラクションインバータ53および補機インバータ54は、パルス幅変調方式のPWMインバータであり、与えられる制御指令に応じて燃料電池2またはバッテリ52から出力される直流電力を三相交流電力に変換してトラクションモータM3および補機モータM4へ供給する。トラクションモータM3は、車輪7L、7Rを駆動するためのモータ(車両駆動用モータ)であり、負荷動力源の一実施形態である。トラクションモータM3には、その回転数を検知する回転数検知センサ5bが取り付けられている。補機モータM4は、各種補機類を駆動するためのモータであり、エアコンプレッサ31を駆動するM1や水素循環ポンプ45を駆動するモータM2などを総称したものである。
【0035】
制御装置6は、CPU、ROM、RAMなどにより構成されており、入力される各センサ信号に基づき、当該システムの各部を統合的に制御する。具体的には、制御装置6は、アクセルペダル回動を検出するアクセルペダルセンサ9、SOCセンサ5a、回転数検知センサ3a、5bなどから送出される各センサ信号に基づいて、燃料電池2の出力要求電力を算出する。この際、制御装置6は、トラクションモータM3の運転モード(P:パーキングモード、R:リバースモード、N:ニュートラルモード、D:ドライブモード、B:回生ブレーキモード)を選択するためのシフトレバー等からなる操作部8から送出される信号に基づいて、トラクションモータM3からの出力要求の有無を判定する。
【0036】
そして、制御装置6は、この出力要求電力に対応する出力電力を発生させるように、燃料電池2の出力電圧および出力電流を制御する。また制御装置6は、トラクションインバータ53および補機インバータ54の出力パルスなどを制御して、トラクションモータM3および補機モータM4を制御する。
【0037】
ここで、燃料電池2の触媒層に酸素が吸着されると、燃料電池2の出力電圧が低下する。このため、制御装置6は、燃料電池2への酸素の供給を一旦停止し、且つ燃料電池2の発電電圧を触媒層の還元領域まで下げて、触媒層を活性化する還元処理あるいはリフレッシュ処理を行うこととしている。
【0038】
さらに、燃料電池2の各電極触媒の形態が変化し、触媒の活性が経時的に低下すると、燃料電池2から所定の電力が得られなくなるため、制御装置6は、リフレッシュ処理を行う過程で、燃料電池2の電極触媒の形態変化の程度を計測することとしている。この計測が本発明に関わるものであり、制御装置6は指標値計測部6aとしての機能を実現する。なお、この指標値計測部6aで計測した指標値に関わる制御を行う計測停止部6b、受信判定部6c、および計測再開部6dとしての機能を、制御装置6はさらに実現する。各部6a〜6dの詳細については後述する。
【0039】
燃料電池2の電極触媒が活性化されている状態にあるときに、燃料電池2の出力電圧を高圧DC/DCコンバータ(電流変換手段)51により低電圧→高電圧→低電圧と一巡させるサイクリックボルタンメトリ(CV)の測定を行うと、図2に示すようなボルタモグラムが得られる。このボルタモグラムには、スイープする電圧に応じて生じる反応の差によって幾つかの特徴的な部分が現れる。この特徴的な部分を利用することで、電極触媒の形態変化の程度を反映する形態変化指標値を計測する。
【0040】
すなわち、低電圧から電圧を上げていくと燃料電池2に酸化電流が流れ、図2のボルタモグラムでは、特性I1や特性I2のような変化を示すようになる。酸化電流が流れる場合とは、燃料電池2の電極触媒が酸化領域にあることをいう。例えば、所定の電圧範囲(電圧スイープの範囲)では、図2の特性I1(酸化電流I1)で示すように、電極触媒にPtを用いたときには、H+の脱離の反応として、Pt・H→H++eが生じ、更に電圧スイープの範囲を高くすると、特性I2(酸化電流I2)で示すように、水の電気分解による反応として、Pt+H2O→Pt・OH+2H+2eが生じる。
【0041】
この状態から電圧を下げていくと、燃料電池2に還元電流が流れ、図2のボルタモグラムでは、特性I3や特性I4のような変化を示すようになる。還元電流が流れる場合とは、燃料電池2の電極触媒が還元領域にあることをいう。例えば、燃料電池2の出力電流が還元電流を示す条件下で、電圧を所定の範囲に亘って変化させると、特性I3(還元電流I3)で示すように、水の脱離の反応として、Pt・OH+2H++2e→Pt+H2Oが生じ、さらに電圧を下げると、特性I4(還元電流I4)で示すように、水素イオンがPtに吸着される反応として、Pt+H++e→Pt・Hが生じる。
【0042】
サイクリックボルタンメトリ(CV)の測定を行い、ボルタモグラムを得て、例えば、酸化電流I1を積分すると、単位面積当たりの時間と電流値とから水素の脱離に伴う電荷量Q[C]を求めることができる。一方、還元電流I3を積分すると、単位面積当たりの時間と電流値とから水の脱離に伴う電荷量Q[C]を求めることができる。これらの電荷量Qは、電極触媒の有効面積に対応し、電極触媒の有効面積は、電極触媒の形態変化の程度が大きくなるに従って小さくなるので、前記電荷量Qを形態変化指標値とすることができる。
【0043】
すなわち、電極触媒が活性化されている条件下で燃料電池2の印加電圧を一定範囲で繰り返し走査しながら電流を計測するサイクリックボルタンメトリ(CV)の測定を行うことで、電極触媒の有効面積を高精度に検出することができ、結果として、電極触媒の形態変化の程度を反映する形態変化指標値を高精度に測定することができる。
【0044】
この場合、制御装置6は、燃料電池2の電極触媒に対する活性化処理が施されていることを条件に、電圧センサ2bの検出電圧を監視しながら、燃料電池2の出力電圧の変化に伴って電流センサ2aにより検出された電流を基に電極触媒の有効面積を算出し、この有効面積を形態変化指標値として計測する指標値計測部として機能することになる。
【0045】
電極触媒の形態変化指標値の計測は、燃料電池2を間欠運転しているときに行う。燃料電池の間欠運転とは、燃料電池搭載車の走行が安定しており、バッテリからの電力供給のみで走行が可能であるような場合に、システムの要請から燃料電池からの電力供給を一時的に抑制するような運転モードをいう。間欠運転中は、燃料電池2への酸化ガスや燃料ガスの供給を停止したり変化させたりできる。電極触媒を活性化させるリフレッシュ処理は、この間欠運転時を利用するもので、一時的に酸化ガスの供給を停止し、燃料電池2を還元領域で運転させて電極触媒を活性化させる処理である。
【0046】
ここで、リフレッシュ処理のため酸化ガスの供給を停止させると、燃料電池の出力電圧が低下していく。燃料電池2は、図2のボルタモグラムの特性I3や特性I4の領域を通過させて運転することになる。この時の出力電流を検出すれば、ボルタンメトリ特性を測定していることになる。よって、特性I3や特性I4に相当する特性上の特徴部分を監視することで、電極触媒、より正確には、前述したように酸化ガスの供給を停止することでカソード極の触媒(以下、「カソード触媒」と呼ぶ)の形態変化指標値を計測することができるのである。
【0047】
図3は、カソード触媒の形態変化指標値の計測を行う指標値計測ルーチンを示すフローチャートである。この指標値計測ルーチンは、システムの要請から間欠運転が必要であると判断されたときに実行開始される。処理が開始されると、制御装置6は、まず、指標値計測禁止フラグFが値1であるか否かを判定する(ステップS110)。指標値計測禁止フラグFは、指標値計測を禁止する旨を記憶するフラグである。ステップS110で、指標値計測禁止フラグFが値1であると判定されたときには、「リターン」に抜けて、この指標値計測ルーチンを終了する。一方、ステップS110で、指標値計測禁止フラグFが値1でない、すなわち値0であると判定されたときには、ステップS120以降の処理を実行する。
【0048】
ステップS120では、出力要求がないときと同様に、リフレッシュ処理(還元処理)を伴うリフレッシュ運転として、間欠運転を開始する。例えば、制御装置6は、エアコンプレッサ31のモータM1に対する駆動を停止し、エアコンプレッサ31から加湿モジュール33を介して燃料電池2に供給される酸化ガス(空気)の供給を停止し、且つ電圧センサ2bの出力電圧を監視しながら、高圧DC/DCコンバータ51の変換出力を制御し、燃料電池2の出力電圧(総電圧)を、燃料電池2のカソード触媒を活性化するための電圧まで低下させる。
【0049】
高圧DC/DCコンバータ51の二次側は燃料電池2の出力端子と並列接続されているので、高圧DC/DCコンバータ51に対して、その二次側の電圧を低下させるための電力変換処理を行うと、燃料電池2は、その発電電圧がコンバータ51の二次側電圧よりも高い場合でも、コンバータ51の二次側電圧に強制的に規制され、I−V特性にしたがって電流値が上昇する。すなわち、コンバータ51の二次側電圧よって燃料電池2の発電電圧の上限値が規定されるので、高圧DC/DCコンバータ51の変換出力を制御することで、燃料電池2の出力電圧(総電圧)を、燃料電池2のカソード触媒を活性化するための電圧まで低下させることができる。
【0050】
次に、制御装置6は、燃料電池2のカソード触媒に対する活性化処理が施されているときに、dV/dt=一定の条件で、燃料電池2の出力電圧(総電圧)を一定の範囲に亘って走査する(電圧スイープ)ための制御を高圧DC/DCコンバータ51に対して実行する(ステップS130)。例えば、制御装置6は、サイクリックボルタンメトリ(CV)の測定として、図2の特性I3(還元電流I3)が得られるように、高圧DC/DCコンバータ51に対する変換出力を順次制御する。燃料電池2の出力電圧(総電圧)が一定の範囲に亘って変化すると、燃料電池2の出力電圧の変化に伴って出力電流が変化する。このとき電流センサ2aによって検出される電流は、還元電流I3である。
【0051】
続いて、制御装置6は、この還元電流I3を積分し、その単位面積当たりの時間と電流値とから、水の脱離に伴う電荷量Qを算出する(ステップS140)。この算出された電荷量Qは、カソード触媒の形態変化の程度を反映する形態変化指標値として役割をし、RAMに記憶される。ステップS140の実行後、「リターン」に抜けて、この指標値計測ルーチンを一旦終了する。この指標値計測ルーチンを制御装置6が実行することにより実現される機能が、指標値計測部6a(図1)に相当する。
【0052】
前記指標値計測ルーチンで計測された形態変化指標値を用いて電極触媒の形態変化を監視する形態変化監視ルーチンについて、次に説明する。図4は形態変化監視ルーチンのフローチャートである。この形態変化監視ルーチンは、制御装置6により実行されるもので、車両のイグニッションスイッチを最初に動作させた以後、イグニッションスイッチを切っても、所定時間ごとの割込にて継続して実行される。処理が開始されると、制御装置6は、まず、初期設定として、指標値計測禁止フラグFを値0にセットする(ステップ210)。
【0053】
次いで、制御装置6は、指標値計測ルーチンのステップS140でRAMに記憶した電荷量Qを取り出し(ステップS220)、電荷量Qが一定値に収束したか否かを判定する(ステップS230)。ここで、電荷量Qが一定値に収束していないと判定されたときには、ステップS220に処理を戻し、ステップS220およびS230を繰り返し実行する。ステップS230では、ステップS220により取り出した、最新から遡る過去複数回分の電荷量Qの変化が所定値以内である場合に、電荷量Qが一定値に収束したと判定する。
【0054】
図5は、電荷量Qが時間の経過によってどのように変化するかを示すグラフである。図5(a)がライフタイム全体のグラフであり、図5(b)が図5(a)の一部分を拡大したグラフである。横軸は車両のイグニッションスイッチを最初に動作させたときからの時間(経過時間)を示し、縦軸は電荷量Q[C]を示す。図5(a)に示すように、電荷量Qは時間の経過と共に徐々に低下し、次第に低下率が小さくなって、一定値Q0に収束する。ステップS230では、この一定値Q0に収束するタイミングであるか否かを判定する。
【0055】
図3に戻り、制御装置6は、ステップS230で、電荷量Qが一定値に収束したと判定されたときに、ステップS240に処理を進める。ステップS240では、制御装置6は、指標値計測禁止フラグFを値1にセットする。すなわち、ステップS230で、電荷量Qが一定値に収束したと判定されたときに、指標値計測ルーチンによる計測を停止すべく指標値計測禁止フラグFに値1がセットされることになる。図5(a)においては、時刻t1が、この計測停止の時点である。
【0056】
電荷量Qが一定値に収束したときは、カソード触媒の形態変化の程度が大きいと判断できることから、続くステップS250では、カソード触媒の形態変化の程度が大きい旨のメッセージ、あるいは部品交換を促す旨のメッセージ等をメータやインパネあるいはマルチインフォメーションデバイス(MID)内の表示器55に表示する処理を行う。この結果、燃料電池2あるいはその周辺部品等の交換時期にあることを、ユーザや作業員に知らせることができる。
【0057】
知らせを受けた作業員は、カソード触媒の形態変化の程度が大きくなったことへの対策として、燃料電池システムに含まれる部品を変更する作業を行う。ここで言う「変更」とは、交換、修理を含む。詳しくは、作業員は、燃料電池2を交換したり、あるいは、制御装置6で実行される制御プログラムを変更したり等、適切の作業を行う。制御プログラム等のソフトウェアの変更も、ここでは、部品の変更の一種であるとする。作業終了後、作業員は、変更が完了したことを示す信号(以下、「変更済信号」と呼ぶ)を、専用機器(図示せず)を用いて制御装置6に送信する。すなわち、燃料電池システム1には、制御装置6に接続される外部端子11が設けられており、作業者は、外部端子11に専用機器を接続して専用機器を操作することで、変更済み信号を制御装置6に送信する。
【0058】
前記制御プログラムの変更とは、次の通りのものである。通常、燃料電池システム1では、電極触媒の形態変化の進行を抑えるべく、高電位回避制御を行なっている。上記メッセージを受けたときは、電極触媒の形態変化の程度は既に大きくなっていることから、この高電位回避制御は不要となる。前記制御プログラムの変更は、この高電位回避制御を行わないロジックのプログラムに変更するものである。この制御プログラムの変更がなされると、電極触媒の形態変化の程度を反映する電荷量Qは、まだ十分に低下した状態ではなくなる。換言すれば、電極触媒の形態変化の程度が大きすぎる状態ではなくなる。
【0059】
なお、変更済み信号の制御装置6への送信は、本実施例では、専用機器を用いた上述した構成としたが、これに換えて、燃料電池システム1に変更済信号送信用のボタンを予め設けて、このボタンを作業者が操作することにより、変更済信号を制御装置6へ送信する構成としてもよい。要は、作業者により操作されて変更済信号を制御装置6に送信する構成であれば、いずれの構成とすることもできる。さらに、作業者は、変更済信号を送信することを必ずしも意図している必要はなく、例えば、前述した燃料電池システムに含まれる部品を変更する作業の完了を受けて、燃料電池システム1が自動的に変更済信号を制御装置6に送信する構成としてもよい。
【0060】
ステップS250に続くステップS260では、制御装置6は、前記作業者からの変更済信号の受信の有無を判定する。ステップS260で、変更済信号の受信がないと判定されたときには、ステップS260を繰り返し実行することにより、変更済信号が作業者から送られてくるのを待つ。
【0061】
一方、ステップS260で、変更済信号の受信が有りと判定されたときには、指標値計測禁止フラグFを値0にセットする(ステップS270)。すなわち、変更済信号の受信が有りと判定されたときに、指標値計測ルーチンによる計測を再開すべく指標値計測禁止フラグFに値0がセットされることになる。図5(a)においては、時刻t2が、この計測再開の時点である。この結果、時刻t1から時刻t2までの期間、形態変化指標値としての電荷量Qの計測が停止される。
【0062】
ステップS270の実行後、制御装置6は、内蔵するタイマーを起動する(ステップS280)。次いで、制御装置6は、指標値計測ルーチンのステップS140でRAMに記憶した電荷量Qを取り出し(ステップS290)、電荷量Qの前述した一定値Q0に対する差の絶対値|Q0−Q|が所定値Qa以下であるか否かの判定を行う(ステップS292)。所定値Qaは微小な値であり、ステップS292は、電荷量Qが前記一定値Q0からほとんど変化がないか否か、すなわち、電荷量Qが前記一定値Q0に近い値であるか否かの判定を行うものである。
【0063】
ステップS292で絶対値|Q0−Q|が、所定値Qa以下であると判定されたときには、制御装置6は、ステップS280で起動したタイマー時間が所定時間T0以上となったか否かを判定する(ステップS294)。ここで、タイマー時間が所定時間T0未満であると判定されたときには、ステップS290に処理を戻す。一方、ステップS294で、タイマー時間が所定時間T0以上となると、ステップS240に処理を戻す。すなわち、ステップS290ないしS294の処理によれば、電荷量Qの一定値Q0に対する差の絶対値|Q0−Q|が所定値Qa以下の状態が所定時間T0の間、継続したときに、処理をステップS240に戻す。処理がステップS240に戻されると、制御装置6は、指標値計測を停止し、再度、作業者にメッセージを表示し、前記変更済信号の受信を待つことになる。
【0064】
なお、ステップS292で、絶対値|Q0−Q|が所定値Qaを上回ると判定されたとき、すなわち、指標値計測を再開してから所定時間T0を経過するまでの間に、絶対値|Q0−Q|が所定値Qaを上回ると判定されたときには、処理をステップS220に戻し、ステップS270で再開された指標値計測を継続する。
【0065】
図5(b)は、計測を再開した時刻T2以後のものである。図中の実線に示すように、電荷量Qは、大きい低下率でもって低下し、時刻t3において、先に計測停止したときに収束した前記一定値Q0に対して所定値Qa以上の差となる。このとき、指標値計測を継続することが決定される。一方、図中の1点鎖線に示すように、電荷量Qが前記一定値Q0からほとんど変化がない状態が所定時間T0の間、継続したとき、この所定時間T0後の時刻t4において、指標値計測が再停止されることになる。
【0066】
以上のように構成された形態変化監視ルーチンにおいて、テップS220ないしS240の処理が計測停止部6b(図1)に対応し、ステップS260の処理が受信判定部6c(図1)に対応し、ステップS270の処理が計測再開部6d(図1)に対応する。
【0067】
以上のように構成された実施例の燃料電池システム1によれば、前述したように、電荷量Qが低下し一定値Q0となるときから、変更済信号の受信があるまでの期間(時刻t1〜t2)、電荷量Qの計測が停止される。前記期間は、電荷量Qが一定値に既に収束していることから、電荷量Qの計測の必要性がなく、計測を停止しても支障はない。このため、燃料電池システム1によれば、形態変化指標値としての電荷量Qの計測の期間を短縮することができ、計測に必要となるエネルギーの消費を削減することができる。
【0068】
通常、カソード触媒の形態変化の程度が大きくなったとき、作業者により、燃料電池システムに含まれる部品を変更することが行なわれるが、変更部品が触媒の形態変化とは無関係である場合には、電荷量Qに変化はない。燃料電池素ステム1によれば、部品変更を行った後、電荷量Qが部品変更前の値(=一定値Q0)からほとんど変化がない状態が所定時間T0の間、継続したとき(時刻t4)には、電荷量Qの計測が再停止される。したがって、無駄な計測によるエネルギーロスがなくなる。
【0069】
一方、部品変更後、所定時間T0の間に、電荷量Qが部品変更前の値からある程度変化した場合には、電荷量Qの計測が継続され、再度、電荷量Qが一定値(前述したQ0よりも一段低い値)に収束するのを待つ。電荷量Qがその一定値に収束してから変更済信号の受信があるまでの期間は、前記時刻t1〜t2と同様に、電荷量Qの計測が停止される。したがって、形態変化指標値としての電荷量Qの計測の期間を短縮することができ、計測に必要となるエネルギーの消費を、よりいっそう削減することができる。
【0070】
なお、形態変化指標値としての電荷量Qの計測は、電圧を下げる操作が必要であることから、過酸化水素が発生しやすい環境になり、電解質膜などにダメージを与える可能性がある。これに対して、この実施例の燃料電池システム1によれば、電荷量Qの計測の期間を短縮することができることから、機能損失を招くことを防止することができるという効果も奏する。
【0071】
B.第2実施例:
本発明の第2実施例について説明する。第2実施例の燃料電池システムは、第1実施例の燃料電池システム1と比較して、制御装置6で実行される形態変化監視ルーチンの内容が相違するだけであり、その他の構成は同一である。第1実施例の形態変化監視ルーチン(図4)では、ステップS230で、電荷量Qが一定値に収束したか否かを判定していたが、これに換えて、この第2実施例では、電荷量Qが一定値に収束する時点を収束する前から予測し、予測可能となったか否かを判定する構成とした。上記予測は、例えば、電荷量Qの低下速度の変化から、その低下速度が値0となる時点を予測するものとする。
【0072】
図6は、第2実施例における計測の停止時点を示すグラフである。電荷量Qの低下速度は、電荷量Qの変化を示す曲線に接する接線Kの傾きに相当する。この傾きの変化から傾きが0となる時点を予測する。図示においては、時刻t1xにおいて、傾きが0となる時点(すなわち電荷量Qが一定値となる時点)が予測されたとし、この予測された時点で計測が停止される。なお、第2実施例では、第1実施例と比較して上述したようにステップS230の構成が相違するだけであることから、電荷量Qが一定値となる時点が予測された時点(以下、「予測時点」と呼ぶ)でもって、計測の停止と共に、メッセージの表示(ステップS250)も行なわれる。
【0073】
以上のように構成された第2実施例の燃料電池システムは、第1実施例の燃料電池システム1と同様に形態変化指標値としての電荷量Qの計測の期間を短縮することができ、計測に必要となるエネルギーの消費を削減することができる。
【0074】
なお、前記第2実施例の燃料電池システムでは、予測時点でもって前記メッセージの表示を行っていたが、これに換えて、予測された電荷量Qが一定値となる時点まで待って、前記メッセージの表示を行う構成とすることもできる。第2実施例では、電荷量Qが一定値となる時点より前から、電荷量Qが一定値となることを報知することになるが、この変形例では、計測は前記予測時点で停止し、作業者への報知は、予測された電荷量Qが一定値となる時点になされることになる。
【0075】
また、第2実施例において、電荷量Qが一定値となる時点を予測する手法は、前述した電荷量Qの低下速度の変化から求めるものに限る必要はなく、どのような手法によるものとしてもよい。
【0076】
C:変形例:
なお、この発明は前記の第1および第2実施例やその変形例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0077】
・変形例1:
前記第1および第2実施例では、電極触媒の形態変化の程度を反映する形態変化指標値として触媒吸着物の電荷を採用していたが、これに換えて、低負荷域のセル電圧を形態変化指標値として採用する構成としてもよい。燃料電池にかかる負荷が小さい場合に、燃料電池のセル電圧は、カソード触媒の有効面積に対応する。このため、低負荷域のセル電圧を形態変化指標値とすることができる。したがって、変形例でも第1実施例と同一の効果を奏することができる。
【0078】
・変形例2:
前記第1および第2実施例では、前記実施形態においては、サイクリックボルタンメトリ(CV)の測定を行うに際して、燃料電池2の出力電圧(総電圧)を低下させ、総電圧を一定の範囲に亘って可変に制御し、総電圧の変化に伴う電流を検出する方法について述べたが、電圧センサ2bの代わりに、燃料電池2を構成するセル群に対応して、各セルの電圧をそれぞれ検出する電圧セルモニタを設け、各セルの電圧を監視しながら、各セルの電圧の変化に伴う燃料電池の出力電流を上記電流センサ2a等で検出する構成を採用することもできる。
【0079】
また、酸化ガスの供給を一旦停止して出力電圧を制御すると、セル間のバラツキが生じ電圧を十分に低下させることができないセルが出てくる。そこで、例えば、ガス分配管から最遠部であるセル等、電圧が低下し易いセルを予め特定し、そのセルにて計測を行う構成とすることもできる。
【0080】
・変形例3:
前記第1および第2実施例では、カソード触媒の形態変化の計測を行っていたが、これに換えて、アノード触媒の形態変化の計測を行うようにしてもよいし、カソード触媒、アノード触媒の双方の形態変化の計測を行う構成としてもよい。
【0081】
・変形例4:
前記第1実施例では、指標値計測ルーチンで計測された形態変化指標値としての電荷量Qが一定値に収束したときに、電荷量Qの計測を停止し、前記第2実施例では、前記電荷量Qが一定値に収束する時点が予測されたときに、電荷量Qの計測を停止する構成としたが、これらに換えて、電荷量Qの計測の停止を、他の条件を満たしたときとすることもできる。例えば、指標値計測ルーチンで計測された形態変化指標値としての電荷量Qが一定値に収束する時点が予測されたときから所定時間経過後に、電荷量Qの計測を停止する構成としてもよい。要は、前記電荷量Qが一定値に収束するときと関わりのある時点を定める所定の条件であればどのような条件とすることもできる。さらに、計測を停止する要求となり得るものであれば、どのような条件とすることもできる。
【0082】
・変形例5:
前記第1実施例では、指標値計測ルーチンで計測された形態変化指標値としての電荷量Qの計測を停止した直後に、作業員にメッセージを表示して部品の変更を行う構成としていたが、これに換えて、電荷Qの計測を停止後であれば、いずれのタイミングで部品の変更を行うものであってもよい。例えば、電荷量Qの計測を停止した後において定期点検の際に部品の変更を行う構成としてもよく、この部品の変更を受けて、指標値計測ルーチンによる計測を再開する。
この構成によっても、第1実施例と同様に、形態変化指標値としての電荷量Qの計測の期間を短縮することができ、計測に必要となるエネルギーの消費を削減することができる。
【0083】
・変形例6:
また、前記各実施例および変形例とは異なる種類の燃料電池に本発明を適用することとしてもよい。例えば、ダイレクトメタノール型燃料電池に適用することができる。あるいは、固体高分子以外の電解質層を有する燃料電池であってもよく、本発明を適用することで同様の効果が得られる。
【0084】
なお、前述した実施例および各変形例における構成要素の中の、独立請求項で記載された要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略可能である。また、本発明はこれらの実施例および各変形例になんら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々の態様での実施が可能である。
【符号の説明】
【0085】
1…燃料電池システム
2…燃料電池
2a…電流センサ
2b…電圧センサ
3…酸化ガス配管系
3a…回転数検知センサ
4…燃料ガス配管系
5…電力系
5a…SOCセンサ
5b…回転数検知センサ
6…制御装置
7L…車輪
8…操作部
9…アクセルペダルセンサ
11…外部端子
31…エアコンプレッサ
32…酸化ガス供給路
33…加湿モジュール
34…カソードオフガス流路
35…希釈器
41…燃料ガス供給源
42…燃料ガス供給路
43…燃料ガス循環路
44…アノードオフガス流路
45…水素循環ポンプ
46…逆止弁
51…高圧DC/DCコンバータ
52…バッテリ
53…トラクションインバータ
54…補機インバータ
55…表示器
F…指標値計測禁止フラグ
A1…エア調圧弁
H1…タンクバルブ
H2…水素供給バルブ
H3…FC入口バルブ
H4…FC出口バルブ
H5…パージバルブ
M1…モータ
M2…モータ
M3…トラクションモータ
M4…補機モータ
I1…酸化電流
I2…酸化電流
I3…還元電流
I4…還元電流
Q…電荷量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質層と前記電解質層上に形成された電極触媒とを有する燃料電池を備える燃料電池システムであって、
前記電極触媒の形態変化の程度を反映する形態変化指標値を計測する指標値計測部と、
前記計測された形態変化指標値の変化が所定の条件を満たしたときに、前記指標値計測部による計測を停止する計測停止部と、
前記計測の停止後、当該燃料電池システムに含まれる部品に変更があった場合に、前記指標値計測部による計測を再開する計測再開部と
を備える燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムであって、
前記所定の条件は、
前記計測された形態変化指標値が一定値に収束したことを示す条件、もしくは一定値に収束する時点が予測されたことを示す条件である、燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の燃料電池システムであって、
前記計測再開部による前記計測の再開後、所定の期間、前記指標値計測部により計測された前記形態変化指標値が前記一定値に近い値であるか否かを判定する再開後判定部と、
前記再開後判定部により、前記形態変化指標値が前記一定値に近い値であると判定されたときに、前記指標値計測部による計測を停止する計測再停止部と
を備える燃料電池システム。
【請求項4】
請求項3に記載の燃料電池システムであって、
前記再開後判定部により、前記形態変化指標値が前記一定値に近い値でないと判定されたときに、前記指標値計測部による計測を継続し、前記計測停止部による前記所定の条件を満たすかの判定を行う計測継続部
を備える燃料電池システム。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の燃料電池システムであって、
前記指標値計測部は、
前記燃料電池に供給する反応ガスの供給量を一定にした状態で、前記燃料電池の出力電圧を変化させることに伴って検出される前記燃料電池の出力電流のサイクリックボルタンメトリ特性に基づいて前記形態変化指標値を計測する構成である、燃料電池システム。
【請求項6】
電解質層と前記電解質層上に形成された電極触媒とを有する燃料電池を備える燃料電池システムの制御方法であって、
前記電極触媒の形態変化の程度を反映する形態変化指標値を計測し、
前記計測された形態変化指標値の変化が所定の条件を満たしたときに、前記形態変化指標値の計測を停止し、
前記計測の停止後、当該燃料電池システムに含まれる部品に変更があった場合に、前記形態変化指標値の計測を再開する、燃料電池システムの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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