説明

燃料電池システムおよびその制御方法

【課題】触媒電極の経時的な酸化劣化による触媒性能低下を抑制するための劣化状態を簡便に判定することが可能な燃料電池システム及びその制御方法を提供する。
【解決手段】燃料電池と出力状態を制御する電池出力制御部と出力状態を測定する出力状態測定部と触媒電極の劣化状態を判定する触媒劣化判定部とを備え、燃料電池の制御状態を燃料電池システムの負荷に対する電力の供給を停止する待機制御状態において燃料電池の出力電流値を測定する。測定した出力電流値が、予め設定された出力電流の許容電流値よりも低い場合に、触媒電極が劣化していると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムにおいて、燃料電池の触媒電極の経時的な酸化劣化による触媒性能低下を抑制するための触媒劣化判定に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、例えば特許文献1に記載された燃料電池システムでは、サイクリックボルタンメトリ(CV:cyclic voltammetry)の測定を行って触媒電極の劣化状態を判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−218097号公報
【特許文献2】特開2008−218051号公報
【特許文献3】特開2007−149595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記CVの測定では、CVの測定のための特別な操作を実施する必要があり、この操作を実施するためには、通常の発電制御においては不必要な機能である電圧電流制御装置を装備しなければならず、さらに、この操作のための時間を設けねばならないため、燃料電池システムの構成が複雑化するという問題がある。また、CVの測定では燃料電池の電圧を強制的に変動させるため、これによって触媒電極の劣化を引き起こす可能性があり、燃料電池の耐久性を低下させる要因になる、といも問題もある。
【0005】
そこで、本発明は、触媒電極の劣化状態を簡便に判定することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
燃料電池システムであって、電解質膜の両側に触媒電極が形成された燃料電池セルを1つ以上有する燃料電池と、前記燃料電池の出力状態を制御する電池出力制御部と、前記燃料電池の出力状態を測定する出力状態測定部と、前記触媒電極の劣化状態を判定する触媒劣化判定部と、を備え、前記触媒劣化判定部は、前記電池出力制御部による前記燃料電池の制御状態が前記燃料電池システムの負荷に対する電力の供給を停止する待機制御状態において、前記出力状態測定部により測定した前記燃料電池の出力電流値が、予め設定された出力電流の許容電流値よりも低い場合に、前記触媒電極が劣化していると判定することを特徴とする燃料電池システム。
上記構成によれば、従来技術のCVの測定に比べて、燃料電池システムの構成の簡素化を図ることが可能であり、また、触媒電極の劣化状態を簡便に判定することが可能である。
【0008】
[適用例2]
適用例1に記載の燃料電池システムであって、前記燃料電池に発電用のガスとして燃料ガスおよび酸化ガスを供給するガス供給部を備え、前記待機制御状態は、前記出力状態測定部により測定される前記燃料電池セルの電圧が所定の下限電圧値以上上限電圧値以下となるように、前記ガス供給部による前記ガスの供給の実行と停止を間欠的に繰り返す制御状態であることを特徴とする燃料電池システム。
例えば、燃料電池システムの始動時や、駆動対象に対して電力の供給を停止する、いわゆる無負荷時のような場合には、待機制御状態として、燃料電池セルの電圧が所定の下限電圧値以上上限電圧値以下となるように、ガス供給部によるガスの供給の実行と停止を間欠的に繰り返す制御がなされる場合がある。上記構成によれば、このような待機制御状態を利用して、触媒電極の劣化状態を簡便に判定することが可能であり、燃料電池システムの構成の簡素化を図ることが可能である。
【0009】
[適用例3]
適用例1に記載の燃料電池システムであって、前記燃料電池に発電用のガスとして燃料ガスおよび酸化ガスを供給するガス供給部を備え、前記待機制御状態は、前記出力状態測定部により測定される前記燃料電池セルの電圧が所定の上限電圧値となるように、前記ガス供給部による前記ガスの供給が制御されている制御状態であることを特徴とする燃料電池システム。
例えば、燃料電池システムの始動時や、駆動対象に対して電力の供給を停止する、いわゆる無負荷時のような場合には、待機制御状態として、燃料電池セルの電圧が所定の上限電圧値となるように、ガス供給部によるガスの供給が制御される場合がある。上記構成によれば、このような待機制御状態を利用して、触媒電極の劣化状態を簡便に判定することが可能であり、燃料電池システムの構成の簡素化を図ることが可能である。
【0010】
[適用例4]
燃料電池システムであって、電解質膜の両側に触媒電極が形成された燃料電池セルを1つ以上有する燃料電池と、前記燃料電池に発電用のガスとして燃料ガスおよび酸化ガスを供給するガス供給部と、前記燃料電池の出力状態を制御する電池出力制御部と、前記電池出力制御部による前記燃料電池の制御状態が、前記出力状態測定部により測定される前記燃料電池セルの電圧が所定の下限電圧以上上限電圧以下となるように、前記ガス供給部による前記ガスの供給の実行と停止を間欠的に繰り返し、前記燃料電池システムの負荷に対する電力の供給を停止する待機制御状態において、前記ガスの供給の実行と停止の間欠的な繰り返しの時間間隔を測定する時間間隔測定部と、前記触媒電極の劣化状態を判定する触媒劣化判定部と、を備え、前記触媒劣化判定部は、前記待機制御状態において前記時間間隔測定部により測定した時間間隔が、予め設定された許容時間間隔よりも大きい場合に、前記触媒電極が劣化していると判定することを特徴とする燃料電池システム。
上記構成によれば、従来技術のCVの測定に比べて、燃料電池システムの構成の簡素化を図ることが可能であり、また、触媒電極の劣化状態を簡便に判定することが可能である。
【0011】
[適用例5]
適用例1ないし適用例4のいずれか一項に記載の燃料電池システムであって、前記電池出力制御部は、前記触媒劣化判定部によって前記触媒電極が劣化していると判定された場合に、前記燃料電池の出力電圧を触媒活性化電圧に低下させる触媒活性化制御を実行することを特徴とする燃料電池システム。
上記構成によれば、触媒電極の劣化状態を簡便に判定することができるとともに、この判定を受けて、触媒活性化制御を実行することにより触媒の劣化状態を回復させることが可能である。
【0012】
[適用例6]
適用例5に記載の燃料電池システムであって、前記電池出力制御部は、前記待機制御状態から前記負荷に対する電力の供給制御状態に移行する際に前記触媒活性化制御を実行することを特徴とする燃料電池システム。
上記構成によれば、待機制御状態から負荷に対する電力の供給制御状態に移行する際に触媒活性化制御を実行することができるので、効率的な触媒活性化のタイミングで触媒の劣化状態を回復させることが可能である。
【0013】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、燃料電池システムや、燃料電池システムの制御方法などの種々の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の燃料電池の触媒電極の劣化判定の基本概念について示す説明図である。
【図2】第1実施例における燃料電池システムの構成例を示すブロック図である。
【図3】第1実施例における触媒劣化判定ルーチンを示すフローチャートである。
【図4】図3の触媒劣化判定ルーチンにおける処理について示す説明図である。
【図5】第2実施例における燃料電池システムの構成例を示すブロック図である。
【図6】第2実施例における触媒劣化判定ルーチンを示すフローチャートである。
【図7】第6の触媒劣化判定ルーチンにおける処理について示す説明図である。
【図8】第3実施例における触媒劣化判定ルーチンの一部を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態を、実施例に基づいて以下の順序で説明する。
A.触媒劣化判定の基本概念:
B.第1実施例:
C.第2実施例:
D.第3実施例:
E.変形例:
【0016】
A.触媒劣化判定の基本概念:
図1は、本発明の燃料電池の触媒電極の劣化判定の基本概念について示す説明図であり、図1(A)は燃料電池セルの発電特性、すなわち、電流対電圧特性について示しており、図1(B)は触媒電極の劣化判定の流れについて示している。
【0017】
燃料電池システムの運転停止時には、燃料電池を構成する燃料電池セルのアノードとカソード間の電位差は運転時の状態から低下して最終的にゼロとなるので、触媒電極の酸化劣化状態から回復される。従って、燃料電池システムの運転始動直後は、触媒電極は酸化劣化状態から回復した状態での電流対電圧特性を示す(図1(A)の実線参照)。そして、燃料電子システムが運転されて時間が経過していくと、触媒電極の酸化劣化が進み、これに応じて電圧が低下した電流対電圧特性を示す(図1(A)の点線や破線参照)。
【0018】
始動直後の所定の電圧値Et0における電流値(以下、「初期電流値」とも呼ぶ)it0は、バトラーフォルマー(Butler-Volumer)式に基づいて下式(1)で表される。
t0=k・θt0・exp[−(α・n・F/RT)・Et0] ・・・(1)
k:反応速度定数
θt0:始動直後の反応に寄与する触媒の割合(触媒率)
α:移動係数
n:酸化還元反応電子数
F:ファラデー定数
R:気体定数
T:燃料電池の温度
【0019】
また、ある程度運転時間が経過した時(運転経時後)の所定の電圧値Et0における電流値itrも、バトラーフォルマー式に基づいて下式(2)で表される。
tr=k・θtr・exp[−(α・n・F/RT)・Et0] ・・・(2)
θtr:運転経時後の反応に寄与する触媒率
【0020】
運転経時後において、酸化劣化によって発生する電圧降下の許容値(許容降下電圧値)をΔηとした場合の電圧値(Et0+Δη)における電流値it0’は、(1)式で示す初期電流値it0と等しく、バトラーフォルマー式に基づいて下式(3)で表される。
t0’=it0=k・θtr・exp[−(α・n・F/RT)・(Et0+Δη)] ・・・(3)
よって、θtrは、(1),(3)式から下式(4)で表されることになる。
θtr=θt0・exp[(α・n・F/RT)・Δη] …(4)
【0021】
そして、運転経時後の許容降下電圧値をΔηとした場合の所定電圧値Et0における電流値(許容電流値)itrは、(1),(2),(4)式から下式(5)で表される。
tr=k・θt0・exp[−(α・n・F/RT)・Et0]・exp[(α・n・F/RT)・Δη]
=it0・exp[(α・n・F/RT)・Δη] ・・・(5)
すなわち、所定電圧Et0における許容電流値itrは、所定電圧Et0における初期電流値it0および許容降下電圧値Δηに基づいて設定することができる。
【0022】
ここで、図1(B)に示すように、ある運転経時後の所定の電圧値Et0における電流値iが上記(5)式で示された許容電流値itrよりも小さい場合における電流対電圧特性は、許容降下電圧値Δηの場合の電流対電圧特性(図1(A)の点線参照)よりも電圧降下値ΔEが許容降下電圧値Δηよりも大きくなった状態となる(図1(A)の破線参照)。すなわち、この場合には、触媒の酸化劣化が許容範囲を超えていると考えられるので、触媒活性化処理が必要であると判定することができると考えられる。
【0023】
そこで、以下の実施例では、説明した触媒電極の劣化判定の基本概念を適用した触媒劣化判定について説明する。
【0024】
B.第1実施例:
B1.燃料電池システムの構成例:
図2は、第1実施例における燃料電池システムの構成例を示すブロック図である。この燃料電池システム10は、車両に搭載される燃料電池システムを例に示している。
【0025】
燃料電池システム10は、燃料電池100と、アノードガス(燃料ガス)供給部200およびカソードガス(酸化ガス)供給部300と、冷却装置400と、モニター部500と、電力制御部600と、制御部700と、を備えている。
【0026】
燃料電池100は、アノードに供給されるアノードガスとしての燃料ガス(水素)と、カソードに供給されるカソードガスとしての酸化ガス(空気、厳密には空気に含まれる酸素)との電気化学反応により電力を発生する。
【0027】
この燃料電池100としては、固体高分子電解質膜を用いた燃料電池セルで構成される燃料電池が対象となる。また、燃料電池100は、複数の燃料電池セルを積層したスタック構造を有するものとする。燃料電池セルは、図示は省略するが、基本的に、膜電極接合体(MEA:Membrane-Electrode Assembly)をセパレータで挟持した構成を有している。MEAは、イオン交換膜からなる電解質膜と、電解質膜のアノード側の面上に形成された触媒電極(「アノード側触媒電極」あるいは単に「アノード」とも呼ぶ)と、電解質膜のカソード側の面上に形成された触媒電極(「カソード側触媒電極」あるいは単に「カソード」とも呼ぶ)とで構成される。MEAとセパレータとの間には、アノード側およびカソード側に、それぞれガス拡散層(GDL)が設けられている。また、セパレータとガス拡散層に接する面には、アノードガスやカソードガスのガスを流す溝状のガス流路が形成されている。ただし、セパレータとガス拡散層との間に、ガス流路部が別途設けられる場合もある。なお、電解質膜とアノード側のセパレータとの間に形成された各構成要素を纏めて「アノード」と呼ぶ場合もある。また、電解質膜とカソード側のセパレータとの間に形成された各構成要素を纏めて「カソード」と呼ぶ場合もある。
【0028】
アノードガス供給部200は、アノードガス(燃料ガス)としての高圧の水素ガスを貯蔵した水素ガスタンク210と、水素ガスタンク210の水素ガスを燃料電池100に供給するためのアノードガス供給流路220と、燃料電池100から排出されたアノードオフガス(燃料オフガス)としての水素オフガスをアノードガス供給流路220に戻すためのアノードガス循環流路230と、を備える。アノードガス供給流路220には、水素ガスタンク210からの水素ガスの供給を遮断または許容する開閉バルブ222と、水素ガスの圧力を調整するレギュレータ224と、水素ガスの流量を調整する水素供給部226とが設けられている。アノードガス循環流路230には、アノードガス循環流路230内のアノードオフガスとしての水素オフガスをアノードガス供給流路220側へ送り出す水素ガスポンプ232が設けられている。また、アノードガス循環流路230には、気液分離部234および排気排水バルブ236を介して、排気口350につながる排出流路238が接続されている。気液分離部234は、水素オフガスに含まれる水分を回収する。排気排水バルブ236は、気液分離部234で回収された水分およびアノードガス循環流路230内の不純物を含む水素オフガスを排出する。排気排水バルブ236から排出された水素オフガスは、排気口350から排ガスとして大気中に排気される。なお、開閉バルブ222、レギュレータ224、水素供給部226、水素ガスポンプ232、気液分離部234、および、排気排水バルブ236は、制御部700からの指示に従って動作する。
【0029】
カソードガス供給部300は、吸気口310を介してカソードガス(酸化ガス)としての空気を取り込んで圧縮送出するためのコンプレッサ320と、空気(エア)を燃料電池100に供給するためのカソードガス供給流路330と、燃料電池100から排出されたカソードオフガス(酸化オフガス)を排気口350から排出するためのカソードオフガス排出流路340と、を備える。カソードオフガス排出流路340には、燃料電池100内のカソードガス(酸化ガス)の圧力を調整するための背圧調整バルブ342が設けられている。カソードガス供給流路330およびカソードオフガス排出流路340には、燃料電池100から排出されたカソードオフガス(酸化オフガス)を用いてコンプレッサ320から圧送されたカソードガス(酸化ガス)を加湿する加湿部360が設けられている。加湿部360で水分交換等されたカソードオフガスは、排ガスとして排気口350から大気中に排気される。なお、コンプレッサ320、背圧調整バルブ342、および、加湿部360は、制御部700からの指示に従って動作する。
【0030】
冷却装置400は、冷却部410と、冷媒を燃料電池100に供給する冷媒供給流路420と、燃料電池から排出される冷媒を燃料電池100に戻す冷媒排出流路430と、を備える。冷却部410は、冷媒供給流路420を介して燃料電池100に冷媒を供給し、燃料電池100の冷却に供された後の冷媒を冷媒排出流路430を介して受け取ることにより、冷媒を循環させて、燃料電池100の冷却を実行する。冷媒としては、水、不凍液等を用いることができる。
【0031】
モニター部500は、各燃料電池セル間のセル電圧を測定するセル電圧モニター510と、燃料電池100の出力電圧を測定する電圧センサー520および出力電流を測定する電流センサー530と、を備えている。また、モニター部500には、燃料電池100に供給されるアノードガスやカソードガスの圧力を測定する圧力センサーや湿度を測定する湿度センサー、流量を測定する流量センサー、燃料電池100の温度や冷媒の温度を測定する各温度センサー等種々の図示しないセンサーを備えている。なお、センサー等の各要素はそれぞれ制御部700に接続されており、各要素で測定された測定結果は制御部700からの指示に従って、制御部700に受け渡される。
【0032】
電力制御部600は、二次電池制御部620、モータ制御部640、図示しない各種の補機制御部等を備える。二次電池制御部620は、二次電池610の充放電を制御する。モータ制御部640は、燃料電池100あるいは二次電池610からの電力のモータ630への供給を制御する。このモータ制御部640は、例えば、モータ630が三相交流モータの場合には、直流を三相交流に変換する三相インバータで構成される。補機制御部は、たとえば、水素ガスポンプ232や、コンプレッサ320等の各装置を駆動するための電力の供給を制御する。なお、モータ630は、燃料電池システム10が搭載される車両の主動力源を構成する。
【0033】
制御部700は、CPU710と、メモリ720と、入出力部730と、を主に備えるコンピュータシステムとして構成されている。入出力部730は、各種アクチュエータや、各種センサー、各種スイッチ等を、制御信号線(不図示)を介して接続している。各種アクチュエータとしては、上述した開閉バルブ222やレギュレータ224、水素供給部226、水素ガスポンプ232、コンプレッサ320、背圧調整バルブ342、冷却部410に含まれる図示しない冷却ポンプや冷却ファン、モータ630の回転量を制御するアクセル750等がある。また、各種センサーとしては、上述した電圧センサー520や、電流センサー530、図示しない温度センサー、圧力センサー、湿度センサー、流量センサー等がある。また、各種スイッチとしては、燃料電池システム10が搭載される電気自動車を始動する始動スイッチ740等がある。
【0034】
メモリ720には、主として燃料電池システム10を制御するための図示しない種々のコンピュータープログラムが格納されており、CPU710は、これらコンピュータープログラムを実行することにより、各機能ブロックとして動作する。例えば、電池出力制御ルーチン、および、触媒劣化判定ルーチンのコンピュータープログラムを実行することにより、CPU710は、電池出力制御部710aおよび触媒劣化判定部710bとして機能する。電池出力制御部710aは、燃料電池100および二次電池610の動作を制御する。なお、触媒劣化判定部710bが実行する触媒劣化判定ルーチンについては、以下で詳述する。
【0035】
なお、アノードガス供給部200およびカソードガス供給部300が本発明のガス供給部に相当する。また、モニター部500が本発明の出力状態測定部に相当する。
【0036】
B2.触媒劣化判定ルーチン:
図3は、第1実施例における触媒劣化判定ルーチンを示すフローチャートである。図4は、図3の触媒劣化判定ルーチンにおける処理について示す説明図である。この触媒劣化判定ルーチンは、電気自動車の起動前は暗電流、具体的には、二次電池610に蓄積されている電力にて実行される。
【0037】
図示するように、処理が開始されると、CPU710の触媒劣化判定部710bは、始動スイッチ740がオン状態となっているか否か判定する(ステップS100)。ここで、始動スイッチ740がオン状態でない、すなわちオフ状態であると判定したときには、触媒劣化判定部710bは、ステップS110の処理を繰り返して、始動スイッチ740が操作者によって操作されてオン状態となるのを待つ。なお、始動スイッチ740がオン状態となった場合には、別途、電池出力制御部710aによって燃料電池100が起動される。ここで、電池出力制御部710aは、燃料電池100を起動すると、まず、アクセル750がオン状態となって燃料電池システム10の負荷であるモータ630を駆動するための燃料電池100に対する通常の発電制御を実行して通常の発電を開始するまで、待機制御を実行する。そして、アクセル750がオン状態となった場合には、燃料電池100に対する通常の発電制御を実行し、アクセル750の操作量に応じた通常の発電を開始する。
【0038】
待機制御について、簡単に説明すると、モータ630への燃料電池100からの電力の供給を停止し、図4(A)に示すように、燃料電池100のセル電圧が、予め設定される下限電圧値Eから上限電圧値Eまでの間を保つように、アノードガス供給部200およびカソードガス供給部300によるガスの供給の実行と停止を間欠的に繰り返す制御が実行される。なお、上限電圧Eは開回路電圧よりも低い電圧に設定され、上限電圧Eは通常の発電制御時の運転電圧よりも高い電圧に設定される。従って、待機制御においては、通常の発電時における電流よりも小さな電流が発生する。待機制御によって発生した電流は、例えば、二次電池制御部620を介して二次電池610に充電され、あるいは、各種アクチュエータ等を含む各種補機等、燃料電池システム内の負荷で消費される。セル電圧の監視は、セル電圧モニター510を介して実行される。また、セル電圧の監視は、全ての燃料電池セルのセル電圧について監視してもよいし、いずれか1つ以上の燃料電池セルのセル電圧を選択して監視してもよい。測定時間を考慮すると、いずれか1つの代表的な燃料電池セルを選択して、そのセル電圧を監視するのが一般的である。
【0039】
ステップS100で、始動スイッチ740がオン状態にあると判定した場合には、触媒劣化判定部710bは、初期待機電流値it0iとして、始動直後の上記待機制御時のセル電圧が上限電圧値Eにおける出力電流を測定し(ステップS110)、判定基準電流値itriを算出する(ステップS120)。なお、出力電流の測定は、電流センサー530を介して実行される。また、判定基準電流値itriの算出は、下記のように実行される。なお、判定基準電流値itriが本発明の許容電流値に相当する。
【0040】
判定基準電流値itriは、上記(5)式で示した許容電流値itrの式を用いて、下式(6)で表される。
tri=it0i・exp[(α・n・F/RT)・Δη] ・・・(6)
従って、初期待機電流値it0iを測定すれば、上記(6)式から判定基準電流値itriを算出することが可能である。
なお、例えば、Δη=−5mV,α=0.5,n=4,F=9.64853×10Cmol−1,R=8.31447JK−1mol−1,T=353K(=80℃)とすると、判定基準電流値itriは、上記した(6)式を用いて、下式(7)で表される。
tri≒0.72・it0i ・・・(7)
従って、初期待機電流値it0iを測定すれば、上記(7)式から判定基準電流値itriを算出することができる。
【0041】
そして、触媒劣化判定部710bは、アクセル750がオン状態となって電池出力制御部710aによってモータ630への電力を供給するための通常の発電が開始されたか否か判定する(ステップS130)。ここで、アクセル750がオン状態でない、すなわちオフ状態であり、待機制御状態であると判定したときには、触媒劣化判定部710bは、ステップS130の処理を繰り返して、アクセル750が操作者によって操作されてオン状態となるのを待つ。
【0042】
ステップS130で、アクセル750がオン状態にあると判定した場合には、触媒劣化判定部710bは、アクセル750がオン状態からオフ状態となって電池出力制御部710aによって待機制御が開始されたか否か判定する(ステップS140)。ここで、アクセル750がオフ状態となっていない、すなわちオン状態のままで待機制御状態とはなっていないと判定したときには、触媒劣化判定部710bは、ステップS140の処理を繰り返して、アクセル750が操作者によってオフ状態とされるのを待つ。
【0043】
ステップS140で、アクセル750がオン状態からオフ状態となって電池出力制御部710aによって待機制御が開始されていると判定した場合には、触媒劣化判定部710bは、待機電流値itiとして、待機制御時のセル電圧が上限電圧値Eにおける出力電流を測定する(ステップS150)。
【0044】
そして、触媒劣化判定部710bは、測定した待機電流値itiが判定基準電流値itriより小さいか否か判定する(ステップS160)。ここで、図4(A),(B)に示すように、待機電流値itiが判定基準電流値itriより小さいと判定した場合には、電流値it0iに対応する電圧降下値ΔEが許容降下電圧値Δηよりも大きくなり、媒劣化状態が許容範囲を超えていると考えられるので、触媒劣化判定部710bは、触媒活性化処理が必要であると判断して触媒活性化処理を実行する(ステップS170)。なお、この触媒活性化処理は、セル電圧を触媒活性化電圧(触媒電極を還元領域とする電圧)に低下させる、いわゆるリフレッシュ処理であり、例えば、セル電圧を0.7V程度以下に低下させることにより実現される。なお、セル電圧を触媒活性化電圧に低下させる手法としては、燃料電池100から出力する電流を変化させることにより低下させる手法や、燃料電池100への酸素の供給を停止することにより低下させる手法等、周知の一般的な手法を用いることができる。
【0045】
触媒活性化処理の実行後、触媒劣化判定部710bは、初期待機電流値it0iとして、活性化処理後の待機制御時におけるセル電圧が上限電圧値Eとなっているときの出力電流を測定し(ステップS180)、判定基準電流値itriを算出しなおす(ステップS190)。そして、触媒劣化判定部710bは、始動スイッチ740がオン状態からオフ状態に変化した状態にあるか否か判定する(ステップS200)。ここで、始動スイッチ740がオン状態からオフ状態に変化した状態にあると判定されたときには、触媒劣化判定部710bは、先頭のステップS100へ戻って、ステップS100の処理から各処理を実行する。一方、始動スイッチ740がオフ状態ではなく、オン状態のままである場合には、ステップS130へ戻って、ステップS130の処理から各処理を実行する。
【0046】
ステップS160において、図4(B)に示すように、待機電流値itiが判定基準電流値itriより小さい状態でない、すなわち、待機電流値itiが判定基準電流値itri以上であると判定した場合には、電流値it0iに対応する電圧降下値ΔEが許容降下電圧値Δηよりも小さく、触媒劣化状態が許容範囲内であると考えられるので、触媒劣化判定部710bは、触媒活性化処理は不要であると判断し、上記したステップS200の処理を実行する。
【0047】
以上説明したように、本実施例では、モータ630への燃料電池からの電力の供給を停止し、燃料電池100のセル電圧が、下限電圧値Eから上限電圧値Eまでの間を保つように、アノードガス供給部200およびカソードガス供給部300によるガスの供給の実行と停止を間欠的に繰り返す制御が実行されている待機制御時において、セル電圧が上限電圧値Eとなっているときの出力電流の値(待機電流値)itiが、予め設定されている許容降下電圧値Δηに基づいて、上記(6)式から求められる判定基準電流値itriよりも小さくなっているか否か判定することにより、触媒劣化状態が許容範囲内にあるか許容範囲を超えているか判定することができる。これにより、従来技術のCVの測定に比べて、燃料電池システムの構成の簡素化を図ることが可能であり、また、酸化による触媒電極の劣化状態を簡便に判定することが可能である。そして、触媒劣化状態が許容範囲を超えている場合には、触媒活性化処理を実行することにより、触媒電極の劣化状態を回復させることが可能である。
【0048】
C.第2実施例:
C1.燃料電池システムの構成例:
図5は、第2実施例における燃料電池システムの構成例を示すブロック図である。この燃料電池システム10Bは、制御部700のCPU710が、電池出力制御部710aおよび触媒劣化判定部710bに加えて、時間間隔測定ルーチンのコンピュータープログラムを実行することにより時間間隔測定部710cとして機能する点を除いて、第1実施例の燃料電池システム10の構成と全く同じである。
【0049】
C2.触媒劣化判定ルーチン:
図6は、第2実施例における触媒劣化判定ルーチンを示すフローチャートである。図7は、第6の触媒劣化判定ルーチンにおける処理について示す説明図である。この触媒劣化判定ルーチンも、電気自動車の起動前は暗電流にて実行される。図示するように、処理が開始されると、CPU710の触媒劣化判定部710bは、第1実施例の触媒劣化判定ルーチン(図3参照)と同様に、始動スイッチ740がオン状態にあるか否か判定する(ステップS100)。ここで、始動スイッチ740がオン状態でない、すなわちオフ状態であると判定したときには、触媒劣化判定部710bは、ステップS110の処理を繰り返して、始動スイッチ740が操作者によって操作されてオン状態となるのを待つ。なお、始動スイッチ740がオン状態となった場合には、第1実施例の場合と同様に、別途、電池出力制御部710aによって燃料電池100が起動される。電池出力制御部710aは、第1実施例の場合と同様に、まず、アクセル750がオン状態となって燃料電池100のモータ630を駆動するための通常の発電制御を実行して通常の発電を開始するまで、待機制御を実行する。そして、アクセル750がオン状態となった場合には、通常の発電を開始する。
【0050】
ステップS100で、始動スイッチ740がオン状態にあると判定した場合には、触媒劣化判定部710bは、初期待機制御時間間隔tとして、図4(A),図7(A)に示すように、ガス供給のオンとオフの繰り返し時間間隔(以下、「待機制御時間間隔」と呼ぶ)を測定し(ステップS110b)、判定基準待機制御時間間隔ttrを算出する(ステップS120b)。なお、待機制御時間間隔の測定は、電池出力制御部710aによって実行されるガス供給のオンの指示タイミングの間隔を、例えば、図示しないタイマーを用いて計測することにより測定することができる。また、判定基準待機制御時間間隔ttrの算出は、下記のように実行される。なお、判定基準待機制御時間間隔ttrが本発明の許容時間間隔に相当する。
【0051】
上記のようなガス供給のオンとオフを繰り返す間欠的な制御時における燃料電池セル中のガス量をVcとすると、始動直後の初期待機制御時間間隔tt0は、初期待機電流値it0iを用いて下式(8)のように表される。
t0=Vc/it0i
=Vc・{k・θt0・exp[−(α・n・F/RT)・E]}−1 ・・・(8)
同様に、判定基準待機制御時間間隔ttrは、上記(6)式の判定基準電流値itriおよび上記(8)式の初期待機制御時間間隔tt0を用いて下式(9)のように表される。
tr=Vc/itri
=Vc/{it0i・exp[(α・n・F/RT)・Δη]}
=(Vc/itri)・{1/exp[(α・n・F/RT)・Δη]}
=tt0・exp[−(α・n・F/RT)・Δη] ・・・(9)
従って、初期待機制御時間間隔tt0を測定すれば、上記(9)式から判定基準待機制御時間間隔ttrを算出することが可能である。
なお、例えば、Δη=−5mV,α=0.5,n=4,F=9.64853×10Cmol−1,R=8.31447JK−1mol−1,T=353K(=80℃)とすると、判定基準待機制御時間間隔ttrは、上記した(9)式を用いて、下式(10)のように表される。
tr≒1.38・tt0 ・・・(10)
従って、初期待機制御時間間隔tt0を測定すれば、上記(10)式から判定基準待機制御時間間隔ttrを算出することができる。
【0052】
そして、触媒劣化判定部710bは、アクセル750がオン状態となってモータ630への電力を供給するための発電を開始したか否か判定する(ステップS130)。ここで、アクセル750がオン状態でない、すなわちオフ状態であり、待機制御状態であると判定したときには、触媒劣化判定部710bは、ステップS130の処理を繰り返して、アクセル750が操作者によって操作されてオン状態となるのを待つ。
【0053】
ステップS130で、アクセル750がオン状態にあると判定した場合には、触媒劣化判定部710bは、アクセル750がオン状態からオフ状態となって待機制御が開始されたか否か判定する(ステップS140)。ここで、アクセル750がオフ状態となっていない、すなわちオン状態のままで待機制御状態とはなっていないと判定したときには、触媒劣化判定部710bは、ステップS140の処理を繰り返して、アクセル750が操作者によってオフ状態とされるのを待つ。
【0054】
ステップS140で、アクセル750がオン状態からオフ状態となって待機制御が開始されていると判定した場合には、触媒劣化判定部710bは、待機制御時間間隔tを測定する(ステップS150b)。
【0055】
そして、触媒劣化判定部710bは、測定した待機制御時間間隔tが判定基準待機制御時間間隔ttrよりも大きいか否か判定する(ステップS160b)。ここで、図7(B)に示すように、待機制御時間間隔tが判定基準待機制御時間間隔ttrよりも大きいと判定した場合には、触媒劣化時状態が許容範囲を超えていると考えられるので、触媒劣化判定部710bは、触媒活性化処理が必要であると判断して触媒活性化処理を実行する(ステップS170)。
【0056】
触媒活性化処理の実行後、触媒劣化判定部710bは、初期待機制御時間間隔tt0を測定し(ステップS180b)、判定基準待機制御時間間隔ttrを算出しなおす(ステップS190b)。そして、触媒劣化判定部710bは、始動スイッチ740がオン状態からオフ状態に変化した状態にあるか否か判定する(ステップS200)。ここで、始動スイッチ740がオン状態からオフ状態に変化した状態にあると判定されたときには、触媒劣化判定部710bは、先頭のステップS100へ戻って、ステップS100の処理から各処理を実行する。一方、始動スイッチ740がオフ状態ではなく、オン状態のままである場合には、ステップS130へ戻って、ステップS130の処理から各処理を実行する。
【0057】
ステップS160bにおいて、図7(B)に示すように、待機制御時間間隔tが判定基準待機制御時間間隔ttrより大きい状態でない、すなわち、待機制御時間間隔tが判定基準待機制御時間間隔ttr以下であると判定した場合には、触媒劣化状態が許容範囲内であると考えられるので、触媒劣化判定部710bは、触媒活性化処理は不要であると判断し、上記したステップS200の処理を実行する。
【0058】
以上説明したように、本実施例では、モータ630への燃料電池からの電力の供給を停止し、燃料電池100のセル電圧が、下限電圧値Eから上限電圧値Eまでの間を保つように、アノードガス供給部200およびカソードガス供給部300によるガスの供給の実行と停止を間欠的に繰り返す制御が実行されている待機制御時において、ガス供給の実行と停止の繰り返しの時間間隔(待機制御時間間隔)tが、予め設定されている許容降下電圧値Δηに基づいて、上記(9)式から求められる判定基準待機制御時間間隔ttrよりも大きくなっているか否か判定することにより、触媒劣化状態が許容範囲内にあるか許容範囲を超えているか判定することができる。これにより、従来技術のCVの測定に比べて、燃料電池システムの構成の簡素化を図ることが可能であり、また、酸化による触媒電極の劣化状態を簡便に判定することが可能である。そして、触媒劣化状態が許容範囲を超えている場合には、触媒活性化処理を実行することにより、触媒電極の劣化状態を回復させることが可能である。
【0059】
D.第3実施例:
図8は、第3実施例における触媒劣化判定ルーチンの一部を示すフローチャートである。図8は、図3に示した第1実施例における触媒劣化判定ルーチンステップS160とステップS170との間に、ステップS162cの処理が追加されており、また、ステップS160とステップS200との間に、ステップS164cの処理が追加されたものである。
【0060】
ステップS160において、待機電流値itiが判定基準電流値itriより小さいと判定した場合には、第1実施例において説明したように、電流値it0iに対応する電圧降下値ΔEが許容降下電圧値Δηよりも大きくなり、媒劣化状態が許容範囲を超えていると考えられるので、触媒活性化処理が必要であると判断される。そして、触媒劣化判定部710bは、アクセル750がオン状態となってモータ630への電力を供給するための通常の発電を開始するタイミングとなったか否か判定する(ステップS162c)。ここで、アクセル750がオン状態でない、すなわちオフ状態であり、待機制御状態であると判定したときには、触媒劣化判定部710bは、ステップS162cの処理を繰り返して、アクセル750が操作者によって操作されてオン状態となるのを待つ。
【0061】
ステップS162cで、アクセル750がオフ状態からオン状態となってモータ630への電力を供給するための通常の発電を開始するタイミングとなった場合には、触媒劣化判定部710bは、触媒活性化処理を実行する(ステップS170)。なお、CPU710の電池出力制御部710aによるモータ630への電力を供給するための通常の発電制御は、この触媒活性化処理の後で開始される。
【0062】
触媒活性化処理の実行後、触媒劣化判定部710bは、初期待機電流値it0iとして、活性化処理後の待機制御時におけるセル電圧が上限電圧値Eとなっているときの出力電流を測定し(ステップS180)、判定基準電流値itriを算出しなおす(ステップS190)。そして、触媒劣化判定部710bは、ステップS200の処理を実行する。
【0063】
ステップS160において、待機電流値itiが判定基準電流値itriより小さい状態でない、すなわち、待機電流値itiが判定基準電流値itri以上であると判定した場合には、第1実施例において説明したように、電流値it0iに対応する電圧降下値ΔEが許容降下電圧値Δηよりも小さく、触媒劣化状態が許容範囲内であると考えられるので、触媒活性化処理は不要であると判断される。そして、触媒劣化判定部710bは、アクセル750がオン状態となってモータ630への電力を供給するための発電を開始するタイミングとなったか否か判定する(ステップS164c)。ここで、アクセル750がオン状態でない、すなわちオフ状態であり、待機制御状態であると判定したときには、触媒劣化判定部710bは、ステップS164cの処理を繰り返して、アクセル750が操作者によって操作されてオン状態となるのを待つ。
【0064】
ステップS164cで、アクセル750がオフ状態からオン状態となってモータ630への電力を供給するための発電を開始するタイミングとなった場合には、触媒劣化判定部710bは、ステップS200の処理を実行する。なお、このとき、CPU710の電池出力制御部710aによって、モータ630への電力を供給するための通常の発電制御が開始される。
【0065】
第1実施例および第2実施例では、触媒活性化処理のタイミングに制限はなく、触媒活性化処理が必要と判断された時点で実行される。待機制御時においては、燃費と触媒劣化の観点から発電特性は悪い方が望ましく、通常の運転時、すなわち、モータ630への電電力を供給するための発電時においては、発電特性は良い方が望ましい。このため、待機制御の開始直前あるいは待機制御中に触媒活性化処理が実行されてしまうと、発電特性が良くなってしまい、無座に燃料の消費や触媒の劣化を促進させることになる。一方、本実施例では、上記したように、アクセル750がオフ状態からオン状態となってモータ630への電力を供給するための通常の発電を開始するタイミングとなった場合に、その発電制御の開始前に、触媒活性化処理を実行している。従って、効率の良い最適なタイミングで触媒活性化処理を実行することができる。
【0066】
なお、本実施例は、第1実施例の触媒劣化判定ルーチンに基づいて、触媒活性化処理のタイミングについて説明したが、第2実施例の触媒劣化判定ルーチンにも適用可能である。
【0067】
E.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。
【0068】
E1.変形例1:
上記第1実施例では、ガスの供給の実行と停止を間欠的に繰り返す待機制御時の待機電流により触媒劣化の判定を行う場合を例に説明したが、発明の基本概念で示したように、燃料電池セルの電圧が所定の電圧値、例えば所定の上限電圧値となるように、ガスの供給が制御されている待機制御時の待機電流により触媒劣化の判定を行うようにしてもよい。
【0069】
E2.変形例2:
上記実施例では、車両に搭載される燃料電池システムを例に示しているが、車両のみならず、二輪車や船舶、飛行機、ロボット等の種々の移動体に適用可能である。また、移動体に搭載された燃料電池システムに限らず、定置型の燃料電池システムや携帯型の燃料電池システムにも適用可能である。
【符号の説明】
【0070】
10…燃料電池システム
10B…燃料電池システム
100…燃料電池
200…アノードガス供給部
210…水素ガスタンク
220…アノードガス供給流路
222…開閉バルブ
224…レギュレータ
226…水素供給部
230…アノードガス循環流路
232…水素ガスポンプ
234…気液分離部
236…排気排水バルブ
238…排出流路
300…カソードガス供給部
310…吸気口
320…コンプレッサ
330…カソードガス供給流路
340…カソードオフガス排出流路
342…背圧調整バルブ
350…排気口
360…加湿部
400…冷却装置
410…冷却部
420…冷媒供給流路
430…冷媒排出流路
500…モニター部
510…セル電圧モニター
520…電圧センサー
530…電流センサー
600…電力制御部
610…二次電池
620…二次電池制御部
630…モータ
640…モータ制御部
700…制御部
710…CPU
710a…電池出力制御部
710b…触媒劣化判定部
710c…時間間隔測定部
720…メモリ
730…入出力部
740…始動スイッチ
750…アクセル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池システムであって、
電解質膜の両側に触媒電極が形成された燃料電池セルを1つ以上有する燃料電池と、
前記燃料電池の出力状態を制御する電池出力制御部と、
前記燃料電池の出力状態を測定する出力状態測定部と、
前記触媒電極の劣化状態を判定する触媒劣化判定部と、
を備え、
前記触媒劣化判定部は、前記電池出力制御部による前記燃料電池の制御状態が前記燃料電池システムの負荷に対する電力の供給を停止する待機制御状態において、前記出力状態測定部により測定した前記燃料電池の出力電流値が、予め設定された出力電流の許容電流値よりも低い場合に、前記触媒電極が劣化していると判定する
ことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムであって、
前記燃料電池に発電用のガスとして燃料ガスおよび酸化ガスを供給するガス供給部を備え、
前記待機制御状態は、前記出力状態測定部により測定される前記燃料電池セルの電圧が所定の下限電圧値以上上限電圧値以下となるように、前記ガス供給部による前記ガスの供給の実行と停止を間欠的に繰り返す制御状態であることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1に記載の燃料電池システムであって、
前記燃料電池に発電用のガスとして燃料ガスおよび酸化ガスを供給するガス供給部を備え、
前記待機制御状態は、前記出力状態測定部により測定される前記燃料電池セルの電圧が所定の上限電圧値となるように、前記ガス供給部による前記ガスの供給が制御されている制御状態であることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項4】
燃料電池システムであって、
電解質膜の両側に触媒電極が形成された燃料電池セルを1つ以上有する燃料電池と、
前記燃料電池に発電用のガスとして燃料ガスおよび酸化ガスを供給するガス供給部と、
前記燃料電池の出力状態を制御する電池出力制御部と、
前記燃料電池の出力状態を測定する出力状態測定部と、
前記電池出力制御部による前記燃料電池の制御状態が、前記出力状態測定部により測定される前記燃料電池セルの電圧が所定の下限電圧以上上限電圧以下となるように、前記ガス供給部による前記ガスの供給の実行と停止を間欠的に繰り返し、前記燃料電池システムの負荷に対する電力の供給を停止する待機制御状態において、前記ガスの供給の実行と停止の間欠的な繰り返しの時間間隔を測定する時間間隔測定部と、
前記触媒電極の劣化状態を判定する触媒劣化判定部と、
を備え、
前記触媒劣化判定部は、前記待機制御状態において前記時間間隔測定部により測定した時間間隔が、予め設定された許容時間間隔よりも大きい場合に、前記触媒電極が劣化していると判定する
ことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の燃料電池システムであって、
前記電池出力制御部は、前記触媒劣化判定部によって前記触媒電極が劣化していると判定された場合に、前記燃料電池の出力電圧を触媒活性化電圧に低下させる触媒活性化制御を実行することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項6】
請求項5に記載の燃料電池システムであって、
前記電池出力制御部は、前記待機制御状態から前記負荷に対する電力の供給制御状態に移行する際に前記触媒活性化制御を実行することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項7】
燃料電池システムの制御方法であって、
前記燃料電池システムは、
電解質膜の両側に触媒電極が形成された燃料電池セルを1つ以上有する燃料電池を備え、
前記燃料電池システムの制御方法は、
前記燃料電池の制御状態を前記燃料電池システムの負荷に対する電力の供給を停止する待機制御状態とする工程と、
前記待機制御状態において前記燃料電池の出力電流値を測定する工程と、
測定した出力電流値が、予め設定された出力電流の許容電流値よりも低い場合に、前記触媒電極が劣化していると判定する工程と、
を備えることを特徴とする燃料電池システムの制御方法。
【請求項8】
燃料電池システムの制御方法であって、
前記燃料電池システムは、
電解質膜の両側に触媒電極が形成された燃料電池セルを1つ以上有する燃料電池と、
前記燃料電池に発電用のガスとして燃料ガスおよび酸化ガスを供給するガス供給部と、
を備え、
前記燃料電池システムの制御方法は、
前記燃料電池の制御状態を、前記燃料電池セルの電圧が所定の下限電圧以上上限電圧以下となるように、前記ガス供給部による前記ガスの供給の実行と停止を間欠的に繰り返し、前記燃料電池システムの負荷に対する電力の供給を停止する待機制御状態とする工程と、
前記待機制御状態において、前記ガスの供給の実行と停止の間欠的な繰り返しの時間間隔を測定する工程と、
測定した時間間隔が、予め設定された許容時間間隔よりも大きい場合に、前記触媒電極が劣化していると判定する工程と、
を備えることを特徴とする燃料電池システムの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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