説明

燃料電池システム

【課題】 燃料電池と2次電池とを備えたシステムにおいて、運転者に対して異常の発生を確実に伝達する。
【解決手段】 燃料電池12と2次電池14の少なくとも一方の電力によってモータ16を運転する燃料電池システム10であって、システム内で発生した異常を検出する異常検出センサ26と、異常検出センサ26により異常が検出された場合に、2次電池14の電力のみでモータ16を運転し、燃料電池12の運転を待避状態にする待避運転手段と、異常検出センサ26により異常が検出された場合にモータ16の出力を正常時よりも低下させる手段であって、常用域である軽負荷域又は中負荷域でのモータ16の出力を他の域に比べて大きく低下させる出力低下手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車等において、システムに異常が発生した場合に、警告灯を点灯し、または出力トルクを抑制することで運転者に異常を認知させる技術が知られている。
【0003】
【特許文献1】特開平10−257603号公報
【特許文献2】特開2004−23810号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、警告灯を点灯して異常発生を運転者に認知させる方法では、運転者が運転席のメータの表示部に目線を落とす必要があるため、運転中においては異常発生の認知に遅れが生じてしまう。
【0005】
また、一般道の運転では軽負荷、中負荷領域が常用域となるため、正常時のアクセル特性に一定の係数を乗算して出力トルクを抑制する方法では、正常時とのドライバビリティの感覚の差が小さくなり、ドライバビリティの変化によって運転者に異常を認知させると、やはり認知に遅れが生じてしまう。
【0006】
また、出力トルクの最大値を抑える方法では、最大負荷の使用頻度が低いため、運転者が異常を認識することは困難である。また、上記と同様に一般道の運転では軽負荷、中負荷領域が常用域となるため、ドライバビリティの変化に基づいて運転者が異常を判定することは困難である。更にこの方法では、登坂時など負荷の大きな運転条件では、走行が不可能となる事態が生じたり、または速度が非常に低速になるといった問題が生じる。
【0007】
この発明は、上述のような問題を解決するためになされたものであり、燃料電池と2次電池とを備えたシステムにおいて、運転者に対して異常の発生を確実に伝達することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、燃料電池と2次電池の少なくとも一方の電力によってモータを運転する燃料電池システムであって、システム内で発生した異常を検出する異常検出手段と、前記異常検出手段により異常が検出された場合に、前記2次電池の電力のみで前記モータを運転し、前記燃料電池の運転を待避状態にする待避運転手段と、前記異常検出手段により異常が検出された場合に前記モータの出力を正常時よりも低下させる手段であって、常用域である軽負荷域又は中負荷域での前記モータの出力を他の域に比べて大きく低下させる出力低下手段と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、前記出力低下手段は、最大負荷域の前記モータの出力を正常時と同等とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明によれば、異常が検出された場合に、常用域である軽負荷域又は中負荷域での前記モータの出力を他の域に比べて大きく低下させるようにしたため、異常の発生を運転者に確実に認識させることが可能となる。
【0011】
第2の発明によれば、最大負荷域のモータの出力が正常時と同等となるようにしたため、アクセル全開時にはモータに高出力を発揮させることができ、坂道、急加速時など走行負荷が大きな運転状態においても通常走行を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面に基づいてこの発明の一実施形態について説明する。尚、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。なお、以下の実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る燃料電池システム10を示す模式図である。本実施形態の燃料電池システム10は燃料電池自動車に搭載されるものであって、燃料電池12とバッテリー14を備えている。燃料電池システム10は、燃料電池12とバッテリー14の一方又は双方から電力を供給することで燃料電池自動車を駆動する。
【0014】
燃料電池12は、例えば固体高分子電解質膜を備えた燃料電池(PEMFC)から成り、電解質膜、アノード、カソード、およびセパレータとから構成されるセルを複数積層して構成される。
【0015】
燃料電池12は、燃料電池自動車を駆動するためのモータ16と接続されている。また、燃料電池システム10はDC/DCコンバータ18を備えており、バッテリー14はDC/DCコンバータ18を介して燃料電池12およびモータ16と接続されている。DC/DCコンバータ18は、バッテリー14からの放電、バッテリー14への充電を制御する機能を有している。
【0016】
また、燃料電池システム10は、燃料電池12等に発生した異常を検出する異常検出センサ26を備えている。異常検出センサ26は、燃料電池12の異常の他、システム内で発生した他の異常を検出するように構成されている。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の燃料電池システム10は制御装置24を備えている。制御装置24には、燃料電池12、モータ16、DC/DCコンバータ18、異常検出センサ26の他、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ20、機関回転数を検出する回転数センサ22などが接続されている。制御装置24は、アクセル開度、機関回転数等に基づいて、モータ16に要求される負荷(要求負荷)を求め、これに基づいて燃料電池12、バッテリー14の一方又は双方から電力を供給することでモータ16を駆動する。
【0018】
このように構成された本実施形態のシステムにおいて、燃料電池12の異常など、システム内で何らかの異常が生じた場合は、運転者に異常の発生を知らせる必要がある。また、燃料電池12に異常が生じている場合は、燃料電池12の故障を未然に防ぐため、燃料電池12によるモータ16の運転を停止する必要がある。
【0019】
このため本実施形態では、燃料電池12を含むシステムに異常が発生した場合は、バッテリー14のみの出力でモータ16を運転し、燃料電池12の運転を待避状態にする。そして、アクセル開度に対するモータ16の出力係数を変更して、運転者が感じるドライバビリティの感覚を変化させることで、異常の発生を運転者に知らせるようにしている。
【0020】
図2は、アクセル開度と、アクセル開度に対するモータの出力係数との関係を示す特性図である。ここで、モータの出力係数は、アクセル開度に応じてモータ16の出力を決定するための係数である。
【0021】
制御装置24は、アクセル開度センサ20の検出値に基づいてモータの出力係数を決定する演算処理実行部を備えており、図2に示すようにアクセル開度に応じてモータの出力係数が決定される。そして、制御装置24は、モータの最大出力(MAX値)にモータの出力係数を乗算することで、モータ16からの実際の出力を算出する。図2に示す実線と破線の特性は予め制御装置24に記憶されており、制御装置24はシステム内の異常の有無に応じて2つの特性の一方を選択し、選択したモータ出力係数に基づいてモータ16の出力を演算し、算出した出力でモータ16が駆動されるようにモータ16へ指令を行う。
【0022】
図2において、破線は燃料電池12を含むシステムが正常の場合に選択される特性を示している。また、実線は、燃料電池12を含むシステムに異常が発生しており、燃料電池12の運転を待避状態にした場合に選択される特性を示している。すなわち、実線の特性は、バッテリー14のみの出力でモータ16が運転される場合の特性を示している。
【0023】
図2に示すように、異常発生時に燃料電池12の運転を待避状態にした場合は、アクセル開度60%程度以下の運転状態、すなわち軽負荷域又は中負荷域である常用域の運転状態において、正常時に比べてモータ出力係数を大きく低下させている。そして、軽負荷域又は中負荷域以外の領域では、軽負荷域又は中負荷域に比べて出力低下の度合いを小さくしている。
【0024】
これにより、一般走行時に使用される常用域での出力が正常時に比べて減少するため、運転者が感じるドライバビリティの感覚が変わる。従って、待避運転中であっても運転者に異常の発生を確実に認知させることができる。
【0025】
また、図2に実線で示すように、異常発生時に燃料電池12の運転を待避状態にした場合であっても、アクセル全開時、すなわち最大負荷域の運転状態ではモータ出力係数がほぼ100%に設定される。これにより、アクセル全開時にはモータ16に高出力を発揮させることができるため、登坂時、急加速時など走行負荷が大きな運転状態においても通常走行が可能である。
【0026】
なお、図2の例では、異常発生時に常用域の出力を低下させているが、異常発生時に、アクセル開度が所定値を超えるまではモータ出力係数を0%とするように不感帯を設けても良い。また、正常時に所定の不感帯が設定されている場合は、異常発生時に不感帯の幅を拡大するようにしても良い。このように、異常時にアクセル開度に対する出力の不感帯を設定または拡大することによっても、運転者が感じるドライバビリティが変わり、異常発生を認知させることができる。
【0027】
次に、図3のフローチャートに基づいて、本実施形態のシステムにおける処理の手順を説明する。先ず、ステップS1では、アクセル開度センサ20からアクセル開度の検出値を取得する。
【0028】
次のステップS2では、燃料電池12を含むシステムに異常が発生しているか否かを判定する。異常が発生している場合はステップS3へ進み、異常が発生していない場合はステップS5へ進む。
【0029】
ステップS3では、燃料電池12の運転を待避状態とし、バッテリー14の出力のみでモータ16を運転する。
【0030】
ステップS4では、ステップS1で取得したアクセル開度を図2中の実線の特性に当てはめて、アクセル開度に対するモータ出力係数を算出する。一方、ステップS5では、ステップS1で取得したアクセル開度を図2中の破線の特性に当てはめて、アクセル開度に対するモータ出力係数を算出する。ステップS4,S5の後は、ステップS6へ進む。
【0031】
ステップS6では、ステップS4,S5で算出したモータ16出力係数をモータ16の最大出力に乗算して、モータ16の出力を算出する。そして、次のステップS7では、ステップS6で算出したモータ出力に基づいて、モータ16を運転する。
【0032】
図3の処理によれば、燃料電池12を含むシステムに異常が発生している場合は、燃料電池12の運転を待避状態にするとともに、図2中に実線で示すモータ出力特性に従ってモータ16を運転するため、運転者に対して異常の発生を確実に認識させることが可能となる。
【0033】
以上説明したように本実施形態によれば、燃料電池12を含むシステムに異常が発生した場合は、燃料電池12の運転を待避状態とし、軽負荷域、中負荷域である常用域でモータ16の出力特性を大きく低下させるようにしたため、ドライバビリティの感覚が変わり、運転者に対して異常の発生を確実に知らせることが可能となる。
【0034】
また、異常発生時に燃料電池12の運転を待避状態にした場合であっても、アクセル全開時には、正常時と同様にモータ出力係数をほぼ100%としたため、高負荷がかかる運転状態での出力低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態に係る燃料電池システムを示す模式図である。
【図2】アクセル開度と、アクセル開度に対するモータの出力係数との関係を示す特性図である。
【図3】本発明の一実施形態のシステムにおける処理の手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0036】
10 燃料電池システム
12 燃料電池
14 バッテリー
16 モータ
26 異常検出センサ
24 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池と2次電池の少なくとも一方の電力によってモータを運転する燃料電池システムであって、
システム内で発生した異常を検出する異常検出手段と、
前記異常検出手段により異常が検出された場合に、前記2次電池の電力のみで前記モータを運転し、前記燃料電池の運転を待避状態にする待避運転手段と、
前記異常検出手段により異常が検出された場合に前記モータの出力を正常時よりも低下させる手段であって、常用域である軽負荷域又は中負荷域での前記モータの出力を他の域に比べて大きく低下させる出力低下手段と、
を備えたことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記出力低下手段は、最大負荷域の前記モータの出力を正常時と同等とすることを特徴とする請求項1記載の燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−85937(P2006−85937A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−267037(P2004−267037)
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】