説明

燃料電池システム

【課題】バイパス弁が開弁中の消音効果を高めることができる燃料電池システムを提供する。
【解決手段】酸化ガスが燃料電池2をバイパスして流れるように、供給路11と排出路12とを接続するバイパス路17と、バイパス路17を開閉するバイパス弁18と、を備えた燃料電池システムにおいて、供給路11、排出路12及びバイパス路17の少なくとも一つは、バイパス弁18の開弁中に互いに位相のずれた酸化ガスと酸化オフガスとが合流するように、管路長が調整されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に対して酸化ガスをバイパス可能な燃料電池システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池自動車などに搭載される燃料電池は、アノードに供給された燃料ガス中の水素とカソードに供給された酸化ガス中の酸素との化学反応によって、電力を発生する。一般に、燃料電池から排出される燃料オフガスは、水素希釈器を通り、水素濃度が低減された状態で大気中へ排出される。一方、燃料電池から排出される酸化オフガスは、希釈器を通ることなく、そのまま大気中へと排出される。
【0003】
ところが、発電効率が低い状態で燃料電池を運転している場合には、アノードから水素が排出されるだけでなくカソードからも水素(主にポンピング水素)が排出されることもあり、酸化オフガス中に水素が含まれる可能性がある。このような場合には、酸化オフガスをそのまま大気中へと排出することは環境上好ましくない。
【0004】
酸化オフガス中の水素濃度を低減できるようにした燃料電池システムとして、例えば特許文献1に記載のものが知られている。この燃料電池システムは、酸化ガスの供給路と酸化オフガスの排気路とを連通するバイパス路と、バイパス路を開閉するバイパス弁と、排気路の下流端部に設けた消音器と、を備える。燃料電池システムは、酸化オフガス中の水素濃度が高まったときにバイパス弁を開弁し、エアコンプレッサにより酸化ガスを酸化オフガスに導入することで、酸化オフガス中の水素濃度を低減するようにしている。
【特許文献1】特開2004−172027号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような従来の燃料電池システムでは、バイパス弁の開弁中に、エアコンプレッサからの脈動音等の音は燃料電池を通らずにバイパス路から排気路へと伝達され得る。このため、バイパス弁の開弁中に酸化ガスと酸化オフガスとが合流することによって、共鳴が発生し、大きな音が発生するおそれがあった。もっとも、従来の燃料電池システムには消音器が設けられているが、この消音器は排気が大気放出されるときに消音効果を奏するものであり、バイパス弁の開弁に伴って発生し得る音までは充分に消音できるものではなかった。
【0006】
本発明は、バイパス弁が開弁中の消音効果を高めることができる燃料電池システムを提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するべく、本発明の燃料電池システムは、燃料電池に供給される酸化ガスが流れる供給路と、供給路に設けられ、酸化ガスを燃料電池に圧送する供給機と、燃料電池から排出される酸化オフガスが流れる排出路と、酸化ガスが燃料電池をバイパスして流れるように、供給路と排出路とを接続するバイパス路と、バイパス路を開閉するバイパス弁と、を備えた燃料電池システムにおいて、供給路、排出路及びバイパス路の少なくとも一つは、バイパス弁の開弁中に互いに位相のずれた酸化ガスと酸化オフガスとが合流するように、管路長が調整されているものである。
【0008】
かかる構成によれば、互いに位相のずれた酸化ガスと酸化オフガスとが合流するため、酸化ガスがもたらす音と酸化オフガスがもたらす音とが、お互いに打ち消すように減衰することが可能となる。これにより、酸化ガスと酸化オフガスとの合流によって大きな音が発生するのを抑制でき、バイパス弁が開弁中の消音効果を高めることができる。また、バイパス路に消音器や音源を別途設けなくても済むようになる。
【0009】
好ましくは、本発明の燃料電池システムは、バイパス弁を開閉制御する制御装置を備える。
【0010】
この構成によれば、例えば燃料電池システムの状況に応じて、バイパス弁の開閉を適切に制御できる。
【0011】
上記目的を達成するべく、本発明の他の燃料電池システムは、燃料電池に供給される酸化ガスが流れる供給路と、供給路に設けられ、酸化ガスを燃料電池に圧送する供給機と、燃料電池から排出される酸化オフガスが流れる排出路と、酸化ガスが燃料電池をバイパスして流れるように、供給路と排出路とを接続するバイパス路と、バイパス路を開閉するバイパス弁と、を備えた燃料電池システムにおいて、バイパス弁の開弁中に酸化ガスと酸化オフガスとの合流により共鳴が発生しないように、バイパス弁を開閉制御する制御装置を備えたものである。
【0012】
この構成によれば、共鳴を考慮してバイパス弁を開閉制御するため、酸化ガスと酸化オフガスとの合流によって大きな音が発生するのを抑制できる。これにより、バイパス路に別個の装置(消音器や音源)を設けなくとも、バイパス弁が開弁中の消音効果を高めることができる。
【0013】
好ましくは、制御装置は、バイパス弁の開弁中に酸化ガスと酸化オフガスとの合流により共鳴が発生する弁開度をスキップするように、バイパス弁を開閉制御する。
【0014】
こうすることで、共鳴が発生しない弁開度でバイパス弁を開閉することができる。
【0015】
上記した本発明の燃料電池システムの一態様によれば、制御装置は、燃料電池システムの運転時にバイパス弁を閉弁し、燃料電池システムの起動時にバイパス弁を開弁することが好ましい。より好ましくは、制御装置は、燃料電池システムの起動時であって所定の低温時にのみ、バイパス弁を開弁する。
【0016】
また、本発明の燃料電池システムの別の一態様によれば、制御装置は、燃料電池システムの通常運転に比して電力損失の大きな低効率運転を行う際、バイパス弁を開弁することが好ましい。
【0017】
この構成によれば、消音効果を高めつつ、低効率発電時であっても酸化オフガスを酸化ガスで希釈できる。これにより、排出路から、規制範囲を超えた燃料ガス(例えば水素ガス)が外部に排出されることを抑制できる。
【0018】
燃料電池システムが低効率運転を行うと、燃料電池の自己発熱が促進される。そこで、低効率運転は、所定の低温時にのみ行われることが好ましい。
【0019】
かかる構成によれば、効率よく燃料電池を暖機することができる。
【0020】
上記した本発明の燃料電池システムは、供給機の下流側の供給路に設けられ、酸化ガスを加湿する加湿器を更に備え、供給路とバイパス路との供給側接続部は、加湿器よりも上流側に位置していることが好ましい。
【0021】
また、本発明の燃料電池システムは、排出路に設けられた調圧弁を更に備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明の燃料電池システムによれば、バイパス弁が開弁中の消音効果を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態に係る燃料電池システムについて説明する。この燃料電池システムは、燃料電池に対して酸化ガスをバイパス可能なものであり、バイパスした酸化ガスと酸化オフガスとの合流によって、大きな音が発生しないように構成されたものである。
【0024】
<第1実施形態>
図1は、燃料電池システム1の構成図である。
本実施形態の燃料電池システム1は、燃料電池自動車(FCHV)、電気自動車、ハイブリッド自動車などの車両に搭載することができるが、もちろん車両のみならず各種移動体(例えば、船舶や飛行機、ロボットなど)や定置型電源にも適用可能である。
【0025】
燃料電池システム1は、燃料電池2と、酸化ガスとしての空気(酸素)を燃料電池2に供給する酸化ガス配管系3と、燃料ガスとしての水素ガスを燃料電池2に供給する燃料ガス配管系4と、燃料電池2に冷媒を供給して燃料電池2を冷却する冷媒配管系5と、システム1の電力を充放電する電力系6と、システム全体を統括制御する制御装置7と、を備えている。
【0026】
燃料電池2は、例えば固体高分子電解質型で構成され、多数の単セルを積層したスタック構造を備えている。単セルは、イオン交換膜からなる電解質の一方の面に空気極(カソード)を有し、他方の面に燃料極(アノード)を有し、さらに空気極及び燃料極を両側から挟みこむように一対のセパレータを有している。一方のセパレータの酸化ガス流路2aに酸化ガスが供給され、他方のセパレータの燃料ガス流路2bに燃料ガスが供給される。供給された燃料ガス及び酸化ガスの電気化学反応により、燃料電池2は電力を発生する。燃料電池2での電気化学反応は発熱反応であり、固体高分子電解質型の燃料電池2の温度は、およそ60〜80℃となる。
【0027】
酸化ガス配管系3は、燃料電池2に供給される酸化ガスが流れる供給路11と、燃料電池2から排出された酸化オフガスが流れる排出路12と、酸化ガスが燃料電池2をバイパスして流れるバイパス路17と、を有している。供給路11の下流端は酸化ガス流路2aの上流端に連通し、排出路12の上流端は酸化ガス流路2aの下流端に連通している。酸化オフガスには、燃料電池2の空気極側で生成されるポンピング水素などが含まれる(詳細は後述する。)。また、酸化オフガスは、燃料電池2の電池反応により生成された水分を含むため高湿潤状態となっている。
【0028】
供給路11には、エアクリーナ13を介して酸化ガス(外気)を取り込むコンプレッサ14(供給機)と、コンプレッサ14により燃料電池2に圧送される酸化ガスを加湿する加湿器15と、が設けられている。加湿器15は、供給路11を流れる低湿潤状態の酸化ガスと、排出路12を流れる高湿潤状態の酸化オフガスとの間で水分交換を行い、燃料電池2に供給される酸化ガスを適度に加湿する。
【0029】
燃料電池2に供給される酸化ガスの背圧は、カソード出口付近の排出路12に配設された背圧調整弁16によって調圧される。背圧調整弁16の近傍には、排出路12内の圧力を検出する圧力センサP1が設けられている。酸化オフガスは、背圧調整弁16及び加湿器15を経て最終的に排ガスとしてシステム外の大気中に排気される。
【0030】
バイパス路17は、供給路11と排出路12とを接続している。バイパス路17と供給路11との供給側接続部Bは、コンプレッサ14と加湿器15との間に位置している。また、バイパス路17と排出路12との排出側接続部Cは、加湿器15の下流側に位置している。バイパス路17には、モータ又はソレノイドなどで駆動する開閉弁(シャット弁)であるバイパス弁18が設けられている。バイパス弁18は、制御装置7に接続されており、バイパス路17を開閉する。なお、以下の説明では、バイパス弁18の開弁により、バイパス路17の下流へとバイパスされる酸化ガスを「バイパスエア」と称呼する。
【0031】
なお、バイパス弁18の一次側と二次側との差圧は大きいため、仮にバイパス弁18の閉弁時に弁体と弁座との間に隙間が僅かに存在すると、バイパス弁18の二次側へのバイパスエアの漏れ量が多くなってしまう。バイパス弁18の閉弁時のシール効果が十分でないと、バイパス弁18が閉弁している通常運転時(詳細は後述する。)において、コンプレッサ14の効率を低下させてしまう。そこで、好ましいバイパス弁18の態様としては、セルフシーリング構造を有するポペットタイプで構成することが好ましい。こうすることで、バイパス弁18の一次側と二次側との大きな差圧を有効に利用して、バイパス弁18の閉弁時のシール効果を高めることができる。
【0032】
燃料ガス配管系4は、水素供給源21と、水素供給源21から燃料電池2に供給される水素ガスが流れる供給路22と、燃料電池2から排出された水素オフガス(燃料オフガス)を供給路22の合流点Aに戻すための循環路23と、循環路23内の水素オフガスを供給路22に圧送するポンプ24と、循環路23に分岐接続されたパージ路25と、を有している。元弁26を開くことで水素供給源21から供給路22に流出した水素ガスは、調圧弁27その他の減圧弁、及び遮断弁28を経て、燃料電池2に供給される。パージ路25には、水素オフガスを水素希釈器(図示省略)に排出するためのパージ弁33が設けられている。
【0033】
冷媒配管系5は、燃料電池2内の冷却流路2cに連通する冷媒流路41と、冷媒流路41に設けられた冷却ポンプ42と、燃料電池2から排出される冷媒を冷却するラジエータ43と、ラジエータ43をバイパスするバイパス流路44と、ラジエータ43及びバイパス流路44への冷却水の通流を設定する切替え弁45と、を有している。冷媒流路41は、燃料電池2の冷媒入口の近傍に設けられた温度センサ46と、燃料電池2の冷媒出口の近傍に設けられた温度センサ47と、を有している。温度センサ47が検出する冷媒温度は、燃料電池2の内部温度(以下、燃料電池2の温度という。)を反映する。冷却ポンプ42は、モータ駆動により、冷媒流路41内の冷媒を燃料電池2に循環供給する。
【0034】
電力系6は、高圧DC/DCコンバータ61、バッテリ62、トラクションインバータ63、トラクションモータ64、及び各種の補機インバータ65,66,67を備えている。高圧DC/DCコンバータ61は、直流の電圧変換器であり、バッテリ62から入力された直流電圧を調整してトラクションインバータ63側に出力する機能と、燃料電池2又はトラクションモータ64から入力された直流電圧を調整してバッテリ62に出力する機能と、を有する。高圧DC/DCコンバータ61のこれらの機能により、バッテリ62の充放電が実現される。また、高圧DC/DCコンバータ61により、燃料電池2の出力電圧が制御される。
【0035】
トラクションインバータ63は、直流電流を三相交流に変換し、トラクションモータ64に供給する。トラクションモータ64(動力発生装置)は、例えば三相交流モータである。トラクションモータ64は、燃料電池システム1が搭載される例えば車両100の主動力源を構成し、車両100の車輪101L,101Rに連結されている。補機インバータ65、66、67は、それぞれ、コンプレッサ14、ポンプ24、冷却ポンプ42のモータの駆動を制御する。
【0036】
制御装置7は、内部にCPU,ROM,RAMを備えたマイクロコンピュータとして構成される。CPUは、制御プラグラムに従って所望の演算を実行して、後述する低効率運転の制御など、種々の処理や制御を行う。ROMは、CPUで処理する制御プログラムや制御データを記憶する。RAMは、主として制御処理のための各種作業領域として使用される。
【0037】
制御装置7は、ガス系統(3,4)や冷媒系統5に用いられる圧力センサ(P1)及び温度センサ(46,47)、燃料電池システム1が置かれる環境の外気温を検出する外気温センサ51、並びに、車両100のアクセル開度を検出するアクセル開度センサなどの各種センサからの検出信号を入力し、各構成要素に制御信号を出力する。また、制御装置7は、低温始動時など燃料電池2を暖機する必要がある場合には、ROMに格納されている各種マップを利用して発電効率の低い運転を行う。
【0038】
図2は、燃料電池2の出力電流(以下、「FC電流」という。)と出力電圧(以下、「FC電圧」という。)との関係を示す図である。図2は、燃料電池システム1が比較的発電効率の高い運転(以下、「通常運転」という。)を行った場合を実線で示し、燃料電池システム1が比較的発電効率の低い運転(以下、「低効率運転」という。)を行った場合を点線で示している。
【0039】
燃料電池システム1を通常運転する場合には、電力損失を抑えて高い発電効率が得られるように、エアストイキ比を1.0以上(理論値)に設定した状態で燃料電池2を運転する(図2の実線部分参照)。ここで、エアストイキ比とは酸素余剰率をいい、水素と過不足なく反応するのに必要な酸素に対して供給される酸素がどれだけ余剰であるかを示す。
【0040】
これに対し、燃料電池2を暖機する場合には、電力損失を大きくして燃料電池2の温度を上昇させるべく、エアストイキ比を1.0未満(理論値)に設定した状態で燃料電池2を運転する(図2の点線部分参照)。エアストイキ比を低く設定して低効率運転を行うと、水素と酸素との反応によって取り出せるエネルギーのうち、電力損失分(すなわち熱損失分)が積極的に増大されるため、燃料電池2を迅速に暖機することができる一方、燃料電池2の空気極にはポンピング水素が発生する。
【0041】
図3は、ポンピング水素の発生メカニズムを説明するための図であり、(A)は通常運転時の電池反応を示し、(B)は低効率運転時の電池反応を示している。
燃料電池2の各単セル80は、電解質膜81と、この電解質膜81を挟持するアノード及びカソードを備えている。水素(H2)を含む燃料ガスはアノードに供給され、酸素(O2)を含む酸化ガスはカソードに供給される。アノードへ燃料ガスが供給されると、下記式(1)の反応が進行して、水素が水素イオンと電子に乖離する。アノードで生成された水素イオンは電解質膜81を透過してカソードへ移動する一方、電子はアノードから外部回路を通ってカソードへ移動する。
アノード: H2 →2H+ + 2e- ・・・(1)
【0042】
ここで、図3(A)に示す通常運転の場合、すなわちカソードへの酸化ガスの供給が十分な場合には(エアストイキ比≧1.0)、下記式(2)が進行して酸素、水素イオン及び電子から水が生成される。
カソード: 2H+ + 2e- + (1/2)O2 → H2O ・・・(2)
【0043】
一方、図3(B)に示す低効率運転の場合、すなわちカソードへの酸化ガスの供給が不足している場合には(エアストイキ比<1.0)、不足する酸化ガス量に応じて下記式(3)が進行し、水素イオンと電子が再結合して水素が生成される。生成された水素は、酸化オフガスとともにカソードから排出されることになる。なお、乖離した水素イオンと電子が再結合することによってカソードで生成される水素、すなわちカソードにおいて生成されるアノードガスをポンピング水素と呼ぶ。
カソード: 2H+ + 2e- → H2 ・・・(3)
【0044】
このように、カソードへの酸化ガスの供給が不足した状態では酸化オフガスにポンピング水素が含まれる。そこで、燃料電池システム1が低効率運転を行う際には、制御装置7はバイパス弁18を開弁制御し、コンプレッサ13により供給される酸化ガスの一部をバイパス路17に分流させるようにしている。この分流されたバイパスエアによって酸化オフガス中の水素濃度を希釈して、水素濃度が安全な範囲にまで低減された酸化オフガスを排出路12から外部に排気するようにしている。
【0045】
なお、低効率運転は、主として燃料電池2を暖機することを目的として、燃料電池システム1の起動時に行われるものであり、特に低温起動時にのみ行われるものである。例えば、燃料電池システム1の起動時に外気温センサ51により検出された外気温が、所定の低温(例えば0℃以下)であったときに、燃料電池システム1の低効率運転が行われ、その後、燃料電池2の暖機が完了したところで、燃料電池システム1は、低効率運転から通常運転に移行する。バイパス弁18は、低効率運転を行う燃料電池システム1の起動時に開弁し、低効率運転後の通常運転では、閉弁する。
【0046】
ただし、他の実施態様では、通常運転の際にもバイパス弁18を開弁するようにしてもよい。その好ましい一例を説明する。
車両100の減速時など、トラクションモータ64を発電機として機能させて回生制動する際には、燃料電池2の出力が停止され、バッテリ62に電力(回生パワー)が充電される。しかし、回生時にバッテリ62の充電量が満タンである場合には、電力系6において回生パワーが余剰状態となる。そこで、回生時にバッテリ62が充電できない状態である場合には、コンプレッサ14を余剰に駆動して余剰の回生パワーを消費すると共に、バイパス弁18を開弁して燃料電池2に余剰な酸化ガスが供給されないようにすることが好ましい。
【0047】
図4は、酸化ガス配管系3を拡大して示す構成図である。
上記のように、バイパス弁18が開弁すると、酸化ガスは供給側接続部Bで分流され、酸化ガスの一部がバイパスエアとして排出側接続部Cへと流れていくと共に、酸化ガスの残りが反応ガスとして燃料電池2内の酸化ガス流路2aに供給されていく。酸化ガス流路2aを流れて排出路12へと排出された酸化オフガスは、調圧弁16等を経て排出側接続部Cへと流れていく。したがって、排出側接続部Cでは、バイパスエアと酸化オフガスとが合流する。
【0048】
ここで、仮にバイパスエアが圧損体を通れば、バイパスエアがもたらす音(例えばコンプレッサ14からの脈動音等の音)は結果的にある程度消音される。しかし、バイパスエアは、加湿器15などの圧損体を通らずに排出側接続部Cへと流れていくため、バイパスエアと酸化オフガスとの合流によって、音が非常に大きくなる可能性がある。そこで、本実施形態では、バイパス弁18が開弁中に、大きな音が発生しないような配管構造となっている。
【0049】
すなわち、本実施形態の配管構造では、供給路11、排出路12及びバイパス路17の少なくとも一つの管路長が調整され、互いに位相のずれたバイパスエアと酸化オフガスとが排出側接続部Cで合流するようになっている。
【0050】
具体的には、バイパスエアが排出側接続部Cにもたらす音波f1(換言すれば、バイパス弁18の開弁中にバイパス路17から排出側接続部Cにもたらされる音波)の位相と、酸化オフガスが排出側接続部Cにもたらす音波f2(換言すれば、バイパス弁18の開弁中に排出路12から排出側接続部Cにもたらされる音波)の位相とは、お互いにずれており、好ましくは、両者が全く反対(逆位相)となっている。こうすることで、バイパスエアがもたらす音と酸化オフガスがもたらす音とが、お互いに打ち消すように減衰するため、酸化ガスと酸化オフガスとの合流によって大きな音が発生するのを抑制できる。
【0051】
ここで、仮に、バイパスエアがもたらす音が鈍音(周波数が一定)であり且つ酸化オフガスがもたらす音が鈍音であるとし、両者が一定の波長λであるとする。この場合、音波f1と音波f2とを逆位相にするためには、例えば、次の式(10)〜(15)のいずれかの配管構造とすればよい。なお、もちろんこれらに限るものではない。
1−M1≒λ/2 ・・・(10)
1−M2≒λ/2 ・・・(11)
1−M3≒λ/2 ・・・(12)
2−M1≒λ/2 ・・・(13)
2−M2≒λ/2 ・・・(14)
2−M3≒λ/2 ・・・(15)
【0052】
ここで、L1は、コンプレッサ14の吐出し口から供給側接続部Bを経由して排出側接続部Cにいたる部分の、供給路11及びバイパス路17の配管長さである。L2は、バイパス弁18の流出口から排出側接続部Cにいたる部分の、バイパス路17の配管長さである。M1は、燃料電池2のカソード出口(排出路12の上流端)から排出側接続部Cにいたる部分の、排出路12の配管長さである。M2は、背圧調整弁16の流出口から排出側接続部Cにいたる部分の、排出路12の配管長さである。M3は、加湿器15の流出口から排出側接続部Cにいたる部分の、排出路12の配管長さである。
【0053】
以上、本実施形態の燃料電池システム1によれば、低効率運転時であっても酸化オフガス中の水素濃度をバイパスエアにより低減できると共に、バイパスエアと酸化オフガスとの合流に伴う大きな音の発生を抑制できる。したがって、簡易な配管構造によって、バイパス弁18が開弁中の消音効果を高めることができる。
【0054】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態に係る燃料電池システム1について、相違点を中心に簡単に説明する。第1実施形態との相違点は、配管構造以外の方法で、バイパスエアと酸化オフガスとの合流に伴う大きな音の発生を抑制したことである。
【0055】
具体的には、本実施形態のバイパス弁18は、弁開度を調整可能な可変バルブで構成されている。可変バルブとしては、例えばバタフライ弁を用いることができる。なお、弁開度とは、弁体と弁座との間の開口面積と言い換えることもできる。バイパス弁18は、制御装置7に接続されており、制御装置7によって弁開度を多段階、連続的(無段階)又はリニアに切り替えられるように構成されている。
【0056】
バイパス弁18の弁開度によっては、バイパス弁18の開弁中にバイパスエアと酸化オフガスとの合流により共鳴が発生し得る。この共鳴によって、酸化ガス配管系3では大きな音が発生することになる。そこで、このような事態を回避するべく、本実施形態では、制御装置7が、バイパス弁18の開弁中にバイパスエアと酸化オフガスとの合流により共鳴が発生しないように、バイパス弁18を開閉制御するようにしている。共鳴が発生しないようにバイパス弁18を開いたり閉じたりするには、その共鳴が発生する弁開度を瞬間的にスキップするように、つまりその弁開度で一定時間停止しないようにすればよい。なお、共鳴が発生する弁開度は事前の評価により得ておき、制御装置7のROMに記憶させておけばよい。
【0057】
このように、本実施形態によれば、共鳴を考慮してバイパス弁18を開閉制御するため、第1実施形態と同様に、バイパスエアと酸化オフガスとの合流によって大きな音が発生するのを抑制できる。
【0058】
<変形例>
上記した各実施形態では、システム起動時に低効率運転を行う場合を例示したが、例えばシステム要求電力が所定値以下になった場合やシステム停止指示があった場合に低効率運転を行っても良い。
【0059】
また、バイパス路17に別途、可変のバルブを設け、可変のバルブを調整することにより、バイパスエアと酸化オフガスの音波の位相をずらすようにしてもよい。さらに、一般的な拡張型又は共鳴型の消音器をバイパス弁18の下流のバイパス路17上に設けて、この消音器によってバイパスエアがもたらす音を低減するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本実施形態に係る燃料電池システムの構成図である。
【図2】本実施形態に係るFC電流とFC電圧との関係を示すグラフである。
【図3】本実施形態に係るポンピング水素の発生メカニズムを説明するための図であり、(A)は通常運転時の電池反応を示し、(B)は低効率運転時の電池反応を示す。
【図4】本実施形態に係る酸化ガス配管系を拡大して示す構成図である。
【符号の説明】
【0061】
1:燃料電池システム、2:燃料電池、7:制御装置、11:供給路、12:排出路、14:コンプレッサ(供給機)、15:加湿器、16:背圧調整弁(調圧弁)、17:バイパス路、18:バイパス弁、B:供給側接続部、C:排出側接続部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池に供給される酸化ガスが流れる供給路と、
前記供給路に設けられ、前記酸化ガスを前記燃料電池に圧送する供給機と、
前記燃料電池から排出される酸化オフガスが流れる排出路と、
前記酸化ガスが前記燃料電池をバイパスして流れるように、前記供給路と前記排出路とを接続するバイパス路と、
前記バイパス路を開閉するバイパス弁と、を備えた燃料電池システムにおいて、
前記供給路、前記排出路及び前記バイパス路の少なくとも一つは、前記バイパス弁の開弁中に互いに位相のずれた酸化ガスと酸化オフガスとが合流するように、管路長が調整されている、燃料電池システム。
【請求項2】
前記バイパス弁を開閉制御する制御装置を備えた、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
燃料電池に供給される酸化ガスが流れる供給路と、
前記供給路に設けられ、前記酸化ガスを前記燃料電池に圧送する供給機と、
前記燃料電池から排出される酸化オフガスが流れる排出路と、
前記酸化ガスが前記燃料電池をバイパスして流れるように、前記供給路と前記排出路とを接続するバイパス路と、
前記バイパス路を開閉するバイパス弁と、を備えた燃料電池システムにおいて、
前記バイパス弁の開弁中に酸化ガスと酸化オフガスとの合流により共鳴が発生しないように、前記バイパス弁を開閉制御する制御装置を備えた、燃料電池システム。
【請求項4】
前記制御装置は、前記バイパス弁の開弁中に酸化ガスと酸化オフガスとの合流により共鳴が発生する弁開度をスキップするように、前記バイパス弁を開閉制御する、請求項3に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記制御装置は、当該燃料電池システムの運転時に前記バイパス弁を閉弁し、当該燃料電池システムの起動時に前記バイパス弁を開弁する、請求項2ないし4のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記制御装置は、当該燃料電池システムの起動時であって所定の低温時にのみ、前記バイパス弁を開弁する、請求項5に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記制御装置は、当該燃料電池システムの通常運転に比して電力損失の大きな低効率運転を行う際、前記バイパス弁を開弁する、請求項2ないし4のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項8】
前記低効率運転は、所定の低温時にのみ行われる、請求項7に記載の燃料電池システム。
【請求項9】
前記供給機の下流側の前記供給路に設けられ、前記酸化ガスを加湿する加湿器を更に備え、
前記供給路と前記バイパス路との供給側接続部は、前記加湿器よりも上流側に位置している、請求項1ないし8のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項10】
前記排出路に設けられた調圧弁を更に備えた、請求項1ないし9のいずれか一項に記載の燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−317472(P2007−317472A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−145109(P2006−145109)
【出願日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】