説明

燃料電池システム

【課題】氷点下の非発電時におけるセル抵抗の上昇を抑える。
【解決手段】締結荷重を調整することのできるアクチュエータ4を燃料電池スタック2に取り付けておく。そして、非発電時の燃料電池スタック2の内部温度を温度センサ8によって監視する。燃料電池スタック2の内部温度が基準温度である1℃以下まで低下した場合には、締結荷重を発電時の締結荷重に維持するようにアクチュエータ4を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関し、特に、非発電時のセルの熱収縮対策を燃料電池スタックに施した燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質膜を触媒電極で挟んで構成された膜電極接合体を最小単位(以下、セルという)とし、このセルが数十〜数百枚積層された燃料電池スタックとして使用されている。各セルの電解質膜が高いプロトン導電性を発揮するためには、セル内部に水分が存在して電解質膜が湿潤状態にあることが必須の条件である。しかし、セル内部の水分は氷点下では氷となり、当該セルの発電を妨げるだけでなく、燃料電池スタック全体の起動性にも影響してしまう。
【0003】
このため、従来の燃料電池システムでは、氷点下での凍結対策が重要視されていた。例えば、特開2006−114457号公報には、セル内部が凍結していると判定された場合には燃料電池スタックの締結荷重を増加させ、それによりセル内部に存在する氷塊を破砕するようにした技術が開示されている。
【特許文献1】特開2006−114457号公報
【特許文献2】特開2007−115492号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、氷点下での燃料電池スタックの問題は水分の凍結だけではない。燃料電池スタックを締結している締結荷重は発電時に最も出力が出る荷重に設定されているが、氷点下のような低温状態ではセルの厚み方向の熱収縮によって締結荷重が低下してしまう。締結荷重が低下すると膜電極接合体内の層間に隙間が生じ、その隙間に氷層が形成される。この氷層がプロトンや電子のパスを阻害することによって、氷点下でのセル抵抗は増大する。つまり、水分の凍結という現象に締結荷重の低下という現象が重なることによって、氷点下では燃料電池スタックの起動性能が悪化してしまうのである。
【0005】
本発明は上述のような課題を解決するためになされたもので、氷点下の非発電時におけるセル抵抗の上昇を抑えることができる燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、第1の発明の燃料電池システムは、
燃料電池スタックと、
前記燃料電池スタックの締結荷重を調整するアクチュエータと、
非発電時の燃料電池スタック内温度を監視し、燃料電池スタック内温度が所定温度以下まで低下した場合には、締結荷重が所定値よりも低下しないように前記アクチュエータを制御する制御手段と、
を備えたことを特徴としている。
【0007】
また、上記の目的を達成するため、第2の発明の燃料電池システムは、
燃料電池スタックと、
前記燃料電池スタックの締結荷重を調整するアクチュエータと、
非発電時の燃料電池スタック内温度を監視し、燃料電池スタック内温度が所定温度以下まで低下した場合には、締結荷重が一定値に維持されるように前記アクチュエータを制御する制御手段と、
を備えたことを特徴としている。
【0008】
また、上記の目的を達成するため、第3の発明の燃料電池システムは、
燃料電池スタックと、
前記燃料電池スタックの締結荷重を調整するアクチュエータと、
非発電時の締結荷重を監視し、発電時の締結荷重と同等の荷重が維持されるように前記アクチュエータを制御する制御手段と、
を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
第1の発明によれば、低温状態での締結荷重の低下はアクチュエータの制御によって防止されるので、氷点下の非発電時であっても、セルの熱収縮によるセル抵抗の上昇は抑制される。
【0010】
第2の発明によれば、低温状態での締結荷重はアクチュエータの制御によって一定値に維持されるので、氷点下の非発電時であっても、セルの熱収縮によるセル抵抗の上昇は抑制される。
【0011】
第3の発明によれば、非発電時の締結荷重はアクチュエータの制御によって発電時の締結荷重と同等の荷重に維持されるので、氷点下の非発電時であっても、セルの熱収縮によるセル抵抗の上昇は抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図1乃至図4を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施の形態としての燃料電池システムの構成を示す図である。この燃料電池システムは、多数のセルの積層によって構成された燃料電池スタック2を備えている。燃料電池スタック2には、その締結荷重を自在に調整することのできるアクチュエータ4が取り付けられている。このアクチュエータ4には荷重センサ6が備えられている。このようなアクチュエータ4は公知であって、本発明ではアクチュエータ4の構造には限定はないので、これ以上の説明は省略する。
【0014】
アクチュエータ4の制御は、燃料電池システムの制御装置10によって行われる。また、燃料電池スタック2には、セル温度を監視するための温度センサ8が取り付けられている。制御装置10には、荷重センサ6及び温度センサ8からの信号が入力されている。
【0015】
図2は、制御装置10によるアクチュエータ4の制御フローを示すフローチャートである。最初のステップS2では、燃料電池スタック2の発電停止と同時に、温度センサ8によってセル温度のモニタリングが開始される。
【0016】
次のステップS4では、セル温度が基準温度である1℃以下まで低下したか否か判定される。1℃は基準温度として設定しうる温度の一例であって、より高い温度に設定してもよいし、また、より低い温度に設定してもよい。
【0017】
セル温度が1℃以下まで低下したなら、アクチュエータ4による荷重制御が開始される(ステップS6)。この荷重制御では、燃料電池スタック2の締結荷重を発電時の締結荷重と同等に維持することが行われる。制御装置10は、荷重センサ6によって計測される締結荷重が目標荷重に等しくなるようにアクチュエータ4の制御量を決定する。
【0018】
ステップS8では、燃料電池スタック2の発電開始が判定される。発電が開始されるまではステップS4の判定が繰り返し行われ、セル温度が1℃以下まで低下したならアクチュエータ4による荷重制御が開始される。
【0019】
発電開始後は、まず、アクチュエータ4による荷重制御が行われているか否か判定される(ステップS10)。荷重制御が行われていないのであれば、この制御フローは終了となる。
【0020】
アクチュエータ4による荷重制御が行われている場合には、セル温度が1℃まで上昇したか否か判定される(ステップS12)。この判定はセル温度が1℃に達するまで繰り返し行われる。そして、セル温度が1℃に達したらアクチュエータ4による荷重制御は停止される(ステップS14)。これにより、この制御フローは終了となる。
【0021】
図3は、セル温度と締結荷重(セル荷重)との関係を示す図である。図3中に白四角で示すのはアクチュエータ4による荷重制御を実施した場合のセル温度に対する締結荷重の変化であり、黒四角で示すのが荷重制御を実施しなかった場合のセル温度に対する締結荷重の変化である。この図に示すように、アクチュエータ4による荷重制御をしない場合には、セル温度が氷点下まで低下したときに締結荷重は大きく低下する。セルが熱収縮するからである。しかし、アクチュエータ4による荷重制御を実施すれば、氷点下であっても締結荷重は一定値に維持することができる。
【0022】
図4は、セル温度とセル抵抗との関係を示す図である。図4中に白四角で示すのはアクチュエータ4による荷重制御を実施した場合のセル温度に対するセル抵抗の変化であり、黒四角で示すのが荷重制御を実施しなかった場合のセル温度に対するセル抵抗の変化である。この図に示すように、アクチュエータ4による荷重制御をしない場合には、セル温度が氷点下まで低下したときにセル抵抗は大きく上昇する。締結荷重の低下によって膜電極接合体内に隙間が生じ、その隙間に氷層が形成されることでプロトンや電子のパスが阻害されてしまうからである。しかし、アクチュエータ4による荷重制御を実施すれば、氷点下であってもセル抵抗の上昇は抑制することができる。
【0023】
以上説明したように、本実施の形態の燃料電池システムによれば、非発電時に燃料電池スタック2の温度が氷点下まで低下したとしても、そのときにはアクチュエータ4による荷重制御が行われるので、セルの熱収縮によるセル抵抗の上昇は抑えることができる。なお、本実施の形態ではセル温度が基準温度以下まで低下したことを開始条件にしてアクチュエータ4による荷重制御を実施しているが、発電停止と同時に荷重制御を実施するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態としての燃料電池システムの構成を示す図である。
【図2】制御装置によるアクチュエータの制御フローを示す図である。
【図3】セル温度と締結荷重との関係を示す図である。
【図4】セル温度とセル抵抗との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
2 燃料電池スタック
4 アクチュエータ
6 荷重センサ
8 温度センサ
10 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池スタックと、
前記燃料電池スタックの締結荷重を調整するアクチュエータと、
非発電時の燃料電池スタック内温度を監視し、燃料電池スタック内温度が所定温度以下まで低下した場合には、締結荷重が所定値よりも低下しないように前記アクチュエータを制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
燃料電池スタックと、
前記燃料電池スタックの締結荷重を調整するアクチュエータと、
非発電時の燃料電池スタック内温度を監視し、燃料電池スタック内温度が所定温度以下まで低下した場合には、締結荷重が一定値に維持されるように前記アクチュエータを制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項3】
燃料電池スタックと、
前記燃料電池スタックの締結荷重を調整するアクチュエータと、
非発電時の締結荷重を監視し、発電時の締結荷重と同等の荷重が維持されるように前記アクチュエータを制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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