説明

燃料電池システム

【課題】スタックの発電停止の原因がドライアップであるかフラッディングであるかどうかにかかわらず、スタックを再起動させるのに有利な燃料電池システムを提供する。
【解決手段】燃料電池システムは、スタック1とアノード通路2とカソード通路3と制御部5とを有する。制御部5は、スタック1の発電運転が電圧低下で停止したとき、フラッディング用起動処理モードよりもドライアップ用起動処理モードを優先させ、ドライアップ用起動処理モードでスタック1の再起動を試みる。制御部5は、ドライアップ用起動処理モードにおいてスタック1が再起動しないとき、フラッディング用起動処理モードを実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスタックの内部のフラッディングおよびドライアップのおそれがある燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムは、アノードおよびカソードを有するスタックと、スタックのアノードにアノード流体を供給するアノード通路と、スタックのカソードにカソード流体を供給するカソード通路と、スタックの発電運転を制御する制御部とを有する(特許文献1〜4)。特許文献1では、カソード側から吐出される湿潤状態のカソードガスをアノードに供給してアノードを加湿させることにしている。特許文献2では、スタックの起動時に、スタックの固体高分子膜が乾燥状態にあるときには、スタックが湿潤状態となるように加湿器を制御しつつ起動させることにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−216988号公報
【特許文献2】特開2001−332280号公報
【特許文献3】特開2008−112647号公報
【特許文献4】特開2008−130445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した燃料電池システムによれば、スタックの発電運転が停止したとき、停止から所定時間経過後にスタックを再起動させることにしている、しかし、スタックを再起動させることができない場合がある。例えば、スタックのドライアップ(過剰乾燥)が原因でスタックの発電電圧が低下し、これが要因でスタックの発電運転が停止されたときには、スタックの内部を乾燥方向に移行させるパージガスをスタックの内部に供給した後においてスタックの再起動を試みると、スタックの内部の乾燥度が更に進行するため、スタックが過剰な乾燥状態となり、スタックの再起動が困難となる問題がある。
【0005】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、スタックの発電停止の原因がドライアップであるかフラッディングであるかどうかにかかわらず、スタックを再起動させるのに有利な燃料電池システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、発電運転しているスタックが停止する要因として、スタックの内部のフラッディングとドライアップとがあることに着目した。フラッディングは、スタックの内部の流路面積が過剰の水で狭まり、反応ガスが流れにくくなることを意味する。ドライアップは、スタックの内部が過剰に乾燥し、電解質膜のイオン伝導率(プロトン伝導率)が過剰に低下することを意味する。
【0007】
もし、フラッディングでスタックの発電電圧が低下し、これが原因でスタックの発電運転が停止したときには、スタックの内部を乾燥方向に移行させるパージガスをスタックの内部に供給し、スタックの内部に滞在する過剰の水を吐出させるパージ処理を実行すれば、スタックの内部が適度な湿潤状態となり、スタックを再起動させたとき、スタックを再起動させることができる。
【0008】
しかし、スタックの内部のドライアップでスタックの発電電圧が低下し、これが原因で発電運転が停止されたときには、スタックの再起動時に、スタックの内部を乾燥方向に移行させるパージガスをスタックの内部に供給させてスタックの内部の水分を吐出させるパージ処理を実行すれば、スタックの内部の乾燥状態が更に進行し、スタックの内部が過剰乾燥となってしまい、スタックの再起動が困難となるおそれがあることに本発明者は着目し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明に係る燃料電池システムは、(i)アノードおよびカソードを有するスタックと、スタックのアノードにアノード流体を供給するアノード通路と、スタックのカソードにカソード流体を供給するカソード通路と、スタックの発電運転を制御する制御部とを具備しており、(ii)制御部は、スタックのカソードおよび/またはアノードにパージガスを供給してスタックの内部に滞在する水を吐出させるパージ処理を実行し、その後、スタックにアノード流体およびカソード流体を供給してスタックを起動させるフラッディング用起動処理モードと、
フラッディング用起動処理モードよりもスタックの内部の乾燥を抑えつつ、スタックにアノード流体およびカソード流体を供給してスタックを起動させるドライアップ用起動処理モードとを実行可能であり、
(iii)制御部は、スタックの発電運転が電圧低下で停止したとき、フラッディング用起動処理モードよりもドライアップ用起動処理モードを優先させ、ドライアップ用起動処理モードでスタックの再起動を試み、ドライアップ用起動処理モードにおいてスタックが再起動しないとき、フラッディング用起動処理モードを実行する。
【0010】
本発明によれば、カソード流体は、スタックのカソードに供給される流体の意味であり、酸素ガスまたは酸素含有ガス(例えば空気)が挙げられる。アノード流体は、スタックのアノードに供給される流体の意味であり、水素ガスまたは水素含有ガスが挙げられる。パージガスとしては、カソードガスと同じガス(空気等)、窒素ガス等が挙げられ、要するに、スタックの内部に滞在している過剰の液相状または気相状の水をスタックの外部に吐出させ得るガスであれば良い。
【0011】
ところで、スタックの電圧低下が原因でスタックの発電運転が停止したとき、電圧低下の原因がスタックの内部のフラッディングであるか、スタックの内部のドライアップであるか必ずしも明確ではない。そこで、制御部は、スタックの内部が過剰の乾燥状態になることを抑制することを優先する。すなわち、制御部は、スタックの内部を乾燥方向に移行させるフラッディング用起動処理モードよりも、フラッディング用起動処理モードよりも乾燥させる力が弱いドライアップ用起動処理モードを優先させる。
【0012】
従って、制御部は、まず、ドライアップ用起動処理モードでスタックの再起動を試みる。すなわち、スタックの内部の乾燥を抑えつつ、アノード流体およびカソード流体をスタックに供給してスタックを再起動させる。この場合に、スタックが起動すれば、問題がない。仮にスタックが再起動しない場合であっても、スタックの内部の乾燥が抑えられているため、スタックの内部が過剰な乾燥状態になることが回避される。
【0013】
上記したドライアップ用起動処理モードにおいてスタックが再起動しないとき、スタックの内部はフラッディング状態であると推定される。そこで制御部は、ドライアップ用起動処理モードではなく、フラッディング用起動処理モードを実行し、スタックの内部を乾燥方向に移行させるパージガスをスタックの内部に供給させる。これによりスタックの内部に過剰に滞在する水をスタックの外部に吐出させる。このため、スタックの内部は適度な湿潤状態となり、スタックの再起動は容易となる。
【0014】
スタックの内部が過剰に乾燥している時における起動処理を前提とするドライアップ用起動処理モードにおいては、スタックの内部の乾燥が更に進行することは、好ましくない。そこで、本発明の一視点によれば、好ましくは、制御部は、ドライアップ用起動処理モードにおいて、スタックにパージガスを供給するパージ処理を実行することなく、スタックにアノード流体およびカソード流体を供給してスタックを起動させる。この場合、スタックの内部を乾燥方向に移行させるパージガスがスタックの内部に供給されないため、スタックの内部が過剰乾燥とされることが抑制される。
【0015】
本発明の一視点によれば、好ましくは、フラッディング用起動処理モードは、パージガスをスタックの内部に供給するパージ操作と、パージ操作後にスタックを再起動させる操作とを繰り返し実行し、スタックが起動しない限り、パージガスをスタックの内部に供給する時間を長くする。これによりスタックの内部に過剰の水が残留しているときであっても、スタックの内部が適度な湿潤状態となり、スタックが再起動可能となる。
【0016】
本発明の一視点によれば、好ましくは、カソード通路は、カソードガスを加湿させる加湿器と、加湿器を迂回する迂回路とを有しており、制御部は、フラッディング用起動処理モードにおいて、加湿器を迂回して迂回路を通過するカソードガスをパージガスとしてスタックのカソードに供給する。フラッディング用起動処理モードにおいては、パージガスの湿度は低い方が好ましい。このため加湿器を迂回させた乾燥気味のカソードガスをスタックの内部に供給させる。
【0017】
本発明の一視点によれば、好ましくは、カソード通路は、カソードガスを加湿させる加湿器と、加湿器を迂回する迂回路とを有しており、制御部は、ドライアップ用起動処理モードにおいて、加湿器を迂回させることなく加湿器を通過したカソードガスをパージガスとしてスタックのカソードに供給する。ドライアップ用起動処理モードにおいては、パージガスはウェットでも良い。そこで、加湿器を通過させたウェットなパージガスをスタックの内部に供給させる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、スタックの発電電圧の低下によりスタックの発電運転が停止されたとき、スタックの発電電圧の低下の原因がスタックの内部のドライアップであるか、スタックの内部のフラッディングであるかどうかにかかわらず、発電運転を停止したスタックを再起動させるのに有利な燃料電池システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態1に係り、燃料電池システムの配管図である。
【図2】実施形態2に係り、制御部が実行するフローチャートである。
【図3】実施形態4に係り、燃料電池システムの配管図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(実施形態1)
本実施形態に係る燃料電池システムは、定置用、車両搭載用として利用できる。図1に示すように、本実施形態に係る燃料電池システムは、アノード10(燃料極)、カソード11(酸化剤極)および電解質層12を有する膜電極接合体を有するスタック1と、アノード流体としてのアノードガスをスタック1のアノード10に供給するアノード通路2と、カソード流体としてのカソードガスをスタック1のカソード11に供給するカソード通路3、スタック1の発電運転を制御する制御部5とを有する。カソードガスは、スタック1のカソード11に供給されるガスを意味し、酸素含有ガスである空気を採用できる。アノードガスは、スタック1のアノード10に供給されるガスを意味する。アノードガスは、水素ガスまたは水素含有ガスが挙げられる。膜電極接合体は平板タイプでも良いし、チューブタイプでも良い。
【0021】
カソード通路3には、カソードガスをスタック1のカソード11に向けて搬送させる搬送源30けられている。搬送源30として、ファン、ブロア、ポンプ、コンプレッサ等が挙げられる。アノード通路2の先端にはアノードガス供給源20が繋がれている。アノードガス供給源20としては、アノードガス(アノード流体)を貯蔵するタンク、あるいは、炭化水素系またはアルコール系等の燃料原料を水蒸気改質反応等の改質反応により改質させてアノードガス(アノード流体)を生成させる改質器が挙げられる。
【0022】
カソード通路3は、発電反応前のカソードガスがカソード11の入口11iに向かう往通路31と、カソード11の出口11pから排出された発電反応後のカソードオフガスを吐出させる復通路34をもつ。発電反応後のカソードオフガスは、発電反応前のカソードガスよりも高温高湿である。往通路31には、カソードガスをカソード11の入口11iに供給させる入口バルブ32が設けられている。復通路34には、カソード11の出口11pからカソードオフガスを排出させる出口バルブ35が設けられている。カソード通路3の往通路31は、カソードガスを加湿部36aで加湿させる加湿器36と、加湿器36の加湿部36aを迂回する第1迂回路37と、加湿部36aを流れるカソードガスの流量と第1迂回路37を流れるカソードガスの流量とを調整する第1調整バルブ38とを有する。復通路34は、加湿器36の吸湿部36cを迂回する第2迂回路47と、吸湿部36cを流れるカソードオフガスの流量と第2迂回路47を流れるカソードオフガスの流量とを調整する第2調整バルブ48とを有する。
【0023】
アノード通路2は、発電反応前のアノードガスがアノード10に向かう往通路21と、アノード10から排出された発電反応後のアノードオフガスを吐出させる復通路24をもつ。往通路21には、アノードガスをアノード10の入口10iに供給させる入口バルブ22が設けられている。復通路24には、アノードオフガスをアノード10の出口10pから排出させる出口バルブ25が設けられている。
【0024】
前述から理解できるように、加湿器36は、カソードガスが流れるカソード通路3の往通路31に配置された加湿部36aと、カソードオフガスが流れる復通路34に配置された吸湿部36cと、吸湿部36cで吸湿させた水分および熱を加湿部36aに移動させる水分保持膜36dとをもつ。スタック1のカソード11の出口11pから排出された直後のカソードオフガスは、気相状または液相状の水分を含有しており、スタック1のカソード11に供給される前のカソードガスよりも高温高湿である。カソードオフガスに含まれている水分および熱は、吸湿部36cに吸湿される。吸湿部36cの水分および熱は膜36dを介して加湿部36aに移動するので、加湿部36aを流れるカソードガスを加湿および加熱させる。加湿および加熱されたカソードガスは、スタック1の入口11iからカソード11に供給される。
【0025】
スタック1の過剰高温化を抑える冷却系6が設けられている。冷却系6は、スタック1の内部を通過する冷媒通路60と、冷媒通路60の冷媒を循環させる冷媒搬送源61とを有する。冷媒搬送源61としてはポンプが例示される。冷媒としては冷却水、冷却空気、冷却ミスト等が挙げられる。スタック1の温度を測定する温度センサ16が設けられている。スタック1の温度は、冷媒通路60の出口側の冷媒の温度とすることができる。温度センサ16の温度信号は制御部5に入力される。
【0026】
制御部5は、CPU5cと記憶要素5dとを有する。制御部5は各バルブ22,25,32,35,38,48、冷媒搬送源61等を制御する。制御部5の記憶要素5dには、スタック1の内部が過剰乾燥している状態においてスタック1を起動させるためのドライアップ用起動処理モードを実行する制御則が格納されており、且つ、スタック1の内部が過剰に湿潤している状態においてスタック1を起動させるフラッディング用起動処理モードを実行する制御則が格納されている。
【0027】
本実施形態によれば、スタック1の発電運転時には、アノードガスがスタック1のアノード10に供給され、且つ、カソードガスがスタック1のカソード11に供給される。これによりスタック1が発電運転される。スタック1の発電運転においてなんらかの事情でスタック1の電圧が低下し、これに基づいてスタック1の発電運転が停止されることがある。スタック1の発電運転が電圧低下で停止したとき、電圧低下の原因がスタック1の内部のフラッディングであるか、スタック1の内部のドライアップであるか必ずしも明確ではない。
【0028】
ここで、万一、スタック1の発電電圧の低下の原因がスタック1の内部のドライアップが原因であったにもかかわらず、スタック1の内部の乾燥を促進させるフラッディング用起動処理モードを実施してしまうと、すなわち、スタック1の内部を乾燥させる機能を有するパージガスをスタック1の内部に供給してしまうと、スタック1の内部が更に過剰乾燥となることが考えられる。この用に過剰に乾燥されたスタック1の再起動は困難となるおそれがある。
【0029】
そこで、スタック1が何らかの原因で電圧低下し、スタック1の発電運転が停止されたときには、制御部5は、スタック1の内部が過剰乾燥状態になることを抑制すべく、スタック1の内部の乾燥を促進させるフラッディング用起動処理モードよりも、スタック1の内部の乾燥を促進させないドライアップ用起動処理モードを優先させる。
【0030】
すなわち、制御部5は、まず、スタック1の内部の乾燥を促進させるモードであるフラッディング用起動処理モードを実施するのではなく、スタック1の内部の乾燥を促進させないモードであるドライアップ用起動処理モードを優先的に実施する。その状態でスタック1の再起動を試みる。ここで、ドライアップ用起動処理モードでは、スタック1の内部の乾燥を促進させる機能をもつパージガス(例えば乾燥状態のガス)をスタック1の内部に供給させることなく、反応ガスであるアノードガスをスタック1のアノード10に供給すると共に、反応ガスであるカソードガスをスタック1のカソード11に供給してスタック1を再起動させる。この場合、スタック1が再起動すれば、問題がない。
【0031】
このようにドライアップ用起動処理モードでは、スタック1の内部の乾燥を促進させる機能をもつパージガスがスタック1の内部に供給されないため、スタック1の内部が過剰乾燥の状態になることが抑制される。
【0032】
しかし上記したドライアップ用起動処理モードを実施してスタック1の再起動を試みたとしても、スタック1が実際に再起動しないときがある。この場合には、スタック1の発電電圧の低下の要因は、スタック1の内部の過剰乾燥(ドライアップ)ではなく、スタック1の内部の過剰湿潤(フラッディング)であると推定される。
【0033】
そこで制御部5は、スタック1の内部を乾燥方向に移行させるフラッディング用起動処理モードを実行し、スタック1の内部に滞在している過剰の水を吐出させる機能を有するパージガスをスタック1のカソード11の内部に供給し、スタック1のカソード11の内部に過剰に滞在している水をスタック1の外部に吐出させることを試みる。これによりスタック1のカソード11の内部における湿潤度を低下させ、スタック1のカソード11の内部を適度な湿潤状態とさせる。この結果、スタック1のカソード11は、過剰な湿潤状態から適度な湿潤状態に移行する。このためスタック1を再起動させ得る確率が高まる。
【0034】
本実施形態によれば、上記したようにフラッディング用起動処理モードは、スタック1の内部の過剰湿潤を抑制する。このため、フラッディング用起動処理モードにおいては、制御部5は、加湿器36の加湿部36aを迂回して第1迂回路37を通過するカソードガス(相対湿度および絶対湿度が相対的に低い乾燥状態のガス)を、パージガスとしてスタック1のカソード11に供給することが好ましい。このカソードガス(空気)は加湿部36aを通過していないため、ウェット状態ではなく、加湿部36aで加湿されたカソードガス、スタック1のカソード11の出口11pから排出されたカソードオフガス等に比較して、ドライ状態である。このようなドライ状態のカソードガス(空気)がパージガスとして第1迂回路37を流れ、加湿器36の加湿部36aを迂回してスタック1のカソード11の入口11iに供給されるため、スタック1のカソード11の過剰な湿潤状態は抑えられ、ひいてはスタック1の内部全体の過剰な湿潤状態は抑えられる。このためスタック1を起動運転させるのに適する。
【0035】
(実施形態2)
図2は実施形態2を示す。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成および同様の作用効果を有する。スタック1が発電運転しているとき、発電電圧が何らかの原因で低下し、これが原因でスタック1の発電運転が停止されるときがある。このようにスタック1の発電運転が停止された場合、スタック1を再起動させる場合において、制御部5が実行する処理について説明する。
【0036】
まず、時間等の読み込みを行い(ステップS100)、スタック1の発電運転が停止された時刻から所定時間T1経過しているか否か判定する(ステップS102)。スタック1の発電運転の停止から時間が経過すれば、スタック1の内部が冷却されるので、スタック1の内部に残留しているカソードガスおよび/またはアノードガスが冷却され、スタック1の内部において凝縮水を生成させ、スタック1の内部の湿分を高めることが考えられる。所定時間T1については、スタック1が冷却してスタック1の内部に凝縮水が適量生成されるような時間として設定することができる。所定時間T1は、燃料電池システムの用途、種類、加湿器36の温度などを考慮して適宜選択され、例えば、10秒〜3時間の範囲内で設定できる。この場合、万一、スタック1の内部の湿分が過剰に増加したとしても、フラッディング用起動処理におけるパージ処理により対処できるため、実害はない。なお、所定時間T1が経過したとしても、加湿器36の温度は常温域よりも高温であっても良いし、加湿器36の温度が常温域であっても良い。
【0037】
スタック1の運転停止の時刻から所定時間T1経過していれば(ステップS102のYES)、スタック1を再起動させる指示を出力する(ステップS104)。この場合、制御部5は、スタック1の内部の乾燥を促進させるフラッディング用起動処理モードよりも、スタック1の内部の乾燥を促進させないドライアップ用起動処理モードを優先させる。すなわち、制御部5は、まず、ドライアップ用起動処理モードを実施してスタック1の再起動を試みる(ステップS106)。このモードでは、スタック1の内部を乾燥方向に移行させるパージガスをスタック1の内部に供給させない。このモードでは、反応ガスであるアノードガスをスタック1のアノード10に供給し、且つ、反応ガスであるカソードガスをスタック1のカソード11に供給し、スタック1の再起動を試みる。この場合、第1調整バルブ38を制御し、カソードガスを加湿部36aに供給し、加湿部36aを通過させたカソードガスを反応ガスとしてカソード11に供給させることが好ましい。その理由としては、発電運転が停止された時刻から時間があまり経過していない限り、加湿器36の加湿部36aはまだ常温域よりも高温であり、加湿部36aは加湿能力を有すると考えられるためである。
【0038】
ここで、アノードガスをスタック1のアノード10に供給するためには、入口バルブ22および出口バルブ25を開放させる。カソードガスをスタック1のカソード11に供給するためには、搬送源30を作動させつつ、入口バルブ32および出口バルブ35を開放させる。
【0039】
上記したようにスタック1の再起動を試みたら、次に、スタック1が発電可能であるか否か判定する(ステップS108)。スタック1が発電可能か否かについて、スタック1を電力負荷に接続させた状態で、電力負荷に電流I1を流しつつスタック1の発電電圧が閾値電圧V1以上であれば、スタック1は発電可能とみなす。閾値電圧V1未満であれば、発電不可能と判定する。
【0040】
スタック1が発電可能であれば、通常の発電モードに移行し(ステップS140)、アノードガスを継続的にスタック1のアノード10に供給し、カソードガスを継続的にスタック1のカソード11に供給し、スタック1の発電運転を継続させる。
【0041】
しかし上記したようにドライアップ用起動処理モードを実施してスタック1の再起動を試みたとしても、スタック1が実際に再起動しないときには(ステップS108のNO)、スタック1の発電を停止させる指令を出力する(ステップS110)。従って、アノードガスおよびカソードガスのスタック1への供給は、停止される。この場合、スタック1の発電運転の停止の要因は、スタック1の内部のドライアップではなく、スタック1の内部のフラッディング(スタック1の内部の過剰な湿潤状態)であると推定される。
【0042】
そこで制御部5は、第1回目のフラッディング用起動処理モードを実行し、カソードガスをパージガスとしてスタック1のカソード11の内部に所定時間T2供給することにより、スタック1の再起動を試みる(ステップS112)。このようなフラッディング用起動処理モードでは、スタック1の内部を乾燥方向に移行させるパージガスをスタック1の内部に供給することにより、スタック1の内部に過剰に滞在している水をスタック1の外部に吐出させてスタック1の内部の湿潤度を低下させた状態で、スタック1の再起動を試みる。
【0043】
次に、スタック1が発電可能であるか判定する(ステップS114)。スタック1が発電可能か否かについて、スタック1を電力負荷に接続させた状態で、電力負荷に電流I2を流しつつスタック1の発電電圧が閾値電圧V2以上であれば、スタック1は発電可能とみなす。
【0044】
スタック1が発電可能であれば(ステップS114のYES)、通常の発電モードに移行する(ステップS140)。
【0045】
しかし上記したようにスタック1の再起動を試みたとしても、スタック1が実際に再起動しないときには(ステップS114のNO)、スタック1の発電を停止させる指令を出力する(ステップS116)。この場合、スタック1の内部過剰なフラッディング状態(スタック1の内部の過剰な湿潤状態)が解消されていないと推定される。そこで制御部5は、スタック1の内部の乾燥を進行させる第2回目のフラッディング用起動処理モードを実行し、カソードガスをパージガスとしてスタック1の内部に所定時間T3供給し、これによりスタック1の内部に滞在している水をスタック1の外部に吐出させ、スタック1の内部の湿潤度を低下させた状態で、スタック1を再起動させる信号を出力し、再起動を試みる(ステップS118)。
【0046】
次に、スタック1が発電可能であるか判定する(ステップS120)。スタック1が発電可能か否かについて、スタック1を電力負荷に接続させた状態で、電力負荷に電流I3を流しつつスタック1の発電電圧が閾値電圧V3以上であれば、スタック1は発電可能とみなす。スタック1が発電可能であれば(ステップS120のYES)、通常の発電モードに移行する(ステップS140)。
【0047】
しかし上記したようにスタック1の再起動を試みたとしても、スタック1が実際に再起動しないときには(ステップS120のNO)、スタック1の発電を停止させる指令を出力する(ステップS122)。この場合、スタック1の内部は、まだ過剰なフラッディング状態(スタック1の内部の過剰な湿潤状態)が解消されていない推定される。
【0048】
そこで制御部5は、スタック1の内部を乾燥方向に移行させる第3回目のフラッディング用起動処理モードを実行し、パージガスをスタック1の内部に所定時間T4供給させ、これによりスタック1の内部に滞在している水をスタック1の外部に吐出させ、スタック1の内部の湿潤度を低下させた後、スタック1を再起動させる信号を出力し、再起動を試みる(ステップS124)。
【0049】
ステップS124まで実行されると、パージガスをスタック1の内部に供給している合計時間は、時間T2,時間T3,時間T4を加算するため、長い時間となる。
【0050】
次にスタック1が発電可否であるか判定する(ステップS126)。スタック1が発電可能か否かについて、スタック1を電力負荷に接続した状態で、電力負荷に電流I4を流しつつスタック1の発電電圧が閾値電圧V4以上であれば、スタック1は発電可能とみなす。スタック1が発電可能であれば(ステップS126のYES)、通常の発電モードに移行する(ステップS140)。
【0051】
上記したようにスタック1の再起動を試みたとしても、スタック1が実際に再起動しないときには(ステップS126のNO)、スタック1の発電を停止させる指令を出力し(ステップS128)、メンテナンス者またはユーザに警告信号を出力し(ステップS130)、メインルーチンにリターンする。
【0052】
上記した所定時間T2,T3,T4は、燃料電池システムの用途、種類などに応じて適宜選択され、例えば、10秒〜3時間の範囲内、30秒〜60分間の範囲内で設定できる。上記した所定時間T2,T3,T4については、T2<T3<T4の関係とすることができる。この場合、合計されたパージ処理時間が長くなるため、スタック1の内部に滞在している水が排出され易くなり、スタック1の内部が過剰な湿潤状態であっても対処できる。なお、場合によっては、T2=T3=T4の関係、あるいは、T2≒T3≒T4の関係とすることができる。
【0053】
本実施形態によれば、スタック1の発電可能であるかの基準である閾値電圧については、V2,V3,V4については、V2=V3=V4の関係としてもよい。あるいは、V2>V3>V4の関係としても良い。この場合、スタック1のカソード11に対するパージ処理時間が長くなるため、スタック1が発電可能であると判定され易くなる。あるいは、V2<V3<V4の関係としても良い。
【0054】
本実施形態によれば、前述したようにスタック1の発電運転が停止された時刻から所定時間T1経過していれば、ステップS104において、スタック1を再起動させる指示を出力するが、これに限らず、スタック1の温度を測定する温度センサ16の温度が所定温度TW以下になったら、スタック1を再起動させる指示を出力することにしても良い。スタック1の温度が所定温度TW以下になれば、スタック1の内部が冷却されているので、スタック1の内部に残留しているカソードガスおよび/またはアノードガスが冷却され、スタック1の内部において凝縮水を生成させ、スタック1の内部の電解質層12やアノード10,カソード11の湿分を高めることができる。この場合、ドライアップが原因でスタック1の発電運転が停止したとしても、スタック1の再起動が可能となる確率が増加する。所定温度TWとしては、スタック1が冷却してスタック1の内部に凝縮水が適量生成されるような温度として設定することができる。所定温度TWは、燃料電池システムの用途、種類などを考慮して適宜選択される。
【0055】
(実施形態3)
本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成および同様の作用効果を有するため、図1を準用する。前述したように、スタック1が発電運転しているとき、なんらかの原因で、スタック1の電圧が低下し、これに基づいてスタック1の発電運転が停止されることがある。スタック1の発電運転が電圧低下で停止したとき、電圧低下の原因がスタック1の内部のフラッディングであるか、スタック1の内部のドライアップであるかについては、必ずしも明確ではない。
【0056】
発電運転が停止された時刻からの経過時間が短時間であり、加湿器25の加湿部36aがまだ完全に冷えておらず、水分保持膜36dが水分を保持しており、加湿部36aが暖かいときには、加湿部36aはカソードガスを加湿させる加湿能力を有している。この場合、加湿部36aを通過するカソードガスを加湿部36aで加湿させることが可能となる。なお、所定時間T1は、燃料電池システムの用途、種類などに応じて適宜選択される。
【0057】
上記した場合、発電運転が停止されたときには、他の実施形態と同様に、制御部5は、スタック1の内部の乾燥を促進させるフラッディング用起動処理モードよりも、スタック1の内部の乾燥を促進させないドライアップ用起動処理モードを優先させて実施する。
【0058】
すなわち、スタック1の電圧低下が原因で発電運転が停止されたときには、制御部5は、まず、スタック1の内部のドライアップが原因で発電電圧が低下したと推定する。そして、制御部5は、スタック1の内部の乾燥を促進させないモードであるドライアップ用起動処理モードを優先的に実施し、スタック1の再起動を試みる。
【0059】
ここで、ドライアップ用起動処理モードでは、第1調整バルブ38を作動させ、パージガスとして機能するカソードガスを加湿器36の加湿部36aに所定時間T9供給して加湿させる。このように加湿部36aで加湿させたカソードガス(空気)をスタック1のカソード11の内部に所定時間T9供給させる。これによりスタック1のカソード11に湿分を与え、カソード11の過剰乾燥を是正する。その後、反応ガスであるアノードガスをスタック1のアノード10に供給すると共に、反応ガスであるカソードガスをスタック1のカソード11に供給してスタック1を再起動させる。この場合、スタック1が再起動すれば、問題がない。なお、所定時間T9は燃料電池システムの用途および種類等に応じて適宜選択される。
【0060】
このように本実施形態に係るドライアップ用起動処理モードでは、スタック1の内部に湿度を与えるために加湿部36aで加湿させたカソードガスをパージガスとしてスタック1の内部に供給する。このため、スタック1の起動開始時において、スタック1の内部が過剰乾燥状態になることが抑制される。
【0061】
しかし上記したドライアップ用起動処理モードを実施してスタック1の再起動を試みたとしても、スタック1が実際に再起動しないときがある。この場合、スタック1の発電運転の停止の要因は、スタック1の内部のドライアップではなく、スタック1の内部のフラッディング(スタック1の内部の過剰な湿潤状態)であると推定される。
【0062】
そこで制御部5は、スタック1の内部を乾燥方向に移行させるフラッディング用起動処理モードを実行し、カソードガス(空気)をパージガスとしてスタック1の内部に供給し、スタック1の内部に過剰に滞在している水をスタック1の外部に吐出させる。このようにスタック1のカソード11の内部の湿潤度を低下させた状態で、スタック1を再起動させる。
【0063】
(実施形態4)
図3は実施形態4を示す。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成および同様の作用効果を有する。カソード通路3は、カソードガスがカソード11に向かう往通路31と、カソード11から排出されたカソードオフガスを吐出させる復通路34とをもつ。カソード通路3の往通路31には迂回路が設けられていない。カソード通路3の復通路34には迂回路が設けられていない。ドライアップ用起動処理モード、フラッディング用起動処理モードの双方ともに、カソードガスを加湿部36aを介してカソード11に供給する。
【0064】
第1回目の再起動時には加湿器36の内部(特に、水分保持膜36d)に水分が残留しているため、ドライアップ用起動処理モードが実行される。第2回目以降の再起動については、前段階の再起動時よりも加湿器36の内部が乾燥状態となっている。このため、前の再起動時よりも乾燥したカソードガスが供給され、フラッディング用起動処理モードが実行される(発電していないためカソードオフガスに含まれる水分は限定的である)。
【0065】
(実施形態5)
本実施形態は実施形態2と基本的には同様の構成および同様の作用効果を有する。図2に示す実施形態2によれば、ドライアップ用起動処理モードでスタック1が再起動しないときには、制御部5は、複数回のフラッディング用起動処理モードを実施してスタック1の再起動を試みる。本実施形態によれば、複数回のフラッディング用起動処理モードのうち少なくとも一つにおいて、制御部5は、カソードガスを搬送させる搬送源30の作動を間欠的に制御し、スタック1のカソード11に供給されるカソードガスの圧力および/または流量を脈動化させるようにしても良い。この場合、スタック1の内部に残留している水を、カソードガスの脈動化により移動させ易くなり、結果としてスタック1の外部に排出させ易くなる。この場合、搬送源30の出力の増減が繰り返される。
【0066】
(その他)本発明は上記し且つ図面に示した実施形態のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は例えば定置用、車両用、電気機器用、電子機器用などの燃料電池システムに利用することができる。
【符号の説明】
【0068】
1はスタック、10はアノード、11はカソード、2はアノード通路、21は往通路、24は復通路、27は第2迂回路、28は第2調整バルブ、3はカソード通路、30は搬送源、31は往通路、34は復通路、36は加湿器、36aは加湿部、36cは吸湿部、36dは膜、37は第1迂回路、38は第1調整バルブ、47は第2迂回路、48は第2調整バルブ、5は制御部を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードおよびカソードを有するスタックと、前記スタックの前記アノードにアノード流体を供給するアノード通路と、前記スタックの前記カソードにカソード流体を供給するカソード通路と、前記スタックの発電運転を制御する制御部とを具備しており、
前記制御部は、前記スタックの前記カソードおよび/または前記アノードにパージガスを供給して前記スタックの内部に滞在する水を吐出させるパージ処理を実行し、その後、前記スタックに前記アノード流体および前記カソード流体を供給して前記スタックを起動させるフラッディング用起動処理モードと、
前記フラッディング用起動処理モードよりも前記スタックの内部の乾燥を抑えつつ、前記スタックに前記アノード流体および前記カソード流体を供給して前記スタックを起動させるドライアップ用起動処理モードとを実行可能であり、
前記制御部は、前記スタックの発電運転が電圧低下で停止したとき、前記フラッディング用起動処理モードよりも前記ドライアップ用起動処理モードを優先させ、前記ドライアップ用起動処理モードで前記スタックの再起動を試み、前記ドライアップ用起動処理モードにおいて前記スタックが再起動しないとき、前記フラッディング用起動処理モードを実行する燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1において、前記制御部は、前記ドライアップ用起動処理モードにおいて、前記スタックに前記パージガスを供給するパージ処理を実行することなく、前記スタックに前記アノード流体および前記カソード流体を供給して前記スタックを起動させる燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1または2において、前記フラッディング用起動処理モードは、前記パージガスを前記スタックの内部に供給するパージ操作と、前記パージ操作後に前記スタックを再起動させる操作とを繰り返し実行し、
前記スタックが起動しない限り、前記パージガスを前記スタックの内部に供給する時間を長くする燃料電池システム。
【請求項4】
請求項1〜3のうちの一項において、前記カソード通路は、前記カソードガスを加湿させる加湿器と、前記加湿器を迂回する迂回路とを有しており、
前記制御部は、前記フラッディング用起動処理モードにおいて、前記加湿器を迂回して前記迂回路を通過する前記カソード流体を前記パージガスとして前記スタックの前記カソードに供給する燃料電池システム。
【請求項5】
請求項1〜3のうちの一項において、前記カソード通路は、前記カソード流体を加湿させる加湿器と、前記加湿器を迂回する迂回路とを有しており、
前記制御部は、前記ドライアップ用起動処理モードにおいて、前記加湿器を迂回させることなく前記加湿器を通過した前記カソードガスを前記パージガスとして前記スタックの前記カソードに供給する燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−218876(P2010−218876A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−64105(P2009−64105)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】