燃料電池スタックおよび燃料電池セパレータ並びにその製造方法
【課題】製品のコストアップを抑え、耐食性能が高い燃料電池のスタック並びにその製造方法を提供する。
【解決手段】電解質膜電極積層体をその両側からガス流路を画成する第一、第二セパレータ7A、7Cで挟むことによって燃料電池セルを構成し、これら積層される複数の各燃料電池セルを貫通してガス流路に連通するガスマニホールド31Cを備える燃料電池スタックにおいて、第一、第二セパレータ7A、7Cにガスマニホールド31Cを画成するマニホールド開口部45,46をそれぞれ形成し、第一、第二セパレータ7A、7Cのマニホールド開口部45、46の開口面積を相違させ、開口面積が大きい第一セパレータ7Aのマニホールド開口内周端49を第二セパレータ7Cに溶接してマニホールド溶接部41Cを形成した。
【解決手段】電解質膜電極積層体をその両側からガス流路を画成する第一、第二セパレータ7A、7Cで挟むことによって燃料電池セルを構成し、これら積層される複数の各燃料電池セルを貫通してガス流路に連通するガスマニホールド31Cを備える燃料電池スタックにおいて、第一、第二セパレータ7A、7Cにガスマニホールド31Cを画成するマニホールド開口部45,46をそれぞれ形成し、第一、第二セパレータ7A、7Cのマニホールド開口部45、46の開口面積を相違させ、開口面積が大きい第一セパレータ7Aのマニホールド開口内周端49を第二セパレータ7Cに溶接してマニホールド溶接部41Cを形成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セパレータを金属板で構成するのに好適な燃料電池スタックおよび燃料電池セパレータ並びにその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、プロトン伝導性を有する固体高分子電解質膜を備え、この電解質膜を挟んで設けられる一対の電極のうちアノードに燃料ガスを供給するとともに、他方のカソードに酸化剤ガスを供給し、電解質膜の表面で生じる電気化学反応を利用して発電するものである。
【0003】
1つの燃料電池セルは、一対の電極触媒層で電解質膜を挟んで構成する電解質膜電極積層体(MEA)と、電解質膜電極積層体の両側にガス流路を画成するセパレータとを備える。
【0004】
セパレータは燃料ガスあるいは酸化剤ガスを流通させるガス流路を画成するとともに、温調媒体を流通させる温調媒体流路を画成する。
【0005】
また、セパレータは、各燃料電池セルの電極触媒層から出力を取り出す導電経路を兼ねるため、全体が導電性の材料で構成される。
【0006】
従来、燃料電池用のセパレータは耐食性と導電性を兼ね備えたカーボン製のものが用いられてきたが、近年、金属製セパレータを用いて製品のコストダウンをはかるとともに、セパレータを薄肉化して出力密度を向上させる燃料電池構造が、例えば特許文献1〜4にあるように、種々提案されている。
【0007】
特許文献1には、ステンレス鋼板の表面にクラッドされたチタン又はチタン合金による耐食被覆処理層を形成したセパレータが開示されている。
【0008】
特許文献2には、ステンレス鋼板の表面に貴金属メッキ層からなる耐食被覆処理層が形成したセパレータが開示されている。
【0009】
特許文献3には、ステンレス鋼板の表面にチタンコーティング層からなる耐食被覆処理層を形成したセパレータが開示されている。
【0010】
特許文献4には、金属板の表面に貴金属メッキ層からなる耐食被覆処理層を形成したセパレータが開示されている。
【0011】
特許文献5には、2枚のセパレータを溶接し、燃料電池セルを貫通するガスマニホールドを画成する構造が開示されている。
【特許文献1】特開2005−002411号公報
【特許文献2】特開2005−190968号公報
【特許文献3】特開2005−276807号公報
【特許文献4】特開2005−317479号公報
【特許文献5】特開2004−127699号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、このような従来の燃料電池スタックにあっては、2枚の金属製セパレータを溶接し、溶接した金属製セパレータの端部がガスマニホールドを画成する構造となっているため、溶接したセパレータの開口端の間に隙間が有り、この隙間部分に腐食が発生する可能性があった。
【0013】
また、金属製セパレータや集電板の表面に耐食被覆処理層が形成される場合、高価な貴金属の使用量が増え、製品のコストアップを招くという問題点があった。
【0014】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、製品のコストアップを抑え、耐食性能が高い燃料電池のスタックおよび燃料電池セパレータ並びにその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、対の電極触媒層で電解質膜を挟んで構成した電解質膜電極積層体をさらにその両側からガス流路を画成する金属製の第一、第二セパレータで挟むことによって燃料電池セルを構成し、これら積層される複数の燃料電池セルを貫通して各燃料電池セルのガス流路に連通するガスマニホールドを備える燃料電池スタックおよび燃料電池セパレータ並びにその製造方法に適用する。
【0016】
そして、第一、第二セパレータにガスマニホールドを画成するマニホールド開口部をそれぞれ形成し、第一、第二セパレータのマニホールド開口部の開口面積を相違させ、開口面積が大きい第一セパレータのマニホールド開口内周端を第二セパレータに溶接してマニホールド溶接部を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、開口面積が大きい第一セパレータのマニホールド開口内周端を第二セパレータに溶接してマニホールド溶接部を形成するため、第一、第二セパレータのマニホールド溶接部よりマニホールド開口部側に位置する部位に隙間を作ることがなく、この部位が腐食することを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の燃料電池スタックおよび燃料電池セパレータ並びにその製造方法の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0019】
図1は本発明の実施形態に係る燃料電池スタックの斜視図であり、図2は燃料電池スタックの平面図である。図1、図2に示すように、燃料電池スタック1は、複数の燃料電池セル2を直列に積層するとともに、積層方向の両端に対の集電板14と絶縁板15とエンドプレート16を配置して、複数本のタイロッド13が各エンドプレート16を引き寄せることにより各燃料電池セル2の積層方向に締め付け荷重が付与される。
【0020】
なお、自動車に搭載される燃料電池にあっては、燃料電池スタック1は例えば300〜400個の燃料電池セル2が直列に積層される。燃料スタック1で生じた起電力は各集電板14の出力端子14A、14Bを介して取り出される。
【0021】
一方のエンドプレート16にはカソードガス入口51、温調媒体入口52、アノードガス入口53、カソードガス出口54、温調媒体出口55、アノード出口56が開口し、これらに図示しない配管が接続される。
【0022】
図3に示すように、単位ユニットとして設けられる燃料電池セル2は、一対の電極触媒層5A、5Cで電解質膜4を挟んで構成した電解質膜電極積層体(MEA)3と、電解質膜電極積層体3の両側にガス流路8A、8Cを画成する第一、第二セパレータ(セパレータ)7A、7Cとを備える。
【0023】
電解質膜電極積層体3は、プロトン伝導性を有する固体高分子電解質膜4を備え、この電解質膜4の反応領域の両面に各極の電極触媒層5A、5Cを配置し、さらにこれらを挟持するように各極のガス拡散層6A、6Cを配置して構成される。電極触媒層5A、5Cは例えば白金または白金と他の金属からなる合金によって形成される。ガス拡散層6A、6Cは例えばカーボンクロス、カーボンペーパ、あるいはカーボンフェルト等、ガス拡散性と導電性を有する材料によって構成される。
【0024】
燃料電池は、電解質膜4を挟んで設けられる一方のアノードに燃料ガスを供給するとともに、他方のカソードに酸化剤ガスを供給することにより、電解質膜4の表面で下記の(1)、(2)式で表される反応がそれぞれ行われて発電する。
アノード反応:H2 → 2H+ + 2e- …(1)
カソード反応:2H+ + 2e- + (1/2)O2 → H2O …(2)
電解質膜電極積層体3の両側には電解質膜4の反応領域を囲む周辺領域にガスケットが配置され、第一、第二セパレータ7A、7Cはこのガスケットを介して電解質膜電極積層体3を挟持する。
【0025】
ガスケットはシリコーンゴム、EPDMまたはフッ素ゴム等のゴム状弾性材料によって形成される。ガスケットは第一、第二セパレータ7A、7Cあるいは弾性係数の大きい薄板材に一体化しても良い。この薄板材は例えば、ポリカーボネ−ト、ポリエチレンテレフタレートによって形成され、電解質膜電極積層体3に例えば熱硬化型フッ素系あるいは熱硬化型シリコンの液状シールによって接着される。
【0026】
第一セパレータ7Aとガス拡散層6Aの間にアノードガスを導くガス流路8Aが画成される。アノードガスとして例えば水素ガスを図示しない入口マニホールドからガス流路8Aに導入し、このガス流路8Aを通してガス拡散層6Aに供給し、反応に利用されなかったガスを出口マニホールドに排出する。
【0027】
第二セパレータ7Cとガス拡散層6Cの間にカソードガスを導くガス流路8Cが画成される。カソードガスとして例えば空気を入口マニホールドからガス流路8Cに導入して、ガス流路8Cを通してガス拡散層6Cに供給し、反応に利用されなかったガスを出口マニホールドに排出する。
【0028】
第一、第二セパレータ7A、7Cの間には温調媒体を流通させる温調媒体流路9が画成される。温調媒体流路9は温調媒体として例えば冷却水を入口マニホールドから導入して第一、第二セパレータ7A、7Cの間を通して出口マニホールドに排出する。温調媒体は第一、第二セパレータ7A、7Cを介して反応熱を吸収し、燃料電池スタック1を冷却する。
【0029】
また、第一、第二セパレータ7A、7Cの間にも図示しないガスケットが介装され、温調媒体の漏洩防止がはられる。
【0030】
なお、温調媒体は、高い電気抵抗値を有することが望ましく、自動車に搭載される燃料電池にあっては、寒冷地でも凍結しない不凍液を用いる。
【0031】
金属板からなる第一、第二セパレータ7A、7Cは、燃料電池の作動条件や電池内環境を考慮して、例えば、SUS316Lのステンレス鋼が使用される。
【0032】
なお、第一、第二セパレータ7A、7Cの基材は、これに限らず、Fe、Ni、Crの少なくとも一つ以上を主成分とするステンレス鋼であるか、Al、Ti、Cu、Zn、Mg、Mn、Pb、Au、Ag、Pt、Pd、Ru、W、Ni、Cr、Sn、Feの単体もしくはこれらを主成分とする合金としても良い。
【0033】
第一、第二セパレータ7A、7Cは、流路等の形状を型彫りした金型により金属板をプレス成形することにより製作される。この金属板の厚さは、例えば、0.1〜1.0[mm]程度に設定される。
【0034】
図4は第一、第二セパレータ7A、7Cを接合したセパレータ接合体30の断面図である。第一、第二セパレータ7A、7Cは波板状に形成され、ガス拡散層6A、6Cに隣接する凸部21と、隣接する燃料電池セル2のセパレータ7A、7Cと隣接する凸部22とが交互に並ぶように形成される。各凸部21、22の間に画成される各ガス流路8A、8C、温調媒体流路9の流路幅は例えば、0.1〜5.0[mm]程度に設定される。
【0035】
第一、第二セパレータ7A、7Cは電解質膜電極積層体3に対峙する反応側表面25と、その反対側の背面26とを有し、各反応側表面25によって各ガス流路8A、8Cが画成される一方、背面26によって温調媒体流路9が画成される。
【0036】
ステンレス鋼を基材とする第一、第二セパレータ7A、7Cは、各反応側表面25のみに耐食被覆処理層27を形成し、各背面26には耐食被覆処理層を形成しないものとする。
【0037】
反応側表面25に施される耐食被覆処理層27は、例えば金(Au)からなり、その厚さを5[μm]程度とする金メッキ層を形成し、燃料電池特有の強酸性環境、特に硫酸酸性環境での耐食性を確保する。
【0038】
なお、反応側表面25に施される耐食被覆処理層27は、金メッキ層に限らず、耐食性向上のための、例えば、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、チタン(Ti)を用いたコーティングもしくは表面改質処理によって形成しても良い。
【0039】
一方、第一、第二セパレータ7A、7Cの各背面26にはこの耐食被覆処理層が形成されず、その表層に酸化皮膜が形成される。隣接する燃料電池セル2の第一、第二セパレータ7A、7Cの背面26同士を溶接部10により接合する。この溶接部10は電極触媒層5A、5Cに挟まれる反応領域に形成される。
【0040】
背面26の表層に形成される酸化皮膜は、絶縁性を持つ被膜であるが、隣接する燃料電池セル2の第一、第二セパレータ7A、7Cの背面26同士を溶接部10により接合する。溶接部10では第一、第二セパレータ7A、7C間の接触電気抵抗が発生せず、第一、第二セパレータ7A、7Cの貫通電気抵抗を低減し、燃料電池の発電性能を高められる。
【0041】
金属板をプレス成形することにより形成される各凸部21、22は、平面状に延びるリブ平面部21a、22aと、このリブ平面部21a、22aの端部で円弧状に曲折するリブ角部21b、22bを有する。
【0042】
溶接部10は、各ガス流路8A、8Cを画成する溝底となるリブ平面部21a同士を溶接する。
【0043】
図5はセパレータ接合体30の平面図である。セパレータ接合体30の一端部には温調媒体マニホールド33と各ガスマニホールド31A、31Cが開口している。セパレータ接合体30の図示しない他端部には同様に温調媒体マニホールドと各ガスマニホールドが開口し、これらがエンドプレート16の温調媒体出口55、アノード出口56、カソードガス出口54にそれぞれ連通している。
【0044】
この温調媒体マニホールド33はエンドプレート16の温調媒体入口52に連通している。温調媒体マニホールド33は温調媒体入口52から導入される温調媒体を各セパレータ接合体30に設けられる温調媒体流路9に分配する。
【0045】
セパレータ接合体30には温調媒体マニホールド33のまわりにて第一、第二セパレータ7A、7Cを溶接するマニホールド溶接部43が形成される。マニホールド溶接部43は温調媒体マニホールド33のまわりにコの字形に延び、第一、第二セパレータ7A、7Cの間を温調媒体マニホールド33に連通する開口部34が形成される。
【0046】
ガスマニホールド31Aはエンドプレート16のアノードガス入口53に連通している。ガスマニホールド31Aはアノードガス入口53から導入されるアノードガスを各燃料電池セル2に設けられるガス流路8Aに分配する。
【0047】
セパレータ接合体30にはガスマニホールド31Aのまわりにて第一、第二セパレータ7A、7Cを溶接するマニホールド溶接部41Aが形成される。マニホールド溶接部41Aはガスマニホールド31Aのまわりに環状に延び、第一、第二セパレータ7A、7Cの間をガスマニホールド31Aに対して閉塞している。
【0048】
ガスマニホールド31Cはエンドプレート16のカソードガス入口51に連通している。ガスマニホールド31Cはカソードガス入口51から導入されるカソードガスを各燃料電池セル2に設けられるガス流路8Cに分配する。
【0049】
セパレータ接合体30にはガスマニホールド31Cのまわりにて第一、第二セパレータ7Cを溶接するマニホールド溶接部41Cが形成される。マニホールド溶接部42はガスマニホールド31Cのまわりに環状に延び、第一、第二セパレータ7A、7Cの間をガスマニホールド31Cに対して閉塞している。
【0050】
セパレータ接合体30にはその周縁部に沿って第一、第二セパレータ7A、7Cを溶接する周縁溶接部44が形成される。
【0051】
図6は図5のA−A線に沿う断面図であり、図6に示す第一、第二セパレータ7A、7Cの部位は周縁溶接部44とマニホールド溶接部41Cが設けられている。
【0052】
図6に示すように、ガスマニホールド31Cに対峙する第一、第二セパレータ7A、7Cのマニホールド開口部45、46の開口面積(打ち抜き面積)を相違させ、開口面積が大きい第一セパレータ7Aのマニホールド開口内周端49を加熱して第二セパレータ7Cに溶接してマニホールド溶接部41Cを形成する。
【0053】
第一、第二セパレータ7A、7Cのマニホールド開口部45、46は互いに相似形に形成され、両者は例えば1[mm]の間隔を持って平行に延びている。
【0054】
マニホールド溶接部41Cは第一セパレータ7Aのマニホールド開口内周端49を溶融させて第二セパレータ7Cに接合し、この第一セパレータ7Aのマニホールド開口内周端49がマニホールド溶接部41Cより離れないように形成される。なお、第二セパレータ7Cのマニホールド開口部46はマニホールド溶接部41Cから所定距離だけ離れている。
【0055】
また、同様にしてガスマニホールド31Aに対峙する第一、第二セパレータ7A、7Cのマニホールド開口部45、46の開口面積を相違させ、開口面積が大きい第一セパレータ7Aのマニホールド開口内周端49を加熱して第二セパレータ7Cに溶接してマニホールド溶接部41Aが形成される。
【0056】
第一、第二セパレータ7A、7Cを溶接した後、各溶接部10、41A、41C、44およびその周辺部の表面に耐食皮膜28を形成する。耐食皮膜28は例えばメッキ処理によって形成される。
【0057】
溶接部41A、41Cの表面に形成される耐食皮膜28は溶接部41A、41Cに隣接して延びる第二セパレータ7Cの背面26に渡って形成される。
【0058】
この耐食皮膜28を形成する方法として、例えば、樹脂コーティングを行う方法、あるいはレーザビームを照射する方法や他の加熱方法を用いても良い。
【0059】
図7の(a),(b),(c)に示すセパレータ接合体30の製造工程について説明する。
【0060】
まず、図7の(a)に示すように、基材31の片面に耐食被覆処理層27を形成した金属板32をプレス成形して第一、第二セパレータ7A、7Cを形成する。なお、基材31をプレス成型した後に、基材31に耐食被覆処理層27を形成しても良い。
【0061】
次に、図7の(b)に示すように、第一、第二セパレータ7A、7Cを溶接部41C、44によって接合する。
【0062】
次に、図7の(c)に示すように、溶接部41C、44およびその周辺部の表面に耐食皮膜28を形成する。
【0063】
このようにして第一、第二セパレータ7A、7Cを互いに接合したセパレータ接合体30が形成される。
【0064】
以上のように構成されて、次に作用及び効果について説明する。
【0065】
第一、第二セパレータ7A、7Cにおいて電解質膜電極積層体3に対峙する反応側表面25は、高温、高加湿、酸性雰囲気下における耐食性が要求される。これに対処して各反応側表面25に酸化劣化しにくい耐食被覆処理層27を形成することにより、第一、第二セパレータ7A、7Cの基材となるステンレス鋼が保護され、十分な耐食性が確保される。耐食被覆処理層27を介して各反応側表面25の導電性が維持されることにより、第一、第二セパレータ7A、7Cと電解質膜電極積層体3の接触電気抵抗が小さく保たれる。
【0066】
溶接部10、41A、41C、44は溶接時の熱影響により組織変化および応力の残留による耐食性低下が起こる。このため、カソード側の第二セパレータ7Cの反応側表面25にあっては溶接部10、41A、41C、44とその周辺部で耐食被覆処理層27が損傷されるが、溶接部10、41A、41C、44およびその周辺部に熱処理を行うことにより、その表面に耐食皮膜28が形成され、溶接時に生じた組織変化および応力の残留による耐食性低下の影響を軽減する。
【0067】
第一、第二セパレータ7A、7Cにおいて温調媒体流路9を画成する背面26は、上記反応側表面25に比べて要求される耐食性が低い。これに対応して、各背面26には耐食被覆処理層を形成しないため、第一、第二セパレータ7A、7Cの両面25、26に耐食被覆処理層を形成する従来構造に比べて耐食被覆処理層27を形成する工数が減るとともに、耐食被覆処理層27に用いられる貴金属の使用量が減らされ、製品のコストダウンがはかれる。
【0068】
各背面26にはこの耐食被覆処理層が形成されないものの、この背面26は燃料電池の作動中に温調媒体流路9を流れる冷却水(温調媒体)にさらされることにより、その表層に酸化皮膜が形成される不働態処理が行われ、その耐食性が高められる。
【0069】
背面26の表層に形成される酸化皮膜は、絶縁性の被膜であるが、第一、第二セパレータ7A、7Cの背面26同士を溶接部10、41A、41C、44により接合するため、第一、第二セパレータ7A、7C間の電気抵抗を低減し、燃料電池スタック1の発電性能を高められる。
【0070】
また、溶接部11により第一、第二セパレータ7A、7C同士が一体化したセパレータ接合体30が設けられるため、第一、第二セパレータ7A、7Cの位置にズレが生じることが防止されるとともに、燃料電池スタック1の部品数を減らし、組み立て性を高められる。
【0071】
ガスマニホールド31A、31Cに対峙する第一、第二セパレータ7A、7Cのマニホールド開口部45、46の開口面積を相違させ、開口面積が大きい第一セパレータ7Aのマニホールド開口内周端49を第二セパレータ7Cに溶接してマニホールド溶接部41A、41Cを形成したため、第一、第二セパレータ7A、7Cのマニホールド溶接部41A、41Cよりマニホールド開口部45、46側に位置する部位に隙間を作ることがなく、この部位が腐食することを防止できる。
【0072】
図8に示す比較例は、ガスマニホールド31Cに対峙する第一、第二セパレータ7A、7Cのマニホールド開口部45、46の開口面積が等しく、第一、第二セパレータ7A、7Cのマニホールド開口部45、46より離れた部位を互いに溶接してマニホールド溶接部41Cが形成され、マニホールド溶接部41Cよりマニホールド開口部45、46側に隙間48が作られる。このため、ガス流路8A、8Cを流れる流体中に例えばハロゲンイオンが存在する場合、隙間48とガスマニホールド31A、31Cのハロゲンイオン濃度に差異が発生すると、濃淡電池となって隙間48に腐食電流が発生し、隙間47を画成する第一、第二セパレータ7A、7Cの部位に腐食が発生する可能性がある。
【0073】
本実施の形態では、マニホールド溶接部41A、41Cを形成する溶接時に、第二セパレータ7Cの背面26に対峙している第一セパレータ7Aのマニホールド開口内周端49を加熱するため、溶接時に溶融するマニホールド開口内周端49が第二セパレータ7Cの背面26に固着してマニホールド溶接部41A、41Cが形成され、マニホールド溶接部41A、41Cに溶接不良が生じることを防止できる。
【0074】
溶接部10、41A、41C、44は溶接時の熱影響により組織変化および応力の残留による耐食性低下が起こる。このため、溶接部10、41A、41C、44とその周辺部で耐食被覆処理層27が損傷されるが、溶接部10、41A、41C、44およびその周辺部の表面に耐食皮膜28を形成することにより、ここに腐食が生じることを抑えられる。
【0075】
溶接部41A、41Cに隣接して延びる第二セパレータ7Cの背面26は、ガス流路8A、8Cを流れる流体に晒されるが、この背面26にも耐食皮膜28が形成されることにより、この背面26に腐食が生じることを抑えられる。
【0076】
(実施例1)
図10は図9のA−A線に沿う断面図であり、図10に示す第一、第二セパレータ7A、7Cの部位はマニホールド溶接部41Cが設けられている。
【0077】
図10に矢印で示すように、ガスマニホールド31Cを流れるカソードガスは各燃料電池セル2に設けられるガス流路8Cに分流する。
【0078】
本実施例では、第一、第二セパレータ7A、7Cのマニホールド開口部45、46のうち、ガスマニホールド31Aにおけるカソードガスの流れに対して上流側に位置する第一セパレータ7Aのマニホールド開口部45の開口面積をカソードガスの流れに対して下流側に位置する第二セパレータ7Cのマニホールド開口部46の開口面積より大きく形成し、開口面積が大きい第一セパレータ7Aのマニホールド開口内周端49を加熱して第二セパレータ7Cに溶接してマニホールド溶接部41Cを形成する。
【0079】
また、同様にしてガスマニホールド31Aに対峙する第一、第二セパレータ7A、7Cのマニホールド開口部45、46の開口面積を相違させ、開口面積が大きい第一セパレータ7Aのマニホールド開口部45をアノードガスの流れに対して上流側に配置する。
【0080】
この場合、カソードガスの流れに対して上流側に位置するマニホールド開口部45の開口面積を下流側に位置するマニホールド開口部46の開口面積より大きく形成したため、ガスマニホールド31Cからガス流路8Cに流入するカソードガスの流れが円滑になり、各燃料電池セル2に導入されるカソードガス流量を増やして、燃料電池スタック1の発電性能を高められる。
【0081】
(実施例2)
図11に示すように、前記第一、第二セパレータ7A、7Cの温調媒体流路9に対峙する背面26に耐食被覆処理層29を形成するものを実施例2とする。
【0082】
図11の(a),(b),(c)に示すセパレータ接合体30の製造工程について説明する。
【0083】
まず、図11の(a)に示すように、基材31の両面に耐食被覆処理層27、29をそれぞれ形成した金属板32をプレス成形して第一、第二セパレータ7A、7Cを形成する。なお、基材31をプレス成型した後に、基材31に耐食被覆処理層27、29を形成しても良い。
【0084】
次に、図11の(b)に示すように、第一、第二セパレータ7A、7Cを溶接部41C、44によって接合する。
【0085】
次に、図11の(c)に示すように、溶接部41C、44およびその周辺部の表面に耐食皮膜28を形成する。
【0086】
このようにして第一、第二セパレータ7A、7Cを互いに接合したセパレータ接合体30が形成される。
【0087】
この場合、耐食被覆処理層29によって第一、第二セパレータ7A、7Cの背面26の耐食性を高められるとともに、耐食被覆処理層29として導電性の高い例えば金メッキ層を形成することにより、第一、第二セパレータ7A、7C間の接触電気抵抗を有効に低減することができる。
【0088】
なお、セパレータ接合体30に要求される耐食性能によっては、耐食被覆処理層27、29、耐食皮膜28のいずれかを形成しない構造としても良い。
【0089】
本実施形態においては、以下に記載する効果を奏することができる。
【0090】
(ア)対の電極触媒層5A、5Cで電解質膜4を挟んで構成した電解質膜電極積層体3をさらにその両側からガス流路8A、8Cを画成する第一、第二セパレータ7A、7Cで挟むことによって燃料電池セル2を構成し、これら積層される複数の各燃料電池セル2を貫通してガス流路8A、8Cに連通するガスマニホールド31A、31Cを備える燃料電池スタック1において、第一、第二セパレータ7A、7Cにガスマニホールド31A、31Cを画成するマニホールド開口部45,46を形成し、第一、第二セパレータ7A、7Cのマニホールド開口部45、46の開口面積を相違させ、開口面積が大きい第一セパレータ7Aのマニホールド開口内周端49を第二セパレータ7Cに溶接してマニホールド溶接部41Cを形成した。このため、第一、第二セパレータ7A、7Cのマニホールド溶接部41Cよりマニホールド開口部45、46側に位置する部位に隙間を作ることがなく、この部位が腐食することを防止できる。
【0091】
(イ)マニホールド溶接部41A、41Cを形成する溶接時に、第二セパレータ7Cの背面26に対峙している第一セパレータ7Aのマニホールド開口内周端49を加熱する。このため、溶接時に溶融するマニホールド開口内周端49が第二セパレータ7Cの背面26に固着してマニホールド溶接部41A、41Cが形成され、マニホールド溶接部41A、41Cに溶接不良が生じることを防止できる。
【0092】
(ウ)第一、第二セパレータ7A、7Cのマニホールド開口部45、46のうち、ガスマニホールド31Aにおけるカソードガスの流れに対して上流側に位置する第一セパレータ7Aのマニホールド開口部45の開口面積をカソードガスの流れに対して下流側に位置する第二セパレータ7Cのマニホールド開口部46の開口面積より大きく形成した。このため、ガスマニホールド31Cからガス流路8Cに流入するカソードガスの流れが円滑になり、各燃料電池セル2に導入されるカソードガス流量を増やして、燃料電池スタック1の発電性能を高められる。
【0093】
(エ)隣接して積層される燃料電池セル2の第一、第二セパレータ7A、7C同士の背面26を接触させて両者間に温調媒体を流通させる流路9を画成し、第一、第二セパレータ7A、7Cの電解質膜電極積層体3に対峙する反応側表面25のみに耐食被覆処理層27を形成し、第一、第二セパレータ7A、7Cの背面26同士が接触する部位を互いに溶接した溶接部10を備えた。このため、第一、第二セパレータ7A、7Cの耐食性を確保するとともに、第一、第二セパレータ7A、7Cの背面26に耐食被覆処理層27を形成する工数を減らして製品のコストダウンがはかれる。背面26同士の溶接部10を介して耐食被覆処理層27が形成されない背面26間の抵抗を低減し、燃料電池の発電性能を高められる。
【0094】
(オ)第一、第二セパレータ7A、7Cを溶接した後、少なくとも溶接部10、41A、41C、44の表面に耐食皮膜28を形成する。このため、溶接部10、41A、41C、44が形成されることによって耐食被覆処理層27が損傷しても、耐食皮膜28によってこれに腐食が生じることを抑えられる。
【0095】
なお、本実施の形態では、第一セパレータ7Aがアノードガスを導くガス流路8Aを画成し、第二セパレータ7Cがカソードガスを導くガス流路8Cを画成するものとしたが、本発明の第一、第二セパレータは、これに限らず、アノードガスまたはカソードガスのいずれかを導くガス流路を画成するものとする。
【0096】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の実施形態を示す燃料電池スタックの斜視図。
【図2】同じく燃料電池スタックの平面図。
【図3】同じく燃料電池スタックの断面図。
【図4】同じく第一、第二セパレータの断面図。
【図5】同じくセパレータ接合体の平面図。
【図6】同じく図5のA−A線に沿うセパレータ接合体の断面図。
【図7】同じくセパレータ接合体の製造工程を示す断面図。
【図8】比較例を示すセパレータ接合体の断面図。
【図9】第1実施例を示すセパレータ接合体の平面図。
【図10】同じく図9のA−A線に沿うセパレータ接合体の断面図。
【図11】第2実施例を示すセパレータ接合体の製造工程を示す断面図。
【符号の説明】
【0098】
1 燃料電池スタック
2 燃料電池セル
3 電解質膜電極積層体
4 電解質膜
5A、5C 電極触媒層
7A、7C 第一、第二セパレータ
8A、8C ガス流路
9 温調媒体流路
25 反応側表面
26 背面
27 耐食被覆処理層
28 耐食皮覆
30 セパレータ接合体
31A、31C ガスマニホールド
41C マニホールド溶接部
45、46 マニホールド開口部
49 マニホールド開口内周端
【技術分野】
【0001】
本発明は、セパレータを金属板で構成するのに好適な燃料電池スタックおよび燃料電池セパレータ並びにその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、プロトン伝導性を有する固体高分子電解質膜を備え、この電解質膜を挟んで設けられる一対の電極のうちアノードに燃料ガスを供給するとともに、他方のカソードに酸化剤ガスを供給し、電解質膜の表面で生じる電気化学反応を利用して発電するものである。
【0003】
1つの燃料電池セルは、一対の電極触媒層で電解質膜を挟んで構成する電解質膜電極積層体(MEA)と、電解質膜電極積層体の両側にガス流路を画成するセパレータとを備える。
【0004】
セパレータは燃料ガスあるいは酸化剤ガスを流通させるガス流路を画成するとともに、温調媒体を流通させる温調媒体流路を画成する。
【0005】
また、セパレータは、各燃料電池セルの電極触媒層から出力を取り出す導電経路を兼ねるため、全体が導電性の材料で構成される。
【0006】
従来、燃料電池用のセパレータは耐食性と導電性を兼ね備えたカーボン製のものが用いられてきたが、近年、金属製セパレータを用いて製品のコストダウンをはかるとともに、セパレータを薄肉化して出力密度を向上させる燃料電池構造が、例えば特許文献1〜4にあるように、種々提案されている。
【0007】
特許文献1には、ステンレス鋼板の表面にクラッドされたチタン又はチタン合金による耐食被覆処理層を形成したセパレータが開示されている。
【0008】
特許文献2には、ステンレス鋼板の表面に貴金属メッキ層からなる耐食被覆処理層が形成したセパレータが開示されている。
【0009】
特許文献3には、ステンレス鋼板の表面にチタンコーティング層からなる耐食被覆処理層を形成したセパレータが開示されている。
【0010】
特許文献4には、金属板の表面に貴金属メッキ層からなる耐食被覆処理層を形成したセパレータが開示されている。
【0011】
特許文献5には、2枚のセパレータを溶接し、燃料電池セルを貫通するガスマニホールドを画成する構造が開示されている。
【特許文献1】特開2005−002411号公報
【特許文献2】特開2005−190968号公報
【特許文献3】特開2005−276807号公報
【特許文献4】特開2005−317479号公報
【特許文献5】特開2004−127699号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、このような従来の燃料電池スタックにあっては、2枚の金属製セパレータを溶接し、溶接した金属製セパレータの端部がガスマニホールドを画成する構造となっているため、溶接したセパレータの開口端の間に隙間が有り、この隙間部分に腐食が発生する可能性があった。
【0013】
また、金属製セパレータや集電板の表面に耐食被覆処理層が形成される場合、高価な貴金属の使用量が増え、製品のコストアップを招くという問題点があった。
【0014】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、製品のコストアップを抑え、耐食性能が高い燃料電池のスタックおよび燃料電池セパレータ並びにその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、対の電極触媒層で電解質膜を挟んで構成した電解質膜電極積層体をさらにその両側からガス流路を画成する金属製の第一、第二セパレータで挟むことによって燃料電池セルを構成し、これら積層される複数の燃料電池セルを貫通して各燃料電池セルのガス流路に連通するガスマニホールドを備える燃料電池スタックおよび燃料電池セパレータ並びにその製造方法に適用する。
【0016】
そして、第一、第二セパレータにガスマニホールドを画成するマニホールド開口部をそれぞれ形成し、第一、第二セパレータのマニホールド開口部の開口面積を相違させ、開口面積が大きい第一セパレータのマニホールド開口内周端を第二セパレータに溶接してマニホールド溶接部を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、開口面積が大きい第一セパレータのマニホールド開口内周端を第二セパレータに溶接してマニホールド溶接部を形成するため、第一、第二セパレータのマニホールド溶接部よりマニホールド開口部側に位置する部位に隙間を作ることがなく、この部位が腐食することを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の燃料電池スタックおよび燃料電池セパレータ並びにその製造方法の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0019】
図1は本発明の実施形態に係る燃料電池スタックの斜視図であり、図2は燃料電池スタックの平面図である。図1、図2に示すように、燃料電池スタック1は、複数の燃料電池セル2を直列に積層するとともに、積層方向の両端に対の集電板14と絶縁板15とエンドプレート16を配置して、複数本のタイロッド13が各エンドプレート16を引き寄せることにより各燃料電池セル2の積層方向に締め付け荷重が付与される。
【0020】
なお、自動車に搭載される燃料電池にあっては、燃料電池スタック1は例えば300〜400個の燃料電池セル2が直列に積層される。燃料スタック1で生じた起電力は各集電板14の出力端子14A、14Bを介して取り出される。
【0021】
一方のエンドプレート16にはカソードガス入口51、温調媒体入口52、アノードガス入口53、カソードガス出口54、温調媒体出口55、アノード出口56が開口し、これらに図示しない配管が接続される。
【0022】
図3に示すように、単位ユニットとして設けられる燃料電池セル2は、一対の電極触媒層5A、5Cで電解質膜4を挟んで構成した電解質膜電極積層体(MEA)3と、電解質膜電極積層体3の両側にガス流路8A、8Cを画成する第一、第二セパレータ(セパレータ)7A、7Cとを備える。
【0023】
電解質膜電極積層体3は、プロトン伝導性を有する固体高分子電解質膜4を備え、この電解質膜4の反応領域の両面に各極の電極触媒層5A、5Cを配置し、さらにこれらを挟持するように各極のガス拡散層6A、6Cを配置して構成される。電極触媒層5A、5Cは例えば白金または白金と他の金属からなる合金によって形成される。ガス拡散層6A、6Cは例えばカーボンクロス、カーボンペーパ、あるいはカーボンフェルト等、ガス拡散性と導電性を有する材料によって構成される。
【0024】
燃料電池は、電解質膜4を挟んで設けられる一方のアノードに燃料ガスを供給するとともに、他方のカソードに酸化剤ガスを供給することにより、電解質膜4の表面で下記の(1)、(2)式で表される反応がそれぞれ行われて発電する。
アノード反応:H2 → 2H+ + 2e- …(1)
カソード反応:2H+ + 2e- + (1/2)O2 → H2O …(2)
電解質膜電極積層体3の両側には電解質膜4の反応領域を囲む周辺領域にガスケットが配置され、第一、第二セパレータ7A、7Cはこのガスケットを介して電解質膜電極積層体3を挟持する。
【0025】
ガスケットはシリコーンゴム、EPDMまたはフッ素ゴム等のゴム状弾性材料によって形成される。ガスケットは第一、第二セパレータ7A、7Cあるいは弾性係数の大きい薄板材に一体化しても良い。この薄板材は例えば、ポリカーボネ−ト、ポリエチレンテレフタレートによって形成され、電解質膜電極積層体3に例えば熱硬化型フッ素系あるいは熱硬化型シリコンの液状シールによって接着される。
【0026】
第一セパレータ7Aとガス拡散層6Aの間にアノードガスを導くガス流路8Aが画成される。アノードガスとして例えば水素ガスを図示しない入口マニホールドからガス流路8Aに導入し、このガス流路8Aを通してガス拡散層6Aに供給し、反応に利用されなかったガスを出口マニホールドに排出する。
【0027】
第二セパレータ7Cとガス拡散層6Cの間にカソードガスを導くガス流路8Cが画成される。カソードガスとして例えば空気を入口マニホールドからガス流路8Cに導入して、ガス流路8Cを通してガス拡散層6Cに供給し、反応に利用されなかったガスを出口マニホールドに排出する。
【0028】
第一、第二セパレータ7A、7Cの間には温調媒体を流通させる温調媒体流路9が画成される。温調媒体流路9は温調媒体として例えば冷却水を入口マニホールドから導入して第一、第二セパレータ7A、7Cの間を通して出口マニホールドに排出する。温調媒体は第一、第二セパレータ7A、7Cを介して反応熱を吸収し、燃料電池スタック1を冷却する。
【0029】
また、第一、第二セパレータ7A、7Cの間にも図示しないガスケットが介装され、温調媒体の漏洩防止がはられる。
【0030】
なお、温調媒体は、高い電気抵抗値を有することが望ましく、自動車に搭載される燃料電池にあっては、寒冷地でも凍結しない不凍液を用いる。
【0031】
金属板からなる第一、第二セパレータ7A、7Cは、燃料電池の作動条件や電池内環境を考慮して、例えば、SUS316Lのステンレス鋼が使用される。
【0032】
なお、第一、第二セパレータ7A、7Cの基材は、これに限らず、Fe、Ni、Crの少なくとも一つ以上を主成分とするステンレス鋼であるか、Al、Ti、Cu、Zn、Mg、Mn、Pb、Au、Ag、Pt、Pd、Ru、W、Ni、Cr、Sn、Feの単体もしくはこれらを主成分とする合金としても良い。
【0033】
第一、第二セパレータ7A、7Cは、流路等の形状を型彫りした金型により金属板をプレス成形することにより製作される。この金属板の厚さは、例えば、0.1〜1.0[mm]程度に設定される。
【0034】
図4は第一、第二セパレータ7A、7Cを接合したセパレータ接合体30の断面図である。第一、第二セパレータ7A、7Cは波板状に形成され、ガス拡散層6A、6Cに隣接する凸部21と、隣接する燃料電池セル2のセパレータ7A、7Cと隣接する凸部22とが交互に並ぶように形成される。各凸部21、22の間に画成される各ガス流路8A、8C、温調媒体流路9の流路幅は例えば、0.1〜5.0[mm]程度に設定される。
【0035】
第一、第二セパレータ7A、7Cは電解質膜電極積層体3に対峙する反応側表面25と、その反対側の背面26とを有し、各反応側表面25によって各ガス流路8A、8Cが画成される一方、背面26によって温調媒体流路9が画成される。
【0036】
ステンレス鋼を基材とする第一、第二セパレータ7A、7Cは、各反応側表面25のみに耐食被覆処理層27を形成し、各背面26には耐食被覆処理層を形成しないものとする。
【0037】
反応側表面25に施される耐食被覆処理層27は、例えば金(Au)からなり、その厚さを5[μm]程度とする金メッキ層を形成し、燃料電池特有の強酸性環境、特に硫酸酸性環境での耐食性を確保する。
【0038】
なお、反応側表面25に施される耐食被覆処理層27は、金メッキ層に限らず、耐食性向上のための、例えば、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、チタン(Ti)を用いたコーティングもしくは表面改質処理によって形成しても良い。
【0039】
一方、第一、第二セパレータ7A、7Cの各背面26にはこの耐食被覆処理層が形成されず、その表層に酸化皮膜が形成される。隣接する燃料電池セル2の第一、第二セパレータ7A、7Cの背面26同士を溶接部10により接合する。この溶接部10は電極触媒層5A、5Cに挟まれる反応領域に形成される。
【0040】
背面26の表層に形成される酸化皮膜は、絶縁性を持つ被膜であるが、隣接する燃料電池セル2の第一、第二セパレータ7A、7Cの背面26同士を溶接部10により接合する。溶接部10では第一、第二セパレータ7A、7C間の接触電気抵抗が発生せず、第一、第二セパレータ7A、7Cの貫通電気抵抗を低減し、燃料電池の発電性能を高められる。
【0041】
金属板をプレス成形することにより形成される各凸部21、22は、平面状に延びるリブ平面部21a、22aと、このリブ平面部21a、22aの端部で円弧状に曲折するリブ角部21b、22bを有する。
【0042】
溶接部10は、各ガス流路8A、8Cを画成する溝底となるリブ平面部21a同士を溶接する。
【0043】
図5はセパレータ接合体30の平面図である。セパレータ接合体30の一端部には温調媒体マニホールド33と各ガスマニホールド31A、31Cが開口している。セパレータ接合体30の図示しない他端部には同様に温調媒体マニホールドと各ガスマニホールドが開口し、これらがエンドプレート16の温調媒体出口55、アノード出口56、カソードガス出口54にそれぞれ連通している。
【0044】
この温調媒体マニホールド33はエンドプレート16の温調媒体入口52に連通している。温調媒体マニホールド33は温調媒体入口52から導入される温調媒体を各セパレータ接合体30に設けられる温調媒体流路9に分配する。
【0045】
セパレータ接合体30には温調媒体マニホールド33のまわりにて第一、第二セパレータ7A、7Cを溶接するマニホールド溶接部43が形成される。マニホールド溶接部43は温調媒体マニホールド33のまわりにコの字形に延び、第一、第二セパレータ7A、7Cの間を温調媒体マニホールド33に連通する開口部34が形成される。
【0046】
ガスマニホールド31Aはエンドプレート16のアノードガス入口53に連通している。ガスマニホールド31Aはアノードガス入口53から導入されるアノードガスを各燃料電池セル2に設けられるガス流路8Aに分配する。
【0047】
セパレータ接合体30にはガスマニホールド31Aのまわりにて第一、第二セパレータ7A、7Cを溶接するマニホールド溶接部41Aが形成される。マニホールド溶接部41Aはガスマニホールド31Aのまわりに環状に延び、第一、第二セパレータ7A、7Cの間をガスマニホールド31Aに対して閉塞している。
【0048】
ガスマニホールド31Cはエンドプレート16のカソードガス入口51に連通している。ガスマニホールド31Cはカソードガス入口51から導入されるカソードガスを各燃料電池セル2に設けられるガス流路8Cに分配する。
【0049】
セパレータ接合体30にはガスマニホールド31Cのまわりにて第一、第二セパレータ7Cを溶接するマニホールド溶接部41Cが形成される。マニホールド溶接部42はガスマニホールド31Cのまわりに環状に延び、第一、第二セパレータ7A、7Cの間をガスマニホールド31Cに対して閉塞している。
【0050】
セパレータ接合体30にはその周縁部に沿って第一、第二セパレータ7A、7Cを溶接する周縁溶接部44が形成される。
【0051】
図6は図5のA−A線に沿う断面図であり、図6に示す第一、第二セパレータ7A、7Cの部位は周縁溶接部44とマニホールド溶接部41Cが設けられている。
【0052】
図6に示すように、ガスマニホールド31Cに対峙する第一、第二セパレータ7A、7Cのマニホールド開口部45、46の開口面積(打ち抜き面積)を相違させ、開口面積が大きい第一セパレータ7Aのマニホールド開口内周端49を加熱して第二セパレータ7Cに溶接してマニホールド溶接部41Cを形成する。
【0053】
第一、第二セパレータ7A、7Cのマニホールド開口部45、46は互いに相似形に形成され、両者は例えば1[mm]の間隔を持って平行に延びている。
【0054】
マニホールド溶接部41Cは第一セパレータ7Aのマニホールド開口内周端49を溶融させて第二セパレータ7Cに接合し、この第一セパレータ7Aのマニホールド開口内周端49がマニホールド溶接部41Cより離れないように形成される。なお、第二セパレータ7Cのマニホールド開口部46はマニホールド溶接部41Cから所定距離だけ離れている。
【0055】
また、同様にしてガスマニホールド31Aに対峙する第一、第二セパレータ7A、7Cのマニホールド開口部45、46の開口面積を相違させ、開口面積が大きい第一セパレータ7Aのマニホールド開口内周端49を加熱して第二セパレータ7Cに溶接してマニホールド溶接部41Aが形成される。
【0056】
第一、第二セパレータ7A、7Cを溶接した後、各溶接部10、41A、41C、44およびその周辺部の表面に耐食皮膜28を形成する。耐食皮膜28は例えばメッキ処理によって形成される。
【0057】
溶接部41A、41Cの表面に形成される耐食皮膜28は溶接部41A、41Cに隣接して延びる第二セパレータ7Cの背面26に渡って形成される。
【0058】
この耐食皮膜28を形成する方法として、例えば、樹脂コーティングを行う方法、あるいはレーザビームを照射する方法や他の加熱方法を用いても良い。
【0059】
図7の(a),(b),(c)に示すセパレータ接合体30の製造工程について説明する。
【0060】
まず、図7の(a)に示すように、基材31の片面に耐食被覆処理層27を形成した金属板32をプレス成形して第一、第二セパレータ7A、7Cを形成する。なお、基材31をプレス成型した後に、基材31に耐食被覆処理層27を形成しても良い。
【0061】
次に、図7の(b)に示すように、第一、第二セパレータ7A、7Cを溶接部41C、44によって接合する。
【0062】
次に、図7の(c)に示すように、溶接部41C、44およびその周辺部の表面に耐食皮膜28を形成する。
【0063】
このようにして第一、第二セパレータ7A、7Cを互いに接合したセパレータ接合体30が形成される。
【0064】
以上のように構成されて、次に作用及び効果について説明する。
【0065】
第一、第二セパレータ7A、7Cにおいて電解質膜電極積層体3に対峙する反応側表面25は、高温、高加湿、酸性雰囲気下における耐食性が要求される。これに対処して各反応側表面25に酸化劣化しにくい耐食被覆処理層27を形成することにより、第一、第二セパレータ7A、7Cの基材となるステンレス鋼が保護され、十分な耐食性が確保される。耐食被覆処理層27を介して各反応側表面25の導電性が維持されることにより、第一、第二セパレータ7A、7Cと電解質膜電極積層体3の接触電気抵抗が小さく保たれる。
【0066】
溶接部10、41A、41C、44は溶接時の熱影響により組織変化および応力の残留による耐食性低下が起こる。このため、カソード側の第二セパレータ7Cの反応側表面25にあっては溶接部10、41A、41C、44とその周辺部で耐食被覆処理層27が損傷されるが、溶接部10、41A、41C、44およびその周辺部に熱処理を行うことにより、その表面に耐食皮膜28が形成され、溶接時に生じた組織変化および応力の残留による耐食性低下の影響を軽減する。
【0067】
第一、第二セパレータ7A、7Cにおいて温調媒体流路9を画成する背面26は、上記反応側表面25に比べて要求される耐食性が低い。これに対応して、各背面26には耐食被覆処理層を形成しないため、第一、第二セパレータ7A、7Cの両面25、26に耐食被覆処理層を形成する従来構造に比べて耐食被覆処理層27を形成する工数が減るとともに、耐食被覆処理層27に用いられる貴金属の使用量が減らされ、製品のコストダウンがはかれる。
【0068】
各背面26にはこの耐食被覆処理層が形成されないものの、この背面26は燃料電池の作動中に温調媒体流路9を流れる冷却水(温調媒体)にさらされることにより、その表層に酸化皮膜が形成される不働態処理が行われ、その耐食性が高められる。
【0069】
背面26の表層に形成される酸化皮膜は、絶縁性の被膜であるが、第一、第二セパレータ7A、7Cの背面26同士を溶接部10、41A、41C、44により接合するため、第一、第二セパレータ7A、7C間の電気抵抗を低減し、燃料電池スタック1の発電性能を高められる。
【0070】
また、溶接部11により第一、第二セパレータ7A、7C同士が一体化したセパレータ接合体30が設けられるため、第一、第二セパレータ7A、7Cの位置にズレが生じることが防止されるとともに、燃料電池スタック1の部品数を減らし、組み立て性を高められる。
【0071】
ガスマニホールド31A、31Cに対峙する第一、第二セパレータ7A、7Cのマニホールド開口部45、46の開口面積を相違させ、開口面積が大きい第一セパレータ7Aのマニホールド開口内周端49を第二セパレータ7Cに溶接してマニホールド溶接部41A、41Cを形成したため、第一、第二セパレータ7A、7Cのマニホールド溶接部41A、41Cよりマニホールド開口部45、46側に位置する部位に隙間を作ることがなく、この部位が腐食することを防止できる。
【0072】
図8に示す比較例は、ガスマニホールド31Cに対峙する第一、第二セパレータ7A、7Cのマニホールド開口部45、46の開口面積が等しく、第一、第二セパレータ7A、7Cのマニホールド開口部45、46より離れた部位を互いに溶接してマニホールド溶接部41Cが形成され、マニホールド溶接部41Cよりマニホールド開口部45、46側に隙間48が作られる。このため、ガス流路8A、8Cを流れる流体中に例えばハロゲンイオンが存在する場合、隙間48とガスマニホールド31A、31Cのハロゲンイオン濃度に差異が発生すると、濃淡電池となって隙間48に腐食電流が発生し、隙間47を画成する第一、第二セパレータ7A、7Cの部位に腐食が発生する可能性がある。
【0073】
本実施の形態では、マニホールド溶接部41A、41Cを形成する溶接時に、第二セパレータ7Cの背面26に対峙している第一セパレータ7Aのマニホールド開口内周端49を加熱するため、溶接時に溶融するマニホールド開口内周端49が第二セパレータ7Cの背面26に固着してマニホールド溶接部41A、41Cが形成され、マニホールド溶接部41A、41Cに溶接不良が生じることを防止できる。
【0074】
溶接部10、41A、41C、44は溶接時の熱影響により組織変化および応力の残留による耐食性低下が起こる。このため、溶接部10、41A、41C、44とその周辺部で耐食被覆処理層27が損傷されるが、溶接部10、41A、41C、44およびその周辺部の表面に耐食皮膜28を形成することにより、ここに腐食が生じることを抑えられる。
【0075】
溶接部41A、41Cに隣接して延びる第二セパレータ7Cの背面26は、ガス流路8A、8Cを流れる流体に晒されるが、この背面26にも耐食皮膜28が形成されることにより、この背面26に腐食が生じることを抑えられる。
【0076】
(実施例1)
図10は図9のA−A線に沿う断面図であり、図10に示す第一、第二セパレータ7A、7Cの部位はマニホールド溶接部41Cが設けられている。
【0077】
図10に矢印で示すように、ガスマニホールド31Cを流れるカソードガスは各燃料電池セル2に設けられるガス流路8Cに分流する。
【0078】
本実施例では、第一、第二セパレータ7A、7Cのマニホールド開口部45、46のうち、ガスマニホールド31Aにおけるカソードガスの流れに対して上流側に位置する第一セパレータ7Aのマニホールド開口部45の開口面積をカソードガスの流れに対して下流側に位置する第二セパレータ7Cのマニホールド開口部46の開口面積より大きく形成し、開口面積が大きい第一セパレータ7Aのマニホールド開口内周端49を加熱して第二セパレータ7Cに溶接してマニホールド溶接部41Cを形成する。
【0079】
また、同様にしてガスマニホールド31Aに対峙する第一、第二セパレータ7A、7Cのマニホールド開口部45、46の開口面積を相違させ、開口面積が大きい第一セパレータ7Aのマニホールド開口部45をアノードガスの流れに対して上流側に配置する。
【0080】
この場合、カソードガスの流れに対して上流側に位置するマニホールド開口部45の開口面積を下流側に位置するマニホールド開口部46の開口面積より大きく形成したため、ガスマニホールド31Cからガス流路8Cに流入するカソードガスの流れが円滑になり、各燃料電池セル2に導入されるカソードガス流量を増やして、燃料電池スタック1の発電性能を高められる。
【0081】
(実施例2)
図11に示すように、前記第一、第二セパレータ7A、7Cの温調媒体流路9に対峙する背面26に耐食被覆処理層29を形成するものを実施例2とする。
【0082】
図11の(a),(b),(c)に示すセパレータ接合体30の製造工程について説明する。
【0083】
まず、図11の(a)に示すように、基材31の両面に耐食被覆処理層27、29をそれぞれ形成した金属板32をプレス成形して第一、第二セパレータ7A、7Cを形成する。なお、基材31をプレス成型した後に、基材31に耐食被覆処理層27、29を形成しても良い。
【0084】
次に、図11の(b)に示すように、第一、第二セパレータ7A、7Cを溶接部41C、44によって接合する。
【0085】
次に、図11の(c)に示すように、溶接部41C、44およびその周辺部の表面に耐食皮膜28を形成する。
【0086】
このようにして第一、第二セパレータ7A、7Cを互いに接合したセパレータ接合体30が形成される。
【0087】
この場合、耐食被覆処理層29によって第一、第二セパレータ7A、7Cの背面26の耐食性を高められるとともに、耐食被覆処理層29として導電性の高い例えば金メッキ層を形成することにより、第一、第二セパレータ7A、7C間の接触電気抵抗を有効に低減することができる。
【0088】
なお、セパレータ接合体30に要求される耐食性能によっては、耐食被覆処理層27、29、耐食皮膜28のいずれかを形成しない構造としても良い。
【0089】
本実施形態においては、以下に記載する効果を奏することができる。
【0090】
(ア)対の電極触媒層5A、5Cで電解質膜4を挟んで構成した電解質膜電極積層体3をさらにその両側からガス流路8A、8Cを画成する第一、第二セパレータ7A、7Cで挟むことによって燃料電池セル2を構成し、これら積層される複数の各燃料電池セル2を貫通してガス流路8A、8Cに連通するガスマニホールド31A、31Cを備える燃料電池スタック1において、第一、第二セパレータ7A、7Cにガスマニホールド31A、31Cを画成するマニホールド開口部45,46を形成し、第一、第二セパレータ7A、7Cのマニホールド開口部45、46の開口面積を相違させ、開口面積が大きい第一セパレータ7Aのマニホールド開口内周端49を第二セパレータ7Cに溶接してマニホールド溶接部41Cを形成した。このため、第一、第二セパレータ7A、7Cのマニホールド溶接部41Cよりマニホールド開口部45、46側に位置する部位に隙間を作ることがなく、この部位が腐食することを防止できる。
【0091】
(イ)マニホールド溶接部41A、41Cを形成する溶接時に、第二セパレータ7Cの背面26に対峙している第一セパレータ7Aのマニホールド開口内周端49を加熱する。このため、溶接時に溶融するマニホールド開口内周端49が第二セパレータ7Cの背面26に固着してマニホールド溶接部41A、41Cが形成され、マニホールド溶接部41A、41Cに溶接不良が生じることを防止できる。
【0092】
(ウ)第一、第二セパレータ7A、7Cのマニホールド開口部45、46のうち、ガスマニホールド31Aにおけるカソードガスの流れに対して上流側に位置する第一セパレータ7Aのマニホールド開口部45の開口面積をカソードガスの流れに対して下流側に位置する第二セパレータ7Cのマニホールド開口部46の開口面積より大きく形成した。このため、ガスマニホールド31Cからガス流路8Cに流入するカソードガスの流れが円滑になり、各燃料電池セル2に導入されるカソードガス流量を増やして、燃料電池スタック1の発電性能を高められる。
【0093】
(エ)隣接して積層される燃料電池セル2の第一、第二セパレータ7A、7C同士の背面26を接触させて両者間に温調媒体を流通させる流路9を画成し、第一、第二セパレータ7A、7Cの電解質膜電極積層体3に対峙する反応側表面25のみに耐食被覆処理層27を形成し、第一、第二セパレータ7A、7Cの背面26同士が接触する部位を互いに溶接した溶接部10を備えた。このため、第一、第二セパレータ7A、7Cの耐食性を確保するとともに、第一、第二セパレータ7A、7Cの背面26に耐食被覆処理層27を形成する工数を減らして製品のコストダウンがはかれる。背面26同士の溶接部10を介して耐食被覆処理層27が形成されない背面26間の抵抗を低減し、燃料電池の発電性能を高められる。
【0094】
(オ)第一、第二セパレータ7A、7Cを溶接した後、少なくとも溶接部10、41A、41C、44の表面に耐食皮膜28を形成する。このため、溶接部10、41A、41C、44が形成されることによって耐食被覆処理層27が損傷しても、耐食皮膜28によってこれに腐食が生じることを抑えられる。
【0095】
なお、本実施の形態では、第一セパレータ7Aがアノードガスを導くガス流路8Aを画成し、第二セパレータ7Cがカソードガスを導くガス流路8Cを画成するものとしたが、本発明の第一、第二セパレータは、これに限らず、アノードガスまたはカソードガスのいずれかを導くガス流路を画成するものとする。
【0096】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の実施形態を示す燃料電池スタックの斜視図。
【図2】同じく燃料電池スタックの平面図。
【図3】同じく燃料電池スタックの断面図。
【図4】同じく第一、第二セパレータの断面図。
【図5】同じくセパレータ接合体の平面図。
【図6】同じく図5のA−A線に沿うセパレータ接合体の断面図。
【図7】同じくセパレータ接合体の製造工程を示す断面図。
【図8】比較例を示すセパレータ接合体の断面図。
【図9】第1実施例を示すセパレータ接合体の平面図。
【図10】同じく図9のA−A線に沿うセパレータ接合体の断面図。
【図11】第2実施例を示すセパレータ接合体の製造工程を示す断面図。
【符号の説明】
【0098】
1 燃料電池スタック
2 燃料電池セル
3 電解質膜電極積層体
4 電解質膜
5A、5C 電極触媒層
7A、7C 第一、第二セパレータ
8A、8C ガス流路
9 温調媒体流路
25 反応側表面
26 背面
27 耐食被覆処理層
28 耐食皮覆
30 セパレータ接合体
31A、31C ガスマニホールド
41C マニホールド溶接部
45、46 マニホールド開口部
49 マニホールド開口内周端
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対の電極触媒層で電解質膜を挟んで構成した電解質膜電極積層体をさらにその両側からガス流路を画成する金属製の第一、第二セパレータで挟むことによって燃料電池セルを構成し、これら積層される複数の燃料電池セルを貫通して各燃料電池セルのガス流路に連通するガスマニホールドを備える燃料電池スタックにおいて、
前記第一、第二セパレータに前記ガスマニホールドを画成するマニホールド開口部をそれぞれ形成し、前記第一、第二セパレータのマニホールド開口部の開口面積を相違させ、開口面積が大きい前記第一セパレータのマニホールド開口内周端を前記第二セパレータに溶接してマニホールド溶接部を形成したことを特徴とする燃料電池スタック。
【請求項2】
前記第二セパレータの背面に対峙する前記第一セパレータのマニホールド開口内周端を加熱して前記マニホールド溶接部を形成したことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池スタック。
【請求項3】
前記第一、第二セパレータのマニホールド開口部のうち、前記ガスマニホールドにおけるガスの流れに対して上流側に位置する前記第一セパレータのマニホールド開口部の開口面積をこのガスの流れに対して下流側に位置する前記第二セパレータのマニホールド開口部の開口面積より大きく形成したことを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池スタック。
【請求項4】
隣接して積層される前記燃料電池セルのセパレータ同士の背面を接触させて両者間に温調媒体を流通させる流路を画成し、前記セパレータの前記電解質膜電極積層体に対峙する反応側表面のみに耐食被覆処理層を形成し、前記セパレータの前記背面同士が接触する部位の少なくとも一部を互いに接合する溶接部を備えたことを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の燃料電池スタック。
【請求項5】
前記第一、第二セパレータを溶接した後、少なくともこの溶接部の表面に耐食皮膜を形成したことを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載の燃料電池スタック。
【請求項6】
対の電極触媒層で電解質膜を挟んで構成した電解質膜電極積層体をさらにその両側からガス流路を画成して挟むことで燃料電池セルを構成する金属製の第一、第二セパレータであり、これら積層される複数の燃料電池セルを貫通して各燃料電池セルのガス流路に連通するガスマニホールドを備える燃料電池セパレータにおいて、
前記第一、第二セパレータにガスマニホールドを画成するマニホールド開口部をそれぞれ形成し、前記第一、第二セパレータのマニホールド開口部の開口面積を相違させ、開口面積が大きい前記第一セパレータのマニホールド開口内周端を前記第二セパレータに溶接してマニホールド溶接部を形成したことを特徴とする燃料電池セパレータ。
【請求項7】
対の電極触媒層で電解質膜を挟んで構成した電解質膜電極積層体をさらにその両側からガス流路を画成する金属製の第一、第二セパレータで挟むことによって燃料電池セルを構成し、これら積層される複数の燃料電池セルを貫通して各燃料電池セルのガス流路に連通するガスマニホールドを備える燃料電池スタックの製造方法において、
前記第一、第二セパレータに前記ガスマニホールドを画成するマニホールド開口部をそれぞれ形成し、前記第一、第二セパレータのマニホールド開口部の開口面積を相違させ、開口面積が大きい前記第一セパレータのマニホールド開口内周端を前記第二セパレータに溶接してマニホールド溶接部を形成することを特徴とする燃料電池スタックの製造方法。
【請求項1】
対の電極触媒層で電解質膜を挟んで構成した電解質膜電極積層体をさらにその両側からガス流路を画成する金属製の第一、第二セパレータで挟むことによって燃料電池セルを構成し、これら積層される複数の燃料電池セルを貫通して各燃料電池セルのガス流路に連通するガスマニホールドを備える燃料電池スタックにおいて、
前記第一、第二セパレータに前記ガスマニホールドを画成するマニホールド開口部をそれぞれ形成し、前記第一、第二セパレータのマニホールド開口部の開口面積を相違させ、開口面積が大きい前記第一セパレータのマニホールド開口内周端を前記第二セパレータに溶接してマニホールド溶接部を形成したことを特徴とする燃料電池スタック。
【請求項2】
前記第二セパレータの背面に対峙する前記第一セパレータのマニホールド開口内周端を加熱して前記マニホールド溶接部を形成したことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池スタック。
【請求項3】
前記第一、第二セパレータのマニホールド開口部のうち、前記ガスマニホールドにおけるガスの流れに対して上流側に位置する前記第一セパレータのマニホールド開口部の開口面積をこのガスの流れに対して下流側に位置する前記第二セパレータのマニホールド開口部の開口面積より大きく形成したことを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池スタック。
【請求項4】
隣接して積層される前記燃料電池セルのセパレータ同士の背面を接触させて両者間に温調媒体を流通させる流路を画成し、前記セパレータの前記電解質膜電極積層体に対峙する反応側表面のみに耐食被覆処理層を形成し、前記セパレータの前記背面同士が接触する部位の少なくとも一部を互いに接合する溶接部を備えたことを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の燃料電池スタック。
【請求項5】
前記第一、第二セパレータを溶接した後、少なくともこの溶接部の表面に耐食皮膜を形成したことを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載の燃料電池スタック。
【請求項6】
対の電極触媒層で電解質膜を挟んで構成した電解質膜電極積層体をさらにその両側からガス流路を画成して挟むことで燃料電池セルを構成する金属製の第一、第二セパレータであり、これら積層される複数の燃料電池セルを貫通して各燃料電池セルのガス流路に連通するガスマニホールドを備える燃料電池セパレータにおいて、
前記第一、第二セパレータにガスマニホールドを画成するマニホールド開口部をそれぞれ形成し、前記第一、第二セパレータのマニホールド開口部の開口面積を相違させ、開口面積が大きい前記第一セパレータのマニホールド開口内周端を前記第二セパレータに溶接してマニホールド溶接部を形成したことを特徴とする燃料電池セパレータ。
【請求項7】
対の電極触媒層で電解質膜を挟んで構成した電解質膜電極積層体をさらにその両側からガス流路を画成する金属製の第一、第二セパレータで挟むことによって燃料電池セルを構成し、これら積層される複数の燃料電池セルを貫通して各燃料電池セルのガス流路に連通するガスマニホールドを備える燃料電池スタックの製造方法において、
前記第一、第二セパレータに前記ガスマニホールドを画成するマニホールド開口部をそれぞれ形成し、前記第一、第二セパレータのマニホールド開口部の開口面積を相違させ、開口面積が大きい前記第一セパレータのマニホールド開口内周端を前記第二セパレータに溶接してマニホールド溶接部を形成することを特徴とする燃料電池スタックの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−311074(P2007−311074A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−136793(P2006−136793)
【出願日】平成18年5月16日(2006.5.16)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月16日(2006.5.16)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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