説明

燃料電池セパレータの製造装置およびこれに用いる材料供給装置

【課題】セパレータ製造に用いられる黒鉛粉末に熱硬化性樹脂系のバインダを混合させた粉体状材料を、金型充填前に予備加熱を行うことによって、材料昇温時間の短縮による生産性の向上を図る。
【解決手段】燃料電池セパレータの製造装置は、金型10を用いて粉体状材料100を圧縮成形することで燃料電池セパレータを製造する装置である。燃料電池セパレータの製造装置は、前記粉体状材料100を前記金型10のキャビティ50に供給する材料供給装置60を備え、前記材料供給装置60に、前記粉体状材料100を予備加熱する加熱ヒータ71,72を設けてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池セパレータの製造装置と、これに用いる材料供給装置に係り、さらに詳しくは、流動性が乏しく、分散性・均一性が悪い炭素質系粉末を主成分とする材料を用いた圧縮成形により、燃料電池セパレータを得るための製造装置および材料供給装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池による発電システムは、近年のエネルギー消費量増加に伴う二酸化炭素排出量の増加や、石油をはじめとする化石資源の枯渇問題を解決するべく、クリーンかつ高効率の新しい技術として広く実用化検討が推進されている。
【0003】
特に、電解質にイオン交換膜を用いた固体高分子型燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)システムは、作動温度が80℃以下と比較的低温であることから、容易に運転・停止が可能である。また、エネルギー効率が高いことから、家庭用コージェネレーション、自動車、携帯機器等への導入が期待されている。
【0004】
固体高分子型燃料電池に用いられる基本セルは、イオン交換膜からなる電解質膜がアノード、カソードの各電極ではさまれ、さらに両側から2枚のセパレータではさみ込む構成である。セパレータ表面には、一方の電極に水素等の燃料ガスを、また他方の電極に酸素・空気等の酸化ガスを供給するための流路溝がそれぞれ形成される。また、セパレータは、燃料ガスと酸化ガスを分離するための遮蔽板としての機能をもつ。
【0005】
そして、燃料電池システムに必要な電気出力に応じて、このような基本セルが数十〜数百枚直列に積層されてスタックとして構成される。
【0006】
以上のような機能をもつセパレータに必要な代表的特性としては、アメリカ・エネルギー省(DOE:Department of Energy)の目標値を基準にした場合、電気抵抗値が20mΩ・cm以下であること、ガス透過性が2×10−6cc/cm・sec以下であること、薄肉、軽量であること、そして、市場への普及には製造コストの大幅な低減が必要不可欠である。
【0007】
このような諸性質・コストを兼ね備えたセパレータは、当初、炭素質系材料に熱硬化型樹脂性バインダを混合・成形し、加熱硬化後に非酸化性雰囲気中にて1000℃以上の高温で長時間処理により焼成炭化されていた。
【0008】
これに対し、導電性に優れた黒鉛粉末に熱硬化性樹脂系のバインダを混合して得られる材料を用いた圧縮成形によって、電気抵抗値、ガス非透過性を維持しながら、製造コストを低減する製造方法が提案されている。
【特許文献1】特開2004−338269号公報
【特許文献2】特開2005−19171号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記のような先行技術文献に記載された技術を採用する場合、下記に述べるような課題があった。
【0010】
黒鉛粉末を主成分とし、熱硬化性樹脂をバインダとして混合された粉末材料は、熱伝導性に乏しいので、サイクルタイム短縮による生産性向上のためには、金型への材料供給後の圧縮成形開始可能な状態、つまり粉末材料を所定の温度に加温させる時間の短縮が重要となる。
【0011】
そのためには、加熱装置を備えた金型を複数個準備し、あらかじめ粉末材料を充填し、加熱しておく製造方法が提案されている。しかし、金型は非常に高価であり、製造設備費用が高額になることから、低コストのセパレータを供給することは難しい。
【0012】
また、鉄系粉末、銅系粉末などを圧縮成形し、焼結して製品とする粉末冶金成形では、強度向上を目的とした温間成形工法がある。この工法では、金型に粉末材料を充填する前に、貯蔵するためのホッパで、あらかじめ所定の温度に昇温させる。
【0013】
しかしながら、粉末冶金成形で用いられる粉末材料は、セパレータ材料の主成分である黒鉛よりも比重が大きい金属、または非金属であり、さらに、バインダもしくは潤滑剤の添加量は、セパレータ材料が10〜15%であるのに対して、粉末冶金用材料は1%以下であるため、材料粉末の特性はまったく異なる。
【0014】
このため、従来の粉末冶金温間成形で用いられる材料の貯蔵、輸送、供給の装置では、材料の目詰まり、ブリッジなどにより輸送ができなかったり、加熱状態の不均一や不安定な材料輸送による偏析や嵩密度の不均一が発生する。特に加熱温度が高いほど、不均一性は顕著となる。
【0015】
また、ホッパと金型に材料を供給するフィーダボックスはフレキシブルホース等で連結されているため、ホッパ内の材料貯蔵量の大小により、ボックス内への供給量にバラツキが発生していた。その結果、圧縮成形されたセパレータの特性に不均一が生じてしまった。
【0016】
特に、燃料電池セパレータは数百枚を積層して使用されるために、薄肉・大面積の形状であることから、部分的な材料の充填バラツキは非常に発生しやすい。
【0017】
さらに、セパレータ用粉末材料は黒鉛の粒子径が小さく、比重も小さいことから、大気中への拡散性が高いので、材料輸送系での漏洩による作業環境の悪化が問題となっていた。
【0018】
この発明は、上記課題を解決するために為されたものであり、セパレータ製造に用いられる黒鉛粉末に熱硬化性樹脂系のバインダを混合させた粉体状材料を、金型充填前に予備加熱を行うことによって、材料昇温時間の短縮による生産性の向上を図ることのできる燃料電池セパレータの製造装置およびこれに用いる材料供給装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
この発明の請求項1に係る燃料電池セパレータの製造装置は、金型を用いて粉体状材料を圧縮成形することで燃料電池セパレータを製造する製造装置であって、前記粉体状材料を前記金型のキャビティに供給する材料供給装置を備え、前記材料供給装置に、前記粉体状材料を予備加熱する加熱ヒータを設けたことを特徴とするものである。
【0020】
この発明の請求項2に係る燃料電池セパレータの製造装置は、請求項1記載の燃料電池セパレータの製造装置において、前記材料供給装置は、前記粉体状材料を貯蔵するホッパを備え、前記ホッパに前記加熱ヒータを備えたことを特徴とするものである。
【0021】
この発明の請求項3に係る燃料電池セパレータの製造装置は、請求項2記載の燃料電池セパレータの製造装置において、前記材料供給装置は、前記ホッパに貯蔵された前記粉体状材料を撹拌する撹拌部材を備えたことを特徴とするものである。
【0022】
この発明の請求項4に係る燃料電池セパレータの製造装置は、請求項2記載の燃料電池セパレータの製造装置において、前記材料供給装置は、前記ホッパの横断面積漸減部における前記粉体状材料の流動性を確保するため、前記ホッパの前記横断面積漸減部の外表面に配置されるノック部材を備えたことを特徴とするものである。
【0023】
この発明の請求項5に係る燃料電池セパレータの製造装置は、請求項2記載の燃料電池セパレータの製造装置において、前記材料供給装置は、前記ホッパの横断面積漸減部における前記粉体状材料の流動性を確保するため、前記ホッパの前記横断面積漸減部の内部に配置されるエアーブロー部材を備えたことを特徴とするものである。
【0024】
この発明の請求項6に係る燃料電池セパレータの製造装置は、請求項2〜5のいずれか1項記載の燃料電池セパレータの製造装置において、前記材料供給装置は、前記ホッパに貯蔵された前記粉体状材料を一定量切り分ける切り分けボックスと、前記切り分けボックスで切り分けられた前記粉体状材料を収容して前記金型のキャビティまで移送するフィーダとを備えたことを特徴とするものである。
【0025】
この発明の請求項7に係る燃料電池セパレータの製造装置は、請求項6記載の燃料電池セパレータの製造装置において、前記材料供給装置は、前記切り分けボックスまたは前記フィーダに前記加熱ヒータを備えたことを特徴とするものである。
【0026】
この発明の請求項8に係る燃料電池セパレータの製造装置は、請求項7記載の燃料電池セパレータの製造装置において、前記材料供給装置は、前記ホッパに備えた前記加熱ヒータの設定温度に比べて、前記切り分けボックスまたは前記フィーダに備えた前記加熱ヒータの設定温度が、所定温度低い温度に設定されることを特徴とするものである。
【0027】
この発明の請求項9に係る燃料電池セパレータの製造装置は、請求項6記載の燃料電池セパレータの製造装置において、前記切り分けボックスは、前記ホッパの出口開口に対応する上部開口および前記フィーダの上部開口に対応する下部開口を備えるとともに、前記上部開口を開閉する上部シャッタと、前記下部開口を開閉する下部シャッタとが一体になったシャッタ部材を備え、前記シャッタ部材は、前記上部シャッタまたは前記下部シャッタのいずれか一方が開放位置にあるとき他方が閉鎖位置にあり、付勢部材の作用により、定常状態では前記下部シャッタが閉鎖位置に保持されることを特徴とするものである。
【0028】
この発明の請求項10に係る燃料電池セパレータの製造装置は、請求項6記載の燃料電池セパレータの製造装置において、前記フィーダは、前記金型のキャビティ上面に連なる支持板と、アクチュエータと、前記アクチュエータの作動により前記支持板に沿って往復移動するフィーダ本体とを備え、前記フィーダ本体は、上部開口および下部開口を備えるとともに、前記上部開口を開閉するシャッタ部材を備え、付勢部材の作用により、定常状態では前記シャッタ部材が閉鎖位置に保持されることを特徴とするものである。
【0029】
この発明の請求項11に係る燃料電池セパレータの製造装置は、請求項10記載の燃料電池セパレータの製造装置において、前記フィーダは、前記アクチュエータの作動により、前記フィーダ本体を、前記上部開口が前記ホッパの真下において前記切り分けボックスの下部開口に対応する材料受入位置から、前記下部開口が前記金型キャビティの上面に対応する材料供給位置までを含む範囲で往復移動させることを特徴とするものである。
【0030】
この発明の請求項12に係る燃料電池セパレータの製造装置は、請求項11記載の燃料電池セパレータの製造装置において、前記フィーダ本体は、前記材料供給位置において、前記アクチュエータの作動により所定ストロークの往復動を反復し、前記フィーダ本体の前記下部開口は、前記金型キャビティの上面開口に比べて、前記所定ストロークに相当する大きさだけ大きく形成されることを特徴とするものである。
【0031】
この発明の請求項13に係る燃料電池セパレータの製造装置は、請求項11記載の燃料電池セパレータの製造装置において、前記フィーダ本体が前記材料供給位置から前記材料受入位置に移動するとき、前記アクチュエータの作動力が前記付勢部材の付勢力を上回ることで、前記切り分けボックスの前記シャッタ部材を作動させて、前記上部シャッタを閉鎖位置に、かつ、前記下部シャッタを開放位置にするとともに、前記フィーダ本体の前記シャッタ部材を同時に作動させて、前記切り分けボックスの前記シャッタ部材と同期して開放位置にすることを特徴とするものである。
【0032】
この発明の請求項14に係る燃料電池セパレータ製造装置に用いる材料供給装置は、燃料電池セパレータの原料の粉体状材料を圧縮成形金型のキャビティに供給する燃料電池セパレータ製造装置に用いる材料供給装置であって、前記粉体状材料を予備加熱する加熱ヒータを備えたことを特徴とするものである。
【0033】
この発明の請求項15に係る燃料電池セパレータ製造装置に用いる材料供給装置は、請求項14記載の燃料電池セパレータ製造装置に用いる材料供給装置において、前記粉体状材料を貯蔵するホッパと、前記ホッパに貯蔵された前記粉体状材料を一定量切り分ける切り分けボックスと、前記切り分けボックスで切り分けられた前記粉体状材料を収容して前記金型のキャビティまで移送するフィーダと、を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0034】
この発明は以上のように、金型を用いて粉体状材料を圧縮成形することで燃料電池セパレータを製造する製造装置であって、前記粉体状材料を前記金型のキャビティに供給する材料供給装置を備え、前記材料供給装置に、前記粉体状材料を予備加熱する加熱ヒータを設けた構成としたので、燃料電池セパレータ用の粉体状材料を金型充填前に予備加熱することができ、これにより、材料昇温時間の短縮による生産性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
この発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0036】
図1は、この発明による燃料電池セパレータの一実施形態を示す(a)正面図および(b)背面図、図2は、図1のII−II線に沿ってとられた(a)断面図および(b)A部の拡大図である。
【0037】
この燃料電池セパレータ1は、固体高分子型燃料電池システムに適用されるセパレータであり、両面(または片面)には、流路溝部2および、流路溝部2の周囲を囲む囲繞部4を有している。
【0038】
セパレータ1の寸法は、燃料電池システムの発電能力により異なるが、外形が50〜400mm、例えば縦150mm×横100mmで、厚さが0.5〜5mm、例えば2.0mmの平板形状である。
【0039】
セパレータ1の流路溝部2には、燃料ガス、酸化ガスまたは冷却水の流路となる溝(流路溝)3が形成されている。流路溝3の深さは、セパレータ1の板厚の約1/2以下であり、例えば0.5mmである。流路溝3の溝幅は0.5〜5mm、例えば1mmである。そして、流路溝3は、セパレータ1表面の囲繞部4に囲まれた所定領域内に細密な配置で形成されて、流路溝部2を構成している。
【0040】
このような流路溝3は、セパレータ1の囲繞部4に形成されたマニホルド5に連結していて、マニホルド5を通して、燃料ガス、酸化ガスまたは冷却水が流路溝3に導入・排出されるようになっている。なお、図1では、流路溝3およびマニホルド5を2系統だけ図示し、第3の流路溝ならびに第3のマニホルドは図示を省略してある。
【0041】
この発明による燃料電池セパレータ1に用いられる成形材料は、炭素質粉末を主成分とし、樹脂系材料をバインダとして混合したものである。
【0042】
セパレータ1は高い導電性を必要とするため、炭素質材料としては、高い結晶性の黒鉛構造を有することが望ましく、人造黒鉛、天然黒鉛、膨潤黒鉛などが適しており、またこれらを適正な割合で混合してもよい。黒鉛粉末の平均粒子径は、導電性、材料流動性の面からφ5〜100μmが用いられ、さらに好ましくはφ10〜60μmである。黒鉛粉末中の灰分は、セパレータ1に隣接する触媒の電気化学的反応を阻害し、耐久性を低下させるため、0.5%以下が好ましい。
【0043】
一方、炭素質粉末のバインダとして用いる樹脂系材料は、熱可塑性または熱硬化性のいずれでも構わない。好ましくは、機械的強度、耐久性の面から、3次元分子構造を形成する熱硬化性樹脂が用いられる。熱硬化性樹脂は、例えばフェノール系、エポキシ系、ジアリルフタレート系、不飽和ポリエステル系等が使用できるが、生産性・耐久性の面からフェノール系樹脂が好ましい。
【0044】
上記の黒鉛粉末と樹脂系バインダとの配合割合は、高い導電性と高い非ガス透過性および機械的強度のバランスから、黒鉛75〜95wt%、樹脂系バインダ25〜5wt%、さらに好ましくは、黒鉛82〜93wt%、樹脂系バインダ18〜7wt%の配合割合の成形材料が用いられる。
【0045】
以上の混合材料を用いて、以下に説明する成形金型および材料供給装置を用いた製造装置により、この発明による燃料電池セパレータ1を成形することができる。
【0046】
図3は、この発明による燃料電池セパレータ1の製造装置に用いる成形金型の一実施形態を示す縦断面図である。囲繞部4に形成されるマニホルド5およびセパレータ1のスタック用貫通孔を形成する金型であるコアピンは省略してある。
【0047】
この成形金型10は、固定側ブロック20に設けられる下金型(下パンチ)21と、移動側ブロック40に設けられる上金型(上パンチ)41と、上下両金型41,21間に形成されるキャビティ50の外周を担う金型である枠体(ダイ)30とを備えている。枠体(ダイ)30も固定側ブロック20に設けられ、また、上金型(上パンチ)41は移動側ブロック40とともに、ラム圧力で作動されるようになっている。
【0048】
下パンチ21は、セパレータ1下面の形状を形成するものであり、上パンチ41は、セパレータ1上面の形状を形成するものであり、ダイ30は、セパレータ1の外周形状を形成するものである。
【0049】
枠体(ダイ)30は、その上面が下パンチ21の上面よりも低くなる位置から、ストッパブロック31に当接するまで突出可能に進退させる作動部材(アクチュエータ)32を備えている。
【0050】
この成形金型10は、下パンチ21、上パンチ41が圧縮成形方向に作動可能に保持される。そして、図3に矢印Pで示すように、セパレータ1の最大面積を有する平面部に対して垂直方向からの単軸成形により圧縮成形される。
【0051】
図4は、この発明による燃料電池セパレータ1の製造装置に用いる材料供給装置の一実施形態を示す縦断面図、図5は材料供給装置の拡大図である。
【0052】
この材料供給装置60は、上記の混合材料(粉体状材料)100を貯蔵するホッパ70と、ホッパ70に貯蔵された混合材料(粉体状材料)100を一定量切り分ける切り分けボックス80と、切り分けボックス80で切り分けられた混合材料(粉体状材料)100を収容して金型のキャビティまで移送するフィーダ90とで構成される。
【0053】
ホッパ70は、図示しないプレス装置の背面に固定されている。ホッパ70の容積は、1サイクル当りのキャビティ50への粉体状材料100の充填量、サイクルタイム、粉体状材料100を所定の温度に昇温するための加熱時間等の各種条件から、適正な容積を決定する。
【0054】
ホッパ70の形状は、粉体状材料100がスムーズに落下しやすいので円筒形が最適であるが、加熱機器、撹拌機器の配置上、四角形などの多角形でも構わない。但し、稜線には大きなR形状を付け、円筒形に近い形状が望ましい。
【0055】
ホッパ70の材質は、耐腐食性からオーステナイト系ステンレスが望ましく、粉体状材料100が接触する表面すなわちホッパ70の内壁面は、ミガキ等の処理により滑らかにし、可能な限り凹凸部は避けることが望ましい。
【0056】
ホッパ70の外表面にはバンドヒータ71が設けられ、また、ホッパ70の内部にはカートリッジヒータ72が設けられている。これらの加熱ヒータ(バンドヒータ71、カートリッジヒータ72)はいずれも、図示しない温度センサが取り付けられて、所定の温度に制御される。
【0057】
これらの加熱ヒータ(バンドヒータ71、カートリッジヒータ72)により、粉体状材料100は、予備加熱工程にて50℃以上、80℃以下の範囲内で、任意の温度に加熱される。
【0058】
この粉体状材料100は熱伝導性が低く、かつ粉体状であるから、加温には充分な時間が必要である。そのため、ホッパ70からキャビティ50に充填するまでの搬送経路では、粉体状材料100の温度バラツキを低減させる撹拌等の工程を施しながら、徐々に加熱し、任意の材料温度に調整する。
【0059】
この加熱工程では、加温機器の表面温度が、混合材料100中の熱硬化性樹脂の硬化反応が始まる温度を超えないように、加温機器の表面に温度センサを取り付けることが重要である。硬化反応が始まる温度になると、接触した混合材料100中の熱硬化性樹脂は軟化状態を越え、硬化反応の初期状態になってしまう。この状態になった熱硬化性樹脂は、他部の軟化状態とは異なり、圧縮成形工程、硬化工程において著しい特性の不均一性を与えてしまうからである。
【0060】
ホッパ70の内部には、粉体状材料100の加熱の効率を高め、温度をより均一にするため、粉体状材料100を撹拌する撹拌部材(羽根付きシャフト)73が設けられている。適宜のアクチュエータにより羽根付きシャフト73を180°の角度で繰り返し反転させることで、加熱された粉体状材料100を撹拌する。
【0061】
羽根付きシャフト73のアクチュエータは、例えば、エアー駆動式のロータリーシリンダを用いることができ、また、電動モータ等を用いることもできる。羽根付きシャフト73の作動タイミングは、切り分けボックス80への材料落下の状態に影響を与えないよう、切り分けボックス80の上部シャッタ82が閉鎖状態でシャッタ部材81の作動位置をトリガとして制御する。
【0062】
ホッパ70の下部は、小容積の切り分けボックス80に粉体状材料100を落下させるため、漏斗形状に絞られて横断面積漸減部が形成されている。粉体状材料100はバインダとして樹脂が混合されているため、安息角が大きく、さらに加温された状態では安息角は85°以上になる。そのため、絞られた部分(横断面積漸減部)では粉体状材料100の目詰まり、ブリッジが容易に発生するので、ノック部材(エアー式ノッカ)74およびエアーブロー部材(エアーブローノズル)75を設け、羽根付きシャフト73と同様に作動タイミングを制御する。
【0063】
切り分けボックス80は、ホッパ70の出口開口に対応する上部開口を開閉する上部シャッタ82と、フィーダ90の上部開口に対応する下部開口を開閉する下部シャッタ83とが一体になったシャッタ部材81を備えている。
【0064】
シャッタ部材81は、上部シャッタ82または下部シャッタ83のいずれか一方が開放位置にあるとき他方が閉鎖位置にあり、付勢部材(引張ばね)84の作用により、定常状態では下部シャッタ83が閉鎖位置に保持される。
【0065】
シャッタ部材81は、フィーダ90に粉体状材料100を安定的に落下供給するため、ホッパ70内の粉体状材料100の自重をキャンセルさせる機能をもつ。
【0066】
すなわち、切り分けボックス80からフィーダ90に粉体状材料100を落下供給する状態では、上部シャッタ82は閉鎖状態となり、ホッパ70内の粉体状材料100の自重の影響はキャンセルされていると同時に、下部シャッタ83は開放状態であり、切り分けボックス80内の粉体状材料100のみがフィーダ90に落下供給される。
【0067】
一方、フィーダ90が移動し、キャビティ50へ粉体状材料100を供給・充填する工程では、上部シャッタ82は開放状態となり、ホッパ70内の粉体状材料100は切り分けボックス80に落下供給されると同時に、下部シャッタ83は閉鎖状態であるため、フィーダ90が移動して不在となった空間に粉体状材料100が落下することはない。
【0068】
シャッタ部材81の開閉作動は専用のアクチュエータを必要とせず、フィーダ90の作動により達成される。フィーダ90がキャビティ50に粉体状材料100を供給・充填する工程では、引張ばね84により上部シャッタ82は開放状態、下部シャッタ83は閉鎖状態にある。
【0069】
一方、フィーダ90が切り分けボックス80から粉体状材料100を供給されるときは、フィーダ90に設けられたロッド96がシャッタ部材81と接触する。フィーダ90の駆動力は引張ばね84の付勢力より大きいので、フィーダ90が切り分けボックス80に近づく動作と同期して、シャッタ部材81が作動する。その結果、フィーダ90が所定の材料受入位置に戻った状態(図4参照)では、シャッタ部材81も作動が完了し、上部シャッタ82は閉鎖状態、下部シャッタ83は開放状態となる。
【0070】
切り分けボックス80の容積は、キャビティ50への充填量より大きければよいが、2〜5倍の容積が望ましい。必要によっては、保温のため、外周部にバンドヒータ(加熱ヒータ)85を設けるが、温度バラツキの防止のため、ホッパ70の加熱ヒータ(バンドヒータ71、カートリッジヒータ72)の設定温度より5℃程度低い温度に設定する。
【0071】
フィーダ90は、金型のキャビティ50上面に連なる支持板91と、図示しないアクチュエータと、アクチュエータの作動により支持板91に沿って往復移動するフィーダ本体92とで構成される。
【0072】
フィーダ90は、切り分けボックス80から供給された粉体状材料100をキャビティ50まで移送し供給・充填するための直線的な往復動作の機能を持つ。
【0073】
フィーダ90を作動させるアクチュエータは、例えば、エアーシリンダ、油圧シリンダ、電動モータによるボールねじ駆動など、適宜のものが使用可能である。しかし、粉体状材料100をキャビティ50に均一に供給・充填するには、任意位置での反復往復動および速度調整が容易にできる構造が望ましい。
【0074】
フィーダ本体92は、上部開口を開閉するシャッタ部材93を備え、付勢部材(圧縮ばね)94の作用により、定常状態ではシャッタ部材93が閉鎖位置に保持される。フィーダ本体92から粉体状材料100をキャビティ50に供給・充填する工程では、圧縮ばね94によりシャッタ部材93は閉鎖状態に保持されているため、フィーダ本体92の高速かつ反復往復動においても、粉体状材料100が飛散して作業環境を悪化させることはない。
【0075】
一方、フィーダ本体92が切り分けボックス80から粉体状材料100を受け入れる(供給される)ときは、切り分けボックス80に設けられたロッド86がシャッタ部材93に接触する。フィーダ本体92の駆動力は圧縮ばね94の付勢力よりも大きいので、フィーダ本体92が切り分けボックス80に近づく動作に同期してシャッタ部材93は作動する。フィーダ本体92が所定の材料受入位置に戻った状態(図4参照)では、シャッタ部材93も作動が完了し、シャッタ部材93は開放状態となり、切り分けボックス80からフィーダ本体92に粉体状材料100が供給される。
【0076】
また、フィーダ本体92は、必要によっては、保温のため、外周部にバンドヒータ(加熱ヒータ)95を設けるが、温度バラツキの防止のため、ホッパ70の加熱ヒータ(バンドヒータ71、カートリッジヒータ72)の設定温度より5℃程度低い温度に設定する。
【0077】
以下に、切り分けボックス80、フィーダ90、キャビティ50の順に粉体状材料100を搬送する1サイクル作動を説明する。
【0078】
図6は、切り分けボックス80からフィーダ本体92に粉体状材料100が供給され、フィーダ本体92がキャビティ50に粉体状材料100を供給・充填する位置(材料供給位置)向かって移動している過程を示す。
【0079】
フィーダ本体92上部のシャッタ部材93は、圧縮ばね94によって閉鎖状態に保持されている。切り分けボックス80のシャッタ部材81も引張ばね84により、上部シャッタ82は開放状態となって、ホッパ70から粉体状材料100が落下され、同時に、下部シャッタ83は閉鎖状態となっている。
【0080】
図7は、フィーダ本体92からキャビティ50に粉体状材料100を供給・充填した状態を示す。このとき、位置による充填量のバラツキを低減するために、フィーダ本体92を所定のストロークで反復往復動させることが望ましい。その場合、フィーダ本体92の下部開口の大きさは、キャビティ50の上面開口より大きく、さらに所定ストローク分だけ大きな下部開口を設ける必要がある。この反復往復動において、シャッタ部材93は常時閉鎖状態に保持されているので、激しい反復往復動であっても粉体状材料100が飛散することはない。
【0081】
図8は、フィーダ本体92がキャビティ50に粉体状材料100を充填完了し、材料を補充する位置(材料受入位置)に向かって移動している状態である。
【0082】
図4は、フィーダ本体92が切り分けボックス80の直下位置(材料受入位置)に戻り、切り分けボックス80からフィーダ本体92に粉体状材料100が落下供給されている状態を示す。
【0083】
切り分けボックス80のシャッタ部材81は、フィーダ本体92に設けられたロッド96により作動し、上部シャッタ82は閉鎖状態となり、ホッパ70からの粉体状材料100の落下が遮断される。同時に下部シャッタ83は開放状態となり、フィーダ本体92に粉体状材料100が落下供給される。同様に、フィーダ本体92のシャッタ部材93は、切り分けボックス80に設けられたロッド86により、開放状態となる。
【0084】
なお、この発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能であることはいうまでもない。
【0085】
以上の記載から明らかなように、この発明は、セパレータ製造に用いられる黒鉛粉末に熱硬化性樹脂系のバインダを混合させた粉体状材料を、金型充填前に予備加熱を行うことによって、材料昇温時間の短縮による生産性の向上を図ることができる。
【0086】
また、この発明は、セパレータ用粉体状材料の性質に適した材料供給装置により、嵩密度・充填量のバラツキを低減することによって、セパレータの特性の均一性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】この発明による燃料電池セパレータの一実施形態を示す(a)正面図および(b)背面図である。
【図2】図1のII−II線に沿ってとられた(a)断面図および(b)A部の拡大図である。
【図3】この発明による燃料電池セパレータの製造装置に用いる成形金型の一実施形態を示す縦断面図である。
【図4】この発明による燃料電池セパレータの製造装置に用いる材料供給装置の一実施形態を示す縦断面図である。
【図5】材料供給装置の拡大図である。
【図6】粉体状材料をキャビティに供給・充填するため、フィーダ本体がキャビティに向けて移動している状態を示す図である。
【図7】キャビティに粉体状材料が供給・充填された状態を示す図である。
【図8】粉体状材料を補給するため、フィーダ本体がホッパに向けて移動している状態を示す図である。
【符号の説明】
【0088】
1 燃料電池セパレータ
2 流路溝部
3 流路溝
4 囲繞部
5 マニホルド
10 成形金型
20 固定側ブロック
21 下パンチ(下金型)
30 ダイ(枠体)
31 ストッパブロック
32 アクチュエータ(作動部材)
40 移動側ブロック
41 上パンチ(上金型)
50 キャビティ
60 材料供給装置
70 ホッパ
71 バンドヒータ(加熱ヒータ)
72 カートリッジヒータ(加熱ヒータ)
73 撹拌部材(羽根付きシャフト)
74 ノック部材(エアー式ノッカ)
75 エアーブロー部材(エアーブローノズル)
80 切り分けボックス
81 シャッタ部材
82 上部シャッタ
83 下部シャッタ
84 付勢部材(引張ばね)
85 バンドヒータ(加熱ヒータ)
86 ロッド
90 フィーダ
91 支持板
92 フィーダ本体
93 シャッタ部材
94 付勢部材(圧縮ばね)
95 バンドヒータ(加熱ヒータ)
96 ロッド
100 混合材料(粉体状材料)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型を用いて粉体状材料を圧縮成形することで燃料電池セパレータを製造する製造装置であって、
前記粉体状材料を前記金型のキャビティに供給する材料供給装置を備え、
前記材料供給装置に、前記粉体状材料を予備加熱する加熱ヒータを設けたことを特徴とする燃料電池セパレータの製造装置。
【請求項2】
前記材料供給装置は、前記粉体状材料を貯蔵するホッパを備え、前記ホッパに前記加熱ヒータを備えたことを特徴とする請求項1記載の燃料電池セパレータの製造装置。
【請求項3】
前記材料供給装置は、前記ホッパに貯蔵された前記粉体状材料を撹拌する撹拌部材を備えたことを特徴とする請求項2記載の燃料電池セパレータの製造装置。
【請求項4】
前記材料供給装置は、前記ホッパの横断面積漸減部における前記粉体状材料の流動性を確保するため、前記ホッパの前記横断面積漸減部の外表面に配置されるノック部材を備えたことを特徴とする請求項2記載の燃料電池セパレータの製造装置。
【請求項5】
前記材料供給装置は、前記ホッパの横断面積漸減部における前記粉体状材料の流動性を確保するため、前記ホッパの前記横断面積漸減部の内部に配置されるエアーブロー部材を備えたことを特徴とする請求項2記載の燃料電池セパレータの製造装置。
【請求項6】
前記材料供給装置は、前記ホッパに貯蔵された前記粉体状材料を一定量切り分ける切り分けボックスと、前記切り分けボックスで切り分けられた前記粉体状材料を収容して前記金型のキャビティまで移送するフィーダとを備えたことを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項記載の燃料電池セパレータの製造装置。
【請求項7】
前記材料供給装置は、前記切り分けボックスまたは前記フィーダに前記加熱ヒータを備えたことを特徴とする請求項6記載の燃料電池セパレータの製造装置。
【請求項8】
前記材料供給装置は、前記ホッパに備えた前記加熱ヒータの設定温度に比べて、前記切り分けボックスまたは前記フィーダに備えた前記加熱ヒータの設定温度が、所定温度低い温度に設定されることを特徴とする請求項7記載の燃料電池セパレータの製造装置。
【請求項9】
前記切り分けボックスは、前記ホッパの出口開口に対応する上部開口および前記フィーダの上部開口に対応する下部開口を備えるとともに、前記上部開口を開閉する上部シャッタと、前記下部開口を開閉する下部シャッタとが一体になったシャッタ部材を備え、
前記シャッタ部材は、前記上部シャッタまたは前記下部シャッタのいずれか一方が開放位置にあるとき他方が閉鎖位置にあり、付勢部材の作用により、定常状態では前記下部シャッタが閉鎖位置に保持されることを特徴とする請求項6記載の燃料電池セパレータの製造装置。
【請求項10】
前記フィーダは、前記金型のキャビティ上面に連なる支持板と、アクチュエータと、前記アクチュエータの作動により前記支持板に沿って往復移動するフィーダ本体とを備え、
前記フィーダ本体は、上部開口および下部開口を備えるとともに、前記上部開口を開閉するシャッタ部材を備え、付勢部材の作用により、定常状態では前記シャッタ部材が閉鎖位置に保持されることを特徴とする請求項6記載の燃料電池セパレータの製造装置。
【請求項11】
前記フィーダは、前記アクチュエータの作動により、前記フィーダ本体を、前記上部開口が前記ホッパの真下において前記切り分けボックスの下部開口に対応する材料受入位置から、前記下部開口が前記金型キャビティの上面に対応する材料供給位置までを含む範囲で往復移動させることを特徴とする請求項10記載の燃料電池セパレータの製造装置。
【請求項12】
前記フィーダ本体は、前記材料供給位置において、前記アクチュエータの作動により所定ストロークの往復動を反復し、
前記フィーダ本体の前記下部開口は、前記金型キャビティの上面開口に比べて、前記所定ストロークに相当する大きさだけ大きく形成されることを特徴とする請求項11記載の燃料電池セパレータの製造装置。
【請求項13】
前記フィーダ本体が前記材料供給位置から前記材料受入位置に移動するとき、前記アクチュエータの作動力が前記付勢部材の付勢力を上回ることで、前記切り分けボックスの前記シャッタ部材を作動させて、前記上部シャッタを閉鎖位置に、かつ、前記下部シャッタを開放位置にするとともに、前記フィーダ本体の前記シャッタ部材を同時に作動させて、前記切り分けボックスの前記シャッタ部材と同期して開放位置にすることを特徴とする請求項11記載の燃料電池セパレータの製造装置。
【請求項14】
燃料電池セパレータの原料の粉体状材料を圧縮成形金型のキャビティに供給する燃料電池セパレータ製造装置に用いる材料供給装置であって、
前記粉体状材料を予備加熱する加熱ヒータを備えたことを特徴とする燃料電池セパレータ製造装置に用いる材料供給装置。
【請求項15】
前記粉体状材料を貯蔵するホッパと、
前記ホッパに貯蔵された前記粉体状材料を一定量切り分ける切り分けボックスと、
前記切り分けボックスで切り分けられた前記粉体状材料を収容して前記金型のキャビティまで移送するフィーダと、
を備えたことを特徴とする請求項14記載の燃料電池セパレータ製造装置に用いる材料供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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