説明

燃料電池セパレータ成形用シートおよびそれを用いた燃料電池セパレータ

【課題】軽量かつ薄肉で、導電性、表面性および機械的強度に優れた燃料電池セパレータ成形用シートおよびそれを用いた燃料電池セパレータを提供することを目的とする。
【解決手段】炭素系不織布基材の両面に、樹脂被覆黒鉛粉末を付着させてなる燃料電池セパレータ成形用シートであって、前記樹脂被覆黒鉛粉末は、3〜20質量%の樹脂を含み、前記炭素系不織布基材は、目付が1〜30g/mのものであり、かつ前記成形用シートは、目付が1000g/m以下であること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、軽量かつ薄肉で、強度、導電性および表面性状に優れた燃料電池セパレータ成形用シートおよびそれを用いた燃料電池セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、単位セルを数十個〜数百個程度直列に積層した構造(スタック構造)からなり、各単位セルは、主に固体高分子膜、水素極側触媒、空気極側触媒およびセパレータから構成されている。このうち、セパレータは、少なくとも片面に水素ガスあるいは空気を導入するための溝が形成され、ガス流路としての機能の他、水素ガスと空気との混合を防ぐための遮断機能を果たしている。
【0003】
なお、このセパレータは、空気や水素ガスに対するガスバリアー性や、導電性、高い機械的強度を有すると共に、厚み精度に優れること、さらには高分子膜の劣化に影響するイオン性不純物の溶出が少ないことなど、多くの性能が要求されており、従来より様々なセパレータやその製造方法が検討がされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、黒鉛粉末と熱硬化性樹脂の混合物からなる炭素材料を用いてセパレータを形成することが提案されている。この炭素材料は、耐食性に優れると共に、家庭据え置き型の燃料電池セパレータ(厚み:2mm程度)として使用するのに十分な強度を有しているが、車載用燃料電池のように小型(厚み:0.2〜0.3mm程度)で、苛酷な条件下で使用される分野では、強度および成形性の点で以下のような問題を抱えている。
【0005】
すなわち、黒鉛粉末と熱硬化性樹脂の混合物からなる炭素材料は、通常、射出成形や圧縮成形などにより板状に成形されてセパレータとしている。しかしながら、これらの成形方法によってセパレータの成形を行うと、そのエッジ部や薄肉部にショートショット(以下、単に「ショット」という)が発生し易いため、一旦、前記炭素材料をシート状に成形した後、これを例えば、金型上に配置し、加熱、圧縮等の処理を行っている。しかし、前記炭素材料それ自体は、薄いシート状に成形できるほどの機械的強度がなく、仮にそのように成形できたとしても、非常に脆いため、ハンドリングが難しいという問題点があった。
【0006】
また、特許文献2および特許文献3には、燃料電池セパレータの機械的強度や、導電性、成形性の向上を目的として、炭素繊維や黒鉛不織布などの導電性基材に、熱硬化性樹脂と黒鉛粒子とを含浸させたプリプレグが提案されている。しかしながら、このプリプレグは、熱硬化性樹脂と黒鉛粒子とが基材中に完全に含浸されているため、これを加熱、加圧等してセパレータを成形する際に、樹脂および黒鉛粒子が流動せず、セパレータのエッジ部等にショットが発生しやすいという問題点があった。
【特許文献1】特開昭62−160661号公報
【特許文献2】特開2005−339953号公報
【特許文献3】特開2005−229954号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、セパレータのエッジ部等にショットが発生することがなく、軽量かつ薄肉で、導電性、表面性および機械的強度に優れた燃料電池セパレータを成形することのできる成形用シートおよびそれを用いた燃料電池セパレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従来技術が抱えている上述した問題点を克服し、本発明の上記目的を実現するため、本発明では、炭素系不織布基材の両面に、樹脂被覆黒鉛粉末を付着させてなる燃料電池セパレータ成形用シートであって、前記樹脂被覆黒鉛粉末は、3〜20質量%の樹脂を含み、前記炭素系不織布基材は、目付が1〜30g/mのものであり、かつ前記成形用シートは、目付が1000g/m以下であることを特徴とする燃料電池セパレータ成形用シートを提案する。
【0009】
なお、本発明においては、前記樹脂は、熱可塑性樹脂またはレゾール型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ−フェノール樹脂およびこれらの混合物のうちのいずれかからなる熱硬化性樹脂であること、前記黒鉛粉末の平均粒径は、10〜100μmであること、前記樹脂被覆黒鉛粉末は、平均粒径が15〜110μmであること、および前記炭素系不織布基材は、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、フェノール系炭素繊維および黒鉛繊維から選ばれるいずれか1種以上の繊維によって形成されたものであることが、より好ましい解決手段を提供できる。
【0010】
また、本発明は、上述した特性を有する燃料電池セパレータ成形用シートを用いて構成された燃料電池セパレータを提案する。
【発明の効果】
【0011】
上述した構成を採用した本発明によれば、セパレータのエッジ部等にショットを発生することなく、軽量かつ薄肉で、機械的強度や導電性、表面性に優れた燃料電池セパレータを成形することのできる成形用シートおよび燃料電池セパレータを提供することができる。これにより、燃料電池セパレータの軽量化および薄型化が可能となるため、自動車等に搭載可能な小型の固体高分子型燃料電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、この発明の実施形態の一例を説明する。
本発明に係る燃料電池セパレータ成形用シート(以下、単に「成形用シート」という)は、炭素系不織布を基材とし、この基材の両面に、表面が樹脂で被覆された黒鉛粉末、即ち樹脂被覆黒鉛粉末を付着させたものからなる。そして、燃料電池セパレータは、前記成形用シートを、例えば金型上に配置し、加熱、圧縮することにより作製されるものである。
【0013】
前記炭素系不織布基材上に付着させる黒鉛粉末は、成形用シートの体積抵抗率を低減し、導電性を向上させる作用があり、本発明では、この黒鉛粉末として、その表面に、樹脂を被覆したものを用いる。なお、黒鉛粉末表面に被覆する樹脂は、成形用シートを用いて得られるセパレータの組成の均一性や、耐熱性、機械的強度などを向上させるために有効に働くものである。
【0014】
本発明においては、従来技術のように樹脂と黒鉛粉末とを基材中に含浸させるのではなく、樹脂が被覆された黒鉛粉末を基材表面に付着させることにより、例えば、加熱した金型内に配置し、圧縮成形等して燃料電池用セパレータを作製する際などに、次のような作用効果が生じる。即ち、樹脂被覆黒鉛粉末では、黒鉛粉末と樹脂とが共に流動するようになり、金型の端にまで流動するだけでなく、セパレータ内で厚みが変化している場合でも、セパレータのエッジ部などの角部にまで流動して、セパレータにショットが発生することがなくなり、機械的強度が向上する。また、この樹脂被覆黒鉛粉末によれば、樹脂の流動距離が、セパレータを圧縮して薄肉化していくにしたがい、短くなるので、樹脂の添加量を増やすことなく、セパレータの体積抵抗率を小さくしながら強度を確保できる。つまり、樹脂を予め黒鉛粉末に被覆しておくことが有効なのである
【0015】
なお、前記黒鉛粉末の流動性は、樹脂が被覆された状態での黒鉛粉末の平均粒径が、15μm以上の場合に良好となるが、その上限は、成形用シートの表面性(繊維の浮き出し、膨れ)やセパレータ成形時のクラックの発生の点から、110μm以下とすることが好ましい。
【0016】
黒鉛粉末に樹脂を被覆する方法としては、特に制限はない。例えば、メカノケミカル法や熱硬化性樹脂を有機溶剤に溶かし、黒鉛粉末と混合、乾燥するなどの既知の方法を用いることができる。中でも、少量の樹脂を均一に被覆する方法として、樹脂を溶剤に溶かし、黒鉛粉末と混合、乾燥する方法を用いることが好ましい。また、乾燥は、流動槽の中で攪拌しながら行う方法や、真空乾燥など従来の方法を用いることができるが、成形中の膨れを防止する点から真空乾燥工程を含む方法を用いることが好ましい。また、一旦、均一に混合して固めた後、粉砕し、所定の粒度に調整する方法を用いても良い。
【0017】
本発明では、上述した樹脂被覆黒鉛粉末を、炭素系不織布基材の両面に付着させて成形用シートを作製する。これにより、炭素系不織布を構成する繊維の露出が防止され、表面性状(繊維の浮き出し、膨れ)に優れ、体積抵抗率の小さいセパレータを得ることができるようになる。なお、黒鉛粉末を、炭素系不織布基材の片面のみに付着させた場合には、十分な機械的強度が得られないため、セパレータの成形が困難であり、また黒鉛が付着していない側のセパレータ表面に炭素系繊維が浮出しやすくなるため好ましくない。この黒鉛粉末の炭素系不織布基材への付着量は、表裏面とも同じ量であっても、異なっていてもよく、セパレータ特性に合わせて適宜に選定すればよい。
【0018】
また、本発明において、前記樹脂被覆黒鉛粉末の表面に被覆される樹脂の量は、樹脂と黒鉛粉末との合計量の3〜20質量%を占める量とする。これは、黒鉛粉末への樹脂の被覆量が、樹脂と黒鉛粉末の合計量に対し、3質量%よりも少ないと、セパレータ強度が低下してしまい、一方、20質量%超になると、体積抵抗率が大きくなってしまい、発電効率が悪化するためである。
【0019】
また、本発明において、炭素系不織布基材は、目付が1〜30g/m、より好ましくは1〜20g/m2のものを用いる。これは、炭素系不織布基材の目付が1g/m未満では、強度を向上させる効果が得られず、30g/m超では、セパレータ成形工程において、黒鉛粉末が炭素系不織布基材に入り込めず、セパレータの層間剥離を生じるおそれがあるからである。
【0020】
さらに、本発明において、成形用シートの目付は、1000g/m以下、より好ましくは50〜1000g/mのものを用いる。その理由は、成形用シートの目付が大きすぎると、炭素系不織布基材に樹脂被覆黒鉛粉末を多量に付着させることになり、薄肉のセパレータを成形することができず、目付が小さすぎると、機械的強度が不足し、成形用シートの製造やセパレータの製造が困難になるためである。
【0021】
本発明において用いられる黒鉛粒子としては、人造黒鉛、天然黒鉛ならびにこれらの混合物などを用いることができる。人造黒鉛は、石油系ピッチ、石炭系ピッチなどを原料とし、これを炭化・焼成して黒鉛化処理し、粉砕したものなどが好適である。黒鉛粉末の形状は、燐片状、針状、球状などを用いることができるが、成形性の点から、球状または燐片状のものを用いることが好ましい。
【0022】
この黒鉛粉末の平均粒径は、10〜100μmであることが好ましく、より好ましくは10〜85μm、さらに好ましくは15〜60μmである。これは、黒鉛の平均粒径が10μmよりも小さいと、成形時の粘度が増加し、成形性が低下するおそれがあり、一方、平均粒径が100μmよりも大きいと、薄肉化したときにセパレータにクラックが生じるおそれがあるためである。なお、本発明では、平均粒径として粒度測定装置(Microtrak社製)で粒度分布曲線を測定したときに50wt%を示す粒子径を用いた。
【0023】
前記黒鉛粒子に被覆される樹脂としては、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂のいずれも使用することができるが、耐熱性、耐久性、寸法安定性などの点から、熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。
【0024】
熱硬化性樹脂としては、例えばレゾール型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ−フェノール樹脂およびこれらの混合物を用いることができる。これらの中でも、レゾール型フェノール樹脂、エポキシ樹脂およびエポキシ樹脂とノボラック型フェノール樹脂との混合物は、イオンの溶出が少ないため好適に用いられ、エポキシ樹脂は、硬化時にガスが発生しない点で、さらに好適である。
【0025】
なお、前記熱硬化性樹脂は、常温において固体であることが好ましい。これは、液体であると熱硬化性樹脂で被覆された黒鉛粉末同士が結合してしまい、粒度が大きくなって表面性が悪くなり、揮発成分の影響で膨れが生じるためである。
【0026】
また、黒鉛粉末の表面に被覆された熱硬化性樹脂は、硬化率が40%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下もしくは未硬化状態であることが好ましい。これは、硬化率が40%超の場合、成形加工もしくは硬化処理段階において、黒鉛粉末同士を結着させる強度が弱く、得られたセパレータの強度が低下するためである。
【0027】
また、本発明においては、樹脂被覆黒鉛粉末に、カップリング剤や離型剤、流動性を向上させる無機化合物、その他従来開示されているさまざまな添加剤を含有させても良い。例えば、カップリング剤は、黒鉛粒子の表面改質のために用いられ、分散性や樹脂の強度を向上させる効果があり、また、離型剤は、セパレータを成形した際の金型離型性を向上させる効果がある。
【0028】
本発明の成形用シートの基材としては、不連続繊維からなる炭素系不織布を用いる。これは、基材として織布を使用した場合、これを用いてセパレータに成形加工すると、伸びが足りず、破断してしまう可能性があり、また、織布は連続繊維束が織ってあるため、繊維束が重なった箇所は、薄肉化が難しく、さらに繊維束が重なった部分と重なっていない部分では、体積抵抗率が異なるため、セパレータ全体の体積抵抗率が不均一となるおそれがあるためである。
【0029】
これに対し、本発明の成形用シートの基材として不織布を用いると、これをセパレータに成形加工した際に、全体が均一に伸びることができ、波板形状にも対応することができる。さらに不織布は、短繊維が積層した構造であるため、薄肉化が可能である。
【0030】
なお、炭素系不織布を形成する繊維としては、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、フェノール系炭素繊維および黒鉛繊維のうちから選ばれるいずれか1種以上を用いることもできる。とくに、PAN系炭素繊維は、入手が容易で、セパレータに成形加工する際の剪断力に耐えられる点で最も好ましい。
【0031】
炭素系不織布に用いられる繊維の平均繊維長は、特に制限されないが、好ましくは3〜50mm、より好ましくは5〜30mmの範囲である。これは、この範囲よりも繊維長が短いと、基材として成形したときの強度が不足するためであり、一方、この範囲よりも繊維長が長いと、シート状に成形しにくくなるためである。
【0032】
また、炭素系不織布に用いられる繊維の平均繊維径は、特に制限されないが、強度と黒鉛粉末との接触面積を確保するという点から、黒鉛粉末の粒径よりも小さいことが好ましく、50μm以下、より好ましくは30μm以下、さらに好ましくは3〜30μmである。
【0033】
炭素系不織布の製造には、メルトブロー法やウォータージェット法、乾式抄造法、湿式抄造法などの従来の不織布製造方法等が用いられる。その中でも、湿式抄造法は、薄肉で均一な不織布を製造できる点で好ましい。
【0034】
次に、本発明の成形用シートの製造方法の一例を示す。
まず、樹脂被覆黒鉛粉末を金型等の中に堆積させる。次に、その上に炭素系不織布を重畳して積層させ、次いで、その炭素系不織布の上にさらに樹脂被覆黒鉛粉末を堆積させる。その後、この積層材を、熱硬化性樹脂が軟化溶融し、硬化しない温度、または熱可塑性樹脂の融点以上に加熱して加圧した後、冷却することによって成形用シートが作製される。
【0035】
次に、本発明の燃料電池セパレータの製造方法を説明する。その方法としては、従来既知の方法を用いることができるが、例えば、加熱した金型内に上述のようにして作製した成形用シートを配置し、圧縮成形する方法や、常温から熱硬化性樹脂が十分に硬化しない温度範囲に加熱された波板形状の金型内にセパレータ成形用シートを充填し、一旦、セパレータを賦形した後、熱硬化性樹脂が硬化する条件で熱処理を行う方法がある。いずれの製造方法を用いた場合にも、層間剥離を防止するため、樹脂被覆黒鉛粉末粒子が、成形されたセパレータの炭素系不織布基材を貫通していることが好ましい。
【実施例】
【0036】
(実施例1)
群栄化学工業(株)製レゾール型フェノール樹脂HKG100gをアセトン200gに溶解し、天然黒鉛(球状、平均粒径60μm)900gと均一に混合した後、真空乾燥器中で12時間、30℃の温度で減圧乾燥した。このフェノール樹脂が被覆された黒鉛粉末を粉砕器に入れて粉砕し、平均粒径65μmに調整した。
【0037】
次に、PAN系炭素繊維(東邦テナックス製、繊維径:7μm、長さ:13mm)を抄紙し、5g/mの炭素系不織布を作製した。
上記フェノール樹脂が被覆された黒鉛粉末を、100mm角の平板金型内に200g/m堆積させ、その上に上記炭素系不織布を積層し、さらにその上にフェノール樹脂が被覆された黒鉛粉末を200g/m均一に堆積させた。この黒鉛粉末を両面に堆積させてなる炭素系不織布を80℃で加圧した後、冷却し、セパレータ成形用シート(目付:405g/m)を作製した。
【0038】
このセパレータ成形用シートを、金型上に配置し、200℃で10分間プレス成形を行い、図1の断面図に示すような成形品を得た。この成形品は、燃料電池セパレータの凹凸形状をモデル化したものであり、図1のa:3mm、b:1mmである。また、得られた成形品の平坦部cの厚みは、220μmであった。
【0039】
得られた成形品の導電性(体積抵抗率)、表面性状(繊維の浮き出し、膨れ)、充填性(溝形状の欠け)観察し、その結果を表1に示した。
【0040】
(実施例2)
日本化薬社(株)製トリスフェノール型エポキシ樹脂33g、硬化剤フェノールノボラック樹脂16.5g、硬化触媒2−フェニルイミダゾール(2PZ)0.5gをアセトン200gに溶解して、天然黒鉛(球状、平均粒径:60μm)950gと均一に混合した後、真空乾燥器中で12時間、30℃の温度で減圧乾燥した。このエポキシ樹脂か被覆された黒鉛粉末を粉砕器に入れて粉砕し、平均粒径22μmに調整した。
【0041】
次に、PAN系炭素繊維(東邦テナックス製 径5μm、長さ6mm)を抄紙し、10g/mの炭素系不織布を作製した。
上記エポキシ樹脂が被覆された黒鉛粉末を100mm角の平板金型内に200g/m堆積し、その上に炭素系不織布を積層して80℃で加圧した後、冷却を行った。さらに、炭素系不織布の上に上記エポキシ樹脂が被覆された黒鉛粉末を200g/m均一に堆積し、80℃で加圧した後、冷却を行い、成形用シート(目付:410g/m)を作製した。
【0042】
この成形用シートを実施例1と同様に金型上に配置し、200℃で10分間プレス成形を行い、成形品を成形した。得られた成形品の導電性(体積抵抗率)、表面性状(繊維の浮き出し、膨れ)、充填性(溝形状の欠け)を観察し、その結果を表1に示した。
【0043】
(実施例3)
日本化薬社(株)製トリスフェノール型エポキシ樹脂99g、硬化剤フェノールノボラック樹脂49.5g、硬化触媒2−フェニルイミダゾール(2PZ)1.5gをアセトン600gに溶解して、天然黒鉛(球状、平均粒径20μm)850gと均一に混合した後、真空乾燥器中で12時間、30℃の温度で減圧乾燥した。このエポキシ樹脂か被覆された黒鉛粉末を粉砕器に入れて粉砕し、平均粒径22μmに調整した。
【0044】
次に、PAN系炭素繊維(東邦テナックス製 径7μm、長さ13mm)を抄紙し、20g/mの炭素系不織布を作製した。
上記エポキシ樹脂が被覆された黒鉛粉末を100mm角の平板金型内に200g/m堆積し、その上に炭素系不織布を積層して80℃で加圧した後、冷却を行った。さらに、その炭素系不織布上に上記エポキシ樹脂が被覆された黒鉛粉末200g/mを均一に堆積させ、80℃で加圧した後、冷却を行い、成形用シート(目付け:420g/m)を作製した。
【0045】
この成形用シートを実施例1と同様に金型上に配置し、200℃で10分間プレス成形を行い、成形品を成形した。得られた成形品の導電性(体積抵抗率)、表面性状(繊維の浮き出し、膨れ)、充填性(溝形状の欠け)を観察し、その結果を表1に示した。
【0046】
(比較例1)
上記実施例2において、基材として炭素系不織布の代わりにφ7μmの炭素繊維で作製した30g/mの朱子織の織布を使用し、それ以外は、実施例1と同様にして成形用シート(目付:430g/m)および成形品を作製した。得られた成形品の導電性(体積抵抗率)、表面性状(繊維の浮き出し、膨れ)、充填性(溝形状の欠け)を観察し、その結果を表1に示した。
【0047】
(比較例2)
群栄化学工業(株)製レゾール型フェノール樹脂HKG100gを、アセトン400gに溶解し、天然黒鉛(球状、平均粒径60μm)900gと均一に混合してスラリーを作製した。
【0048】
次に、PAN系炭素繊維(東邦テナックス製 径7μm、長さ13mm)を抄紙し、20g/mの炭素系不織布を作製した。
得られた炭素系不織布に、スラリーを塗布した後、真空乾燥器中で12時間、30℃の温度で減圧乾燥した。乾燥後の成形用シートの重量は、340g/mであった。
この成形用シートを実施例1と同様にして成形し、得られた成形品の導電性(体積抵抗率)、表面性状(繊維の浮き出し、膨れ)、充填性(溝形状の欠け)を観察した。その結果を表1に示した。
【0049】
(比較例3)
基材として目付が40g/mの炭素系不織布を用いた以外は、実施例1と同様にして成形用シートおよびセパレータを作製し、導電性(体積抵抗率)、表面性状(繊維の浮き出し、膨れ)、充填性(溝形状の欠け)を評価した。その結果を表1に示す。
【0050】
(比較例4)
群栄化学工業(株)製レゾール型フェノール樹脂HKG20gをアセトン200gに溶解し、天然黒鉛(球状、平均粒径60μm)980gと均一に混合した後、真空乾燥器中で12時間、30℃の温度で減圧乾燥した。このフェノール樹脂が被覆された黒鉛粉末を粉砕器に入れて粉砕し、平均粒径63μmに調整した。
次に、PAN系炭素繊維(東邦テナックス製、径7μm、長さ13mm)を抄紙し、10g/mの炭素系不織布基材を作製した。
これらの原材料を用いた以外は、実施例1と同様にして成形用シートおよびセパレータを作製し、導電性(体積抵抗率)、表面性状(繊維の浮き出し、膨れ)、充填性(溝形状の欠け)を評価した。その結果を表1に示す。
【0051】
(比較例5)
群栄化学工業(株)製レゾール型フェノール樹脂HKG300gをアセトン200gに溶解し、天然黒鉛(球状、平均粒径60μm)700gと均一に混合した後、真空乾燥器中で12時間、30℃の温度で減圧乾燥した。このフェノール樹脂が被覆された黒鉛粉末を粉砕器に入れて粉砕し、平均粒径65μmに調整した。
次に、PAN系炭素繊維(東邦テナックス製、径7μm、長さ13mm)を抄紙し、10g/mの炭素系不織布基材を作製した。
これらの原材料を用いた以外は、実施例1と同様にして成形用シートおよびセパレータを作製し、導電性(体積抵抗率)、表面性状(繊維の浮き出し、膨れ)、充填性(溝形状の欠け)を評価した。その結果を表1に示す。
【0052】
(比較例6)
実施例1で用いたフェノール樹脂が被覆された黒鉛粉末および炭素系不織布を使用した。フェノール樹脂が被覆された黒鉛粉末を、100mm角の平板金型内に750g/m堆積させ、その上に10g/mの炭素系不織布を積層し、さらにその上にフェノール樹脂が被覆された黒鉛粉末を750g/m均一に堆積させた。この黒鉛粉末を両面に堆積させてなる炭素系不織布を80℃で加圧した後、冷却し、セパレータ成形用シート(目付:1510g/m)を作製した。
このセパレータ成形用シートを、実施例1と同様に成形し、燃料電池セパレータを得た。平坦部cの厚みは、750μmであった。この得られた成形品の導電性(体積抵抗率)、表面性状(繊維の浮き出し、膨れ)、充填性(溝形状の欠け)を評価した。その結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
なお、体積抵抗率、表面性状および充填性は、以下のようにして測定した。
(体積抵抗率)
体積抵抗率は、三菱化学製ロレスタHP−50を用いて、JIS K7194に準拠した方法(四探針法)により、成形体の面方向について測定した。
厚み方向は、成形品の平板部分を5cm角に切断後、金メッキを施した電極にカーボンシートを介して挟み、40MPa(408kgf/cm)で加圧しながら貫通抵抗を測定した。
【0055】
(表面性状)
成形品の表面を目視で観察し、膨れの有無を観察した。また、表面は、マイクロスコープで観察し、炭素繊維の露出の有無を観察した。
【0056】
(充填性)
成形品の凹凸部を切り出し、これをエポキシ樹脂に埋め込んで研磨した後、光学顕微鏡で観察し、成形品の角部分の欠けの有無、炭素系不織布内部の空隙の有無を観察した。
【0057】
表1の結果から明らかなように、実施例1〜3の成形用シートを使用した場合、薄肉の成形品(燃料電池セパレータ)を容易に成形することができ、さらに得られた成形品(燃料電池セパレータ)は薄く、導電性、表面性および充填性のいずれの点にも優れていることが判った。また、得られた成形品は、軽く曲げても折れ曲がらず、強度的にも十分であった。
【0058】
これに対し、比較例1の織布を用いた場合は、基材の炭素繊維が伸びず、破断してしまい、波形状部分に欠けが発生した。また、比較例2では、成形品に不織布基材中に含浸した有機溶剤が原因と思われる空隙と膨れが生じ、繊維の浮出しおよび欠け(ショット)が確認された。比較例3では、不織布基材の目付が大きいため、成形用シートの成形時に加圧しても、黒鉛が不織布基材の内部にまで入り込むことができず、空隙が発生し、成形品が上面と下面とにはく離してしまった。
【0059】
また、比較例4では、フェノール樹脂量が少ないため、成形用シートを金型内に設置する際、黒鉛が脱落し、成形品に欠けが生じた。また、成形品の強度が低く、ハンドリング時に割れが生じた。比較例5では、フェノール樹脂量が多いため、体積抵抗率、貫通抵抗の値が大きくなった。比較例6では、積層した黒鉛粉末が多いため、成形品の厚みが厚くなり、薄型化が出来なかった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明により、軽量かつ薄肉で、導電性、表面性および充填性に優れた薄型の燃料電池セパレータが製造可能となり、固体高分子型燃料電池の小型化、高性能化に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】実施例の成形品の断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素系不織布基材の両面に、樹脂被覆黒鉛粉末を付着させてなる燃料電池セパレータ成形用シートであって、
前記樹脂被覆黒鉛粉末は、3〜20質量%の樹脂を含み、前記炭素系不織布基材は、目付が1〜30g/mのものであり、かつ前記成形用シートは、目付が1000g/m以下であることを特徴とする燃料電池セパレータ成形用シート。
【請求項2】
前記樹脂は、熱可塑性樹脂またはレゾール型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ−フェノール樹脂およびこれらの混合物のうちのいずれかからなる熱硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池セパレータ成形用シート。
【請求項3】
前記黒鉛粉末の平均粒径は、10〜100μmであることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池セパレータ成形用シート。
【請求項4】
前記樹脂被覆黒鉛粉末は、平均粒径が15〜110μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池セパレータ成形用シート。
【請求項5】
前記炭素系不織布基材は、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、フェノール系炭素繊維および黒鉛繊維から選ばれるいずれか1種以上の繊維によって形成されたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃料電池セパレータ成形用シート。
【請求項6】
請求項1〜5に記載の燃料電池セパレータ成形用シートを用いて形成されてなる燃料電池セパレータ。

【図1】
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【公開番号】特開2008−270133(P2008−270133A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−115358(P2007−115358)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(591067794)JFEケミカル株式会社 (220)
【Fターム(参考)】