説明

燃料電池セパレータ

【課題】 耐熱性および耐熱水性に優れた燃料電池セパレータを提供すること。
【解決手段】 加水分解性塩素含量が450ppm以下、かつ、エポキシ当量が192〜210g/eqのクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、水酸基当量が103〜106g/eqのフェノール樹脂、および分子量が140〜180のイミダゾール化合物を含むバインダー成分樹脂と、黒鉛材料とを含む組成物を硬化させてなり、ガラス転移点が、140〜165℃である燃料電池セパレータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池セパレータに関し、さらに詳述すると、良好な耐熱性および耐熱水性を有する燃料電池セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池セパレータは、各単位セルに導電性を持たせる役割、並びに単位セルに供給される燃料および空気(酸素)の通路を確保するとともに、それらの分離境界壁としての役割を果たすものである。このため、セパレータには、高電気導電性、高ガス不浸透性、化学的安定性、および耐熱性などの諸特性が要求され、特に、家庭用燃料電池用途では長期の化学的安定性が要求される。
これらの諸特性を実現するための手法として、例えば、特許文献1〜9に開示された方法が知られている。
【0003】
しかし、特許文献1,2の方法では、燃料電池セパレータ組成物にエステル結合を有する樹脂を用いているので、燃料電池の発電中に樹脂が加水分解を起こす虞があり、燃料電池セパレータの耐熱水性に問題があった。しかも、組成物の硬化に長時間を要するので量産に適してないという欠点もある。
また、特許文献3〜7の方法では、燃料電池セパレータ組成物に加水分解性塩素含量の高いエポキシ樹脂を用いているため、その加水分解性塩素が硬化物の架橋密度を低下させる結果、得られる燃料電池セパレータの耐熱性が不十分になるという問題があった。
【0004】
特許文献8の方法では、硬化促進剤としてトリフェニルホスフィンを用いた場合、得られる燃料電池セパレータの耐熱性が不十分となるという問題があり、硬化促進剤として2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾールを用いた場合、硬化促進剤とエポキシ樹脂との相溶性が悪いため硬化反応が進みにくく、得られる燃料電池セパレータの強度および耐熱性が不十分になるという問題があった。
また、特許文献9の方法でも、硬化促進剤としてトリフェニホスフィンを用いているので、得られる燃料電池セパレータの耐熱性が不十分になるという問題があった。
【0005】
一般的に、燃料電池セパレータは、湿熱と乾熱を繰り返す作動環境下におかれるが、上記各特許文献に開示されているような、耐熱水性や耐熱性に問題がある燃料電池セパレータでは、上記環境下での発電中に変形したりクラックが生じたりする場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−298202号公報
【特許文献2】特開2004−346315号公報
【特許文献3】特開2008−016307号公報
【特許文献4】特開2006−206790号公報
【特許文献5】特開2004−119346号公報
【特許文献6】特開2001−216976号公報
【特許文献7】特開2001−520245号公報
【特許文献8】特開2004−259497号公報
【特許文献9】特開2006−40728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、耐熱性および耐熱水性に優れた燃料電池セパレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、特定の加水分解性塩素含量およびエポキシ当量のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、特定の水酸基当量のフェノール樹脂および特定の分子量のイミダゾール化合物を含んで構成されるバインダー成分樹脂を用いることで、得られる燃料電池セパレータのガラス転移点が向上し、その耐熱性および耐熱水性が良好になり、長期にわたり強度物性が大きく損なわれないことを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、
1. 加水分解性塩素含量が450ppm以下、かつ、エポキシ当量が192〜210g/eqのクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、水酸基当量が103〜106g/eqのフェノール樹脂、および分子量が140〜180のイミダゾール化合物を含むバインダー成分樹脂と、黒鉛材料とを含む組成物を硬化させてなり、ガラス転移点が、140〜165℃であることを特徴とする燃料電池セパレータ、
2. 前記加水分解性塩素含量が、370〜450ppmである1の燃料電池セパレータ、
3. 前記クレゾールノボラック型エポキシ樹脂の150℃におけるICI粘度が、0.15〜1.10Pa・sである1または2の燃料電池セパレータ、
4. 125℃の熱水に3000時間浸漬した場合の強度保持率が、92〜95%である1〜3のいずれかの燃料電池セパレータ、
5. 90℃の熱水に1500時間浸漬した場合の強度保持率が、95〜98%である1〜4のいずれかの燃料電池セパレータ、
6. 前記イミダゾール化合物が、芳香環含有イミダゾール化合物である1〜5のいずれかの燃料電池セパレータ、
7. 前記黒鉛材料100質量部に対し、前記バインダー成分樹脂が21〜33質量部含まれる1〜6のいずれかの燃料電池セパレータ
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐熱性および耐熱水性に優れ、長期にわたり必要な強度物性を維持できる燃料電池セパレータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】各実施例および比較例で得られた燃料電池セパレータにおける強度保持率試験の時間を、燃料電池の運転温度75℃に相当する時間に直した、強度保持率の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係る燃料電池セパレータは、加水分解性塩素含量が450ppm以下、かつ、エポキシ当量が192〜210g/eqのクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、水酸基当量が103〜106g/eqのフェノール樹脂、および分子量が140〜180のイミダゾール化合物を含むバインダー成分樹脂と、黒鉛材料とを含む組成物を硬化させてなり、ガラス転移点が、140〜165℃のものである。
ここで、ガラス転移点が、140℃未満であると、セパレータの耐熱性が不十分となり、一方、165℃を超えると、架橋密度が高くなり、燃料電池セパレータが硬く、脆くなる。より好ましくは、ガラス転移点150〜165℃である。
【0013】
本発明において、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂としては、得られる燃料電池セパレータの耐熱性および耐熱水性を向上させるべく、加水分解性塩素含量が450ppm以下のものを用いる。
すなわち、加水分解性塩素含量が450ppm以下であると、硬化物の架橋密度が高まる結果、得られるセパレータの耐熱性が向上する。一方、その下限は特に制限されるものではないが、加水分解性塩素含量370ppm未満のエポキシ樹脂は非常に高価であるため、コスト面を考慮すると、その下限は370ppmが好ましい。
【0014】
また、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂のエポキシ当量は、得られる燃料電池セパレータの耐熱性をより高めることを考慮すると、192〜210g/eqが好ましく、193〜210g/eqがより好ましく、198〜210がより一層好ましい。
この範囲のエポキシ当量のエポキシ樹脂を用いることで、樹脂の分子量が適度であるとともに、硬化物の架橋密度が高まる結果、得られる燃料電池セパレータの耐熱性をより一層向上し得る。
【0015】
さらに、得られる燃料電池セパレータの耐熱性をより高めるとともに、成形加工性を良好にすることを考慮すると、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂の150℃におけるICI粘度は、0.15〜1.10Pa・sが好ましく、0.17〜1.05Pa・sがより好ましく、0.24〜1.05Pa・sがより一層好ましい。
この範囲のICI粘度のエポキシ樹脂を用いることで、樹脂の分子量が適度となるため、得られる燃料電池セパレータの耐熱性が良好になるとともに、樹脂の流動性が良好であるため成形時の圧力が低くできる等、成形加工性も良好になる。
【0016】
本発明で用いるクレゾールノボラック型エポキシ樹脂は、オルト、メタ、パラ、およびオルト位のメチレン結合の割合がより多いハイオルトのいずれのクレゾールノボラック型でもよいが、中でも、オルトクレゾール型ノボラックエポキシ樹脂、ハイオルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂が好ましい。
【0017】
上記エポキシ樹脂の硬化剤として作用するフェノール樹脂としては、特に限定されるものではないが、得られるセパレータの耐熱性をより高めることを考慮すると、水酸基当量103〜106g/eqのフェノール樹脂が好ましい。
この範囲の水酸基当量のフェノール樹脂を用いることで、樹脂の分子量が適度であるとともに、硬化物の架橋密度が高まる結果、得られる燃料電池セパレータの耐熱性をより一層向上し得る。
これらの点を考慮すると、フェノール樹脂としては、ノボラック型フェノール樹脂が最も好ましい。
【0018】
上記フェノール樹脂の配合量は、未反応成分の残存を防ぐという点から、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂に対して0.98〜1.02当量が好ましい。
フェノール樹脂の配合量をこの範囲とすることで、残存する未反応成分(エポキシ樹脂またはフェノール樹脂)が少なくなって、発電中に未反応成分が溶出するという不都合を防止することができる。
【0019】
本発明においては、硬化促進剤として、イミダゾール化合物を用いるが、バインダー成分樹脂の熱安定性を高め、燃料電池セパレータ成形時に金型内で急激に硬化反応が進行して溶融粘度および成形圧力が上昇することを防止すること、および硬化促進剤としての活性を適度とすることを考慮すると、その分子量は140〜180が好ましい。
このようなイミダゾール化合物としては、特に限定はないが、1−フェニルイミダゾール、1−(2−クロロフェニル)イミダゾール、1−(3−クロロフェニル)イミダゾール、1−(4−クロロフェニル)イミダゾール、1−(3−フルオロフェニル)イミダゾール、1−(4−フルオロフェニル)イミダゾール、1−(4−メトキシフェニル)イミダゾール、1−o−トリルイミダゾール、1−m−トリルイミダゾール、1−(3,5−ジメチルフェニル)イミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−(4−クロロフェニル)イミダゾール、2−(4−フルオロフェニル)イミダゾール、5−フェニルイミダゾール、5−(2−クロロフェニル)イミダゾール、5−(3−クロロフェニル)イミダゾール、5−(4−クロロフェニル)イミダゾール、5−(2−フルオロフェニル)イミダゾール、5−(3−フルオロフェニル)イミダゾール、5−(4−フルオロフェニル)イミダゾール、5−(2−メトキシフェニル)イミダゾール、5−(3−メトキシフェニル)イミダゾール、5−(4−メトキシフェニル)イミダゾール、5−o−トリルイミダゾール、5−m−トリルイミダゾール、5−p−トリルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾールなどの芳香環含有イミダゾール化合物が好適である。これらの中でも、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾールが好ましい。なお、イミダゾール化合物は、1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0020】
イミダゾール化合物の配合量は、効率的かつ穏やかに硬化反応を進行させることを考慮すると、上記クレゾールノボラック型エポキシ樹脂およびフェノールノボラック樹脂との混合物100質量部に対して、0.65〜1.02質量部が好ましい。
イミダゾール化合物の配合量をこの範囲とすることで、バインダー成分の硬化反応を、速やかに、かつ、十分に進行させることができるとともに、バインダー成分樹脂の熱安定性が良好になる結果、成形時に、金型内で急激に硬化反応が進行して溶融粘度が上昇することを防止することができる。また、保存中に硬化反応が進行してしまうことをも防止することができる。
【0021】
上記黒鉛材料としては、特に限定されるものではなく、例えば、天然黒鉛(塊状、鱗片状、土状等)、針状コークスを焼成した人造黒鉛、塊状コークスを焼成した人造黒鉛、電極を粉砕したもの、石炭系ピッチ、石油系ピッチ、コークス、活性炭、ガラス状カーボン、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどが挙げられる。
これらの中でも、得られる燃料電池セパレータの耐熱性および耐熱水性をより向上し得るという点から、鱗片状天然黒鉛が好適である。
黒鉛材料の平均粒径は、特に限定されるものではないが、粒度分布d50にて20〜60μm程度が好適である。
なお、平均粒径は、粒度分布測定装置(日機装社製)による測定値である。
【0022】
本発明の燃料電池セパレータを製造するにあたっては、上記バインダー成分樹脂および黒鉛材料に加え、内部離型剤を配合してもよい。
内部離型剤としては、特に限定されるものではなく、従来、燃料電池セパレータの成形に用いられている各種内部離型剤を用いることができ、例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類、ポリエチレンワックス等の炭化水素系合成ワックス、カルナバワックス等のその他の長鎖脂肪酸類などが挙げられ、これらは1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0023】
上記黒鉛材料、バインダー成分樹脂の使用量としては、黒鉛材料100質量部に対してバインダー成分樹脂21〜33質量部が好ましく、24〜30質量部がより好ましく、26〜28質量部がより一層好ましい。
バインダー成分樹脂の使用量をこの範囲とすることで、成形材料の流動性が適度になって成形性が良好になるととともに、得られる燃料電池セパレータの導電性が著しく低下することを防止し得る。
【0024】
また、内部離型剤を使用する場合、その使用量は、黒鉛材料100質量部に対して0.05〜1.0質量部程度が好ましく、0.1〜0.8質量部がより好ましく、0.3〜0.7質量部がより一層好ましい。
内部離型剤の使用量をこの範囲とすることで、脱型不良を防止し得るとともに、内部離型剤によるバインダー成分樹脂の可塑化および得られるセパレータの強度低下を防止し得る。
【0025】
本発明の燃料電池セパレータは、上記各成分を混合して組成物を調製し、この組成物を成形して得ることができる。この場合、組成物の調製方法および成形体の成形方法としては、従来公知の種々の方法を用いることができる。
組成物の調製は、例えば、上述のバインダー成分樹脂、黒鉛材料および必要に応じて用いられる内部離型剤のそれぞれを任意の順序で所定割合混合して調製すればよい。この際、混合機としては、例えば、プラネタリミキサ、リボンブレンダ、レディゲミキサ、ヘンシェルミキサ、ロッキングミキサ、ナウターミキサ等を用いることができる。
セパレータの成形方法としては、射出成形、トランスファー成形、圧縮成形、押出成形、シート成形等を採用することができる。
【0026】
本発明の燃料電池セパレータは、特に、固体高分子型燃料電池のセパレータとして好適に用いることができる。
一般的に固体高分子型燃料電池は、固体高分子膜を挟む一対の電極と、これらの電極を挟んでガス供給排出用流路を形成する一対のセパレータとから構成される単位セルが多数並設されてなるものであるが、これら複数個のセパレータの一部または全部として本発明の燃料電池セパレータを用いることができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
以下の実施例における各物性は以下の方法によって測定した。
[1]ガラス転移点
熱分析装置(セイコーインスツルメンツ社製、TMA6100)を使用し、昇温速度1℃/min、荷重5gの条件で測定を行い、得られた熱膨張係数の変曲点をガラス転移点とした。
[2]強度試験
得られた燃料電池セパレータから切り出した60mm×20mm×2mmの試験片を用いて行った。
[曲げ強度]
成形直後のセパレータから切り出した上記試験片を用い、JIS K 6911「プラスチックの一般試験方法」に準じて、支点間距離40mmでの試験片の曲げ強度を測定し、初期曲げ強度とした。
[熱水浸漬強度保持率]
90℃熱水浸漬:500mlフッ素樹脂製容器に、試験片とイオン交換水400mlを入れ、内温を90℃に加熱した。168時間および1500時間後、それぞれ試験片を取り出して曲げ強度を測定し、初期曲げ強度に対する維持率を算出した。
125℃熱水浸漬:500mlSUS製耐圧容器に試験片とイオン交換水400mlを入れ、密封後、内温を125℃に加熱した。3000時間後、試験片を取り出して曲げ強度を測定し、初期曲げ強度に対する維持率を算出した。
上記試験条件、90℃・168時間、90℃・1500時間、125℃・3000時間は、アレニウスの10℃2倍則に従えば、それぞれ、運転温度75℃における20日、半年、11年の燃料電池運転時間に相当する。
[3]加水分解性塩素濃度
エポキシ樹脂0.5gをジオキサン20mlに溶解し、その溶液に1N−KOHエタノール溶液を5ml添加し、還流下30分加熱した。冷却後、溶液を80%アセトン水で希釈し、conc.HNO32mlを加えて酸性にし、0.01N−AgNO3で電位差滴定して、その値を加水分解性塩素濃度とした。
[4]ICI粘度
コーン/プレートタイプのICI粘度計を用いて150℃における溶融粘度を測定した。ICI粘度計の測定コーンを試料粘度に応じて選択し、樹脂試料をセットし、90秒後にコーンを回転させ、コーン回転開始から30秒後に、粘度計の指示値を読み取った。
【0028】
[実施例1]
鱗片状黒鉛粉末(平均粒径:粒度分布d50にて30μm)100質量部、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量:199、ICI粘度0.29Pa・s、加水分解性塩素370ppm)18.3質量部とノボラック型フェノール樹脂(水酸基当量:103、ICI粘度0.22Pa・s)9.6質量部と2−フェニルイミダゾール0.19質量部とからなるバインダー成分樹脂、および内部離型剤であるカルナバワックス0.5質量部をヘンシェルミキサ内に投入し、500rpmで3分間混合して燃料電池セパレータ用組成物を調製した。
得られた組成物を200mm×200mmの燃料電池セパレータ作製用の金型に投入し、金型温度185℃、成形圧力30MPa、成形時間30秒間の条件により圧縮成形し、燃料電池セパレータを得た。
【0029】
[実施例2]
実施例1において、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂をo−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量:193、ICI粘度0.17Pa・s、加水分解性塩素濃度390ppm)18.1質量部とし、ノボラック型フェノール樹脂を9.8質量部とした以外は、実施例1と同様の条件で燃料電池セパレータ用組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池セパレータを得た。
【0030】
[実施例3]
実施例1において、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂をo−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量:206、ICI粘度0.73Pa・s、加水分解性塩素390ppm)18.5質量部とし、ノボラック型フェノール樹脂を9.3質量部とした以外は、実施例1と同様の条件で燃料電池セパレータ用組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池セパレータを得た。
【0031】
[実施例4]
実施例1において、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂をo−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量:210、ICI粘度1.02Pa・s、加水分解性塩素450ppm)18.7質量部とし、ノボラック型フェノール樹脂を9.2質量部とした以外は、実施例1と同様の条件で燃料電池セパレータ用組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池セパレータを得た。
【0032】
[比較例1]
実施例1において、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂をo−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量:195、ICI粘度0.24Pa・s、加水分解性塩素590ppm)18.2質量部とし、ノボラック型フェノール樹脂を9.7質量部とした以外は、実施例1と同様の条件で燃料電池セパレータ用組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池セパレータを得た。
【0033】
[比較例2]
実施例1において、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂をo−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量:191、ICI粘度0.06Pa・s、加水分解性塩素370ppm)18.0質量部とし、ノボラック型フェノール樹脂を9.8質量部とした以外は、実施例1と同様の条件で燃料電池セパレータ用組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池セパレータを得た。
【0034】
[比較例3]
実施例1において、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂をノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量:191、ICI粘度0.53Pa・s、加水分解性塩素480ppm)18.0質量部とし、ノボラック型フェノール樹脂を9.8質量部とした以外は、実施例1と同様の条件で燃料電池セパレータ用組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池セパレータを得た。
【0035】
[比較例4]
実施例1において、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂をジシクロペンタジェン型エポキシ樹脂(エポキシ当量:246、ICI粘度0.23Pa・s、加水分解性塩素550ppm)19.7質量部とし、ノボラック型フェノール樹脂を8.3質量部とした以外は、実施例1と同様の条件で燃料電池セパレータ用組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池セパレータを得た。
【0036】
上記実施例1〜4および比較例1〜4で得られた燃料電池セパレータについて、各種評価試験を行った。結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1に示されるように、実施例1〜4で得られた燃料電池セパレータは、ガラス転移点が140℃以上で、かつ、90℃熱水中に1500時間浸漬した後の曲げ強度保持率が95〜98%、125℃熱水中に3000時間浸漬した後の曲げ強度保持率が92〜95%であり、耐熱性および耐熱水性に優れ、長期にわたり強度を維持できることがわかる。
一方、比較例1では、用いたエポキシ樹脂中の加水分解性塩素が450ppmを超えているので、組成物の架橋密度が低くなり、ガラス転移点が低く、また、90℃および125℃熱水中に浸漬後の曲げ強度保持率も低かった。
比較例2では、用いたエポキシ樹脂のエポキシ当量が194g/eq未満であるので、エポキシ樹脂の分子量が低いため、ガラス転移点が低く、また、90℃および125℃熱水中に浸漬した後の曲げ強度保持率も低かった。
比較例3では、ノボラック型エポキシ樹脂を用いているので、吸湿の影響により90℃熱水168時間浸漬後の強度保持率が低かった。
比較例4では、長鎖のジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂を用いているため、架橋密度が低くなる結果、ガラス転移点が低く、また、90℃および125℃熱水中に浸漬後の曲げ強度保持率も低かった。
【0039】
[実施例5]
実施例1において、ノボラック型フェノール樹脂をノボラック型フェノール樹脂(水酸基当量:103、ICI粘度0.10Pa・s)9.6質量部とした以外は、実施例1と同様の条件で燃料電池セパレータ用組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池セパレータを得た。
【0040】
[実施例6]
実施例1において、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂を18.2質量部とし、ノボラック型フェノール樹脂をノボラック型フェノール樹脂(水酸基当量:105、ICI粘度0.85Pa・s)9.7質量部とした以外は、実施例1と同様の条件で燃料電池セパレータ用組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池セパレータを得た。
【0041】
[実施例7]
実施例1において、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂を18.2質量部とし、ノボラック型フェノール樹脂をノボラック型フェノール樹脂(水酸基当量:106、ICI粘度0.10Pa・s)9.7質量部とした以外は、実施例1と同様の条件で燃料電池セパレータ用組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池セパレータを得た。
【0042】
[比較例5]
実施例1において、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂を18.1質量部とし、ノボラック型フェノール樹脂をノボラック型フェノール樹脂(水酸基当量:107、ICI粘度0.06Pa・s)9.8質量部とした以外は、実施例1と同様の条件で燃料電池セパレータ用組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池セパレータを得た。
【0043】
[比較例6]
実施例1において、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂を17.4質量部とし、ノボラック型フェノール樹脂をo−クレゾールノボラック型フェノール樹脂(水酸基当量:118、ICI粘度0.88Pa・s)10.5質量部とした以外は、実施例1と同様の条件で燃料電池セパレータ用組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池セパレータを得た。
【0044】
[比較例7]
実施例1において、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂を17.4質量部とし、ノボラック型フェノール樹脂をo−クレゾールノボラック型フェノール樹脂(水酸基当量:118、ICI粘度0.01Pa・s)10.5質量部とした以外は、実施例1と同様の条件で燃料電池セパレータ用組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池セパレータを得た。
【0045】
[比較例8]
実施例1において、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂を14.3質量部、ノボラック型フェノール樹脂をアラルキル変性フェノール樹脂(水酸基当量:174、ICI粘度0.37Pa・s)12.6質量部とした以外は、実施例1と同様の条件で燃料電池セパレータ用組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池セパレータを得た。
【0046】
上記実施例5〜7および比較例5〜8で得られた燃料電池セパレータについて、各種評価試験を行った。結果を表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
表2に示されるように、実施例5〜7で得られた燃料電池セパレータは、ガラス転移点140℃以上で、かつ、90℃熱水中に1500時間浸漬した後の曲げ強度保持率が95〜98%、125℃熱水中に3000時間浸漬した後の曲げ強度保持率が92〜95%であり、耐熱性および耐熱水性に優れ、長期にわたり強度を維持できることがわかる。
一方、比較例5〜8では、用いたフェノール樹脂の水酸基当量が106を超えているので、組成物の架橋密度が低くなり、ガラス転移点が低く、また、90℃および125℃熱水中に浸漬後の曲げ強度保持率も低かった。
【0049】
[実施例8]
実施例1において、2−フェニルイミダゾールを2−フェニル−4−メチルイミダゾールとした以外は、実施例1と同様の条件で燃料電池セパレータ用組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池セパレータを得た。
【0050】
[実施例9]
実施例1において、2−フェニルイミダゾールを1−ベンジル−2−メチルイミダゾールとした以外は、実施例1と同様の条件で燃料電池セパレータ用組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池セパレータを得た。
【0051】
[比較例9]
実施例1において、2−フェニルイミダゾールを2−エチル−4−メチルイミダゾールとした以外は、実施例1と同様の条件で燃料電池セパレータ用組成物を調製した。この組成物を実施例1と同じ条件で圧縮成形したところ、組成物は金型内に均一に流動しておらず、燃料電池セパレータを得ることができなかった。この組成物は、実施例1と同じ温度条件におくだけで、急激に硬化反応が起きることが確認された。
【0052】
[比較例10]
実施例1において、2−フェニルイミダゾール0.19質量部を2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール0.27質量部とした以外は、実施例1と同様の条件で燃料電池セパレータ用組成物を調製した。この組成物を実施例1と同じ条件で圧縮成形したが、組成物は硬化しなかった。そのため、成形時間を30秒刻みで延長して、圧縮された組成物の硬さが一定になる時点を特定したところ、600秒で燃料電池セパレータを得ることができた。
【0053】
[比較例11]
実施例1において、2−フェニルイミダゾール0.19質量部をトリフェニルホスフィン0.27質量部とした以外は、実施例1と同様の条件で燃料電池セパレータ用組成物を調製した。この組成物を実施例1と同じ条件で圧縮成形したが、組成物は硬化しなかった。そのため、成形時間を30秒刻みで延長して、圧縮された組成物の硬さが一定になる時点を特定したところ、180秒で燃料電池セパレータを得ることができた。
【0054】
上記実施例8,9および比較例9〜11で得られた燃料電池セパレータについて、各種評価試験を行った。結果を表3に示す。
【0055】
【表3】

【0056】
表3に示されるように、実施例8,9で得られた燃料電池セパレータは、ガラス転移点140℃以上で、かつ、90℃熱水中に1500時間浸漬した後の曲げ強度保持率が95〜98%、125℃熱水中に3000時間浸漬した後の曲げ強度保持率が92〜95%であり、耐熱性および耐熱水性に優れ、長期にわたり強度を維持できることがわかる。
一方、比較例9では、イミダゾール化合物の分子量が140未満であるので、組成物の熱安定性が悪く、燃料電池セパレータを成形する際、金型内で急激に硬化反応が起きて組成物が均一に流動せず、燃料電池セパレータを得ることができなかった。
比較例10では、イミダゾール化合物の分子量が180を超えているので、エポキシ樹脂との相溶性が悪いため架橋密度が低くなり、ガラス転移点が低く、また、90℃および125℃熱水中に浸漬後の曲げ強度保持率も低かった。
比較例11では、硬化促進剤としてトリフェニルホスフィンを使用しているので、ガラス転移点が低く、また、90℃および125℃熱水中に浸漬後の曲げ強度保持率も低かった。
加えて、実施例1,8,9で得られた燃料電池セパレータは、耐熱性および耐熱水性などに優れているだけでなく、30秒という短い成形時間で製造できることがわかる。
【0057】
ここで上記強度保持率試験の時間を、燃料電池の運転温度75℃に相当する時間に直した、実施例および比較例の強度保持率の経時変化を図1に示す。
図1に示されるように、実施例1〜9の強度保持率は、比較例に比べて、1ヶ月目前後の初期減少が抑制され、半年から1年を超えてもその減少程度は大きく変化せず、11年目でも強度保持率は92〜95%を維持していることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水分解性塩素含量が450ppm以下、かつ、エポキシ当量が192〜210g/eqのクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、水酸基当量が103〜106g/eqのフェノール樹脂、および分子量が140〜180のイミダゾール化合物を含むバインダー成分樹脂と、黒鉛材料とを含む組成物を硬化させてなり、
ガラス転移点が、140〜165℃であることを特徴とする燃料電池セパレータ。
【請求項2】
前記加水分解性塩素含量が、370〜450ppmである請求項1記載の燃料電池セパレータ。
【請求項3】
前記クレゾールノボラック型エポキシ樹脂の150℃におけるICI粘度が、0.15〜1.10Pa・sである請求項1または2記載の燃料電池セパレータ。
【請求項4】
125℃の熱水に3000時間浸漬した場合の強度保持率が、92〜95%である請求項1〜3のいずれか1項記載の燃料電池セパレータ。
【請求項5】
90℃の熱水に1500時間浸漬した場合の強度保持率が、95〜98%である請求項1〜4のいずれか1項記載の燃料電池セパレータ。
【請求項6】
前記イミダゾール化合物が、芳香環含有イミダゾール化合物である請求項1〜5のいずれか1項記載の燃料電池セパレータ。
【請求項7】
前記黒鉛材料100質量部に対し、前記バインダー成分樹脂が21〜33質量部含まれる請求項1〜6のいずれか1項記載の燃料電池セパレータ。

【図1】
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【公開番号】特開2011−28986(P2011−28986A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173144(P2009−173144)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(309012122)日清紡ケミカル株式会社 (2)
【Fターム(参考)】