説明

燃料電池セパレータ

【課題】セルを多数積層して燃料電池を製造する場合に、セル同士を互いの位置がずれることなく且つ良好な作業性をもって重ね合わせる。
【解決手段】燃料電池セパレータ1は、膜電極接合板12を挟み込むと共にこの膜電極接合板12に燃料剤及び酸素剤を供給可能とする燃料電池セパレータ1であって、燃料剤を流通可能な燃料剤流通溝16が一方の面に形成されると共に酸素剤を流通可能な酸素剤流通溝が他方の面に形成されたセパレータ本体13と、セパレータ本体13の一方の面または他方の面のいずれかの面から突出するように形成された位置決め突起18と、位置決め突起18が設けられた側の反対側の面に形成されると共に、別のセパレータ本体13の位置決め突起18を挿入可能とされた位置決め凹部と、を有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型の燃料電池を構成する部材である燃料電池セパレータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題や資源問題への対策の一つとして、燃料電池の開発が盛んに行われている。このような燃料電池には、リン酸型燃料電池(PAFC)、溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC)、固体電解型燃料電池(SOFC)、または固体高分子型燃料電池(PEFC)などが知られており、特に固体高分子型燃料電池は低温で高効率の発電が可能であることから自動車など動力源として期待されている。
【0003】
従来の固体高分子型燃料電池(以降、単に燃料電池という)は、複数のセル103を積層してなるスタック(積層体)を備えている。このスタックを構成するセル103は、図6に示すように、プロトン(H+やH3+)を透過可能なイオン交換膜に白金などの触媒を担持させた膜電極接合板112(MEA)と、この膜電極接合板112に水素ガスあるいはメタノールなどの燃料剤及び酸素ガスなどの酸素剤を供給可能な板状の燃料電池セパレータ101とを組み合わせてなる。
【0004】
この燃料電池セパレータ101の一方の表面には燃料剤を流通させる燃料剤流通溝116が、また他方の表面には酸素剤を流通させる酸素剤流通溝が形成されている。そして、2枚の燃料電池セパレータ101、101の間に膜電極接合板112を挟み込むと、一方の燃料電池セパレータ101の燃料剤流通溝116から燃料剤が膜電極接合板112に供給され、他方の燃料電池セパレータ101の酸素剤流通溝から酸素剤が膜電極接合板112に供給される。このようにして供給された燃料剤と酸素剤とが膜電極接合板112で反応することで、セル1枚当たりで約0.7Vの起電力が発生する。
【0005】
ところで、燃料電池に用いられる燃料剤や酸素剤はいずれも気体であるため、セル同士を重ね合わせた際に燃料電池セパレータ101と膜電極接合板112との間に隙間ができると、隙間からこれらのガスが燃料電池外に漏れる心配がある。特に、水素ガスは燃料電池外に漏れると非常に危険であり、この水素ガスの漏洩を防止する意味でも燃料電池セパレータ101と膜電極接合板112との間に隙間ができないようにするのが好ましい。
【0006】
例えば、特許文献1の燃料電池では、燃料電池セパレータと膜電極接合板との間に燃料剤や酸素剤の漏れを防止するパッキング部材(例えば、図6に図示するパッキング部材120)を配設している。このパッキング部材は、燃料電池セパレータの表面にパッキング部材のサイズに合わせて取付用の溝を形成し、この取付用の溝に下側を埋没させるようにして取り付けられるものであり、燃料電池セパレータ本体の表面に形成される燃料剤流通溝や酸素剤流通溝の周囲を囲むように配備されるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−269264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1の燃料電池では、パッキング部材は燃料電池セパレータに固定された状態となっており、燃料電池セパレータ同士を単に重ね合わせるだけでも膜電極接合板との間に隙間ができることがある程度抑制され、燃料剤や酸素剤が燃料電池外に漏れる可能性も低くなる。
しかし、自動車モータなどの起電力を得ようとすると数百枚ものセルを積層しなければならない。つまり、このような場合は重ね合わせる燃料電池セパレータの枚数も非常に多数となり、個々のセル間のズレが累積されて全体としてズレが非常に大きくなってしまうため、燃料電池セパレータと膜電極接合板との間の隙間を完全に無くすことは困難だし、燃料剤などの漏れを抑制することも不可能になる。
【0009】
また、燃料電池セパレータと膜電極接合板との隙間を確実に無くすためには、パッキング部材があったとしてもセル同士を互いが密着する方向に押圧しなくてはならない。ところが、数百枚ものセル同士を隙間なく重ねようとするとこの押圧力も非常に大きなものとなる。その結果、押圧力によりセル自体が湾曲してガスの流通がかえって滞る可能性も大きくなる。
【0010】
さらに、数百枚ものセルを隙間なく重ねる場合には、上述したようなズレや湾曲が生じやすくなるので、特許文献1の燃料電池でもセル同士の重ね合わせ位置やセルの撓み具合をCCDカメラなどを用いて厳密に調整しながら重ね合わせを行う必要があり、セルを重ね合わせる作業が従来のものと同様に非常に手間がかかる可能性もある。
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであって、セルを多数積層して燃料電池を製造する場合においても、セル同士を互いの位置がずれることなく且つ良好な作業性をもって重ね合わせることができる燃料電池セパレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するため、本発明は次の技術的手段を講じている。
即ち、本発明の燃料電池セパレータは、膜電極接合板を挟み込むと共にこの膜電極接合板に燃料剤及び酸素剤を供給可能とする燃料電池セパレータであって、燃料剤を流通可能な燃料剤流通溝が一方の面に形成されると共に酸素剤を流通可能な酸素剤流通溝が他方の面に形成されたセパレータ本体と、前記セパレータ本体の一方の面または他方の面のいずれかの面から突出するように形成された位置決め突起と、前記位置決め突起が設けられた側の反対側の面に形成されると共に、別のセパレータ本体の位置決め突起を挿入可能とされた位置決め凹部と、を有することを特徴とするものである。
【0012】
このようにセパレータ本体に位置決め突起と位置決め凹部とを設ければ、あるセパレータ本体の位置決め突起が別のセパレータ本体の位置決め凹部に入り込むことでセパレータ本体同士が常に同じ位置に精度良く位置決めされ、セルをずれなく重ね合わせることが可能となる。また、上述したように位置決め突起と位置決め凹部との間に凹凸構造を設ければ、この凹凸構造を介してのガスの流通が物理的に阻害されるため、ガス漏れもある程度は防止可能となる。
【0013】
なお、前記位置決め突起または位置決め凹部の少なくとも何れか一方に、当該位置決め突起と位置決め凹部との隙間を埋めるシール部材が設けられているのが好ましい。
このようにすれば、シール部材により位置決め突起と位置決め凹部との隙間が確実に埋められるため、燃料剤や酸素剤のガス漏れを確実に防止することが可能となる。
なお、前記位置決め突起及び位置決め凹部が、前記膜電極接合板の周囲を全周に亘って囲むように配備されているのが好ましい。
【0014】
このようにすれば、これらの位置決め突起及び位置決め凹部を膜電極接合板の周囲を全周に亘って囲むように配備すれば、膜電極接合板の周囲のどの場所においてもガス漏れが起きなくなり、ガス漏れをさらに確実に防止される。
なお、前記位置決め突起は、その基端から先端に向かうにつれて幅が小さくなるような形状とされており、その突端の幅が前記位置決め凹部の底部の幅と等しくなると共にその基端の幅が前記位置決め凹部の開口幅より小さくなるように形成されているのが好ましい。
【0015】
このように位置決め突起の基端の幅を位置決め凹部の開口幅より小さくなるようにすれば、位置決め突起を位置決め凹部に差し入れる際には寸法上に余裕があるため、位置決め突起を位置決め凹部にスムーズに挿入することが可能となる。また、位置決め突起の突端の幅が位置決め凹部の底部の幅と等しくなっているため、位置決め突起が位置決め凹部の奥に進むに連れて両者がしっかりと噛み合うようになり、位置決め突起が位置決め凹部に対して毎回同じ位置に位置合わせされるため、セル同士を精度良く位置決めしつつ重ね合わせることも可能となる。
【0016】
なお、前記位置決め突起及び位置決め凹部が前記セパレータ本体と一体成形されているのが好ましい。
なお、前記位置決め突起、位置決め凹部及びセパレータ本体が金属粉末射出成形を用いて一体成形されているのが好ましい。
このように位置決め突起及び位置決め凹部をセパレータ本体と一体成形すれば、位置決め突起、位置決め凹部及びセパレータ本体の位置関係が不変となり、セル同士をさらに精度良く位置決めしつつ重ね合わせることが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の燃料電池セパレータによれば、セルを多数積層して燃料電池を製造する場合においても、セル同士を互いの位置がずれることなく且つ良好な作業性をもって重ね合わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)は本発明の燃料電池セパレータを用いた燃料電池の斜視図であり、(b)は(a)で網掛けされたセルを拡大して示した図である。
【図2】燃料電池のセルの分解斜視図である。
【図3】(a)は燃料電池セパレータを前方から見た正面図であり、(b)は(a)のB−B線断面図である。
【図4】位置決め突起と位置決め凹部との拡大断面図である。
【図5】燃料電池のスタックの断面図である。
【図6】従来の燃料電池の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る燃料電池セパレータ1が用いられた燃料電池2について、まず説明する。
図1(a)に示すように、燃料電池2は、起電力を発生する複数枚の板状のセル3を板厚方向(前後方向)に重ね合わしたスタック4を有している。このスタック4の外形は互いに直交し合う上下面、左右面、前後面を備える直方体であり、スタック4の前側及び後側にはスタック4を両側から挟み込むように支持する1組の支持板5F、5Rが配備されている。これら1組の支持板5F、5Rのさらに前側及び後側には、スタック4を挟み込んだ支持板5をその外側からさらに挟み込むように固定する1組の挟持板6F、6Rが設けられている。これらのスタック4と支持板5F、5Rと挟持板6F、6Rとは板厚方向にこれらを貫通する複数のボルト7を用いて互いに固定されている。
【0020】
なお、以降の説明において、図3(b)の紙面における上下方向を燃料電池セパレータ1を説明する際の前後方向(板厚方向)という。図3(a)の紙面における上下方向及び左右方向を燃料電池セパレータ1を説明する際の上下方向及び左右方向という。
スタック4は、同じ面積の板状のセル3をその板厚方向(前後方向)に複数枚に亘って積層することで、直方体状の外形を備えている。このスタック4は、発生させようとする電位(積層枚数)に応じた厚みを前後方向に有している。例えば、自動車用の燃料電池2であれば1mm〜2mm程度のセル3を数百枚に亘って積層することでスタック4の前後方向の厚みは図例のように300mm以上となる。
【0021】
支持板5は、セル3よりやや大きな面積を有する厚板状の部材であり、スタック4の前面及び後面にそれぞれ接するように前後で1組配備されている。これら前後1組の支持板5F、5Rのうち、後側の支持板5Rの上面にはスタック4内に燃料剤(水素ガスやメタノールなどのように水素元素を含むもの)を導入するポート8(燃料剤ポート8)と、酸素剤(酸素ガスやオゾンガスなどのように酸素元素を含むもの)を導入するポート9(酸素剤ポート9)とが設けられている。以降の実施形態では、燃料剤として水素ガスを用い、酸素剤として酸素ガスを用いた例を挙げる。
【0022】
また、前側の支持板5Fの下面には、図示は省略するがスタック4内の電極反応で生じた水などの反応生成物を燃料電池外に排出する生成物排出ポート10が形成されている。
挟持板6は、支持板5よりやや大きな面積を有する厚板状の部材であり、前側の支持板5Fのさらに前面と、後側の支持板5Rのさらに後面とにそれぞれ接するように前後で1組配備されている。そして、互いに前後に接し合う挟持板6と支持板5との間には、端子板11がそれぞれ設けられている。この端子板11の上端は、支持板5や挟持板6の上面よりさらに上方に向かって突出して(張り出して)おり、この突出した部分のうち前側のものがプラス側の電極、後側のものがマイナス側の電極となっている。
【0023】
図1(b)及び図2に示すように、セル3は、板状の単電池であり、複数枚を集めて(まとめて)積層することで上述したスタック4を構成する。個々のセル3は、1枚の膜電極接合板12と、この膜電極接合板12の両側にそれぞれ配備される2枚の燃料電池セパレータ1、1とで構成されている。より正確には、1枚の燃料電池セパレータ1は、その表側半分と裏側半分とがそれぞれ異なるセル3を構成するために用いられるバイポーラプレートとなっているため、2枚の燃料電池セパレータ1については膜電極接合板12側を向く半面同士が1枚のセル3の構成に用いられる。
【0024】
膜電極接合板12は、図示は省略するが、例えばスルホン系のイオン交換樹脂のフィルムと、このフィルムの表裏面を被覆する触媒層とを有している。イオン交換樹脂のフィルムは、厚みが0.4mm程度の高分子フィルムであり、プロトン(H+やH3+)だけを選択的に透過可能となっている。水素ガスが供給される側の膜電極接合板12の表面には、カーボンブラックなどに担持された白金−ルテニウム触媒層が設けられており、水素ガスからプロトンを取り出す反応を促進できるようになっている。また、酸素ガスが供給される側の膜電極接合板12の表面には、カーボンブラックなどに担持された白金触媒層が設けられており、膜電極接合板12を透過したプロトンと酸素ガス中の酸素との反応を促進できるようになっている。
【0025】
燃料電池セパレータ1は、前方から見て略正方形の板材に形成されたセパレータ本体13を有している。このセパレータ本体13は膜電極接合板12より大きな面積を備えた金属板であり、その外周側の表面には四隅に近い場所に上述したボルト7を挿通可能な貫通孔14がこのセパレータ本体13を板厚方向に貫通するように形成されている。この貫通孔14より板中央側に近いセパレータ本体13の表面には、水素ガスや酸素ガスを流通させるガス流通孔15が形成されている。
【0026】
図3(a)に示すように、このガス流通孔15も、貫通孔14と同様にセパレータ本体13を板厚方向に貫通するように、外周側の表面の四隅に近い場所に4箇所に亘って形成されており、水素ガスや酸素ガスなどのガスを流通可能となっている。これら4箇所のガス流通孔15のうち、前方から見て右上のガス流通孔15にはポート9から導入された酸素ガスが流通しており、また左上のガス流通孔15にはポート8から導入された水素ガスが流通している。さらに、4箇所のガス流通孔15のうち、左下のガス流通孔15には水などの反応生成物が流通しており、また右下のガス流通孔15には二酸化炭素、一酸化炭素、窒素酸化物や炭化水素といった水素ガスの反応残余物が流通しており、これらの反応生成物や反応残余物を燃料電池2の外に排出可能となっている。
【0027】
これら4箇所のガス流通孔15よりさらに板中央側のセパレータ本体13の表面には、ガス流通孔15を流通してきた水素ガスや酸素ガスを膜電極接合板12の隅々に案内する流通溝が形成されている。
流通溝には、ガス流通孔15を流れてきた水素ガスを膜電極接合板12に案内する水素ガス流通溝16(燃料剤流通溝)と、ガス流通孔15を流れてきた酸素ガスを膜電極接合板12に案内する酸素ガス流通溝17(酸素剤流通溝)とがある。水素ガス流通溝16と酸素ガス流通溝17とはセパレータ本体13の互いに異なる表面に形成されており、一方の表面(おもて面)に水素ガス流通溝16が形成される場合には、他方の表面(うら面)に酸素ガス流通溝17が形成されている。なお、図例のセル3は、セパレータ本体13の前面に水素ガス流通溝16を、また後面に酸素ガス流通溝17を有している。
【0028】
図3(a)は、セパレータ本体13を前方から見た、水素ガス流通溝16の配置を示すものである。図3(a)に示すように、水素ガス流通溝16は、途中で分岐することなく右上のガス流通孔15と左下のガス流通孔15との間を繋ぐ1本の連続した溝である。この水素ガス流通溝16は、右上のガス流通孔15から下方に向かって伸び、下側のガス流通孔15よりやや上方に差しかかった位置で時計回り方向にUターンする。そして、今度は上方に向かって伸び、上側のガス流通孔15よりやや下方に差しかかった位置で反時計回り方向にUターンする。このように水素ガス流通溝16は上下に蛇行しながら右側から左側に向かって伸び、右上のガス流通孔15を流通してきた水素ガスを膜電極接合板12に供給すると共に膜電極接合板12での電極反応で生じた反応残余物を集めて左下のガス流通孔15に送れるようになっている。
【0029】
一方、図3(a)に太点線で示すように、酸素ガス流通溝17は、途中で分岐することなく前方から見て左上のガス流通孔15と右下のガス流通孔15との間を繋ぐ1本の溝である。この酸素ガス流通溝17は、左上のガス流通孔15から右方に向かって伸び、右上のガス流通孔15の近傍で時計回り方向にUターンする。そして、今度は左方に向かって伸び、左上のガス流通孔15のやや右側まで来たところで反時計回り方向にUターンする。このように酸素ガス流通溝17は左右に蛇行しながら上側から下側に向かって伸び、左上のガス流通孔15を流通してきた酸素ガスを膜電極接合板12に供給すると共に膜電極接合板12での電極反応で生じた水などの反応生成物を集めて右下のガス流通孔15に送れるようになっている。
【0030】
ところで、上述したセル3を板厚方向に積層する際に燃料電池セパレータ1と膜電極接合板12との間に隙間ができてしまえば、この隙間からガス漏れが生じる可能性が大きくなる。特に、自動車のモータ駆動電力を得ようとして数百枚(例えば、セル1枚当たりの起電力が0.7Vであれば300枚程度の枚数が必要とされる)ものセル3を積層しようとすれば、パッキング部材などを用いても隙間を完全に無くすことは困難になる。セル3同士を密着方向に押圧して隙間を無くそうとしても、数百枚ものセル3を重ねる場合は押圧力も非常に大きなものとなり、押圧力によりセル3自体が湾曲してガスの流通がかえって滞る可能性も大きくなる。当然、このようにズレや湾曲が起きやすいセル3同士の重ね合わせ作業は非常に手間がかかるものとなる。
【0031】
そこで、本発明の燃料電池セパレータ1は、セル3を積層する際の作業性を容易にするために、またセル3同士を積層する際の位置の精度を良好に保つために位置決め手段を有している。この位置決め手段は、位置決め突起18と位置決め凹部19とで構成されている。
この位置決め突起18はセパレータ本体13の一方の面または他方の面のいずれかの面から突出するように形成されており、また位置決め凹部19は位置決め突起18が設けられた側の反対側の面に形成されていて、位置決め突起18を位置決め凹部19に挿入することでセル3同士の積層位置を位置決めできるようになっている。また、位置決め突起18と位置決め凹部19との間には、両者の隙間を埋めるシール部材20が設けられている。
【0032】
次に、位置決め突起18、位置決め凹部19及びシール部材20について、詳しく説明する。
図3に示すように、位置決め突起18は、セパレータ本体13の前面から前方に向かって突出するように形成された突起であり、セパレータ本体13の中央に近い側、より具体的には上述した貫通孔14とガス流通孔15との間に形成されている。この位置決め突起18は、前方から見るとセパレータ本体13より小さな正方形の枠のように見える堤状に形成されており、セパレータ本体13の中央部、具体的には酸素ガス流通溝17の周囲を全周に亘って取り囲むように形成されている。この位置決め突起18は、後述する金属粉末射出成形法によってセパレータ本体13と一体物として成形される。
【0033】
この位置決め突起18に囲まれたセパレータ本体13の中央部の面積は膜電極接合板12より大きな面積とされており、膜電極接合板12に水素ガスを供給するガス流通孔15と、このガス流通孔15から水素ガスが供給される水素ガス流通溝16とが位置決め突起18の内部に確実に収容可能となっている。
位置決め凹部19は、セパレータ本体13の後面に形成された凹みであり、位置決め突起18と対応した位置に形成されている。この位置決め凹部19は、前方から見るとセパレータ本体13より小さな正方形の枠のように見える溝状に形成されており、セパレータ本体13の中央部、具体的には酸素ガス流通溝17の周囲を全周に亘って取り囲むように形成されている。この位置決め凹部19も、位置決め突起18と同様に後述する金属粉末射出成形法によってセパレータ本体13と一体物として成形される。
【0034】
この位置決め凹部19に囲まれたセパレータ本体13の中央部の面積も、膜電極接合板12に酸素ガスを供給するガス流通孔15と、このガス流通孔15から酸素ガスが供給される酸素ガス流通溝17とを内部に確実に収容可能な大きさとなっている。
図4に示すように、位置決め突起18は、その断面形状が略台形形状となっており、基端側18bの幅に比べて突端側18aの幅の方が狭くなっている。具体的には、位置決め突起18は、セパレータ本体13の前面から前方に向かって高さhだけ突出しており、基端側18bの幅bに比べて突端18aの幅a(<b)の方が小さくなっている。一方、位置決め凹部19も、その断面形状が略台形形状となっており、開口側19cの幅cに比べて奥に位置する底部19dの幅a(<c)の方が狭くなっている。そして、この位置決め突起18と位置決め凹部19とは、位置決め突起18の突端18aの幅aが位置決め凹部19の底部19dの幅aと等しくなると共に位置決め突起18の基端18bの幅bが位置決め凹部19の開口側19cの幅cより小さくなる寸法に形成されている。
【0035】
このように位置決め突起18の基端18bの幅bを位置決め凹部19の開口側19cの幅cより小さくなるようにすれば、位置決め突起18を位置決め凹部19に差し入れる際には寸法上に余裕があるため、位置決め突起18を位置決め凹部19にスムーズに挿入することが可能となる。また、位置決め突起18の突端18aの幅aが位置決め凹部19の底部19dの幅aと等しくなっているため、位置決め突起18が位置決め凹部19の奥に進むに連れて両者がしっかりと噛み合うようになり、位置決め突起18が位置決め凹部19に対して毎回同じ位置に位置合わせされるため、セル3同士を精度良く位置決めしつつ重ね合わせることも可能となる。
【0036】
また、上述したように位置決め突起18を位置決め凹部19に入れ込めば、両者間に凹凸構造が形成され、ガスの流通が物理的に阻害されるため、ガス漏れをも確実に防止可能となる。
図3(b)に示すように、シール部材20は、セパレータ本体13を構成する金属より軟質な合成樹脂で形成されており、位置決め突起18または位置決め凹部19の少なくとも何れか一方の表面を被覆して両者の隙間を埋めるものである。なお、本実施形態では、このシール部材20は、位置決め突起18及び位置決め凹部19の両方の表面を被覆している。具体的には、位置決め突起18の突端18aと位置決め凹部19の底部19dとの間にはセパレータ本体13の内部を貫通して両面間を繋ぐ連通孔21が形成されており、この連通孔21内を充填する樹脂により位置決め凹部19の表面を覆う樹脂と位置決め突起18の表面を覆う樹脂とが連結されて、シール部材20がセパレータ本体13に固定されている。
【0037】
位置決め突起18と位置決め凹部19との隙間を埋めるシール部材20を設ければ、シール部材20により位置決め突起18と位置決め凹部19との隙間が確実に埋められるため、水素ガスや酸素ガスのガス漏れをさらに抑制することが可能となる。
本発明の燃料電池セパレータ1は、上述したように位置決め突起18、位置決め凹部19及びシール部材20がセパレータ本体13に一体に成形されている点を特徴としている。次に、これらの位置決め突起18、位置決め凹部19及びシール部材20をセパレータ本体13に一体成形する方法、言い換えれば燃料電池セパレータ1の製造方法について説明する。
【0038】
上述した燃料電池セパレータ1は、大きく分けて2ステップの製造工程を経て製造されている。この2ステップの製造工程とは、金属粉末射出成形(Metal-Injection-Molding)法を用いて位置決め突起18及び位置決め凹部19をセパレータ本体13と一体に成形するMIM工程と、このMIM工程で成形されたセパレータ本体13を金型内にセットしてセパレータ本体13に合成樹脂のシール部材20を設ける樹脂射出成形により製造される。
【0039】
MIM工程は、位置決め突起18、位置決め凹部19及びセパレータ本体13の外形を型取った金型内に、金属材料の粉末を射出成形し、射出成形後に焼結して成形を行うものである。この射出成形に用いられる粉末には、ステンレス、チタンなどの金属粉末を用いることができる。なお、窒化クロム、窒化チタンなどのセラミック粉末をこれらの金属粉末に添加しても良い。これらの粉末は1種類だけでも良いし、複数を混合して用いても良い。また、これらの粉末は、平均粒子径1〜20μm程度に粒度調整されているのが望ましい。
【0040】
上述した金属または金属化合物の粉末は、単独では焼結性や保形性が良くないので、焼結助剤や有機バインダが30〜60vol%程度添加される。有機バインダとしては、ポリスチレン、ポリブチルメタクリレート、ポリオキシメチレン、ポリプロピレン、スチレン・アクリル共重合体、アモルファスポリオレフィン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・メチルアクリレート共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合体、エチレン・ブチルアクリレート共重合体、エチレングリシジルメタクリレート共重合体などの熱可塑性樹脂に、滑剤や可塑剤としてワックス類(脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、高級脂肪酸、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、カルナバワックス、モンタン系ワックス、ウレタン化ワックス、無水マレイン酸変性ワックス)を適宜加えたものが用いられる。
【0041】
上述した金属または金属化合物の粉末に焼結助剤や有機バインダを添加した後、これらの材料は加熱混練機、多軸押出機および加熱ロール等を用いて混練され、直径1〜5mm、長さ1〜10mm程度のペレットに加工される。
このようにして得られたペレットを金型内に射出成形して中間成形体を形成した後、大気中もしくは不活性ガス中で加熱脱脂し、最後に窒素、アルゴン、水素等のガス雰囲気下で焼結を行う。この焼結は、例えば焼結後の相対密度が93%以上になるまで適度な焼結温度で行えばよく、さらに焼結密度を95%以上にすることがより好ましい。また、焼結後の製品の耐食性並びに導電性をさらに付加するために導電性の表面処理を行うことにより、さらにセパレータの性能を高めることができる。表面処理方法にはスパッタリング、メッキなどを用いることができ、表面処理を行う材料には金、ロジウム、カーボン等を用いることができる。
【0042】
上述したMIM工程を経て位置決め突起18及び位置決め凹部19が形成されたセパレータ本体13については、樹脂射出成形(インサート成形、アウトサート成形など)によりシール部材20の取り付けが行われる。
この工程は、シール部材20の外形を型取った金型内に、シリコン樹脂やPFAなどの耐熱性、耐食性及び絶縁性のある熱可塑性樹脂を射出するものである。このとき、位置決め突起18の突端18aと位置決め凹部19の底部19dとの間にはセパレータ本体13の内部を貫通して両面間を繋ぐ連通孔21が形成されており、射出された熱可塑性樹脂がこの連通孔21を充填することで位置決め突起18の表面を覆うシール部材20と位置決め凹部19の表面を覆うシール部材20とが一体で連結され、位置決め突起18及び位置決め凹部19の表面にシール部材20が強固に固定される。
【0043】
上述のようにして製造された燃料電池セパレータ1を用いて燃料電池2を製造する際は、図5に示すように位置決め突起18を上方に向けて、且つ位置決め凹部19を下方に向ける。そして、上下に並んだ燃料電池セパレータ1の間に膜電極接合板12を挟み込むようにして、燃料電池セパレータ1と膜電極接合板12とを重ね合わせる。
そうすると、位置決め突起18に囲まれたセパレータ本体13の中央部の面積は膜電極接合板12より大きな面積とされているため、膜電極接合板12が位置決め突起18で周囲を覆われるように位置決め突起18の内側に収容される。そして、膜電極接合板12を内部に収容した状態で位置決め突起18を位置決め凹部19に挿入すれば、膜電極接合板12の周囲が位置決め突起18と位置決め凹部19とでなる凹凸構造で囲まれることになり、膜電極接合板12からのガス漏れを確実に防止することが可能となる。
【0044】
上述したように位置決め突起18及び位置決め凹部19をセパレータ本体13と金属粉末射出成形を用いて一体成形すれば、位置決め突起18、位置決め凹部19及びセパレータ本体13の位置関係が絶えず一定(不変なもの)となり、セル3同士をさらに精度良く位置決めしつつ重ね合わせることが可能となる。
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、発明の本質を変更しない範囲で各部材の形状、構造、材質、組み合わせなどを適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 燃料電池セパレータ
2 燃料電池
3 セル
4 スタック
5F 前側の支持板
5R 後側の支持板
6F 前側の挟持板
6R 後側の挟持板
7 ボルト
8 ポート
9 ポート
11 端子板
12 膜電極接合板
13 セパレータ本体
14 貫通孔
15 ガス流通孔
16 水素ガス流通溝
17 酸素ガス流通溝
18 突起
18a 突起の突端
18b 突起の基端
19 凹部
19c 凹部の開口側
19d 凹部の底部
20 シール部材
21 連通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜電極接合板を挟み込むと共にこの膜電極接合板に燃料剤及び酸素剤を供給可能とする燃料電池セパレータであって、
燃料ガスを流通可能な燃料剤流通溝が一方の面に形成されると共に酸素剤を流通可能な酸素剤流通溝が他方の面に形成されたセパレータ本体と、
前記セパレータ本体の一方の面または他方の面のいずれかの面から突出するように形成された位置決め突起と、
前記位置決め突起が設けられた側の反対側の面に形成されると共に、別のセパレータ本体の位置決め突起を挿入可能とされた位置決め凹部と、
を有することを特徴とする燃料電池セパレータ。
【請求項2】
前記位置決め突起または位置決め凹部の少なくとも何れか一方に、当該位置決め突起と位置決め凹部との隙間を埋めるシール部材が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池セパレータ。
【請求項3】
前記位置決め突起及び位置決め凹部が、前記膜電極接合板の周囲を全周に亘って囲むように配備されていることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池セパレータ。
【請求項4】
前記位置決め突起は、その基端から先端に向かうにつれて幅が小さくなるような形状とされており、その突端の幅が前記位置決め凹部の底部の幅と等しくなると共にその基端の幅が前記位置決め凹部の開口幅より小さくなるように形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の燃料電池セパレータ。
【請求項5】
前記位置決め突起及び位置決め凹部がセパレータ本体と一体成形されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の燃料電池セパレータ。
【請求項6】
前記位置決め突起、位置決め凹部及び前記セパレータ本体が金属粉末射出成形を用いて一体成形されていることを特徴とする請求項5に記載の燃料電池セパレータ。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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