説明

燃料電池セル、燃料電池スタック及び燃料電池

【課題】燃料電池の使用時において、負荷電力が急激に増大した場合においても、面圧を加える面全体に安定した締め付け圧力を発生させることができ、電力の無駄を減少させ、燃料ガスの漏洩の抑制が可能となる燃料電池セル等を提供する。
【解決手段】両面に反応層12、13を形成した電解質膜と、発電時にガス拡散および集電するための部材14、15と、を少なくとも含む燃料電池部材が、電力を取り出すための電極43上に積層された構造を有する燃料電池セル71であって、
前記電極は、該電極を構成する電極基板によって形成された、燃料ガスを流入させることによって前記燃料電池部材に面圧を印加するための閉鎖空間55を備え、
前記閉鎖空間には、該閉鎖空間に流入した燃料ガスの逆流を抑制する逆流防止弁31が設けられている構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池セル、該燃料電池セルを用いた燃料電池スタック及びこれらによって構成された燃料電池に関するものであり、特に、携帯可能な電子機器の電源として用いられる燃料電池セルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、一般的な構造として、両面に反応層を形成した電解質膜と、発電時にガス拡散および集電を行なうための部材と、電力を取り出すための電極を積層して成る燃料電池セルを、筐体内に内包した構造を有している。
また、所望の起電力を得るために、複数の燃料電池セルを積み重ねたスタック構造を採る場合もある。
図6に、以上のような燃料電池の構造の模式図を示す。
図6において、発電部材201と支持部材(セパレータ)202で構成されるユニットセル203を複数積層して燃料電池スタック204とし、その両端に加圧板(エンドプレート)206が設けられている。
そして、これらに締め付けボルト207、スプリング208で面圧を印加している。
【0003】
ところで、上記の締め付け方法では、燃料電池スタックの両側、又は片側だけにスプリングにより面圧を印加しているので、燃料電池の発熱、また冷却による部材の変形により、前記面圧が十分に掛からなくなる場合が生じる。
このように、面圧が十分に掛からない場合には、構成部材間の導電性が低下して発電電力が十分取り出せず、また、燃料ガスのシールが不十分となり、漏れが発生し易いという問題があった。
更に、燃料電池スタックの場合には、燃料電池セル間の導電性低下の影響が大きく現れることになる。
【0004】
これらの課題に対処する方法として、特許文献1においては、図7に示すような燃料電池が開示されている。
この燃料電池においては、単位燃料電池212を、セパレータ210で挟み積層してなる燃料電池において、そのセパレータ210に、空間213と面圧発生板211とが設けられている。
そして、タンクから供給される高圧燃料ガスGを、逆止弁216を介して流体入口214より供給し、空間213の内圧を上げることにより、面圧発生板211を介してスタック218を締結する面圧を発生させている。
この面圧発生に用いられた燃料ガスは、中継管215を介して燃料電池の発電反応のために供給される。
スタックに供給された燃料ガスは適宜背圧弁217を介してタンクに戻される。
また、特許文献1においては、面圧発生に用いられた後の燃料ガスを一旦タンクに戻し、燃料電池の発電反応のために供給される燃料ガスは別経路にて供給する構成も開示されている。
【特許文献1】特許第3135991号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来例における特許文献1に開示されている燃料電池においては、以下のような課題が残されていた。
特許文献1の燃料電池においては、燃料電池の負荷として接続した電子機器の動作状況による急激な負荷電力の増大時に、発電反応による燃料ガス消費量が増大し、結果として面圧発生に用いられる燃料ガスの圧力が低減し、面圧が不足するという問題が生じる。
このような問題が発生すると、電力が急激に多く必要とされるときほど電力の無駄が多くなり、かつ燃料ガスの漏洩の可能性も高まることが懸念される。
この問題は面圧発生機構のコンダクタンスを上げることにより、ある程度は改善されるが、上記問題を解決するに至るものではない。
また、上記特許文献1に開示されている面圧を発生させるための燃料ガスと発電反応のための燃料ガスを別々に供給する方法を採ることで、上記問題を更に改善できたとしても、燃料電池の構成が複雑になり、空間利用効率が下がるという新たな問題が発生する。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑み、燃料電池の使用時において、負荷電力が急激に増大した場合においても、面圧を加える面全体に安定した締め付け圧力を発生させることができ、
電力の無駄を減少させ、燃料ガスの漏洩の抑制が可能となる燃料電池セル、燃料電池スタック及び燃料電池を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、次のように構成した燃料電池セル、燃料電池スタック及び燃料電池を提供するものである。
本発明の燃料電池セルは、両面に反応層を形成した電解質膜と、発電時にガス拡散および集電するための部材と、を少なくとも含む燃料電池部材が、電力を取り出すための電極上に積層された構造を有する燃料電池セルであって、
前記電極は、該電極を構成する電極基板によって形成された、燃料ガスを流入させることによって前記燃料電池部材に面圧を印加するための閉鎖空間を備え、
前記閉鎖空間には、該閉鎖空間に流入した燃料ガスの逆流を抑制する逆流防止弁が設けられていることを特徴とする。
また、本発明の燃料電池セルは、前記電極基板が、配線パターンが形成された可撓性の板状部材によって構成されていることを特徴とする。
また、本発明の燃料電池セルは、前記閉鎖空間が、前記可撓性の板状部材によって形成された燃料ガスを流入させる領域を有し、
前記逆流防止弁が、前記燃料ガスを流入させる領域に面する側の前記可撓性の板状部材に、弁部材を固定することによって構成されていることを特徴とする。
また、本発明の燃料電池スタックは、上記したいずれかに記載の燃料電池セルを複数積層して構成されていることを特徴とする。
また、本発明の燃料電池は、上記したいずれかに記載の燃料電池セル、または上記した燃料電池スタックを、筐体内に収容して構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、燃料電池の使用時において、負荷電力が急激に増大した場合においても、面圧を加える面全体に安定した締め付け圧力を発生させることができ、
電力の無駄を減少させ、燃料ガスの漏洩の抑制が可能となる燃料電池セル、燃料電池スタック及び燃料電池を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明を実施するための最良の形態を、以下の実施例により説明する。
【実施例】
【0010】
つぎに、本発明の実施例について説明する。
[実施例1]
実施例1おいては、本発明を適用した燃料電池セルについて説明する。
図1に、本実施例の燃料電池セルを説明するための図を示す。
図1(a)は本発明の燃料電池セルの断面模式図、図1(b)は本実施例の燃料電池セルの内部に設けられた逆流防止弁の構成を説明するための模式図である。
図1(a)において、11は電解質膜、12、13は反応層、14、15はガス拡散層、16は電解質膜11の両面に反応層12、13を形成したMEAである。
17はリーク防止のための金属膜、18は接着剤、21はスペーサである。
31は逆流防止弁、33、34は流路口、41、42は基板である。
43は燃料電池電極、51、52、56、57は流路口、53、54は流路、55は閉鎖空間、71は燃料電池セルである。
【0011】
本実施例における燃料電池電極43は、燃料ガスが流れる流路53、54、流路口52、57、面圧発生のための閉鎖空間55が形成されている基板(電極基板)42に、流路口33、34が形成されている基板(電極基板)41と貼り合わさって構成された構造を備えている。
流路53と面圧発生のための閉鎖空間55の間には、逆流防止弁31が設けられている。
この逆流防止弁31は、流路口52から閉鎖空間55には燃料ガスが流れ易く、逆に閉鎖空間55から流路口52には、燃料ガスが流れにくく機能する。
【0012】
基板41、42の材料としては、例えば、両面に導電層を形成したフレキシブル基板、セラミック基板、アルミ基板、シリコン基板等に流路もしくは配線パターンを形成したものが挙げられるが、フレキシブルで安価なフレキシブル基板が好ましい。
また、貼り合わせる方法としては、半田接合、超音波接合等で接合することにより、シール部材、気密を保持するための部品精度が必要なくなる。
ガス拡散層14、15は、流入してきたガスの拡散と、集電材としての機能を有するので、材料としてはカーボン材が挙げられる。
電解質膜11の両面に反応層12,13を形成したMEA16は、電極43より流入してきた燃料ガスを外気にリークするのを防ぐため、電解質膜11の外周辺に金属膜17が形成されている。
この金属膜17は、めっき、スパッタなどにより金属層が形成されたものか、薄い金属箔をかしめた構造が挙げられる。スペーサ21は、電極43とMEA16との高さを調整するための部材である。
【0013】
本実施例における燃料電池セル71は、上記燃料電池電極43上に、ガス拡散層15、MEA16、スペーサ21、ガス拡散層14を、それぞれ積層することによって構成されている。
燃料電池電極43、スペーサ21、MEA16は、それぞれ上記で挙げた接合方法により接合することで、シールに必要な部品と部品精度を適度にすることが出来る。
接着剤18は、積層した部材を更に固定するものである。
【0014】
図8に、以上の燃料電池セルを用いて構成された燃料電池の模式図を示す。
上記燃料電池セル71を、図8に示すように、流路口51、56、開口部61が形成された、中空状の筐体81に挿入することで、燃料電池91となる。
挿入後、筐体81から燃料電池セル71がはみ出ないように、筐体81の側面穴に、例えば、テープ、着脱可能な蓋、金属板かしめ、接着剤、溶接などで塞ぐ、等の方法が挙げられる。
後に燃料電池セル71の取り出しを容易にするためには、テープや、あるいは着脱可能な蓋、等が好ましい。
【0015】
つぎに、以上のように構成された本発明の燃料電池の機能について、図1(a)を用いて説明する。
流路口51より流入した燃料ガスは、流路52、53、逆流防止弁31を介して閉鎖空間55に至る。
閉鎖空間55に至った燃料ガスの圧力により上下面が膨らみ、積層したガス拡散層15、MEA16を筐体81内壁に押し付けて締結力を発生させることが出来る。
これにより、面全体で均一な圧力を加えられ、接触抵抗を低減させることが出来る。
流路口51より流入する燃料ガスは図示しない燃料タンクより導かれている。
【0016】
燃料ガスとして水素ガスを用いる場合、燃料タンクにおける貯蔵方法として水素吸蔵合金を使用したものが挙げられる。
この水素貯蔵合金の材質としては、常温における水素ガスの解放圧力が0.2MPa程度である材質が好ましい。具体的には、例えばLaNi5が好ましく用いられ得る。
燃料ガスは、流路口34を通ってガス拡散層15を介して反応層13に至り、開口部61より流入してきた酸素と発電反応を起こす。
更に、発電反応において消費されずに残った燃料ガスは、流路33、54、57,56から、外部へ流出する。
このとき、閉鎖空間55の圧力を高めるため、流路の断面積は、流路口52>逆流防止弁31>流路口34の関係であることが好ましい。
【0017】
以上の構成によれば、燃料電池の負荷として接続した電子機器等の動作状況による急激な負荷電力の増大時に、反応層13における燃料ガスの消費が急激に増加しても、閉鎖空間55から流路53、34に燃料ガスが逆流することが防止される。
これにより、閉鎖空間55の圧力は維持される。これにより接触抵抗の増加もなく、発電電力の低下を防ぐことができる。
なお、この逆流防止弁31は、閉鎖空間55の急激な燃料ガス圧の低下を抑制するものであるため、徐々に逆流することに対する厳密な密閉性までは要求されるものではない。
【0018】
つぎに、図1(b)を用いて、上記逆流防止弁の構造について説明する。
図1(b)において、31aは、「くの字」に折り曲げられた部材である。
この部材31aは、中央部で「くの字」に折り曲げることが出来る、例えば極薄いフレキシブル基板を用いて形成され、その一部に、ガス流路口31cが設けられ、基板41、42の内側に接着剤31dを用いて固定されている。
そして、上記ガス流路口31cを塞ぐように弁31bが、極薄いフレキシブル基板を用いて設けられている。
このように、逆流防止弁31を基板41、42の内側に設けて、閉鎖空間55と、流路53、流路口34を分離することにより、上記した急激な負荷電力の増大時に、反応層における燃料ガスの消費が急激に増加しても、燃料ガスの逆流防止が可能となる。
【0019】
[実施例2]
実施例2においては、本発明を適用して、複数の燃料電池セルを積層し、スタックとした構成例について説明する。
図2に、本実施例におけるスタックを構成する際に用いる燃料電池単セルの断面模式図を示す。
図3に、本実施例の燃料電池スタックにおける部品を分解した模式的組立図を示す。
図4に、本実施例の燃料電池スタックを覆う筐体の模式的斜視図を示す。
図5は、前記筐体内に、スタックを収納した場合の模式的斜視図である。
【0020】
本実施例における燃料電池スタックを構成する燃料電池セルの構造は、実施例1とほぼ同様である。
しかし、図1の上面開口部61からのような空気取り込みが出来なくなるので、空気取り込み、及び、ガス拡散のためガス拡散層60を、MEA16上に積層する。
ガス拡散層60には燃料電池スタックの側面から空気を取り込む役割があり、材料としては発泡金属が好適に用いられ得る。
さらに、燃料電池セル71を積層した場合に、図3に示すように、セル間の燃料ガス伝達のため、燃料電池セル71を構成する基板41には、流路口52、57が形成されている。
また、セル間の燃料ガス伝達のため、パイプ62、63、64が連接され、上部に次スタックに燃料ガスを供給するための流路65が設けられている。
パイプ62、63、64として、例えば、厚みの有る基板に流通口を設けたものや、フレキシブル基板内に流路形成した部品を用いてもよい。
以上のような構成の部品を、図3に示すような組み合わせで積層し構築したものが、燃料電池スタック92となる。
【0021】
上記のように構築された燃料電池スタック92を、図4に示すように、通流口102、103、104、105が形成された、中空状の筐体106に入れることにより燃料電池107となる。
筐体106に形成されている流路口は、使用条件によっては、塞がる場合があってもよい。
筐体106に燃料電池スタック92を入れた後、燃料電池スタック92がはみ出ないように、筐体106の側面開口部を、つぎのような部材で塞ぐことができる。
例えば、テープ、着脱可能な蓋、金属板かしめ、接着剤、溶接などを用い、塞ぐことができる。後に、燃料電池スタック92を取り出すことができる、テープ、着脱可能な蓋などが好ましい。
図5には、本発明の電池スタック92と筐体106を一体化した燃料電池107の様子が示されており、また、そこには着脱可能な蓋101を用いた場合について模式的に示されている。
【0022】
以上のように構築された本発明の燃料電池の機能については、実施例1とほぼ同様であるが、燃料ガスが、流路口52、65、パイプ62、63、64を介して、各セルに流入する。
流入した燃料ガスが、各セルの閉鎖空間55を膨らませることで、燃料電池部材を筐体106に内壁に押し付け、締め付け圧力を発生させることができる。
これにより、面全体で均一な圧力を加えられ、接触抵抗を低減させることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施例1における燃料電池セルを説明するための図であり、(a)は本発明の燃料電池セルの断面模式図、(b)は本実施例の燃料電池セルの内部に設けられた逆流防止弁の構成を説明するための模式図。
【図2】本発明の実施例2におけるスタックを構成する際に用いる燃料電池単セルの断面模式図。
【図3】本発明の実施例2の燃料電池スタックにおける部品を分解した模式的組立図。
【図4】本発明の実施例2における燃料電池スタックを覆う筐体の模式的斜視図。
【図5】本発明の実施例2における筐体内にスタックを収納した場合の模式的斜視図。
【図6】従来の燃料電池のスタック構成を説明するための図。
【図7】従来例である特許文献1の燃料電池の構成を説明するための図。
【図8】本発明の実施例1における燃料電池セル用いて構成された燃料電池を示す模式図。
【符号の説明】
【0024】
11:電解質膜
12、13:反応層
14、15:ガス拡散層
16:MEA
17:リーク防止のための金属膜
18:接着剤
21:スペーサ
31:逆流防止弁
33、34:流路口
41、42:基板(電極基板)
43:燃料電池電極
51、52、56、57:流路口
53、54:流路
55:閉鎖空間
60:ガス拡散層
61:開口部(酸化材供給口)
62、63、64:燃料ガス伝達パイプ
65、65:流路口
71:燃料電池セル
81:筐体
91:燃料電池
92:燃料電池スタック
101:蓋
102、103、104、105:通流口
106:筐体
107:燃料電池
201:発電反応部
202:支持部材
203:セル
204:スタック
205:燃料電池
206:エンドプレート
207:ボルト
208:圧縮バネ(スプリング)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両面に反応層を形成した電解質膜と、発電時にガス拡散および集電するための部材と、を少なくとも含む燃料電池部材が、電力を取り出すための電極上に積層された構造を有する燃料電池セルであって、
前記電極は、該電極を構成する電極基板によって形成された、燃料ガスを流入させることによって前記燃料電池部材に面圧を印加するための閉鎖空間を備え、
前記閉鎖空間には、該閉鎖空間に流入した燃料ガスの逆流を抑制する逆流防止弁が設けられていることを特徴とする燃料電池セル。
【請求項2】
前記電極基板は、配線パターンが形成された可撓性の板状部材によって構成されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池セル。
【請求項3】
前記閉鎖空間は、前記可撓性の板状部材によって形成された燃料ガスを流入させる領域を有し、
前記逆流防止弁が、前記燃料ガスを流入させる領域に面する側の前記可撓性の板状部材に、弁部材を固定することによって構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の燃料電池セル。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の燃料電池セルを複数積層して構成されていることを特徴とする燃料電池スタック。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の燃料電池セル、または請求項4に記載の燃料電池スタックが、筐体内に収容され構成されていることを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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