説明

燃料電池セル

【課題】発電中に生成した生成水によるフラッディングを防止して、ガスの供給を円滑に行う。
【解決手段】例えば燃料電池セルのカソード側において、膜−電極アッセンブリ16のカソードガス拡散層14bに、カソード側セパレータ22のリブ22b対向する領域に、発電中に生成した生成水50を優先的に通過させて酸化剤ガス流路22aへ排水するための排水路領域30を形成した構成とする。これにより、生成水50は排水路領域30を優先的に通過して排水される。また、酸化剤ガス流路22aからの酸化剤ガスは、ガス通過領域40を優先的に通過して、カソード触媒層14aに向かって供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池セルに関し、特に燃料電池セルにおける発電中の生成水のフラッディング防止に関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題や資源問題への対策の一つとして、酸素や空気等の酸化性ガスと、水素やメタン等の還元性ガス(燃料ガス)あるいはメタノール等の液体燃料等とを原料として電気化学反応により化学エネルギを電気エネルギに変換して発電する燃料電池が注目されている。
【0003】
一般的に、固体高分子電解質型燃料電池は、膜−電極アッセンブリ(MEA:Membrane-Electrode Assembly)をセパレータで挟んで構成した燃料電池セルを、複数個積層して構成される。燃料電池セルにおける膜−電極アッセンブリは、高分子イオン交換膜からなる高分子電解質膜の両側に、それぞれ水素極(アノード極)及び空気極(カソード極)を対設した構造をとる。水素極(アノード極)及び空気極(カソード極)は、それぞれ、高分子電解質膜上に形成された触媒層と、さらにその上に形成されたガス拡散層とからなる。すなわち、膜−電極アッセンブリは、高分子電解質膜を触媒層で挟み、さらにガス拡散層で挟んで一体化した構成となっている。
【0004】
固体高分子型燃料電池の発電時において、各燃料電池セルにおける水素極側では、水素ガスを燃料ガス(アノードガス)として供給し、水素イオンと電子にする反応が行われ、水素イオンは電解質膜中を空気極側に移動し、電子は外部回路を通じて空気極に到達する。一方、各燃料電池セルにおける空気極側では、酸素ガスあるいは空気を酸化剤ガス(カソードガス)として供給し、水素イオン、電子及び酸素が反応して水を生成する反応が行われる。
【0005】
ところで、固体高分子形燃料電池では、イオン伝導性を維持するために、電解質膜を適度に加湿しておく必要があり、一般に、燃料ガス及び酸化剤ガスは予め加湿した状態で燃料電池セル内に供給される。すなわち、各燃料電池セル内の電解質膜には、加湿のために水を存在させておく必要がある。
【0006】
そこで、固体高分子膜及び電極触媒層の湿潤性を均一化することによって、安定して優れた特性で発電できる燃料電池の構造として、例えば下記特許文献1に記載の技術が提案されている。この技術では、カソード触媒層とカソード側セパレータ板とに挟まれたガス拡散層において、酸化剤ガスの入口側から一定の範囲では、酸化剤ガス流路と対向する領域がリブと対向する領域に比べて保水性が高くなるように調整される。これにより、固体高分子膜及び電極触媒層が、酸化剤ガス流路に対向する領域においてリブに対向する領域よりも乾燥しやすいという傾向を抑え、これらをより均一的に保湿するようにしている。
【0007】
【特許文献1】特開2002−124270号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記のように燃料電池セル内(触媒層)で発電に伴い水が生成すると、生成水の一部が、膜−電極アッセンブリのガス拡散層内で凝縮する。このとき、ガス拡散層内で水が凝縮して滞留してしまうと、この滞留する水によって、空気極側での酸化剤ガス(カソードガス)の供給が妨げられてしまう。そして、その結果、フラッディングが起こり、発電性能の低下を招くこととなる。したがって、生成水は、極力、燃料電池セル(空気極側)から排出して、ガス拡散層内に滞留しないようにするのが好ましい。
【0009】
しかしながら、上記のような従来の技術では、酸化剤ガス流路と対向する領域がガス拡散層における保水性の高い領域となっているため、この領域中(ガス拡散層中)や、この領域におけるガス拡散層と触媒層の界面に水が滞留し、フラッディングを起こすといった事態が生じ得る。特に、発電時に水が多量に生成するような燃料電池の高負荷条件下では、フラッディングを起こして発電性能が低下するといった事態は生じ易い。
【0010】
本発明の目的は、発電中のフラッディングを防止し、ガスの供給を円滑に行うことを可能とする燃料電池セルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、電解質膜と、前記電解質膜を挟む触媒層およびガス拡散層からなる一対の電極と、を有する膜−電極アッセンブリと、前記膜−電極アッセンブリのガス拡散層と対向する面に、ガスが流通する複数のガス流路と、ガス流路の間に形成されたリブと、を有する一対のセパレータと、を有し、前記膜−電極アッセンブリが前記一対のセパレータにより挟持される燃料電池セルであって、前記ガス拡散層における前記リブと対向する領域に、発電中に生成した生成水を優先的に通過させてガス流路へ排水するための排水路領域を形成したことを特徴とするものである。
【0012】
ここで、前記排水路領域は、前記リブよりも幅広であり、排水路領域の少なくとも一端側が前記ガス流路に接しているのが好ましい。
【0013】
また、前記排水路領域は、前記ガス拡散層における他の領域に比べて、気孔径が大きいのが好ましい。
【0014】
また、前記ガス拡散層における前記排水路領域の触媒層側の領域に、前記排水路領域よりも小さい気孔径の領域を形成した構成とするのが好ましい。
【0015】
また、前記排水路領域は、前記ガス拡散層における他の領域に比べて親水性が高いのが好ましい。
【0016】
また、前記ガス拡散層における前記排水路領域の触媒層側の領域に、前記排水路領域よりも親水性の低い領域を形成した構成とするのが好ましい。
【0017】
また、前記ガス拡散層における前記排水路領域以外の領域は、撥水性を有するのが好ましい。
【0018】
また、前記セパレータは、前記排水路領域よりも高い親水性を有するのが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、発電中に生成した生成水によるフラッディングを防止することができ、また酸化剤ガスの供給を円滑に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の実施の形態について以下説明する。
【0021】
図1は、本発明の実施形態における燃料電池セルの構成の一例を示す。図1に示すように、燃料電池セル1は、電解質膜10と水素極(アノード極)12と空気極(カソード極)14とを有する膜−電極アッセンブリ16(MEA:Membrane-Electrode Assembly)と、アノード側セパレータ20と、カソード側セパレータ22と、を有する。
【0022】
水素極(アノード極)12は、アノード触媒層12aとアノードガス拡散層12bとを含む構成となっている。また、空気極(カソード極)14は、カソード触媒層14aとカソードガス拡散層14bとを含む構成となっている。
【0023】
また、アノード側セパレータ20は、アノードガス拡散層12bと対向する面に、燃料ガス(アノードガス)が流通する複数の燃料ガス流路20aと、各燃料ガス流路20aの間に形成されたリブ20bと、を有する構成となっている。また同様に、カソード側セパレータ22は、カソードガス拡散層14bと対向する面に、酸化剤ガス(カソードガス)が流通する複数の酸化剤ガス流路22aと、各酸化剤ガス流路22aの間に形成されたリブ22bと、を有する構成となっている。そして、各セパレータ20,22のリブ20b,22bがガス拡散層12b,14bに接触した状態で、各セパレータ20,22が膜−電極アッセンブリ16を挟んだ構成となっている。
【0024】
ここで、本実施形態における燃料電池セル1のガス拡散層12b,14bでは、ガス拡散層12b,14b内におけるリブ20b,22bと対向する領域に、発電中に生成した生成水をガス流路へ排水するための領域(排水路領域)30を形成し、一方、ガス拡散層12b,14b内におけるガス流路20a,22aと対向する領域に、ガス流路20a,22aから触媒層12a,14aに向かってガスを供給する(通過させる)ための領域(ガス通過領域)40を形成することとした。
【0025】
図2は、本発明の実施形態における燃料電池セルのガス拡散層の構成の一例を示す。なお、図2では、カソードガス拡散層14bの構成を示す。
【0026】
図2に示すように、カソードガス拡散層14b内の酸化剤ガス流路側において、リブ22bと対向する領域(リブ対向領域)では、酸化剤ガス流路22aと対向する領域(ガス流路対向領域)に比べて、気孔径が大きく形成されている。これにより、リブ対向領域ではガス流路対向領域に比べて、生成水50が通過し易くなる。つまり、生成水50はリブ対向領域を優先的に通過することとなる。またこのとき、ガス流路対向領域では気孔径が小さいため、生成水50は通過しにくくなるが、酸化剤ガスは、酸化剤ガス流路22aからカソード触媒層14aに向かって容易に通過することができる。したがって、ガス流路対向領域における気孔径が小さいことが、酸化剤ガスの供給の妨げになることはない。そして、生成水50はリブ対向領域を優先的に通過することで、ガス流路対向領域には生成水50が滞留しにくくなるため、このガス流路対向領域では、酸化剤ガス流路22aからカソード触媒層14aに向かって酸化剤ガスを優先的に通過させることが可能となる。
【0027】
なお、気孔径の調整は、例えば、ガス流路対向領域にペースト状の塗布剤(例えばペースト状の撥水コート剤など)を塗布することで、ガス流路対向領域における気孔径を小さくすれば良い。これにより、リブ対向領域ではガス流路対向領域に比べて気孔径が大きくなるように、気孔径を調整できる。
【0028】
以上のように、生成水50をカソード触媒層14aから酸化剤ガス流路22aに排水するために優先的に通過させる領域(排水路領域)30と、酸化剤ガスを酸化剤ガス流路22aからカソード触媒層14aへ供給するために優先的に通過させる領域(ガス通過領域)40とを、カソードガス拡散層14b内に区分して形成することにより、発電中のフラッディングを防止しつつ、酸化剤ガスの供給を円滑に行うことができる。特に、高負荷条件下において水が多量に生成する場合には、このような構造は特に効果的である。
【0029】
また、本実施形態におけるカソードガス拡散層14bでは、上記のように形成された排水路領域30の幅は、リブ22bの幅よりも広く設定されており、排水路領域30の両端部分が酸化剤ガス流路22aと接するように配置されている。一方、ガス通過領域40の幅は、酸化剤ガス流路22aの幅よりも狭く設定されている。排水路領域30およびガス通過領域40の幅を以上のように設定することで、排水路領域30を通過した生成水は、排水路領域30の両端部分から酸化剤ガス流路22a内に、リブ22bの壁面(酸化剤ガス流路22aの内壁)に沿ってスムーズに排水されることが可能となる。なお、図では排水路領域30の両端部分が酸化剤ガス流路22aと接するように配置されているが、一端側の部分だけが酸化剤ガス流路22aと接するように配置されても良い。
【0030】
さらに本実施形態では、図に示すように、カソードガス拡散層14b内におけるカソード触媒層14a側に、全面的に気孔径が小さい領域(上記のガス流路対向領域と略同一の大きさの領域)が形成されている。すなわち、排水路領域30のカソード触媒層14a側には、ガス通過領域40と同様の、生成水50が通過しにくい領域が形成されている。
【0031】
このような構成にすることにより、カソード触媒層14aにて生成した生成水50が、カソードガス拡散層14bの方よりも電解質膜10の方に移動し易くなるため、電解質膜10の加湿状態を保持するために生成水50を利用することが可能となる。
【0032】
また、電解質膜10に含まれる水分がカソード触媒層14a及びカソードガス拡散層14bを経て酸化剤ガス流路22aに排水されることを防止できるため、電解質膜10の加湿状態を維持することが可能となる。
【0033】
また、図2に示す構成においても、生成水50の一部は、このカソードガス拡散層14b内におけるカソード触媒層14a側に全面的に形成された気孔径の小さな領域を越えて、カソードガス拡散層14b内に移動していく。特に、高負荷条件下において水が多量に生成した場合などには、多量の生成水50がカソードガス拡散層14b内に流入していく。このときには、カソードガス拡散層14b内に流入した生成水50は、排水路領域30を通過し、排水路領域30の両端部分から酸化剤ガス流路22a内に、リブ22bの壁面に沿ってスムーズに排水される。一方、酸化剤ガスは、ガス通過領域40を通過して、酸化剤ガス流路22aからカソード触媒層14aに向かって供給される。
【0034】
以上述べたように、カソードガス拡散層14b内に排水路領域30とガス通過領域40とを区分して形成することにより、発電中のフラッディングを防止しつつ、酸化剤ガスの供給を円滑に行うことができる。高負荷条件下において水が多量に生成する場合には、このような構造は特に効果的である。
【0035】
また、カソードガス拡散層14b内におけるカソード触媒層14a側に、全面的に、ガス通過領域40と同様の、生成水50が通過しにくい領域を形成することで、カソード触媒層14aにて生成した生成水50が、カソードガス拡散層14bの方よりも電解質膜10の方に移動し易くなり、生成水50を利用して電解質膜10の加湿状態を保持することが可能となる。また、電解質膜10に含まれる水分がカソード触媒層14a及びカソードガス拡散層14bを経て酸化剤ガス流路22aに排水されることを防止できるため、電解質膜10の加湿状態を維持することが可能となる。
【0036】
なお、排水路領域30とガス通過領域40とを区分して形成する方法としては、上記の実施形態のように気孔径を異ならせる以外の方法を用いても良い。
【0037】
例えば、ガス流路対向領域に形成されるガス通過領域40は、撥水コーティングなどの撥水処理を施すことで撥水性の高い(親水性の低い)領域とする。一方、リブ対向領域に形成される排水路領域30は、撥水処理を施さずに、あるいは親水性を高める処理を行う等して、ガス通過領域40に比べて撥水性の低い(親水性の高い)領域にする。
【0038】
以上のような構造によれば、生成水50はガス通過領域40には存在し難いため、排水路領域30内を優先的に通過することとなる。また、生成水50がガス通過領域40に存在し難いことから、酸化剤ガスは酸化剤ガス流路22aからカソード触媒層14aへ通過し易くなる。したがって、このような撥水性の高低を利用した構造によっても、上記実施形態と同様に、発電中のフラッディングを防止しつつ、酸化剤ガスの供給を円滑に行うことができる。
【0039】
なお、このときカソードガス拡散層14b内におけるカソード触媒層14a側の領域は、カソード触媒層14aに沿って全面的に撥水処理を行い、撥水性の高い(親水性の低い)領域とする。これにより、カソード触媒層14aにて生成した生成水50は、カソードガス拡散層14bの方よりも電解質膜10の方に移動し易くなるため、電解質膜10の加湿状態を保持するために生成水50を利用することが可能となる。また、電解質膜10に含まれる水分がカソード触媒層14a及びカソードガス拡散層14bを経て酸化剤ガス流路22aに排水されることを防止できるため、電解質膜10の加湿状態を維持することも可能となる。
【0040】
また、さらに排水路領域30における親水性よりも高い親水性の素材によるカソード側セパレータ22を用いるのが好適である。これによれば、親水性の高低を利用して、生成水50が排水路領域30からカソード側セパレータ22の方へ移動し易くなり、ひいては、排水路領域30からカソード側セパレータ22の酸化剤ガス流路22a内への排水が一層スムーズになる。
【0041】
なお、上記の実施形態においては、カソードガス拡散層14bの構成について説明しているが、同様の構成をアノードガス拡散層12bに適用しても良いのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施の形態に係る燃料電池セルの構成の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の実施形態に係る燃料電池セルのガス拡散層の構成の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0043】
1 燃料電池セル、10 電解質膜、12 水素極(アノード極)、12a アノード触媒層、12b アノードガス拡散層、14 空気極(カソード極)、14a カソード触媒層、14b カソードガス拡散層、16 膜−電極アッセンブリ、20 アノード側セパレータ、20a 燃料ガス流路、20b リブ、22 カソード側セパレータ、22a 酸化剤ガス流路、22b リブ、30 排水路領域、40 ガス通過領域、50 生成水。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、前記電解質膜を挟む触媒層およびガス拡散層からなる一対の電極と、を有する膜−電極アッセンブリと、
前記膜−電極アッセンブリのガス拡散層と対向する面に、ガスが流通する複数のガス流路と、ガス流路の間に形成されたリブと、を有する一対のセパレータと、
を有し、前記膜−電極アッセンブリが前記一対のセパレータにより挟持される燃料電池セルであって、
前記ガス拡散層における前記リブと対向する領域に、発電中に生成した生成水を優先的に通過させてガス流路へ排水するための排水路領域を形成した、
ことを特徴とする燃料電池セル。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池セルであって、
前記排水路領域は、前記リブよりも幅広であり、排水路領域の少なくとも一端側が前記ガス流路に接している、
ことを特徴とする燃料電池セル
【請求項3】
請求項1または2に記載の燃料電池セルであって、
前記排水路領域は、前記ガス拡散層における他の領域に比べて、気孔径が大きいことを特徴とする燃料電池セル。
【請求項4】
請求項3に記載の燃料電池セルであって、
前記ガス拡散層における前記排水路領域の触媒層側の領域に、前記排水路領域よりも小さい気孔径の領域を形成した、
ことを特徴とする燃料電池セル。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一つに記載の燃料電池セルであって、
前記排水路領域は、前記ガス拡散層における他の領域に比べて親水性が高いことを特徴とする燃料電池セル。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一つに記載の燃料電池セルであって、
前記ガス拡散層における前記排水路領域の触媒層側の領域に、前記排水路領域よりも親水性の低い領域を形成した、
ことを特徴とする燃料電池セル。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一つに記載の燃料電池セルであって、
前記ガス拡散層における前記排水路領域以外の領域は、撥水性を有する、
ことを特徴とする燃料電池セル。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一つに記載の燃料電池セルであって、
前記セパレータは、前記排水路領域よりも高い親水性を有する、
ことを特徴とする燃料電池セル。






【図1】
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【図2】
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