説明

燃料電池セル

【課題】ガスの供給及び排出を行なうに際してガスの漏れが発生しないようなガス流路の連結機構を備えた燃料電池セルを提供する。
【解決手段】板状の固体高分子電解質1と、これを挟むように両側に配置される電極板2及び電極板3と、電極板2,3のさらに外側に配置される金属板4及び金属板5と、金属板4と電極板2の間の空間に形成され、水素ガスを通過させるための流路溝9とを備え、金属板4に形成され流路溝9の両端部に位置するガス供給穴4c及びガス排出穴4dと、ガス供給穴4cとガス排出穴4dの位置に夫々取り付けられる金属製のブース10,11とを備え、ブース10,11は、流路溝9に対するガスの供給を行なうガス供給管12、あるいは流路溝9からのガスの排出を行なうガス排出管を取り付ける横穴10bと、流路溝9とガス供給管12あるいはガス排出管を連通させるための内部連通路とを備えており、ブース10,11を金属板4に対して溶接により結合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状の固体高分子電解質と、この固体高分子電解質を挟むように両側に配置される第1電極板及び第2電極板と、これら電極板のさらに外側に配置される第1金属板及び第2金属板と、少なくとも一方の金属板と電極板の間の空間に形成されるガスを通過させるための流路溝とを備えた燃料電池セルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
かかる燃料電池セルとして、例えば下記特許文献1,2に開示される燃料電池セルが知られている。この燃料電池セルはアノード側の金属板には、水素ガスを通過させるための流路溝が形成されており、その流路溝の両端部にはガス供給穴とガス排出穴が形成されている。ガス供給管を通じて供給される水素ガスは、金属板に形成されるガス供給穴を介して流路溝に供給され、流路溝を通過した水素ガスはガス排出穴を介してガス排出管へと排出される。一方、カソード側の金属板には空気(酸素)を取り込むための多数の開口孔が形成されている。供給される水素ガスはアノードでの触媒反応によって水素イオン及び電子となり、水素イオンは固体高分子電解質内を移動し、カソードでの触媒反応により酸素と反応して水となる。一方、電子は外部回路を伝わってカソードに移動する。この電子の移動により電気エネルギーが発生することになる。
【0003】
【特許文献1】特開2005−150008号公報
【特許文献2】特開2006−107916号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上のような構成を有する燃料電池セルにおいて、水素ガスのセル内への供給やセル外への排出を行なうために、ガス供給管やガス排出管と燃料電池セル内部の流路溝とを連結する必要がある。また、流路を連結する場合に水素ガスなどの燃料ガスが外部に漏れないような連結機構が必要とされる。
【0005】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その課題は、燃料電池セルに対するガスの供給及び排出を行なうに際してガスの漏れが発生しないようなガス流路の連結機構を備えた燃料電池セルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため本発明に係る燃料電池セルは、
板状の固体高分子電解質と、この固体高分子電解質を挟むように両側に配置される第1電極板及び第2電極板と、これら電極板のさらに外側に配置される第1金属板及び第2金属板と、少なくとも一方の金属板と電極板の間の空間に形成され、ガスを通過させるための流路溝とを備えた燃料電池セルであって、
前記少なくとも一方の金属板に形成され前記流路溝の両端部に位置するガス供給穴及びガス排出穴と、
これらガス供給穴とガス排出穴の位置に夫々取り付けられる金属製の流路連結部材とを備え、
この流路連結部材は、前記流路溝に対するガスの供給を行なうガス供給管、あるいは流路溝からのガスの排出を行なうガス排出管を取り付けるための管取り付け部と、
流路溝とガス供給管あるいはガス排出管を連通させるための内部連通路とを備えており、
この流路連結部材を前記少なくとも一方の金属板に対して溶接により結合させることを特徴とするものである。
【0007】
この構成による燃料電池セルの作用・効果を説明する。この燃料電池セルは、板状の固体高分子電解質の両側に配置される一対の電極板と、この電極板の更に外側に配置される一対の金属板を備えており、少なくとも一方の金属板と電極板の間の空間にガスを通過させるための流路溝が形成される。金属板はカソード側とアノード側に備えられているが、流路溝はカソード側とアノード側の両方に形成されるか、カソード側とアノード側のいずれか一方に形成されるものであり、燃料電池セルの構造により流路溝の形成される態様が異なることがあるが、本発明においてはかかる態様に限定されるものではない。金属板には、ガス供給穴とガス排出穴が形成されており、このガス供給穴とガス排出穴を連結するように燃料電池セル内部に流路溝が形成される。
【0008】
流路溝を形成する方法についても特定の方法に限定されるものではなく、金属板の裏面にエッチングや切削加工で溝を形成したり、プレス打ち出し加工などにより流路溝を形成することができる。また、電極板に流路溝を形成する方法を採用してもよい。金属板のガス供給穴とガス排出穴が形成される位置には、金属製の流路連結部材が溶接により結合される。流路連結部材には、ガス供給管あるいはガス排出管を取り付けるための管取り付け部と、内部連通路が設けられており、流路連結部材を介してガス供給管あるいはガス排出管と内部の流路溝とを連結することができる。また、流路連結部材は、金属板に対して溶接により結合されるものであるから、金属板に対して隙間のない形で結合させることができ、例えば、カシメ結合と比較すると良好な結合を行なうことができ、結合箇所からガスが漏れるという恐れがなくなる。その結果、燃料電池セルに対するガスの供給及び排出を行なうに際してガスの漏れが発生しないようなガス流路の連結機構を備えた燃料電池セルを提供することができる。
【0009】
本発明において、流路連結部材を金属板に対して溶接結合するために、流路連結部材にリング状の突出部を設けていることが好ましい。
【0010】
リング状の突出部を設けることで、溶接をする際に突出部にエネルギーを集中させることができ、短時間での溶接結合を行なうことができる。これにより、燃料電池セルに対する熱損傷などの悪影響を与えることなく、結合箇所に隙間がない状態で流路連結部材を結合することができる。
【0011】
本発明において、少なくとも一方の金属板を打ち出し加工することで金属板の裏面側に前記流路溝を形成し、金属板の表面側に表れる前記打ち出し加工による突出部に流路連結部材を結合させることが好ましい。
【0012】
流路溝を金属板の裏面に形成する場合に、金属板をプレス打ち出し加工することで金属板の裏面側に流路溝を形成することができる。かかる打ち出し加工を行なうと、金属板の表面側に流路溝の形状に対応した突出部が形成される。そこで、この突出部に対して流路連結部材を取り付けるようにすることで、流路溝とガス供給管やガス排出管との連結を簡単に行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係る燃料電池セルの好適な実施形態を図面を用いて説明する。まず、燃料電池セル(単位セル)の構成について図1〜図4により説明する。図1はアノード側から見た外観斜視図、図2はカソード側から見た外観斜視図である。図3は、図1,2に示す燃料電池セルの内部構造を示す分解斜視図であり、図4は、図1,2に示す燃料電池セルの縦断面図である。
【0014】
本発明の燃料電池セルは、各図に示すように、板状の固体高分子電解質1と、その固体高分子電解質1の一方側に配置されたアノード側電極板2(第1電極板に相当)と、他方側に配置されたカソード側電極板3(第2電極板に相当)とを備え、これら一対の電極板2,3により固体高分子電解質1が挟持される形となっている。更に、アノード側電極板2の外側にアノード側金属板4(第1金属板に相当)が配置され、カソード側電極板3の外側にカソード側金属板5(第2金属板に相当)が配置される。アノード側金属板4とアノード側電極板2の間に形成される空間に水素ガスを通過させるための後述の流路溝が形成されている。
【0015】
各金属板4,5の周縁領域4a,5aは、固体高分子電解質1及び電極板2,3を収容した後に、カシメ(プレス曲げ加工に相当)により封止される。また、説明の便宜上、金属板4,5の周縁領域4a,5a以外の領域を中央領域4b,5bと称することにする。カシメ加工を行なう前は、図3に示すように、カソード側金属板5の周縁領域5aは垂直な立ち曲げ部となっており、これを内側へ倒し込むことによりアノード側金属板4の周縁領域4aと重ね合わせて封止することができる。この垂直な立ち曲げ部は、絞り加工により形成することができる。
【0016】
固体高分子電解質1としては、従来の固体高分子膜型電池に用いられるものであれば何れでもよいが、化学的安定性及び導電性の点から、超強酸であるスルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体からなる陽イオン交換膜が好適に用いられる。このような陽イオン交換膜としては、ナフィオン(登録商標)が好適に用いられる。その他、例えば、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂からなる多孔質膜に上記ナフィオンや他のイオン伝導性物質を含浸させたものや、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂からなる多孔質膜や不織布に上記ナフィオンや他のイオン伝導性物質を担持させたものでもよい。
【0017】
固体高分子電解質1の厚みは、薄くするほど全体の薄型化に有効であるが、イオン伝導機能、強度、ハンドリング性などを考慮すると、10〜300μmが使用可能であるが、25〜50μmが好ましい。
【0018】
電極板2,3は、ガス拡散層としての機能を発揮して、燃料ガスや、酸化ガス及び水蒸気の供給・排出を行なうと同時に、集電の機能を発揮するものが使用できる。電極板2,3としては、同一又は異なるものが使用でき、その基材には電極触媒作用を有する触媒を担持させることが好ましい。触媒は、固体高分子電解質1と接する内面2b,3bに少なくとも担持させるのが好ましい。
【0019】
電極板2,3の電極基材としては、例えば、カーボンペーパー、カーボン繊維不織布などの繊維質カーボン、導電性高分子繊維の集合体などの電導性多孔質材が使用できる。一般に、電極板2,3は、このような電導性多孔質材にフッ素樹脂等の撥水性物質を添加して作製されるものであって、触媒を担持させる場合、白金微粒子などの触媒とフッ素樹脂等の撥水性物質とを混合し、これに溶媒を混合して、ペースト状或いはインク状とした後、これを固体高分子電解質膜と対向すべき電極基材の片面に塗布して形成される。
【0020】
一般に、電極板2,3や固体高分子電解質1は、燃料電池に供給される還元ガスと酸化ガスに応じた設計がなされる。本発明では、酸化ガスとして空気が用いられると共に、還元ガスとして水素ガスを用いるのが好ましい。
【0021】
例えば、水素ガスと空気を使用する場合、空気が自然供給される側のカソード側電極板3では、酸素と水素イオンの反応が生じて水が生成するため、かかる電極反応に応じた設計をするのが好ましい。特に、低作動温度、高電流密度及び高ガス利用率の運転条件では、特に水が生成する空気極において水蒸気の凝縮による電極多孔体の閉塞(フラッディング)現象が起こりやすい。したがって、長期にわたって燃料電池の安定な特性を得るためには、フラッディング現象が起こらないように電極の撥水性を確保することが有効である。
【0022】
触媒としては、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、銀、ニッケル、鉄、銅、コバルト及びモリブデンから選ばれる少なくとも1種の金属か、又はその酸化物が使用でき、これらの触媒をカーボンブラック等に予め担持させたものも使用できる。
【0023】
電極板2,3の厚みは、薄くするほど全体の薄型化に有効であるが、電極反応、強度、ハンドリング性などを考慮すると、50〜500μmが好ましい。電極板2,3と固体高分子電解質1とは、予め接着、融着等を行って積層一体化しておいてもよいが、単に積層配置されているだけでもよい。このような積層体は、薄膜電極組立体M(Membrane Electrode Assembly:MEA)として入手することもでき、これを使用してもよい。
【0024】
アノード側電極板2の表面にはアノード側金属板4が配置され、カソード側電極板3の表面にはカソード側金属板5が配置される。アノード側金属板4には燃料ガスである水素ガスのガス供給穴4c及びガス排出穴4dが設けられ、更に本実施形態では、アノード側金属板4の内側に水素ガスを通過させるための流路溝9(図4参照)が一体形成されている。
【0025】
カソード側金属板5には、空気中の酸素を供給するための多数の開口孔5cが設けられている。開口孔5cは、カソード側電極板3が露出可能であれば、その個数、形状、大きさ、形成位置などは何れでもよい。但し、空気中の酸素の供給効率と、カソード側電極板3からの集電効果などを考慮すると、開口孔5cの面積はカソード側電極板3の面積の10〜50%であるのが好ましく、特に20〜40%であるのが好ましい。カソード側金属板5の開口孔5cは、例えば、規則的又はランダムに複数の円孔やスリット等を設けたり、または金属メッシュによって開口孔5cを設けてもよい。
【0026】
金属板4,5としては、電極反応に悪影響がないものであれば何れの金属も使用でき、例えばステンレス板、ニッケル、銅、銅合金などが挙げられる。但し、伸び、重量、弾性率、強度、耐腐食性、プレス加工性、エッチング加工性などの観点から、ステンレス板、ニッケルなどが好ましい。
【0027】
アノード側金属板4に設けられる流路溝9は、アノード側電極板2との接触により水素ガス等の流路が形成できるものであれば何れの平面形状や断面形状でもよい。本実施形態では、ガス供給穴4cとガス排出穴4dとを流路溝9により接続しており、その流路溝9は、金属板4の幅方向に沿って周期的に折り返すジグザグ状に形成されている。流路溝9は、幅が広い横方向の溝(長辺方向)と幅が狭い縦方向の溝(短辺方向)とで構成されている。流路密度、燃料電池セル積層時の積層密度、屈曲性などを考慮して、種々の形態の流路溝9を採用することができ、図示の形態に限定されるものではない。
【0028】
なお、このような金属板4に形成される流路溝9の一部を電極板2の外面に形成してもよい。電極板2の外面に流路溝を形成する方法としては、加熱プレスや切削などの機械的な方法でもよいが、微細加工を好適に行う上で、レーザ照射によって溝加工を行うことが好ましい。レーザ照射を行う観点からも、電極板2,3の基材としては、繊維質カーボンの集合体が好ましい。
【0029】
金属板4の流路溝9に連通するガス供給穴4c及びガス排出穴4dは、図示ではそれぞれ1個であるが、それぞれ複数を形成することもできる。なお、金属板4,5の厚みは、薄くするほど全体の薄型化に有効であるが、強度、伸び、重量、弾性率、ハンドリング性などを考慮すると、0.1〜1mmが好ましい。
【0030】
金属板4に流路溝9を形成する方法としては、金属板に対してプレス加工(打ち出し加工)を行うことで形成することができる。すなわち、図3に示す金属板4において裏面側からプレス打ち出し加工を行うことで、各図に示すように金属板4の裏面側に流路溝9を形成することができる。また、打ち出し加工により流路溝9を形成するので、各図に示すように金属板4の表面側には、流路溝9と同じ形状が表れる。すなわち、幅広の流路溝9に対応して幅広の突出部4f、幅狭の流路溝9に対応して幅狭の突出部4e、ガス供給穴4cやガス排出穴4dの周囲にも幅広の突出部4gが表れる。流路溝9の断面形状は、略四角形、略台形、略半円形、V字形などが好ましい。
【0031】
金属板5への開口孔5cの形成、金属板4へのガス供給穴4c及びガス排出穴4dの形成についても、プレス加工(プレス打ち抜き加工)を利用して行われる。さらに、金属板4,5には、同じくプレス加工(打ち出し加工)を利用して、中央領域4b,5bに凹部が形成される。この凹部は、図4に示すように、薄膜電極組成体Mを構成する電極板2,3を収容するための凹部である。従って、凹部の面積は、収容される電極板2,3の大きさに応じて加工される。
【0032】
本発明では、金属板4,5の周縁領域4a,5aは、電気的に絶縁した状態でカシメにより封止されている。電気的な絶縁は、絶縁シート(絶縁層に相当)を用いて行うが、固体高分子電解質1の周縁領域1aを介在させることで行うこともできる。
【0033】
カソード側金属板5には、図3に示すようにリング状(額縁状)の絶縁シート6が周縁領域5aに配置される。絶縁シート6の外側の縁は金属板5の縁とほぼ同じ大きさに設定され、内側の縁は、多数の開口孔5cが形成される領域(あるいは、電極板3の大きさより少し大きなサイズ)よりも少し大きなサイズに設定される。金属板5の周縁領域5aに予め絶縁シート6を貼り付けておき、その状態で周縁領域5aを垂直に立ち曲げる加工が行なわれる。
【0034】
アノード側金属板4にも、図1に示すようにリング状(額縁状)の絶縁シート7が周縁領域4aの表裏両面に配置される。この表裏両面の絶縁シート7のサイズは同じである。絶縁シート7の外側の縁は金属板4の縁とほぼ同じ大きさに設定され、内側の縁は、電極板2よりも少し大きなサイズに設定される。この絶縁シート7も予め金属板4に貼り付けておくことができる。
【0035】
固体高分子電解質1は、電極板2,3の大きさよりも少し大きくなっており、図4に示すように、電極板2,3から露出した状態にある周縁領域1aが、絶縁シート11,12により挟持されるように組み立てられる。
【0036】
すなわち、本発明では、カシメ封止を行う際、電極板2,3よりも外側の領域にある固体高分子電解質1の周縁領域1aを絶縁シート6,7を介して、周縁領域4a,5aにより挟持した状態とする。このような構造によると、電極板2,3の一方から他方へのガス等の流入を効果的に防止することができる。また、金属板4の表面側にも絶縁シート7が設けられており、カシメ封止した際に、絶縁性能を確実に確保した状態で封止することができる。
【0037】
絶縁シート6,7としては、シート状の樹脂、ゴム、熱可塑性エラストマー、セラミックスなどが使用できるが、シール性を高める上で、樹脂、ゴム、熱可塑性エラストマーなどが好ましい。絶縁シート6,7は、金属板4,5を所定の形状に加工する前に、直接あるいは粘着剤を介して貼着したり、塗布したりして、予め金属板4,5に一体化しておくことができる。
【0038】
カシメ構造としては、シール性や製造の容易性、厚み等の観点から図4に示すものが好ましい。つまり、一方のカソード側金属板5の周縁領域5aを他方のアノード側金属板4の周縁領域4aより大きくしておき、絶縁シート6,7を介在させつつ、カソード側金属板5の周縁領域5aをアノード側金属板4の周縁領域4aを挟圧するように折り返したカシメ構造が好ましい。このようなカシメ封止を行うための製造方法及び製造設備については、例えば、本出願人による特開2006−86041号公報に開示される技術を用いることができる。
【0039】
燃料電池として使用の際、金属板4のガス供給穴4c及びガス排出穴4dには、直接、燃料供給用のパイプを接合することも可能であるが、水素ガスの漏れを防止するために、ブース10及びブース11(これらは流路連結部材に相当)が取り付けられる。ブース10及びブース11は同じ形状であるので、ガス供給穴4cに対して取り付けられるブース10について代表して説明する。
【0040】
ブース10は、外観形状が直方体もしくは立方体(円筒形でもよい)の本体部10aを有しており、金属パイプ12(ガス供給管に相当)が圧入される横穴10b(管取り付け部に相当)と、ブース10の軸中心に位置する縦穴10cが形成され、これら横穴10aと縦穴10cは水素ガスを通過させるための内部連通路として機能する。また、ブース10の底面にはリング状の突出部10dが一体形成されている。金属パイプ12に対しては更に柔軟性を有する樹脂製パイプ13(これもガス供給管に相当)が挿入される。
【0041】
ブース10は、金属製であり、例えば、ステンレス、真鍮、銅のような金属材料により製作することができ、金属板4の突出部4gに対して抵抗溶接により結合される。抵抗溶接を行ないやすくするために、ブース10の底面には前述の突出部10dが形成されている。突出部10dは幅の狭いリング状であり、電圧印加時のエネルギーが集中しやすいようにしている。抵抗溶接を行うときにはパルス状の電圧を数ms〜10ms程度の時間で印加することにより、短時間でブース10を金属板4に対して結合させることができ、溶接による熱損傷を防止することができる。また、溶接によりブース10を結合することで、ブース10の結合箇所から水素ガスが漏れることを防止することができる。
【0042】
ブース10の寸法例について説明する。ブース10の高さは1.6mm、平面視における大きさは4mm×4mm、突出部10dの大きさはφ1.6mm、突出高さは0.1〜0.3mm、リング幅は0.1〜0.2mm程度が好ましい。また内部連通路を形成する横穴10b及び縦穴10cの大きさは、φ0.5〜1.2mm程度とするのが好ましい。
【0043】
燃料電池セルを構成する部材である金属板4,5及び固体高分子電解質1は、矩形状に形成されているが、その四隅はR形状に形成されている。四隅にRをつけることで後述するカシメ封止加工を行い易い形状にしている。
【0044】
燃料電池を構成する場合、各図に示すような燃料電池セルを1個又は複数個使用することができるが、固体高分子電解質1、一対の電極板2,3、及び一対の金属板4,5で単位セルを構成し、この単位セルを複数積層したり、同一面に配列して使用することも可能である。このようにすると、ボルト及びナットの締結部品で相互結合して、セル部品に一定の圧力を加えなくても、高出力の燃料電池を提供することができる。
【0045】
また、図示するような燃料電池セルを平面的に並べて直列接続することで、厚みを抑えた燃料電池を構成することができる。かかる場合に、前述のようなブース10,11を用いることで、全体の高さを抑制しつつ、隣接する燃料電池セル同士の流路溝9を連結させることができる。横穴10bは、ブース10,11の側面に形成されているので、隣接する燃料電池セルの流路溝9をパイプ12,13で接続する場合に、厚みを抑制しながら接続することができる。
【0046】
<セルユニットの構成例>
図6は、燃料電池セルを複数接続したセルユニットの構成例を示す図である。このセルユニットは、4つの燃料電池セルSを平面的に並べた上で直列接続したものである。また、水素ガスの流路に関しても直列接続されている。燃料電池セルどうしは、金属製の接続部材20を用いて電気的に接続され、隣接する燃料電池セルSのアノードとカソードが接続される。接続部材20は、スポット状の溶接エリア20aにおいて抵抗溶接により、金属板4,5に対して結合される。両端の燃料電池セルSに結合される接続部材20には、端子部20bが形成されており、不図示の回路基板に接続される。
【0047】
また、隣接する燃料電池セルSのブース10,11が金属パイプ12と樹脂製パイプ13により接続され、水素ガスの流路が直列接続されることになる。水素ガスの供給は、図示の左側の燃料電池セルSのブース10を介して行なわれ、最終的には、一番右側の燃料電池セルSのブース11を介して排出される。水素ガスは、不図示の水素ガス発生ユニットから供給される。
【0048】
<別実施形態>
燃料電池セルの構成は図1〜5に示す構造のものに限定されるものではない。例えば、カソード側金属板5は空気を取り込むための開口孔5cを多数有する形状をしているが、カソード側金属板5をアノード側金属板4と同様の形状に形成してもよい。この場合は、アノード側金属板4にもブースが取り付けられることになる。
【0049】
本実施形態では、カソード側金属板5の周縁領域5aを折り曲げてカシメ封止しているが、アノード側金属板4の周縁領域4aを折り曲げてカシメ封止してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】燃料電池セルのアノード側の外観を示す斜視図
【図2】燃料電池セルのカソード側の外観を示す斜視図
【図3】燃料電池セルの内部構造を示す分解斜視図
【図4】燃料電池セルの内部構造を示す組立断面図
【図5】ブースの構成を示す図
【図6】セルユニットの構成例を示す図
【符号の説明】
【0051】
1 固体高分子電解質
1a 周縁領域
2 アノード側電極板(第1電極板)
3 カソード側電極板(第2電極板)
4 アノード側金属板(第1金属板)
4a 周縁領域
4b 中央領域
4c ガス供給穴
4d ガス排出穴
4e,4f,4g 突出部
5 カソード側金属板(第2金属板)
5a 周縁領域
5b 中央領域
5c 開口孔
9 流路溝
10,11 ブース
10a 本体部
10b 横穴
10c 縦穴
10d 突出部
12 金属パイプ
13 樹脂性パイプ
M 薄膜電極組成体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の固体高分子電解質と、この固体高分子電解質を挟むように両側に配置される第1電極板及び第2電極板と、これら電極板のさらに外側に配置される第1金属板及び第2金属板と、少なくとも一方の金属板と電極板の間の空間に形成され、ガスを通過させるための流路溝とを備えた燃料電池セルであって、
前記少なくとも一方の金属板に形成され前記流路溝の両端部に位置するガス供給穴及びガス排出穴と、
これらガス供給穴とガス排出穴の位置に夫々取り付けられる金属製の流路連結部材とを備え、
この流路連結部材は、前記流路溝に対するガスの供給を行なうガス供給管、あるいは流路溝からのガスの排出を行なうガス排出管を取り付けるための管取り付け部と、
流路溝とガス供給管あるいはガス排出管を連通させるための内部連通路とを備えており、
この流路連結部材を前記少なくとも一方の金属板に対して溶接により結合させることを特徴とする燃料電池セル。
【請求項2】
流路連結部材を金属板に対して溶接結合するために、流路連結部材にリング状の突出部を設けていることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池セル。
【請求項3】
前記少なくとも一方の金属板を打ち出し加工することで金属板の裏面側に前記流路溝を形成し、金属板の表面側に表れる前記打ち出し加工による突出部に流路連結部材を結合させることを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池セル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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