燃料電池セル
【課題】熱応力歪による固体電解質層とバリア層との間の剥離を抑制する燃料電池セルを提供する。
【解決手段】燃料電池セル1は、燃料極11、空気極14、燃料極11と空気極14との間の電解質層15、電解質層15と空気極14との間のバリア層13、及びバリア層13と電解質層15との間の中間層16を備えている。、中間層16が気孔を含むことで、バリア層13と固体電解質層15との間の応力が低減され、バリア層13と固体電解質層15との間の剥離が抑制される。
【解決手段】燃料電池セル1は、燃料極11、空気極14、燃料極11と空気極14との間の電解質層15、電解質層15と空気極14との間のバリア層13、及びバリア層13と電解質層15との間の中間層16を備えている。、中間層16が気孔を含むことで、バリア層13と固体電解質層15との間の応力が低減され、バリア層13と固体電解質層15との間の剥離が抑制される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池セルに関し、より具体的には、固体酸化物形燃料電池セルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題及びエネルギー資源の有効利用の観点から、燃料電池に注目が集まっている。燃料電池は、燃料電池セル及びインターコネクタ等を備える。特許文献1には、固体電解質層と、固体電解質層を介して対向するように設けられた燃料極層と空気極層とを含む燃料電池セルが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007‐141492号公報
【特許文献2】特開平9−304321号公報
【特許文献3】特開2005‐22966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
異なる組成の層を2つ以上備える燃料電池セルは、製造時及び/又は使用時において加熱されることで、それらの層の熱膨張率及び/又は焼成収縮量等が違うことが原因で、不具合を生じることがある。不具合とは、具体的には、熱応力による歪による、一方の層の他方の層からの剥離及び一方の層におけるクラックの発生を含む。
【0005】
本発明は、この問題点に鑑みてなされたものであり、燃料電池セルにおける不具合の発生を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1観点に係る燃料電池セルは、燃料極と;空気極と;ジルコニウムを含み、前記燃料層と前記空気極との間に設けられた固体電解質層と;セリウムを含み、前記固体電解質層と前記空気極との間に設けられたバリア層と;ジルコニウム及びセリウムを含み、前記バリア層と対向する第1面、及び前記固体電解質層と対向する第2面を備え、気孔(空孔)を含み、かつ前記バリア層よりも高い気孔率を示す中間層と;を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明の燃料電池セルでは、中間層が気孔を含むので、バリア層と固体電解質層との間の応力が低減される。その結果、バリア層と固体電解質層との間の剥離が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】燃料電池の要部構成を示す断面図である。
【図2】実施例におけるセル試料の断面を示すSEM画像である。
【図3】図2の視野における各成分の濃度分布を示すグラフである。
【図4】第2のバリア層を有する燃料電池セルの断面図である。
【図5】横縞型燃料電池セルの外観を示す斜視図である。
【図6】図5の横縞型燃料電池セルのI−I矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
燃料電池の一例として、固体酸化物型燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell:SOFC)を挙げる。特に以下では、主に、複数の燃料電池セルが積層されたセルスタック構造を有するSOFCについて説明する。
【0010】
1.縦縞型燃料電池
1−1.燃料電池の概要
図1に示すように、燃料電池10は、燃料電池セル(単に「セル」と称される)1と、集電部材4とを備える。燃料電池10は縦縞型燃料電池であるが、本発明は後述するように横縞型等の他の形態にも適用可能である。燃料電池10においては、複数のセル1が、集電部材4を介してy軸方向に重ねられる。つまり、燃料電池10は、スタックされた複数のセル1を備える。
【0011】
1−2.セル1の概要
セル1はセラミックスの薄板である。セル1の厚みは、例えば30μm〜300μmであり、セル1の直径は、例えば5mm〜50mmである。セル1は、図1に示すように、燃料極11、バリア層13、空気極14、電解質層15、及び中間層16を備える。
【0012】
1−3.燃料極
燃料極11の材料としては、例えば、公知の燃料電池セルにおいて燃料極の形成に用いられる材料が用いられる。燃料極11の材料として、より具体的には、NiO‐YSZ(酸化ニッケル‐イットリア安定化ジルコニア)及び/又はNiO‐Y2O3(酸化ニッケル‐イットリア)が挙げられる。燃料極11は、これらの材料を主成分として含むことができる。燃料極11は、アノードとして機能する。また、燃料極11は、セル1に含まれる他の層を支持する基板(支持体と言い換えてもよい)として機能してもよい。つまり、燃料極11の厚みは、セル1に含まれる複数の層の中で、最も大きな厚みを有していてもよい。燃料極11の厚みは、具体的には10μm〜300μm程度である。なお、燃料極11は、還元処理(例えばNiOをNiに還元する処理)を受けることで、導電性を獲得することができる。
【0013】
なお、「組成物Aが物質Bを主成分として含む」とは、好ましくは、組成物Aにおける物質Bの含量が60重量%以上であることを意味し、より好ましくは、組成物Aにおける物質Bの含量が70重量%以上であることを意味する。
【0014】
また、燃料極11は、2つ以上の層を有してもよい。例えば、燃料極11は、2つの層、すなわち、基板とその上に形成された燃料極活性層(燃料側電極)とを有してもよい。基板及び燃料極活性層の材料は、上述した燃料極11の材料から選択可能である。より具体的には、NiO‐Y2O3で構成された基板と、NiO‐YSZで構成された燃料極活性層とが組み合わせられてもよい。
【0015】
1−4.バリア層
バリア層13は、空気極14と燃料極11との間に設けられ、より具体的には、空気極14と電解質層15との間に設けられる。
【0016】
バリア層13は、セリウムを含む。バリア層は、セリウムをセリア(酸化セリウム)として含んでもよい。具体的には、バリア層13の材料として、セリア及びセリアに固溶した希土類金属酸化物を含むセリア系材料が挙げられる。バリア層13は、セリア系材料を主成分として含むことができる。セリア系材料として、具体的には、GDC((Ce, Gd)O2:ガドリニウムドープセリア)、SDC((Ce, Sm)O2:サマリウムドープセリア)等が挙げられる。例えば希土類金属酸化物:セリアのmol組成比は、5:95〜20:80であってもよい。バリア層13は、セリア系材料の他に、添加剤を含んでいてもよい。
【0017】
バリア層13の厚みは、例えば40μm以下であってもよく、30μm以下であってもよく、20μm以下であってもよい。
【0018】
バリア層13は、空気極14から電解質層15へのカチオンの拡散を抑制することで、高抵抗層の形成を抑制することができる。その結果、バリア層13は、出力密度の低下を抑制し、セル1の寿命を長期化することができる。
【0019】
バリア層13は気孔を含み、バリア層13の気孔率は、中間層16における気孔率よりも低いことが好ましい。具体的には、バリア層13の気孔率は、10%以下であることが好ましい。バリア層13が緻密であることで、バリア層13がカチオン拡散を抑制する効果は高くなる。また、バリア層13が緻密であることで、セル1の電気抵抗値は低く抑えられる。バリア層13の気孔率は、後述の中間層16の気孔率と同様に算出される。
【0020】
1−5.空気極
空気極14の材料としては、例えば、公知の燃料電池セルの空気極の材料が用いられる。空気極14の材料として、より具体的には、LSCF(ランタンストロンチウムコバルトフェライト:(LaSr)(CoFe)O3)が挙げられる。LSCFの組成としては、例えばLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3が挙げられる。空気極14は、このような材料を主成分として含むことができる。空気極14の厚みは、5μm〜50μm程度であってもよい。
【0021】
1−6.電解質層
電解質層15は、固体電解質層の一例であって、バリア層13と燃料極11との間に設けられる。
【0022】
電解質層15はジルコニウムを含む。電解質層15は、ジルコニウムをジルコニア(ZrO2)として含んでもよい。具体的には、電解質層15は、ジルコニアを主成分として含むことができる。また、電解質層15は、ジルコニアの他に、Y2O3及び/又はSc2O3等の添加剤を含むことができる。これらの添加剤は、安定剤として機能することができる。電解質層15において、安定化剤:ジルコニアとのmol組成比は、3:97〜20:80であってもよい。すなわち、電解質層15の材料として、3YSZ、8YSZ及び10YSZ等のイットリア安定化ジルコニア;並びにScSZ(スカンジア安定化ジルコニア);等のジルコニア系材料が挙げられる。
【0023】
電解質層15の厚みは、30μm以下であってもよい。
電解質層15の気孔率は、中間層16の気孔率よりも低いことが好ましく、バリア層13の気孔率より低いことが好ましい。具体的には、電解質層15の気孔率は、7%以下であってもよく、5%以下であってもよく、3%以下であってもよい。電解質層15の気孔率は、後述の中間層16の気孔率と同様に算出される。
【0024】
1−7.中間層
中間層16は、バリア層13と電解質層15との間に配置される。具体的には、中間層16は、第1面16a及び第2面16bを有し、第1面16aが電解質層15と接触し、第2面16bがバリア層13と接触する。中間層16は、バリア層13よりも高い気孔率を示す。
バリア層13、電解質層15及び中間層16は、共焼成されていてもよい。
【0025】
<気孔>
中間層16は、複数の気孔16cを有する。気孔16cの形状は特に限定されないが、気孔16cの断面は略楕円(円を含む)であってもよい。気孔16cの長径Rは好ましくはR≦1μmを満たし、長径Rは好ましくは0.05μm≦Rを満たす。
【0026】
また、中間層16の気孔率Pは好ましくはP≦15%を満たし、気孔率Pは好ましくは1%≦Pを満たす。気孔率は、空間率と言い換えられてもよい。気孔率Pは、中間層16の総体積V1に対する空隙(気孔16cを含む)の体積V2の比(V2/V1)で表されるが、断面における第1のバリア層の単位面積当たりの気孔13cの面積として表されてもよい。
【0027】
気孔率Pは、例えば、
‐中間層16の厚み方向における断面の電子顕微鏡(SEM)画像を取得すること、
‐この画像(視野)において気孔16cを特定すること、
‐この画像における中間層16の面積を取得すること、
‐この画像における気孔16cの面積の総和を取得すること、及び
‐この画像における[気孔16cの面積の総和/中間層16の総面積]を算出すること、
によって求められる。
なお、具体的には、断面画像の取得にはSEM及びFE−SEM等を用いることができ、その後の気孔の面積の数値化等には画像解析ソフト等を用いることができる。
1つの視野において算出された気孔率を中間層全体の気孔率とみなしてもよいし、複数の視野において同様の手順で気孔率を算出し、その平均値を中間層全体の気孔率とみなしてもよい。
【0028】
また、中間層16において、中間層16の厚み方向に平行な断面中、層間の界面方向に平行な方向において、10μm長さ当たりの気孔の数が5個以下であることが好ましい。
【0029】
バリア層13の組成と電解質層15の組成とは異なるので、バリア層13の熱膨張率及び焼成収縮量と、電解質層15の熱膨張率及び焼成収縮量とは異なる。セル1の製造において、バリア層13と電解質層15とが積層された状態で焼成されることにより、完成したセル1において、バリア層13及び電解質層15の内部には歪が含まれている。セル1は、動作時には高温にさらされ、非動作時には常温に戻る。バリア層13及び電解質層15が、歪を含んだ状態で、常温状態と高温状態との間を繰り返し移行すると、歪によってバリア層13と電解質層15との界面に剥離が生じることがある。中間層16は、気孔16cを有することで、この歪を緩和し、剥離を抑制することができる。
【0030】
また、中間層16に含まれる気孔16cの少なくとも一部は、閉気孔(closed pore)であってもよい。また、中間層16に含まれる気孔16cの全てが閉気孔であってもよい。閉気孔は、その全体がセル1内、つまり中間層16内に存在しており、閉気孔の内部はセル1の外気から遮断されている。閉気孔が中間層16内に存在することで、中間層16は、歪を緩和する高い効果、つまり熱応力緩和の高い効果を示すことができる。また、閉気孔が存在することで、たとえ中間層16に亀裂(クラック)が発生したとしても、その伸長が抑制される。
【0031】
<組成>
中間層16は、ジルコニウムとセリウムとを含む。ジルコニウムはジルコニアとして、セリウムはセリアとして、中間層16に含まれていてもよい。中間層16においてセリウム(又はセリア)とジルコニウム(又はジルコニア)とは混合されており、中間層16は好ましくはセリアとジルコニアとの固溶体である。なお、中間層16は、セリウム及びジルコニウム以外の物質を含んでいてもよい。中間層16は例えば、バリア層13又は電解質層15に含まれる物質(添加剤等)を含んでいてもよい。電解質層15がイットリウム(Y)を含む場合、中間層16もイットリウムを含み得る。また、バリア層13がガドリニウム(Gd)を含む場合、中間層16もガドリニウムを含み得る。
【0032】
<セリウムの濃度及びジルコニウムの濃度>
中間層16において、セリウムの濃度D1及びジルコニウムの濃度D2は、下記(1)〜(8)を満たしてもよい。
(1)セリウムの濃度D1に対するジルコニウムの濃度D2の比率(D2/D1)は、好ましくは0.1≦D2/D1を満たす。
(2)D2/D1は、好ましくはD2/D1≦1を満たす。
(3)セリウムの濃度D1は、好ましくはD1≦80mol%を満たす。
(4)濃度D1は、好ましくは40mol%≦D1を満たす。
(5)ジルコニウムの濃度D2は、好ましくはD2≦50mol%を満たす。
(6)濃度D2は、好ましくは10mol%≦D2を満たす。
(7)バリア層13におけるセリウムの濃度D3に対する中間層16におけるセリウムの濃度D1の比率(D1/D3)は、D1/D3≦0.9を満たしてもよい。
(8)電解質層15におけるジルコニウムの濃度D4に対する中間層16におけるジルコニウムの濃度D2の比率(D2/D4)は、D2/D4≦0.5を満たしてもよい。
【0033】
上記(1)〜(8)の条件のうち、いずれか1つの条件が満たされてもよいし、2つ以上の条件が満たされてもよい。
また、濃度D1〜D4及び本書で論じられる各層の成分の「濃度」とは、特に断らない限り、各層全体における濃度、つまり各層における成分(例えばジルコニウム又はセリウム)の平均含有量である。
【0034】
「濃度」は、具体的には、原子濃度プロファイルによるライン分析、つまりEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)による特性X線強度の比較によって得られる。
【0035】
EPMAを用いた定量分析は当業者によく知られている。EPMAは、電子線を対象物に照射することで放射される特性X線スペクトルに基づいて、電子線が照射されている微小領域(おおよそ1μm3)における構成元素の検出及び同定と、各構成元素の比率(濃度)を分析する装置である。EPMAによる定量分析は、元素濃度の明らかな標準試料の特性X線強度と、未知試料の特性X線強度とを比較することによって実現される。
【0036】
すなわち、セル1の厚み方向(y軸方向)に略平行な断面において、EPMAを用いて、厚み方向(y方向)におけるライン分析を行うことにより、各元素の濃度分布データが取得される。
【0037】
つまり、濃度D1〜D4は、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)を用いた元素マッピングによって決定可能である。
なお、本明細書において、EPMAはEDS(Energy Dispersive x-ray Spectroscopy)を含む概念である。
【0038】
<第1面及び第2面の規定>
厚み方向(y軸方向)に略平行なセル1の断面において、第1面16aは、以下のように規定可能である。すなわち、第1面16aの位置を決定するときは、厚み方向(y軸方向)に略平行な断面において、EPMAを用いて、層厚み方向(y方向)におけるライン分析を行うことにより、各元素の濃度分布データを取得する。この濃度分布データを用いて、セリウムの濃度とジルコニウムの濃度とが一致するラインの位置を、第1面16aの位置として決定する。
つまり、第1面16aの近傍では、ジルコニウム濃度とセリウム濃度とが、略同一である。
【0039】
第2面16bの位置は、断面におけるセリウムの最大濃度の85%の濃度を示すラインの位置として特定される。
【0040】
<成分の濃度分布>
中間層16におけるセリウム濃度及びジルコニウム濃度の分布は、下記(a)〜(e)の条件を満たしていてもよい。
(a)中間層16は、セリウム濃度勾配を有することが好ましい。このセリウム濃度勾配を表すグラフにおいて、横軸が、第2面16bから中間層16中の任意の位置にある部分までの距離(この距離の最大値は、第2面16bから第1面16aまでの距離)を示し、縦軸が、その部分におけるセリウム濃度を示す場合、このグラフにおいて、セリウム濃度は、距離の増加に応じてほぼ単調に減少することが好ましい。
つまり、このようなセリウム濃度勾配が存在する場合、中間層16を第1面16aに平行な断面で複数の部分に分割した場合、中間層16の中で第2面16bに近い部分は、中間層16の中で第1面16aに近い部分よりも、高いセリウム濃度を有する傾向を示す。
(b)中間層16の一部であって第2面16b近傍に位置する部分のセリウム濃度は、バリア層13のセリウム濃度に近いことが好ましい。より具体的には、中間層16の一部であって第2面16b近傍に位置する部分のセリウム濃度は、バリア層13の一部であって第2面16bの近傍に位置する部分のセリウム濃度と略同一であることが好ましい。
(c)中間層16は、ジルコニウム濃度勾配を有することが好ましい。このジルコニウム濃度勾配を表すグラフの横軸が、上記(a)のグラフと同様に第2面16bからの距離を示し、縦軸がジルコニウム濃度を示すのであれば、このグラフにおいて、ジルコニウム濃度は、距離の増加に応じてほぼ単調に増加することが好ましい。
(d)中間層16の一部であって第1面16a近傍に位置する部分のジルコニウム濃度は、電解質層15のジルコニウム濃度に近いことが好ましい。より具体的には、中間層16の一部であって第1面16a近傍に位置する部分のジルコニウム濃度は、電解質層15の一部であって第1面16aの近傍に位置する部分のジルコニウム濃度と略同一であることが好ましい。
【0041】
以上に挙げた(a)〜(d)の条件のうち、いずれか1つの条件が満たされてもよいし、2つ以上の条件が満たされもよい。満たされる条件の数は多い方が好ましい。
【0042】
例えば、上記(a)〜(d)が満たされる場合、セル1は、バリア層13の下面から電解質層15の上面にかけて、セリウム濃度が徐々に低くなる濃度勾配と、ジルコニウム濃度が徐々に高くなる濃度勾配と、を有する。
【0043】
バリア層13から電解質層15までの領域において、バリア層13からの距離(電解質層15からの距離、と言い換えてもよい)に対して、組成が徐々に変化することによって、バリア層13と電解質層15との間の剥離が起きにくいという効果が得られる。
【0044】
上記(a)〜(d)において、セリウム濃度及びジルコニウム濃度は、EPMAを用いたライン分析によって得られた値であってもよい。
【0045】
<厚み>
中間層16の厚み、すなわち第1面16aから第2面16bまでの距離は、0.5μm以上であることが好ましく、10μm以下であることが好ましい。中間層16の厚みは、5μm以下であることがさらに好ましい。
【0046】
<熱膨張率>
中間層16の熱膨張率(つまり線膨張率)は、電解質層15の熱膨張率とバリア層13の熱膨張率との間の値である。すなわち、バリア層13の熱膨張率が電解質層15の熱膨張率よりも高い場合は、中間層16の熱膨張率は、電解質層15よりも高く、バリア層13の熱膨張率よりも低い。例えば、中間層16の熱膨張率は、電解質層15の一例であるYSZの熱膨張率より大きく、バリア層13の一例であるGDCの熱膨張率より小さくてもよい。
【0047】
1−8.セルの他の形態
燃料電池セルは、燃料極と、電解質層と、空気極とを有すればよい。つまり、以上に述べたセル1は、燃料電池セルの一例に過ぎない。よって、セル1において、さらなる構成要素の追加;並びにセル1の構成要素の形状、材料、及び寸法の変更等が可能である。例えば、セル1において、燃料極11と電解質層15との間及び/又は空気極14とバリア層13との間等に、以上に述べられた層以外の層がさらに設けられていてもよい。
【0048】
例えば、バリア層13と空気極14との間に、さらに第2のバリア層が設けられていてもよい。
【0049】
第2のバリア層を備える燃料電池セル(以下、単に「セル」と証する)18を図4に示す。図4において、図1に示されるセル1の構成要素と同様の構成要素については、同符号を付してその説明を省略する。
図4に示すように、セル18は、バリア層13を第1のバリア層として備え、バリア層13と空気極14との間に設けられた第2のバリア層19を備える。第2のバリア層19を構成する材料としては、バリア層13と同様の材料を用いることができる。また、第2のバリア層19の密度は、第1のバリア層13の密度よりも低くてもよい。言い換えると、第2のバリア層19は気孔を含み、第2のバリア層19の気孔率は、第1のバリア層13の気孔率よりも大きくてもよい。
【0050】
燃料電池セルの構成は、以下のように変更されてもよい。
(1)セルの形状は、燃料極支持型、平板形、円筒形、縦縞型、横縞型、片端保持型スタック用、両端保持型スタック用等であってもよい。また、セルの断面は楕円形状であってもよい。
(2上述したセル1、20及び110とは逆に、燃料極がセルの外側に設けられ、空気極が内側に設けられていてもよい。
(3)異なる形態として挙げた構成は、互いに組み合わせ可能である。
【0051】
1−9.集電部材
集電部材4には、導電接続部41及び図示しない集電孔が設けられる。集電部材4には、複数の導電接続部41が設けられている。
【0052】
図1に示すように、導電接続部41は、集電部材4に設けられた凹部であり、その底部分が導電性接着剤411を介して空気極14に接続されている。また、図1に示すように、集電部材4において、導電接続部41とその周囲との間には、非連続な箇所が設けられている。これによって、後述するように、空気極14に空気が供給される。
【0053】
発電時には、燃料極11に燃料ガスが供給される。空気極14への空気の供給は、セルスタック構造の側面側(例えば図1の紙面手前側)から空気を吹き付けることでなされる。
【0054】
なお、図示しないが、燃料電池10は、セルスタックで発生した電流を外部装置へ送るリード、燃料ガスを改質する触媒等を含んだガス改質部等の部材をさらに備えている。
【0055】
2.横縞型燃料電池
上述した燃料電池10は、積み重ねられた複数のセル1と、セル1間を電気的に接続する集電部材4とを備える。すなわち、燃料電池10は、縦縞型の燃料電池である。ただし、本発明は、横縞型燃料電池にも適用可能である。横縞型燃料電池について、以下に説明する。
【0056】
横縞型燃料電池(以下、単に「燃料電池」と称する)100は、支持基板102、燃料極103、電解質層104、空気極106、インターコネクタ107、集電部108、バリア層13及び中間層16を備える。また、燃料電池100はセル110を備える。既に説明した構成要素と同様の構成要素については、同符号を付してその説明を省略することがある。なお、図5では、説明の便宜上、集電部108は図示されていない。
【0057】
燃料電池100は、支持基板102上に配置された複数のセル110と、セル110間を電気的に接続するインターコネクタ107とを備える。セル110は、燃料極103と、その燃料極103に対応する空気極106と、を備える部分である。具体的には、セル110は、支持基板102の厚み方向(y軸方向)に積層された、燃料極103、電解質層104、及び空気極106を備える。
【0058】
支持基板102は、扁平かつ一方向(z軸方向)に長い形状である。支持基板102は、絶縁性を有する多孔質体である。支持基板102は、ニッケルを含んでいてもよい。支持基板102は、より具体的には、Ni‐Y2O3(ニッケル‐イットリア)を主成分として含有していてもよい。なお、ニッケルは酸化物(NiO)として含有されていてもよい。発電時には、NiOは水素ガスによってNiに還元されてもよい。
【0059】
図5及び図6に示すように、支持基板102の内部には、流路123が設けられる。流路123は、支持基板102の長手方向(z軸方向)に沿って延びている。発電時には、流路123内に燃料ガスが流され、支持基板102の有する孔を通って、後述の燃料極103へ燃料ガスが供給される。
【0060】
燃料極103は、支持基板102上に設けられる。1個の支持基板102上に、複数の燃料極103が、支持基板102の長手方向(z軸方向)において並ぶように配置される。つまり、支持基板102の長手方向(z軸方向)において、隣り合う燃料極103の間には、隙間が設けられている。
【0061】
燃料極103の組成としては、燃料極11と同様の組成が適用可能である。
燃料極103は、燃料極集電層及び燃料極活性層を有していてもよい。燃料極集電層は支持基板102上に設けられ、燃料極活性層は燃料極集電層上に、インターコネクタ107とは重ならないように設けられる。
【0062】
燃料極103は、燃料極集電層及び燃料極活性層を有していてもよい。燃料極集電層は支持基板102上に設けられ、燃料極活性層は燃料極集電層上に設けられる。燃料極集電層及び燃料極活性層の組成については、上述した通りである。
【0063】
電解質層104は、固体電解質層とも呼ばれる。図6に示すように、電解質層104は、燃料極103上に設けられる。支持基板102上において燃料極103が設けられていない領域では、電解質層104は、支持基板102上に設けられていてもよい。
【0064】
電解質層104は、支持基板102の長手方向(z軸方向)において非連続な箇所を有している。つまり、複数の電解質層104が、z軸方向において、間隔をもって配置されている。言い換えると、1個の支持基板102には、支持基板102の長手方向(z軸方向)に沿って、複数の電解質層104が設けられる。
z軸方向において隣り合う電解質層104は、インターコネクタ107によって接続される。言い換えると、電解質層104は、あるインターコネクタ107から、支持基板102の長手方向(z軸方向)においてそのインターコネクタ107と隣り合うインターコネクタ107まで、連続するように設けられる。インターコネクタ107と電解質層104とは、支持基板102及び燃料極103と比べて緻密な構造を有する。よって、インターコネクタ107と電解質層104とは、燃料電池100において、z軸方向において連続する構造を有することで、空気と燃料ガスとを切り分けるシール部として機能する。
【0065】
電解質層104の組成については、上述の電解質層15と同様の組成が適用可能である。
【0066】
バリア層13及び中間層16の構成については、縦縞型燃料電池セルにおいて説明した通りである。
【0067】
中間層16は、電解質層104上に設けられる。図6において、電解質層104が設けられていない箇所には、中間層16が設けられていない。つまり、1個の燃料極103に対応するように1個の中間層16が設けられる。
バリア層13は、中間層16と空気極106との間に設けられる。
【0068】
空気極106は、バリア層13上に、バリア層13の外縁を越えないように配置される。1個の燃料極103には、1個の空気極106が積層される。つまり、1個の支持基板102には、支持基板102の長手方向(z軸方向)に沿って、複数の空気極106が設けられる。
【0069】
空気極106の組成としては、上述の空気極14と同様の組成が適用可能である。
【0070】
インターコネクタ107は、上述したように、セル110間を電気的に接続するように配置されればよい。図6において、インターコネクタ107は、燃料極103上に積層される。インターコネクタ107は燃料極103上に直接設けられていてもよい。
【0071】
本明細書において、「積層」とは、2つの要素が接するように配置されている場合、及び接しないがy軸方向に重なるように配置されている場合を包含する。
【0072】
図6において、上述して用に、インターコネクタ107は、電解質層104間を、支持基板102の長手方向(z軸方向)において繋ぐように配置される。これによって、支持基板102の長手方向(z軸方向)において隣り合うセル110同士が、電気的に接続される。
【0073】
インターコネクタ107は、支持基板102及び燃料極103と比較すると緻密な層である。インターコネクタ107は、ペロブスカイト型複合酸化物を主成分として含有する。特に、ペロブスカイト型複合酸化物として、クロマイト系材料が挙げられる。
【0074】
集電部108は、インターコネクタ107とセル110とを電気的に接続するように配置される。具体的には、集電部108は、空気極106から、その空気極106を備えるセル110と隣り合うセル110に含まれるインターコネクタ107まで、連続するように設けられる。集電部108は、導電性を有すればよく、例えばインターコネクタ107と同様の材料で構成されていてもよい。
【0075】
燃料極103とインターコネクタ107との間に、燃料極103を構成する元素のうち少なくとも1種類の元素と、インターコネクタ107を構成する元素のうちの少なくとも1種類の元素と、を含有する層が配置されていてもよい。
【0076】
セル110に含まれる空気極106は、集電部108及びインターコネクタ107によって、隣り合うセル110の燃料極103と電気的に接続される。つまり、インターコネクタ107だけでなく、集電部108もセル110間の接続に寄与しているが、このような形態も、「インターコネクタがセル間を電気的に接続する」形態に包含される。
【0077】
燃料電池100の各部の寸法は、具体的には、以下のように設定可能である。
支持基板102の幅W1 :1〜10cm
支持基板102の厚みW2:1〜10mm
支持基板102の長さW3:5〜50cm
支持基板102の外面(支持基板102と燃料極との界面)から流路123までの距離W4:0.1〜4mm
燃料極103の厚み :50〜500μm
(燃料極103が、燃料極集電層及び燃料極活性層を有する場合:
燃料極集電層の厚み:50〜500μm
燃料極活性層の厚み:5〜30μm)
電解質層104の厚み :3〜50μm
空気極106の厚み :10〜100μm
インターコネクタ107の厚み:10〜100μm
集電部108の厚み :50〜500μm
特に言及しなかった構成要素については、縦縞型燃料電池セルについて説明した寸法を採用してもよい。言うまでもなく、本発明はこれらの数値に限定されない。
また、図4を参照する等して説明した種々の形態に係る燃料電池セルは、それぞれ横縞型の燃料電池に適用可能である。
【0078】
3.製造方法
以下に述べる製造方法は、セル1の製造方法の一例に過ぎない。すなわち、以下に述べる材料、圧力、温度、時間、及び使用機器等の各種条件は、変更可能である。
燃料極11は、複数のセラミックグリーンシートを積層し、熱圧着することで形成可能である。燃料極11を構成するセラミックグリーンシートは、例えば、酸化ニッケル(NiO)、ジルコニア系材料(例えば8YSZ)、造孔剤(例えばPMMA(ポリメタクリル酸メチル樹脂))からなる。
【0079】
セル1の製造方法は、中間層16を形成する工程を含む。つまり、セル1の製造方法は、セリウムとジルコニウムとを含み、かつ気孔を有する層を形成する工程を含む。この工程は、ジルコニア系材料を主成分として含む層(ジルコニア系材料層)とセリア系材料を主成分として含む層(セリア系材料層)とを積層する工程と、積層された層を共焼成する工程と、により実現可能である。共焼成によって、セリア系材料層とジルコニア系材料層との接触面において、セリアとジルコニアとを固溶させることができる。また、共焼成によって、気孔を有する中間層16を形成することができる。
【0080】
なお、中間層16の形成方法はこの方法に限定されるものではなく、例えばセリウム及びジルコニウムの濃度が調整された材料を積層することによっても形成可能である。
【0081】
バリア層13を形成する工程は、セリア系材料層を形成する工程を含む。電解質層15を形成する工程は、ジルコニア系材料層を形成する工程を含む。それぞれの層は、セリア系材料及びジルコニア以外の添加剤を含んでいてもよい。
【0082】
セリア系材料層を形成する工程は、セリア系材料を含むセラミックグリーンシートを他の層(例えばジルコニア系材料層、又は中間層となる材料層)に積層することを含んでいてもよい。ジルコニア系材料層を形成する工程は、ジルコニア系材料を含むセラミックグリーンシートを他の層(例えば燃料極11)に積層することを含んでいてもよい。積層された材料層は、熱圧着、CIP(Cold Isostatic Press)等の手法によって、他の層に圧着される。
【0083】
なお、セリア系材料層及びジルコニア系材料層は、セラミックグリーンシートを積層する以外に、バリア層13及び電解質層15のいずれか一方又は両方を、スラリーディップ法、筆塗り法、スタンプ法、及び/又は印刷法等の他の方法によって形成されてもよい。
【0084】
具体的な製造方法の流れについて説明する。
燃料極11となる材料層の上に、ジルコニア系材料層、セリア系材料層を順番に積層することで、積層体を得ることができる。この積層体を脱脂及び焼成することで、焼成体を得ることができる。焼成によって、ジルコニア系材料層は電解質層15となり、セリア系材料層はバリア層13となり、ジルコニア系材料層とセリア系材料層との間には、中間層16が形成される。
【0085】
次いで、焼成体上に空気極14を形成する。空気極14は、印刷法等で空気極材料を焼成体上に付与した後、焼成することで形成される。以上の工程により、セル1が完成する。
【実施例】
【0086】
A.セル試料の作製
酸化ニッケル(NiO)、ジルコニア系材料(8YSZ)、及び造孔剤(PMMA)からなるセラミックグリーンシート(厚み100μm)を、300μmとなるように積層し、熱圧着(60℃、3MPa)にて一体化した。
【0087】
こうして得られた成形体に、別途作製された3YSZからなるセラミックグリーンシートと、GDCからなるセラミックグリーンシートとを順次積層し、熱圧着した。こうして、燃料極、ジルコニア系材料層、セリア系材料層がこの順に積層された積層体を得た。
得られた積層体を、1300〜1500℃で1〜20時間、共焼成した。
【0088】
その後、セリア系材料層(バリア層)上に、空気極としてLSCF膜(30μm)を付与して、1000〜1150℃で2時間、焼成した。
以上の操作により、セル試料を作製した。
【0089】
B.断面の観察
上記工程Aで得られた試料を、層の厚み方向に垂直に切断した。得られた断面の画像を、SEM−EDS(Scanning Electron Microscopy-Energy Dispersive x-ray Spectroscopy)によって観察した。
【0090】
具体的には、走査型電子顕微鏡によって、1つの断面中で位置の異なる20個の視野における画像を得た。画像ソフトを用いて、得られた画像における(顕微鏡視野における)気孔を特定し、その位置及び大きさを決定した。図2に、断面の一例を示す。
【0091】
さらに、これら20個の断面について元素マッピングを行った。元素マッピングは、FE‐EPMA(電界放射型電子プローブマイクロアナライザ)により実行された。使用した装置名は、日本電子株式会社製の電界放射型分析電子顕微鏡(JXA−8500F)であった。
【0092】
得られたシグナル強度に基づいて、セリウム濃度とジルコニウム濃度が一致する位置を、第1面16aの位置として特定した。さらに、バリア層におけるセリウム濃度の最大値の85%を示す位置を、第2面16bの位置として特定した。
【0093】
シグナル強度に基づいて、さらにGdおよびYの各原子の濃度も算出した。
さらに、原子の濃度から、CeO2、Gd2O3、ZrO2、Y2O3の濃度を算出した。こうして、ライン毎の濃度、つまり厚み方向において異なる位置の濃度(濃度分布)が算出された。濃度分布の一例として、図2に示す視野において得られた各物質の分布を、図3に示す。図3において、横軸はバリア層13の上面近傍からの距離を示す。縦軸は各位置における物質の濃度を示す。
C.熱サイクル試験
熱サイクル試験を行うことで、異種材料の積層体であるセル試料における、接合界面の信頼性を評価した。手順は以下の通りである。
上記A.と同様の手順でセル試料を作製した。ただし、空気極は形成しなかった。このセル試料を、大気雰囲気の赤外線ランプ式電気炉において、700℃まで5分の条件で昇温し、炉冷によって20分で冷却する熱サイクル試験(連続100回)を行った。
試験終了後、セル試料における膜剥離の発生の有無を、目視及び顕微鏡観察により評価した。
【0094】
D.結果
図2に示すように、断面において、燃料極11、バリア層13、電解質層15、バリア層13と電解質層15との間に配置された中間層16が観察された。
【0095】
また、中間層16には複数の気孔(図2中に矢印で指し示す)が含まれた。気孔16cの長径は、0.05μm〜1μmであり、その平均値は0.3μmであった。
また、20個の視野において中間層16に含まれる気孔の数を計測したところ、バリア‐緩衝界面17に平行な方向における10μm長さ当たりの気孔の数の平均値は、4個であった。中間層16における気孔率の平均値は、10%であった。
【0096】
バリア層13及び電解質層15には、気孔はほとんど見られなかった。バリア層13の気孔率は2%であり、電解質層15の気孔率は0.2%であった。
つまり、中間層16には気孔が見られるが、バリア層13は緻密であった。このようなバリア層13は、低い電気抵抗及び優れたバリア機能を有する。
【0097】
図3に示すように、図2の視野における中間層16の組成の範囲は、0mol%<Y2O3≦5mol%、13mol%≦ZrO2≦46mol%、7mol%≦Gd2O3≦12mol%、46mol%≦CeO2≦77mol%であった。
【0098】
図3に示すように、中間層16は、バリア層13に含まれる成分の濃度勾配、特にCeO2の濃度勾配を有した。中間層16において、CeO2の濃度は、第2面16bから第1面16aにかけて、ほぼ単純に減少した。例えば、図3において、中間層16におけるCeO2濃度は、第1面16aで最小値である46mol%を示し、第2面16bで最大値である77mol%を示す。
【0099】
また、中間層16は、電解質層15に含まれる成分の濃度勾配、特にZrO2の濃度勾配を有した。中間層16において、ZrO2の濃度は、第2面16bから第1面16aにかけて、ほぼ単純に増加した。例えば、図3において、中間層16におけるZrO2濃度は、第1面16aで最大値である46mol%を示し、第2面16bで最小値である13mol%を示す。
【0100】
20個の視野において、中間層16の厚みは1.0〜1.5μmであり、中間層16の厚みの平均値は1.2μmであった。
【0101】
また、中間層16におけるY2O3の濃度の平均値は3.5mol%であり、ZrO2の濃度の平均値は30mol%であり、Gd2O3の濃度の平均値は6.5mol%であり、CeO2の濃度の平均値は60mol%であった。
【0102】
また、これらの20個の視野において、中間層16における各成分の濃度の上限及び下限の各平均値を算出したところ、0mol%<Y2O3≦5mol%、10mol%≦ZrO2≦45mol%、5mol%≦Gd2O3≦15mol%、45mol%≦CeO2≦80mol%であった。
【0103】
一方、バリア層13におけるGd2O3濃度及びCeO2濃度の上限及び下限の平均値をそれぞれ算出したところ、9.5mol%≦Gd2O3≦10.7mol%、89mol%≦CeO2≦91mol%であった。また、電解質層15におけるY2O3濃度及びZrO2濃度の上限及び下限の平均値を算出したところ、2.2mol%≦Y2O3≦3.9mol%、96mol%≦ZrO2≦98mol%であった。
【0104】
このように、中間層16において、CeO2濃度の最大値は最小値の約2倍であり、ZrO2の最大値は最小値の約5倍であった。これに対して、バリア層13におけるCeO2濃度の最大値は、最小値の1.02倍程度であった。また、電解質層15におけるZrO2の最大値は最小値の1.02倍程度であった。すなわち、バリア層13及び電解質層15では、中間層16に比べて、厚み方向における位置による濃度の変動率が小さい。つまり、バリア層13及び電解質層15では、層全体における組成の均一性が高い。
【0105】
また、熱サイクル試験の結果、バリア層13の電解質層15からの剥離は見られなかった。すなわち、燃料電池に好適に用いられる高品質なセルが得られた。
【0106】
以上で述べた結果は、上述の製造条件により得られたセル試料のうちの1つに関するものであるが、他のセル試料についても同様の結果が得られた。
【符号の説明】
【0107】
1 燃料電池セル
10 燃料電池
11 燃料極
13 バリア層
14 空気極
15 電解質層
16 中間層
4 集電部材
41 導電接続部
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池セルに関し、より具体的には、固体酸化物形燃料電池セルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題及びエネルギー資源の有効利用の観点から、燃料電池に注目が集まっている。燃料電池は、燃料電池セル及びインターコネクタ等を備える。特許文献1には、固体電解質層と、固体電解質層を介して対向するように設けられた燃料極層と空気極層とを含む燃料電池セルが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007‐141492号公報
【特許文献2】特開平9−304321号公報
【特許文献3】特開2005‐22966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
異なる組成の層を2つ以上備える燃料電池セルは、製造時及び/又は使用時において加熱されることで、それらの層の熱膨張率及び/又は焼成収縮量等が違うことが原因で、不具合を生じることがある。不具合とは、具体的には、熱応力による歪による、一方の層の他方の層からの剥離及び一方の層におけるクラックの発生を含む。
【0005】
本発明は、この問題点に鑑みてなされたものであり、燃料電池セルにおける不具合の発生を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1観点に係る燃料電池セルは、燃料極と;空気極と;ジルコニウムを含み、前記燃料層と前記空気極との間に設けられた固体電解質層と;セリウムを含み、前記固体電解質層と前記空気極との間に設けられたバリア層と;ジルコニウム及びセリウムを含み、前記バリア層と対向する第1面、及び前記固体電解質層と対向する第2面を備え、気孔(空孔)を含み、かつ前記バリア層よりも高い気孔率を示す中間層と;を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明の燃料電池セルでは、中間層が気孔を含むので、バリア層と固体電解質層との間の応力が低減される。その結果、バリア層と固体電解質層との間の剥離が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】燃料電池の要部構成を示す断面図である。
【図2】実施例におけるセル試料の断面を示すSEM画像である。
【図3】図2の視野における各成分の濃度分布を示すグラフである。
【図4】第2のバリア層を有する燃料電池セルの断面図である。
【図5】横縞型燃料電池セルの外観を示す斜視図である。
【図6】図5の横縞型燃料電池セルのI−I矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
燃料電池の一例として、固体酸化物型燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell:SOFC)を挙げる。特に以下では、主に、複数の燃料電池セルが積層されたセルスタック構造を有するSOFCについて説明する。
【0010】
1.縦縞型燃料電池
1−1.燃料電池の概要
図1に示すように、燃料電池10は、燃料電池セル(単に「セル」と称される)1と、集電部材4とを備える。燃料電池10は縦縞型燃料電池であるが、本発明は後述するように横縞型等の他の形態にも適用可能である。燃料電池10においては、複数のセル1が、集電部材4を介してy軸方向に重ねられる。つまり、燃料電池10は、スタックされた複数のセル1を備える。
【0011】
1−2.セル1の概要
セル1はセラミックスの薄板である。セル1の厚みは、例えば30μm〜300μmであり、セル1の直径は、例えば5mm〜50mmである。セル1は、図1に示すように、燃料極11、バリア層13、空気極14、電解質層15、及び中間層16を備える。
【0012】
1−3.燃料極
燃料極11の材料としては、例えば、公知の燃料電池セルにおいて燃料極の形成に用いられる材料が用いられる。燃料極11の材料として、より具体的には、NiO‐YSZ(酸化ニッケル‐イットリア安定化ジルコニア)及び/又はNiO‐Y2O3(酸化ニッケル‐イットリア)が挙げられる。燃料極11は、これらの材料を主成分として含むことができる。燃料極11は、アノードとして機能する。また、燃料極11は、セル1に含まれる他の層を支持する基板(支持体と言い換えてもよい)として機能してもよい。つまり、燃料極11の厚みは、セル1に含まれる複数の層の中で、最も大きな厚みを有していてもよい。燃料極11の厚みは、具体的には10μm〜300μm程度である。なお、燃料極11は、還元処理(例えばNiOをNiに還元する処理)を受けることで、導電性を獲得することができる。
【0013】
なお、「組成物Aが物質Bを主成分として含む」とは、好ましくは、組成物Aにおける物質Bの含量が60重量%以上であることを意味し、より好ましくは、組成物Aにおける物質Bの含量が70重量%以上であることを意味する。
【0014】
また、燃料極11は、2つ以上の層を有してもよい。例えば、燃料極11は、2つの層、すなわち、基板とその上に形成された燃料極活性層(燃料側電極)とを有してもよい。基板及び燃料極活性層の材料は、上述した燃料極11の材料から選択可能である。より具体的には、NiO‐Y2O3で構成された基板と、NiO‐YSZで構成された燃料極活性層とが組み合わせられてもよい。
【0015】
1−4.バリア層
バリア層13は、空気極14と燃料極11との間に設けられ、より具体的には、空気極14と電解質層15との間に設けられる。
【0016】
バリア層13は、セリウムを含む。バリア層は、セリウムをセリア(酸化セリウム)として含んでもよい。具体的には、バリア層13の材料として、セリア及びセリアに固溶した希土類金属酸化物を含むセリア系材料が挙げられる。バリア層13は、セリア系材料を主成分として含むことができる。セリア系材料として、具体的には、GDC((Ce, Gd)O2:ガドリニウムドープセリア)、SDC((Ce, Sm)O2:サマリウムドープセリア)等が挙げられる。例えば希土類金属酸化物:セリアのmol組成比は、5:95〜20:80であってもよい。バリア層13は、セリア系材料の他に、添加剤を含んでいてもよい。
【0017】
バリア層13の厚みは、例えば40μm以下であってもよく、30μm以下であってもよく、20μm以下であってもよい。
【0018】
バリア層13は、空気極14から電解質層15へのカチオンの拡散を抑制することで、高抵抗層の形成を抑制することができる。その結果、バリア層13は、出力密度の低下を抑制し、セル1の寿命を長期化することができる。
【0019】
バリア層13は気孔を含み、バリア層13の気孔率は、中間層16における気孔率よりも低いことが好ましい。具体的には、バリア層13の気孔率は、10%以下であることが好ましい。バリア層13が緻密であることで、バリア層13がカチオン拡散を抑制する効果は高くなる。また、バリア層13が緻密であることで、セル1の電気抵抗値は低く抑えられる。バリア層13の気孔率は、後述の中間層16の気孔率と同様に算出される。
【0020】
1−5.空気極
空気極14の材料としては、例えば、公知の燃料電池セルの空気極の材料が用いられる。空気極14の材料として、より具体的には、LSCF(ランタンストロンチウムコバルトフェライト:(LaSr)(CoFe)O3)が挙げられる。LSCFの組成としては、例えばLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3が挙げられる。空気極14は、このような材料を主成分として含むことができる。空気極14の厚みは、5μm〜50μm程度であってもよい。
【0021】
1−6.電解質層
電解質層15は、固体電解質層の一例であって、バリア層13と燃料極11との間に設けられる。
【0022】
電解質層15はジルコニウムを含む。電解質層15は、ジルコニウムをジルコニア(ZrO2)として含んでもよい。具体的には、電解質層15は、ジルコニアを主成分として含むことができる。また、電解質層15は、ジルコニアの他に、Y2O3及び/又はSc2O3等の添加剤を含むことができる。これらの添加剤は、安定剤として機能することができる。電解質層15において、安定化剤:ジルコニアとのmol組成比は、3:97〜20:80であってもよい。すなわち、電解質層15の材料として、3YSZ、8YSZ及び10YSZ等のイットリア安定化ジルコニア;並びにScSZ(スカンジア安定化ジルコニア);等のジルコニア系材料が挙げられる。
【0023】
電解質層15の厚みは、30μm以下であってもよい。
電解質層15の気孔率は、中間層16の気孔率よりも低いことが好ましく、バリア層13の気孔率より低いことが好ましい。具体的には、電解質層15の気孔率は、7%以下であってもよく、5%以下であってもよく、3%以下であってもよい。電解質層15の気孔率は、後述の中間層16の気孔率と同様に算出される。
【0024】
1−7.中間層
中間層16は、バリア層13と電解質層15との間に配置される。具体的には、中間層16は、第1面16a及び第2面16bを有し、第1面16aが電解質層15と接触し、第2面16bがバリア層13と接触する。中間層16は、バリア層13よりも高い気孔率を示す。
バリア層13、電解質層15及び中間層16は、共焼成されていてもよい。
【0025】
<気孔>
中間層16は、複数の気孔16cを有する。気孔16cの形状は特に限定されないが、気孔16cの断面は略楕円(円を含む)であってもよい。気孔16cの長径Rは好ましくはR≦1μmを満たし、長径Rは好ましくは0.05μm≦Rを満たす。
【0026】
また、中間層16の気孔率Pは好ましくはP≦15%を満たし、気孔率Pは好ましくは1%≦Pを満たす。気孔率は、空間率と言い換えられてもよい。気孔率Pは、中間層16の総体積V1に対する空隙(気孔16cを含む)の体積V2の比(V2/V1)で表されるが、断面における第1のバリア層の単位面積当たりの気孔13cの面積として表されてもよい。
【0027】
気孔率Pは、例えば、
‐中間層16の厚み方向における断面の電子顕微鏡(SEM)画像を取得すること、
‐この画像(視野)において気孔16cを特定すること、
‐この画像における中間層16の面積を取得すること、
‐この画像における気孔16cの面積の総和を取得すること、及び
‐この画像における[気孔16cの面積の総和/中間層16の総面積]を算出すること、
によって求められる。
なお、具体的には、断面画像の取得にはSEM及びFE−SEM等を用いることができ、その後の気孔の面積の数値化等には画像解析ソフト等を用いることができる。
1つの視野において算出された気孔率を中間層全体の気孔率とみなしてもよいし、複数の視野において同様の手順で気孔率を算出し、その平均値を中間層全体の気孔率とみなしてもよい。
【0028】
また、中間層16において、中間層16の厚み方向に平行な断面中、層間の界面方向に平行な方向において、10μm長さ当たりの気孔の数が5個以下であることが好ましい。
【0029】
バリア層13の組成と電解質層15の組成とは異なるので、バリア層13の熱膨張率及び焼成収縮量と、電解質層15の熱膨張率及び焼成収縮量とは異なる。セル1の製造において、バリア層13と電解質層15とが積層された状態で焼成されることにより、完成したセル1において、バリア層13及び電解質層15の内部には歪が含まれている。セル1は、動作時には高温にさらされ、非動作時には常温に戻る。バリア層13及び電解質層15が、歪を含んだ状態で、常温状態と高温状態との間を繰り返し移行すると、歪によってバリア層13と電解質層15との界面に剥離が生じることがある。中間層16は、気孔16cを有することで、この歪を緩和し、剥離を抑制することができる。
【0030】
また、中間層16に含まれる気孔16cの少なくとも一部は、閉気孔(closed pore)であってもよい。また、中間層16に含まれる気孔16cの全てが閉気孔であってもよい。閉気孔は、その全体がセル1内、つまり中間層16内に存在しており、閉気孔の内部はセル1の外気から遮断されている。閉気孔が中間層16内に存在することで、中間層16は、歪を緩和する高い効果、つまり熱応力緩和の高い効果を示すことができる。また、閉気孔が存在することで、たとえ中間層16に亀裂(クラック)が発生したとしても、その伸長が抑制される。
【0031】
<組成>
中間層16は、ジルコニウムとセリウムとを含む。ジルコニウムはジルコニアとして、セリウムはセリアとして、中間層16に含まれていてもよい。中間層16においてセリウム(又はセリア)とジルコニウム(又はジルコニア)とは混合されており、中間層16は好ましくはセリアとジルコニアとの固溶体である。なお、中間層16は、セリウム及びジルコニウム以外の物質を含んでいてもよい。中間層16は例えば、バリア層13又は電解質層15に含まれる物質(添加剤等)を含んでいてもよい。電解質層15がイットリウム(Y)を含む場合、中間層16もイットリウムを含み得る。また、バリア層13がガドリニウム(Gd)を含む場合、中間層16もガドリニウムを含み得る。
【0032】
<セリウムの濃度及びジルコニウムの濃度>
中間層16において、セリウムの濃度D1及びジルコニウムの濃度D2は、下記(1)〜(8)を満たしてもよい。
(1)セリウムの濃度D1に対するジルコニウムの濃度D2の比率(D2/D1)は、好ましくは0.1≦D2/D1を満たす。
(2)D2/D1は、好ましくはD2/D1≦1を満たす。
(3)セリウムの濃度D1は、好ましくはD1≦80mol%を満たす。
(4)濃度D1は、好ましくは40mol%≦D1を満たす。
(5)ジルコニウムの濃度D2は、好ましくはD2≦50mol%を満たす。
(6)濃度D2は、好ましくは10mol%≦D2を満たす。
(7)バリア層13におけるセリウムの濃度D3に対する中間層16におけるセリウムの濃度D1の比率(D1/D3)は、D1/D3≦0.9を満たしてもよい。
(8)電解質層15におけるジルコニウムの濃度D4に対する中間層16におけるジルコニウムの濃度D2の比率(D2/D4)は、D2/D4≦0.5を満たしてもよい。
【0033】
上記(1)〜(8)の条件のうち、いずれか1つの条件が満たされてもよいし、2つ以上の条件が満たされてもよい。
また、濃度D1〜D4及び本書で論じられる各層の成分の「濃度」とは、特に断らない限り、各層全体における濃度、つまり各層における成分(例えばジルコニウム又はセリウム)の平均含有量である。
【0034】
「濃度」は、具体的には、原子濃度プロファイルによるライン分析、つまりEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)による特性X線強度の比較によって得られる。
【0035】
EPMAを用いた定量分析は当業者によく知られている。EPMAは、電子線を対象物に照射することで放射される特性X線スペクトルに基づいて、電子線が照射されている微小領域(おおよそ1μm3)における構成元素の検出及び同定と、各構成元素の比率(濃度)を分析する装置である。EPMAによる定量分析は、元素濃度の明らかな標準試料の特性X線強度と、未知試料の特性X線強度とを比較することによって実現される。
【0036】
すなわち、セル1の厚み方向(y軸方向)に略平行な断面において、EPMAを用いて、厚み方向(y方向)におけるライン分析を行うことにより、各元素の濃度分布データが取得される。
【0037】
つまり、濃度D1〜D4は、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)を用いた元素マッピングによって決定可能である。
なお、本明細書において、EPMAはEDS(Energy Dispersive x-ray Spectroscopy)を含む概念である。
【0038】
<第1面及び第2面の規定>
厚み方向(y軸方向)に略平行なセル1の断面において、第1面16aは、以下のように規定可能である。すなわち、第1面16aの位置を決定するときは、厚み方向(y軸方向)に略平行な断面において、EPMAを用いて、層厚み方向(y方向)におけるライン分析を行うことにより、各元素の濃度分布データを取得する。この濃度分布データを用いて、セリウムの濃度とジルコニウムの濃度とが一致するラインの位置を、第1面16aの位置として決定する。
つまり、第1面16aの近傍では、ジルコニウム濃度とセリウム濃度とが、略同一である。
【0039】
第2面16bの位置は、断面におけるセリウムの最大濃度の85%の濃度を示すラインの位置として特定される。
【0040】
<成分の濃度分布>
中間層16におけるセリウム濃度及びジルコニウム濃度の分布は、下記(a)〜(e)の条件を満たしていてもよい。
(a)中間層16は、セリウム濃度勾配を有することが好ましい。このセリウム濃度勾配を表すグラフにおいて、横軸が、第2面16bから中間層16中の任意の位置にある部分までの距離(この距離の最大値は、第2面16bから第1面16aまでの距離)を示し、縦軸が、その部分におけるセリウム濃度を示す場合、このグラフにおいて、セリウム濃度は、距離の増加に応じてほぼ単調に減少することが好ましい。
つまり、このようなセリウム濃度勾配が存在する場合、中間層16を第1面16aに平行な断面で複数の部分に分割した場合、中間層16の中で第2面16bに近い部分は、中間層16の中で第1面16aに近い部分よりも、高いセリウム濃度を有する傾向を示す。
(b)中間層16の一部であって第2面16b近傍に位置する部分のセリウム濃度は、バリア層13のセリウム濃度に近いことが好ましい。より具体的には、中間層16の一部であって第2面16b近傍に位置する部分のセリウム濃度は、バリア層13の一部であって第2面16bの近傍に位置する部分のセリウム濃度と略同一であることが好ましい。
(c)中間層16は、ジルコニウム濃度勾配を有することが好ましい。このジルコニウム濃度勾配を表すグラフの横軸が、上記(a)のグラフと同様に第2面16bからの距離を示し、縦軸がジルコニウム濃度を示すのであれば、このグラフにおいて、ジルコニウム濃度は、距離の増加に応じてほぼ単調に増加することが好ましい。
(d)中間層16の一部であって第1面16a近傍に位置する部分のジルコニウム濃度は、電解質層15のジルコニウム濃度に近いことが好ましい。より具体的には、中間層16の一部であって第1面16a近傍に位置する部分のジルコニウム濃度は、電解質層15の一部であって第1面16aの近傍に位置する部分のジルコニウム濃度と略同一であることが好ましい。
【0041】
以上に挙げた(a)〜(d)の条件のうち、いずれか1つの条件が満たされてもよいし、2つ以上の条件が満たされもよい。満たされる条件の数は多い方が好ましい。
【0042】
例えば、上記(a)〜(d)が満たされる場合、セル1は、バリア層13の下面から電解質層15の上面にかけて、セリウム濃度が徐々に低くなる濃度勾配と、ジルコニウム濃度が徐々に高くなる濃度勾配と、を有する。
【0043】
バリア層13から電解質層15までの領域において、バリア層13からの距離(電解質層15からの距離、と言い換えてもよい)に対して、組成が徐々に変化することによって、バリア層13と電解質層15との間の剥離が起きにくいという効果が得られる。
【0044】
上記(a)〜(d)において、セリウム濃度及びジルコニウム濃度は、EPMAを用いたライン分析によって得られた値であってもよい。
【0045】
<厚み>
中間層16の厚み、すなわち第1面16aから第2面16bまでの距離は、0.5μm以上であることが好ましく、10μm以下であることが好ましい。中間層16の厚みは、5μm以下であることがさらに好ましい。
【0046】
<熱膨張率>
中間層16の熱膨張率(つまり線膨張率)は、電解質層15の熱膨張率とバリア層13の熱膨張率との間の値である。すなわち、バリア層13の熱膨張率が電解質層15の熱膨張率よりも高い場合は、中間層16の熱膨張率は、電解質層15よりも高く、バリア層13の熱膨張率よりも低い。例えば、中間層16の熱膨張率は、電解質層15の一例であるYSZの熱膨張率より大きく、バリア層13の一例であるGDCの熱膨張率より小さくてもよい。
【0047】
1−8.セルの他の形態
燃料電池セルは、燃料極と、電解質層と、空気極とを有すればよい。つまり、以上に述べたセル1は、燃料電池セルの一例に過ぎない。よって、セル1において、さらなる構成要素の追加;並びにセル1の構成要素の形状、材料、及び寸法の変更等が可能である。例えば、セル1において、燃料極11と電解質層15との間及び/又は空気極14とバリア層13との間等に、以上に述べられた層以外の層がさらに設けられていてもよい。
【0048】
例えば、バリア層13と空気極14との間に、さらに第2のバリア層が設けられていてもよい。
【0049】
第2のバリア層を備える燃料電池セル(以下、単に「セル」と証する)18を図4に示す。図4において、図1に示されるセル1の構成要素と同様の構成要素については、同符号を付してその説明を省略する。
図4に示すように、セル18は、バリア層13を第1のバリア層として備え、バリア層13と空気極14との間に設けられた第2のバリア層19を備える。第2のバリア層19を構成する材料としては、バリア層13と同様の材料を用いることができる。また、第2のバリア層19の密度は、第1のバリア層13の密度よりも低くてもよい。言い換えると、第2のバリア層19は気孔を含み、第2のバリア層19の気孔率は、第1のバリア層13の気孔率よりも大きくてもよい。
【0050】
燃料電池セルの構成は、以下のように変更されてもよい。
(1)セルの形状は、燃料極支持型、平板形、円筒形、縦縞型、横縞型、片端保持型スタック用、両端保持型スタック用等であってもよい。また、セルの断面は楕円形状であってもよい。
(2上述したセル1、20及び110とは逆に、燃料極がセルの外側に設けられ、空気極が内側に設けられていてもよい。
(3)異なる形態として挙げた構成は、互いに組み合わせ可能である。
【0051】
1−9.集電部材
集電部材4には、導電接続部41及び図示しない集電孔が設けられる。集電部材4には、複数の導電接続部41が設けられている。
【0052】
図1に示すように、導電接続部41は、集電部材4に設けられた凹部であり、その底部分が導電性接着剤411を介して空気極14に接続されている。また、図1に示すように、集電部材4において、導電接続部41とその周囲との間には、非連続な箇所が設けられている。これによって、後述するように、空気極14に空気が供給される。
【0053】
発電時には、燃料極11に燃料ガスが供給される。空気極14への空気の供給は、セルスタック構造の側面側(例えば図1の紙面手前側)から空気を吹き付けることでなされる。
【0054】
なお、図示しないが、燃料電池10は、セルスタックで発生した電流を外部装置へ送るリード、燃料ガスを改質する触媒等を含んだガス改質部等の部材をさらに備えている。
【0055】
2.横縞型燃料電池
上述した燃料電池10は、積み重ねられた複数のセル1と、セル1間を電気的に接続する集電部材4とを備える。すなわち、燃料電池10は、縦縞型の燃料電池である。ただし、本発明は、横縞型燃料電池にも適用可能である。横縞型燃料電池について、以下に説明する。
【0056】
横縞型燃料電池(以下、単に「燃料電池」と称する)100は、支持基板102、燃料極103、電解質層104、空気極106、インターコネクタ107、集電部108、バリア層13及び中間層16を備える。また、燃料電池100はセル110を備える。既に説明した構成要素と同様の構成要素については、同符号を付してその説明を省略することがある。なお、図5では、説明の便宜上、集電部108は図示されていない。
【0057】
燃料電池100は、支持基板102上に配置された複数のセル110と、セル110間を電気的に接続するインターコネクタ107とを備える。セル110は、燃料極103と、その燃料極103に対応する空気極106と、を備える部分である。具体的には、セル110は、支持基板102の厚み方向(y軸方向)に積層された、燃料極103、電解質層104、及び空気極106を備える。
【0058】
支持基板102は、扁平かつ一方向(z軸方向)に長い形状である。支持基板102は、絶縁性を有する多孔質体である。支持基板102は、ニッケルを含んでいてもよい。支持基板102は、より具体的には、Ni‐Y2O3(ニッケル‐イットリア)を主成分として含有していてもよい。なお、ニッケルは酸化物(NiO)として含有されていてもよい。発電時には、NiOは水素ガスによってNiに還元されてもよい。
【0059】
図5及び図6に示すように、支持基板102の内部には、流路123が設けられる。流路123は、支持基板102の長手方向(z軸方向)に沿って延びている。発電時には、流路123内に燃料ガスが流され、支持基板102の有する孔を通って、後述の燃料極103へ燃料ガスが供給される。
【0060】
燃料極103は、支持基板102上に設けられる。1個の支持基板102上に、複数の燃料極103が、支持基板102の長手方向(z軸方向)において並ぶように配置される。つまり、支持基板102の長手方向(z軸方向)において、隣り合う燃料極103の間には、隙間が設けられている。
【0061】
燃料極103の組成としては、燃料極11と同様の組成が適用可能である。
燃料極103は、燃料極集電層及び燃料極活性層を有していてもよい。燃料極集電層は支持基板102上に設けられ、燃料極活性層は燃料極集電層上に、インターコネクタ107とは重ならないように設けられる。
【0062】
燃料極103は、燃料極集電層及び燃料極活性層を有していてもよい。燃料極集電層は支持基板102上に設けられ、燃料極活性層は燃料極集電層上に設けられる。燃料極集電層及び燃料極活性層の組成については、上述した通りである。
【0063】
電解質層104は、固体電解質層とも呼ばれる。図6に示すように、電解質層104は、燃料極103上に設けられる。支持基板102上において燃料極103が設けられていない領域では、電解質層104は、支持基板102上に設けられていてもよい。
【0064】
電解質層104は、支持基板102の長手方向(z軸方向)において非連続な箇所を有している。つまり、複数の電解質層104が、z軸方向において、間隔をもって配置されている。言い換えると、1個の支持基板102には、支持基板102の長手方向(z軸方向)に沿って、複数の電解質層104が設けられる。
z軸方向において隣り合う電解質層104は、インターコネクタ107によって接続される。言い換えると、電解質層104は、あるインターコネクタ107から、支持基板102の長手方向(z軸方向)においてそのインターコネクタ107と隣り合うインターコネクタ107まで、連続するように設けられる。インターコネクタ107と電解質層104とは、支持基板102及び燃料極103と比べて緻密な構造を有する。よって、インターコネクタ107と電解質層104とは、燃料電池100において、z軸方向において連続する構造を有することで、空気と燃料ガスとを切り分けるシール部として機能する。
【0065】
電解質層104の組成については、上述の電解質層15と同様の組成が適用可能である。
【0066】
バリア層13及び中間層16の構成については、縦縞型燃料電池セルにおいて説明した通りである。
【0067】
中間層16は、電解質層104上に設けられる。図6において、電解質層104が設けられていない箇所には、中間層16が設けられていない。つまり、1個の燃料極103に対応するように1個の中間層16が設けられる。
バリア層13は、中間層16と空気極106との間に設けられる。
【0068】
空気極106は、バリア層13上に、バリア層13の外縁を越えないように配置される。1個の燃料極103には、1個の空気極106が積層される。つまり、1個の支持基板102には、支持基板102の長手方向(z軸方向)に沿って、複数の空気極106が設けられる。
【0069】
空気極106の組成としては、上述の空気極14と同様の組成が適用可能である。
【0070】
インターコネクタ107は、上述したように、セル110間を電気的に接続するように配置されればよい。図6において、インターコネクタ107は、燃料極103上に積層される。インターコネクタ107は燃料極103上に直接設けられていてもよい。
【0071】
本明細書において、「積層」とは、2つの要素が接するように配置されている場合、及び接しないがy軸方向に重なるように配置されている場合を包含する。
【0072】
図6において、上述して用に、インターコネクタ107は、電解質層104間を、支持基板102の長手方向(z軸方向)において繋ぐように配置される。これによって、支持基板102の長手方向(z軸方向)において隣り合うセル110同士が、電気的に接続される。
【0073】
インターコネクタ107は、支持基板102及び燃料極103と比較すると緻密な層である。インターコネクタ107は、ペロブスカイト型複合酸化物を主成分として含有する。特に、ペロブスカイト型複合酸化物として、クロマイト系材料が挙げられる。
【0074】
集電部108は、インターコネクタ107とセル110とを電気的に接続するように配置される。具体的には、集電部108は、空気極106から、その空気極106を備えるセル110と隣り合うセル110に含まれるインターコネクタ107まで、連続するように設けられる。集電部108は、導電性を有すればよく、例えばインターコネクタ107と同様の材料で構成されていてもよい。
【0075】
燃料極103とインターコネクタ107との間に、燃料極103を構成する元素のうち少なくとも1種類の元素と、インターコネクタ107を構成する元素のうちの少なくとも1種類の元素と、を含有する層が配置されていてもよい。
【0076】
セル110に含まれる空気極106は、集電部108及びインターコネクタ107によって、隣り合うセル110の燃料極103と電気的に接続される。つまり、インターコネクタ107だけでなく、集電部108もセル110間の接続に寄与しているが、このような形態も、「インターコネクタがセル間を電気的に接続する」形態に包含される。
【0077】
燃料電池100の各部の寸法は、具体的には、以下のように設定可能である。
支持基板102の幅W1 :1〜10cm
支持基板102の厚みW2:1〜10mm
支持基板102の長さW3:5〜50cm
支持基板102の外面(支持基板102と燃料極との界面)から流路123までの距離W4:0.1〜4mm
燃料極103の厚み :50〜500μm
(燃料極103が、燃料極集電層及び燃料極活性層を有する場合:
燃料極集電層の厚み:50〜500μm
燃料極活性層の厚み:5〜30μm)
電解質層104の厚み :3〜50μm
空気極106の厚み :10〜100μm
インターコネクタ107の厚み:10〜100μm
集電部108の厚み :50〜500μm
特に言及しなかった構成要素については、縦縞型燃料電池セルについて説明した寸法を採用してもよい。言うまでもなく、本発明はこれらの数値に限定されない。
また、図4を参照する等して説明した種々の形態に係る燃料電池セルは、それぞれ横縞型の燃料電池に適用可能である。
【0078】
3.製造方法
以下に述べる製造方法は、セル1の製造方法の一例に過ぎない。すなわち、以下に述べる材料、圧力、温度、時間、及び使用機器等の各種条件は、変更可能である。
燃料極11は、複数のセラミックグリーンシートを積層し、熱圧着することで形成可能である。燃料極11を構成するセラミックグリーンシートは、例えば、酸化ニッケル(NiO)、ジルコニア系材料(例えば8YSZ)、造孔剤(例えばPMMA(ポリメタクリル酸メチル樹脂))からなる。
【0079】
セル1の製造方法は、中間層16を形成する工程を含む。つまり、セル1の製造方法は、セリウムとジルコニウムとを含み、かつ気孔を有する層を形成する工程を含む。この工程は、ジルコニア系材料を主成分として含む層(ジルコニア系材料層)とセリア系材料を主成分として含む層(セリア系材料層)とを積層する工程と、積層された層を共焼成する工程と、により実現可能である。共焼成によって、セリア系材料層とジルコニア系材料層との接触面において、セリアとジルコニアとを固溶させることができる。また、共焼成によって、気孔を有する中間層16を形成することができる。
【0080】
なお、中間層16の形成方法はこの方法に限定されるものではなく、例えばセリウム及びジルコニウムの濃度が調整された材料を積層することによっても形成可能である。
【0081】
バリア層13を形成する工程は、セリア系材料層を形成する工程を含む。電解質層15を形成する工程は、ジルコニア系材料層を形成する工程を含む。それぞれの層は、セリア系材料及びジルコニア以外の添加剤を含んでいてもよい。
【0082】
セリア系材料層を形成する工程は、セリア系材料を含むセラミックグリーンシートを他の層(例えばジルコニア系材料層、又は中間層となる材料層)に積層することを含んでいてもよい。ジルコニア系材料層を形成する工程は、ジルコニア系材料を含むセラミックグリーンシートを他の層(例えば燃料極11)に積層することを含んでいてもよい。積層された材料層は、熱圧着、CIP(Cold Isostatic Press)等の手法によって、他の層に圧着される。
【0083】
なお、セリア系材料層及びジルコニア系材料層は、セラミックグリーンシートを積層する以外に、バリア層13及び電解質層15のいずれか一方又は両方を、スラリーディップ法、筆塗り法、スタンプ法、及び/又は印刷法等の他の方法によって形成されてもよい。
【0084】
具体的な製造方法の流れについて説明する。
燃料極11となる材料層の上に、ジルコニア系材料層、セリア系材料層を順番に積層することで、積層体を得ることができる。この積層体を脱脂及び焼成することで、焼成体を得ることができる。焼成によって、ジルコニア系材料層は電解質層15となり、セリア系材料層はバリア層13となり、ジルコニア系材料層とセリア系材料層との間には、中間層16が形成される。
【0085】
次いで、焼成体上に空気極14を形成する。空気極14は、印刷法等で空気極材料を焼成体上に付与した後、焼成することで形成される。以上の工程により、セル1が完成する。
【実施例】
【0086】
A.セル試料の作製
酸化ニッケル(NiO)、ジルコニア系材料(8YSZ)、及び造孔剤(PMMA)からなるセラミックグリーンシート(厚み100μm)を、300μmとなるように積層し、熱圧着(60℃、3MPa)にて一体化した。
【0087】
こうして得られた成形体に、別途作製された3YSZからなるセラミックグリーンシートと、GDCからなるセラミックグリーンシートとを順次積層し、熱圧着した。こうして、燃料極、ジルコニア系材料層、セリア系材料層がこの順に積層された積層体を得た。
得られた積層体を、1300〜1500℃で1〜20時間、共焼成した。
【0088】
その後、セリア系材料層(バリア層)上に、空気極としてLSCF膜(30μm)を付与して、1000〜1150℃で2時間、焼成した。
以上の操作により、セル試料を作製した。
【0089】
B.断面の観察
上記工程Aで得られた試料を、層の厚み方向に垂直に切断した。得られた断面の画像を、SEM−EDS(Scanning Electron Microscopy-Energy Dispersive x-ray Spectroscopy)によって観察した。
【0090】
具体的には、走査型電子顕微鏡によって、1つの断面中で位置の異なる20個の視野における画像を得た。画像ソフトを用いて、得られた画像における(顕微鏡視野における)気孔を特定し、その位置及び大きさを決定した。図2に、断面の一例を示す。
【0091】
さらに、これら20個の断面について元素マッピングを行った。元素マッピングは、FE‐EPMA(電界放射型電子プローブマイクロアナライザ)により実行された。使用した装置名は、日本電子株式会社製の電界放射型分析電子顕微鏡(JXA−8500F)であった。
【0092】
得られたシグナル強度に基づいて、セリウム濃度とジルコニウム濃度が一致する位置を、第1面16aの位置として特定した。さらに、バリア層におけるセリウム濃度の最大値の85%を示す位置を、第2面16bの位置として特定した。
【0093】
シグナル強度に基づいて、さらにGdおよびYの各原子の濃度も算出した。
さらに、原子の濃度から、CeO2、Gd2O3、ZrO2、Y2O3の濃度を算出した。こうして、ライン毎の濃度、つまり厚み方向において異なる位置の濃度(濃度分布)が算出された。濃度分布の一例として、図2に示す視野において得られた各物質の分布を、図3に示す。図3において、横軸はバリア層13の上面近傍からの距離を示す。縦軸は各位置における物質の濃度を示す。
C.熱サイクル試験
熱サイクル試験を行うことで、異種材料の積層体であるセル試料における、接合界面の信頼性を評価した。手順は以下の通りである。
上記A.と同様の手順でセル試料を作製した。ただし、空気極は形成しなかった。このセル試料を、大気雰囲気の赤外線ランプ式電気炉において、700℃まで5分の条件で昇温し、炉冷によって20分で冷却する熱サイクル試験(連続100回)を行った。
試験終了後、セル試料における膜剥離の発生の有無を、目視及び顕微鏡観察により評価した。
【0094】
D.結果
図2に示すように、断面において、燃料極11、バリア層13、電解質層15、バリア層13と電解質層15との間に配置された中間層16が観察された。
【0095】
また、中間層16には複数の気孔(図2中に矢印で指し示す)が含まれた。気孔16cの長径は、0.05μm〜1μmであり、その平均値は0.3μmであった。
また、20個の視野において中間層16に含まれる気孔の数を計測したところ、バリア‐緩衝界面17に平行な方向における10μm長さ当たりの気孔の数の平均値は、4個であった。中間層16における気孔率の平均値は、10%であった。
【0096】
バリア層13及び電解質層15には、気孔はほとんど見られなかった。バリア層13の気孔率は2%であり、電解質層15の気孔率は0.2%であった。
つまり、中間層16には気孔が見られるが、バリア層13は緻密であった。このようなバリア層13は、低い電気抵抗及び優れたバリア機能を有する。
【0097】
図3に示すように、図2の視野における中間層16の組成の範囲は、0mol%<Y2O3≦5mol%、13mol%≦ZrO2≦46mol%、7mol%≦Gd2O3≦12mol%、46mol%≦CeO2≦77mol%であった。
【0098】
図3に示すように、中間層16は、バリア層13に含まれる成分の濃度勾配、特にCeO2の濃度勾配を有した。中間層16において、CeO2の濃度は、第2面16bから第1面16aにかけて、ほぼ単純に減少した。例えば、図3において、中間層16におけるCeO2濃度は、第1面16aで最小値である46mol%を示し、第2面16bで最大値である77mol%を示す。
【0099】
また、中間層16は、電解質層15に含まれる成分の濃度勾配、特にZrO2の濃度勾配を有した。中間層16において、ZrO2の濃度は、第2面16bから第1面16aにかけて、ほぼ単純に増加した。例えば、図3において、中間層16におけるZrO2濃度は、第1面16aで最大値である46mol%を示し、第2面16bで最小値である13mol%を示す。
【0100】
20個の視野において、中間層16の厚みは1.0〜1.5μmであり、中間層16の厚みの平均値は1.2μmであった。
【0101】
また、中間層16におけるY2O3の濃度の平均値は3.5mol%であり、ZrO2の濃度の平均値は30mol%であり、Gd2O3の濃度の平均値は6.5mol%であり、CeO2の濃度の平均値は60mol%であった。
【0102】
また、これらの20個の視野において、中間層16における各成分の濃度の上限及び下限の各平均値を算出したところ、0mol%<Y2O3≦5mol%、10mol%≦ZrO2≦45mol%、5mol%≦Gd2O3≦15mol%、45mol%≦CeO2≦80mol%であった。
【0103】
一方、バリア層13におけるGd2O3濃度及びCeO2濃度の上限及び下限の平均値をそれぞれ算出したところ、9.5mol%≦Gd2O3≦10.7mol%、89mol%≦CeO2≦91mol%であった。また、電解質層15におけるY2O3濃度及びZrO2濃度の上限及び下限の平均値を算出したところ、2.2mol%≦Y2O3≦3.9mol%、96mol%≦ZrO2≦98mol%であった。
【0104】
このように、中間層16において、CeO2濃度の最大値は最小値の約2倍であり、ZrO2の最大値は最小値の約5倍であった。これに対して、バリア層13におけるCeO2濃度の最大値は、最小値の1.02倍程度であった。また、電解質層15におけるZrO2の最大値は最小値の1.02倍程度であった。すなわち、バリア層13及び電解質層15では、中間層16に比べて、厚み方向における位置による濃度の変動率が小さい。つまり、バリア層13及び電解質層15では、層全体における組成の均一性が高い。
【0105】
また、熱サイクル試験の結果、バリア層13の電解質層15からの剥離は見られなかった。すなわち、燃料電池に好適に用いられる高品質なセルが得られた。
【0106】
以上で述べた結果は、上述の製造条件により得られたセル試料のうちの1つに関するものであるが、他のセル試料についても同様の結果が得られた。
【符号の説明】
【0107】
1 燃料電池セル
10 燃料電池
11 燃料極
13 バリア層
14 空気極
15 電解質層
16 中間層
4 集電部材
41 導電接続部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料極と、
空気極と、
ジルコニウムを含み、前記燃料層と前記空気極との間に設けられた固体電解質層と、
セリウムを含み、前記固体電解質層と前記空気極との間に設けられたバリア層と、
ジルコニウム及びセリウムを含み、前記バリア層と対向する第1面、及び前記固体電解質層と対向する第2面を備え、気孔を含み、かつ前記バリア層よりも高い気孔率を示す中間層と、
を備える燃料電池セル。
【請求項2】
前記中間層のセリウム濃度は、前記バリア層におけるセリウム濃度の90%以下である
請求項1に記載の燃料電池セル。
【請求項3】
前記中間層は、前記第2面近傍において最大のセリウム濃度を有し、前記第1面近傍において最小のセリウム濃度を有する
請求項1又は2に記載の燃料電池セル。
【請求項4】
前記固体電解質層におけるジルコニウム濃度に対する前記中間層のジルコニウム濃度の比率が、0.5以下である
請求項1〜3のいずれかに記載の燃料電池セル。
【請求項5】
前記中間層の気孔率は1%以上で15%以下である
請求項1〜4のいずれかに記載の燃料電池セル。
【請求項6】
前記第1面から第2面までの距離は、0.5μm以上である
請求項1〜5のいずれかに記載の燃料電池セル。
【請求項7】
前記第1面から第2面までの距離は、10μm以下である
請求項1〜5のいずれかに記載の燃料電池セル。
【請求項8】
前記バリア層の気孔率は10%以下である
請求項1〜7のいずれかに記載の燃料電池セル。
【請求項9】
前記中間層中において、気孔の長径は1μm以下である
請求項1〜8のいずれかに記載の燃料電池セル。
【請求項10】
前記中間層において、その厚み方向に垂直な方向における10μm長さ当たりの気孔の数は、5個以下である
請求項1〜9のいずれかに記載の燃料電池セル。
【請求項11】
前記中間層は閉気孔を含む、
請求項1〜10のいずれかに記載の燃料電池セル。
【請求項12】
前記中間層は、前記固体電解質層の熱膨張率と前記バリア層の熱膨張率との間に位置する熱膨張率を示す、
請求項1〜11のいずれかに記載の燃料電池セル。
【請求項13】
前記固体電解質層、前記中間層及び前記バリア層は、共焼成されている、
請求項1〜12のいずれかに記載の燃料電池セル。
【請求項1】
燃料極と、
空気極と、
ジルコニウムを含み、前記燃料層と前記空気極との間に設けられた固体電解質層と、
セリウムを含み、前記固体電解質層と前記空気極との間に設けられたバリア層と、
ジルコニウム及びセリウムを含み、前記バリア層と対向する第1面、及び前記固体電解質層と対向する第2面を備え、気孔を含み、かつ前記バリア層よりも高い気孔率を示す中間層と、
を備える燃料電池セル。
【請求項2】
前記中間層のセリウム濃度は、前記バリア層におけるセリウム濃度の90%以下である
請求項1に記載の燃料電池セル。
【請求項3】
前記中間層は、前記第2面近傍において最大のセリウム濃度を有し、前記第1面近傍において最小のセリウム濃度を有する
請求項1又は2に記載の燃料電池セル。
【請求項4】
前記固体電解質層におけるジルコニウム濃度に対する前記中間層のジルコニウム濃度の比率が、0.5以下である
請求項1〜3のいずれかに記載の燃料電池セル。
【請求項5】
前記中間層の気孔率は1%以上で15%以下である
請求項1〜4のいずれかに記載の燃料電池セル。
【請求項6】
前記第1面から第2面までの距離は、0.5μm以上である
請求項1〜5のいずれかに記載の燃料電池セル。
【請求項7】
前記第1面から第2面までの距離は、10μm以下である
請求項1〜5のいずれかに記載の燃料電池セル。
【請求項8】
前記バリア層の気孔率は10%以下である
請求項1〜7のいずれかに記載の燃料電池セル。
【請求項9】
前記中間層中において、気孔の長径は1μm以下である
請求項1〜8のいずれかに記載の燃料電池セル。
【請求項10】
前記中間層において、その厚み方向に垂直な方向における10μm長さ当たりの気孔の数は、5個以下である
請求項1〜9のいずれかに記載の燃料電池セル。
【請求項11】
前記中間層は閉気孔を含む、
請求項1〜10のいずれかに記載の燃料電池セル。
【請求項12】
前記中間層は、前記固体電解質層の熱膨張率と前記バリア層の熱膨張率との間に位置する熱膨張率を示す、
請求項1〜11のいずれかに記載の燃料電池セル。
【請求項13】
前記固体電解質層、前記中間層及び前記バリア層は、共焼成されている、
請求項1〜12のいずれかに記載の燃料電池セル。
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図2】
【公開番号】特開2012−23017(P2012−23017A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96517(P2011−96517)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【特許番号】特許第4773588号(P4773588)
【特許公報発行日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【特許番号】特許第4773588号(P4773588)
【特許公報発行日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】
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