燃料電池内蔵カード及びカード情報処理システム
【課題】 燃料電池が内蔵された新規なカードや該カードを用いるシステムの提供。
【解決手段】 カード表面に露出する燃料供給部2と、該燃料供給部から導入された燃料によって発電する構成の燃料電池部1と、該燃料電池部1の発電に係わる情報等を表示し得る表示部3と、を少なくとも備えるカードCを提供するとともに、このカードCに形成された端子5を介して電気的信号の送受信を行うことが可能に構成された外部装置M1(M2)と、から構成されているカード情報処理システムを提供する。
【解決手段】 カード表面に露出する燃料供給部2と、該燃料供給部から導入された燃料によって発電する構成の燃料電池部1と、該燃料電池部1の発電に係わる情報等を表示し得る表示部3と、を少なくとも備えるカードCを提供するとともに、このカードCに形成された端子5を介して電気的信号の送受信を行うことが可能に構成された外部装置M1(M2)と、から構成されているカード情報処理システムを提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池を内蔵するカード(card)に関する。より詳しくは、ユーザが行う燃料供給行為によって発電する燃料電池等が薄板状のカード内部に設けられており、さらに、その起電力に基づいて得られた情報を表示等できる機能を有する新規なカードに関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会は、しばしば「カード社会」と言われることがある。即ち、現代の我々の日常生活においては、クレジットカード、キャッシュカード、プリペイドカード、各種ポイントカードなどが広く普及し、いまやこれらのカードは現代人の必需品となっているからである。これらのカードの中には、ICチップや非接触式の認証システムであるRFID(Radio Frequency Identification)の技術が利用されるものもあり、カードに係わる技術は、情報社会の進展に伴って非常に高度化していくと考えられる。日常の生活から「遊戯」の世界に目を移しても、トランプカードやトレーディングカードなどが一般に普及し、子供や大人に趣味や娯楽を提供している。
【0003】
一方、近年、省エネルギーや環境負荷低減が社会の重要な命題になってきていることを背景として、電池に係わる技術開発が脚光を浴びている。例えば、「燃料電池」と称される新しい電池分野が台頭してきており、自家発電や自動車などの分野では、既に実験段階から実用化段階に入ってきている状況にある。カード形状の燃料電池としては、アダプター用途である特許文献1に開示された技術がある。
【0004】
この「燃料電池」は、外部から送り込まれる燃料と空気によって発電を継続できるタイプの電池である。この燃料電池は、使用する電解質の種類によって方式に区別される場合もあるが、「バイオ燃料電池」という分野も存在する。このバイオ燃料電池は、生体内で栄養素からエネルギーを産生するシステムを電池に応用したものと言える。例えば、酵素の機能を利用して燃料中に存在する糖分などを分解して、電気エネルギーを取り出すことができるように工夫された電池は、酵素電池、バイオ酵素電池、酵素燃料電池とも称される場合もある(以下、「酵素電池」と統一的に称する。)
【0005】
このような「酵素電池」としては、グルコースなどの糖類等の燃料を分解し電子を生成する酸化酵素群、及び生成した電子を電極に渡す電子メディエーターが担持された燃料極(アノード)と、この燃料極にて燃料の酸化による生成するプロトンを対極側に輸送する電解質と、この電解質を介して燃料極から運ばれてきたプロトンを空気中の酸素により酸化して水を生成する空気極(カソード)と、から構成が知られている(特許文献2)。
【0006】
メタノール型や水素型燃料電池等の一般の燃料電池では、燃料に引火性や毒性があるのに対して、酵素電池では、生体に安全な燃料を使用できるため、体内埋め込み型ペースメーカー、子供向け商品(例えば、玩具)、日用品、モバイル型機器への電気エネルギー供給などへの応用が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−340166号公報
【特許文献2】特開2005−310613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、燃料電池、特に、生体安全性を有する酵素電池が内蔵された新規なカードを提供することによって、該酵素電池の新しい応用分野を開拓することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
まず、本発明では、燃料供給部と、該燃料供給部から導入された燃料によって発電する燃料電池部と、該電池部の発電に係わる情報を表示し得る表示部(display)と、を備えるカードを提供する。「燃料供給部」は、電池部を構成する燃料極に対して、燃料を送り込むために設けられた部位を広く意味し、その供給方法や供給原理については、特に限定されない。本発明において「カード」とは、サイズや形態などにおいて狭く解釈されることはなく、薄板状、あるいは平板状の形態をなす物品を広く指す。
本発明に係るカードでは、前記燃料電池部の起電力(出力)の大きさが異なる複数種のカード群によって構成されているようにしておくことによって、起電力の大きさの異なるカード群による新しい遊び、仕掛け、機能を付加してもよい。例えば、前記起電力の大きさをカードに描写された図柄や情報の種類と関係付けておくように工夫してもよい。
また、本発明で提供するカードの燃料電池部は、燃料電池の概念に入るものであれば限定されないが、毒性がなくて生体に安全であり、引火性もない燃料を使用する酵素電池を含むバイオ燃料電池部を好適に採用することもできる。
さらに、本発明で提供するカードには、外部装置と電気的に接続可能な端子を設けておいてよい。これにより、カードに形成された前記端子を介して外部装置との間で電気的信号の送受信を行うことが可能となるため、カードと外部装置によって構成されたカード情報処理システムを提供することができるようになる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、燃料電池を内蔵する新しいタイプのカードやカード情報処理システムを提供できる。これにより、燃料電池においては、燃料電池の新しい応用分野を開拓することができ、カード分野においては、燃料電池による出力による新しい仕掛け、遊び、機能などを提供できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るカード(C)の一実施形態例の外観斜視図である。
【図2】同カード(C)の層構造の一実施形態例を示す図である。
【図3】同カード(C)の一実施形態例を裏面側から見た正面図である。
【図4】同カード(C)の一実施形態例の断面図であって、同形態例の層構造を示す図である。
【図5】同カード(C)の一実施形態例の断面図であって、表示部(3)周辺の層構造の一例を示す図である。
【図6】同カード(C)の燃料供給部(2)に対して、スポイト(S)を用いて燃料を滴下している様子を示す図である。
【図7】同カード(C)の燃料供給部(2)に対して燃料を供給する第4の方法(用具9aを使用する方法)を説明するための図である。
【図8】同カード(C)の燃料供給部(2)に対して燃料を供給する第5の方法(用具9bを使用する方法)を説明するための図である。
【図9】同カード(C)を遊戯用カードに応用した場合の実施形態の一例を示す図である。
【図10】本発明に係るカード情報処理システムの第1実施形態例の概念を示す図である。
【図11】同システムの第2実施形態例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付の図面に基づいて、本発明の好適な実施形態例について説明する。なお、以下に説明する実施形態については、あくまで本発明を実施する場合の具体的な形態の例示であり、これにより、本発明が狭く解釈されることはない。
【0013】
まず、図1は、本発明に係るカードの一実施形態例の外観斜視図である。この図1に示されたカードCは、外観上からは視認されない、内蔵された燃料電池部(以下、電池部)1と、該電池部1に対して燃料を供給可能な場所となる燃料供給部2と、前記電池部1での発電に係わる出力情報などを表示するために用いられる表示部3と、を少なくとも備えている。なお、符号4で示すカードCの表面領域は、例えば、キャラクターなどの図柄、情報(例えば、文字情報)が印刷等される場所として使用される。
【0014】
薄層状の形態をなす電池部1のサイズ、面積、厚み等は、特に限定されないが、例えば、図1の実施形態例のように、発電量をできるだけ大きくする観点では、カードCの略全域にわたって形成しておくようにしてもよい。この電池部1は、燃料電池の概念に入る電池が好適であるが、ユーザが直接触れるかもしれない燃料の安全性の観点からすればバイオ燃料電池が特に好適であり、例えば、触媒として酵素を使用する酵素電池を採用することができる。
【0015】
ここで、「燃料電池」は、基本的には燃料極と空気極と電解質を備えており、その発電原理は、水の電気分解と逆動作で、水素と酸素により水(H2O)を生成するとともに、電気を発生する。即ち、燃料極に供給された燃料(水素)が酸化されて電子とプロトン(H+)とに分離し、電子は燃料極に渡され、プロトンは電解質(プロトン伝導体)を介して空気極まで移動し、この空気極では、プロトンが外部から供給された酸素及び燃料極側から送られてきた電子と反応して水を生成する。このように、燃料電池は、燃料の持つエネルギーを直接電気エネルギーに変換できる電池である。
【0016】
燃料電池に関して、メタノール型や水素型燃料電池などでは、使用される燃料に引火性や毒性があるが、燃料電池の一種類とも言える「酵素電池」においては、燃料の取り扱いにおいて安全であるという利点がある。この酵素電池の燃料としては、例えば、アルコール類、糖類、脂肪酸、タンパク質、アミノ酸、有機酸等を採用できる。原理的には、生物が栄養素している物質は、酵素電池の燃料として採用し得る。反応系の触媒としては、燃料の種類に合わせて適切な酵素群、例えば、燃料の段階的な分解プロセスのそれぞれの反応に関与する酵素が選択される。
【0017】
酵素電池では、市販の糖類などを含む飲料をそのまま燃料として採用することもできるので、燃料の取り扱いにおいて特に安全性が高い。具体的には、燃料を誤飲してしまっても健康上とくに問題がないことから、特に、本発明に係るカードCが子供向けの商品として用いられる場合には好適である。
【0018】
カードCの燃料供給部2は、電池部1を構成する燃料極(アノード、後述)の一部がカード表面に露出するように形成された部位である。この燃料供給部2を通じて、後述するような方法により、電池部1に適合する燃料が供給される。なお、この燃料供給路2が設けられる位置、形状、サイズ等は特に限定されない。例えば、燃料供給路2は、燃料の供給方法(後述)に適した形態とすればよい。図1の実施形態においては、燃料供給部2は、カードCの一角部位に円形窓状に形成した例が示されている。
【0019】
表示部3は、電池部1における発電量や必要情報を外部に表示する部位であって、表示の方法や手段については、特に限定されない。表示の方法は、目的に応じて自由であり、例えば、発電量を数値化して示したり、図柄、マーク、ランプ等によって示したりする。表示の手段は、特に限定されず、用途に加えて、コスト面なども考慮に入れながら、例えば、液晶や有機EL(Organic Electro-Luminescence)などを適宜採用することができる。
【0020】
図2は、本発明に係るカードCの層構造の一実施形態例を示す図である。例えば、カードCは、この図2に示すように、第1層Aと第2層Bとに大別できる層構造を備えるようにしてもよい。第1層Aは、燃料極(アノード)層と外界とを仕切るセパレーターとしての機能も有する層であり、かつ、その表面領域4に図柄や情報(例えば、文字情報)が印刷等される層としても機能する層でもある。一方の第2層Bは、主に電池部1が形成される層であり、後述するように、その裏面側には、空気極(カソード)へ酸素を送り込むことが可能な層(酸素透過層)が形成されている。
【0021】
前記第1層Aには、図2に示すように、二つの窓部21,31が設けられている。まず、窓部21は、燃料供給部2(図1参照)を構成する穴開き部位であって、第1層Aが第2層Bに接着等により一体化された場合には、窓部21を介して電池部1の燃料極として機能する層(後述)の一部が露出される(図1参照)。
【0022】
次に、窓部31は、表示部3の外枠となる穴開き部位である。第1層Aが第2層Bに接着等により一体化された場合には、この窓部31を介して、第2層Bに形成されている表示部3が露出するようになる(図1参照)。なお、表示部3は、第1層Aの窓部31の位置に形成してもよい。
【0023】
図3は、本発明に係るカードCの一実施形態例を裏面側から見た正面図である。即ち、この図3の符号B1は、電池部1が設けられた第2層Bの裏面でもある。この裏面B1の最表層部分は、電池部1を構成する空気極(カソード)へ酸素を送り込むことが可能な層(後述の酸素透過層14)となっている。なお、図3に示される符号5は、後述する外部装置(M1,M2)に電気的に接続するための端子である。
【0024】
図4は、本発明に係るカードCの一実施形態例の断面図であって、同形態例の層構造を示す図である。なお、本図4の説明における上下関係は、図面の同関係に従うものとする。
【0025】
この図4に示すように、カードCの層構造の一例は、最上層のセパレーター層11(第1層A)と、該セパレーター層11の下側に位置する燃料極(アノード)層12と、該燃料極層12の下側に位置するセパレーター層(電解質層)13と、該セパレーター層13の下側に位置する空気極(カソード)層14と、該空気極層14の下に最下層として形成される酸素透過層15と、によって構成されている。
【0026】
燃料極(アノード)層12と空気極(カソード)層14は、いずれの箇所においても互いに短絡しないように形成されている。カードCのエッジ部分Eにおいても、燃料極(アノード)層12と空気極(カソード)層14がセパレートされた状態で、水密に封止されている(図4参照)。なお、封止するための方法や処理は、特に限定されない。
【0027】
燃料極層12には、グルコースなどの糖類等の燃料を分解し、かつ、電子を生成する酸化酵素群、及び生成した電子を電極に円滑に渡すための電子メディエーターや反応系に必要な補酵素を担持させておくようにする。例えば、グルコースを燃料とした場合、採用される酵素の一例は、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)などを挙げることができる。補酵素は、酵素反応系に応じて選択されるが、一例としては、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)、ニコチンアミドジヌクレオチドリン酸(NADPH+)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD+)などを挙げることができる。電子メディエーターとしては、例えば、キノン骨格を有する化合物が好適である。
【0028】
空気極(カソード)層14においても、外部から供給される酸素の還元反応を触媒する酵素を担持させておく。例えば、酸素を反応基質とするオキシダーゼ活性を有する酵素であって、例えば、ラッカーゼやビリルビンオキシダーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼなどを挙げることができる。
【0029】
セパレーター層13は、例えば、電解質液で満たされた薄層の不織布などで形成する。このセパレーター層13は、前記燃料極層12において燃料の酸化による生成するプロトンを対極側(空気極側)に輸送する電解質層としても機能する。電解質は、電子電導性がなく、かつ、プロトンの輸送が可能な電解質であればよく、特に限定されない。電解質に緩衝物質を含ませておいてもよい。
【0030】
この電解質を介して燃料極層12から運ばれてきたプロトンは、空気極層14に酸素透過層15を透過してきた空気中の酸素によって酸化され、その結果、水(H2O)が生成する。このような酵素電池に係わる反応過程によって、電池部1では電気が発生する。なお、空気極層15で発生する水は、セパレーター層13へ吸収されるようにしておけばよい。この観点で、セパレーター層13を水分吸収力のある不織布や水分吸収性のあるゲルなどで形成するのが望ましい。
【0031】
本カードCを構成する各層11〜15は、同カードCが使用される際において、ユーザによって撓ませたりされた場合であっても電池構造上や電気的特性の点で問題が生じないように、すべて可撓性又は柔軟性のある材料で形成するのが望ましい。
【0032】
具体的には、燃料極層12や空気極層14は、カーボンフェルト、カーボンペーパー、炭素繊維又は炭素微粒子の積層体などの柔軟性のあるカーボン材料で形成する。セパレーター層13は、上記の通り、例えば、不織布で形成すればよい。酸素透過層15は、液体を透過せずに気体のみを選択的に透過する層であるが、この酸素透過層15も、可撓性又は柔軟性がある材料、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)で形成された層などを採用できる。
【0033】
図5は、同カードCの一実施形態例の断面図であって、表示部3を含む領域の層構造の一例を示す図である。この図5に示すように、電池部1を構成する燃料極層12と空気極層14は、それぞれ集電体7a,7bを介し、さらにリード線8,8を通じて制御部6に接続されている。なお、集電体7a,7bを直接制御部16に接続してもよい。
【0034】
この制御部6は、表示部3の表示機能等を制御する役割を担っている。なお、図示はしないが、カードCにIC(Integrated Circuit)チップのような記憶部(集積回路)を設けておいて、電気的な情報や表示部3で表示したデータ、さらには、キャラクターに関係するストーリー情報などを記憶させておくようにしてもよい。
【0035】
集電体7a,7bの材料は、特に限定されないが、電気的に接続可能で、かつ、電池部1内において電気化学反応を生じない材料であればよく、例えば、金属材料、導電性高分子、カーボン系材料、硼化物、窒化物、珪化物、これらの複合材料などを挙げることができる。なお、集電体7a,7bの物性は、カードCの全体の柔軟性を低下させない程度の柔軟性や屈曲性を有し、カードCを撓ませたり、屈曲させたりした際にも、電気的特性が大きく変化しない材料であればよい。
【0036】
図5においては、カードCのエッジ部分の断面構成例も示されている。この例では、セパレーター層11とセパレーターとしても機能する酸素透過層15が図示されたE1部位で水密に接着されている。集電体7a,7b、リード線8は、表示部3や制御部6が形成されたセパレーター層11のエッジE部分に形成されている。
【0037】
以下、カードCへ燃料を供給する際の具体的な方法について説明する。第一の供給方法は、カードCの燃料供給部2へ燃料が収容された容器から直接、燃料を流出させて供給する方法である。第2の供給方法は、カードCの燃料供給部2を、容器に収容された燃料に対して浸漬させて供給する方法である。
【0038】
第3の供給方法は、図6に示したように、スポイトSを用いる方法である。即ち、スポイトSに所定量の燃料Fを一旦吸引させてから、同スポイトSによって燃料供給部2に適当量の燃料を滴下する方法である。この図6において、符号F1は、滴下された燃料を示している。このスポイトSは、供給すべき燃料量に対応する吸引容積に設計された専用のスポイトが好適である。
【0039】
スポイトSで滴下して燃料を供給する方法は、スポイトSの定まった液体吸引量に基づいて必要量の燃料Fを燃料供給部2に対して供給できるという利点があり、また、この操作は簡単で子供でもできるという利点もある。なお、図6においては、カードCの表面に怪獣のキャラクター(符号X)が印刷されている様子が例示されている。
【0040】
第4の供給方法を図7に示す。この方法は、燃料供給のために準備された箱状の用具9aを使用する。この用具9aは、カードCが挿入可能な挿入口91を備えている。このカード挿入口91には、符号92で示す通液路の一端部が開口している。そして、この通液路92の上部には、上方に向けて口径が大きくなるように開口するホッパー部93が形成されている。
【0041】
このホッパー93から通液路92を介して、前記挿入口91に挿着された状態のカードCの燃料供給部2部分へ、燃料Fをボトル10などから流出量を調整しながら供給したり、あるいは、スポイトS(図5参照)を用いて、ポッパー部93から燃料Fを供給したりすることができる。このような方法であれば、第1の供給方法と比べて、燃料Fの供給の際に、燃料Fを周囲にこぼしたり、飛散させたりすることを防止できるという利点がある。
【0042】
第5の供給方法は、図8に示す。この方法では、上記用具9aの変形形態とも言える用具9bを使用する。この用具9bは、上記用具9aと同様に、カード挿入口94を備えている(図8(A)参照)。また、この箱状の用具9bの上面には、燃料供給箇所も兼ねているボタン部95が設けられている。
【0043】
この方法では、ボタン部95へ燃料Fを供給し、カードCを挿入口94に挿着後に、同ボタン部95をユーザに押圧させる(図8(B)参照)。この押圧作業によって、所定量の燃料FをカードCの燃料供給部2へ送り込む(図8(C)参照)。なお、この図8(C)は、ボタン部95が押圧されたときに、燃料FがカードCの燃料供給部2に送り込まれる時の用具9b内部の様子を示す図である。
【0044】
上記したいずれの方法(第1〜5)の場合でも、カードCに供給された燃料は、燃料極層12の全域に対して毛細管現象や圧力によって浸透していき、電池部1での発電に役立てられることになる。
【0045】
図9は、本発明に係るカードCを遊戯用カード(トレーディングカード)に応用した場合の実施形態の一例を示す図である。この図9には、三種のカード群C1,C2,C3が示されている。これらの三種のカード群C1,C2,C3にそれぞれ内蔵されている各電池部1は、それぞれ起電力(出力)が異なるように工夫しておく。これにより、全く同じ燃料を、それぞれの燃料供給部201,202,203に供給した場合でも、それぞれの起電力に応じた数値が表示部31,32,33に表示されるようになる。
【0046】
例えば、この図9に示すように、カードC1の表示部31には数値5000、カードC2の表示部32には数値1000、カードC3の表示部33には数値100が表示されている。これらの数値は、カードC1,C2,C3に示されたそれぞれのキャラクター11,12,13の強さ(パワー)としての意味を持っており、それによりカードの希少性などに係わる取引価値が生まれたりする。なお、表示される情報は、目的に応じて自由であり、数値に限定されず、例えば、マークの個数や種類などによって強さ(パワー)の程度を表したりしてもよい。
【0047】
本発明に係るカードCの用途については、上記したような遊戯用カードは一例に過ぎず、これには限定されない。例えば、印刷情報、表示部の形状、表示情報、カードサイズや形態などを適宜選択することによって、クレジットカード、キャッシュカード、プリペイドカード、各種ポイントカードなどへも応用が可能であり、さらには、モバイル端末などへの応用も可能である。本発明では、平板状をなすモバイル端末のような物もカード概念に含むものとして扱う。
【0048】
次に、図10は、本発明に係るカード情報処理システムの第1実施形態例の概念を示す図である。このシステムは、カードCと外部装置M1とから構成されている。カードCと外部装置M1は、カードCに設けられた端子5を介して外部装置M1と電気的に接続可能とされており、これにより電気的な信号のやり取りが可能となっている。即ち、外部装置M1は、カードCに形成された端子5を介して電気的信号の送受信を行うことが可能に構成されている。
【0049】
この外部装置M1は、出力読み取り機能、各種変換機能、ディスプレイ表示に関する制御などの役割を担う制御部16と、同装置の駆動のON/OFFを切換えるスイッチ、表示切替スイッチなどが配置されたスイッチ部(操作部)17と、前記制御部16によって表示動作等が制御される表示部18(例えば、液晶や有機ELなど)などによって構成されている(図10参照)。
【0050】
このようなシステム構成において、外部装置M1では、例えば、カードCの電力を制御部16で読み取り、必要な情報やデータ変換や処理を行なう。外部装置M1の表示部18では、例えば、カードCで発生した電力量を数値等で表示したり、カードCに内蔵されたICチップに記憶されている情報を取り出して、それを表示したりする。表示内容は、数値、動画、マーク、記号、絵柄など、自由である。
【0051】
ICチップの記憶情報は、カードCの種類や用途によって様々であって狭く限定されない。一例を挙げれば、遊戯用カードの場合では、当該カードCに印刷等されたキャラクターのストーリー情報などが考えられる。外部装置M1側から情報を送って、カードCに内蔵されたICチップの記憶情報を書き換えたりできるようにしてもよい。
【0052】
図11は、同システムの第2実施形態例を示す図である。このシステム例では、二枚のカードC1,C2が挿着可能な構成とされた外部装置M2を使用する。具体的には、外部装置M2には、カード挿入口19a,19bが設けられている。それぞれの挿入口19a,19bに対して、カードC1,C2を挿着する(図11参照)。カードC1,C2のそれぞれから出力される情報(電力やICチップの記憶情報)を、外部装置M2の制御部16で処理・変換等して、必要な情報を表示部18で表示する。
【0053】
このシステム例では、遊戯用カードを例にとれば、対戦型のカードゲームを行うことができる。さらには、二つのカードC1,C2のそれぞれの情報を相互に交換したりすることもできる。
【0054】
本発明に係るカードCやシステムによって提供される遊びの世界においては、電池部1として酵素電池が採用される場合では、該電池部1に供給する燃料に独自の工夫を施すことによって、その遊びの世界をより楽しいものにすることができる。即ち、カードCと燃料の種類の組み合わせによって、よりリアリティのるキャラクター世界やストーリーを楽しむことができる。
【0055】
例えば、カードCに表現されたキャラクターのイメージに合う色や粘性の燃料を種々準備しておくようにする。より具体的には、自動車関連のキャラクターの場合はガソリンを想起させる色や粘性を持つ燃料(例えば、7%程度のぶどう糖水溶液に墨成分を溶解させた燃料)、子供をイメージさせるキャラクターの場合はお菓子を混入させた燃料、魚をイメージするキャラクターの場合は水を想起させる色や粘性の燃料、人間が飲むイメージに適合する飲料の色や粘性、乳幼児をイメージするキャラクターの場合はミルクのような色や粘性の燃料(7%程度のぶどう糖水溶液に牛乳などを混ぜた飲料)の如きである。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、各種カードやモバイル機器などの分野で利用できる。例えば、本発明に係るカードやシステムは、新しい感覚の遊戯用のツールやシステムとして利用できる。
【符号の説明】
【0057】
1 電池部
2 燃料供給部
3 表示部
4 印刷等される領域
11 セパレーター層
12 燃料極層
13 セパレーター層(電解質層)
14 空気極層
C(C1,C2,C3) カード
F 燃料
M1,M2 外部装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池を内蔵するカード(card)に関する。より詳しくは、ユーザが行う燃料供給行為によって発電する燃料電池等が薄板状のカード内部に設けられており、さらに、その起電力に基づいて得られた情報を表示等できる機能を有する新規なカードに関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会は、しばしば「カード社会」と言われることがある。即ち、現代の我々の日常生活においては、クレジットカード、キャッシュカード、プリペイドカード、各種ポイントカードなどが広く普及し、いまやこれらのカードは現代人の必需品となっているからである。これらのカードの中には、ICチップや非接触式の認証システムであるRFID(Radio Frequency Identification)の技術が利用されるものもあり、カードに係わる技術は、情報社会の進展に伴って非常に高度化していくと考えられる。日常の生活から「遊戯」の世界に目を移しても、トランプカードやトレーディングカードなどが一般に普及し、子供や大人に趣味や娯楽を提供している。
【0003】
一方、近年、省エネルギーや環境負荷低減が社会の重要な命題になってきていることを背景として、電池に係わる技術開発が脚光を浴びている。例えば、「燃料電池」と称される新しい電池分野が台頭してきており、自家発電や自動車などの分野では、既に実験段階から実用化段階に入ってきている状況にある。カード形状の燃料電池としては、アダプター用途である特許文献1に開示された技術がある。
【0004】
この「燃料電池」は、外部から送り込まれる燃料と空気によって発電を継続できるタイプの電池である。この燃料電池は、使用する電解質の種類によって方式に区別される場合もあるが、「バイオ燃料電池」という分野も存在する。このバイオ燃料電池は、生体内で栄養素からエネルギーを産生するシステムを電池に応用したものと言える。例えば、酵素の機能を利用して燃料中に存在する糖分などを分解して、電気エネルギーを取り出すことができるように工夫された電池は、酵素電池、バイオ酵素電池、酵素燃料電池とも称される場合もある(以下、「酵素電池」と統一的に称する。)
【0005】
このような「酵素電池」としては、グルコースなどの糖類等の燃料を分解し電子を生成する酸化酵素群、及び生成した電子を電極に渡す電子メディエーターが担持された燃料極(アノード)と、この燃料極にて燃料の酸化による生成するプロトンを対極側に輸送する電解質と、この電解質を介して燃料極から運ばれてきたプロトンを空気中の酸素により酸化して水を生成する空気極(カソード)と、から構成が知られている(特許文献2)。
【0006】
メタノール型や水素型燃料電池等の一般の燃料電池では、燃料に引火性や毒性があるのに対して、酵素電池では、生体に安全な燃料を使用できるため、体内埋め込み型ペースメーカー、子供向け商品(例えば、玩具)、日用品、モバイル型機器への電気エネルギー供給などへの応用が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−340166号公報
【特許文献2】特開2005−310613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、燃料電池、特に、生体安全性を有する酵素電池が内蔵された新規なカードを提供することによって、該酵素電池の新しい応用分野を開拓することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
まず、本発明では、燃料供給部と、該燃料供給部から導入された燃料によって発電する燃料電池部と、該電池部の発電に係わる情報を表示し得る表示部(display)と、を備えるカードを提供する。「燃料供給部」は、電池部を構成する燃料極に対して、燃料を送り込むために設けられた部位を広く意味し、その供給方法や供給原理については、特に限定されない。本発明において「カード」とは、サイズや形態などにおいて狭く解釈されることはなく、薄板状、あるいは平板状の形態をなす物品を広く指す。
本発明に係るカードでは、前記燃料電池部の起電力(出力)の大きさが異なる複数種のカード群によって構成されているようにしておくことによって、起電力の大きさの異なるカード群による新しい遊び、仕掛け、機能を付加してもよい。例えば、前記起電力の大きさをカードに描写された図柄や情報の種類と関係付けておくように工夫してもよい。
また、本発明で提供するカードの燃料電池部は、燃料電池の概念に入るものであれば限定されないが、毒性がなくて生体に安全であり、引火性もない燃料を使用する酵素電池を含むバイオ燃料電池部を好適に採用することもできる。
さらに、本発明で提供するカードには、外部装置と電気的に接続可能な端子を設けておいてよい。これにより、カードに形成された前記端子を介して外部装置との間で電気的信号の送受信を行うことが可能となるため、カードと外部装置によって構成されたカード情報処理システムを提供することができるようになる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、燃料電池を内蔵する新しいタイプのカードやカード情報処理システムを提供できる。これにより、燃料電池においては、燃料電池の新しい応用分野を開拓することができ、カード分野においては、燃料電池による出力による新しい仕掛け、遊び、機能などを提供できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るカード(C)の一実施形態例の外観斜視図である。
【図2】同カード(C)の層構造の一実施形態例を示す図である。
【図3】同カード(C)の一実施形態例を裏面側から見た正面図である。
【図4】同カード(C)の一実施形態例の断面図であって、同形態例の層構造を示す図である。
【図5】同カード(C)の一実施形態例の断面図であって、表示部(3)周辺の層構造の一例を示す図である。
【図6】同カード(C)の燃料供給部(2)に対して、スポイト(S)を用いて燃料を滴下している様子を示す図である。
【図7】同カード(C)の燃料供給部(2)に対して燃料を供給する第4の方法(用具9aを使用する方法)を説明するための図である。
【図8】同カード(C)の燃料供給部(2)に対して燃料を供給する第5の方法(用具9bを使用する方法)を説明するための図である。
【図9】同カード(C)を遊戯用カードに応用した場合の実施形態の一例を示す図である。
【図10】本発明に係るカード情報処理システムの第1実施形態例の概念を示す図である。
【図11】同システムの第2実施形態例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付の図面に基づいて、本発明の好適な実施形態例について説明する。なお、以下に説明する実施形態については、あくまで本発明を実施する場合の具体的な形態の例示であり、これにより、本発明が狭く解釈されることはない。
【0013】
まず、図1は、本発明に係るカードの一実施形態例の外観斜視図である。この図1に示されたカードCは、外観上からは視認されない、内蔵された燃料電池部(以下、電池部)1と、該電池部1に対して燃料を供給可能な場所となる燃料供給部2と、前記電池部1での発電に係わる出力情報などを表示するために用いられる表示部3と、を少なくとも備えている。なお、符号4で示すカードCの表面領域は、例えば、キャラクターなどの図柄、情報(例えば、文字情報)が印刷等される場所として使用される。
【0014】
薄層状の形態をなす電池部1のサイズ、面積、厚み等は、特に限定されないが、例えば、図1の実施形態例のように、発電量をできるだけ大きくする観点では、カードCの略全域にわたって形成しておくようにしてもよい。この電池部1は、燃料電池の概念に入る電池が好適であるが、ユーザが直接触れるかもしれない燃料の安全性の観点からすればバイオ燃料電池が特に好適であり、例えば、触媒として酵素を使用する酵素電池を採用することができる。
【0015】
ここで、「燃料電池」は、基本的には燃料極と空気極と電解質を備えており、その発電原理は、水の電気分解と逆動作で、水素と酸素により水(H2O)を生成するとともに、電気を発生する。即ち、燃料極に供給された燃料(水素)が酸化されて電子とプロトン(H+)とに分離し、電子は燃料極に渡され、プロトンは電解質(プロトン伝導体)を介して空気極まで移動し、この空気極では、プロトンが外部から供給された酸素及び燃料極側から送られてきた電子と反応して水を生成する。このように、燃料電池は、燃料の持つエネルギーを直接電気エネルギーに変換できる電池である。
【0016】
燃料電池に関して、メタノール型や水素型燃料電池などでは、使用される燃料に引火性や毒性があるが、燃料電池の一種類とも言える「酵素電池」においては、燃料の取り扱いにおいて安全であるという利点がある。この酵素電池の燃料としては、例えば、アルコール類、糖類、脂肪酸、タンパク質、アミノ酸、有機酸等を採用できる。原理的には、生物が栄養素している物質は、酵素電池の燃料として採用し得る。反応系の触媒としては、燃料の種類に合わせて適切な酵素群、例えば、燃料の段階的な分解プロセスのそれぞれの反応に関与する酵素が選択される。
【0017】
酵素電池では、市販の糖類などを含む飲料をそのまま燃料として採用することもできるので、燃料の取り扱いにおいて特に安全性が高い。具体的には、燃料を誤飲してしまっても健康上とくに問題がないことから、特に、本発明に係るカードCが子供向けの商品として用いられる場合には好適である。
【0018】
カードCの燃料供給部2は、電池部1を構成する燃料極(アノード、後述)の一部がカード表面に露出するように形成された部位である。この燃料供給部2を通じて、後述するような方法により、電池部1に適合する燃料が供給される。なお、この燃料供給路2が設けられる位置、形状、サイズ等は特に限定されない。例えば、燃料供給路2は、燃料の供給方法(後述)に適した形態とすればよい。図1の実施形態においては、燃料供給部2は、カードCの一角部位に円形窓状に形成した例が示されている。
【0019】
表示部3は、電池部1における発電量や必要情報を外部に表示する部位であって、表示の方法や手段については、特に限定されない。表示の方法は、目的に応じて自由であり、例えば、発電量を数値化して示したり、図柄、マーク、ランプ等によって示したりする。表示の手段は、特に限定されず、用途に加えて、コスト面なども考慮に入れながら、例えば、液晶や有機EL(Organic Electro-Luminescence)などを適宜採用することができる。
【0020】
図2は、本発明に係るカードCの層構造の一実施形態例を示す図である。例えば、カードCは、この図2に示すように、第1層Aと第2層Bとに大別できる層構造を備えるようにしてもよい。第1層Aは、燃料極(アノード)層と外界とを仕切るセパレーターとしての機能も有する層であり、かつ、その表面領域4に図柄や情報(例えば、文字情報)が印刷等される層としても機能する層でもある。一方の第2層Bは、主に電池部1が形成される層であり、後述するように、その裏面側には、空気極(カソード)へ酸素を送り込むことが可能な層(酸素透過層)が形成されている。
【0021】
前記第1層Aには、図2に示すように、二つの窓部21,31が設けられている。まず、窓部21は、燃料供給部2(図1参照)を構成する穴開き部位であって、第1層Aが第2層Bに接着等により一体化された場合には、窓部21を介して電池部1の燃料極として機能する層(後述)の一部が露出される(図1参照)。
【0022】
次に、窓部31は、表示部3の外枠となる穴開き部位である。第1層Aが第2層Bに接着等により一体化された場合には、この窓部31を介して、第2層Bに形成されている表示部3が露出するようになる(図1参照)。なお、表示部3は、第1層Aの窓部31の位置に形成してもよい。
【0023】
図3は、本発明に係るカードCの一実施形態例を裏面側から見た正面図である。即ち、この図3の符号B1は、電池部1が設けられた第2層Bの裏面でもある。この裏面B1の最表層部分は、電池部1を構成する空気極(カソード)へ酸素を送り込むことが可能な層(後述の酸素透過層14)となっている。なお、図3に示される符号5は、後述する外部装置(M1,M2)に電気的に接続するための端子である。
【0024】
図4は、本発明に係るカードCの一実施形態例の断面図であって、同形態例の層構造を示す図である。なお、本図4の説明における上下関係は、図面の同関係に従うものとする。
【0025】
この図4に示すように、カードCの層構造の一例は、最上層のセパレーター層11(第1層A)と、該セパレーター層11の下側に位置する燃料極(アノード)層12と、該燃料極層12の下側に位置するセパレーター層(電解質層)13と、該セパレーター層13の下側に位置する空気極(カソード)層14と、該空気極層14の下に最下層として形成される酸素透過層15と、によって構成されている。
【0026】
燃料極(アノード)層12と空気極(カソード)層14は、いずれの箇所においても互いに短絡しないように形成されている。カードCのエッジ部分Eにおいても、燃料極(アノード)層12と空気極(カソード)層14がセパレートされた状態で、水密に封止されている(図4参照)。なお、封止するための方法や処理は、特に限定されない。
【0027】
燃料極層12には、グルコースなどの糖類等の燃料を分解し、かつ、電子を生成する酸化酵素群、及び生成した電子を電極に円滑に渡すための電子メディエーターや反応系に必要な補酵素を担持させておくようにする。例えば、グルコースを燃料とした場合、採用される酵素の一例は、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)などを挙げることができる。補酵素は、酵素反応系に応じて選択されるが、一例としては、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)、ニコチンアミドジヌクレオチドリン酸(NADPH+)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD+)などを挙げることができる。電子メディエーターとしては、例えば、キノン骨格を有する化合物が好適である。
【0028】
空気極(カソード)層14においても、外部から供給される酸素の還元反応を触媒する酵素を担持させておく。例えば、酸素を反応基質とするオキシダーゼ活性を有する酵素であって、例えば、ラッカーゼやビリルビンオキシダーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼなどを挙げることができる。
【0029】
セパレーター層13は、例えば、電解質液で満たされた薄層の不織布などで形成する。このセパレーター層13は、前記燃料極層12において燃料の酸化による生成するプロトンを対極側(空気極側)に輸送する電解質層としても機能する。電解質は、電子電導性がなく、かつ、プロトンの輸送が可能な電解質であればよく、特に限定されない。電解質に緩衝物質を含ませておいてもよい。
【0030】
この電解質を介して燃料極層12から運ばれてきたプロトンは、空気極層14に酸素透過層15を透過してきた空気中の酸素によって酸化され、その結果、水(H2O)が生成する。このような酵素電池に係わる反応過程によって、電池部1では電気が発生する。なお、空気極層15で発生する水は、セパレーター層13へ吸収されるようにしておけばよい。この観点で、セパレーター層13を水分吸収力のある不織布や水分吸収性のあるゲルなどで形成するのが望ましい。
【0031】
本カードCを構成する各層11〜15は、同カードCが使用される際において、ユーザによって撓ませたりされた場合であっても電池構造上や電気的特性の点で問題が生じないように、すべて可撓性又は柔軟性のある材料で形成するのが望ましい。
【0032】
具体的には、燃料極層12や空気極層14は、カーボンフェルト、カーボンペーパー、炭素繊維又は炭素微粒子の積層体などの柔軟性のあるカーボン材料で形成する。セパレーター層13は、上記の通り、例えば、不織布で形成すればよい。酸素透過層15は、液体を透過せずに気体のみを選択的に透過する層であるが、この酸素透過層15も、可撓性又は柔軟性がある材料、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)で形成された層などを採用できる。
【0033】
図5は、同カードCの一実施形態例の断面図であって、表示部3を含む領域の層構造の一例を示す図である。この図5に示すように、電池部1を構成する燃料極層12と空気極層14は、それぞれ集電体7a,7bを介し、さらにリード線8,8を通じて制御部6に接続されている。なお、集電体7a,7bを直接制御部16に接続してもよい。
【0034】
この制御部6は、表示部3の表示機能等を制御する役割を担っている。なお、図示はしないが、カードCにIC(Integrated Circuit)チップのような記憶部(集積回路)を設けておいて、電気的な情報や表示部3で表示したデータ、さらには、キャラクターに関係するストーリー情報などを記憶させておくようにしてもよい。
【0035】
集電体7a,7bの材料は、特に限定されないが、電気的に接続可能で、かつ、電池部1内において電気化学反応を生じない材料であればよく、例えば、金属材料、導電性高分子、カーボン系材料、硼化物、窒化物、珪化物、これらの複合材料などを挙げることができる。なお、集電体7a,7bの物性は、カードCの全体の柔軟性を低下させない程度の柔軟性や屈曲性を有し、カードCを撓ませたり、屈曲させたりした際にも、電気的特性が大きく変化しない材料であればよい。
【0036】
図5においては、カードCのエッジ部分の断面構成例も示されている。この例では、セパレーター層11とセパレーターとしても機能する酸素透過層15が図示されたE1部位で水密に接着されている。集電体7a,7b、リード線8は、表示部3や制御部6が形成されたセパレーター層11のエッジE部分に形成されている。
【0037】
以下、カードCへ燃料を供給する際の具体的な方法について説明する。第一の供給方法は、カードCの燃料供給部2へ燃料が収容された容器から直接、燃料を流出させて供給する方法である。第2の供給方法は、カードCの燃料供給部2を、容器に収容された燃料に対して浸漬させて供給する方法である。
【0038】
第3の供給方法は、図6に示したように、スポイトSを用いる方法である。即ち、スポイトSに所定量の燃料Fを一旦吸引させてから、同スポイトSによって燃料供給部2に適当量の燃料を滴下する方法である。この図6において、符号F1は、滴下された燃料を示している。このスポイトSは、供給すべき燃料量に対応する吸引容積に設計された専用のスポイトが好適である。
【0039】
スポイトSで滴下して燃料を供給する方法は、スポイトSの定まった液体吸引量に基づいて必要量の燃料Fを燃料供給部2に対して供給できるという利点があり、また、この操作は簡単で子供でもできるという利点もある。なお、図6においては、カードCの表面に怪獣のキャラクター(符号X)が印刷されている様子が例示されている。
【0040】
第4の供給方法を図7に示す。この方法は、燃料供給のために準備された箱状の用具9aを使用する。この用具9aは、カードCが挿入可能な挿入口91を備えている。このカード挿入口91には、符号92で示す通液路の一端部が開口している。そして、この通液路92の上部には、上方に向けて口径が大きくなるように開口するホッパー部93が形成されている。
【0041】
このホッパー93から通液路92を介して、前記挿入口91に挿着された状態のカードCの燃料供給部2部分へ、燃料Fをボトル10などから流出量を調整しながら供給したり、あるいは、スポイトS(図5参照)を用いて、ポッパー部93から燃料Fを供給したりすることができる。このような方法であれば、第1の供給方法と比べて、燃料Fの供給の際に、燃料Fを周囲にこぼしたり、飛散させたりすることを防止できるという利点がある。
【0042】
第5の供給方法は、図8に示す。この方法では、上記用具9aの変形形態とも言える用具9bを使用する。この用具9bは、上記用具9aと同様に、カード挿入口94を備えている(図8(A)参照)。また、この箱状の用具9bの上面には、燃料供給箇所も兼ねているボタン部95が設けられている。
【0043】
この方法では、ボタン部95へ燃料Fを供給し、カードCを挿入口94に挿着後に、同ボタン部95をユーザに押圧させる(図8(B)参照)。この押圧作業によって、所定量の燃料FをカードCの燃料供給部2へ送り込む(図8(C)参照)。なお、この図8(C)は、ボタン部95が押圧されたときに、燃料FがカードCの燃料供給部2に送り込まれる時の用具9b内部の様子を示す図である。
【0044】
上記したいずれの方法(第1〜5)の場合でも、カードCに供給された燃料は、燃料極層12の全域に対して毛細管現象や圧力によって浸透していき、電池部1での発電に役立てられることになる。
【0045】
図9は、本発明に係るカードCを遊戯用カード(トレーディングカード)に応用した場合の実施形態の一例を示す図である。この図9には、三種のカード群C1,C2,C3が示されている。これらの三種のカード群C1,C2,C3にそれぞれ内蔵されている各電池部1は、それぞれ起電力(出力)が異なるように工夫しておく。これにより、全く同じ燃料を、それぞれの燃料供給部201,202,203に供給した場合でも、それぞれの起電力に応じた数値が表示部31,32,33に表示されるようになる。
【0046】
例えば、この図9に示すように、カードC1の表示部31には数値5000、カードC2の表示部32には数値1000、カードC3の表示部33には数値100が表示されている。これらの数値は、カードC1,C2,C3に示されたそれぞれのキャラクター11,12,13の強さ(パワー)としての意味を持っており、それによりカードの希少性などに係わる取引価値が生まれたりする。なお、表示される情報は、目的に応じて自由であり、数値に限定されず、例えば、マークの個数や種類などによって強さ(パワー)の程度を表したりしてもよい。
【0047】
本発明に係るカードCの用途については、上記したような遊戯用カードは一例に過ぎず、これには限定されない。例えば、印刷情報、表示部の形状、表示情報、カードサイズや形態などを適宜選択することによって、クレジットカード、キャッシュカード、プリペイドカード、各種ポイントカードなどへも応用が可能であり、さらには、モバイル端末などへの応用も可能である。本発明では、平板状をなすモバイル端末のような物もカード概念に含むものとして扱う。
【0048】
次に、図10は、本発明に係るカード情報処理システムの第1実施形態例の概念を示す図である。このシステムは、カードCと外部装置M1とから構成されている。カードCと外部装置M1は、カードCに設けられた端子5を介して外部装置M1と電気的に接続可能とされており、これにより電気的な信号のやり取りが可能となっている。即ち、外部装置M1は、カードCに形成された端子5を介して電気的信号の送受信を行うことが可能に構成されている。
【0049】
この外部装置M1は、出力読み取り機能、各種変換機能、ディスプレイ表示に関する制御などの役割を担う制御部16と、同装置の駆動のON/OFFを切換えるスイッチ、表示切替スイッチなどが配置されたスイッチ部(操作部)17と、前記制御部16によって表示動作等が制御される表示部18(例えば、液晶や有機ELなど)などによって構成されている(図10参照)。
【0050】
このようなシステム構成において、外部装置M1では、例えば、カードCの電力を制御部16で読み取り、必要な情報やデータ変換や処理を行なう。外部装置M1の表示部18では、例えば、カードCで発生した電力量を数値等で表示したり、カードCに内蔵されたICチップに記憶されている情報を取り出して、それを表示したりする。表示内容は、数値、動画、マーク、記号、絵柄など、自由である。
【0051】
ICチップの記憶情報は、カードCの種類や用途によって様々であって狭く限定されない。一例を挙げれば、遊戯用カードの場合では、当該カードCに印刷等されたキャラクターのストーリー情報などが考えられる。外部装置M1側から情報を送って、カードCに内蔵されたICチップの記憶情報を書き換えたりできるようにしてもよい。
【0052】
図11は、同システムの第2実施形態例を示す図である。このシステム例では、二枚のカードC1,C2が挿着可能な構成とされた外部装置M2を使用する。具体的には、外部装置M2には、カード挿入口19a,19bが設けられている。それぞれの挿入口19a,19bに対して、カードC1,C2を挿着する(図11参照)。カードC1,C2のそれぞれから出力される情報(電力やICチップの記憶情報)を、外部装置M2の制御部16で処理・変換等して、必要な情報を表示部18で表示する。
【0053】
このシステム例では、遊戯用カードを例にとれば、対戦型のカードゲームを行うことができる。さらには、二つのカードC1,C2のそれぞれの情報を相互に交換したりすることもできる。
【0054】
本発明に係るカードCやシステムによって提供される遊びの世界においては、電池部1として酵素電池が採用される場合では、該電池部1に供給する燃料に独自の工夫を施すことによって、その遊びの世界をより楽しいものにすることができる。即ち、カードCと燃料の種類の組み合わせによって、よりリアリティのるキャラクター世界やストーリーを楽しむことができる。
【0055】
例えば、カードCに表現されたキャラクターのイメージに合う色や粘性の燃料を種々準備しておくようにする。より具体的には、自動車関連のキャラクターの場合はガソリンを想起させる色や粘性を持つ燃料(例えば、7%程度のぶどう糖水溶液に墨成分を溶解させた燃料)、子供をイメージさせるキャラクターの場合はお菓子を混入させた燃料、魚をイメージするキャラクターの場合は水を想起させる色や粘性の燃料、人間が飲むイメージに適合する飲料の色や粘性、乳幼児をイメージするキャラクターの場合はミルクのような色や粘性の燃料(7%程度のぶどう糖水溶液に牛乳などを混ぜた飲料)の如きである。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、各種カードやモバイル機器などの分野で利用できる。例えば、本発明に係るカードやシステムは、新しい感覚の遊戯用のツールやシステムとして利用できる。
【符号の説明】
【0057】
1 電池部
2 燃料供給部
3 表示部
4 印刷等される領域
11 セパレーター層
12 燃料極層
13 セパレーター層(電解質層)
14 空気極層
C(C1,C2,C3) カード
F 燃料
M1,M2 外部装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料供給部と、該燃料供給部から導入された燃料によって発電する燃料電池部と、該電池部の発電に係わる情報を表示し得る表示部と、を備えるカード。
【請求項2】
前記電池部の起電力の大きさが異なる複数種のカード群によって構成されている、請求項1記載のカード。
【請求項3】
前記起電力の大きさがカードに描写された図柄又は情報の種類と関係付けられている、請求項2記載のカード。
【請求項4】
前記電池部は、バイオ燃料電池部である、請求項1から3のいずれかに一項に記載のカード。
【請求項5】
外部装置と電気的に接続可能な端子を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載のカード。
【請求項6】
燃料供給部と、該燃料供給部から導入された燃料によって発電する燃料電池部と、該燃料電池部の起電力に基づく情報を表示する表示部と、を少なくとも備えるカードと、
前記カードに形成された端子を介して電気的信号の送受信を行うことが可能に構成された外部装置と、
から構成されているカード情報処理システム。
【請求項1】
燃料供給部と、該燃料供給部から導入された燃料によって発電する燃料電池部と、該電池部の発電に係わる情報を表示し得る表示部と、を備えるカード。
【請求項2】
前記電池部の起電力の大きさが異なる複数種のカード群によって構成されている、請求項1記載のカード。
【請求項3】
前記起電力の大きさがカードに描写された図柄又は情報の種類と関係付けられている、請求項2記載のカード。
【請求項4】
前記電池部は、バイオ燃料電池部である、請求項1から3のいずれかに一項に記載のカード。
【請求項5】
外部装置と電気的に接続可能な端子を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載のカード。
【請求項6】
燃料供給部と、該燃料供給部から導入された燃料によって発電する燃料電池部と、該燃料電池部の起電力に基づく情報を表示する表示部と、を少なくとも備えるカードと、
前記カードに形成された端子を介して電気的信号の送受信を行うことが可能に構成された外部装置と、
から構成されているカード情報処理システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−248509(P2011−248509A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119356(P2010−119356)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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