説明

燃料電池用の膜の製造方法

【課題】内部が複数のポリフッ化ビニリデンの微細なファイバーを具備する複数の微細柱の配列を有する表面を具備するポリマー電解質膜を製造する方法を提供する。
【解決手段】膜の表面に形成された微細柱は、3μm以上11μm以下の深さ、および0.4以上1.5以下のアスペクト比を具備する。ポリフッ化ビニリデンの微細柱は、0.7μm以上2.0μm以下の平均直径を具備する。膜に含まれる微細ファイバーの量は、膜の幾何学的な表面積1.0cm2あたり0.2mg以上0.6mg以下である。本発明は、(A)膜に対称な表面構造を有する型を製造する工程、(B)親水性ポリマー電解質溶液を型に注ぐ工程、(C)溶液の上にポリフッ化ビニリデンの微細粉末を噴霧する工程、(D)溶液を固化し、膜を形成する工程、(E)膜を水に浸漬する工程、および(F)水中で型から膜を取り出す工程を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用の膜の製造方法に関する。より詳しくは、プロトン交換膜燃料電池用のポリマー電解質膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1と非特許文献1は、その表面に微細な四面孔の周期的な配列を有するポリマー電解質膜を製造する方法を開示している。膜が膜/触媒界面の活性表面積を増加するので、膜を利用しているプロトン交換膜燃料電池(PEMFC)の性能は向上する。これらの文献によると、膜のモノマーおよび重合開始剤を含有する電解質溶液が、周期的な微細四辺柱構造を有する型に流し込まれる。その後、紫外線光で溶液を照射することによってモノマーを重合させ、型の上に膜を形成する。膜は、型から剥がされる。膜の表層構造は、型の表面構造に対して完全に対称的である。
【0003】
非特許文献2は、微細なポリフッ化ビニリデン(PVDF)ナノファイバーを含有するパーフルオロスルホン酸膜(Nafion)を具備している直接メタノール燃料電池を開示している。燃料クロスオーバーを減らす膜でのナノファイバーのネットワーク構造のために、複合膜による燃料電池の性能の向上が見られる。非特許文献1は、Nafion-PVDF複合膜を作る方法を開示している。非特許文献1では、ナフィオン分散液が電子回転法によって用意された延伸PVDFナノファイバー膜上に注がれる。溶媒を除去することによって、複合膜が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2007−525802号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Z. L. Zhou et al., 'Molded, high surface area polymer electrolyte membranes from cured liquid precursors', Journal of the American Chemical Society, 2006, Vol. 128, pp. 12963-12972..
【非特許文献2】S. W. Choi et al., 'Nafion-impregnated electrospun polyvinylidene fluoride composite membranes for direct methanol fuel cells', Journal of Power Sources, 2008, Vol. 180, pp. 167-171.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および非特許文献1に開示される膜上に形成された微細な四面孔は、幅3.0マイクロメートルかつ深さ1.4〜3.0マイクロメートルである。プロトン交換膜燃料電池(PEMFC)の性能をさらに向上させるために、より大きな表面積を有する膜が望まれる。そのような膜は微細孔のアスペクト比(深さ/幅)を増やすことによって得られ得るが、燃料電池を長い間動作させると高いアスペクト比を有する微細孔の安定性は疑わしくなる。
【0007】
非特許文献1では、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)ナノファイバーは、膜内に均一に分布している。メタノール燃料が膜を超えてしまうことも抑制する3Dネットワーク構造によって、ナノファイバーは膜の機械的強度を向上している。しかし、これは膜のプロトン伝導性を低下させる。なぜなら、プロトン伝導経路のための断面が大きく低下するからである。これにより、燃料電池の性能は低下してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は、内部が複数のポリフッ化ビニリデンの微細なファイバーを具備する複数の微細柱の配列を有する表面を具備するポリマー電解質膜を製造する方法を提供する。
【0009】
本発明は、以下の工程(A)〜(F)を具備する。
【0010】
(A) 膜に対称な表面構造を有する型を製造する工程、
(B) 親水性ポリマー電解質溶液を型に注ぐ工程、
(C) 溶液の上にポリフッ化ビニリデンの微細粉末を噴霧する工程、
(D) 溶液を固化し、膜を形成する工程
(E) 膜を水に浸漬する工程、および
(F) 水中で型から膜を取り出す工程。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、微細なPVDFファイバーを具備する内部を有する微細な柱の周期的な配列を具備するポリマー電解質膜を形成することができる。従来の平坦な膜よりも優れた柱状構造膜の高い表面積のため、膜を利用するプロトン交換膜燃料電池(PEMFC)では性能の向上が見られる。さらに、膜の内部を占有しているポリフッ化ビニリデン(PVDF)ナノファイバーは、燃料電池の長い間の動作に対する柱状構造膜の耐久性を向上させる。ファイバーは、膜の柱状部分にしか存在しないため、プロトン伝導性の低下は最小限に抑制される。このため、プロトン交換膜燃料電池(PEMFC)の性能および耐久性は、膜を利用することによって向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ポリマー電解質膜の本願製造方法のためのフローチャート
【図2】本願膜電極アセンブリの断面図
【図3】本願燃料電池の断面図
【図4】本発明のポリマー電解質膜および従来のポリマー電解質膜を用いた燃料電池の電流−電圧カーブ
【図5】ポリフッ化ビニリデンの微粉末を含有する柱の周期的な配列を有する膜を用いた燃料電池およびポリフッ化ビニリデンの微粉末を含有しない柱の周期的な配列を有する膜を用いた燃料電池の電流−電圧カーブ
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の内容および効果をさらに明瞭にするために、適切な例が、以下、説明される。
【0014】
(実施形態1)
図1は、PEFC用のポリマー電解質膜の本願製造プロセスを表す。工程(a)では、複数の微細孔の配列を有する表面を具備する型101が準備される。各微細孔は、親水性の底面壁および親水性の側壁を具備する。各側壁は平滑である。各孔は、3.5マイクロメートル以上11マイクロメートル以下の深さ、および0.4以上1.5以下のアスペクト比を有する。
【0015】
型101を製造する手順が以下、説明される。1つの方法では、複数の微細孔が、ボッシュ・エッチング・プロセスで疎水性基板の表面に形成され、疎水性の型が形成される。ボッシュ・エッチング・プロセスは、基板の表面に深い孔を形成するためのものである。その後、紫外光−オゾン処理によって、微細孔の底面壁および側壁に親水性処理を行い、型101を得る。他の方法では、複数の微細孔が、親水性の基板の表面にボッシュ・エッチング・プロセスにより形成される。ボッシュ・エッチング・プロセスにより、平滑な側壁を有する微細孔を形成することができる。より詳細には、側壁は、0.05マイクロメートルの平均表面粗さを有する。これにより、型101内にポリマー電解質膜がこびりつくことが防止され、そして工程(e)において型から膜が取り出されるときに、その微細な柱状構造が保護される。
【0016】
用語「親水性」は、本明細書においては、型101上での水の接触角が20度以下であることを意味する。工程(b)では、親水性ポリマー電解質溶液102は、型101の表面に供給される。すなわち、溶液102は型101に流し込まれる。溶液102は、ポリマー電解質および親水性溶媒を含む。溶液の溶媒は、水およびイソプロパノールからなることが好ましい。溶液102が型101に流し込まれるとき、親水性相互作用のため、溶液102は型101の孔を満たす。
【0017】
工程(c)では、溶液102が型101に流し込まれた直後に、微細なPVDFファイバーが電子回転法によって溶液102の上から噴霧される。ファイバーは溶液の中に沈んで、主に型101の微細孔を占める。ファイバーは、微細柱の機械的強度を向上する。このため、膜に形成された微細構造の耐久性が高められる。PVDFファイバーを含有する柱を有する固体膜103は、オーブンの中で溶液を乾燥させることよって得られる。
【0018】
工程(d)では、型101の上で形成された膜103が、水104を含有する溶液に浸漬される。親水性相互作用により互いに強く付着された膜103および型101の間の界面に、水104が浸入する。膜103と型101の間の水104は、強い粘着力を弱める。これにより、膜103の除去が簡単になる。
【0019】
工程(e)では、膜103は水の中で型101から剥がされる。このようにして、内部が微細なPVDFファイバーによって占められている複数の微細中の配列を有する表面を具備するポリマー電解質膜が製造される。微細柱は、3.5マイクロメートル以上11.0マイクロメートル以下の深さ、0.4以上1.5以下のアスペクト比を有する。柱の内部を占める微細なPVDFファイバーは、0.7マイクロメートル以上2.0マイクロメートル以下の平均直径を有する。
【0020】
図2に示される触媒被覆膜の製造は、カソード触媒層106およびアノード触媒層107を膜103の両側に配置させることによって完了する。図3は、燃料電池アセンブリの図である。201および202は、それぞれ、ガス核酸層およびセパレーターである。セパレーター202は、水素および空気をそれぞれアノードおよびカソードに供給するための流路を有する。微細柱状構造を有する膜表面は、カソードに用いられる。図4は、本発明の燃料電池の電流−電圧性能を表す。この結果は、従来の燃料電池の結果と比較される。図5は、ポリフッ化ビニリデンの微粉末を含有する柱の周期的な配列を有する膜を用いた燃料電池およびポリフッ化ビニリデンの微粉末を含有しない柱の周期的な配列を有する膜を用いた燃料電池の電流−電圧カーブを示す。
【0021】
(実施例1)
ボッシュ・エッチング・プロセスに基づくフォトリソグラフィーを用いて、15センチメートルの直径を有する単結晶シリコンウェハの中央に、周期的な四面孔構造を形成することによって、シリコン型を作製した。微細構造を有する領域は、6センチメートル×6センチメートルであった。孔構造は、7.5マイクロメートルの深さ、15.0マイクロメートルのピッチ、および11.0マイクロメートルの深さであった。電子顕微鏡分析により、孔の側壁の平均表面粗さは0.05マイクロメートル以下であった。この型に、110℃で10分間のUV−オゾン洗浄を介して親水性処理が施された。親水性処理の後では、水に対する型の接触角は20度以下であった。
【0022】
溶媒として50/50重量%の水/イソプロパノールを含有する9mlのパーフルオロスルホン酸ポリマー電解質溶液(濃度:14%、当量:830)が、親水性シリコン型に流し込まれた。ポリマー溶液および型は、両方とも親水性であるため、ポリマー溶液は親水性相互作用によって型の上で微細孔を満たす。
【0023】
型にポリマー溶液を流し込んだ直後に、0.7マイクロメートルの平均直径を有する微細なPVDFファイバーが、電子回転法によってポリマー溶液上に噴霧された。ナノファイバーは、溶液の表面に浮かぶことなく、溶液中に沈んでいった。PVDFの10重量%のジメチルアセトアミド溶液が、15kVでの1ミリメートルの開口部、2.0ミリリットル/時間の流量、および15cmの溶液距離の針を有する注射針を介して電子回転のために用いられた。PVDFファイバーの総重量が型の幾何学的な表面積1cm2あたり0.4mgになるような方法で、噴霧時間が制御された。
【0024】
PVDFファイバーを含有するポリマー電解質溶液を周囲条件で一晩放置することによって、ポリマー溶液膜が型に形成された。型上の膜は、真空下で100℃で1時間加熱され、膜に存在する微量の溶媒を除去した。
【0025】
加熱した膜を室温まで冷やした後に、膜は純水に浸漬された。膜は水中で型から徐々にはがされた。はがされた膜上の水滴がティッシュによって拭かれた後、窒素が流れるデシケーター内で膜を乾燥した。膜の取り外しは、水中で行うことにより容易になった。なぜなら、膜および型の間の界面に水が染み入ることにより、型に対する膜の接着力が弱まったからである。
【0026】
膜面は、7.5マイクロメートルの幅、11.0マイクロメートルの高さ、および15.0マイクロメートルのピッチを有する複数の微細柱の配列を有していた。この構造は、型の構造に対して正確に対称的であった。柱を除く膜の平均厚みは55マイクロメートルであった。
【0027】
図1(f)は、内部がPVDFファイバーを具備する微細柱を有する膜の電子顕微鏡断面像の図を示す。この図で示されるように、大部分のナノファイバーは、膜の柱の部分に見られる。
【0028】
50%の白金重量比を有するケッチェンブラックに担持された白金ナノ粒子(田中貴金属)が、触媒に用いられた。ナフィオン容器(当量:1100)を白金担持触媒と混合することによって、触媒スラリーが生成された。膜の両面に触媒スラリーを噴霧することによって、膜電極アセンブリ(MEA)が作製された。微細柱を有する膜の表面は、カソード側に用いられた。MEAは100℃、1MPaで5分間ホットプレスされ、膜に対する触媒の接着力を向上させた。
【0029】
40℃に制御されたバブラーを介して、アノードおよびカソードに、それぞれ、加湿された水素および空気を供給することによって、70℃のセル温度でプロトン交換膜燃料電池(PEMFC)に関する電流−電圧カーブが得られた。ガスの利用は、水素および空気に対して、それぞれ、70%および50%に設定された。
【0030】
図4は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)ファイバーを含有する微粒子を有する膜の燃料電池の性能および従来の平坦な膜の燃料電池の性能を示す。データは、72時間の初期条件設定時間の後に記録された。ファイバーを含有する微細柱を有する膜は、特に高電流密度領域で、平坦な膜よりも良好な性能を示した。
【0031】
図5は、1000時間の全作動時間での、ファイバー化されたポリフッ化ビニリデン(PVDF)を有する柱を有する膜の燃料電池の性能と、ファイバー化されたポリフッ化ビニリデン(PVDF)を有さない柱を有する膜の燃料電池の性能を比較している。この結果によれば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)ファイバーを柱に導入することによって、燃料電池の性能の低下を抑制できることが分かる。
【0032】
(実施例2)
実施例1における同一の膜製造手順を用いて、1.0マイクロメートルおよび2.0マイクロメートルの異なる直径を有する微細柱を有する2つの膜が用意された。得られた膜は、実施例1において説明された従来の平坦な膜を超えた優位性と同じ優位性を示した。
【0033】
(実施例3)
実施例1および実施例2における同一の膜製造手順を用いて、PVDFファイバーの総重量が型の幾何学的な表面積1cm2あたり0.2および0.6mgになるように調整することによって、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)ファイバーの噴霧時間を変更した。得られた膜は、実施例1において説明された従来の平坦な膜を超えた優位性と同じ優位性を示した。
【0034】
(実施例4)
さらに2つのシリコン型が作製された。型は、実施例1において用いられた型と同じ幅およびピッチを有しているが、3.5マイクロメートルおよび7.0マイクロメートルの異なる孔深さを有している。ポリフッ化ビニリデン(PVDF)ファイバーを含有する微細柱を有する2つの膜が、実施例1において記述された手順と同じ手順で作製された。これらの膜は、表1において示された従来に平坦な膜よりも良好な性能を示したが、11.0マイクロメートルの柱高さを有する膜よりも性能が劣っていた。
【0035】
(比較例1)
平坦なシリコン型が利用されたこと、およびポリフッ化ビニリデン(PVDF)ファイバーが噴霧されなかったこと以外は、実施例1において記述されたのと同じ手順によって、平坦なポリマー電解質膜が作製された。
【0036】
(比較例2)
ポリフッ化ビニリデン(PVDF)ファイバーを含有しない微細柱を有するポリマー電解質膜が、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)ファイバーがポリマー電解質溶液上で噴霧されないことを除いて実施例1に記述されたのと同じ手順によって作製された。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、内部がポリフッ化ビニリデンのファイバーを具備する四面柱の周期的な配列を有するポリマー電解質膜を製造する方法を提供する。
【符号の説明】
【0038】
101:型
102:ポリマー電解質膜
103:ポリフッ化ビニリデンのファイバー
104:水
105:ポリフッ化ビニリデンのファイバーを具備する柱を有する膜
106:陰極触媒層
107:陽極触媒層
201:ガス拡散浸透層
202:セパレーター



【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部が複数のポリフッ化ビニリデンの微細なファイバーを具備する複数の微細柱の配列を有する表面を具備するポリマー電解質膜を製造する方法であって、
以下の工程(A)〜(F)を具備する:
(A) 膜に対称な表面構造を有する型を製造する工程、
(B) 親水性ポリマー電解質溶液を型に注ぐ工程、
(C) 溶液の上にポリフッ化ビニリデンの微細粉末を噴霧する工程、
(D) 溶液を固化し、膜を形成する工程
(E) 膜を水に浸漬する工程、および
(F) 水中で型から膜を取り出す工程。
【請求項2】
請求項1の微細柱であって、3マイクロメートル以上11マイクロメートル以下の深さ、および0.4以上1.5以下のアスペクト比をさらに具備する。
【請求項3】
請求項1のポリフッ化ビニリデンの微細柱であって、0.7マイクロメートル以上2.0マイクロメートル以下の平均直径をさらに具備する。
【請求項4】
請求項3の微細ファイバーの量が、膜の幾何学的な表面積1.0cm2あたり0.2ミリグラム以上0.6ミリグラム以下である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−216446(P2012−216446A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−81459(P2011−81459)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】