説明

燃料電池用アルミニウム板及びそれを用いたセパレータ並びにエンドプレート及びそれらを用いた燃料電池並びにそれらの補修方法。

【課題】電気抵抗(接触抵抗)が低く、且つ、耐食性、特に耐酸性に極めて優れた燃料電池用アルミニウム板、及び、そのようなアルミニウム板を用いてなるセパレータ、更にはエンドプレート、加えて、それらを備えた燃料電池並びにそれら燃料電池のセパレータ又はエンドプレートの補修方法を提供すること。
【解決手段】酸化皮膜が除去された所定厚さのアルミニウム板表面に、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィン樹脂と所定の導電材とからなる2層構造の導電性塗膜であって、且つ2層からなる導電性塗膜におけるアルミニウム板表面側の1コート目の塗膜が、20〜60質量%の割合で導電材を含んで形成されていると共に、かかる1コート目の塗膜の上に更に配される2コート目の塗膜が、5〜40質量%の割合の導電材を含有し、且つ1コート目の塗膜中の導電材量よりも少ない導電材量において構成されている導電性塗膜を形成せしめた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用アルミニウム板及びそれを用いたセパレータ並びにエンドプレート及びそれらを用いた燃料電池並びにそれらの補修方法に係り、特に、固体高分子型燃料電池のセパレータ及びエンドプレートを作製する際に好適に用いられる燃料電池用アルミニウム板、及び、それを用いて製造されたセパレータ並びにエンドプレート、更には、それらを備えた燃料電池、並びにセパレータ又はエンドプレートの補修方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、使用される電解質によって、固体高分子型、リン酸型、溶融炭酸塩型、固体電解質型等に分類される。これらの中でも、電解質として陽イオン交換膜を使用する固体高分子型燃料電池は、他の燃料電池と比較して、運転温度が低く、また、出力密度が高いことから小型化にも適しており、更には、構成部材が固体であり、振動や衝撃に晒される用途にも利用可能である等の長所を有しているところから、近年、車載用電源、定置及び家庭用電源等としての研究、開発が、盛んに行なわれている。
【0003】
かかる固体高分子型燃料電池は、他の燃料電池と同様に、電解質(陽イオン交換膜)の両面を2枚の電極で挟持してなる単位電池が、セパレータを介して、複数個、積層せしめられて、構成されているのであり(固体高分子型燃料電池スタック)、その両側から2枚のエンドプレートにて挟持された状態にて、所定の燃料電池収容ケース内等に保持されるようになっている。そして、各単位電池に、水素含有ガス(燃料ガス)及び酸素含有ガス(一般には空気)が供給されると、単位電池において、酸素と水素との電気化学反応により起電力が生じ、また、各単位電池が直列的に接続せしめられているところから、燃料電池全体として、所望とする電圧及び電力が得られるのである。
【0004】
そして、そこにおいて、固体高分子型燃料電池の単位電池間に介在せしめられるセパレータは、水素含有ガス及び酸素含有ガスのそれぞれの流路を形成し、それらのガスを分離すると共に、隣り合う単位電池双方の電極(一方の単位電池における燃料極及び他方の単位電池における空気極)と接触して、かかる単位電池同士を電気的に接続するものであるところから、燃料電池の発電効率に鑑みれば、その電気抵抗(接触抵抗)は小さいことが望ましい。また、各単位電池における電解質(陽イオン交換膜)は、湿潤状態にて保持されているところ、セパレータより各種イオンが溶出すると、電解質におけるイオン伝導能力が低下する恐れがあることから、セパレータには、耐酸性及び耐アルカリ性が優れていることも要求される。これらの事情により、従来の固体高分子型燃料電池においては、セパレータとして、高密度焼成カーボン板材等の炭素材料よりなるものが、広く用いられている。
【0005】
しかしながら、炭素材料は脆く、割れやすいものであるため、例えば、炭素材料を用いて、振動や衝撃に晒される環境下において使用される燃料電池用のセパレータを作製する際には、所定以上の厚さとする必要があったのであり、そのような所定以上の厚さとされたセパレータは、燃料電池の小型化を阻害する要因となっていた。
【0006】
また、炭素材料は、一般的に高価であり、更に、ガスの流路となる多数の溝やフランジを形成せしめる際の加工費も高価であるところから、炭素材料よりなるセパレータを用いることは、燃料電池全体の価格を高騰させる要因ともなっていた。
【0007】
このため、従来の炭素材料よりなるセパレータに代わるものとして、近年、様々な金属板を用いた燃料電池用セパレータ材料及び燃料電池用セパレータについて、研究、開発が盛んに進められているのであり、これまでにも種々のものが提案されている。
【0008】
例えば、特許文献1(特開平10−228914号公報)においては、ステンレス鋼等の金属製部材からなる燃料電池用セパレータであって、単位電池の電極との接触面に直接金メッキを施したことを特徴とするものが提案されており、また、特許文献2(特開2003−193206号公報)においては、ステンレス鋼表面に、導電性を有する所定の炭化物系金属介在物及び硼化物系介在物のうちの1種以上が分散、露出しており、かかるステンレス鋼の表面粗さが所定の範囲内とされた固体高分子型燃料電池のセパレータ用ステンレス鋼が、提案されている。
【0009】
また、基体(基材)としての金属の表面を、導電性粒子と、接着成分たる樹脂とからなる導電性塗料にて被覆してなる燃料電池用セパレータ材料及び燃料電池用セパレータについても研究が進められており、例えば、以下のようなものが提案されている。
【0010】
具体的には、特許文献3(特開平11−345618号公報)においては、表面を酸洗したオーステナイト系ステンレス鋼を基材とし、導電剤たるグラファイト粉末とカーボンブラックとの混合粉末と、ポリオレフィン系樹脂とからなる導電性塗膜が、基材表面に3〜20μm形成されていることを特徴とする固体高分子型燃料電池用塗装金属セパレータ材料が提案されており、また、特許文献4(特開2002−50366号公報)においては、金属基体の表面が、導電性セラミックスを含む導電性粒子と、フラン樹脂、エポキシ樹脂、又はフッ化ビニリデン樹脂とからなる樹脂組成物にて被覆された固体高分子型燃料電池用金属セパレータが、提案されている。更に、特許文献5(特開2004−111079号公報)においては、Al等のダイカスト製の金属セパレータ基材上に、樹脂を含む金属系導電性塗料によって構成される第一塗装層を設け、該第一塗装層上に、樹脂を含む黒鉛系導電性塗料によって構成される第二塗装層を設けてなる燃料電池用金属セパレータが、提案されている。
【0011】
これら各特許文献にて提案されている燃料電池用セパレータ材料乃至は燃料電池用セパレータにあっては、何れも、基材として、ステンレス鋼等の金属が用いられているところから、反応ガスの流路となる溝やフランジを、プレス加工やパンチング加工等の比較的簡易で、安価な手法によって形成することが可能であり、従来の炭素材料を用いた場合と比較して、セパレータ作製の際のコストが有利に削減され得ると共に、セパレータ本体、ひいては燃料電池の小型化をも可能ならしめるものとなっている。
【0012】
しかしながら、それらの特許文献において開示されている燃料電池用セパレータ材料及び燃料電池用セパレータのうち、特許文献1等にて提案されている如き、ステンレス鋼を用いるものにあっては、ステンレス鋼の密度が大きいことに起因して、得られるセパレータの重量が重くなり、その結果、燃料電池全体の重量も重くなるという問題があった。このため、例えば、ステンレス鋼製のセパレータを用いた燃料電池を自動車に搭載すると、燃費が悪化するという欠点があった。
【0013】
また、特許文献1にて提案されているような、金属基体(基材)の表面が金メッキされた燃料電池用セパレータにあっては、電気抵抗が低いという点においては優れたものであるものの、その加工(金メッキ)に費用がかかることから、経済的な点において問題があった。
【0014】
さらに、特許文献3等において提案されている如き、基材となる金属の表面に、各種導電性塗料を塗装してなるセパレータ材料等にあっては、セパレータの耐食性(耐酸性、耐アルカリ性)を確保するために、塗装膜の厚さを3〜数百μmとする必要があったため、必然的に電気抵抗が増大するという問題があった。また、かかる導電性塗料を構成する樹脂として、フラン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、又はアクリル樹脂を使用したものは、それにより生成される塗膜が、要求される耐酸性及び耐アルカリ性を長期間に亘って維持することは困難であり、また、オレフィン樹脂やフッ素系樹脂を用いると、基材たる金属との間の密着性に問題があったのである。
【0015】
かかる状況下、本発明者等は、先に、特許文献6(特開2006−302633号公報)において、酸化皮膜が除去された、厚さが0.1〜2.0mmのアルミニウム板の表面に、導電材とα,β−エチレン性不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィン樹脂とを含む混合物からなる塗膜が、0.1〜10μmの厚さにて形成されていることを特徴とする燃料電池用アルミニウム板を、明らかにした。このような燃料電池用アルミニウム板においては、基材としてのアルミニウム板表面に、所定の導電材と共に、塗膜を形成せしめるための樹脂として、優れた耐食性を有するα,β−エチレン性不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィン樹脂を用いて、目的とする塗膜が形成されてなるものであるところから、かかるアルミニウム板にあっては、優れた耐食性(耐酸性及び耐アルカリ性)が発揮せしめられることとなる。
【0016】
しかしながら、本発明者等が更に検討した結果、そのような特許文献6において明らかにされているようなアルミニウム板にあっても、燃料電池用のアルミニウム板として用いるには、実用上において、耐食性が未だ充分ではなく、特に、耐酸性の点において、更なる改善の余地を有するものであることが明らかとなったのである。
【0017】
また、かかる特許文献6には、そのようなアルミニウム板を用いて得られる燃料電池のセパレータ又はエンドプレートの製造方法として、導電性塗料を、アルミニウム板の表面に塗布せしめて、乾燥させた後に、目的とするセパレータの大きさにプレス加工(剪断加工)により切断し、かかる切断されたものに対して、プレス機による曲げ加工等を施すことにより、反応ガスの流路となる溝やフランジを形成せしめることが明らかにされているのであるが、本発明者等の検討により、かかるセパレータ又はエンドプレートの製造に際して、プレス機による剪断加工を実施した場合には、切り出されたアルミニウム板のエッジ部分(端面)は塗膜が存在せず、アルミニウム素地が露出し、このため、端面の耐食性が低下して、セパレータやエンドプレート全体としての耐食性も低いものとなることが明らかとなった。加えて、そのようなアルミニウム板を燃料電池のセパレータとして使用した場合には、端面に露呈する塗膜とアルミニウム板との界面に、電解質の酸性液が侵入することにより、導電性塗膜が剥離せしめられるという問題も内在することが明らかとなったのである。
【0018】
【特許文献1】特開平10−228914号公報
【特許文献2】特開2003−193206号公報
【特許文献3】特開平11−345618号公報
【特許文献4】特開2002−50366号公報
【特許文献5】特開2004−111079号公報
【特許文献6】特開2006−302633号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決すべき課題とするところは、電気抵抗(接触抵抗)が低く、且つ、耐食性、特に耐酸性に極めて優れた燃料電池用アルミニウム板、及び、そのようなアルミニウム板を用いてなるセパレータ、更にはエンドプレート、加えて、それらを備えた燃料電池並びにそれら燃料電池のセパレータ又はエンドプレートの補修方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
そして、本発明は、かかる課題を解決するために、酸化皮膜が除去された、厚さが0.1〜2mmのアルミニウム板表面に、2層からなる導電性塗膜が、1〜20μmの全塗膜厚さを与えるように形成されてなる燃料電池用アルミニウム板にして、該導電性塗膜を構成する各々の塗膜が、ベース樹脂として、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィン樹脂を用い、また導電材として、金又は白金でそれぞれ被覆された、活性炭、黒鉛、カーボンブラック及び気相法炭素繊維のうちの少なくとも1種からなる、平均粒径が1〜20μmの粒状物を用いて形成され、且つ各々の塗膜の厚さ(h)と導電材の平均粒径(d)との関係が、次式:h≦d≦5hを満足するように構成され、更に該2層からなる導電性塗膜における前記アルミニウム板表面側の1コート目の塗膜が、20〜60質量%の割合で前記導電材を含んで形成されていると共に、該1コート目の塗膜の上に更に配される2コート目の塗膜が、5〜40質量%の割合の前記導電材を含有し、且つ該1コート目の塗膜中の導電材量よりも少ない導電材量において形成されていることを特徴とする燃料電池用アルミニウム板を、その要旨とするものである。
【0021】
なお、そのような本発明に従う燃料電池用アルミニウム板における好ましい態様の一つによれば、前記1コート目の塗膜の厚さは0.5〜10μmであり、且つ前記2コート目の塗膜の厚さは0.5〜10μmであるのであり、更に別の好ましい態様の一つにあっては、前記変性されたポリオレフィン樹脂は、無水マレイン酸にて変性されたポリプロピレンである。
【0022】
また、本発明は、かかる燃料電池用アルミニウム板を用いて得られる燃料電池のセパレータ及びエンドプレートをも、その要旨としている。そして、そのような本発明に従うセパレータにおいて、前記アルミニウム板は、30〜60MPaの耐力及び20〜40%の伸びを有していることが好ましい。
【0023】
加えて、本発明は、そのようなセパレータ又はエンドプレートを備えた燃料電池を対象としている他、セパレータ又はエンドプレートをプレス成形する際、前記アルミニウム板の露出した無塗装の部分を、前記ベース樹脂は含有するが、前記導電材は含有しない塗料を用いて塗装することを特徴とする燃料電池のセパレータ又はエンドプレートの補修方法をも、その要旨とするものである。
【発明の効果】
【0024】
このように、本発明に従う燃料電池用アルミニウム板にあっては、その表面に、優れた耐食性及びアルミニウム板への優れた密着性を有する、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィン樹脂からなる導電性塗膜が、特定の導電材を用いて、その含有量を異ならしめた2層において形成されてなるものであるところから、従来の燃料電池用アルミニウム板に比して、電気抵抗が効果的に低下せしめられ、且つ、極めて優れた耐食性、特により一層高度な耐酸性を発揮することが出来るようになるのである。
【0025】
そして、かかる本発明に従う燃料電池用アルミニウム板を用いて作製されたセパレータ及びエンドプレートは、小型で、且つ、軽量性が要求される固体高分子型燃料電池、例えば、車載用の燃料電池において、特に有利に用いられることとなる。
【0026】
また、本発明に従う燃料電池のセパレータ又はエンドプレートの補修方法に従って、セパレータ又はエンドプレートのプレス成形(剪断加工)の際に、アルミニウム板の露出した無塗装の部分が、ベース樹脂は含有するが、導電材は含有しない塗料を用いて塗装するようにすれば、セパレータ又はエンドプレートの全体としての耐食性の確保を、更に効果的に図り得るのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
ところで、一般的に入手可能なアルミニウム板の表面には、その製造の際における熱間処理、冷間処理、熱処理等によって、厚さが5〜500nm程度の比較的厚い酸化皮膜が形成されているところから、本発明に係る燃料電池用アルミニウム板を作製するに際しては、先ず、入手したアルミニウム板表面を被覆している酸化皮膜を、従来より公知の各種の手法に従って、除去することが重要である。そして、本発明に従う燃料電池用アルミニウム板にあっては、そのように酸化皮膜が除去されると共に、その表面に形成する塗膜としては、後述するような、比較的膜厚の薄い導電性塗膜が採用されるものであるところから、従来の金属製セパレータ材料等と比較して、その電気抵抗(接触抵抗)が、極めて低いものとなるのである。
【0028】
なお、アルミニウム板に形成されている酸化皮膜の除去は、従来より公知の手法に従って、適宜に実施されることとなるが、例えば、入手したアルミニウム板の表面を、硫酸、硝酸等の酸や、水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウム等のアルカリ溶液を用いて洗浄し、水洗、乾燥する手法が、有利に用いられる。
【0029】
また、そのような酸若しくはアルカリを用いて洗浄、水洗し、乾燥した後のアルミニウム板を、大気中に放置しておくと、その表面には、再び酸化皮膜が形成されることとなるが、それにより生成する酸化皮膜は比較的薄い(厚さ:0.5〜5nm程度)ものであり、一般的に、洗浄前のアルミニウム板と比較して、その電気抵抗は低いものとなるのである。従って、そのような薄い酸化皮膜が形成されたアルミニウム板を用いた場合にあっても、本発明の有利な効果を享受することが可能のなるのであり、本願明細書及び特許請求の範囲における「酸化皮膜が除去された」アルミニウム板とは、その表面の酸化皮膜が、酸やアルカリ水溶液等を用いて完全に除去された状態のアルミニウム板のみならず、表面の酸化皮膜が一旦、除去された後、大気中に放置等されることにより、再度、比較的薄い(厚さ:0.5〜5nm程度)酸化皮膜が表面に形成されているものも、含まれるものである。
【0030】
そして、本発明においては、そのようにして表面の酸化皮膜が除去されたアルミニウム板の中でも、厚さが0.1〜2mmのアルミニウム板が、用いられることとなる。なお、厚さが0.1mm未満のアルミニウム板を用いた燃料電池用アルミニウム板では、それを用いてセパレータを作製すると、得られるセパレータの強度(剛性)が不足し、座屈し易くなる恐れがある。一方、厚さが2mmを超えるアルミニウム板を用いると、それより得られる燃料電池用アルミニウム板をプレス加工する際に、凹凸形状が出難くなり、セパレータにおける水素含有ガス(燃料ガス)及び酸素含有ガス(空気)の流路の確保が難しくなると共に、その厚みが増すことによって燃料電池全体の厚みも増し、重量も大きくなるという問題がある。
【0031】
より具体的には、本発明の燃料電池用アルミニウム板を用いてセパレータを作製する際には、一般に、かかる燃料電池用アルミニウム板に対してプレス機による曲げ加工が施されることにより、燃料ガス及び空気の流路となる溝が形成せしめられる(図1参照)。そのようにして得られたセパレータを介して、燃料極、固体高分子電解質及び空気極からなる単位電池が、複数個、積層せしめられて、燃料電池スタックをなし(図2及び図3参照)、そして、この燃料電池スタックは、単位電池の積層方向における両端からエンドプレート等により押さえ付けられた状態にて、所定の燃料電池収容ケース内に保持される(図4参照)。従って、厚さが2mmを超えるアルミニウム板や、0.1mm未満のものを用いた燃料電池用アルミニウム板では、それを用いて作製されたセパレータが、セパレータとして要求される機能を充分に発揮し得ない恐れがあるのである。
【0032】
なお、本発明において用いられるアルミニウム板としては、従来より公知の各種の材質ものであれば、何れも用いることが可能であり、例えば、1000番系アルミニウム、3000番系アルミニウム合金、及び5000番系アルミニウム合金の板材の中から、セパレータ又はエンドプレートを作成する際の成形性や、セパレータ等に必要とされる強度等を考慮して、目的とするセパレータ等に応じたものが適宜に選択されて、用いられることとなるのであるが、特に、セパレータに用いられるアルミニウム板としては、30〜60MPaの耐力及び20〜40%の伸びを有していることが望ましく、それにより、プレス後の反りを小さくすることが出来、また、ハンドリング時の剛性が充分に満足出来るものとなるところから、アルミニウム板の厚み(重量)を少なくすることが可能となるのである。
【0033】
一方、そのようなアルミニウム板と共に、アルミニウム板表面に所定の導電性塗膜を形成せしめるための導電性塗料が準備されるのであるが、本発明においては、基材としてのアルミニウム板表面に、導電材を保持しつつ、塗膜を形成せしめるためのベース樹脂として、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィン樹脂(以下、変性ポリオレフィン樹脂ともいう)が用いられるのである。かかる特定の変性ポリオレフィン樹脂を用いることにより、本発明の燃料電池用アルミニウム板にあっては、高い耐食性、特に、優れた耐酸性が有利に発揮され得ることとなるのである。また、かかる変性ポリオレフィン樹脂は、酸化皮膜が除去されたアルミニウム板表面に非常に強固に密着する特性を持つため、本発明に従う燃料電池用アルミニウム板にあっては、その表面に形成された導電性塗膜の剥離乃至は脱落が、有利に防止され得ることとなるのであり、以て、そのような導電性塗膜の剥離乃至は脱落による耐食性や導電性の低下が、有利に回避され得ることとなる。そして、本発明にあっては、そのような優れた耐食性及びアルミニウム板への優れた密着性を有する、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィン樹脂を、導電性塗膜のベース樹脂として用いるものであるところから、導電性塗膜の塗膜厚さを従来に比して薄くすることが可能となるのであり、従って、本発明における燃料電池用アルミニウム板全体の電気抵抗(接触抵抗)を、著しく低いものとすることが可能となるのである。
【0034】
ここで、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィン樹脂としては、従来より公知のものが、何れも使用可能である。具体的には、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、及びこれらの無水物等を例示することが出来、また、ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリブテン等を例示することが出来る。これらの中でも、本発明においては、無水マレイン酸で変性されたポリプロピレンが、特に有利に用いられる。
【0035】
また、導電性塗料に配合される導電材には、活性炭、黒鉛、カーボンブラック又は気相法炭素繊維を、金又は白金でそれぞれ被覆したものの中から選択した少なくとも1種からなる粒状物が用いられることとなる。本発明においては、公知の数多くの導電材の中から、そのような金又は白金で被覆してなる特定の粒状物を用いることによって、塗膜に有効な導電性を付与することが出来ることとなったのであり、しかも、このような軽くて且つ安価な活性炭等を粒子基体として用いた導電材を使用するものであるところから、燃料電池用アルミニウム板を有利に低コストにて製造し得るのである。
【0036】
さらに、本発明にあっては、かかる導電材として配合される粒状物の平均粒径として、1〜20μmの範囲内のものが用いられることとなる。なお、その平均粒径が小さ過ぎる場合には、隣り合う導電材間の距離が大きくなって、電気抵抗が上昇するようになるため、望ましくないのであり、一方、平均粒径が大き過ぎる場合には、導電材とベース樹脂との間に隙間が生じ、かかる隙間から酸性液が侵入して、耐食性が低下せしめられることとなるため、望ましくない。
【0037】
そして、本発明において、そのような平均粒径(d)を有する導電材は、更に、本発明に従う2層からなる導電性塗膜を形成すべく、その各々の塗膜厚さ(h)との関係において、次式:h≦d≦5hを満足するように、好ましくは、h≦d≦1.5hを満足するように構成される。そのような関係を満たす導電材を用いるようにすることにより、導電材が、ベース樹脂によって確実にアルミニウム板上に保持されて、塗膜形成後に導電材が脱落するようなことが有利に防止されると共に、導電性塗膜の電気抵抗が上昇することが有利に防止され得るのである。なお、導電材の平均粒径が、塗膜の厚さよりも小さい場合には、ベース樹脂によって電気的導通が妨げられ、電気抵抗が極めて大きくなるため望ましくなく、また導電材の粒径が塗膜の厚さに対して余りにも大きくなり、塗膜厚さの5倍を超えるような場合には、導電材が充分に保持されず、アルミニウム板から脱落する恐れがあるため、望ましくない。
【0038】
加えて、本発明にあっては、そのような導電材は、2層からなる導電性塗膜におけるアルミニウム板表面側の1コート目の塗膜において、20〜60質量%の範囲内の割合で含有せしめられると共に、1コート目の塗膜の上に配される2コート目の塗膜においては、5〜40質量%の範囲内の割合において含有せしめられ、且つ2コート目の塗膜は、1コート目の塗膜中の導電材量よりも少ない導電材量において、形成されることとなる。このように、本発明に従う燃料電池用アルミニウム板にあっては、1コート目と2コート目の導電材量の配合割合を上記のように設定することにより、耐食性及び導電性(電気抵抗)のバランスが、極めて良好なものとなるのである。なお、そのような導電材の配合量が少な過ぎると、塗膜が充分な導電性を発現し得ない恐れがあり、一方、その配合量が多過ぎると、相対的にベース樹脂の配合割合が少なくなり過ぎて、導電材のアルミニウム板への保持力が不充分になる恐れがあると共に、耐食性が低下する恐れがある。更に、導電材とベース樹脂との界面の面積が増大するため、かかる界面からの酸性液の侵入が増大し、それにより、燃料電池用アルミニウム板全体としての耐食性、特に耐酸性の低下が惹起せしめられる恐れがある。そして、本発明にあっては、酸性雰囲気下に晒される2コート目の塗膜中の導電材量が比較的少なく、換言すれば、ベース樹脂の配合割合が比較的多く設定されることにより、優れた耐食性が確保される一方、1コート目の導電材量が、2コート目よりも多く設定されることにより、より一層高度な耐久性、特に耐酸性を確保しつつ、電気的導通が確実に行なわれ得ることとなって、得られる燃料電池用アルミニウム板の電気抵抗が、有利に低減せしめられることとなる。また、かかる導電材量は、具体的には、上記した範囲内において、用いる変性ポリオレフィン樹脂の種類や塗膜の導電性及び耐食性、更には、アルミニウム板への密着性等を総合的に勘案して、適宜に決定されるのである。
【0039】
そして、上記の如きベース樹脂と導電材を用いて常法に従って調製された導電性塗料を、従来より公知の手法に従って、予め酸化皮膜が除去されたアルミニウム板表面に2層に塗布せしめて、乾燥等を行なうことにより、本発明に従う燃料電池用アルミニウム板が作製されることとなる。このように、本発明にあっては、上述したような優れた耐食性を有する変性ポリオレフィン樹脂をベース樹脂とする導電性塗膜が、アルミニウム板表面に2層に形成されてなるものであるところから、上述したような導電材量の設定による有利な特徴に加えて、2層のうちの1コート目或いは2コート目の何れか一方に、ピンホール等の塗膜欠陥が存在していた場合であっても、導電性塗膜全体としての塗膜欠陥の発生が、極めて著しく減少され得るという特徴をも有するのであり、以て、本発明に従う燃料電池用アルミニウム板は、極めて優れた耐食性を有するものとなる。
【0040】
ここで、アルミニウム板表面に導電性塗料の塗布を行なう際には、かかる表面に形成される導電性塗料の固化物(塗膜)の厚さが、全体(1コート目+2コート目)で、1〜20μmの全塗膜厚さを与えるような量において、塗布されることとなる。全塗膜厚さが1μm未満では、得られる燃料電池用アルミニウム板が充分な耐酸性を発揮し得ない恐れがあり、一方、厚さが20μm以上の塗膜を形成しても、燃料電池用アルミニウム板の導電性が低下するだけで、経済的に好ましくないからである。換言すれば、本発明の燃料電池用アルミニウム板においては、その表面に形成された塗膜の厚さが、全体で、1〜20μmと比較的薄くても、高い耐食性、特に、優れた耐酸性が発揮されるのである。
【0041】
なお、本発明にあっては、2層の導電性塗膜のそれぞれの塗膜の厚さは、特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜に決定されることとなるのであるが、好ましくは、2層の導電性塗膜のうち、アルミニウム板表面側の1コート目の塗膜の厚さが0.5〜10μmであり、かかる1コート目の塗膜の上に更に配される2コート目の塗膜の厚さが0.5〜10μmであるように設定されることとなる。このような範囲内の塗膜厚さとすることにより、上述したような本発明に従う導電性塗膜の特徴が、より一層有利に発揮され得るのである。
【0042】
そして、そのような導電性塗膜を、基材たるアルミニウム板表面に形成するに際しては、その手法は、特に限定されるものではなく、従来から公知の手法が何れも採用可能であるが、例えば、アルミニウム板コイルから引き出したアルミニウム板の両面に、導電性塗料を、ロールコート法等の手法により連続的に塗布した後、導電性塗料に含まれる変性ポリオレフィン樹脂の軟化温度以上の温度にて加熱し、充分に有機溶剤を揮発させた後、冷却することにより、1コート目の導電性塗膜を形成し、次いで、1コート目と同様の手法により、2コート目を形成するための導電性塗料を塗布した後、再び、加熱及び冷却を行ない、その後、再度コイル状に巻き取るという手法を有利に採用することが出来る。かかる手法に従えば、導電性塗料の塗布から塗膜の形成に至るまでの一連の処理を連続的に処理することが出来、本発明の燃料電池用アルミニウム板を、より低いコストにて製造することが可能となる。
【0043】
一方、本発明に従う燃料電池のセパレータは、上記のようにして得られたコイル状の燃料電池用アルミニウム板を、プレス加工(剪断加工)により、目的とするセパレータの大きさに切断し、かかる切断されたものに対して、プレス成形機による曲げ加工等を施すことにより、反応ガスの流路となる溝やフランジを有するセパレータとして得られることとなる。このように、本発明の燃料電池用アルミニウム板を用いてセパレータを作製する際には、従来の炭素材料を用いたセパレータを製造する際に必要とされていた高度な切削加工等は一切不要となるのである。
【0044】
また、本発明に係る燃料電池用アルミニウム板の中でも比較的厚い(厚さ:1.5mm程度)ものに対して、プレス加工等を施すことにより、複数個の単位電池及び複数枚のセパレータからなる燃料電池スタックをその両側から挟持するエンドプレートが、有利に製造されることとなる。
【0045】
なお、そのようなセパレータ又はエンドプレートのプレス成形(剪断加工)に際して、切断された燃料電池用アルミニウム板の端面(エッジ部分)には、前記したような導電性塗膜が存在せず、塗膜の下のアルミニウム板及びアルミニウム板と導電性塗膜との界面が露出することとなるのであるが、かかるアルミニウム板の露出した無塗装の部分に対して、前記したベース樹脂は含有するが、導電材は含有しない塗料を用いて塗装(補修)を行なうことにより、アルミニウム板の端面に耐食性を付与すると共に、アルミニウム板と導電性塗膜との界面に存在する隙間を埋めて、被覆することにより、本発明に従う燃料電池のセパレータ又はエンドプレートを、より高度な耐食性を有するものと為し得ることとなる。なお、かかる補修に際しては、導電材を含有しない塗料が用いられることとなるのであるが、これは、補修の施される端面には、導電性を付与する必要がないため、導電性塗膜とは異なる塗料として、別途、ベース樹脂と比して極めて高価な導電材を含まない塗料を用いることが、経済的な観点から好ましいためである。
【0046】
以下に、図面を用いて、本発明に従う燃料電池用アルミニウム板を用いて得られたセパレータ及びエンドプレート、並びにそれらを備えた固体高分子型燃料電池及びそのようなセパレータ又はエンドプレートの補修方法について、更に詳しく説明する。
【0047】
先ず、図1には、本発明に従う燃料電池用アルミニウム板に、所定のプレス加工を施すことにより製造されたセパレータの一例が、平面図の形態において示されている。そこに示されているセパレータ10は、その矩形の周縁部の所定幅部分を除く中央部分において、プレス加工(曲げ加工)による断面凹凸形状を呈しており、そしてこの断面凹凸形状によって、その両側の面に互いに平行に延びる複数の溝部12が形成されている。なお、図1には示されていないが、セパレータ10は、アルミニウム板基材(30)の両面に、導電材と、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィン樹脂の混合物からなる2層の塗膜(28a,28b)が、比較的薄い厚さ(全塗膜厚さ:1〜20μm)にて、形成されてなるものである。
【0048】
また、図2及び図3には、図1に示されたセパレータ10を用いてなる固体高分子型燃料電池スタック14が、それぞれ示されている。そこで、図2はその正面説明図であり、図3はその縦方向における部分拡大断面説明図である。それら図2及び図3からも明らかなように、固体高分子型燃料電池スタック14は、複数個(7個)の単位電池18が、各々、2枚のセパレータ10(10a,10b)を介して積層されて、構成されているのである。なお、ここでは、セパレータ10aと10bは、同一形状を呈するものにて構成されている。
【0049】
さらに、図4には、図2及び図3に示される固体高分子型燃料電池スタック14を実際に使用する際の一例として、固体高分子型燃料電池スタック14が、4本の脚部17(一つは図示せず)を有する燃料電池収容ケース16内に収容された状態において示されている。そこでは、積層構造を呈する固体高分子型燃料電池スタック14は、その両側から、本発明の燃料電池用アルミニウム板を用いて作製されたエンドプレート20a,20bにて挟持されており、かかるエンドプレート20a,20bに設けられた加圧手段(ボルト)21により、それぞれ、反対側のエンドプレート20b,20aに向かって押さえ付けられた状態にて、燃料電池収容ケース16内に保持されている。
【0050】
固体高分子型燃料電池スタック14の構造について、より具体的に説明すると、図2及び図3からも明らかなように、セパレータ10(10a,10b)と共に燃料電池スタック14を構成する単位電池18は、固体高分子電解質22、燃料極24、及び空気極26とからなり、固体高分子電解質22における一方の側面には、燃料極24が配設され、他方の側面には、空気極26が配設されている。ここで、かかる燃料極24及び空気極26には、図示はしないが、固体高分子電解質22と接触する側の側面には触媒層が、また、セパレータ10(10a,10b)と接触する側の側面にはガス拡散層が、各々、設けられている。
【0051】
また、かかる単位電池18の両側には、図3に示されているように、その表面が2層の塗膜28a,28bにて被覆されたアルミニウム基材30よりなるセパレータ10a,10bが、それぞれの溝部12が対向するように配置されているのであり、このようなセパレータの配置によって、単位電池18の燃料極24側には、燃料極24とセパレータ10aとの間に水素含有ガス(燃料ガス)流路32が、一方、単位電池18の空気極26側には、空気極26とセパレータ10bとの間に酸素含有ガス(空気)流路34が、それぞれ、有利に形成されているのである。
【0052】
上述した構造を呈する固体高分子型燃料電池スタック14は、図4に示されているような収容ケース16内に保持せしめられた状態にて、若しくは、固体高分子型燃料電池スタック14そのままの状態にて、燃料ガス供給装置、空気供給装置、及びその他の各種装置を備えた定置用燃料電池システムや、車載用燃料電池システム等の内部に組み込まれる。そして、それら燃料電池システム内において、燃料電池スタック14における水素含有ガス流路32には燃料ガスが、また、酸素含有ガス流路34には空気が、それぞれ供給されることにより、各単位電池18においては、電気化学反応による起電力が生じるのであり、また、それぞれの単位電池18は、導電性を有するセパレータ10を介して、電気的に直列に接続されているところから、固体高分子型燃料電池スタック14全体として、所望とする電圧及び電力が得られることとなるのである。
【0053】
そこにおいて、固体高分子型燃料電池スタック14を構成するセパレータ10(10a,10b)にあっては、その表面を被覆している塗膜28a,28bの全塗膜厚さが、従来の金属基材を用いたセパレータにおける塗膜の厚さと比較して、薄いものとされており、また、かかる塗膜28a,28bが形成される前に、アルミニウム基材30表面の酸化皮膜が予め除去されているところから、そのようなセパレータ10(10a,10b)を用いた燃料電池スタック14にあっては、セパレータ10(10a,10b)における電気抵抗(接触抵抗)が著しく低く、その結果、発電効率が非常に優れたものとなっている。従って、本発明に係るセパレータ10(10a,10b)を用いることにより、固体高分子型燃料電池スタック14の小型化を有利に図ることが出来るのである。
【0054】
また、セパレータ10(10a,10b)及びエンドプレート20a,20bは、その基材が軽いアルミニウムにて構成されてなるものであるところから、それらを用いた固体高分子型燃料電池スタック14は、従来の固体高分子型燃料電池と比較して、軽量なものとなっている。
【0055】
従って、本発明に係るセパレータ及びエンドプレートにあっては、燃料電池全体の小型化、軽量化が特に求められている車載用燃料電池において、極めて有利に用いられるのである。
【実施例】
【0056】
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等が加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0057】
−実施例1−
先ず、厚さ:0.2mmのアルミニウム合金板(A3003−O)を準備した。
【0058】
また、ポリプロピレン(MFR:10g/10min、230℃)の100重量部に対して、無水マレイン酸の15重量部、キシレンの400重量部を、それぞれ加え、130℃に加温した状態において、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら、過酸化ベンゾイルの1%キシレン溶液の200重量部を、2時間かけて滴下した。かかる滴下の後、溶液を130℃に保った状態で、更に60分間撹拌し、その後、室温まで放冷した。これにより得られたけん濁液をろ過し、ろ過物をメチルエチルケトンで洗浄することにより、無水マレイン酸にて変性されたポリプロピレンを得た。
【0059】
そのようにして得られたベース樹脂としての変性ポリプロピレン樹脂に、下記表1に掲げる各種の導電材を配合し、混合して均一に分散せしめることにより、表1に示す各種の導電性塗料(C1〜C8)を、それぞれ調製した。なお、かかる調製に際して、変性ポリプロピレン樹脂は、トルエンに分散させた状態において使用した。
【0060】
【表1】

【0061】
次いで、先に準備したアルミニウム合金板を、下記に示す洗浄方法にて洗浄し、かかる洗浄後、アルミニウム合金板の表面に、バーコート法により、導電性塗料を塗布した(1コート目)。なお、乾燥後の膜厚が所定の値となるように、バーの番手を適宜に選定した。導電性塗料が塗布されたアルミニウム合金板を、電気炉内において、200℃で1分間、加熱した後、電気炉から取り出し、放冷した。そして、放冷後、1コート目の導電性塗膜が形成された更にその上に、同様の手順により、2コート目の導電性塗膜を形成する導電性塗料を塗布し、同様にして、加熱、放冷を行なった。かかる放冷の後、先に2層の導電性塗膜が形成された面とは逆の面に対しても、同様の作業を繰り返し、2層の導電性塗膜を形成した。かかる作業を、導電性塗料の種類、並びに形成される塗膜の膜厚を適宜に変えながら行なうことにより、表面に2層の導電性塗膜が形成せしめられた17種類のプレコートアルミニウム合金板(試料1〜17)を得た。それぞれのプレコートアルミニウム合金板を作製する際に用いた導電性塗料の種類、塗膜の膜厚、膜厚(h)と導電材の平均粒径(d)との比d/hを、下記表2に示す。
〈アルミニウム合金板の洗浄方法〉
アルミニウム合金板を、60℃の10%水酸化ナトリウム水溶液中に20秒間、浸漬し、水洗した後、更に、室温下の10%硝酸中に15秒間、浸漬した。その後水洗し、乾燥した。
【0062】
そして、得られた17種類のプレコートアルミニウム合金板について、それぞれ、下記の手法に従って、接触抵抗測定及び耐酸試験を行なった。
【0063】
〈接触抵抗測定〉
プレコートアルミニウム合金板から、10cm四方の大きさの測定用試料を切り出し、かかる測定用試料を、図5に示されるように、厚さ:0.5mmの白金板、及び厚さ:0.6mmのカーボン板(昭和電工株式会社製、SG3)にて上下から挟み、両白金板間の抵抗を4端子法により測定した。なお、測定試料の押え付け力(加重)は1MPaとした。測定結果を、下記表2に併せて示す。
【0064】
〈耐酸試験〉
所定の大きさに切り出したプレコートアルミニウム合金板を、ポリエチレン容器中の0.1%フッ酸溶液に、浸漬し、80℃にて、所定時間保持した。浸漬時間は、1000h、3000h、5000hとした。そして、プレコートアルミニウム合金板の腐食状況を、変色の有無を目視にて確認することにより、評価した。なお、評価基準は、次の通りとした。
○:5000hで変色なし
△:3000h或いは5000hで変色発生
×:1000hで変色発生
【0065】
【表2】

【0066】
かかる表2の結果から明らかなように、本発明に従うプレコートアルミニウム合金板(試料1〜9)にあっては、接触抵抗(電気抵抗)が低く、且つ、優れた耐酸性を示すものであることが分かった。
【0067】
これに対し、10μmを超える厚い塗膜が形成されたプレコートアルミニウム合金板(試料10,12)は、高い接触抵抗を有することが認められ、一方、1μm未満の薄い塗膜が形成されたもの(試料11)にあっては、耐酸性が充分ではなく、また、塗膜が薄すぎるために、導電材の保持が充分ではなく、導電材の脱落が観察された。また、導電材の粒径が小さいもの(試料13)にあっては、高い接触抵抗を示すことが認められた。更に、導電材の粒径が大きいもの(試料14)にあっては、耐酸性が低下した。これは、導電材の粒径が大きくなると、導電材と樹脂との境界面から酸性液が進入し易くなるためであると考えられる。また、塗膜中の導電材量が少ないもの(試料15)は、高い接触抵抗を有することが認められ、一方、塗膜中の導電材量が多いもの(試料16)は、耐酸性に劣るものであることが認められた。これは、塗膜中の導電材量が増えると、耐酸性を有するベース樹脂(ここでは、変性ポリプロピレン樹脂)の量が相対的に減少すると共に、導電材と樹脂との境界面の面積が増え、それによって、酸性液の進入が増加したためであると考えられる。また更に、導電性塗膜が1層のみのアルミニウム合金板(試料17)にあっては、比較的高い耐酸性を有するものの、本発明に従う2層からなる導電性塗膜を有するアルミニウム板の極めて高度な耐酸性には及ばないものであることが分かった。
【0068】
−実施例2−
下記表3に示すアルミニウム板に対して、セパレータ形状のプレス加工をそれぞれ行い、以下のようにして、反り及び剛性を評価した。
【0069】
〈反りの評価〉
セパレータ成形品を水平状に静置させた時の凸部と凹部の高さの差を反りとした。なお、評価基準は以下の通りとした。
○:反りが、0.5mm以下
×:反りが、0.5mm以上
【0070】
〈剛性の評価〉
セパレータの端辺部の中央を持って、水平を維持したときの、永久変形の有無を評価した。なお、評価基準は以下の通りとした。
○:永久変形なし
×:永久変形あり
【0071】
【表3】

【0072】
表3の結果から明らかなように、耐力が30〜60MPaの範囲内であり、且つ伸びが20〜40%の範囲内にあるアルミニウム板A5は、反りが少なく、且つ剛性も充分なものである。一方、耐力や伸びが、何れか一方でも上記した範囲内にない場合には、反りが大きいか、又は剛性が小さいものであることが分かった。
【0073】
−実施例3−
実施例1の試料3と同様のプレコートアルミニウム合金板を準備し、そこから、1cm×10cmの大きさの測定用試料を4枚切り出した。そして、切り出した4枚の試料の端面(エッジ部分)に、それぞれ、下記表4に示す補修用塗料(D1、D2)を、下記表5に示す塗装条件にて、ブラシにより塗布し、その後、自然乾燥させた(試料H1〜H4)。乾燥後、補修用塗料の塗布されたエッジ部分に対し、上述と同様の手法にて耐酸試験を行ない、また同様の評価基準にて評価を行なった。評価結果を、下記表5に併せて示す。
【0074】
【表4】

【0075】
【表5】

【0076】
かかる表5の結果から明らかなように、試料H1〜H3は、何れも、端面において、優れた耐酸性を示した。これに対し、端面に補修用塗料の塗布されていないH4にあっては、フッ酸溶液中の浸漬時間が5000hにおいて、端面からの塗膜の剥離が観察された。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明に従う燃料電池のセパレータの一例を示す平面図である。
【図2】図1に示されたセパレータを用いた固体高分子型燃料電池スタックの一例を示す正面説明図である。
【図3】図2に示された固体高分子型燃料電池スタックの縦方向の部分断面説明図である。
【図4】図2に示された固体高分子型燃料電池スタックが燃料電池収容ケース内に保持された状態を示す一部切り欠き説明図である。
【図5】本実施例において行なった、プレコートアルミニウム合金板の接触抵抗を測定する手法を概略的に示した説明図である。
【符号の説明】
【0078】
10,10a,10b セパレータ 12 溝部
14 固体高分子型燃料電池スタック 16 燃料電子収容ケース
17 脚部 18 単位電池
20a,20b エンドプレート 21 加圧機構
22 固体高分子電解質 24 燃料極
26 空気極 28a,28b 塗膜
30 アルミニウム基材 32 水素含有ガス流路
34 酸素含有ガス流路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化皮膜が除去された、厚さが0.1〜2mmのアルミニウム板表面に、2層からなる導電性塗膜が、1〜20μmの全塗膜厚さを与えるように形成されてなる燃料電池用アルミニウム板にして、
該導電性塗膜を構成する各々の塗膜が、ベース樹脂として、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィン樹脂を用い、また導電材として、金又は白金でそれぞれ被覆された、活性炭、黒鉛、カーボンブラック及び気相法炭素繊維のうちの少なくとも1種からなる、平均粒径が1〜20μmの粒状物を用いて形成され、且つ各々の塗膜の厚さ(h)と導電材の平均粒径(d)との関係が、次式:h≦d≦5hを満足するように構成され、更に該2層からなる導電性塗膜における前記アルミニウム板表面側の1コート目の塗膜が、20〜60質量%の割合で前記導電材を含んで形成されていると共に、該1コート目の塗膜の上に更に配される2コート目の塗膜が、5〜40質量%の割合の前記導電材を含有し、且つ該1コート目の塗膜中の導電材量よりも少ない導電材量において形成されていることを特徴とする燃料電池用アルミニウム板。
【請求項2】
前記1コート目の塗膜の厚さが0.5〜10μmであり、且つ前記2コート目の塗膜の厚さが0.5〜10μmであることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用アルミニウム板。
【請求項3】
前記変性されたポリオレフィン樹脂が、無水マレイン酸にて変性されたポリプロピレンであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の燃料電池用アルミニウム板。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載のアルミニウム板を用いて得られる燃料電池のセパレータ。
【請求項5】
前記アルミニウム板が、30〜60MPaの耐力及び20〜40%の伸びを有していることを特徴とする請求項4に記載の燃料電池のセパレータ。
【請求項6】
請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載のアルミニウム板を用いて得られる燃料電池のエンドプレート。
【請求項7】
請求項4又は請求項5に記載のセパレータを備えた燃料電池。
【請求項8】
請求項6に記載のエンドプレートを備えた燃料電池。
【請求項9】
請求項4乃至請求項6の何れか一つに記載のセパレータ又はエンドプレートをプレス成形する際、前記アルミニウム板の露出した無塗装の部分を、前記ベース樹脂は含有するが、前記導電材は含有しない塗料を用いて塗装することを特徴とする燃料電池のセパレータ又はエンドプレートの補修方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−54421(P2009−54421A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−220158(P2007−220158)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【出願人】(591095328)真和工業株式会社 (10)
【Fターム(参考)】