説明

燃料電池用ガスケット、燃料電池ならびに燃料電池システム

【課題】厚さが小さくとも曲げ強度が高く、製造が容易で、かつ燃料電池の気密性を向上させるガスケットを提供する。
【解決手段】ガスケットの材料として膨張黒鉛粒子と樹脂バインダとを用い、膨張黒鉛粒子を樹脂バインダに均質に分散する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用ガスケット、燃料電池ならびに燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水素もしくは液体有機化合物の改質燃料を用いる固体高分子形燃料電池、あるいはメタノール、エタノール、ジメチルエーテルなどの液体有機化合物を燃料とする固体高分子形燃料電池は、騒音が小さい、運転温度が低い(約70〜80℃)、燃料の補給が容易などの特長を有する。そのため、可搬式電源、電気自動車の電源、あるいは電動バイクやアシスト式自転車、さらには医療介護用の車椅子やシニアカーなどの軽車両用電源として、幅広い用途が期待されている。
【0003】
これらの燃料電池は、プロトンを移動させる電解質膜の両面に電極を形成した膜−電極接合体、この電極のそれぞれに対面するように設置したセパレータを含む単位セルを有している。このセパレータには、燃料または酸化剤を流通させるための流路(チャンネル)が形成されている。
【0004】
セパレータの流路に燃料または酸化剤を流通させるため、セパレータと膜−電極接合体との接触面での密封性(シール性)を確保することが重要な設計事項となる。この接触面から燃料等の流体がセルの外部に漏れ出すと、出力性能の低下などの不具合をもたらすからである。
【0005】
従来の技術の例として、特許文献1〜5には、上記接触面における密封手段が開示されている。
【0006】
特許文献1には、電池構成用の機能性膜材(イオン交換膜、セパレータ膜等)と所定パターンのガスケット(ゴム製)とが、接着剤層を介さずに接合され一体化している電池用膜状部材が開示されている。
【0007】
特許文献2には、予め別体で成形したシールゴムをカーボン製セパレータのシール必要箇所に設けた溝部に後付で接着した燃料電池セパレータ接着シール構造が開示されている。
【0008】
特許文献3には、膜−電極接合体と接触するシールと一体化したディストリビュータプレート(セパレータ)が、弾性を有し、可塑変形可能で、かつ導電性を有し、シールが凸部を有する燃料電池が開示されている。セパレータとシールを同一材料で製造することができるため、上述のゴム系ガスケットを省略し、低コストのセパレータを提供することができる。
【0009】
特許文献4には、膨張黒鉛シートに液状の熱硬化性樹脂を含浸後、金属薄板の両側にラミネートしてなる黒鉛質ガスケット材料が開示されている。この黒鉛質ガスケット材料は、エンジンガスケットに用いられるものであり、高荷重の締付けに対する機械的強度を有している。
【0010】
特許文献5には、膨張黒鉛からなる合成樹脂含浸体において、イソシアネートおよび/またはエポキシ樹脂を含有する含浸体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−319669号公報
【特許文献2】特開2002−033109号公報
【特許文献3】米国特許5928807号公報
【特許文献4】特開平1−158269号公報
【特許文献5】特開2002−265212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、板厚が小さくとも曲げ強度が高く、製造が容易で、かつ燃料電池の気密性を向上させるガスケットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の燃料電池用ガスケットは、電解質膜とセパレータとの間のシールとして用いる燃料電池のガスケットにおいて、前記ガスケットが、黒鉛粒子と樹脂バインダとを混合した成形体で構成され、且つ、前記黒鉛粒子と前記樹脂バインダとが均質に分散された構成であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の燃料電池は、燃料を流通させるアノード流路を有するセパレータと、酸化剤を供給するカソード流路を有するセパレータと、前記両セパレータの間に配置されたアノード/電解質膜/カソードで構成された膜−電極接合体とを有する燃料電池において、前記各セパレータと前記電解質膜との間に上記の燃料電池用ガスケットを介在させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、厚さが小さくとも曲げ強度が高く、製造が容易で、かつ燃料電池の気密性を向上させるガスケットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明による実施例を示す燃料電池の単セルの断面図である。
【図2A】図1の単セルに用いるセパレータの上面図である。
【図2B】図2AのセパレータのP−P断面図である。
【図3】従来のガスケットを用いたときに内部リークが生じる状態を示す断面図である。
【図4】本発明による実施例を示すガスケットの上面図である。
【図5】本発明による実施例を示す単セルの断面図である。
【図6】本発明による他の実施例を示す単セルの断面図である。
【図7】本発明による他の実施例を示す単セルの断面図である。
【図8】本発明による実施例を示す燃料電池システムの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の目的は、2個のセパレータに挟持された膜−電極接合体(以下、MEAと称する。)を含む燃料電池(セル)の新たなシール手段を提供することにある。
【0018】
本発明が解決しようとする技術課題は、(1)シールを設けてもセパレータを薄型化する上で障害にならないこと、(2)低荷重でも外部リークを十分に抑制できること、(3)内部リークも防止できることである。
【0019】
これらの3つの技術課題を説明するために、従来の燃料電池の構造を説明する。
【0020】
図1は、従来の技術による単セルの断面構造を例示している。本発明の単セルも基本的な構造は同様である。
【0021】
本図において、この単セルの断面中央には、MEAがある。このMEAは、電解質膜103の上面にアノード101を、下面にカソード102を積層した三層構造となっている。燃料側セパレータ104(第一のセパレータとも呼ぶ。)は燃料流路105を有し、その流路面をアノード101に接するように配置されている。酸化剤側セパレータ106(第二のセパレータとも呼ぶ。)は酸化剤流路107を有し、その流路面107はカソード102に接している。セパレータの外周部には、燃料と酸化剤が外部に漏れ出さないように、かつ、一方の反応物質が他方の反応物質の流路に漏れ出さないように、ガスケット108、109を設けている。それぞれの反応物質は、ガスケット108、109または電解質膜103によって区分されている。
【0022】
なお、反応物質を供給する貫通孔(マニホールドと称される。)および排出する貫通孔は、図1の断面より省略されている。
【0023】
図2Aは、図1の単セルに用いるセパレータの上面図を示したものであり、図2Bは、図2AのセパレータのP−P断面図である。ここでは、図1の燃料側セパレータ104に対応するセパレータ構造として説明する。
【0024】
燃料側セパレータ204には、燃料供給マニホールド210、燃料排出マニホールド211、酸化剤供給マニホールド212、酸化剤供給マニホールド213、冷却水供給マニホールド214、冷却水排出マニホールド215の貫通孔が形成されている。
【0025】
燃料は、燃料供給マニホールド210からセパレータ204の面内に導入される。燃料を流す流路205は複数(本例では、一例として5本)形成され、これらの流路205が折れ曲がりながらセパレータ204の面内を経由し、対角方向に設けた燃料排出マニホールド211に連絡されている。流路205は凸部206(リブとも称される。)によって区切られている。なお、流路205は一本でも良いが、セパレータ流路を通過する燃料等の圧力損失を低減するために、通常は複数本とされている。また、流路のパターンも図2Aのような蛇行した形状の他に、直線状その他、種々のパターンを採用することができる。
【0026】
燃料流路205の溝幅や溝深さは、燃料の種類や流量に応じて最適な寸法に設定することができる。最適な寸法は、圧力損失を小さくすることと、セル電圧(または出力)をできるだけ高くするように設定される。なお、凸部206と流路205上のMEAと距離が大きくなりすぎると、電気抵抗が増大してしまうことから、溝の幅は1〜5mm、深さ0.1〜5mmの範囲に設定される。溝幅1〜2mm、溝深さ0.3〜2mmが特に望ましい。
【0027】
酸化剤流路は、図2Aの裏面に形成することができる。酸化剤は、酸化剤供給マニホールド212より供給され、燃料側セパレータの裏面に形成された酸化剤流路を経由し、酸化剤排出マニホールド213に排出される。酸化剤流路は図2Aの裏面に形成しているため図示されていないが、図2Aの燃料流路205と同様なパターンであっても良いし、異なっていても良い。また、酸化剤は逆にマニホールド213を供給マニホールドとし、下から上へ流して、マニホールド212から排出することもできる。
【0028】
同様に、酸化剤流路の溝幅や溝深さは、酸化剤の種類や流量に応じて最適な寸法に設定することができる。酸化剤流路上のMEAと近接する凸部との距離が大きくなりすぎると、電気抵抗が増大してしまう理由により、溝の幅は1〜5mm、深さ0.1〜5mmの範囲にすることが望ましい。さらに、溝幅1〜2mm、溝深さ0.3〜2mmが特に望ましい。
【0029】
冷却水の流路は、図2Aの燃料流路の裏面に形成しても良いし、図2Aの表面の燃料流路を冷却水流路に置き換え、裏面に酸化剤流路を形成しても良い。冷却水は、冷却水供給マニホールド214から供給され、冷却水流路を経由して、冷却水排出マニホールド215に排出される。ここで、冷却水流路も、燃料流路205や酸化剤流路と同様に、任意のパターンにすることができ、マニホールド215から供給しマニホールド214から排出することも可能である。
【0030】
なお、メタノール等の液体燃料を用いる場合、電池の発熱を燃料排液または酸化剤排ガスとともに電池の外に排出することができれば、冷却水の供給マニホールド214と排出マニホールド215を省略しても良い。
【0031】
以上で述べたセル構造を例に採って、第一の技術課題(セパレータの薄型化)について説明する。
【0032】
図2Aのセパレータにおいてシールを施す手段の一つに、セパレータ自身の一部をシールとして利用する手段がある。すなわち、黒鉛とバインダの混合物から圧縮成形法により図2Aのセパレータを製作し、セパレータ外縁に凸状の易圧縮構造(低密度領域)を形成して、その凸部を押しつぶすことによってセルの気密性を得ることができる。この凸部は、所定の荷重で締め付けてシール性を得るために、低密度にする必要がある。ボルト本数の削減等による電池構造の簡略のために、可能な限り低荷重で十分なシール性を得ることが望ましい。
【0033】
このようにシールをする部分に低密度領域を形成すると、MEAを2個のセパレータで挟持させ、セパレータの外側から圧力を加えることにより、その低密度領域を圧縮し、シールとして機能させることができる。例えば、黒鉛セパレータの外縁に、セパレータの流路面の密度よりも10〜50%の低密度の領域を形成し、その低密度領域を圧縮してシールする。一例として、図2Aの一点破線の位置に低密度領域216を形成した想定例を示した。
【0034】
しかし、セパレータの外縁部に低密度領域216を設けると、その部分の曲げ強度が低下し、低密度領域216を起点に割れが発生やすくなる。この問題は、セパレータ204の厚さを1mm以下に薄くすると、顕著となる。上述の問題は、セパレータの板厚を大きくすれば回避可能と思われる。しかしながら、1mm未満、特に厚さ0.3mm以下の薄型セパレータにすると、低密度領域の部分で破損が起きる。
【0035】
低密度領域216を一方の面に形成すると、その下の部分もほぼ同じ密度となり、セパレータの厚さ方向に密度が低くなってしまう。この低密度領域全体は曲げに対する強度が低いので、低密度領域216を形成したセパレータの外縁から破損しやすくなる。これは製法に依存せず、黒鉛を圧縮成形したときも、射出成形したときも同様である。
【0036】
また、セパレータの薄型化に伴い、ガスケットを薄型にすることが困難になり、製造上の問題が生じる。
【0037】
MEAは適正な圧縮率になるまで圧縮され、セルとしての機能が発現されるので、2枚のセパレータの間隔は基本的にMEAの厚さに支配される。しかし、ガスケットがMEAよりも厚くなると、セパレータ上のガスケット設置部分を薄くしなければならなくなる。その結果、ガスケットが厚くなればなるほど、セパレータの曲げ強度を確保するためにセパレータ全体が厚くなってしまう。このように、ガスケットの厚さをMEAに近い厚さにすれば、前記ガスケット設置部分を薄くする必要がなくなり、セパレータ自身の厚さを可能な限り薄くすることができる。通常は、MEA厚さが1mm以下なので、一枚のガスケットを用いる場合は1mm以下、2枚用いる場合には0.5mm以下の厚さにすることが望ましい。
【0038】
しかしながら、従来の含浸法により製造される黒鉛ガスケットによれば、エポキシ樹脂等を含浸する前の黒鉛成形体が薄くなればなるほどに、その曲げ強度が低下し、もろくなるため、薄型ガスケットを製造しにくくなっていた。特に、0.5mm以下の厚さになると、ひびが生じやすく、その取り扱い性は極めて悪い。これは、樹脂含浸前の黒鉛成形体に、黒鉛粒子同士を接着するものが添加されていないためである。
【0039】
このようにセパレータの機械的強度の観点とガスケットの製造方法の観点から、第一の技術課題は薄型セパレータの実現に大きな障害となるものである。
【0040】
次に、第二の技術課題(低荷重での外部リークの抑制)について説明する。上述の説明において、逆に外縁部を高密度になるように凸部を形成し、それを緻密な構造にすれば、セパレータ厚さを薄くしても外縁部からの破損を回避することができる。すなわち、第一の技術課題の解決のみに着眼すれば、薄型セパレータであっても気密性を得ることが可能である。
【0041】
しかし、シールしようとする凸部を高密度にすると、荷重に対する凸部の圧縮率が減少し、結果として高荷重でセパレータ同士を締め付けないと気密性を確保することができなくなる。
【0042】
例えば、シールしようとする領域216の密度を、図2Aの流路部分と同一の密度にする、すなわち、セパレータ全体を高密度で成形すれば、領域216からの破損を防ぎつつ、セパレータの薄型を図ることができる。しかし、シールをする凸部が硬くなるため、セパレータの外側から圧力を加えても、ほとんど圧縮されず外部へのリークが止まらないか、過大な荷重を加えない限りシールができなくなる。後者の場合には、MEAの電解質膜の破断、内部リークの問題が生じる。
【0043】
また、金属板をプレス加工により作製したセパレータの場合も同様で、セパレータのシールをしたい部分に凸部を形成した場合、その部分は硬く、圧縮による変形量が小さいため、第二の技術課題を達成することは困難である。
【0044】
このように、低荷重で外部リークを防止することが、第二の技術課題である。
【0045】
以上で説明したように、シールをセパレータと完全に同一の素材で、しかも同時に形成すると、セパレータの薄型化(第一の技術課題)と低荷重締付(第二の技術課題)の両立が極めて困難になる。このように、物理的・化学的にもセパレータと同一の構成でシールを形成する手段には、限界がある。
【0046】
次に、第三の技術課題(内部リークの防止)について検討する。
【0047】
図2BのP−P断面には、燃料流路205と凸部206とで形成された凹凸部分があり、この部分において、シール機能を有する部材を設置し、接触する電解質膜を介してセパレータに圧着される。このシールが不完全であるとき、燃料供給マニホールド210から供給される燃料の一部が、電解質膜の反対側(すなわち酸化剤側の流路面)に流れ込むことになる。これを内部リークと称する。燃料排出マニホールド211近傍の流路でも、シールと電解質膜の積層構造を形成してシールを確保するので、内部リークの発生メカニズムは同じである。
【0048】
さて、先に述べた黒鉛セパレータの一部を低密度化し、シールを得る手段によると、P−P断面の凸部206も低密度にすることになる。このような構造にすると、セパレータ同士の締付けによって、凸部206が変形し、ざ屈すれば流路205が閉塞してしまう。逆に凸部206を高密度にすると、締付荷重を大きくしなければならなくなる。凸部206とそれに対面するセパレータの間に電解質膜が挟持されているので、その電解質膜が破損し、セルの出力の低下という不具合が生じうる。
【0049】
また、黒鉛セパレータの一部を低密度にする手段の代わりに、ゴム材料からなる平板状ガスケットを用いる手段も考えられる。しかし、次のような新たな課題が生じる。
【0050】
図3は、図2BのP−P断面における2枚のガスケットと電解質膜の構造例を示す。本図面は、内部リークが発生した際の構造をやや強調して表現している。燃料流路305に接するガスケット308(図1のシール108に相当)は、燃料流路の凸部306(図2BのP−P断面の凸部206に対応する)に接している。そのガスケット308の上に電解質膜303、さらにその上に酸化剤流路側のガスケット309が配され、燃料側セパレータ304と酸化剤側セパレータ310との間にサンドウィッチ状に収納されている。
【0051】
ゴム材料を用いたガスケットは、大きな圧縮変位特性を有し低荷重でもシールを得やすい。その反面、締付荷重の増加に伴って横方向への変形も進行し、ガスケット308、309が流路305の空間に垂れ込み、隙間317が生じる場合がある。この隙間が形成されると、流路305を流れる燃料の一部が隙間317に漏れ出して、電解質膜303の酸化剤流路側へ浸入することになる。このようなメカニズムで内部リークは、ゴム系平板ガスケットの圧縮による横方向の延びが原因となって発生し、特にセパレータ同士の締付荷重が大きいときによく見られる現象である。
【0052】
また、燃料電池を起動・停止の繰り返しにより、発電の熱によるヒートサイクルを受けて、ガスケットが熱膨張・収縮を繰り返す。この熱膨張の割合は、ガスケットの線膨張係数で規定され、特にフッ素ゴム、エチレン・プロピレンゴムなどの弾性ゴムで大きい。その結果、図3に示したようなガスケットの変形がさらに助長される。
【0053】
これに対し、図2Aのマニホールド210のP−P断面付近(マニホールド211の相当部分も含む)のリブ206上にポイント状にガスケットを設置し、その他のセパレータ面には凸状ガスケットをセパレータに接着してセルを形成する手段も考えられる。
【0054】
しかしながら、図3の流路直上(すなわち流路305の上)のガスケット308の部分がなくなるだけで、電解質膜303や酸化剤側ガスケット309の変形を防止することはできない。したがって、凸状ガスケットを形成する手段によっても、隙間317を完全に排除することは難しい。これが第三の技術課題である。
【0055】
また、上述の3つの技術課題の他に、ガスケットに必要な機能として、耐水性、水素による耐還元性や酸素による耐酸化性などの化学的耐久性も必要となる。そのため、特許文献4に記載されているような金属材料と組み合わせると、金属イオン(特に鉄イオン)の溶出により、電解質膜の水素イオンが交換され、膜抵抗の増大、過酸化水素による膜の分子構造の破壊が進行する。したがって、上述の化学的耐久性を考慮した材料選定も重要な要件となる。
【0056】
発明者らは、3つの技術課題を解決するために鋭意検討した結果、新規な手段を構築するに至った。
【0057】
本発明の燃料電池用ガスケットは、電解質膜とセパレータとの間のシールとして用いる燃料電池のガスケットにおいて、前記ガスケットが、黒鉛粒子と樹脂バインダとを混合した成形体で構成され、且つ、前記黒鉛粒子と前記樹脂バインダとが均質に分散された構成であることを特徴とする。
【0058】
また、本発明の燃料電池は、燃料を流通させるアノード流路を有するセパレータと、酸化剤を供給するカソード流路を有するセパレータと、前記両セパレータの間に配置されたアノード/電解質膜/カソードで構成された膜−電極接合体とを有する燃料電池において、前記各セパレータと前記電解質膜との間に上記の燃料電池用ガスケットを介在させたことを特徴とする。
【0059】
以下、実施例を用いて説明する。
【実施例1】
【0060】
本発明による第一の実施例は、図1のガスケット108、109を本発明の黒鉛系ガスケットとしたものである。
【0061】
本発明の黒鉛系ガスケットは、黒鉛と樹脂バインダとを混合し、加熱成形によりバインダを硬化させたものである。形状は図4に示すシート状とした。なお、使用する黒鉛は、任意の黒鉛粉末を選択することができる。特に、膨張黒鉛または塊状黒鉛が圧縮弾性に優れている。
【0062】
まず、膨張黒鉛を用いて、図4の形状に切り出す前の予備成形シートの製法について説明する。
【0063】
原料の黒鉛は、粒子状の天然黒鉛(例えば、天然鱗状黒鉛など)である。
【0064】
この天然黒鉛を濃硫酸または濃硫酸と濃硝酸との混液に浸漬し、黒鉛層の間隔を膨張させた後に、水洗・脱水を行って、黒鉛の表面に付着している酸を十分に除去する。その後、黒鉛を急速に昇温して熱処理を行なう。
【0065】
この一連の処理工程によって、原料の黒鉛粉末に対して数十倍の嵩密度を有する膨張黒鉛を製造することができる。得られた粉末状の膨張黒鉛(膨張黒鉛粒子と呼ぶ)は、不純物の濃度が数ppm以下の高純度であり、かつ、弾性を有している。ここで、膨張黒鉛粒子は、上記処理により、主成分が膨張黒鉛となったものをいうが、主成分の膨張黒鉛以外の黒鉛(例えば、未処理の天然黒鉛)を含むものも膨張黒鉛粒子と呼ぶことにする。すなわち、主成分の膨張黒鉛が体積基準で50%より多いものを含めて膨張黒鉛粒子と呼ぶことにする。
【0066】
次に、この膨張黒鉛粒子に熱硬化性の樹脂バインダを添加する。この樹脂バインダとしては、フェノール樹脂粉末、エポキシ樹脂などを利用することができる。本発明においては、熱硬化性樹脂が特に望ましいが、燃料電池の作動温度で軟化せず、燃料電池の反応物質(水素やメタノール等の有機物質ならびに酸素)と反応しない樹脂であれば、熱可塑性の材料も適用することができる。例えば、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂などの熱可塑性材料を、熱硬化性材料の代わりに用いることができる。熱可塑性樹脂を用いれば、ガスケットの成形時間を短縮できるメリットがある。
【0067】
ここでは、フェノール樹脂を選択し、その添加量は全体重量に対し、10〜30%(重量組成比)とした。本発明では、電池の荷重に応じてガスケット厚さが必要な寸法まで圧縮されれば良いので、荷重に応じた種々の組成に設定することが可能である。
【0068】
以下の説明で述べる黒鉛シートとは、本発明の黒鉛(膨張黒鉛粒子)と樹脂との混合物を成形したガスケットを意味する。
【0069】
本発明では、膨張黒鉛粒子とバインダを混合し、ヘンシェルミキサーにより混練する。混合方法はこれに限定されず、攪拌、混錬など、いかなる方法でも適用可能である。混合時に粉体に添加できる溶媒には、プロピルアルコール等の非反応性溶媒のいずれかを選択することができる。ガスケットを成形する前にバインダと黒鉛粉末を均質に分散させることが、ガスケットの弾性的性質を発現させるために重要である。
【0070】
この混練物をロールプレス機あるいはバッチ式プレス機を用いて、シート状の予備成形シートを製作する。これを所定の厚さまで更に薄く延ばし、必要な厚さ精度を有する黒鉛シートを製作する。このように製作したシートの密度は、1.2〜2.0g/cmの範囲に設定する。より望ましくは、1.6〜1.8g/cmの範囲に設定すると、セパレータに組み込んだ際に、締付圧力が3〜7kg/cmの低圧力で十分な気密性を得ることができる。
【0071】
このようにして、MEAの電極層が3〜7kg/cmの範囲で圧縮されたときの厚さが、本発明のガスケットの厚さがほぼ同じになるように初期厚さを決めると、平坦なセパレータ上にMEAとガスケットを設置することができる。その結果、セパレータ上にガスケットの設置部分に段差や凸部を設ける必要がなくなり、セパレータ構造の複雑化あるいは成形不良を回避することができる。
【0072】
また、黒鉛シートの密度を1.2〜1.6g/cmとしたときには、上記の圧力範囲を更に低くすることが可能となる。電解質膜の強度が比較的弱い場合に有効である。
【0073】
逆に、黒鉛シートの密度を1.8g/cm以上にした場合、電解質膜等に樹脂補強を行なえば、電解質膜の機械的強度を増しつつ、低荷重の締付を実現することができる。樹脂補強をした実施態様については、後述する。
【0074】
上記の黒鉛と樹脂との混合法によれば、ガスケット成形前に樹脂が一種のバインダとして機能する。その結果、ガスケットの厚さが1mm以下になっても、ガスケットが破損することがない。本発明の方法は、厚さが1mm以下、特に0.5mm以下の薄型ガスケットの製造に適している。
【0075】
これに対し、黒鉛成形体(樹脂を含まないシート状の成形体)を予め製作した後に、そのシートに樹脂を含浸する方法を採ると、黒鉛表面近傍での樹脂濃度は高くなるが、内部への樹脂の浸透が遅いため、黒鉛内部と表面近傍の間に濃度差が生じやすかった。特に、樹脂が表面に偏析すると、硬化した樹脂層とセパレータとの密着性が悪化する問題があった。
【0076】
本発明の混合法によれば、表面およびバルクにおいて樹脂がほぼ均一に分散されるので、密着性の問題を回避することができる。さらに、成形時の圧力を制御すれば、黒鉛シートの密度を調整することは容易であるので、ガスケットとして必要な弾性を得ることができる。
【0077】
一方、含浸法により黒鉛成形体の微細孔に樹脂を充填すると、樹脂の硬化後には黒鉛成形体の厚さ方向に硬い柱状構造が形成される。この構造体はガスの通路を閉塞し、気密性を得るのには適している。
【0078】
しかし、その柱状構造がガスケットに印加される圧縮力に反発し、一種の梁のような作用をする。その結果、ガスケットとして本来備えるべき弾性が不十分となる。
【0079】
セパレータの表面の凹凸は通常50μm程度なので、ガスケットに圧縮力を加えたときに、少なくとも50μmの変位量が必要である。この要求に対し、含浸法では、ガスケット厚み方向での伸縮する性質(いわゆる弾性)が不十分であり、セパレータとガスケットとの密着性に問題があった。
【0080】
また、黒鉛成形体の細孔容積全体に樹脂が充填されないように、樹脂の添加量を調整することも考えられる。これが実現できれば、梁のような強度を減少させることができるように思われる。
【0081】
しかし、樹脂は黒鉛成形体の表面にある細孔から徐々に充填されていくので、表面の樹脂量は多く、内部では少なくなる。その結果、ガスケットの表面は硬く、内部は柔らかくなってしまう。このようなガスケット表面での硬化現象も、セパレータとガスケットとの密着性を阻害する要因である。さらに、ガスケット内部での樹脂量の減少は、ガスケット内部の強度を損ない、ガスケット全体の強度を低下させる。
【0082】
これに対し、本発明の混合法によれば、粒状または塊状の樹脂を黒鉛粉末と混合するので、樹脂粒子同士が一体となって強く連結されていない。そのため、樹脂がガスケット内部で梁のような反発性を示さず、ガスケット全体において黒鉛粒子が厚み方向に伸縮する性質を示すようになる。この特性によって、ガスケット表面も微小に変形し、セパレータ表面に密着し、ガスのリークを防止することができる。
【0083】
本発明のガスケット408(黒鉛シート)は、金型で打ち抜けば、任意の形状にすることができる。図4はその具体例の一つである。
【0084】
密度を調整した黒鉛シートの熱膨張係数(線膨張係数)は0.1%/℃未満であり、通常は0.02〜0.05%/℃である。従来のゴムと比較すると、100℃以下の環境温度においてフッ素ゴムは2%程度あるので、本発明のガスケットが熱膨張しにくい特性を有していることがわかる。この優れた低熱膨張性により、図3に示した断面構造にて、燃料電池の発熱による変形と内部リークを防止することができる。
【0085】
黒鉛シート408には、中央に電極と流路が接するように開口部418が設けられている。また、燃料供給マニホールド410、燃料排出マニホールド411、酸化剤供給マニホールド412、酸化剤排出マニホールド413、冷却水供給マニホールド414、冷却水排出マニホールド415が、図2Aのセパレータとほぼ同じ位置に形成されている。
【実施例2】
【0086】
本発明による第二の実施例は、シールとセパレータとの接触面に絶縁層を形成したものである。その構成を図5に示した。
【0087】
図1と同様に、燃料流路505は、燃料側セパレータ504とアノード501との間に形成されている。一方、酸化剤流路507を有する酸化剤側セパレータ506がカソード502と対向している。アノード501およびカソード502は電解質膜503に保持されている。
【0088】
本発明のアノード側ガスケット508およびカソード側ガスケット509は、図4に示した形状の黒鉛シートと、後述の樹脂製の絶縁層519とで形成されている。黒鉛シートの厚さは150μm(公差±30μm)、密度は1.7g/cmとした。
【0089】
この黒鉛シートの片面にエポキシ樹脂をディスペンサーで塗布し、燃料流路505を有するセパレータ504および酸化剤流路507を有するセパレータ506に圧着して硬化させ、アノード側ガスケット508およびカソード側ガスケット509を形成した。ディスペンサーによるエポキシ樹脂は硬化時の荷重が1kg/cmにて50μmになるように、添加量を調整した。硬化時の荷重は、2枚の金属平板の上に、アノード側ガスケット508またはカソード側ガスケット509を接着させたセパレータ504または506を挟みこんで、ホットプレス機により制御した。硬化温度は100℃、硬化時間2時間として、大気中で行なった。これにより、極薄の絶縁層519が形成された。
【0090】
MEA(アノード501、電解質膜503およびカソード502を含む)の電解質503の部分に黒鉛ガスケットの面が接するように、図5の構成のセルを組み立てた。セパレータ504および506の平均締付荷重は、7kg/cmとした。
【0091】
さらに、セパレータ504および506の外側には、2枚の集電板をそれぞれ配置させた。これらの集電板と端板の間にはPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などの絶縁性樹脂板を挿入し、両端の端板にボルトを通してから端板の外側からバネで締め付けた。
【0092】
本実施例の単セルの気密性を計測するために、燃料、酸化剤および冷却水の配管コネクタから大気圧に対して50kPa相当のヘリウムガスを充填し、内部の圧力変化を圧力センサにて計測した。初期50kPaの圧力は10分後においても49.8kPaの高い圧力を保持し、外部へのリークがほとんど起こっていないことがわかった。
【0093】
また、燃料側にのみヘリウムガスを50kPa充填し、酸化剤側は大気開放にしたところ、燃料側の圧力は10分後において48.9kPaの高い気密性を保持していた。後述の図6の構成(実施例3)よりも、セパレータに本発明のガスケットを、直接、接着した方が、ガスケット608がセパレータにしっかり固定され、ずれが生じにくくなっていた。その結果、図3に示した隙間317ができにくくなり、内部リーク防止に有効になると考えられる。
【0094】
その後、上記単セルに70℃の温水を循環させ、燃料には純水素、酸化剤に空気を供給し、発電試験と停止操作の繰り返しを行った。発電試験は、燃料利用率85%、酸化剤利用率55%、電流密度0.3A/cm、発電時間3時間とした。発電終了後に冷却水の入口温度を30℃とし、電池を急速に冷却した。その後、約1時間後に30℃になったことを確認した後に、冷却水入口温度を再び70℃に昇温させ、先の発電試験を再開した。このように、発電および冷却の繰り返しによるヒートサイクル試験を200回行なった。
【0095】
上述のヒートサイクル試験後に、再び気密試験を行った。その結果、燃料、酸化剤および冷却水の配管コネクタから大気圧に対して50kPa相当のヘリウムガスを充填し、内部の圧力変化を圧力センサにて計測した。初期50kPaの圧力は10分後においても49.5kPaの高い圧力を保持し、外部へのリークがほとんど起こっていないことがわかった。
【0096】
また、燃料側にのみヘリウムガスを50kPa充填し、酸化剤側は大気開放にしたところ、燃料側の圧力は10分後において48.5kPaの高い気密性を保持していた。内部リーク抑制効果が極めて優れ、本発明が有効であることがわかる。
【0097】
なお、本実施例にて、絶縁層(接着層)にエポキシ樹脂を用いたが、燃料電池の作動温度にて形状が変化せず、耐水性、水素による耐還元性や酸素による耐酸化性などの化学的耐久性を有していれば、いかなる材料でも適用可能である。
【実施例3】
【0098】
本発明による第三の実施例は、シールと電解質膜との接触面に絶縁層を形成したものである。その構成を図6に示した。
【0099】
図1と同様に、燃料流路605は、燃料側セパレータ604とアノード601との間に形成されている。一方、酸化剤流路607を有する酸化剤側セパレータ606がカソード602と対向している。アノード601およびカソード602は電解質膜603に保持されている。
【0100】
本実施例に用いた黒鉛ガスケットは、黒鉛シートと後述の粘着層(接着層とも呼ぶ)とを含む。黒鉛シート608、609は、図4に示した形状としたものを製作した。厚さは150μm(公差±30μm)、密度は1.7g/cmとした。
【0101】
黒鉛シート608、609の片面にアクリル系粘着層を形成し、膜−電極接合体の電解質膜603および黒鉛シート608、609の外形位置を揃えた状態で両者を圧着させ、アクリル系接着層を電解質膜603に接着させた。必要に応じて、電解質膜の耐熱温度の範囲で加熱しても良い。例えば、フッ素系電解質膜の場合は80〜90℃の耐熱性を有する。この場合、剛性のある2枚の板の間にガスケットと電解質膜との積層体を収納し、剛性板の上下に荷重を印加した状態で、上述の温度範囲にて加熱処理をすることが可能である。加重は、剛性板にボルトを通し、バネによって荷重を調節することができる。本実施例の粘着層619は、厚さ50μmの2枚の金属製スペーサーをガスケット外周に設置し、2枚の剛性板に荷重をくわえて、50μmの厚さに制御した。
【0102】
電解質膜603の反対面にもガスケットが必要なので、上述と同様に、アクリル系接着層を形成したガスケットを電解質膜603に接着させる。
【0103】
ガスケットの接着は電解質膜603の片面ずつ行なっても良いし、2個のガスケットの間に膜−電極接合体を挿入し、一括で同時に行なってもよい。
【0104】
また、ガスケットの接着剤は、アクリル系に限定されず、燃料、酸化剤または水との反応もしくは溶解をしない材料であれば、いずれの材料でも接着剤として用いることができる。また、燃料電池の動作温度範囲において変質しない材料を用いることが必要である。燃料電池の作動温度にて形状が変化せず、耐水性、水素による耐還元性、酸素による耐酸化性などの化学的耐久性を有していれば、いかなる材料でも適用可能である。
【0105】
上述のように、2個のガスケットと膜−電極接合体(アノード601、電解質膜603、カソード602を含む)の積層体を、燃料流路605を形成したセパレータ604と酸化剤流路607を形成したセパレータ606との間に挿入し、図6に示す構成のセルを組み立てた。両セパレータの平均締付荷重は、7kg/cmとした。セパレータ604、606の外側には、2枚の集電板をそれぞれ配置させた。これらの集電板と端板との間には、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などの絶縁性樹脂板を挿入し、両端の端板にボルトを通してから端板の外側からバネで締め付けた。
【0106】
このような単セルの気密性を計測したところ、燃料と酸化剤と冷却水の配管コネクタから大気圧に対し50kPa相当のヘリウムガスを充填し、内部の圧力変化を圧力センサにて計測した。初期50kPaの圧力は10分後においても49.6kPaの高い圧力を保持し、外部へのリークがほとんど起こっていないことがわかった。
【0107】
また、燃料側にのみヘリウムガスを50kPa充填し、酸化剤側は大気開放にしたところ、燃料側の圧力は10分後において47.7kPaの高い気密性を保持していた。実施例2の場合よりも、若干内部リークが大きくなった結果であるが、実用上は全く問題がない。本発明の構成により、外部気密性のみならず、内部気密性も十分に確保できる。
【0108】
その後、上記単セルに70℃の温水を循環させ、燃料には純水素、酸化剤に空気を供給し、発電試験と停止操作の繰り返しを行った。発電試験は、燃料利用率85%、酸化剤利用率55%、電流密度0.3A/cm、発電時間3時間とした。発電終了後に冷却水の入口温度を30℃とし、急速に電池を冷却した。その後、約1時間後に30℃になったことを確認した後に、冷却水入口温度を再び70℃に昇温し、先の発電試験を再開した。このように、発電と冷却の繰り返しによるヒートサイクル試験を200回行なった。
【0109】
上述のヒートサイクル試験後に、再び気密試験を行った。その結果、燃料と酸化剤と冷却水の配管コネクタから大気圧に対し50kPa相当のヘリウムガスを充填し、内部の圧力変化を圧力センサにて計測した。初期50kPaの圧力は10分後においても49.4kPaの高い圧力を保持し、外部へのリークがほとんど起こっていないことがわかった。
【0110】
また、燃料側にのみヘリウムガスを50kPa充填し、酸化剤側は大気開放にしたところ、燃料側の圧力は10分後において47.6kPaの高い気密性を保持していた。内部リーク量はほとんど変化がなく、本発明が内部リーク抑制に効果があることが実証された。
【実施例4】
【0111】
本発明による第四の実施例は、ガスケットの内部に絶縁層719を設け、セパレータと電解質膜との接触面に絶縁層を設けない構成である。絶縁層719の両面に黒鉛シート708または709が接合されている。その構成を図7に示した。
【0112】
本実施例における絶縁層719は、厚さ50μmのポリイミド樹脂シートの両面に厚さ60μmの黒鉛ガスケットを接合したものである。接合は、ポリイミド樹脂シートの表面に極薄のエポキシ樹脂を塗布し、100℃の熱処理により、接着させた。ガスケットシート全体の平均厚さは200μm、ばらつきは±10μmであった。これを図4の形状に打ち抜いて、ガスケットを製作した。
【0113】
上述のように、2個のガスケットとMEA(アノード701、電解質膜703、カソード702からなる)の積層体を、燃料流路705を形成したセパレータ704と酸化剤流路707を形成したセパレータ706の間に挿入し、図7の構成のセルを組み立てた。両セパレータの平均締付荷重は、7kg/cmとした。さらに外側には、2枚の集電板をそれぞれ配置させた。これらの集電板と端板の間にはPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などの絶縁性樹脂板を挿入し、両端の端板にボルトを通してから端板の外側からバネで締め付けた。
【0114】
このような単セルの気密性を計測したところ、燃料と酸化剤に大気圧に対し50kPa相当のヘリウムガスを充填し、内部の圧力変化を圧力センサにて計測した。初期50kPaの圧力は10分後においても49.5kPaの高い圧力を保持し、外部へのリークがほとんど起こっていないことがわかった。
【0115】
また、燃料側にのみヘリウムガスを50kPa充填し、酸化剤側は大気開放にしたところ、燃料側の圧力は10分後において47.5kPaの高い気密性を保持していた。実施例3の場合よりも、わずかに内部リークが大きくなった結果であるが、実用上は全く問題がない。本発明の構成により、外部気密性のみならず、内部気密性も十分に確保できる。
【0116】
その後、上記単セルに70℃の温水を循環させ、燃料には純水素、酸化剤に空気を供給し、発電試験と停止操作の繰り返しを行った。発電試験は、燃料利用率85%、酸化剤利用率55%、電流密度0.3A/cm、発電時間3時間とした。発電終了後に冷却水の入口温度を30℃とし、急速に電池を冷却した。その後、約1時間後に30℃になったことを確認した後に、冷却水入口温度を再び70℃に昇温し、先の発電試験を再開した。このように、発電と冷却の繰り返しによるヒートサイクル試験を200回行なった。
【0117】
上述のヒートサイクル試験後に、再び気密試験を行った。その結果、燃料と酸化剤と冷却水の配管コネクタから大気圧に対して50kPa相当のヘリウムガスを充填し、内部の圧力変化を圧力センサにて計測した。初期50kPaの圧力は10分後においても49.2kPaの高い圧力を保持し、外部へのリークがほとんど起こっていないことがわかった。
【0118】
また、燃料側にのみヘリウムガスを50kPa充填し、酸化剤側は大気開放にしたところ、燃料側の圧力は10分後において47.2kPaの高い気密性を保持していた。内部リーク量はほとんど変化がなく、本発明が内部リーク抑制に効果があることが実証された。
【0119】
次に、本発明のシールを用いてセルスタックへの適用例を図8に示す。内部リーク抑制効果の最も高かった図5のセパレータを複数個製作し、定格出力1kWの固体高分子形燃料電池スタックを製作した。
【0120】
二枚の単セル用セパレータ804の間に、実施例4にて製作したガスケット805、MEAの電解質膜部分、ガスケット805の順に積層し、圧着させることによって、燃料や酸化剤の漏洩を防止している。
【0121】
カソードは、触媒層とガス拡散層から構成される。触媒層は電解質膜802の表面に固定されている。これは、ガス拡散層に塗布したものであっても良い。触媒層は白金微粒子を黒鉛粉体に担持させた粉末と、電解質バインダとの混合物であることが一般的であるが、他の触媒を用いても良い。この触媒層の上にガス拡散層を設ける。
【0122】
アノードも触媒層とガス拡散層から構成される。触媒層は、白金微粒子を黒鉛粉体に担持させ、あるいは、燃料酸化の過程で生じる一酸化炭素を酸化除去する機能を有するルニテウム等の助触媒と白金を合金にした微粒子を黒鉛粉体に担持させ、さらに電解質バインダで結合させたものである。他の触媒を用いても良い。この触媒層は、電解質膜の他方の面に固定された後、触媒層の上にガス拡散層を設ける。また、カソードまたはアノードの触媒層は、ガス拡散層に塗布したものであっても良い。
【0123】
また、2セルごとに、冷却水流路を内部に有する冷却セル808を挿入した。これは、発電中に生じる熱を除去するためのものである。
【0124】
複数の単セル801を直列に接続し、両末端に集電板813、814を設置し、さらに絶縁板807を介して外側より端板809で締め付ける。端板が絶縁性の材料であれば、絶縁板807を省略することができる。締め付け部品として、ボルト816、ばね817、ナット818を用いる。なお、締め付け荷重は、MEAの電極面と本発明のガスケットに、それぞれ3〜7kg/cmの平均圧力になるように調整した。
【0125】
なお、集電板813と端部セパレータとの間、および集電板814と端部セパレータとの間に、黒鉛板803を挿入している。これは、前記セパレータ上に冷却水流路を形成しているため、その冷却水が集電板813、814に直接、接触しないようにするものである。
【0126】
燃料は、左側の端板809に設けた供給用コネクタ810から供給し、各単セル801を通過して、燃料がMEAのアノード上にて酸化された後に、反対の端板809に設けた排出用コネクタ822から排出される。ここで、燃料は、メタノール等の液体有機燃料を用いることができる。さらに、メタノール水溶液などの液体燃料を用いることも可能である。
【0127】
同様に、酸化剤は、図8に示す左側の端板809に設けた供給側コネクタ811から供給され、反対の端板809の排出側コネクタ823から排出される。空気は、電池の外部に設置した空気ブロアから配管を通じて供給した。
【0128】
冷却水は、端板809に設けた供給側コネクタ812から供給され、反対の端板809の排出側コネクタ824から排出される。ここから排出された冷却水は、熱交換器(図示省略)にて冷水により除熱され、再び配管コネクタ812に供給される。冷却水の循環にはポンプを用いた。
【0129】
このような部品構成にて、25個の単セル801からなるセルスタックを製作した。このセルスタックの燃料、酸化剤および冷却水の配管コネクタから大気圧に対して50kPa相当のヘリウムガスを充填し、内部の圧力変化を圧力センサにより計測した。初期50kPaの圧力は10分後においても49.1kPaの高い圧力を保持し、外部へのリークがほとんど起こっていないことがわかった。
【0130】
また、燃料側にのみヘリウムガスを50kPa充填し、酸化剤側は大気開放にしたところ、燃料側の圧力は10分後において47.0kPaの高い気密性を保持していた。また、逆に燃料側を大気開放とし、酸化剤側に50kPaのヘリウムガスを充填すると、酸化剤側の圧力は10分後に46.8kPaの高い気密性を保持していた。なお、いずれの試験においても、冷却水の配管は大気に対し開放した。
【0131】
その後、このセルスタックに70℃の温水を循環させ、燃料には水素70%と二酸化炭素30%の混合ガスとし、酸化剤に空気を供給し、発電試験と停止操作の繰り返しを行った。燃料電池の集電板端子813、814は、ケーブル819を介してインバータ820(DC−DCコンバータでもよい。)に接続されている。ここで、負荷821に交流の電力を供給するようにした。
【0132】
また、燃料電池の発電試験は、燃料利用率85%、酸化剤利用率55%、電流密度0.3A/cm、発電時間3時間とした。発電終了後に冷却水の入口温度を30℃とし、急速に電池を冷却した。その後、約1時間後に30℃になったことを確認した後に、冷却水入口温度を再び70℃に昇温させ、先の発電試験を再開した。このように、発電と冷却の繰り返しによるヒートサイクル試験を200回行なった。
【0133】
上述のヒートサイクル試験後に、再び気密試験を行った。その結果、燃料と酸化剤と冷却水の配管コネクタからに大気圧に対し50kPa相当のヘリウムガスを充填し、内部の圧力変化を圧力センサにて計測した。初期50kPaの圧力は10分後においても48.9kPaの高い圧力を保持し、外部へのリーク量がほとんど増加していなかった。
【0134】
また、燃料側にのみヘリウムガスを50kPa充填し、酸化剤側は大気開放にしたところ、燃料側の圧力は10分後において46.7kPaの高い気密性を保持していた。内部リーク量はほとんど変化がなく、本発明が内部リーク抑制に効果があることが実証された。
【0135】
本発明のシール材料を用いると、そのリサイクルが可能となる副次的効果も得られる。例えば、図8のセルスタックに組み込まれたガスケットを回収し、粉砕、熱処理等により、カーボンを再利用することが可能である。カーボン自体は化学的に安定であり、実質的に劣化しないためである。用途としては、燃料電池用ガスケットとしての再利用の他に、導電性を有する各種モールド材料、伝熱材料などが考えられる。
【0136】
従来のゴム材料を用いたガスケットでは、図2Aのマニホールド210の近傍(P−P断面の周囲部)上、対角位置にあるマニホールド211の近傍における流路上、およびセパレータ204の外縁部全体を覆うようにガスケットを製作する。そして、流路205とリブ206からなる中央の面の大部分は開口状態とし、アノードと流路とが対面するようになっている。
【0137】
したがって、従来のゴム材料を用いた平板状のガスケットの場合、平板シートを製作した後に、この開口部およびマニホールド部分を打ち抜いて使用されることになる。このように打ち抜かれたゴム材料は、架橋処理が施され、化学的に変化しているため、再利用することは困難である。また、セルスタックに使用したものについても、使用後に再利用することも困難である。セパレータに凸状のガスケットを形成した場合も、セパレータからガスケットを回収することも困難で、それを再利用することも難しい。
【0138】
本発明によれば、従来の技術課題を解決しつつ、材料のリサイクルも可能になり、環境負荷の低減にも有効である。
【実施例5】
【0139】
本発明による第五の実施例は、実施例3の粘着層619を、電解質膜603に予め接着させた樹脂製補強シートを介在させてから形成した構成である。
【0140】
樹脂製補強シートは、図6の粘着層619と電解質膜603の界面に形成した(図6では省略されている。)。樹脂製補強シートは、ポリイミド製フィルム(厚さ50μm)とし、極薄に塗布したエポキシ樹脂で接着させた。樹脂製補強シートは、MEA(膜−電極接合体)のアノード面とカソード面の両方に接着させた。
【0141】
樹脂製補強シートの追加に伴い、黒鉛ガスケットの厚さは、150μm(公差±30μm)から100μm(公差±30μm)に変更した。密度は1.7g/cmとした。
【0142】
黒鉛シート608、609の両面にアクリル系粘着層を塗布し、MEAの樹脂製補強シートに接着させ、黒鉛ガスケット付きMEAを作製した。
【0143】
これを、燃料流路605に形成したセパレータ604と酸化剤流路607を形成したセパレータ606との間に挿入し、図6に示す構成のセルを組み立てた。両セパレータの平均締付荷重は、7kg/cmとした。セパレータ604、606の外側には、2枚の集電板をそれぞれ配置させた。これらの集電板と端板との間には、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などの絶縁性樹脂板を挿入し、両端の端板にボルトを通した後、端板の外側からバネで締め付けた。
【0144】
実施例3と同様の手順により単セル全体の気密性を計測したところ、初期50kPaの圧力は10分後においても49.8kPaの高い圧力を保持し、外部へのリークがほとんど起こっていないことがわかった。
【0145】
また、燃料側にのみヘリウムガスを50kPa充填し、酸化剤側は大気開放にしたところ、燃料側の圧力は10分後において49.5kPaの高い気密性を保持していた。実施例3の場合よりも内部気密性は良好であった。これは、電解質膜に接合した樹脂製補強膜が図3に示すガスケットの変形を効果的に防止できることを示唆している。
【符号の説明】
【0146】
101:アノード、102:カソード、103:電解質膜、104:燃料側セパレータ、105:燃料流路、106:酸化剤側セパレータ、107:酸化剤流路、108:アノード側ガスケット、109:カソード側ガスケット、205:燃料流路、206:凸部(リブ)、210:燃料供給マニホールド、211:燃料排出マニホールド、212:酸化剤供給マニホールド、213:酸化剤排出マニホールド、214:冷却水供給マニホールド、215:冷却水排出マニホールド、304:燃料側セパレータ、305:燃料流路、306:凸部(リブ)、308:アノード側ガスケット、309:カソード側ガスケット、310:カソード側セパレータ、317:隙間、408:ガスケット、410:燃料供給マニホールド、411:燃料排出マニホールド、412:酸化剤供給マニホールド、413:酸化剤排出マニホールド、414:冷却水供給マニホールド、415:冷却水排出マニホールド、418:開口部、501:アノード、502:カソード、503:電解質膜、504:燃料側セパレータ、505:燃料流路、506:酸化剤側セパレータ、507:酸化剤流路、508:アノード側ガスケット、509:カソード側ガスケット、519:絶縁層、601:アノード、602:カソード、603:電解質膜、604:燃料側セパレータ、605:燃料流路、606:酸化剤側セパレータ、607:酸化剤流路、608:アノード側ガスケット、609:カソード側ガスケット、619:絶縁層、701:アノード、702:カソード、703:電解質膜、704:燃料側セパレータ、705:燃料流路、706:酸化剤側セパレータ、707:酸化剤流路、708:アノード側ガスケット、709:カソード側ガスケット、719:絶縁層、801:単セル、802:膜−電極接合体(MEA)、803:冷却水流路に対面する平板部品、804:単セル用セパレータ、805:ガスケット(シール)、807:絶縁板、808:冷却セル、809:端板、810:燃料配管用コネクタ、811:酸化剤配管用コネクタ、812:冷却水配管用コネクタ、813:集電板、814:集電板、816:ボルト、817:ばね、818:ナット、819:外部電力線、820:インバータ、821:外部に設置した負荷、822:燃料配管用コネクタ、823:酸化剤配管用コネクタ、824:冷却水配管用コネクタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜とセパレータとの間のシールとして用いる燃料電池のガスケットにおいて、前記ガスケットが、黒鉛粒子と樹脂バインダとを混合した成形体で構成され、且つ、前記黒鉛粒子と前記樹脂バインダとが均質に分散された構成であることを特徴とする燃料電池用ガスケット。
【請求項2】
前記黒鉛粒子が膨張黒鉛粒子を含むことを特徴とする請求項1記載の燃料電池用ガスケット。
【請求項3】
前記樹脂バインダが熱硬化性樹脂を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池用ガスケット。
【請求項4】
前記燃料電池の前記セパレータに接触する接触部を有するガスケットであって、その接触部の一部に凸部を設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の燃料電池用ガスケット。
【請求項5】
前記ガスケットの内部に高抵抗層を設けたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の燃料電池用ガスケット。
【請求項6】
燃料を流通させるアノード流路を有するセパレータと、酸化剤を供給するカソード流路を有するセパレータと、前記両セパレータの間に配置されたアノード/電解質膜/カソードで構成された膜−電極接合体とを有する燃料電池において、前記各セパレータと前記電解質膜との間に請求項1〜5のいずれか一項に記載の燃料電池用ガスケットを介在させたことを特徴とする燃料電池。
【請求項7】
前記ガスケットと前記各セパレータまたは前記電解質膜との接触部に高抵抗層を設けたことを特徴とする請求項6記載の燃料電池。
【請求項8】
前記高抵抗層が、粘着性のある樹脂層を有することを特徴とする請求項7記載の燃料電池。
【請求項9】
前記ガスケットに接触する接触部を有する前記セパレータの少なくとも一つが、その接触部の一部に凸部を有することを特徴とする請求項6〜8のいずれか一項に記載の燃料電池。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれか一項に記載の燃料電池を複数個組み込んだことを特徴とする燃料電池システム。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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