説明

燃料電池用セパレータおよびその製造方法

【課題】燃料電池用のセパレータに設けられる流体流路の形状保持性を向上するとともに、その成形性を向上させる技術を提供する。
【解決手段】燃料電池に用いられるアノードセパレータ20を以下の工程で製造する。(a)導電性の基板21を準備する。(b)導電性のペースト60に骨格部材40を混合する。(c)基板21の少なくとも一方の面に、骨格部材40を含有するペースト60を塗布して、流路を構成する流路壁24を成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は通常、プロトン伝導性を有する電解質膜の両面に電極が配置された発電体である膜電極接合体と、膜電極接合体を狭持するセパレータとを備える。セパレータは、導電性を有する板状部材によって構成され、その外表面に反応ガスや冷媒のための流体流路が形成される(下記特許文献1等)。
【0003】
ここで、セパレータに形成される流体流路において、流路を構成する流路壁が型くずれや変形を生じると、反応ガスや冷媒の流れが阻害されてしまい、燃料電池の性能劣化の原因となる。そのため、セパレータに形成される流体流路の流路壁は高い形状保持性を有することが望ましい。また、流体流路の構成が電極における反応ガスの供給量分布や水分の移動性、電極とセパレータとの間の接触抵抗、発電領域における温度分布などに影響を与える。そのため、セパレータに形成される流体流路は、より高い精度で設計通りに成形されることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−129299号公報
【特許文献2】特開2000−133282号公報
【特許文献3】特開2010−225484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、燃料電池用のセパレータに設けられる流体流路の形状保持性を向上するとともに、その成形性を向上させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
燃料電池用セパレータの製造方法であって、
(a)導電性の基板を準備する工程と、
(b)導電性ペーストに骨格部材を混合する工程と、
(c)前記基板の少なくとも一方の面に、前記骨格部材を含有する前記導電性ペーストを塗布して、燃料電池に供給される流体のための流路を構成する流路壁を成形する工程と、
を備える、製造方法。
この製造方法であれば、骨格部材によって導電性ペーストのダレが抑制されるため、流路壁の成形性が向上する。また、骨格部材を包含することにより形状保持性が向上された流路壁を簡易に形成することができる。
【0008】
[適用例2]
適用例1記載の製造方法であって、前記骨格部材は球形の粒状部材である、製造方法。
この製造方法によれば、骨格部材が球形の粒状部材であるため、形成される流路壁の形状や、形状保持性が、包含する骨格部材の配置方向に影響されることを抑制することができる。従って、流路壁の成形性が向上するとともに、その形状保持性がより向上する。
【0009】
[適用例3]
適用例2記載の製造方法であって、前記工程(c)において成形される流路壁は、前記粒状部材の1個分のみが包含できる高さで成形されている、製造方法。
この製造方法であれば、骨格部材としての粒状部材が高さ方向に積み上げられた流路壁が形成されることを回避できるため、粒状部材の崩れによる流路壁の型くずれの発生を抑制できる。
【0010】
[適用例4]
適用例2または適用例3記載の製造方法であって、前記工程(c)において成形される流路壁は、前記粒状部材の1個分のみが包含できる幅で成形されている、製造方法。
この製造方法であれば、流路壁が必要以上に広い幅で形成されることを回避できる。
【0011】
[適用例5]
適用例2〜4のいずれか一つに記載の製造方法であって、
前記工程(c)は、前記基板に、前記流路のパターンが貫通孔として形成されたマスクを配置し、前記貫通孔に前記粒状部材を含有する前記導電性ペーストを充填することにより、前記流路壁を成形する工程を含み、
前記貫通孔は、前記粒状部材を1個ずつ収容して配列可能な程度の幅と深さとを有する、製造方法。
この製造方法によれば、マスクに形成された貫通孔の幅や深さによって、粒状部材が流路壁の高さ方向や幅方向に1個ずつ包含されるように調整できる。従って、より効率的に、形状保持性および成形性の高い流路壁を形成することができる。
【0012】
[適用例6]
燃料電池用セパレータであって、導電性を有する基板と、前記基板の少なくとも一方の面に配置された導電性部材によって成形され、燃料電池に供給される流体のための流路を構成する流路壁と、前記流路壁の内部に包含された骨格部材と、を備える、燃料電池用セパレータ。
この燃料電池用セパレータであれば、流路壁内に包含された骨格部材によって、流路壁の形状保持性が向上する。また、流路壁に骨格部材を包含させることにより、強度を保持しつつより自由な形状で流路壁を構成することができる。従って、流路壁の成形性が向上する。
【0013】
[適用例7]
適用例6記載の燃料電池用セパレータであって、前記骨格部材は、球形の粒状部材であり、前記流路壁は、前記導電性部材と、前記粒状部材とを混合したペーストを塗布して乾燥させることにより成形されている、燃料電池用セパレータ。
この燃料電池用セパレータであれば、流路壁を、骨格部材を混合したペーストの塗布によって形成できるため、その流路壁によって形成される流路のパターンを、比較的容易かつ自由に構成することができる。また、骨格部材によって流路壁の形状保持性が向上する。
【0014】
[適用例8]
適用例7記載の燃料電池用セパレータであって、前記流路壁は、前記粒状部材の1個分のみが包含できる高さで形成されている、燃料電池用セパレータ。
このセパレータであれば、球形の骨格部材が高さ方向に積み重ねられないため、骨格部材の崩れによる流路壁の型くずれが抑制される。
【0015】
[適用例9]
適用例7または適用例8記載の燃料電池用セパレータであって、前記流路壁は、前記粒状部材の1個分のみが包含できる幅で形成されている、燃料電池用セパレータ。
このセパレータであれば、流路壁が粒状の骨格部材の径に応じた幅で形成され、より幅の狭い流路壁を構成することができる。従って、流路の配列ピッチを狭くすることができ、流体流路の構成を細分化することができる。
【0016】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、燃料電池用セパレータの製造方法および製造装置、それらの方法または装置の機能を実現するためのコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した記録媒体等の形態で実現することができる。また、本発明は、例えば、燃料電池用セパレータ、その燃料電池用セパレータを備えた燃料電池、その燃料電池を備えた燃料電池システム、その燃料電池システムを搭載した車両等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】燃料電池の構成を示す概略図。
【図2】膜電極接合体のアノード側の面の構成を示す概略図。
【図3】アノードセパレータに形成された流路形成層の構成を示す概略図。
【図4】流路壁の形状およびその内部構成を示す概略図。
【図5】アノードセパレータに形成された流路形成層の構成を示す概略図。
【図6】流路形成層の流路壁の形成工程の手順を示す説明図。
【図7】流路形成層の流路壁の形成工程を説明するための模式図。
【図8】流路形成層の流路壁の形成工程を説明するための模式図。
【図9】参考例としての流路壁の形成工程を説明するための模式図。
【図10】他の構成例としての流路壁の構成を示す概略図。
【図11】他の構成例としての流路壁の構成を示す概略図。
【図12】他の構成例としての流路壁の構成を示す概略図。
【図13】他の構成例としての流路壁の構成を示す概略図。
【図14】他の構成例としての流路壁の構成を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
A.第1実施例:
図1は本発明の一実施例としての燃料電池の構成を示す概略図である。この燃料電池100は、反応ガスとして水素(燃料ガス)と酸素(酸化ガス)の供給を受けて発電する固体高分子形燃料電池である。なお、燃料電池100としては、固体高分子形燃料電池に限らず、他の種々のタイプの燃料電池に本発明を適用することが可能である。
【0019】
燃料電池100は、複数の単セル110が積層されたスタック構造を有する。単セル110は、膜電極接合体10と、膜電極接合体10を狭持する2枚のセパレータ20,30とを備える。膜電極接合体10は、電解質膜1の外側に2つの電極2,3(以後、それぞれ「アノード2」および「カソード3」とも呼ぶ)が設けられた発電体である。
【0020】
電解質膜1は、プロトン伝導性を有するフッ素樹脂系のイオン交換膜によって構成される。アノード2およびカソード3はそれぞれ、電解質膜1の外表面に形成されたガス拡散性を有する電極であり、電気化学反応を促進するための触媒が担持されている。アノード2およびカソード3は、例えば触媒担持カーボンによって構成することができる。また、触媒としては、例えば白金(Pt)を用いることができる。
【0021】
図2は、膜電極接合体10のアノード2側の面の構成を示す概略図である。なお、膜電極接合体10のカソード3側の面の構成については、アノード2側の面の構成と同様であるため、その図示を省略する。膜電極接合体10の外周には電極2,3を囲むようにシール部4が形成されている。より具体的には、シール部4は、電解質膜1の外周端を被覆するように樹脂部材を射出成形することにより、電解質膜1に一体的に形成されている。
【0022】
シール部4は、燃料電池100として組み付けられたときに、2枚のセパレータ20,30によって狭持されて押圧される(図1)。シール部4は、セパレータ20,30同士の間の短絡を防止するとともに、2枚のセパレータ20,30との接触面にシールライン(図示せず)を形成して、反応ガスや冷媒などの流体の漏洩を防止する。
【0023】
ここで、シール部4には、各単セル110に反応ガスや冷媒を供給するためのマニホールド51〜56が貫通孔として設けられている(図2)。より具体的には、シール部4には、水素の供給用マニホールド51および排出用マニホールド52と、酸素の供給用マニホールド53および排出用マニホールド54と、冷媒の供給用マニホールド55および排出用マニホールド56とが設けられている。
【0024】
各流体の供給用マニホールド51,53,55と、排出用マニホールド52,54,56とは、シール部4に囲まれた発電領域11を挟んで互いに反対側に設けられている。本明細書では、発電領域11において反応ガス/冷媒が流れる方向(各供給用マニホールド51,53,55側から、対応する排出用マニホールド52,54,56側へと向かう方向)を、「反応ガス/冷媒の流れ方向」と呼ぶ。なお、各マニホールド51〜56の配列構成は他の配列構成であっても良い。
【0025】
2枚のセパレータ20,30(図1)はそれぞれ、シール部4を押圧可能なように、膜電極接合体10の外側に配置される。より具体的には、アノード2の外側には、アノードセパレータ20が配置され、カソード3の外側にはカソードセパレータ30が配置される。各セパレータ20,30はそれぞれ、導電性を有するガス不透過の板状部材である基板21,31によって構成されている。具体的に、基板21としては、例えば、ステンレス鋼(SUS)やチタン(Ti)などの金属板を用いることが可能である。
【0026】
各基板21,31の両面にはそれぞれ、流体のための流路が形成される流路形成層22,23,32,33が設けられている。具体的には、アノードセパレータ20の基板21には、膜電極接合体10のアノード2と面する側の面に水素のための流路形成層22が設けられ、その反対側の面に冷媒のための流路形成層23が設けられている。
【0027】
また、カソードセパレータ30の基板31には、膜電極接合体10のカソード3と面する側の面に酸素のための流路形成層32が設けられ、その反対側の面に冷媒のための流路形成層33が設けられている。各流路形成層22,23,32,33には、流路を構成する流路壁24,25,34,35が配列されている。
【0028】
ここで、アノードセパレータ20に形成された冷媒用の流路形成層23と、カソードセパレータ30に形成された冷媒用の流路形成層33とは、燃料電池100として組み付けられたときに互いに面し合う。そして、それぞれの互いに対応する流路壁25,35同士が積層され、冷媒を誘導するための流路壁を構成する。なお、アノードセパレータ20またはカソードセパレータ30のいずれか一方の流路形成層23,33は省略することが可能である。
【0029】
図3〜図5は、アノードセパレータ20に形成された流路形成層22,23のそれぞれの具体的な構成を説明するための概略図である。なお、カソードセパレータ30に形成された流路形成層32,33の具体的な構成については、アノードセパレータ20の流路形成層22,23とほぼ同様であるため、その図示や詳細な説明は省略する。
【0030】
図3は、アノードセパレータ20に形成された水素のための流路形成層22の流路構成を示す概略図である。流路形成層22は、燃料電池100に組み付けられたときに、膜電極接合体10のシール部4と接触してシールラインを形成する外周枠部22fと、アノード2と重なり合うガス流路部22pとを有する。
【0031】
外周枠部22fの形成領域には、膜電極接合体10の各マニホールド51〜56に対応するように、流体のための各マニホールド51〜56が、基板21と、2つの流路形成層22,23とを貫通する貫通孔として設けられている。また、外周枠部22fには、ガス流路部22pと、水素の供給用/排出用マニホールド51,52のそれぞれとを連結する連結溝57が形成されている。なお、カソードセパレータ30においても同様に、流路形成層32に形成された連結溝(図示せず)を介して、発電領域11と酸素用の供給用/排出用マニホールド53,54のそれぞれとが連結される。
【0032】
水素供給用マニホールド51を介して燃料電池100に供給された水素は、供給側(紙面左側)の連結溝57を介してガス流路部22pへと流入し、膜電極接合体10のアノード2に供給される。そして、アノード2において発電に用いられなかった水素を含むアノード排ガスは、排出側(紙面右側)の連結溝57を介して水素排出用マニホールド52へと排出される。
【0033】
ガス流路部22pには、水素をアノード2全体に拡散させて行き渡らせることが可能なように、複数の流路壁24が分散して配列されている。本実施例では、各流路壁24は、水素の流れ方向(矢印FDで図示)を長辺に沿った方向として、水素の流れ方向およびそれに垂直な方向にそれぞれ、一定のピッチで配列されている。各流路壁24の形状や配列構成は他の構成であっても良い。
【0034】
図4(A)〜(C)は、流路壁24の形状およびその内部構成を示す概略図である。図4(A)〜(C)はそれぞれ、流路壁24を異なる方向から見たときの概略図である。具体的には、図4(A)は、流路壁24を、その長手方向(図3の矢印Aの方向)に沿って見たときの図であり、図4(B)は、流路壁24を、その幅方向(図3の矢印Bの方向)に沿って見たときの図である。また、図4(C)は、流路壁24を、その高さ方向(基板21の面に垂直な方向)に沿って見たときの図である。なお、図4(A)〜(C)では、流路壁24の内部構造を透過して図示してある。
【0035】
本実施例では、各流路壁24は、下方が若干末広がりとなっているが(図4(A),(B))、ほぼ略直方体に近い形状を有しており、それぞれがほぼ同一のサイズで形成されている。各流路壁24の形状が若干下方に末広がりに形成されている理由については後述する。なお、各流路壁24は、導電性を有するように構成されており(後述)、その上面および底面が、アノード2と基板21とにそれぞれ面接触するように配置される(図1)。これによって、各流路壁24は、膜電極接合体10と基板21との間の導電パスとして機能する。
【0036】
流路壁24は、球形の粒状部材である骨格部材40が外皮42によって包含(コーティング)された構成を有している。骨格部材40は、アルミナやジルコニアなどの金属や、ナイロンなどの樹脂によって構成することができる。なお、骨格部材40は導電性を有する部材によって構成されるものとしても良いし、導電性を有しない部材によって構成されるものとしても良い。外皮42は、導電性を有する部材によって構成され、例えば、カーボンブラックなどの導電性粉体を固化させた部材によって構成できる。
【0037】
ここで、本実施例の流路壁24では、骨格部材40が流路壁24の長手方向(延伸方向)に沿って一列に配列された状態で外皮42に包含されている。即ち、流路壁24を、高さ方向、および幅方向のそれぞれの方向に沿って見たときに(図4(C)、図4(B))、各骨格部材40が互いに重なり合わないように包含されている。流路壁24の形成方法については後述する。
【0038】
ここで、膜電極接合体の電極と面するガス流路が外表面に形成されたセパレータを備える燃料電池では、そのガス流路が、より微細な構造を有するように構成されることが好ましい。具体的には、セパレータのガス流路は、その流路の幅や深さ、流路同士の間隔(流路の幅)が数百μm程度となるような構成であることが好ましい。この理由は、以下のためである。
【0039】
各セパレータのガス流路を微細に構成した場合には、以下のようなメリットがある。即ち、各流路壁がより細かく分散配置されることにより、膜電極接合体の電極が各セパレータから受ける面圧の不均一性が低減され、電極とセパレータとの間の接触抵抗が低減される。また、反応ガスの流れがより細分化されるため、反応ガスの配流性が向上する。
【0040】
そこで、本実施例では、各セパレータ20,30に形成されるガス流路を微細な構成としている。具体的には、各セパレータ20,30に形成される反応ガスのための流路壁24,34の幅および高さを、例えば、200〜300μm程度とし、各流路壁24,34同士の間隔を、例えば、100〜300μm程度とする。また、各流路壁24,34に包含される骨格部材40の径は、100〜200μm程度とする。
【0041】
ところで、セパレータのガス流路を微細に構成した場合には、流路壁が外力を受けて変形を生じたときに、ガス流路が閉塞してしまう可能性が高くなる。しかし、本実施例の流路壁24,34であれば、骨格部材40が包含されているため、その強度が向上されており、流路壁24,34の外力による変形や型くずれの発生が抑制されている。
【0042】
図5は、アノードセパレータ20に形成された冷媒のための流路形成層23の構成を示す概略図である。流路形成層23は、燃料電池100を積層方向に沿って見たときに、シール部4と重なり合う外周枠部23fと、発電領域11と重なり合う冷媒流路部23pとを有する。なお、外周枠部23fには、冷媒流路部23pと冷媒の供給用/排出用マニホールド55,56のそれぞれとを連結する連結溝58が形成されている。
【0043】
冷媒流路部23pには、冷媒の流れ方向(矢印FDで図示)に渡って延びる直線状の複数の流路壁25が一定のピッチで並列に配列されている。前記したとおり、この流路壁25は、カソードセパレータ30に形成された流路形成層33の流路壁35と重なり合って冷媒のための流路壁を構成する(図1)。本実施例では、流路壁25の配列ピッチは、基板21の反対側の面において流路形成層22の流路壁24が水素の流れ方向に垂直な方向に配列されていたピッチとは異なるピッチで配列されている。
【0044】
冷媒供給用マニホールド55から供給された冷媒は、供給側(紙面左側)の連結溝58を介して冷媒流路部23pに流入する。冷媒流路部23pに流入した冷媒は、各流路壁25,35の間に形成された各流路に分岐し、膜電極接合体10における反応熱を奪いつつ流れる。そして、冷媒は、排出側(紙面右側)の連結溝58を介して冷媒排出用マニホールド56へと排出される。なお、冷媒流路部23pに形成される冷媒の流路構成は他の構成であっても良い。
【0045】
ところで、冷媒のための流路壁25,35は、導電性部材によって構成され、アノードセパレータ20とカソードセパレータ30との間の導電パスとしても機能する。なお、流路壁25,35は、反応ガスのための流路形成層22,32の流路壁24,34と同様に、骨格部材40が外皮42によって包含される構成を有するように形成されるものとしても良い。
【0046】
ここで、各セパレータ20,30の反応ガスのための流路壁24,34の形成方法について説明する。以下では、アノードセパレータ20の流路壁24の形成工程について説明するが、カソードセパレータ30の流路壁34についても同様の工程によって形成することができるため、その図示および説明を省略する。なお、各セパレータ20,30の冷媒のための流路壁25,35についても同様な工程によって形成されるものとしても良い。
【0047】
図6〜図8は、アノードセパレータ20における流路形成層22の流路壁24の形成工程を説明するための説明図である。図6は、流路形成層22の形成工程の手順を示すフローチャートである。図7,図8(A)〜(D)は、図6に示された各工程ごとの内容を工程順に示す模式図である。
【0048】
本実施例では、流路形成層22の流路壁24は、いわゆるスクリーン印刷によって形成される。なお、流路形成層22の外周枠部22f(図3)については、流路壁24と同時にスクリーン印刷によって形成されるものとしても良いし、別工程によって形成されるものとしても良い。
【0049】
ステップS10では、流路形成層22の印刷に用いるインクであるペーストを準備する(図7)。具体的には、まず、水やアルコールなどの有機溶媒に導電性粉体としてのカーボン粒子を混合したペースト60を準備する。そして、そのペースト60に球形の粒状部材である骨格部材40を混合して攪拌する。
【0050】
ステップS20では、基板21の外表面にマスク65を配置する(図8(A))。このマスク65には、流路壁24の配列パターン(即ち、ガス流路の構成パターン)が貫通孔66として形成されている。本実施例では、この貫通孔66は、骨格部材40の1個分を収容できる程度の幅および深さで構成されている。より具体的には、貫通孔66は、200〜300μm程度の幅と深さとを有するように構成されている。
【0051】
ステップS30では、基板21に載置されたマスク65の外表面に、骨格部材40が混合されたペースト60を塗布し、マスク65の貫通孔66にペースト60を充填する(図8(B))。なお、貫通孔66内にはペースト60に混合・分散された骨格部材40が填り込み、一列に配列された状態となる。
【0052】
ステップS40では、マスク65を基板21から取り外す(図8(C))。ここで、この工程の段階では、流路壁24を構成するペースト60が完全に乾燥していない状態である。そのため、マスク65を取り外すとともに、貫通孔66内に充填されていたペースト60がダレて基板21の面上にわずかに広がる。従って、形成される流路壁24は、その高さが、マスク65の厚みに対してわずかに低くなり、その断面形状が、若干、下側(基板21側)に末広がりな形状となる。
【0053】
図9(A)〜(C)は、参考例としての流路壁24aの形成工程を工程順に示す模式図である。図9(A)〜(C)は、ペースト60に骨格部材40が混合・分散されていない点と、形成された流路壁24aの断面形状が異なる点以外は、図8(A)〜(C)とほぼ同じである。なお、図9(C)では、比較のために、参考例の流路壁24aに重ねて本実施例の流路壁24を破線で図示し、その高さの相違を矢印で示してある。
【0054】
この参考例の形成工程では、ペースト60に骨格部材40を混合することなく、マスク65にペースト60を塗布して流路壁24aを形成する。即ち、貫通孔66に充填されたペースト60には骨格部材40が含有されていない(図8(B))。そのため、マスク65を取り外したときにペースト60がダレて基板21の面上に広がってしまう度合いが、本実施例の形成工程の場合より大きくなる。従って、この参考例の形成工程で形成される流路壁24aは、本実施例の流路壁24よりも、高さが低く、下側の幅がより広がった形状として形成されてしまう。
【0055】
ここで、一般に、セパレータのガス流路を構成する流路壁同士の間隔(流路の幅)を広く構成すると、燃料電池を構成したときに、膜電極接合体の電極が変形して流路壁同士の間に陥没する可能性が高くなる。また、セパレータのガス流路において、所定の反応ガスの流量を確保するためには、所定の流路断面積が確保されることが望ましい。従って、膜電極接合体の電極の変形・劣化を抑制しつつ、反応ガスの流量を確保するためには、ガス流路の流路壁同士の間隔を狭くする一方で、流路壁の高さを高く構成することが望ましい。
【0056】
本実施例の形成工程では、マスク65の貫通孔66にペースト60とともに骨格部材40が配置されるため、骨格部材40の外表面にペースト60が付着することによって、マスク65を取り外したときのペースト60のダレが抑制される(図8)。また、骨格部材40が含有されている分だけ、流路壁24を構成するペースト60の乾燥収縮による流路壁24の縮小が抑制される。
【0057】
従って、本実施例の形成工程であれば、形成される流路壁24,34の下側の幅が広がり、その高さが低くなってしまうことが抑制される。即ち、本実施例の形成工程であれば、参考例の形成工程に比較して、流路壁24,34の配列間隔を狭くしつつ、流路壁24,34の高さを高く構成することが可能である。
【0058】
ここで、マスク65の厚み(貫通孔66の深さ)を増すことによって、形成される流路壁24,34の高さを高くすることが可能である。しかし、マスク65の厚みを増した場合には、貫通孔66の内壁面とペースト60との接触面積が増大し、マスク65を取り外したときにマスク65に残留付着するペースト60の量が増大する可能性がある。即ち、マスク65の厚みの増大は、いわゆる版抜け性の低下の原因となる。
【0059】
しかし、本実施例の製造工程であれば、上述したように、ペースト60のダレやペースト60の乾燥収縮が抑制されるため、流路壁24,34が低く形成されてしまうことを想定して、マスク65を必要以上に厚く構成することを回避できる。従って、本実施例の製造工程であれば、流路壁24,34の形成工程における版抜け性の低下が抑制される。
【0060】
このように、本実施例のセパレータ20,30であれば、流路壁24,34が骨格部材40を包含しているため、その形状保持性が向上する。また、流路壁24,34の形成工程において、骨格部材40によってペースト60のダレが抑制されるため、流路壁24,34をより設計に忠実に形成することができ、流路壁24,34の成形性が向上する。
【0061】
ここで、以下では、アノードセパレータ20に形成される流路壁の他の構成例を説明する。なお、以下に説明する流路壁の構成は、カソードセパレータ30に形成される流路壁や、各セパレータ20,30に形成される冷媒のための流路壁にも適用することが可能である。また、上記実施例における流路壁24,34の構成や、以下に説明する構成例の流路壁の構成を適宜組み合わせて反応ガスや冷媒のための流路を構成することも可能である。
【0062】
[1]流路壁の他の構成例1:
図10(A)〜(C)は、他の構成例としての流路壁24Aをそれぞれ異なる方向から見たときの概略図である。図10(A)は、流路壁24Aを、その長辺方向に沿って見たときの図であり、図10(B)は、流路壁24Aを、その幅方向に沿って見たときの図である。また、図10(C)は、流路壁24Aを高さ方向に沿って見たときの図である。なお、図10(A)〜(C)では、流路壁24Aの内部構造が透過して図示してある。
【0063】
この構成例における流路壁24Aは、上記実施例の流路壁24よりも高く形成されており、骨格部材40が高さ方向に2段に積み重ねられた状態で包含されている。この流路壁24Aは、上記実施例よりも厚みをほぼ2倍に増したマスク65を用いることにより形成することができる。このような構成であっても、骨格部材40を包含することにより、流路壁24Aの形状保持性や成形性は向上している。ただし、この流路壁24Aの場合には、積み重ねられた骨格部材40が崩れてしまう可能性があるため、骨格部材40を積み重ねることなく、骨格部材40の径に合わせた高さで形成される上記実施例の流路壁24の構成の方が好ましい。
【0064】
[2]流路壁の他の構成例2:
図11(A)〜(C)は、他の構成例としての流路壁24Bをそれぞれ異なる方向から見たときの概略図である。図11(A)〜(C)はそれぞれ、図10(A)〜(C)と同様な方向に流路壁24Bを見たときの図であり、図10(A)〜(C)と同様に、流路壁24Bの内部構造を透過して図示してある。
【0065】
この構成例における流路壁24Bは、上記実施例の流路壁24よりも幅が広く形成されており、骨格部材40が、流路壁24Bの幅方向にほぼ2列に並んだ状態で包含されている。この流路壁24Bは、マスク65の貫通孔66の幅を調整することにより形成することができる。このような構成であっても、骨格部材40を包含することにより、流路壁24Bの形状保持性や成形性は向上している。ただし、この流路壁24Bの場合には、幅が広く形成された分だけ、流路の配列ピッチが広がってしまう。これに対して、上記実施例の流路壁24の方が、より流路の配列ピッチを狭く構成することができるため好ましい。
【0066】
[3]流路壁の他の構成例3:
図12(A),(B)は、他の構成例としての流路壁24Cをそれぞれ異なる方向から見たときの概略図である。図12(A)は流路壁24Cを高さ方向に沿って見たときの図であり、図12(B)は流路壁24Cを、側面方向、即ち、セパレータ20の面に沿った任意の方向に沿って見たときの図である。なお、図12(A),(B)では、流路壁24Cの内部構造を透過して図示してある。
【0067】
この構成例における流路壁24Cは、下方が若干末広がりとなっているが、ほぼ円柱に近い形状を有しており、骨格部材40が1つだけ内部に包含されている。このような構成であっても、骨格部材40を包含することにより、流路壁24Cの形状保持性や成形性が向上する。
【0068】
[4]流路壁の他の構成例4:
図13(A),(B)は、他の構成例としての流路壁24Dをそれぞれ異なる方向から見たときの概略図である。図13(A),(B)はそれぞれ、図12(A),(B)と同様な方向に流路壁24Dを見たときの図であり、図12(A),(B)と同様に、流路壁24Dの内部構造を透過して図示してある。
【0069】
この構成例における流路壁24Dは、上記他の構成例としての流路壁24Cと同様に、ほぼ円柱に近い形状を有しているが、1つの流路壁24Dの内部に複数の骨格部材40が基板21の面上に配列された状態で包含されている。このような構成であっても、骨格部材40を包含することにより、流路壁24Cの形状保持性や成形性が向上する。
【0070】
[5]流路壁の他の構成例5:
図14は、他の構成例としての流路壁24Eの構成を示す概略図であり、基板21の外表面に皮膜層21cが形成されている点以外は、図4(A)とほぼ同じである。この構成例では、骨格部材40を包含する流路壁24Eは、基板21の外表面に形成された皮膜層21cの上に形成される。皮膜層21cは、外皮42の構成部材と基板21との密着性を向上させるための層であり、例えば、炭素皮膜であるものとしても良い。このような構成であれば、皮膜層21cによって、流路壁24Eの外皮42が基板21表面と、より密着するため、流路壁24Eの形状保持性が向上する。
【0071】
B.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0072】
B1.変形例1:
上記実施例では、マスク65を用いたスクリーン印刷によって流路壁24,34を形成していた。しかし、流路壁24,34は、マスク65を用いることなく、他の方法によって形成されるものとしても良い。具体的には、流路壁24,34は、ダイコータなど、ペースト60を塗出可能な基材を用いて、ペースト60を基板21,31の外表面に塗布して形成するものとしても良い。
【0073】
B2.変形例2:
上記実施例では、骨格部材40として球形の粒状部材を用いていたが、骨格部材40としては他の形状を有する部材を用いるものとしても良い。しかし、骨格部材40として球形の粒状部材を用いれば、形成される流路壁24の形状や、その形状保持性が、包含する骨格部材40の配置方向に影響されることを抑制することができる。
【0074】
ここで、骨格部材40としては、例えば、棒状の部材を用いることも可能である。この場合には、棒状の骨格部材を予め基板21の面上に配置しておき、ペースト60をその上から塗布して、その骨格部材をコーティングするものとしても良い。ただし、上記実施例のように、骨格部材40として粒状部材を用いれば、ペースト60の塗布と骨格部材40の配置とを同時に実行でき、効率的に流路壁24,34を形成することができる。
【0075】
B3.変形例3:
上記実施例では、ペースト60をマスク65の貫通孔66に充填した後に、ペースト60が乾燥する前にマスク65を基板21から取り外していた。しかし、貫通孔66に充填されたペースト60が乾燥・固化した後に、マスク65を基板21から取り外すものとしても良い。この場合には、マスク65を基板21から取り外す際のペースト60のダレの発生が抑制される。しかし、ペースト60がマスク65に付着して固化した残留物の除去工程や、ペースト60の乾燥工程が追加され、セパレータ20,30の生産性が低下してしまう可能性がある。なお、この場合であっても、骨格部材40によってペースト60の乾燥収縮の度合いが低減されるため、流路壁24,34が所望の高さよりも低い高さで形成されてしまうことが抑制される。
【符号の説明】
【0076】
1…電解質膜
2…アノード
3…カソード
4…シール部
10…膜電極接合体
11…発電領域
20…アノードセパレータ
21…基板
21c…皮膜層
22…流路形成層
22f…外周枠部
22p…ガス流路部
23…流路形成層
23f…外周枠部
23p…冷媒流路部
24,24a,24A〜24E…流路壁
25…流路壁
30…カソードセパレータ
31…基板
32…流路形成層
33…流路形成層
34…流路壁
35…流路壁
40…骨格部材
42…外皮
51〜56…マニホールド
57…連結溝
58…連結溝
60…ペースト
65…マスク
66…貫通孔
100…燃料電池
110…単セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池用セパレータの製造方法であって、
(a)導電性の基板を準備する工程と、
(b)導電性ペーストに骨格部材を混合する工程と、
(c)前記基板の少なくとも一方の面に、前記骨格部材を含有する前記導電性ペーストを塗布して、燃料電池に供給される流体のための流路を構成する流路壁を成形する工程と、
を備える、製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の製造方法であって、前記骨格部材は球形の粒状部材である、製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の製造方法であって、
前記工程(c)において成形される流路壁は、前記粒状部材の1個分のみが包含できる高さで成形されている、製造方法。
【請求項4】
請求項2または請求項3記載の製造方法であって、
前記工程(c)において成形される流路壁は、前記粒状部材の1個分のみが包含できる幅で成形されている、製造方法。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか一項に記載の製造方法であって、
前記工程(c)は、前記基板に、前記流路のパターンが貫通孔として形成されたマスクを配置し、前記貫通孔に前記粒状部材を含有する前記導電性ペーストを充填することにより、前記流路壁を成形する工程を含み、
前記貫通孔は、前記粒状部材を1個ずつ収容して配列可能な程度の幅と深さとを有する、製造方法。
【請求項6】
燃料電池用セパレータであって、
導電性を有する基板と、
前記基板の少なくとも一方の面に配置された導電性部材によって成形され、燃料電池に供給される流体のための流路を構成する流路壁と、
前記流路壁の内部に包含された骨格部材と、
を備える、燃料電池用セパレータ。
【請求項7】
請求項6記載の燃料電池用セパレータであって、
前記骨格部材は、球形の粒状部材であり、
前記流路壁は、前記導電性部材と、前記粒状部材とを混合したペーストを塗布して乾燥させることにより成形されている、燃料電池用セパレータ。
【請求項8】
請求項7記載の燃料電池用セパレータであって、
前記流路壁は、前記粒状部材の1個分のみが包含できる高さで形成されている、燃料電池用セパレータ。
【請求項9】
請求項7または請求項8記載の燃料電池用セパレータであって、
前記流路壁は、前記粒状部材の1個分のみが包含できる幅で形成されている、燃料電池用セパレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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