説明

燃料電池用セパレータと燃料電池

【課題】燃料ガスに対する冷却の抑制を図る。
【解決手段】第1セパレータ板13は全ての波部19を同一高さに形成し、第2セパレータ板15は波部19と同一高さを有する高波部23と高波部23よりも波部の高さが低い低波部24とを交互に有し、第1セパレータ板13の波部19の凹部19bには、第2セパレータ板15の高波部23の凸部23aと低波部24の凸部24aを交互に収容し、高波部23の凸部23aは波部19の凹部19bに隙間なく重ね合わせる。第1セパレータ板13の波部19の凹部19bと第2セパレータ板15の低波部24の凸部24aとの間の空間を冷却液流路25とし、第1セパレータ板13の波部19の凹部19bとカソード電極11との間の空間を酸化剤ガス流路27とし、第2セパレータ板15の高波部23、低波部24の凹部23b,24bとアノード電極9との間の空間を燃料ガス流路29a,29bとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池用セパレータおよび燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池には、固体高分子電解質膜とその両側のアノード電極とカソード電極とで構成された膜電極構造体を、一対のセパレータで挟持して単位燃料電池を構成し、この単位燃料電池を複数個積層して構成されたものがある。
また、近年では、コンパクト化の要求から、金属製の波板を重ね合わせて構成したセパレータが多く用いられている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
金属製波板を重ね合わせてなる従来の一般的なセパレータを、図9の燃料電池の断面図を参照して説明すると、セパレータ100は、波部の高さが異なり波部のピッチが同じである金属製波板からなる第1セパレータ101と第2セパレータ102とを備え、波部の高さが高い第1セパレータ101の一方の面に形成される凹部101aに、波部の高さが低い第2セパレータ102の一方の面に形成される凸部102aを収容した状態に重ね合わせて構成されている。
【0004】
そして、このセパレータ100と、固体高分子電解質膜111の両側にアノード電極112、カソード電極113を有してなる膜電極構造体110とを交互に積層し、第1セパレータ101の他方の面に形成される凸部101bがカソード電極113に当接し、第2セパレータ102の他方の面に形成される凸部102bがアノード電極112に当接するように配置して、燃料電池200が構成される。
【0005】
この燃料電池200では、第1セパレータ101の一方の面に形成される凹部101aと第2セパレータ102の一方の面に形成される凸部102aとの間に形成される空間が、燃料電池冷却用の冷却液を流通させるための冷却液流路103となり、第1セパレータの他方の面に形成される凹部101cとカソード電極113との間に形成される空間が、酸化剤ガスを流通させるための酸化剤ガス流路104となり、第2セパレータ102の他方の面に形成される凹部102cとアノード電極112との間に形成される空間が、燃料ガスを流通させるための燃料ガス流路105となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−228483号公報
【特許文献2】特許第4476463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、燃料電池では、燃料ガスとして水素を、酸化剤ガスとして空気を用いた場合、燃料ガスの流量が酸化剤ガスの流量よりも少ないこともあって、アノード電極側に一旦水が滞留するとこの水を排出するのが難しくなり、固体高分子電解質膜を劣化させる原因にもなるため、アノード電極側では特に水が滞留し難い環境にしたいという要求がある。
この要求に応えるために、第2セパレータ102の波部の高さを低くすることで燃料ガス流路105と冷却液流路103との接触面積を小さくし、燃料ガスに対する冷却効果を低減するという考えがある。
【0008】
しかしながら、第2セパレータ102の波部の高さを低くし過ぎると、第2セパレータ102の内面とアノード電極112との隙間が狭くなり、アノード電極112側の拡散層が変形した場合に燃料ガス流路105が閉塞する虞がある。そのため、第2セパレータ102の波部の高さを低くするにも限界がある。
【0009】
そこで、この発明は、燃料ガス流路の流路閉塞を防止しつつ、燃料ガスに対する冷却の抑制を図ることができる燃料電池用セパレータと燃料電池を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係る燃料電池用セパレータでは、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
請求項1に係る発明は、一対の金属製波板(例えば、後述する実施例における第1セパレータ板13、第2セパレータ板15)を重ね合わせてなり、両金属製波板の間に形成される空間で燃料電池(例えば、後述する実施例における燃料電池1)冷却用の冷却液が流通する冷却液流路(例えば、後述する実施例における冷却液流路25)を形成し、前記一対の金属製波板のうちの一方の金属製波板(例えば、後述する実施例における第1セパレータ板13)における外側の凹部(例えば、後述する実施例における凹部19b)で酸化剤ガス流路(例えば、後述する実施例における酸化剤ガス流路27)を形成し、他方の金属製波板(例えば、後述する実施例における第2セパレータ板15)における外側の凹部(例えば、後述する実施例における凹部23b,24b)で燃料ガス流路(例えば、後述する実施例における燃料ガス流路29a,29b)を形成する燃料電池用セパレータ(例えば、後述する実施例におけるセパレータ3)において、
前記一方の金属製波板は全ての波部(例えば、後述する実施例における波部19)を同一高さに形成し、前記他方の金属製波板は波部の高さが前記一方の金属製波板の波部と同一高さを有する高波部(例えば、後述する実施例における高波部23)と該高波部よりも波部の高さが低い低波部(例えば、後述する実施例における低波部24)とを有し、隣接する二つの高波部の間に少なくとも一つの低波部を配置して構成し、
前記一方の金属製波板の一部の凹部に前記他方の金属製波板の高波部の凸部を隙間なく重ね合わせるとともに、前記一方の金属製波板の他の凹部に前記他方の金属製波板の低波部の凸部を収容して前記一対の金属製波板を重ね合わせ、
前記一方の金属製波板の凹部と前記他方の金属製波板の低波部の凸部との間に形成される空間で前記冷却液流路を形成し、前記一方の金属製波板における外側の凹部で前記酸化剤ガス流路を形成し、前記他方の金属製波板における外側の凹部で前記燃料ガス流路を形成したことをことを特徴とする燃料電池用セパレータである。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の発明において、前記他方の金属製波板における前記低波部の凹部の表面に断熱材(例えば、後述する実施例における断熱材26)を設けたことを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載の発明において、前記他方の金属製波板における前記低波部の凸部の表面に断熱材(例えば、後述する実施例における断熱材28)を設けたことを特徴とする。
【0013】
また、この発明に係る燃料電池では、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
請求項4に係る発明は、固体高分子電解質膜(例えば、後述する実施例における固体高分子電解質膜7)をアノード電極(例えば、後述する実施例におけるアノード電極9)とカソード電極(例えば、後述する実施例におけるカソード電極11)とで挟持して構成された電極膜構造体(例えば、後述する実施例における膜電極構造体5)と、前記請求項1記載の燃料電池用セパレータ(例えば、後述する実施例におけるセパレータ3)とを交互に積層してなることを特徴とする燃料電池(例えば、後述する実施例における燃料電池1)である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1から請求項3に係る発明によれば、燃料ガス流路の高さを流路閉塞が起こらない最低高さ以上に確保しつつ、燃料ガスに対する冷却効果を抑制して燃料ガス流路内において水が発生し難くくすることができる。
請求項4に係る発明によれば、燃料電池における燃料ガス流路の流路閉塞を防止しつつ、燃料ガス流路内に水が滞留するのを防止することができる。その結果、固体高分子電解質膜の劣化抑制、燃料電池の発電安定性の向上に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明に係る燃料電池用セパレータおよび燃料電池の実施例1における縦断面図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】図1におけるA方向から見た第1セパレータ板の正面図である。
【図4】図1におけるB方向から見た第1セパレータ板の正面図である。
【図5】図1におけるC方向から見た第2セパレータ板の正面図である。
【図6】図1におけるD方向から見た膜電極構造体の正面図である。
【図7】この発明に係る燃料電池用セパレータおよび燃料電池の実施例2における要部拡大断面図である。
【図8】この発明に係る燃料電池用セパレータおよび燃料電池の実施例3における要部拡大断面図である。
【図9】従来の金属製波板で構成された燃料電池用セパレータと、それを用いた燃料電池の一例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明に係る燃料電池用セパレータと燃料電池の実施例を図1から図8の図面を参照して説明する。
初めに、この発明に係る燃料電池用セパレータと燃料電池の実施例1を図1から図6の図面を参照して説明する。
図1は、燃料電池1の縦断面図であり、燃料電池1は、燃料電池用セパレータ(以下、セパレータという)3と膜電極構造体5とが交互に積層して構成されている。
【0017】
膜電極構造体5は、固体高分子電解質膜7と、この固体高分子電解質膜7を間に挟んで配設されたアノード電極9とカソード電極11とから構成されている。なお、固体高分子電解質膜7は例えばペルフルオロスルホン酸ポリマーで構成されており、アノード電極9およびカソード電極11はPtを主体とする触媒により構成されている。固体高分子電解質膜7には、これを挟んで配設されるアノード電極9およびカソード電極11の外周から外方へ張り出す延長部7aが設けられている。
【0018】
セパレータ3は、板厚0.1〜0.5mmのステンレス製板材をプレス成形されてなる第1セパレータ板(金属製波板)13と第2セパレータ板(金属製波板)15とを重ね合わせて構成されている。図3は第1セパレータ板13を図1においてA方向から見た全体正面図であり、図4は第1セパレータ板13を図1においてB方向から見た全体正面図であり、図5は第2セパレータ板15を図1においてC方向から見た全体正面図である。なお、以下の説明では、図3から図5において図中左右方向を水平方向、図中上下方向を垂直方向とする。
【0019】
第1セパレータ板13の中央部には波板部17が設けられており、この波板部17には、一定の高さh1を有して水平方向に延びる波部19が垂直方向に一定のピッチで多数形成されている。第1セパレータ板13は全ての波部19の高さが同一高さh1に形成されている。
第2セパレータ板15の中央部にも波板部21が設けられており、波板部21は、第1セパレータ板13の波部19と同一高さh1を有して水平方向に延びる高波部23と、高波部よりも低い高さh2を有して水平方向に延びる低波部24とが、垂直方向に交互に且つ第1セパレータ板13の波部19と同一ピッチで配置され多数形成されている。つまり、この実施例1においては、隣接する二つの高波部23,23の間に低波部24が一つずつ配置されている。なお、ピッチとは波の頂部から隣の頂部までの距離をいう。
【0020】
そして、第1セパレータ板13の波部19の凹部19bに、第2セパレータ板15の高波部23の凸部23aと低波部24の凸部24aを交互に収容し、且つ、第2セパレータ板15の高波部23の凸部23aを第1セパレータ板13の波部19の凹部19bに隙間なく重ね合わせ、第2セパレータ板15の低波部24の凸部24aを第1セパレータ板13の波部19の凹部19bに隙間を有して重ね合わせて、第1セパレータ板13と第2セパレータ板15とが一体化されている。
【0021】
このように重ね合わせる結果、第1セパレータ板13の波部19の凹部19bと第2セパレータ板15の低波部24の凸部24aとの間に空間が形成され、この空間が、純水やエチレングリコールやオイル等の冷却液を流通させるための冷却液流路25とされる。
【0022】
第1セパレータ板13の波板部17および第2セパレータ板15の波板部21は、膜電極構造体5のアノード電極9およびカソード電極11に対向配置される範囲に形成されている。
そして、第1セパレータ板13の波部19の凸部19aにおいてカソード電極11に接近する方向に突出する凸部19aがカソード電極11に密接し、第2セパレータ板15の高波部23と低波部24とを接続する接続部22がアノード電極9に密接するように配置されている。
【0023】
そして、第1セパレータ板13の波部19の凹部19bとカソード電極11との間に形成される空間は、酸素含有ガスまたは空気である酸化剤ガスを流通させるための酸化剤ガス流路27とされ、第2セパレータ板15の高波部23の凹部23bおよび低波部24の凹部24bとアノード電極9との間に形成される空間は、水素含有ガス等の燃料ガスを流通させるための燃料ガス流路29a,29bとされる。換言すると、第1セパレータ板13と第2セパレータ板15を重ね合わせてなるセパレータ3の両外側の凹部のうちの一方の側の凹部19bで酸化剤ガス流路27を形成し、他方の側の凹部23b、24bで燃料ガス流路29を形成することになる。なお、低波部24の高さh2は、アノード電極9側の拡散層が変形した場合にも燃料ガス流路29bが閉塞されない高さに設定されている。
【0024】
また、膜電極構造体5とその両側のセパレータ3,3とを前述の如く配置する結果、膜電極構造体5を挟んで酸化剤ガス流路27と燃料ガス流路29とが対向して配置されることになる。
ところで、第2セパレータ板15の高波部23の高さh1は第1セパレータ板13の波部19の高さh1と同一高さであるので、燃料ガス流路29aの流路断面積と酸化剤ガス流路27の流路断面積は同じであるが、第2セパレータ板15の低波部24の高さh2は第1セパレータ板13の波部19の高さh1よりも低いので、燃料ガス流路29bの流路断面積は酸化剤ガス流路27の流路断面積よりも小さくなり、一つのセパレータ3全体として考えた場合に、全酸化剤ガス流路27の総流路断面積の方が全燃料ガス流路29a,29bの総流路断面積よりも大きくなる。これは、この実施の形態では、酸化剤ガスとして空気を用いており、空気の場合には、例えば純水素を用いた燃料ガスよりも多く流す必要があることによる。
【0025】
第1セパレータ板13と第2セパレータ板15において波板部17,21よりも垂直方向外側に位置する端部には、図1に示すように、互いに面接触する平面部31,33が設けられており、第1セパレータ板13の平面部31と膜電極構造体5における固体高分子電解質膜7の延長部7aとの間にシール材35が挟装され、第2セパレータ板15の平面部33と延長部7aとの間にシール材37が挟装されている。これにより、各膜電極構造体5はその両側から一対のセパレータ3によって水密状態に挟持されることになる。
【0026】
また、第1セパレータ板13において平面部31よりも外側と、第2セパレータ板15において平面部33よりも外側との間にはシール材36が挟装されており、このシール材36によって第1セパレータ板13と第2セパレータ板15との間も水密にシールされている。なお、シール材36は第1セパレータ板13および第2セパレータ板15の外周縁部を一周するように設けられている。
なお、1つのセパレータ3において第1セパレータ板13の平面部31と第2セパレータ板15の平面部33を、溶接またはロウ付け等のシール性を有する接合手段によって接合することにより、前記シール材36を不要にし部品点数の削減を図ることも可能である。
【0027】
図3および図4に示すように、第1セパレータ板13において波板部17よりも水平方向両外側に位置する部位は略平坦な左平坦部39と右平坦部41になっており、図5に示すように、第2セパレータ板15において波板部21よりも水平方向両外側に位置する部位は略平坦な左平坦部43と右平坦部45になっていて、第1セパレータ板13の左平坦部39と第2セパレータ板15の左平坦部43が所定寸法の隙間を有して対向配置され、第1セパレータ板13の右平坦部41と第2セパレータ板15の右平坦部45が所定寸法の隙間を有して対向配置されている。なお、図3では第1セパレータ板13の左平坦部39が図中左側に位置し右平坦部41が図中右側に位置しており、図4では左平坦部39が図中右側に位置し右平坦部41が図中左側に位置しているのは、図3と図4は第1セパレータ板13の表裏の関係にあるからである。また、図5において第2セパレータ板15の左平坦部43が図中右側に位置し右平坦部45が図中左側に位置しているのも、図5が図3とは逆の方向から見ているからである。
【0028】
そして、第1セパレータ板13の左平坦部39と第2セパレータ板15の左平坦部43の外周縁部が前記したシール材36によってシールされているので、両左平坦部39,43は袋状に連結されていることになる。同様に、第1セパレータ板13の右平坦部41と第2セパレータ板15の右平坦部45の外周縁部も前記シール材36によってシールされているので、両右平坦部41,45は袋状に連結されていることになる。
【0029】
第1セパレータ板13の左平坦部39の上部には燃料ガスを流通させるための入口側燃料ガス連通孔47aが設けられ、右平坦部41の上部には酸化剤ガスを流通させるための入口側酸化剤ガス連通孔49aが設けられ、右平坦部41の下部には燃料ガスを流通させるための出口側燃料ガス連通孔47bが設けられ、左平坦部39の下部には酸化剤ガスを流通させるための出口側酸化剤ガス連通孔49bが設けられている。したがって、入口側燃料ガス連通孔47aと出口側燃料ガス連通孔47bは対角位置に位置しており、入口側酸化剤ガス連通孔49aと出口側酸化剤ガス連通孔49bは対角位置に位置している。
第1セパレータ板13の左平坦部39の略中央部には冷却液を流通させるための入口側冷却液連通孔51aが設けられ、右平坦部41の略中央部には使用後の前記冷却液を流通させるための出口側冷却液連通孔51bが設けられている。
【0030】
また、図5に示すように、第2セパレータ板15の左平坦部43および右平坦部45にも、第1セパレータ板13と同様に、入口側燃料ガス連通孔47a、出口側燃料ガス連通孔47b、入口側酸化剤ガス連通孔49a、出口側酸化剤ガス連通孔49b、入口側冷却液連通孔51a、出口側冷却液連通孔51bが設けられている。
【0031】
一方、図6に示すように、膜電極構造体5の固体高分子電解質膜7は、第1セパレータ板13および第2セパレータ板15の左右平坦部39,41,43,45にほぼ対応する部位に、アノード電極9およびカソード電極11よりも水平方向外側に張り出す延長部10,12を有しており、この延長部10,12に、第1セパレータ板13および第2セパレータ板15と同様に、入口側燃料ガス連通孔47a、出口側燃料ガス連通孔47b、入口側酸化剤ガス連通孔49a、出口側酸化剤ガス連通孔49b、入口側冷却液連通孔51a、出口側冷却液連通孔51bが設けられている。
【0032】
第1セパレータ板13の平面部31と固体高分子電解質膜7の延長部7aとの間に挟装された前記シール材35は、図3に示すように、第1セパレータ板13の左平坦部39において入口側燃料ガス連通孔47aおよび出口側酸化剤ガス連通孔49bの周囲を一周するとともに、右平坦部41において入口側酸化剤ガス連通孔49aおよび出口側燃料ガス連通孔47bの周囲を一周して、全体としてほぼ無端状につながっている。ただし、入口側酸化剤ガス連通孔49aおよび出口側酸化剤ガス連通孔49bを一周する部位であって波板部17に近い側においては、図示するように、シール材35は所定ピッチの破線状に設けられており、シール材35が設けられていない部分が酸化剤ガスを流通させるための酸化剤ガス流路53a,53bにされている。
【0033】
また、第1セパレータ板13における左右平坦部39,41であってシール材35が配置される面には、入口側冷却液連通孔51aおよび出口側冷却液連通孔51bの周囲をそれぞれ一周するシール材55が配置されている。このシール材55は第1セパレータ板13の左右平坦部39,41と固体高分子電解質膜7の延長部10,12との間に水密状態に挟装されている。
【0034】
一方、第2セパレータ板15の平面部33と固体高分子電解質膜7の延長部7aとの間に挟装された前記シール材37は、図5に示すように、第2セパレータ板15の左平坦部43において入口側燃料ガス連通孔47aおよび出口側酸化剤ガス連通孔49bの周囲を一周するとともに、右平坦部45において入口側酸化剤ガス連通孔49aおよび出口側燃料ガス連通孔47bの周囲を一周して、全体としてほぼ無端状につながっている。ただし、入口側燃料ガス連通孔47aおよび出口側燃料ガス連通孔47bを一周する部位であって波板部21に近い側においては、図示するように、シール材37は所定ピッチの破線状に設けられており、シール材37が設けられていない部分が燃料ガスを流通させるための燃料ガス流路57a,57bにされている。
【0035】
また、第2セパレータ板15における左右平坦部43,45であってシール材37が配置される面には、入口側冷却液連通孔51aおよび出口側冷却液連通孔51bの周囲をそれぞれ一周するシール材59が配置されている。このシール材59は第2セパレータ板15の左右平坦部43,45と固体高分子電解質膜7の延長部10,12との間に水密状態に挟装されている。
なお、シール材35とシール材37、および、シール材55とシール材59は固体高分子電解質膜7を挟んで対向して配置されており、これによって、第1セパレータ板13と固体高分子電解質膜7との間がシール材35およびシール材55によって水密にシールされ、第2セパレータ板15と固体高分子電解質膜7との間がシール材37およびシール材59によって水密にシールされるようになっている。
【0036】
図4に示すように、第1セパレータ板13における左右平坦部39,41であってシール材35,55が配置されない面(換言すれば、第1セパレータ板13が第2セパレータ板15に対向する側の面)には、入口側燃料ガス連通孔47a、出口側燃料ガス連通孔47b、入口側酸化剤ガス連通孔49a、出口側酸化剤ガス連通孔49bをそれぞれ一周するシール材61,62,63,64が設けられている。これらシール材61〜64は1つのセパレータ3における第1セパレータ板13と第2セパレータ板15との間に挟装されて両者を水密にシールしている。第1セパレータ板13と第2セパレータ板15は左平坦部39,43の外周縁部の間にシール材36を設けて袋状にし、右平坦部41,45の外周縁部の間にシール材36を設けて袋状にし、それぞれ袋状の内部を冷却液流路67a,67bにするのであるが、シール材61は冷却液流路67aから水密に離隔して入口側燃料ガス流路71を形成するためのものであり、シール材62は冷却液流路67bから水密に離隔して出口側燃料ガス流路73を形成するためのものであり、シール材63は冷却液流路67bから水密に離隔して入口側酸化剤ガス流路75を形成するためのものであり、シール材64は冷却液流路67aから水密に離隔して出口側酸化剤ガス流路77を形成するためのものである。
【0037】
以上のように構成された燃料電池1においては、第1セパレータ板13と第2セパレータ板15の入口側燃料ガス連通孔47aおよび固体高分子電解質膜7の入口側燃料ガス連通孔47aを一直線上に接続してなる入口側燃料ガス流路71と、第1セパレータ板13と第2セパレータ板15の出口側燃料ガス連通孔47bおよび固体高分子電解質膜7の出口側燃料ガス連通孔47bを一直線上に接続してなる出口側燃料ガス流路73と、第1セパレータ板13と第2セパレータ板15の入口側酸化剤ガス連通孔49aおよび固体高分子電解質膜7の入口側酸化剤ガス連通孔49aを一直線上に接続してなる入口側酸化剤ガス流路75と、第1セパレータ板13と第2セパレータ板15の出口側酸化剤ガス連通孔49bおよび固体高分子電解質膜7の出口側酸化剤ガス連通孔49bを一直線上に接続してなる出口側酸化剤ガス流路77と、第1セパレータ板13と第2セパレータ板15の入口側冷却液連通孔51aおよび固体高分子電解質膜7の入口側冷却液連通孔51aを一直線上に接続してなる入口側冷却液流路79と、第1セパレータ板13と第2セパレータ板15の出口側冷却液連通孔51bおよび固体高分子電解質膜7の出口側冷却液連通孔51bを一直線上に接続してなる出口側冷却液流路81と、を備えることになる。
【0038】
この燃料電池1においては、1つの膜電極構造体5と、その両側に配置された一対のセパレータ3,3のうち前記膜電極構造体5のカソード電極11に対向配置された1つの第1セパレータ板13と、前記膜電極構造体5のアノード電極9に対向配置された1つの第2セパレータ板15とによって単位燃料電池83が構成される。
【0039】
次に、単位燃料電池83の動作について以下に説明する。
単位燃料電池83には、燃料ガス、例えば、炭化水素を改質した水素を含むガスまたは純水素が供給されるとともに酸化剤ガスとして酸素含有ガス(以下、例えば空気)が供給され、さらに、その発電面を冷却するために、冷却液が供給される。
燃料ガスは、入口側燃料ガス流路71に供給され、入口側燃料ガス連通孔47aから燃料ガス流路57aを通って、各燃料ガス流路29a,29bへと移動する。各燃料ガス流路29a,29bに供給された燃料ガスは、アノード電極9に沿って水平方向に移動し、その際に、燃料ガス中の水素ガスがアノード電極9に供給される。そして、未使用の燃料ガスは燃料ガス流路29a,29bを移動しながらアノード電極9に供給されるとともに、燃料ガス流路29a,29bの終端から第2セパレータ板15の右平坦部45と固体高分子電解質膜7との間に移動し、さらに燃料ガス流路57bを通って、出口側燃料ガス連通孔47bから出口側燃料ガス流路73に排出される。
【0040】
また、空気は、入口側酸化剤ガス流路75に供給され、入口側酸化剤ガス連通孔49aから酸化剤ガス流路53aを通って、各酸化剤ガス流路27へと移動する。そして、各酸化剤ガス流路27に供給された空気は、カソード電極11に沿って水平方向に移動し、その際に、空気中の酸素ガスがカソード電極11に供給される。そして、未使用の空気は酸化剤ガス流路27を移動しながらカソード電極11に供給されるとともに、酸化剤ガス流路27の終端から第1セパレータ板13の左平坦部39と固体高分子電解質膜7との間に移動し、さらに酸化剤ガス流路53bを通って、出口側酸化剤ガス連通孔49bから出口側酸化剤ガス流路77に排出される。これにより、単位燃料電池83で発電が行われ、例えば、図示しないモータに電力が供給されることになる。
【0041】
さらにまた、冷却液は、入口側冷却液流路79に供給され、入口側冷却液連通孔51aから冷却液流路67aに移動し、ここから各冷却液流路25へと供給される。冷却液流路25に供給された冷却液は冷却液流路25を水平方向に移動する間に発電面を冷却し、冷却後の冷却液は冷却液流路25の終端から冷却液流路67bに移動し、さらに出口側冷却液連通孔51bから出口側冷却液流路81に排出される。
【0042】
ところで、冷却液流路25と酸化剤ガス流路27とは第1セパレータ板13を介して十分に大きな面積を確保して対向しているので、酸化剤ガスに対する冷却効果が大きい。
これに対して、冷却液流路25と燃料ガス流路29aとは、その間に酸化剤ガス流路27が設けられていることによって離間しているので、燃料ガス流路29a内を流れる燃料ガスに対する冷却は抑制される。一方、冷却液流路25と燃料ガス流路29bとは第2セパレータ板15を介して対向しているので、燃料ガス流路29b内を流れる燃料ガスに対する冷却効果は、燃料ガス流路29a内を流れる燃料ガスに対する冷却効果よりも大きくなる。しかしながら、燃料ガス流路29bの流路断面積は燃料ガス流路29aの流路断面積よりも小さいので、燃料ガス流路29bを流れる燃料ガス流量は燃料ガス流路29aを流れる燃料ガス流量よりも小さく、燃料ガス全体として考えると燃料ガスに対する冷却効果を抑制することができると言える。このため、アノード側のセパレータが過度に冷やされるのを抑制することができる。
【0043】
以上のように構成されたセパレータ3においては、燃料ガス流路29a,29bの高さを流路閉塞が起こらない最低高さ以上に確保しつつ、燃料ガスに対する冷却を抑制することができる。そして、燃料ガス流路29a,29b内において水(結露水)を発生し難くくし、燃料ガス流路29a,29b内に水が滞留するのを防止することができる。その結果、燃料ガス流路29a,29bの流路閉塞防止、固体高分子電解質膜7の劣化抑制、燃料電池1の発電安定性の向上に寄与することができる。
【0044】
また、第1セパレータ板13の波部19の凹部19bに第2セパレータ板15の高波部23の凸部23aが密接して積層されているので、第1セパレータ板13と第2セパレータ板15の接触面積を大きくすることができ、電気的接触抵抗を小さくすることができる。
【0045】
なお、実施例1においては、第2セパレータ板15の低波部24の凹部24bとアノード電極9との間に形成される空間も、燃料ガスを流通させるための燃料ガス流路29bとしたが、この空間(燃料ガス流路29b)に燃料ガスが流入しないように該空間の始端と終端を閉塞し、第2セパレータ板15の高波部23の凹部23bとアノード電極9との間に形成される空間(燃料ガス流路29a)だけに燃料ガスを流すようにしてもよい。
【0046】
図7は、実施例2におけるセパレータ3の図面である。
実施例2におけるセパレータ3においては、第2セパレータ板15の低波部24の凹部24bの表面に断熱材26を設け、凹部24bとアノード電極9との間の空間を断熱材26で隙間なく埋めている。つまり、実施例2では、実施例1における燃料ガス流路29bを断熱材26で塞ぎ、燃料ガスを流通させないようにしている。
このようにすると、燃料ガス流路29bに燃料ガスが流れないことにより、燃料ガスに対する冷却をさらに抑制することができる。また、冷却液流路25とアノード電極9との間に断熱材26が介在することにより、アノード電極9に対する冷却を大幅に低減することができ、アノード側をより水(結露水)が発生し難い環境にすることができる。
なお、実施例2では、第2セパレータ板15の低波部24の凹部24bとアノード電極9との間の空間を断熱材26で隙間なく埋めているが、必ずしも完全に埋めなくてもよく、凹部24bの表面に設けた断熱材26とアノード電極9との間に空間を設けるようにしてもよい。その場合、前記空間に燃料ガスが流通可能にして前記空間を燃料ガス流路としてもよいし、前記空間に燃料ガスが流通しないように前記空間の始端と終端を閉塞してもよい。
【0047】
図8は、実施例3におけるセパレータ3の図面である。
実施例3におけるセパレータ3は、実施例1のセパレータ3における第2セパレータ板15の低波部24の凸部24aの表面(冷却液流路25と対向する面)に断熱材28を設けたものである。このようにすると、冷却液流路25と燃料ガス流路29bとの間に断熱材28が介在するので、燃料ガス流路29b内を流れる燃料ガスに対する冷却を抑制することができる。したがって、実施例1の場合よりも、燃料ガスに対する冷却をさらに抑制することができる。
また、冷却液流路25とアノード電極9との間に断熱材28が介在することにより、アノード電極9に対する冷却を大幅に低減することができ、アノード側をより水(結露水)が発生し難い環境にすることができる。
【0048】
なお、実施例3においても、実施例1の場合と同様に、第2セパレータ板15の低波部24の凹部24bとアノード電極9との間に形成される空間に燃料ガスが流入しないように閉塞し、第2セパレータ板15の高波部23の凹部23bとアノード電極9との間に形成される空間(燃料ガス流路29a)だけに燃料ガスを流すようにしてもよい。また、低波部24の凹部24bを平坦な形状にしてアノード電極9に当接させてもよい。
【0049】
〔他の実施の形態〕
尚、この発明は前述した実施の形態に限られるものではない。例えば、前述した各実施例では、隣接する二つの高波部23,23の間に低波部24を一つずつ配置したが、隣接する二つの高波部23,23の間に低波部24を二つずつあるいはそれ以上配置してもよい。
【0050】
また、第1セパレータ板13の波部19および第2セパレータ板15の高波部23、低波部24の断面形状は実施例のものに限られるものではなく、矩形波状や三角波状であってもよい。
さらに、第1セパレータ板13と第2セパレータ板15の材質はステンレス鋼に限るものではなく、防食性を有する他の金属で構成してもよいし、あるいは、導電性に優れた防錆被膜で被覆された金属板で構成してもよい。
【符号の説明】
【0051】
1 燃料電池
3 燃料電池用セパレータ
5 膜電極構造体
7 固体高分子電解質膜
9 アノード電極
11 カソード電極
13 第1セパレータ板(一方の金属製波板)
15 第2セパレータ板(他方の金属製波板)
19 波部
19b 凹部
23 高波部
23a 凸部
23b 凹部
24 低波部
24a 凸部
24b 凹部
25 冷却液流路
26 断熱材
27 酸化剤ガス流路
28 断熱材
29a,29b 燃料ガス流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の金属製波板を重ね合わせてなり、両金属製波板の間に形成される空間で燃料電池冷却用の冷却液が流通する冷却液流路を形成し、前記一対の金属製波板のうちの一方の金属製波板における外側の凹部で酸化剤ガス流路を形成し、他方の金属製波板における外側の凹部で燃料ガス流路を形成する燃料電池用セパレータにおいて、
前記一方の金属製波板は全ての波部を同一高さに形成し、前記他方の金属製波板は波部の高さが前記一方の金属製波板の波部と同一高さを有する高波部と該高波部よりも波部の高さが低い低波部とを有し、隣接する二つの高波部の間に少なくとも一つの低波部を配置して構成し、
前記一方の金属製波板の一部の凹部に前記他方の金属製波板の高波部の凸部を隙間なく重ね合わせるとともに、前記一方の金属製波板の他の凹部に前記他方の金属製波板の低波部の凸部を収容して前記一対の金属製波板を重ね合わせ、
前記一方の金属製波板の凹部と前記他方の金属製波板の低波部の凸部との間に形成される空間で前記冷却液流路を形成し、前記一方の金属製波板における外側の凹部で前記酸化剤ガス流路を形成し、前記他方の金属製波板における外側の凹部で前記燃料ガス流路を形成したことをことを特徴とする燃料電池用セパレータ。
【請求項2】
前記他方の金属製波板における前記低波部の凹部の表面に断熱材を設けたことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項3】
前記他方の金属製波板における前記低波部の凸部の表面に断熱材を設けたことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項4】
固体高分子電解質膜をアノード電極とカソード電極とで挟持して構成された電極膜構造体と、前記請求項1記載の燃料電池用セパレータとを交互に積層してなることを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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