説明

燃料電池用セパレータの製造方法

【課題】燃料電池の発電面のインピーダンスを容易且つ正確に計測することを可能にする。
【解決手段】燃料電池10を構成する第1セパレータ16は、絶縁性樹脂枠部材32a内に、複数個の導電性部材34aを配置した状態で、前記絶縁性樹脂枠部材32aを成形型84に配設する第1の工程と、前記成形型84内のキャビティ86に、前記絶縁性樹脂枠部材32aよりも融点の低い非導電性樹脂36を充填する第2の工程と、前記絶縁性樹脂枠部材32aを前記成形型84から離型させることにより、セパレータ部材94を得る第3の工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アノード側電極及びカソード側電極が電解質の両側に設けられた電解質・電極構造体を挟持する燃料電池用セパレータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、固体高分子型燃料電池は、高分子イオン交換膜からなる電解質膜(電解質)を採用している。この電解質膜の両側にアノード側電極及びカソード側電極を配設した電解質膜・電極構造体(MEA)を、セパレータによって挟持することにより、燃料電池が構成されている。
【0003】
上記の燃料電池では、所望の発電を確実に行うために、発電状況を正確に把握することが必要である。例えば、電解質膜は、発電性能を維持するために所望の湿潤状態に加湿しなければならず、この電解質膜が乾燥状態になると、発電性能が低下してしまう。
【0004】
一方、発電による生成水量が多く、水過剰状態になると、フラッディングが惹起され易い。このため、反応ガスを流通させる通路等が詰まり、発電性能が低下してしまう。また、燃料ガスの不足に起因して性能低下が発生する場合がある。
【0005】
そこで、例えば、特許文献1に開示されている燃料電池の駆動装置が知られている。この燃料電池は、図8に示すように、固体高分子電解質膜1aを挟むようにしてアノード2aとカソード3aが接合されるとともに、その外側にそれぞれ燃料ガス流路5aと酸化ガス流路6aとを、予め形成したセパレータ4aが、これらを両端から挟むようにして配置されている。
【0006】
燃料電池のアノード2a側には、白金線7aの一方端が前記アノード2aに接触しない位置で、固体高分子電解質膜1aに接触するように保持されている。この接触部分は、基準電極のアノードとなっている。また、固体高分子電解質膜1aに触れると同時に、燃料ガスである水素ガスにも触れるように、白金線7aが配置されている。すなわち、この白金線7aは、基準電極の1つである標準水素電極のアノードとして機能する。
【0007】
さらに、標準水素電極の他端は、燃料電池のアノード2a側のセパレータ4aとカソード側のセパレータ4aとに、それぞれ接続され、各セパレータ4aは、カソード8a、9aとなっている。また、燃料電池のアノード2a側とカソード側との間の電圧V3 を計測するために、前記燃料電池の各電極のセパレータ4aは、それぞれ電圧計を介して導線により接続されている。
【0008】
上記の構成により、燃料電池のアノード2a側が正常な(電気化学的にみて理想的挙動)状態における運転の場合、前記アノード2aの電位と白金線7aの電位は一致し、該アノード2aと白金線7aとの間の電圧V1 はゼロとなり、電圧V2 が電圧V3 と等しくなっている。
【0009】
また、特許文献2に開示されている燃料電池は、図9に示すように、電解質膜1bと、4分割されたアノード側触媒層・拡散層2bと、4分割されたカソード側触媒層・拡散層3bと、4分割されたアノード側セパレータ4bと、4分割されたカソード側セパレータ5bとを備えている。
【0010】
各アノード側セパレータ4bと各アノード側触媒層・拡散層2bとの間には、アノードガス流路6bが形成される一方、各カソード側セパレータ5bと各カソード側触媒層・拡散層3bとの間には、カソードガス流路7bが形成されている。各アノード側セパレータ4b間には、絶縁部材8bが介装されるとともに、各カソード側セパレータ5b間には、絶縁部材9bが介装されている。
【0011】
このため、燃料電池は、独立した4つの分割電池として動作することができるとともに、各分割電池のインピーダンスを測定することにより、燃料電池のインピーダンス分布を測定することが可能になる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平7−282832号公報
【特許文献2】特開2008−27808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記の特許文献1では、燃料電池全体のインピーダンスの計測が可能であるものの、前記燃料電池内部の電極面内環境分布(インピーダンス分布)を精度よく計測することが困難になる。このため、燃料電池を効率的に運転制御することができないという問題がある。
【0014】
また、上記の特許文献2の燃料電池では、4分割されたアノード側触媒層・拡散層2bと、4分割されたカソード側触媒層・拡散層3bとが設けられている。従って、この燃料電池を通常発電に使用すると、前記燃料電池全体の発電面積が小さくなってしまう。これにより、燃料電池全体の発電効率が低下し、前記燃料電池の小型化が容易に遂行されないという問題がある。
【0015】
本発明は、この種の問題を解決するものであり、燃料電池の電極反応面のインピーダンス分布を容易且つ正確に計測することが可能な燃料電池用セパレータの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、アノード側電極及びカソード側電極が電解質の両側に設けられた電解質・電極構造体を挟持する燃料電池用セパレータの製造方法に関するものである。
【0017】
この製造方法では、絶縁性樹脂枠部材内に、電極反応面の領域内に対応して複数個の導電性部材を配置した状態で、前記絶縁性樹脂枠部材を成形型に配設する第1の工程と、前記成形型内のキャビティに、前記絶縁性樹脂枠部材よりも融点の低い非導電性部材を充填する第2の工程と、前記絶縁性樹脂枠部材を前記成形型から離型させることにより、各導電性部材同士が互いに絶縁状態に維持されて該絶縁性樹脂枠部材内に固定されたセパレータ部材を得る第3の工程とを有している。
【0018】
また、この製造方法では、絶縁性樹脂枠部材の外周部に、燃料電池用セパレータの積層方向に貫通して燃料ガス連通孔、酸化剤ガス連通孔及び冷却媒体連通孔を形成する工程を有することが好ましい。
【0019】
さらに、この製造方法では、各導電性部材に、燃料ガス又は酸化剤ガスを電極反応面に沿って流通させるためのガス流路を形成する工程を有することが好ましい。
【0020】
さらにまた、この製造方法は、板状導電性部材の厚さ方向に、格子状に溝部を形成することにより、一部が連結された複数の導電性部材を形成する工程を有し、第1の工程では、前記溝部が形成された前記板状導電性部材を、成形型に配設するとともに、第3の工程では、セパレータ部材を厚さ方向に切断することにより、前記複数の導電性部材を一体に連結する前記一部を、前記セパレータ部材から分離させることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、絶縁性樹脂枠部材内に複数個の導電性部材が配置された状態で、成形型を介して前記絶縁性樹脂枠部材よりも融点の低い非導電性部材が充填されている。これにより、絶縁性樹脂枠部材に反りや変形等が発生することを良好に抑制することができ、導電性部材の位置決め精度が高い、高品質な燃料電池用セパレータを容易且つ確実に得ることが可能になる。
【0022】
また、燃料電池用セパレータには、電解質・電極構造体の電極反応面の領域を複数の領域に分割して複数個の導電性部材が設けられるため、前記電極反応面内における各領域のインピーダンス分布を容易且つ正確に計測することができる。このため、電極面内の環境分布を精度よく計測することが可能になり、所望の発電状態を確実に維持することができる。
【0023】
さらに、アノード側電極及びカソード側電極は、分割されることがなく、電解質の両側に連続して設けられている。しかも、導電性部材には、ガス流路が形成されている。従って、発電効率の低下を抑制するとともに、良好な発電を確実に行うことが可能になり、燃料電池として好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の各実施形態に係る燃料電池用セパレータの製造方法が適用される燃料電池が組み込まれる燃料電池スタックの要部分解斜視図である。
【図2】前記燃料電池の要部分解斜視図である。
【図3】前記燃料電池の要部断面説明図である。
【図4】前記燃料電池を構成する第2セパレータの正面説明図である。
【図5】面内環境計測装置の概略説明図である。
【図6】第1の実施形態に係る製造方法を説明する工程図である。
【図7】第2の実施形態に係る製造方法を説明する工程図である。
【図8】特許文献1に開示されている駆動装置の一部断面説明図である。
【図9】特許文献2に開示されている燃料電池の断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1に示すように、本発明の各実施形態に係る燃料電池用セパレータの製造方法が適用される燃料電池10は、燃料電池スタック12に組み込まれる。燃料電池スタック12は、少なくとも1つの燃料電池10と、複数の燃料電池10aとが積層されるとともに、例えば、車載用燃料電池スタックとして構成される。燃料電池10と燃料電池10aとは、後述する連通孔の位置及び寸法が同一であり、且つ、電極位置及び寸法も同一である。
【0026】
図1及び図2に示すように、燃料電池10は、電解質膜・電極構造体(電解質・電極構造体)14と、前記電解質膜・電極構造体14を挟持する第1セパレータ(燃料電池用セパレータ)16及び第2セパレータ(燃料電池用セパレータ)18とを備える。
【0027】
燃料電池10の矢印C方向(図1中、鉛直方向)の一端縁部(上端縁部)には、積層方向である矢印A方向に互いに連通して、酸化剤ガス、例えば、酸素含有ガスを供給するための酸化剤ガス供給連通孔20aと、燃料ガス、例えば、水素含有ガスを供給するための燃料ガス供給連通孔22aとが、矢印B方向(水平方向)に配列して設けられる。
【0028】
燃料電池10の矢印C方向の他端縁部(下端縁部)には、矢印A方向に互いに連通して、燃料ガスを排出するための燃料ガス排出連通孔22bと、酸化剤ガスを排出するための酸化剤ガス排出連通孔20bとが、矢印B方向に配列して設けられる。
【0029】
燃料電池10の矢印B方向の一端縁部には、冷却媒体を供給するための冷却媒体供給連通孔24aが設けられるとともに、前記燃料電池10の矢印B方向の他端縁部には、冷却媒体を排出するための冷却媒体排出連通孔24bが設けられる。
【0030】
電解質膜・電極構造体14は、例えば、パーフルオロスルホン酸の薄膜に水が含浸された固体高分子電解質膜26と、前記固体高分子電解質膜26を挟持するカソード側電極28及びアノード側電極30とを備える。
【0031】
図3に示すように、カソード側電極28及びアノード側電極30は、固体高分子電解質膜26の両面に接合される電極触媒層28a、30aと、前記電極触媒層28a、30aに配設されるカーボンペーパ等からなるガス拡散層28b、30bとを有する。電極触媒層28a、30aは、白金合金が表面に担持された多孔質カーボン粒子を固体高分子電解質膜26の両面に一様に塗布して形成される。
【0032】
図2に示すように、第1セパレータ16は、外周部に積層方向(矢印A方向)に貫通して酸化剤ガス供給連通孔20a、燃料ガス供給連通孔22a、冷却媒体供給連通孔24a、酸化剤ガス排出連通孔20b、燃料ガス排出連通孔22b及び冷却媒体排出連通孔24bが形成される絶縁性樹脂枠部材32を備える。
【0033】
絶縁性樹脂枠部材32は、PP(ポリプロピレン)やABS樹脂(アクリロニトリル、ブタジエン及びスチレンの共重合樹脂)等の非導電性樹脂で形成される。
【0034】
絶縁性樹脂枠部材32内には、電極反応面の領域内に互いに絶縁状態に維持されて複数個の導電性セグメント(導電性部材)34が設けられる。導電性セグメント34は、直方体や立方体形状を有するとともに、カーボン等を含んだ導電性樹脂により形成される。絶縁性樹脂枠部材32は、熱可逆性樹脂又は熱硬化性樹脂であってもよい。使用される樹脂は、分子量、分子構造により融点と調整することができる。
【0035】
各導電性セグメント34は、絶縁性樹脂枠部材32の中央領域にPPやABS樹脂等の熱可逆性の非導電性樹脂(非導電性部材)36を介装して格子状に配列される。非導電性樹脂36は、各導電性セグメント34及び絶縁性樹脂枠部材32よりも融点の低い樹脂材料が使用される。非導電性樹脂36と絶縁性樹脂枠部材32とは、同種の樹脂が好ましい。界面が接合し易いからである。
【0036】
第1セパレータ16には、電解質膜・電極構造体14に向かう面16aに酸化剤ガス流路38が設けられる。酸化剤ガス流路38は、導電性セグメント34及び非導電性樹脂36に形成されて矢印C方向に延在する複数の流路溝38aを有しており、酸化剤ガス供給連通孔20aと酸化剤ガス排出連通孔20bとに連通する。流路溝38aは、各導電性セグメント34の面内に設けられており、非導電性樹脂36の矢印C方向に延在する部分を避けて形成されることが好ましい。
【0037】
図4に示すように、第2セパレータ18は、外周部に積層方向(矢印A方向)に貫通して酸化剤ガス供給連通孔20a、燃料ガス供給連通孔22a、冷却媒体供給連通孔24a、酸化剤ガス排出連通孔20b、燃料ガス排出連通孔22b及び冷却媒体排出連通孔24bが形成される絶縁性樹脂枠部材40を備える。
【0038】
絶縁性樹脂枠部材40は、PPやABS樹脂等の非導電性樹脂で形成され、前記絶縁性樹脂枠部材40内には、電極反応面の領域内に互いに絶縁状態に維持されて複数個の導電性セグメント(導電性部材)42が設けられる。各導電性セグメント42は、絶縁性樹脂枠部材40の中央領域にPPやABS樹脂等非導電性樹脂(非導電性部材)44を介装して格子状に配列される。
【0039】
第2セパレータ18には、電解質膜・電極構造体14に向かう面18aに燃料ガス流路46が設けられる。燃料ガス流路46は、導電性セグメント42及び非導電性樹脂44に形成されて矢印C方向に延在する複数の流路溝46aを有しており、燃料ガス供給連通孔22aと燃料ガス排出連通孔22bとに連通する。流路溝46aは、各導電性セグメント42の面内に設けられており、非導電性樹脂44の矢印C方向に延在する部分を避けて形成されることが好ましい。
【0040】
図3に示すように、各導電性セグメント34は、第1セパレータ16の両面に露出するとともに、各導電性セグメント42は、第2セパレータ18の両面に露出する。導電性セグメント34と導電性セグメント42とは、電解質膜・電極構造体14に対して互いに対向して(対称に)配置される。互いにずれると、検出精度が低下するからである。
【0041】
第1セパレータ16及び第2セパレータ18には、それぞれ燃料ガス、酸化剤ガス及び冷却媒体をシールするために、第1シール部材48及び第2シール部材49が、一体的又は個別に設けられる。第1シール部材48及び第2シール部材49は、例えば、EPDM、NBR、フッ素ゴム、シリコンゴム、フロロシリコンゴム、ブチルゴム、天然ゴム、スチレンゴム、クロロプレーン、又はアクリルゴム等のシール材、クッション材、あるいはパッキン材を使用する。
【0042】
図1に示すように、燃料電池10aは、電解質膜・電極構造体14と、前記電解質膜・電極構造体14を挟持する第1セパレータ50及び第2セパレータ52とを備える。なお、燃料電池10aでは、燃料電池10と同一の構成要素には、同一の参照符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0043】
第1セパレータ50及び第2セパレータ52は、金属セパレータ又はカーボンセパレータが使用される。第1セパレータ50の電解質膜・電極構造体14とは反対側の面には、電極反応面の領域に沿って冷却媒体を矢印B方向に流通させる冷却媒体流路54が設けられる。第2セパレータ52の電解質膜・電極構造体14とは反対側の面には、同様に冷却媒体流路54が形成される。なお、第1セパレータ16の面16b及び第2セパレータ18の面18bにも、冷却媒体流路54を形成してもよい。
【0044】
図5に示すように、燃料電池スタック12は、面内環境計測装置60に接続される。面内環境計測装置60は、端部が第1セパレータ16の各導電性セグメント34に接続される配線62a、62b、62c、62d及び62eと、端部が第2セパレータ18の各導電性セグメント42に電気的に接続される配線63a、63b、63c、63d及び63eとを備える。配線62a〜62e及び配線63a〜63eには、それぞれ交流電圧を検出するための交流電圧測定器64a、64b、64c、64d及び64eが配設される。なお、配線数は、導電性セグメント34、42の分割数に応じて種々変更可能である。
【0045】
燃料電池スタック12の積層方向両端には、配線66の両端が電気的に接続される。配線66には、外部負荷68と交流電流を検出するための交流電流測定器70とが配設される。外部負荷68は、燃料電池スタック12から直流電流を出力させるとともに、この直流電流に交流電流を重畳させる機能を有する。外部負荷68としては、例えば、電子負荷装置が使用されるが、これに代えて、例えば、電流アンプ等を流用することもできる。
【0046】
次いで、第1の実施形態に係る第1セパレータ16の製造方法について、図6に示す工程図に沿って以下に説明する。なお、第2セパレータ18は、第1セパレータ16と同様に製造されるものであり、その詳細な説明は省略する。
【0047】
先ず、図6中、(a)に示すように、所定数の導電性セグメント34に対応する外形寸法に設定された板状導電性部材80が用意される。この板状導電性部材80には、(b)に示すように、格子状に溝部82を形成することにより、厚さ方向に一部80aが一体に連結された複数の導電性部材34aが形成される。なお、溝部82は、機械加工又は溝部を有する状態で導電性の樹脂で成形される。
【0048】
その際、導電性部材34aの表面には、酸化剤ガス流路38を構成する複数の流路溝38aが形成される。なお、流路溝38aは、後述する離型後に形成してもよい。
【0049】
さらに、図6中、(c)に示すように、絶縁性樹脂枠部材32a(絶縁性樹脂枠部材32よりも肉厚)内に板状導電性部材80が配置された状態で、前記絶縁性樹脂枠部材32aは、成形型84内のキャビティ86に配設される。
【0050】
成形型84は、第1型88及び第2型90を備えるとともに、前記第1型88と前記第2型90とが型締めされることにより、内部にキャビティ86が形成される。例えば、第2型90には、溶融樹脂充填口(図示せず)が形成される。
【0051】
キャビティ86には、第2型90の溶融樹脂充填口から非導電性樹脂36の溶融樹脂が充填される。溶融樹脂は、導電性部材34a間及び前記導電性部材34aと絶縁性樹脂枠部材32aとの間に充填されて凝固する。
【0052】
このため、図6中、(d)に示すように、板状導電性部材80が非導電性樹脂36により絶縁性樹脂枠部材32aに一体化されたセパレータ部材92が得られる。このセパレータ部材92は、成形型84から離型された後、(e)に示すように、厚さ方向に切断される。
【0053】
従って、セパレータ部材92から板状導電性部材80の一部80aが分離され、各導電性部材34aが互いに分離される。これにより、各導電性セグメント34同士が、互いに絶縁状態に維持されて絶縁性樹脂枠部材32内に固定されたセパレータ部材94が得られる。
【0054】
そして、絶縁性樹脂枠部材32には、積層方向(矢印A方向)に貫通して酸化剤ガス供給連通孔20a、燃料ガス供給連通孔22a、冷却媒体供給連通孔24a、酸化剤ガス排出連通孔20b、燃料ガス排出連通孔22b及び冷却媒体排出連通孔24bが形成される。さらに、絶縁性樹脂枠部材32には、第1シール部材48が設けられることにより、第1セパレータ16が製造される。なお、上記の各連通孔の形成作業は、絶縁性樹脂枠部材32aに板状導電性部材80を一体化する前に、予め行ってもよい。
【0055】
このように構成される燃料電池スタック12の動作について、以下に説明する。
【0056】
図1に示すように、酸化剤ガス供給連通孔20aに酸素含有ガス等の酸化剤ガスが供給されるとともに、燃料ガス供給連通孔22aに水素含有ガス等の燃料ガスが供給される。さらに、冷却媒体供給連通孔24aに純水やエチレングリコール等の冷却媒体が供給される。
【0057】
酸化剤ガスは、第1セパレータ16、50に設けられている各酸化剤ガス流路38に導入され、電解質膜・電極構造体14を構成するカソード側電極28に沿って移動する。一方、燃料ガス供給連通孔22aに供給された燃料ガスは、第2セパレータ18、52の各燃料ガス流路46に導入され、電解質膜・電極構造体14を構成するアノード側電極30に沿って移動する。
【0058】
従って、各電解質膜・電極構造体14では、カソード側電極28に供給される酸化剤ガスと、アノード側電極30に供給される燃料ガスとが、電極触媒層28a、30a内で電気化学反応により消費され、発電が行われる。
【0059】
次いで、カソード側電極28に供給されて消費された酸化剤ガスは、酸化剤ガス排出連通孔20bに排出される。同様に、アノード側電極30に供給されて消費された燃料ガスは、燃料ガス排出連通孔22bに排出される。
【0060】
また、冷却媒体供給連通孔24aに供給された冷却媒体は、第1セパレータ50及び第2セパレータ52の各冷却媒体流路54に導入される。この冷却媒体は、電解質膜・電極構造体14を冷却した後、冷却媒体排出連通孔24bに排出される。
【0061】
上記の発電時において、図5に示すように、面内環境計測装置60では、外部負荷68により燃料電池スタック12から直流電流を出力させるとともに、この直流電流に交流電流を重畳させている。
【0062】
これにより、各交流電圧測定器64a〜64eは、交流電流に対する交流応答電圧を測定する一方、交流電流測定器70により交流電流が測定されている。従って、測定された交流電圧及び交流電流から、各導電性セグメント34、42間の交流インピーダンスが算出される。このため、燃料電池10全体のインピーダンス分布が検出され、前記燃料電池10の電極面内の発電状況を検出することが可能になる。
【0063】
この場合、第1の実施形態では、絶縁性樹脂枠部材32a(32)内に複数個の導電性部材34aが配置された状態で、成形型84を介して前記絶縁性樹脂枠部材32a(32)よりも融点の低い非導電性樹脂36が充填されている。従って、絶縁性樹脂枠部材32a(32)に反りや変形等が発生することを良好に抑制することができ、高品質な第1セパレータ16を容易且つ確実に得ることが可能になるという効果が得られる。
【0064】
例えば、図示しない成形型に板状導電性部材80を単独で配置し、溶融樹脂を充填して前記板状導電性部材80に絶縁性樹脂枠部材32及び非導電性樹脂36を同時に成形する際には、特に前記絶縁性樹脂枠部材32が収縮し易い。これにより、絶縁性樹脂枠部材32には、反りや変形が惹起するおそれがある。
【0065】
このため、本実施形態では、絶縁性樹脂枠部材32a(32)内に複数個の導電性部材34aを配置し、非導電性樹脂36を成形することにより、前記絶縁性樹脂枠部材32a(32)に反りや変形等が発生することを抑制することができる。
【0066】
さらに、複数の導電性部材34aは、板状導電性部材80の一部80aに一体に連結されており、前記板状導電性部材80が絶縁性樹脂枠部材32a内に配置されている。従って、成形型84内に溶融樹脂が充填される際、導電性部材34aが個別に移動することがなく、導電性セグメント34の位置ずれを可及的に阻止することが可能になる。これにより、第1セパレータ16では、面内環境分布の測定精度を良好に向上させることができる。
【0067】
また、第1の実施形態では、燃料電池10を構成する電解質膜・電極構造体14の電極反応面の領域を複数の領域に分割して複数個の導電性セグメント34、42が設けられている。このため、電極反応面内における各領域の交流インピーダンスを計測することができ、インピーダンス分布を容易且つ正確に検出することが可能になる。従って、燃料電池10の電極面内の環境分布を精度よく計測することができ、所望の発電状態を確実に維持することが可能になるという効果が得られる。
【0068】
さらにまた、燃料電池10では、カソード側電極28及びアノード側電極30は、分割されることがなく一体で、固体高分子電解質膜26の両面に連続して設けられている。しかも、複数個の導電性セグメント34の表面には、酸化剤ガス流路38が形成される一方、複数個の導電性セグメント42の表面には、燃料ガス流路46が形成されている。
【0069】
これにより、燃料電池10は、発電効率の低下を抑制するとともに、良好な発電を確実に行うことが可能になり、燃料電池スタック12を構成する燃料電池10として、他の燃料電池10aと同様に好適に使用することができるという利点がある。
【0070】
なお、第1の実施形態では、燃料電池10の内部抵抗を測定するために、交流インピーダンス法を採用しているが、これに限定されるものではない。例えば、燃料電池10に一定電流を通電させておき、瞬間的に電流を遮断する際の電圧変化から内部抵抗を測定する電流遮断法を適用してもよい。また、燃料電池10に一定電流を通電させておき、ステップ状に電流を変化させる際の電圧変化から内部抵抗を測定するステップ法を適用することもできる。
【0071】
次いで、第2の実施形態に係る第1セパレータ16の製造方法について、図7に示す工程図に沿って以下に説明する。なお、図6に示す第1の実施形態と同様の工程については、その詳細な説明は省略する。
【0072】
図7中、(a)に示すように、所定数の導電性セグメント34に対応する外形寸法に設定された板状導電性部材100が用意され、(b)に進んで、前記板状導電性部材100から複数の導電性部材34bが分割形成される。なお、導電性部材34bは、互いに厚さ方向の一部が連結されていてもよい。
【0073】
複数の導電性部材34bは、絶縁性樹脂枠部材32a内に配置された状態で、成形型104内のキャビティ106に配設される。成形型104は、第1型108及び第2型90を備えるとともに、前記第1型108と前記第2型90とが型締めされることにより、内部にキャビティ106が形成される。第1型108には、各導電性部材34bを配置するための凹部110を有する。
【0074】
キャビティ106には、第2型90の溶融樹脂充填口から非導電性樹脂36の溶融樹脂が充填される。溶融樹脂は、導電性部材34b間及び前記導電性部材34bと絶縁性樹脂枠部材32aとの間に充填されて凝固する。
【0075】
このため、図7中、(d)に示すように、非導電性樹脂36により絶縁性樹脂枠部材32bが一体化されたセパレータ部材112が得られる。このセパレータ部材112は、成形型104から離型された後、(e)に示すように、厚さ方向に切断される。
【0076】
従って、各導電性セグメント34同士が、互いに絶縁状態に維持されて絶縁性樹脂枠部材32内に固定されたセパレータ部材114が得られる。なお、セパレータ部材112は、厚さ方向に切断されずに、そのまま使用してもよい。
【0077】
このように、第2の実施形態では、絶縁性樹脂枠部材32a(32)に反りや変形等が発生することを良好に抑制することができ、高品質な第1セパレータ16を容易且つ確実に得ることが可能になる等、上記の第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0078】
10、10a…燃料電池 12…燃料電池スタック
14…電解質膜・電極構造体 16、18、50、52…セパレータ
20a…酸化剤ガス供給連通孔 20b…酸化剤ガス排出連通孔
22a…燃料ガス供給連通孔 22b…燃料ガス排出連通孔
24a…冷却媒体供給連通孔 24b…冷却媒体排出連通孔
26…固体高分子電解質膜 28…カソード側電極
28a、30a…電極触媒層 28b、30b…ガス拡散層
30…アノード側電極 32、32a、32b、40…絶縁性樹脂枠部材
34、42…導電性セグメント 34a、34b…導電性部材
36、44…非導電性樹脂 38…酸化剤ガス流路
46…燃料ガス流路 48、49…シール部材
54…冷却媒体流路 60…面内環境計測装置
62a〜62e、63a〜63e、66…配線
64a〜64e…交流電圧測定器 68…外部負荷
70…交流電流測定器 80、100…板状導電性部材
82…溝部 84、104…成形型
86、106…キャビティ 88、90、108…型
92、94、112、114…セパレータ部材
110…凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード側電極及びカソード側電極が電解質の両側に設けられた電解質・電極構造体を挟持する燃料電池用セパレータの製造方法であって、
絶縁性樹脂枠部材内に、電極反応面の領域内に対応して複数個の導電性部材を配置した状態で、前記絶縁性樹脂枠部材を成形型に配設する第1の工程と、
前記成形型内のキャビティに、前記絶縁性樹脂枠部材よりも融点の低い非導電性部材を充填する第2の工程と、
前記絶縁性樹脂枠部材を前記成形型から離型させることにより、各導電性部材同士が互いに絶縁状態に維持されて該絶縁性樹脂枠部材内に固定されたセパレータ部材を得る第3の工程と、
を有することを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の製造方法において、前記絶縁性樹脂枠部材の外周部に、前記燃料電池用セパレータの積層方向に貫通して燃料ガス連通孔、酸化剤ガス連通孔及び冷却媒体連通孔を形成する工程を有することを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の製造方法において、各導電性部材に、燃料ガス又は酸化剤ガスを前記電極反応面に沿って流通させるためのガス流路を形成する工程を有することを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法において、板状導電性部材の厚さ方向に、格子状に溝部を形成することにより、一部が連結された前記複数の導電性部材を形成する工程を有し、
前記第1の工程では、前記溝部が形成された前記板状導電性部材を、前記成形型に配設するとともに、
前記第3の工程では、前記セパレータ部材を厚さ方向に切断することにより、前記複数の導電性部材を一体に連結する前記一部を、該セパレータ部材から分離させることを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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